月白 奏 - 架空アニメキャラ用語辞典

月白 奏（つきしろ かなで）は、SEGAの音楽ゲーム『CHUNITHM』から生まれたメディアミックスプロジェクト『イロドリミドリ』に登場する、舞ヶ原音楽大学付属舞ヶ原高等学校（通称：まいまい）の非常勤講師。
かつて同校に在籍し、学園祭の歴史にその名を刻んだ伝説のバンド「LUNAR ECLIPSE（ルナ・エクリプス）」の元リーダーでもある。

概要
舞ヶ原高校の卒業生であり、現在は音楽理論の非常勤講師と、校内ライブホール「セブンスコード」の管理人を兼任している女性。年齢は27歳。
銀色の長い髪と、常に気だるげな雰囲気が特徴。学生時代の圧倒的なカリスマ性は影を潜め、現在は事なかれ主義で、生徒たちの活動に対してもどこか冷めた態度を取ることが多い。
しかし、その内面には音楽に対する誰よりも熱い情熱と、過去への未練を秘めている。彼女の存在は、明坂芹菜たちが目指す「学園祭の伝説」という目標に、具体的かつ大きな壁として立ちはだかることになる。

生い立ちと「99年の伝説」
天才ミュージシャンとして
奏が舞ヶ原高校に在籍していたのは、物語の現在から約10年前のことである。当時から彼女の音楽的才能は群を抜いており、1年生の時点で、彼女が中心となって結成したバンド「LUNAR ECLIPSE」は、またたく間に校内の注目を集める存在となった。
彼女たちの音楽スタイルは、シンフォニックなアレンジを取り入れた、ドラマティックなメロディック・メタル。当時のまいまいでは異彩を放つそのサウンドと、奏の持つ卓越したギターテクニック、そして表現力豊かなボーカルは、多くの生徒を魅了した。

「99年の伝説」
彼女たちの名が「伝説」として語り継がれるきっかけとなったのが、奏が3年生の時に出演した学園祭、通称「99年の伝説」である。
この年の学園祭で、LUNAR ECLIPSEが披露したパフォーマンスは、まさに圧巻の一言だった。緻密に構築された楽曲、完璧なアンサンブル、そして何より、鬼気迫るほどの熱量を放つ奏のステージング。その全てが、高校生のバンドとは到底思えないレベルに達しており、観客だけでなく、審査員を務めていた教師陣すらも圧倒したという。
このライブは、まいまいの学園祭の歴史において、いまだに「最も伝説に近かったライブ」として、語り継がれている。

突然の解散
しかし、伝説となったそのライブの直後、LUNAR ECLIPSEは突如として解散を発表。メンバーは、その理由を一切語ることなく、卒業と共にそれぞれの道を歩んでいった。
圧倒的な成功の最中での、あまりに不可解な解散劇。その真相は、今なお「まいまいの七不思議」の一つとして、生徒たちの間で様々な憶測と共に語られている。この出来事は、奏の心にも大きな傷と、音楽に対する複雑な感情を残すことになった。

作中での活躍
ライブホールの門番
物語における彼女の初登場は、イロドリミドリのメンバーが、初めて校内ライブホール「セブンスコード」の使用許可を取りに行く場面である。
管理人として登場した奏は、彼女たちの拙い演奏を一聴するなり、「お遊びサークルごっこは、他所でやってくれる？」と冷たく言い放つ。彼女は、ライブホールを「本気の人間だけが立つことを許される場所」と考えており、イロドリミドリの持つ、楽しさを第一とする姿勢を、当初は全く評価しなかった。

謎めいた助言者
門前払いされたイロドリミドリだったが、芹菜たちの諦めない姿勢や、少しずつ上達していく演奏に、奏も徐々にその態度を変化させていく。
彼女は直接的な指導をすることはない。しかし、メンバーが壁にぶつかった時、まるで全てを見透かしているかのように、ふらりと現れては、謎めいた、あるいは皮肉めいた言葉を投げかけて去っていく。
例えば、スランプに陥った凪に対しては、「ベース、泣いてるよ。もっとちゃんと、音を聴いてあげなよ」と。独りよがりになりかけていた芹菜に対しては、「アンタが楽しいだけじゃ、誰もついてこないよ」と。
これらの言葉は、一見すると突き放しているように聞こえるが、常に的確に彼女たちの問題点を指摘しており、イロドリミドリがバンドとして成長していく上で、重要なヒントとなっていく。

過去との対峙
イロドリミドリが学園祭に向けて実力をつけ、校内でも注目を集める存在になっていくにつれて、奏は彼女たちの姿に、かつての自分たち「LUNAR ECLIPSE」の影を重ねるようになる。
そして、物語の終盤、彼女は自らの過去と向き合うことを決意。LUNAR ECLIPSEがなぜ解散しなければならなかったのか、その真実を芹菜たちに語って聞かせる。それは、音楽性の違いや、プロデビューを巡る意見の対立といった、成功の先にあった、仲間との絆の断絶であった。
彼女は、自らの後悔を語ることで、イロドリミドリが同じ過ちを繰り返さないように、最後の道標を示したのである。

他の登場人物との関係
イロドリミドリ
奏にとって、イロドリミドリのメンバーは、かつての自分たちが失ってしまった「音楽を楽しむ純粋さ」を持つ、眩しい存在である。そのため、当初はその輝きを直視できず、意図的に厳しく接していた。
しかし、彼女たちが数々の困難を、友情と音楽への愛で乗り越えていく姿を見るうちに、徐々に心を動かされていく。最終的には、彼女たちの最も良き理解者となり、その成長を誰よりも温かく見守る、師のような存在となった。

学校長
奏が学生だった頃、新任教師として彼女たちを見ていた人物。LUNAR ECLIPSEの解散の真相を知る、数少ない人物の一人でもある。
音楽から離れてしまった奏を心配し、「過去を乗り越えるきっかけになるかもしれない」と考え、彼女を母校の非常勤講師として呼び戻した、最大の理解者。

性格・思想
「音楽は祈りであり、呪いである」
彼女の音楽に対する思想は、極めてストイックで、二律背反的である。彼女にとって、音楽は自らを救ってくれた祈りのようなものであると同時に、仲間との絆を壊し、自らを過去に縛り付ける呪いのようなものでもある。
この考えから、彼女は「本物の音楽は、楽しいだけでは生まれない。痛みや、苦しみ、後悔を知って、初めて人の心を打つ音が出せる」という信念を持つに至った。彼女がイロドリミドリの「楽しさ」を否定したのは、その音楽が、まだ本当の痛みを知らない、表層的なものに感じられたからである。

皮肉屋なりの愛情
普段の気だるげで、やる気のない態度は、音楽に対して再び本気になり、また傷つくことを恐れる彼女が身につけた、自己防衛のための鎧である。
その内面は、誰よりも生徒思いで、愛情深い。彼女の厳しい言葉は、全て「自分と同じ過ちを繰り返してほしくない」という、不器用な優しさの裏返しなのである。

物語への影響
「伝説」の擬人化
月白奏というキャラクターは、イロドリミドリのメンバーが目指す、漠然とした目標であった「学園祭の伝説」を、具体的で、人格を持った存在として物語に提示した。
彼女という、あまりに高く、そして超えがたい壁が存在することで、「伝説を超える」という目標が、単なるお題目ではなく、血の通ったリアルな挑戦として描かれることになった。彼女こそが、本作における「最後のボス」とも言える存在である。

物語の縦軸の形成
彼女が抱える過去の謎と、その真相が明らかになっていく過程は、『イロドリミドリ』の物語に、単なる学園コメディに留まらない、深みと一本の縦軸を与えた。
イロドリミドリの成長物語が「現在」を描く横軸だとすれば、奏の過去を巡る物語は、まいまいの歴史という「過去」を描く縦軸であり、この二つが交差することで、物語はより重層的で、感動的なものへと昇華されている。
彼女の物語は、音楽の持つ素晴らしさと、それと同じくらい存在する、残酷さの両面を描ききったのである。