エルンスト・フォン・リヒトホーフェン - 架空アニメキャラ用語辞典

エルンスト・フォン・リヒトホーフェンは、オリジナルビデオアニメーション『アルスの巨獣』に登場する、帝国軍特務調査室の室長を務める軍人であり、当代随一の巨獣研究家。
その特異な研究手法と、巨獣に対して一切の情を介さない姿から、兵士たちの間では“解剖学者（アナトミスト）”の通称で揶揄されている。

概要
帝国軍に所属するナギモリでありながら、第一線の巨獣研究家でもあるという、異色の経歴を持つ男。年齢は30代前半。
常に冷静沈着で、物事を科学的かつ合理的に分析することを信条とする。彼にとって巨獣とは、恐怖の対象でも、信仰の対象でもなく、純粋な「研究対象」である。
帝国の最新技術で開発された、分析機能付きのモリ「エーテル・ランツェ」を手に自ら巨獣と対峙し、その生態データを収集する。彼の研究成果は、帝国の対巨獣戦略において極めて重要な役割を担っている。
物語においては、ジイロやクウミとは異なる、科学的な視点から世界の謎に迫る、第三勢力的な立場のキャラクターとして描かれる。

生い立ちと巨獣研究への道
貴族出身の学者
エルンストは元々、帝国の貴族階級であるリヒトホーフェン家の出身で、軍人ではなく、帝都の中央アカデミーで生物学を研究する学者であった。当時の彼は、世界の成り立ちや生命の進化の謎を探求することに情熱を注ぐ、純粋な知の探求者だった。
彼が巨獣という存在を本格的に意識したのは、書物の中の出来事としてであり、自らの平穏な日常とは無縁の世界だと考えていた。

故郷の壊滅と価値観の転換
彼の人生を根底から覆したのは、十数年前に発生した「静寂の崩壊」と呼ばれる大災害である。前触れもなく出現した「名もなき巨獣」によって、彼が生まれ育った街は、一夜にして地図の上から消滅した。彼は偶然にも研究のために帝都に滞在しており、ただ一人の生存者となった。
家族、友人、故郷の全てを失うという絶望的な状況下で、彼の心に芽生えたのは、悲しみや憎しみではなかった。それは、「なぜ、あれほどの巨大な生物が存在しうるのか？」「どのような生態系が、あれを支えているのか？」という、学者としての純粋で、そして狂気的とも言える知的好奇心だった。
この日を境に、彼は世界の全ての謎が「巨獣」という存在に集約されていると確信。その謎を解き明かすことこそが、自らに与えられた使命だと考えるようになった。

帝国軍への入隊
巨獣を研究するためには、そのサンプル、すなわち巨獣そのものに接近する必要がある。一個人の学者にできることには限界があった。エルンストは、最も効率的に巨獣と接触し、最新の研究設備を利用できる場所として、帝国軍に入隊することを選ぶ。
彼はナギモリとしての驚異的な才能を瞬く間に開花させ、同時に研究者としても類稀なる成果を上げていく。そして、自らの研究を専門に行うための部署「特務調査室」を設立させ、若くしてその室長の座に就いた。

作中での活躍
初登場
物語序盤、観測史上例のない、特異な能力を持つ新種の巨獣が出現した際に、彼は特務調査室を率いて現場に現れる。
巨獣を前にして、従来のナギモリのように力で圧倒しようとするのではなく、彼はまず部隊にデータ収集を徹底させる。巨獣の動き、鳴き声、体液（ミャク）の成分などを瞬時に分析し、その結果から極めて正確に弱点と行動パターンを割り出す。そして、自らエーテル・ランツェを手に、最小限の動きで的確に弱点を貫き、巨獣を仕留めてみせた。その戦い方は、ジイロたちの泥臭い「狩り」とは全く異質であり、彼らに強烈な印象を与えた。

カンナギ・クウミの追跡
彼は、巨獣の存在そのものに加え、巨獣と心を通わせるというカンナギの能力に、極めて強い関心を抱く。彼は、カンナギの能力を「未知の生体間通信技術」と捉え、そのメカニズムを解明できれば、全ての巨獣を人間の制御下に置くことが可能になると考えている。
そのため、第二十のカンナギであるクウミの存在を知って以降、彼は彼女を「極めて貴重な研究サンプル」として、執拗に追跡を開始する。彼の部隊の目的は、クウミを保護することでも、殺害することでもなく、「生きたまま確保し、その特異能力を徹底的に解明する」ことにある。

帝国内部での対立
エルンストの研究は、帝国の対巨獣戦略に多大な貢献をしている一方で、その倫理観を無視した手法は、軍内部でも多くの反発を招いている。
特に、巨獣を単純な破壊兵器として利用しようとする、メザミをはじめとする軍上層部の主流派とは、思想的に真っ向から対立している。「完全に理解できていないものを兵器として使うのは、火薬で遊ぶ子供と同じだ。あまりに非合理的で、危険すぎる」というのが彼の持論である。
彼は、帝国の利益や支配圏の拡大といった俗事には興味を示さず、あくまで自らの研究と真理の探究を優先する。そのため、時には軍の命令を無視するような独断行動も辞さず、帝国内で徐々に孤立を深めていくことになる。

他の登場人物との関係
ジイロ
「死に損ないのナギモリ」でありながら、巨獣を殺さず「逃がす」という、エルンストの合理的な思考では到底理解できない行動を取るジイロに対し、彼は強い興味を抱いている。彼は、ジイロの行動を「感情的なバグ」と見なしつつも、その裏には何か未知の法則性、あるいは彼自身がまだ知らない世界の数式が隠されているのではないかと考えている。ジイロは、彼にとって最も興味深く、最も解明したい「研究対象」の一人である。

クウミ
クウミにとってエルンストは、自分を実験動物のように扱い、仲間を脅かす、冷酷で恐ろしい帝国の人間である。彼の科学的なアプローチは、巨獣との絆を信じる彼女の価値観とは決して相容れない。

メザミ
同じ帝国軍に所属する同僚だが、その関係は良好とは言えない。力による支配を信奉し、帝国の栄光を第一とするメザミにとって、自らの知的好奇心を優先するエルンストの行動は、利敵行為であり、裏切りに等しいと映る。二人は、巨獣の扱い方や帝国の未来像を巡り、水面下で激しく対立している。

ツルギ
巨獣を神として崇め、信仰の力で世界を捉えようとするケモビトの族長ツルギとは、まさしく「科学と信仰」の対立を象Eする関係にある。エルンストはツルギの思想を「観測と実験に基づかない、非論理的な妄想」と断じ、ツルギはエルンストの行いを「生命への冒涜」と非難する。

性格・思想
純粋な知的好奇心
彼の全ての行動原理は、善悪、道徳、あるいは国家への忠誠心といったものではなく、「真実を知りたい」という、純粋で絶対的な知的好奇心に基づいている。その探究心の前では、他者の感情や命の尊厳といった概念は、二次的なものに過ぎない。
そのため、目的のためには非人道的な実験を行うことも、味方を犠牲にすることも躊躇しない。彼は、自覚のないままに、真理の探究という大義名分のもとに非倫理的な行いを続ける、マッドサイエンティストとしての側面を色濃く持つ。

科学至上主義
彼は、この世界で起こる全ての事象は、観測し、分析し、数式に当てはめることで、必ず説明できると信じている。彼にとって、カンナギの奇跡やケモビトの信仰、ジイロの感情的な行動は、オカルトや神秘ではなく、まだ人類が解明できていないだけの「未知の科学現象」である。
彼の目標は、この世界の全ての事象を、巨獣の存在も含めて、一つの完全な科学理論体系の中に組み込むことである。

物語への影響
第三の価値観の提示
『アルスの巨獣』の物語は、主に、巨獣を「狩るべき資源」と見る人間たちと、巨獣を「敬うべき神」と見るケモビトたちの、二つの対立する価値観を軸に描かれる。エルンストは、そこに「巨獣を“理解し、制御すべき”研究対象」と見る、第三の全く新しい視点をもたらした。
彼の存在は、単純な二項対立に陥りがちだった物語の構造を、より複雑で多角的なものへと昇華させている。

世界の根源的な謎へのアプローチ
物語の核心に存在する「巨獣とは何か」「なぜ世界はこのような姿になったのか」という根源的な謎に対し、彼の科学的なアプローチは、ジイロたちの冒険とは異なるルートから迫っていく。
ケモビトの伝承やカンナギの奇跡といった情緒的な情報ではなく、彼はあくまで物証とデータに基づいて、世界の真実を解き明かそうとする。彼の探究心が、最終的に世界の真実を暴き出す、重要な鍵となる可能性が、作中で強く示唆されている。彼は、物語の謎を解くための、もう一人の主人公とも言える存在である。