セナ - 架空アニメキャラ用語辞典

セナは、オリジナルビデオアニメーション『アルスの巨獣』に登場する、ケモビト（巨獣信仰の民）でありながら、故郷の氏族から追放された過去を持つ孤高の戦士。
“名もなき民”を自称し、特定の集団に属さず、広大な荒野をたった一人で生き抜いてきた。巨獣を神とも資源とも見なさず、「自然の理」として捉える独自の価値観を持つ。

概要
オオヤマネコを思わせる尖った耳を持つ、ケモビトの女性。年齢は25歳。
巨獣の爪から削り出した一対の短剣と、卓越した追跡技術を武器とする。ナギモリのように巨獣を狩ることも、カンナギのように心を通わせることもないが、誰よりも巨獣の生態と荒野の掟を熟知した、生存術の専門家（サバイバリスト）である。
皮肉屋で他者を信用しないが、その根底には、かつて信じていたものに裏切られた深い哀しみを秘めている。ジイロやクウミと出会い、彼らと旅をすることで、自らの過去と再び向き合うことになる。

生い立ちと背景
熱狂的な信仰の氏族
セナは、大陸北方の辺境に暮らす、ケモビトの中でも特に戒律が厳しく、排他的な氏族の出身である。彼女の氏族は、「赤牙（せきが）」と呼ばれる極めて凶暴な巨獣を唯一絶対の神として崇め、その神の気まぐれな破壊活動すらも「神意」として受け入れる、熱狂的な信仰を持っていた。
幼い頃のセナもまた、その教えを信じて疑わない純粋なケモビトの一人であった。

信仰が崩壊した日
彼女の価値観を根底から覆したのは、10歳の時に起きた「涙の谷」の惨劇である。食料の不足に苦しんでいた近隣の人間の集落が、豊穣を祈るためにセナの氏族が崇める「赤牙」の縄張りに供物を捧げた。しかし、「赤牙」は祈りに応えるどころか、集落を徹底的に破壊し、住民を一人残らず喰らい尽くした。
氏族の長老たちは、これを「不浄な人間を排除した神の御業」として讃えた。しかし、セナの目に映ったのは、神の奇跡などではなく、理不尽な暴力と、ただ腹を満たすためだけの捕食という、ありのままの自然の姿だった。そして、それを前にして歓喜する同胞たちの姿に、彼女は言い知れぬ恐怖と嫌悪を覚えた。

追放者の烙印
この日を境に、セナは氏族の教えに疑問を抱き始める。「巨獣は神などではない。ただの、巨大で危険な生き物だ」「我々は巨獣を崇めるのではなく、その習性を理解し、距離を置くべきだ」。彼女のこの思想は、氏族の教えの根幹を揺るガす、最大の禁忌（タブー）であり、冒涜であった。
長老たちから「神を疑う者」として断罪された彼女は、氏族の一員であることを示す名を剥奪され、顔に追放者の証である烙印を押された上で、一人荒野へと追放された。以来、彼女は“名もなき民”セナとして、誰にも頼らず、たった一人で過酷な世界を生き抜いてきた。

作中での活躍
初登場
セナが物語に登場するのは、ジイロとクウミが「巨獣の墓場」と呼ばれる危険地帯で道に迷い、食料も尽きかけていた時である。肉食の小型巨獣の群れに襲われ、絶体絶命の窮地に陥った二人を、卓越した罠とゲリラ戦術で救う。
当初、彼女はナギモリであるジイロを「巨獣を弄ぶ帝国の犬」と見なし、カンナギであるクウミを「かつての自分と同じ、盲信する者」と見て、助けることを拒否する。しかし、ジイロの「死に損ない」の奇妙な体質と、クウミの持つ純粋な瞳に、自らの常識では測れない何かを感じ取り、不承不承ながらも彼らの案内役兼護衛役を引き受けることになる。

荒野の師として
彼女との旅を通じて、ジイロとクウミは、これまで知らなかった世界の厳しさを学ぶことになる。セナは、巨獣をただ力でねじ伏せるのではなく、その習性を利用して回避する方法や、荒野で生き抜くための食料調達、野営の技術などを彼らに叩き込む。
彼女の教えは、ジイロにとってはナギモリとしての新たな戦い方を、クウミにとってはカンナギとして巨獣と向き合う上での覚悟を、それぞれに与えていく。

過去との対峙
旅の途中、一行は偶然にも、セナが追放された故郷の氏族の縄張りに接近してしまう。過去のトラウマからその地を避けようとするセナだったが、氏族が信奉する「赤牙」が、帝国の実験の影響で異常に活性化し、暴走寸前であることを知る。
「神の怒り」と怯えるかつての同胞たちを救うため、そして自らの過去に決着をつけるため、セナはジイロとクウミと共に、かつて自らが信じ、そして憎んだ「神」との戦いに臨む。

他の登場人物との関係
ジイロ
当初は互いの価値観が全く理解できず、反発しあう関係。しかし、ジイロが持つ、巨獣を殺すことへの躊躇いや、クウミを守ろうとするひたむきな姿を見るうちに、セナは彼を「ただのナギモリではない」と認識するようになる。ジイロにとっても、セナの持つ生存へのしたたかさと、その裏にある哀しみは、自らの生き方を見つめ直すきっかけとなる。

クウミ
セナは、クウミの持つカンナギの力を、かつて自らが囚われていた「盲信」の象徴として、当初は懐疑的に見ていた。しかし、クウミが損得や恐怖心からではなく、純粋に巨獣を理解しようとする姿に触れ、徐々にその考えを改めていく。クウミにとっては、ぶっきらぼうだが常に自分たちを守ってくれる、頼れる姉のような存在となっていく。

ツルギ
同じケモビトでありながら、その思想は正反対。巨獣との共存と伝統的な信仰を重んじるツルギにとって、セナの「巨獣は制御すべき自然現象」という思想は、あまりに現実的で、信仰心のないものと映る。二人は、ケモビトという種族が今後どうあるべきかというテーマにおいて、まさしく対極の思想を持つライバル関係にある。

性格・思想
徹底した現実主義（プラグマティズム）
彼女の行動原理は、神の御業や帝国の正義といった、壮大な理念ではない。「いかにして、この過酷な世界で生き延びるか」。その一点に集約される。そのためには、時に非情な判断も下す。しかし、それは決して冷酷さからではなく、自然の摂理を知る者としての、厳しくも公平な視点に基づいている。

巨獣との「第三の道」
セナは、巨獣を神として崇めるケモビトの思想も、巨獣を資源として狩り尽くす帝国の思想も、どちらも「極端で、持続可能ではない」と考えている。
彼女が示すのは、巨獣を畏怖すべき「自然」そのものとして捉え、そのテリトリーを尊重し、必要な場合は間引きも行いながら、絶妙なバランスの上で共存するという、「第三の道」である。これは、彼女が一人で荒野を生き抜く中で、自らの経験則から導き出した、極めて実践的な思想である。

孤独という鎧
皮肉屋で、他者を容易に信用しない彼女の態度は、かつて最も信じていた同胞たちに裏切られ、追放された経験から身につけた、自らの心を守るための鎧である。しかし、その鎧の下には、人との繋がりを求める気持ちや、理不尽な犠牲を許せない正義感が、確かに息づいている。

物語への影響
ケモビト社会の多面性の提示
セナというキャラクターの存在は、これまで一枚岩に見えていたケモビトという種族に、思想的な対立や、内部的な問題を抱えているという多面性をもたらした。彼女の視点を通じて、巨獣信仰の持つ危うさや、伝統が時に人を縛る枷になるという、新たなテーマが物語に加わった。

世界の解像度を高める役割
彼女は、ジイロたち主人公とは異なる、荒野の住人としての視点から、世界の生態系や、名もなき巨獣たちの習性、そして人々の暮らしを語る。彼女の旅路は、帝国の支配地や特定のケモビトの集落といった「点」でしかなかった物語の世界を、広大な「面」として繋ぎ合わせ、その解像度を飛躍的に高める役割を果たしている。

主人公たちの成長の触媒
セナの持つ実践的な知識と、厳しいながらも的確な指導は、理想論だけでは生きていけないこの世界の現実を、ジイロとクウミに叩き込む。彼女との出会いと旅は、二人がただ守られるだけの存在から、自らの足で立ち、考え、戦う本物のサバイバーへと成長していく上で、不可欠な試練となった。