エリアス・モロー - 架空アニメキャラ用語辞典

エリアス・モローは、望月淳による漫画作品『ヴァニタスの手記』に登場する、元王宮筆頭錬金術師にして、異端の研究にその身を捧げる科学者。
現在はパリの地下墓地（カタコンベ）に秘密の研究室を構え、吸血鬼（ヴァンピール）の“呪い”を、魔術ではなく科学的な「疾病」として捉え、非人道的な実験を繰り返している。裏社会では、その血への執着から“血を求む者（ル・セニョール）”の異名で知られている。

概要
19世紀のパリにおいて、アストルマイト（魔導鉱石）を用いた科学技術とは異なる、「錬金術」の系譜を受け継ぐ研究者。年齢は40代前半に見えるが、自らの錬金術によって老化を遅らせており、実年齢は不詳。
かつては人間社会でその才能を高く評価されていたが、生命倫理を無視した研究に傾倒したことで学会と王宮から追放された過去を持つ。
彼の目的は、吸血鬼を呪いに侵された「呪持ち」へと変貌させる病魔（マルノメン）の正体を、科学的に解明し、その力を自らの支配下に置くこと。そのため、呪持ちを「治療」するヴァニタスとは、真っ向から対立する。

生い立ちと背景
王宮筆頭錬金術師
モローは、作中の時代から数十年前に、パリの人間社会で最も優れた錬金術師として知られた人物であった。彼は、アストルマイトの応用技術研究の第一人者であり、その功績によって、若くして王宮筆頭錬金術師の地位にまで上り詰めた。
当時の彼は、純粋に科学の進歩と、それによる人類の発展を信じる、情熱にあふれた研究者であったと記録されている。

禁忌の研究と追放
彼の運命が狂い始めたのは、彼が「生命の本質」というテーマに魅入られてからである。彼は、通常の人間とは比較にならないほど長い寿命を持ち、驚異的な治癒能力を持つ吸血鬼の存在を知り、その特異な生態に強い関心を抱くようになる。
彼は、吸血鬼の血こそが、老化や死といった、人間に課せられた運命を克服するための鍵であると確信。王宮の機密情報を利用して、秘密裏に吸血鬼を捕獲し、その血や肉体を用いた、非人道的な実験を開始した。
しかし、その禁忌の研究は間もなく露見し、彼は全ての地位を剥奪され、錬金術師として、また人間社会そのものから追放されることとなった。

地下に潜む“血を求む者”
社会から追放された後、彼はパリの広大な地下墓地に潜伏し、秘密裏に研究を継続する。彼は、吸血鬼を巡るあらゆる事象、特に「呪持ち」の発生を、魔術的な現象ではなく、「界の式（フォルミュラ）」に感染する一種のウイルスのようなものだと仮説を立てた。
彼は、捕らえた吸血鬼や、時には人間さえも実験台にしながら、病魔を抽出し、凝縮させる研究に没頭していく。その過程で、彼は裏社会の人間や、一部の吸血鬼とさえ取引を行い、研究のための資金や「材料」を調達していた。彼の存在は、パリの闇に潜む、都市伝説のような存在となっていた。

作中での活躍
初登場
物語中盤、パリで発生した連続失踪事件の犯人として、その名が浮上する。彼は、病魔を人工的に凝縮した液体を吸血鬼に注入し、強制的に「呪持ち」へと変貌させる実験を行っていた。
ヴァニタスとノエが、その実験体の一体と化した呪持ちと対峙した際に、彼は初めて二人の前に姿を現す。彼は、「ヴァニタスの書」を「呪いを治療する魔導書」としてではなく、「極めて貴重な観測装置」として強い興味を示し、その所有者であるヴァニタスを「同類の研究者」と評した。

ヴァニタスの書と“記憶を視る者”
以降、モローはヴァニタスとノエの前に、度々現れるようになる。彼の目的は、大きく分けて二つ。
一つは、「ヴァニタスの書」を奪い、その構造を解析すること。彼は、あの魔導書が、吸血鬼の真名、すなわち彼が言うところの「遺伝情報」に直接干渉できる、画期的なツールであると考えている。
もう一つは、“蒼月の吸血鬼”の血を受け継ぎ、他者の血から記憶を視るという特異な能力を持つノエ・アルシヴィストを捕獲すること。彼は、ノエの能力を「過去の情報を再生する、最高の記録媒体」と見なしており、彼を手に入れれば、吸血鬼の起源や、病魔の発生の瞬間の記憶さえも手に入ると考えている。

シャルラタンとの関係
呪持ちを生み出す元凶である「シャルラタン」とは、直接的な協力関係にはない。しかし、モローはシャルラタンの活動を、自らの研究に有益な「自然現象」として静観している。シャルラタンが呪持ちを増やせば増やすほど、彼の研究サンプルもまた増えるからである。
時には、シャルラタンの動向をヴァニタスたちにリークするなど、敵と味方の区別がつかない行動を取り、三つ巴の構図で物語をより複雑にしていく。

他の登場人物との関係
ヴァニタス
モローは、ヴァニタスのことを「感傷に流される、未熟な研究者」と評している。せっかくの貴重なサンプル（呪持ち）を、「救済」などという非科学的な目的のために治療してしまうヴァニタスの行動が、彼には理解できない。しかし、その一方で、「ヴァニタスの書」を使いこなす彼の腕前と、その出自には強い興味を抱いている。

ノエ・アルシヴィスト
ノエにとってモローは、自らの能力を悪用しようとする、最も危険で、唾棄すべき敵である。モローの、生命を単なる研究材料としか見なさない非人道的な思想は、ノエの価値観とは決して相容れない。モローから執拗に狙われることで、ノエは自らの血筋が持つ力の意味と、その危険性を改めて自覚することになる。

吸血鬼の権力者（オーギュスト・リュートヴェンなど）
追放された身でありながら、モローは裏で一部の吸血鬼の権力者と繋がっていることが示唆される。彼らは、モローの持つ科学的な知識や、彼が生み出す薬物を、政争の道具として利用している可能性がある。互いに利用し合う、危険な共犯関係である。

狩人（シャスール）
モローは、教会の対吸血鬼部隊である狩人たちを「信仰という名の盲目に囚われた、旧時代の遺物」と見下している。しかし、彼らが呪持ちを追い詰めることで、結果的にモローの研究室にサンプルが運び込まれることもあり、その存在を strategic に利用している節がある。

性格・思想
「知は力なり、倫理は枷なり」
彼の行動原理は、ただ一つ、「未知を知りたい」という、純粋で、そして際限のない知的好奇心である。その探究心の前では、生命の尊厳や、倫理、道徳といった、人間社会が作り上げた規範は、真理の探究を妨げる「枷」でしかない。
彼は、自らの行いを悪だとは微塵も思っていない。むしろ、生命の謎を解き明かすという、誰にも成し得ない偉業を成し遂げようとしている、孤独な先駆者であると自負している。

生命への冒涜と敬意
彼の実験は、傍から見れば、生命を弄び、冒涜する行為そのものである。しかし、彼自身は、生命に対して誰よりも深い敬意を払っていると主張する。彼にとっての敬意とは、その対象を神聖なものとして遠ざけることではなく、その構造を隅々まで分解し、理解し、その完璧な数式（フォルミュラ）を解明することなのである。

物語への影響
科学的視点の導入
エリアス・モローというキャラクターは、『ヴァニタスの手記』の幻想的な世界観に、「科学」という、もう一つの異質な視点をもたらした。彼を通じて、吸血鬼の呪いや真名といった魔術的な現象が、「遺伝情報」や「ウイルス」といった科学的な用語で再解釈される。これにより、物語の世界観は、ファンタジーとスチームパンクSFが融合した、より複雑で奥行きのあるものとなっている。

人間性の闇の象徴
物語に登場する多くの脅威が、吸血鬼や、それに類する超自然的な存在である中、モローは、人間の持つ「探究心」そのものが、時として何よりも恐ろしい怪物になり得ることを象徴している。彼は、吸血鬼でも、呪持ちでも、狩人でもない、第四の勢力として、物語の対立軸をより多層的なものにしている。

ヴァニタスとノエの存在意義への問いかけ
彼の存在は、主人公であるヴァニタスとノエの行動原理に、根本的な問いを突きつける。「救済とは何か？」「無知のまま生きることと、真実を知って絶望すること、どちらが幸福か？」。モローという、倫理観の欠如した鏡の前に立つことで、二人は自らの旅の意味を、より深く見つめ直すことを余儀なくされるのである。