求【さがしもの】 ◆SXmcM2fBg6



「くそ、ここにはいないみたいだな」
 そう愚痴をこぼしながら、虎徹は周囲を見渡す。
 辺りには斉藤さんの開発室で見た様な、よく解らない機械が設置されている。
 見つけた仕様書には、Clock Down Systemと書かれているが、それを読んでもさっぱり理解できない。
 解ったのは、この機械はどうやらマスクドライダーシステムとやらに関係している、といったことぐらいだ。

 虎徹は今、エリア【D-3】にあるZECT基地に訪れていた。
 ZECT基地はイカロスが逃げた方角にあった施設で、もしかしたら彼女がここに隠れているかもしれないと考えたのだ。
 だが結局イカロスは見つけられず、無駄足に終わってしまったのだが。


「マスクドライダーシステムねぇ。翔太郎たちと、なんか関係してんのか?」
 部屋の中央に設置された機会を見上げ、首を捻る。
 マスクドライダー――言い換えれば、仮面ライダーとも読む事が出来る。
 自分達を仮面ライダーWだと名乗った翔太郎たちなら何かを知っているかもしれないが、生憎と彼等とは別行動を取っている。
 イカロスを追うのを止めて今すぐ引き返せば合流できるだろうが、そんな事は論外だ。

「しゃぁねえ。今度会った時にでも訊くか」
 自分が持っていてもどうしようもない、と作業台に仕様書を放り投げ、踵を返して部屋を出る。
 クロックダウンシステムとやらも気になるが、それよりも今はイカロスの方が大事だ。
 時間を無駄にすればするほど、彼女に追いつくことは難しくなってしまう。

「ったく、一体どこに行ったんだよ」
 このままでは最悪、イカロスは誰かを傷つけてしまうかもしれない。
 そうなる前に彼女に追いついて説得しなければならないのだが、手掛かりは飛んでいった方角だけ。
 イカロスを完全に見失っている以上、虎徹にはもう、勘で追い駆けるしか術はなかった。

「アイツが飛んでったのは南東だから……とりあえず、こっちに行ってみっか」
 ZECT基地の入り口に停めてあったライドベンダーに跨り、次に向かう方向を決める。
 ……仮にイカロスが、既に誰かを傷つけていたとしても、必ず助けて見せる。
 彼女を捕まえて、罪を償わせて、その上で幸せになってもらう。

「待ってろよ。すぐにとっ捕まえて、答えを聞き出して―――ってなんだありゃ?」

 ヒーローとして硬く決めた誓いを胸に、いざアクセルを回そうとした時だった。
 上空から虎徹の目の前に、赤色と緑色をした何かが飛び降りて来たのだ。
 その機械で出来た鳥と蛙に、虎徹は思わず首を捻る。

「一体何だ? コイツ等がカンドロイドってヤツか?」
牧瀬紅莉栖です。聞いてください。……バーナビー・ブルックスJr.は殺し合いに乗っています! 今の彼はもうヒーローじゃない!』

「…………は? な、なに言ってんだよ。そりゃどういう事だよ!」
 そのメッセージに思わず耳を疑い、声を荒げて聞き返す。
 だが機械の蛙は、は、レコードの様に繰り返し同じ事を言うだけだった。
 そして役目は終えたとばかりに、また飛び立とうとする。
 おそらく、他の参加者にもそのメッセージを伝える為だろう。

「あ! 待てコノヤロ!」

 虎徹は咄嗟に鳥と蛙を捕まえて、デイバックの中に放り込む。
 これで少なくとも、他の参加者がそのメッセージを知る事はない筈だ。
 だがそのメッセージの発信者をどうにかしなければ、根本的な解決にはならない。

 “―――バーナビー・ブルックスJr.は殺し合いに―――”

「……ふざけんなよ! そんな事、ある筈がねぇ。アイツに……バニーに限って、そんなこと……!」

 告げられたメッセージを、虎徹は全身全霊で否定する。
 バーナビーは彼にとって、最高のパートナーなのだ。
 その言葉を信じる事など、到底出来るはずがなかった。

「くそ! なんだってこう、次から次へと面倒が起るんだよ……!」
 改めてアクセルを回し、ライドベンダーを発進させる。
 牧瀬紅莉栖ってヤツをとっ捕まえて、力尽くでも事情を聞き出す。これは決定だ。
 だが居場所がわからない以上、今はとにかく、イカロスを追いかけるしかない。牧瀬紅莉栖をとっ捕まえるのはその後だ。

 “――――今の彼はもうヒーローじゃない!”

「そんな筈ねぇ……。バニー、俺は信じてるからな……!」

 そう口にしながらも、虎徹の胸中には焦りばかりが募っていった。


【1日目-午後】
【D-4/エリア左端】

鏑木・T・虎徹@TIGER&BUNNY】
【所属】黄
【状態】ダメージ(中)、疲労(小)、焦り、ライドベンダーを運転中
【首輪】80枚:0枚
【コア】なし
【装備】ワイルドタイガー専用ヒーロースーツ(胸部陥没、頭部亀裂、各部破損)、ライドベンダー@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品、タカカンドロイド@仮面ライダーOOO、フロッグポッド@仮面ライダーW、不明支給品1~3
【思考・状況】
基本:真木清人とその仲間を捕まえ、このゲームを終わらせる。
 0.バニーがこんな殺し合いに乗る筈ねぇ……!
 1.少女(イカロス)を捕まえて答えを聞きだす。殺し合いに乗るなら容赦しないが、迷っているなら手を差し伸べる。
 2.牧瀬紅莉栖を探しだして力づくでも事情を聞き出す。
 3.他のヒーローを探す。
 4.ジェイクとマスター?を警戒する。
【備考】
※本編第17話終了後からの参戦です。
※NEXT能力の減退が始まっています。具体的な能力持続時間は後の書き手さんにお任せします。
※「仮面ライダーW」の参加者に関する情報を得ました。
※フロッグポットには、以下のメッセージが録音されています。
 ・『牧瀬紅莉栖です。聞いてください。……バーナビー・ブルックスJr.は殺し合いに乗っています! 今の彼はもうヒーローじゃない!』


        ○ ○ ○


 そうして虎徹が去ったZECT基地に、今度はアンク、杏子、弥子の三人が訪れた。
 彼らは辺りを警戒しながらも、安全に休める場所を求めてここに辿り着いたのだ。
 ……もっとも、安全という意味では、地図に載った施設であるZECT基地は落第だと言える。
 それでもこの施設を訪れたのは、杏子の怪我を治療できるような備えが、ここまでに訪れた家屋になかったからだ。

 現時点において杏子は、三人の中ではただ一人の戦闘要員だ。
 仮にもグリードであるアンクの身体能力は高いが、今の状態では杏子には敵わない。
 ましてやただの人間である弥子となど、比べるべくもない。
 もし今戦いになってしまえば、アンクたちは杏子に頼りきりにならざるを得ない。
 故に彼らは、多少の危険よりも、杏子の治療を優先したのだ。

 それに地図に載っているという事は、いつかは誰かが訪れると確約されているという事だ。
 つまりは余程の事か相手でもない限り、最低限不意打ちは避けられる、という事でもある。
 加えて仮にも基地と銘打つのであれば、一般家庭以上の設備はあるだろうと踏んだのだ。


「ここには誰もいないようだな」
「だな。まぁ応急処置には十分な医療道具があったし、心配する必要はねぇだろうさ」
「でも少し前まで、誰かが居たみたいだよ?」

 ZECT基地を見回ったアンクは、他の参加者が見つからなかったことに、安堵とも落胆とも取れぬ声を上げる。
 杏子もアンクに応えながら、基地内で見つけた道具を使って自力で応急処置を済ませる。
 だが曲り形にも探偵として活躍してきた弥子は、そこに人の痕跡を見つけることが出来た。
 そのことにアンクは、ほう、と少しだけ感心する。

「なら、そいつ等がどこに行ったかわかるか?」

 それが判れば、場合によってはその参加者と接触し、戦力の補充が出来るかもしれなかった。
 だが弥子は小さく首を振って否定する。

「さすがにそこまでは………」
「そうか。それなら放っておくか」

 もとより大して期待していなかったアンクは、そう言ってその参加者のことを頭の隅に追いやる。
 今彼にとって重要なのは、如何にしてもう一人の自分を排除するか。その一点だけだ。

 もう一人のアンクを排除するには、ヤツを倒し活動が停止したところでコアメダルを奪うか、身体の奪い合いで勝利するしかない。
 だが現在アンクが所有するコアメダルは、彼の精神を宿したタカのコアメダルと、支給されたカマキリのコアメダルの二枚だけ。
 もしもう一人の自分と身体を奪い合えば、コアメダルの比率からして勝ち目はない。

 ――ならば選べる手段は前者しかない。
 故に必要なのは、より強い戦力だ。
 杏子だけでは足りない。もっと強力な力を持つ協力者が要る。
 ……問題は、その協力者をどうやって引き込むかだが。

“やっぱりアイスを使うか? ……いや、それはもったいないか”

 杏子と弥子の二人は、アイスを交渉材料にすることで引き込めた。
 だがたかだか一、二本のアイスで引き止められるとは、アンクも思ってない。
 それにアイスの数も有限だ。継続的にくれてやるには少ないし、個人的にも惜しい。

“なんとかして、アイス以外の方法で戦力を手に入れないとな。
 映司の様な奴なら、引き込みやすいんだがな”

 どうしたものか、とアンクはアイスを法張りながら思案する。
 その様子を見て、応急処置を終えた杏子は物欲しげに声をかける。

「なぁ。アイスまだあるんなら、もう一本アタシにもくれねぇか?」
「バカ言え。アイスだって無限じゃないんだ。欲しけりゃ何か役に立つ物をよこせ」
「役に立つ物?」
「そうだ。例えば、コアメダルとかな」

 まあ、コアメダルをそう簡単に手放す訳がないが、と、アンクはそう思いながらも告げる。
 だがそれを聞いた杏子は、デイバックを漁るとあっさりとソレを投げ渡してきた。
 思わず手に取ったそれは、紛れもなくコンドルのコアメダルだった。

「お前、これ―――!」
「ほら、それで良いんだろ? アイスよこせ」
「………いいのか?」

 あまりにも簡単に渡されたため、アンクは思わず聞き返してしまう。
 この殺し合いにおいてコアメダルは、セル五十枚分にもなる貴重な戦力だ。
 ソレをこうもあっさりと譲り渡す事が、グリードであるアンクには信じられなかった。
 だが杏子は、「気にすんな」と答えるだけだった。

「この殺し合いだとアタシらの能力は制限されちまっていて、能力を使うにはセルメダルが必要ときてる。
 んで、そのセルメダルは「欲望」を満たすことで増えんだろ?
 アタシにとっては、そんなメダル一枚よりもアイスの方が「欲望」を満たせるってだけさ」
「成程、納得の理由だな」

 確かにコアメダルと交換でセル五十枚分以上の欲望を満たせれば、ただのアイスだろうと釣り合いは取れるだろう。
 そうなってしまえばグリード以外にとってコアメダルの利点は、回復すれば繰り返し使えるという点だけだ。

「よし、ならお前には十本くれてやる」

 杏子の理由に納得したアンクは、彼的には奮発してアイスキャンディーを譲り渡す。
 彼にとって鳥類系のコアメダルはそれほどの価値があったのだ。
 それに杏子の欲望を満たせば、その分制限に余裕が出来る。
 お互いに得な取引である以上、躊躇う理由はない。

「お、ラッキー。ありがたく頂くぜ」

 アイスを受け取った杏子は、早速一袋目を開けて食べ始める。
 そんな杏子を、弥子は羨ましそうな眼差しで見つめていた。

「いいなぁ」
「お前も欲しかったら、何かよこせ」
「何かって言われても……」

 アンクに言われて弥子はデイバックを漁るが、彼の役に立ちそうな物はない。
 彼女に支給された物は、一つ目は魔界の瘴気が詰まっているらしい、黒いもやもやの見える瓶。
 魔界と聞いて思い浮かぶのはネウロの事だが、アンクには何の役にも立たないだろう。
 二つ目は点眼薬容器に入った試薬。
 これは血液や老廃物から他者を識別できるらしいが、今一つ使えそうにない。
 最後の一つは、ケータッチというよく解らない端末だ。
 仮面ライダーディケイドを強化変身させる装置らしいが、そもそも仮面ライダーがわからない。

 だからと言ってアイスを諦める事は出来ない。
 目の前でみんなが美味しそうに食べているのに、自分だけ食べれないなんて我慢できない。
 なので。

「どうぞ、これをお納めくださいませ」

 ケータッチに、セルメダル十枚を上乗せして進呈する。
 自分にはよく解らない物でも、アンクなら何か知っているかもしれないと判断したのだ。
 それに対してアンクはそれを受け取り、ケータッチのメモを読むと、

「まあ、セルメダルに免じて一本くれてやろう」
「一本………」

 杏子の時とは段違いの扱いに、心底落ち込みながらも開封する。
 一本だけであろうとアイスキャンディーはアイスキャンディーだ。
 芯となっている棒まで、大事に、美味しく頂く事にする。

「それじゃあ、さっさと情報交換を始めるぞ」

 そんな弥子を尻目に、アンクはそう声をかける。
 杏子の治療を優先したため、まだ情報交換が出来ていなかったのだ。

「あいよっと」
「アイス、おいしい……」

 杏子はそれに応じるが、弥子はアイスの感想を述べる。
 はたして聞いているのかいないのか。
 とにかく彼等は、アイスを片手にお互いの情報交換を始めたのだった。


【一日目-午後】
【D-3/ZECT基地】

佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】赤
【状態】ダメージ(大:応急処置済み)、疲労(小)、全身に殴られた跡
【首輪】80枚(増加中):0枚
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式、アイスキャンディー×9本、不明支給品1~2(確認済み)
【思考・状況】
基本:???
 1.アンクや弥子と情報交換する。
 2.主催者をぶっ倒して『愛と勇気が勝つストーリー』を達成するのも悪くない
 3.さやかが心配
【備考】
※剣崎を見て過去の自分を思い出しています


【アンク@仮面ライダーOOO】
【所属】赤
【状態】健康、迷い
【首輪】125枚(増加中):0枚
【コア】タカ:1、コンドル:1、カマキリ:1
【装備】シュラウドマグナム+ボムメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、大量のアイスキャンディー
【思考・状況】
基本:アンク(ロスト)を排除する。その後は……?
 0.こんなに早くコアメダルが手に入ったのは幸運だな。
 1.杏子、弥子と情報交換する。
 2.アンク(ロスト)を排除するためにも今は戦力を集めることに集中する
 3.アイス以外の交渉材料を探す。
 4.映司は――――。
【備考】
カザリ消滅後~映司との決闘からの参戦


桂木弥子@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】青
【状態】健康、精神的疲労(中)、迷い
【首輪】100枚(増加中):0枚
【装備】桂木弥子の携帯電話(あかねちゃん付き)@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品一式、魔界の瘴気の詰った瓶@魔人探偵脳噛ネウロ、衛宮切嗣の試薬@Fate/Zero
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。
 0.アイスキャンディー、美味しい……。
 1.アンク、杏子と情報交換する。
 2.ネウロに会いたい。
【備考】
※第47話 神【かみ】終了直後からの参戦です


【魔界の瘴気の詰った瓶@魔人探偵脳噛ネウロ】
桂木弥子に支給。
魔界の瘴気が深呼吸一回分詰まった瓶。
人間にとっては猛毒だが、魔人である脳噛ネウロにとっては酸素に等しいモノ。

【ケータッチ@仮面ライダーディケイド】
桂木弥子に支給。
仮面ライダーディケイド専用のタッチパネル式携帯端末。
付属のコンプリートカードを挿入しディケイドライバーに装着することで、コンプリートフォームへと強化変身出来る。

【衛宮切嗣の試薬@Fate/Zero】
桂木弥子に支給。
衛宮切嗣の使用する、点眼薬容器で持ち運ばれている試薬の一つ。
サキュバスの愛液を基剤として精製されており、とりわけ男性の血液や老廃物について反応し、詳細な識別を可能にする。



052:憎【てるいりゅうをしはいするかんじょう】 投下順 054:愛の炎
052:憎【てるいりゅうをしはいするかんじょう】 時系列順 056:戦いと思いと紫の暴走(前編)
038:He that falls today may rise tomorrow.(七転び八起き) 鏑木・T・虎徹 072:はみだし者狂騒曲
031:アイスと探偵と永遠の切札 佐倉杏子 055:折れない剣
アンク
桂木弥子


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最終更新:2012年11月02日 20:26