後藤美織 - 架空アニメキャラ用語辞典

概要

後藤美織（ごとう みおり）は、『最果てのパラディン』の主人公であるウィリアム・G・マリーブラッドの前世における記憶の中で、極めて重要な位置を占める人物である。
物語の現代（ウィルが生きて活動している時代）に直接登場することはないが、ウィルの人格形成、特に彼の持つ深い慈悲や、守る者としての強い意志の根源に、彼女の存在が大きく影響していることが作中の随所で示唆される。
彼女は、ウィルが孤独と無気力に苛まれていた前世において、唯一と言っていいほどの人間的な関わりを持った少女であり、彼の心に灯った小さな光の記憶として、パラディンとしての彼の道を照らし続けている。

生い立ち

後藤美織の生い立ちや家族構成について、作中で詳細に語られる場面はない。断片的なウィルの回想から推測するに、彼女はウィルの前世の青年（以下、「彼」と呼称）と同じ、現代日本によく似た社会でごく普通の高校生として生活を送っていたようである。
「彼」は家族との関係が希薄で、学校にも馴染めず、自室に引きこもりがちな無気力な日々を送っていた。社会との接点をほとんど持たず、生きる意味を見出せずにいた「彼」にとって、外界の人間は遠い存在でしかなかった。
後藤美織は、そんな「彼」の世界に偶然現れた人物であった。二人の関係性がどのようなものであったか――同級生であったのか、あるいは近所の住人であったのか――は明確に描かれていない。しかし、回想シーンでは、彼女は常に明るい表情を浮かべ、「彼」に対して何の偏見も持たずに接していた様子がうかがえる。
社会から隔絶され、自己肯定感を抱けずにいた「彼」にとって、自分を一個の人間として認め、自然に話しかけてくる彼女の存在は、理解しがたいものでありながらも、次第に凍てついた心を溶かす唯一の温もりとなっていった。彼女の生い立ちそのものが語られることはないが、その屈託のない言動から、他者への優しさを自然に持てる健全な環境で育った人物であることが推測される。

作中での活躍

前述の通り、後藤美織はウィルの前世の人物であるため、物語の本編で物理的に登場し、活躍することはない。彼女の「活躍」は、すべてウィルの精神世界、記憶の中でのものである。
ウィルがパラディンとして過酷な戦いに身を投じ、心が折れそうになった時、あるいは自身の存在意義に迷いが生じた時、彼の脳裏には決まって彼女の記憶がよみがえる。それは、道端で交わした何気ない会話であったり、こちらに向けられた屈託のない笑顔であったりする。
特筆すべきは、灯火の神（グレイスフィール）への祈りの場面である。ウィルが捧げる祈りの根底には、「善なる者のために戦い、悪しき者を討つ」という誓いがあるが、その「善なる者」の具体的なイメージの原型として、後藤美織の存在があることは想像に難くない。彼が守ろうとする「善良な人々のかまどの火」とは、かつて彼女が「彼」に示してくれた、ささやかだが温かい人間性の光そのものなのである。
また、ウィルがアンデッドであることの葛藤を抱える場面でも、彼女の記憶は重要な役割を果たす。死者でありながら生者のために戦うという矛盾を抱えた彼が、それでも人間としての心を失わずにいられるのは、前世で後藤美織という少女と触れ合ったことで得た、人間への肯定的な記憶が核となっているからだ。彼女の存在は、ウィルがただの強力な魔法戦士ではなく、慈悲と献身の心を持つ「パラディン」であるための、最後の砦となっている。

対戦や因縁関係

後藤美織自身が誰かと敵対したり、戦闘を行ったりすることはない。しかし、ウィルの内面において、彼女はいくつかの重要な「因縁」の象徴となっている。

第一に、ウィルの「後悔」の象徴である。
「彼」は、生前の後藤美織に対して、結局何も返すことができなかった。彼女の優しさに対して、感謝の言葉一つ伝えられたかどうかも定かではない。それどころか、彼女に何らかの不幸が訪れた際に、何もできずに見過ごしてしまったのではないか、という罪悪感がウィルの記憶の奥底に影を落としていることが示唆されている。この「守れなかった」という強烈な後悔が、転生後のウィルを「今度こそ守る」という強迫観念にも似た強い意志へと駆り立てる原動力の一つとなっている。彼が目の前の人々を救うために自らを顧みないほどの献身を見せるのは、過去に救えなかった唯一の少女への、永遠に続く贖罪の意味合いも含まれているのかもしれない。

第二に、邪悪な神々や悪魔、そして理不尽な「死」そのものとの因縁である。
ウィルが対峙する敵の多くは、生命の尊厳を踏みにじり、無辜の民に理不尽な死をもたらす存在である。ウィルが彼らに対して抱く強い怒りは、単なる正義感だけではない。彼にとって、邪悪な存在による無慈悲な破壊は、かつて後藤美織という存在が体現していた「日常のささやかな幸福」を奪う許しがたい行為であり、それは過去の自分の無力さを再び突きつけられることに等しい。そのため、彼の戦いは、世界を守るための戦いであると同時に、後藤美織の記憶を汚させないための、極めて個人的な戦いでもあると言える。

性格や思想

ウィルの回想を通じて描かれる後藤美織は、非常に明朗快活で、誰に対しても分け隔てなく接することのできる、太陽のような少女である。彼女の言葉は常に前向きで、他者の良い面を見つけ出すことに長けている。
世間から外れ、心を閉ざしていた「彼」に対しても、奇異の目を向けることなく、ごく自然に、一人の人間として対等に接した。このことから、彼女が表面的な事柄で人を判断せず、物事の本質を見ようとする、深い洞察力と優しさを持っていたことがわかる。
彼女がどのような思想を持っていたかは定かではないが、その言動の端々からは、「今を大切に生きる」という姿勢が感じられる。未来への不安や過去への後悔に囚われがちな「彼」とは対照的に、彼女は日々の小さな出来事に喜びを見出し、それを素直に表現する。この生き方は、死後、長い時間をアンデッドとして過ごし、再び生の意味を問い直すことになったウィルにとって、一つの理想的な人間の姿として記憶に刻まれ続けている。
彼女は、難しい哲学や教義を語るわけではない。しかし、その存在そのものが、「人間として生きることの肯定」という、極めてシンプルで力強いメッセージをウィルに与え続けているのである。

物語への影響

後藤美織が『最果てのパラディン』という物語に与える影響は、計り知れない。彼女はプロローグの時点で故人であり、回想シーンにしか登場しないにもかかわらず、物語全体の根幹を成すテーマ、すなわち「一度死んだ者が、いかにして再び善く生きるか」という問いに対する、一つの答えを提示する存在である。
もしウィルの前世に彼女との出会いがなければ、彼はブラッド、メアリー、ガスに育てられたとしても、ここまでの強い意志と慈悲を持つパラディンにはなれなかったかもしれない。アンデッドとしての出自や強大な力に苦悩し、どこかで道を踏み外していた可能性すらある。
彼女の記憶は、ウィルが人間性を保つための「錨（いかり）」であり、彼がどれだけ非人間的な領域に踏み込もうとも、必ず立ち返るべき場所となっている。物語が進み、ウィルがより強大な敵や困難な運命と対峙していく中で、彼女の記憶の重要性はさらに増していくことだろう。
後藤美織は、ウィリアム・G・マリーブラッドという英雄の「最初の灯火」であり、彼が「最果てのパラディン」であるための、魂の核心を形成した、かけがえのない人物なのである。