動機づけ
- 上司が部下に対して、もしくは第三者が特定の個人や組織に対してなかば強制的にやる気を起こさせること
- ◎個人の自発的な行動を喚起させること
動機づけ研究
人間が自発的行動を起こす「動機」とは何なのかを解明する
「動機の選択」が行われる心理的メカニズムを解明する
それらの結果としてどのような「主観的経験」を得るのかを解明する
動機づけ理論の2種類のアプローチ
- 内容論(コンテンツセオリー;content theory);人間にはどのような動機づけがあるのかを明らかにする
- 過程論(プロセス理論;process theory);動機づけがもたらす結果を明らかにする
1;内容論
人間がどのような動機づけを有し、その内容や種類、さらにはそれらの関連性を明らかにすることを目的としている。
つまり、人間が有している動機の内容を分析していくこと。
内容論はマーレイ(Murray,E.J.)に始まる。
■マーレーの社会的欲求 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
Murray Henry Alexander 1893年ニューヨーク生まれ 1947年臨床心理学教授
Ⅰ.生理的欲求┬A.欠乏から摂取に導く欲求―――┬1.吸気欲求
│ │2.飲水欲求
│ │3.食物欲求
│ └4.官性欲求
├B.膨張から排泄に導く欲求―――┬5.性的欲求
│ │6.授乳欲求
│ │7.呼気欲求
│ └8.排尿排便欲求
└C.傷害から回避に導く欲求―――┬9.毒性回避欲求
│10.暑熱・寒冷回避欲求
└11.傷害回避欲求
Ⅱ.心理的欲求┬A.主として無生物に関係した欲求┬1.獲得欲求
| |2.保存欲求
| |3.秩序欲求
| |4.保持欲求
| └5.構成欲求
├B.野心や権力に関係した欲求――┬6.優越欲求
| |7.達成(成就)欲求
| |8.承認欲求
| └9.顕示欲求
├C.地位防衛に関係した欲求―――┬10.不可侵欲求
| |11.屈辱回避欲求
| |12.防衛欲求
| └13.中和欲求
├D.力の行使に関係した欲求―――┬14.支配欲求
| |15.服従(追従)欲求
| |16.同化欲求
| |17.自律欲求
| |18.対立欲求
| |19.攻撃欲求
| └20.屈従欲求
├E.禁止に関係した欲求――――――21.非難回避欲求
├F.愛情に関係した欲求―――――┬22.親和欲求
| |23.排除(拒否)欲求
| |24.養護欲求
| └25.救護(依存)欲求
└G.質問応答に関係した欲求―――┬26.認知欲求
└27.証明欲求
マーレイは以上のような「欲求リスト」を作成し、その欲求充足プロセスこそが人間行動であると説明した。
マクレランド(McClelland,D.C.)は組織の中の人間を限定とした研究を行った。
その結果「達成(achievement)」「親和(affiliation)」「権力(power)」という3つの欲求と個々のパーソナリティとの間に強い関連性を有していることを明らかにした。とくに達成感の強い人間は「業績」に強い関心を示す一方で、親和動機の強い人は「人の和」に、権力動機の強い人は「他者への影響力行使とコントロール」に強い関心を示すことを明らかにした。
マズロー(Maslow,A.H.)は人間は異なる5つの欲求の階層から成り立つとした。
生理的欲求→安全欲求→社会的欲求(所属欲求)→自尊欲求→自己実現欲求
以上の欲求は提示の欲求が充足されて初めて、高次の欲求が現れるとした。
故に、人間を動機づけるためには、低次の欲求から高次の欲求を段階的に充足させていく必要があるとした。
アルダーファー(Alderfer,C.P.)はマズローの欲求段階説の修正を行った。
生存の欲求(E;existece needs)→人間関係の欲求(R;relatedness needs)→成長の欲求(G;growth needs)
以上のように移行するとしつつも、これら相互間における同時的発現や逆行もあり得るとした。
ハーズバーグ(Herzberg,F.)は人間の欲求に関して、職務を通じてどのように充足されるかを明らかにした。
彼の研究の特質すべき点は、「人間を仕事の上で幸福にさせる要因と不幸にさせる要因とは全く別次元の要因である」とした点である。人間には「アダム的本性(動物としての”人間の欲求”;不快を回避したい欲求)」と、「アブラハム的本性(人間としての”人間の欲求”;精神的成長による潜在能力の発揮を求める欲求)」の2種類が存在している。職務において人間を満足させる要因は「達成」、「承認」、「責任」、「昇進」など具体的な内容とするのに対し、人間を不満足にさせる(職務不満)要因は、「作業条件」、「対人関係」、「給与」などが該当し、まったく異なるものであることを明らかにした。
そして、職務を通じて人間を動機づける要因を「動機づけ要因」とし、動機づけとしては機能せず、職務不満を排除する要因を「衛星要因」とし、この2つを明確に区分した。
2;過程論
動機づけ過程論とは、動機づけが人間の行動に対してどのような心理的メカニズムを通して影響を与えていくのかということを明らかにすることを目的としている。
ハル(Hull,C.L.)によって提唱された理論である。人間の欲求がどのように発現し、いかなる心理プロセスを通じて人間行動を方向づけるかということを解明した。ハルは、人間の行動を一定の方向に向かせる心的エネルギーとしての動因の強さ「D(drive)」と、過去の学習および強化経験の結合としての習慣の強さ「SHR」との積の関数によって、刺激「S(stimulus)」‐反応「R(response)」にもとづく人間の行動を解明することが可能であるとした。すなわち、人間の行動は、過去の経験のうち、高い満足を得ることができた経験がより強化されて習慣となった学習経験に強く影響を受けるものとした。
トールマン(Tolman,E.C.)やレヴィン(Lewin,K.)に代表される認知過程論に基礎をおく考え方であり、ブルーム(Vroom,V.)とローラー(Lawler,E.E.)によって「期待理論;ポーター=ローラーの期待理論(expectancy theory)」として発展した。
人間は自らにとっての期待価値や効用が最大となる行為を選択するという考えに基づく。そして人間の動機づけは「期待(expectancy);努力することによってある行為水準に到達できるとする本人の確信度合い」と「誘意性(valence);個人がとった行動がもたらす結果に対する魅力の度合い」、そして「道具性(instrumentality);最初に得られる結果(第1次結果)がさらなる結果(第2次結果)をもたらし得るかどうかということ」という3つの要素の積和によって示されるとした。
また、ローラーは「努力(Effort)」「業績(Performance)」「成果または結果(Outcomes)」の3つの要素をあげ、期待には「努力することにより業績が得られるという期待(E→P期待)」と「その業績が結果的に望ましい成果につながるという期待(P→O期待)」という2つのプロセスが存在しており、人間は自らの主観的判断にもとづいて、自分に最も有利な行動を選択するとした。
動機づけ要因としての報酬
人間は一般的に「動機づけ→行動→報酬→満足」というプロセスを経る。
ただし、最後の満足という点に関しては、組織成員としての個人の満足と組織全体の満足という2つの到達点がある。だが、組織全体の満足を獲得するためには個人の満足の達成が不可欠である。
個人を満足に到達させられる報酬に関しては、賃金、昇進、作業環境などの「外敵報酬」と、達成感、責任感、自己実現感などの「内的報酬」と呼ばれる2つの報酬が存在する。
最終更新:2009年09月03日 17:38