さらばAライダー/灼熱の怒り ◆QpsnHG41Mg
キャッスルドラン内部の洋室は、厳かな空気にしんと静まり返っていた。
ついさっきまで、二人の魔法少女は
火野映司に治癒魔法をかけていた。
今は火野映司の容態も安定してきたので、メダルの消費を考えて休んでいるが。
マミはその間にまどかと話し合った内容を頭の中で整理する。
にわかには信じ難い話だったが、しかしそれが事実なら、恐ろしいことだと思う。
もう一度情報を纏めるわよ、と前置きをしてから、マミは言葉を続けた。
「私が連れて来られたのは、美樹さんの魔女が倒された直後。
鹿目さんが連れて来られたタイミングは、それよりもずっと未来。
……それで、あなたの知る私は、佐倉さんを殺して、心中をしようとした……と」
「そういうことになりますね……」
「それが意味するところは、つまり」
「あの真木清人っていう男の人は、ほむらちゃんみたいな力を持ってる……」
まどかの言葉に、マミはゴクリと固唾を呑んで頷いた。
まどかの話が本当なら、二人はそれぞれ別の時間軸から連れて来られたことになるのだ。
だとすれば、
暁美ほむらの時間操作能力と似てはいるが、それよりももっと悪質で、自由度の高いものだ。
最初はマミが好きそうなネタでからかっているのかとも思ったが、まどかがそんな子でないことは知っている。
何よりも、マミにとってはつい数時間前だが、あの時の精神状態ならば、心中という考えに思いいたってもおかしくはない。
……するとなると、
「真木清人は、神をも冒涜する十二番目の理論に手を出していることになる……!」
この場の大勢の命を握っている殺人鬼は、時間流にまで介入する術を持っているのだ。
だとすると、例えこの殺し合いを打破したとしても、真木にはどうとでも逃げる手段がある。
幾らでも、何パターンでも、やりようがある。
それは非常におそろしいことだ。
「これは……ちょっとマズいかもしれないわね。思っていたよりも敵は強大よ」
「敵……ってことは、やっぱりマミさんもこの殺し合いを止める為に……!?」
驚きつつも、ぱっと明るくなるまどかの声。
マミがまた味方になってくれるのが嬉しいのだろうか。
ならばやはり、頼れる先輩として自分がまどかを導く必要がある。
「当たり前じゃない、私達は仲間でしょう? また一緒に戦いましょう、鹿目さん」
「でもっ……! マミさんからしたら未来の話とはいえ、わたし……マミさんのこと、殺したのに……? そんな私と……」
「ううん、もういいの。そうするしかなかったんでしょう?」
鹿目まどかは誰よりも優しい女の子だ。
好き好んでマミの命を奪うことなどする訳がない。
それはむしろ、心中などという馬鹿な結末を選ぼうとした自分が叱咤されるべきことだ。
しかし、まどかがそんな事をする子でないということも分かっている。
ならば、やはり先輩の自分が率先して仲直りを申し出るべきだ。
「それに、原因は私なんだし、お相子よ。ね?
だから……これはお願いよ。これからもずっと、私と一緒に戦ってくれないかしら?」
「マミさん……っ、そんな、こちらこそ……!」
心から嬉しそうに、まどかは首肯した。
これで憂いの一つは消え去った。
もうマミとまどかの心が離れることはないだろう。
これからも、仲間としてずっと一緒に戦っていける。
一度は離れ離れになった二人は、熱い友情によって再び結ばれたのだから。
“私はもう一人じゃない”
その事実が、マミの心を満たしていた。
こんな殺し合いの場だからこそ、残りの魔法少女たちともきちんと話し合おう。
まどかとマミの二人にそれが出来たのだから、他のみんなとも分かり合えない訳がない。
美樹さやかがどのタイミングから連れて来られているのかはやや心配ではあるが……
そんなことを考えていたマミの肩を、智樹の手が叩いた。
「おい、もうそっちの話は終わったか?」
「ええ、待たせて悪いわね、桜井くん。そっちの用事ももう終わった?」
「お、おう……まあな?」
少し罰が悪そうにデイバッグを後ろ手に隠す智樹。
マミ達は知らない事だが、智樹は二人が"難しい話"をしている間、ずっと一人でエロ本を読んでいたのだった。
全く無駄な時間の使い方と思われがち、それが智樹の活力になるのだから、一概に無駄とも言い切れないから恐ろしい。
「ってそんなことよりもだな! コイツが目を覚ましたぞ!」
「あっ……」
見れば、智樹の後ろに横たわっていた火野映司が上体を起こしていた。
所在なさげに目を伏せるその表情は沈鬱だが、傷の治りは悪くは無さそうだった。
治癒魔法の甲斐もあって、短期間で目を覚ましてくれたのだろう。
マミはホッと安堵し、そして次に、自分の気を引き締める。
彼の話は聞いている。本当は優しい青年なのだそうだが、話さなければならないことがある。
ここは先輩魔法少女として、まどかと火野映司の仲を取り持って、平和的な解決を望みたいところだが。
そう一人意気込むマミら三人に、火野映司はおそるおそるといった様子で自己紹介をした。
「えっと、助けてくれてありがとう。俺は火野映司……ここは?」
「ここはキャッスルドラン、あの会場の施設の一つよ」
マミの言葉に、映司は「そっか」と呟いた。
今のマミに、それ程の不安はない。
ついさっき、まどかとも分かり合えたばかりなのだ。
きっと火野さんともきちんと話し合えば分かり合えるハズだと、そう思う。
一度は絶望に打ち勝ったマミだからこそ、今はこの場の誰よりも前向きなのだった。
“うん、やっぱり私がしっかりしなくちゃね。頼れる先輩魔法少女として……!”
照井から託された"
志筑仁美"さんのこともある。
彼女が帰って来た時に、自分が率先して安心させてあげよう。
その為にも、今はまずこの場の全員に安堵をもたらす必要がある。
誰にも悟られる事なく、マミは内心でひとりはりきるのであった。
【一日目-夕方】
【C-6 キャッスルドラン内部】
【火野映司@仮面ライダーOOO】
【所属】無
【状態】疲労(小)、ダメージ(中)
【首輪】150枚:0枚
【コア】タカ:1、トラ:1、バッタ:1、ゴリラ:1、プテラ:2、トリケラ:1、ティラノ:2
【装備】オーズドライバー@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:グリードを全て砕き、ゲームを破綻させる。
0.俺はまた暴走してたのか……。
1.この場のみんなと話をしなくちゃならない。
2.グリードは問答無用で倒し、メダルを砕くが、オーズとして使用する分のメダルは奪い取る。
3.もしも
アンクが現れても、倒さなければならないが……
【備考】
※もしもアンクに出会った場合、問答無用で倒すだけの覚悟が出来ているかどうかは不明です。
※ヒーローの話をまだ詳しく聞いておらず、TIGER&BUNNYの世界が異世界だという事にも気付いていません。
※
ガメルのコアメダルを砕いた事は後悔していませんが、まどかの心に傷を与えてしまった事に関しては罪悪感を抱いています。
※通常より紫のメダルが暴走しやすくなっています。
※暴走中の記憶は微かに残っています。
【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】白・リーダー代行
【状態】哀しみ、決意
【首輪】180枚:30枚
【コア】サイ(感情)、ゴリラ:1、ゾウ:1
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、ファングメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式×2、詳細名簿@オリジナル、G4チップ@仮面ライダーディケイド、ランダム支給品×1、ワイルドタイガーのブロマイド@TIGER&BUNNY、マスク・ド・パンツのマスク@そらのおとしもの
【思考・状況】
基本:この手で誰かを守る為、魔法少女として戦う。
0.マミさんとはこれからもずっと仲間!
1.映司さんともちゃんと話がしたい。
2.ガメルのコアは、今は誰にも渡すつもりはない。
3.映司さんがいい人だという事は分かるけど……
4.ルナティックとディケイドの事は警戒しなければならない。
5.ほむらちゃんやさやかちゃんとも、もう一度会いたいな……
6.真木清人は時間の流れに介入できる……
【備考】
※参戦時期は第十話三週目で、ほむらに願いを託し、死亡した直後です。
※まどかの欲望は「誰かが悲しむのを見たくないから、みんなを守る事」です。
※火野映司(名前は知らない)が良い人であろう事は把握していますが、複雑な気持ちです。
※仮面ライダーの定義が曖昧な為、ルナティックの正式名称をとりあえず「仮面ライダールナティック(仮)」と認識しています。
※サイのコアメダルにはガメルの感情が内包されていますが、まどかは気付いていません。
※自分の欲望を自覚したことで、コアメダルとの同化が若干進行しました(グリード化はしていません)。
※
メズールを
見月そはらだと思っています。
※真木清人が時間の流れに介入できる事を知りました。
【
巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】黄
【状態】割と上機嫌、疲労(小)
【首輪】80枚(増加中):0枚
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品、ランダム支給品0~1(確認済み)
【思考・状況】
基本:頼れる"先輩魔法少女"として極力多くの参加者を保護する。
0.私はひとりぼっちじゃなかったのね!
1.火野映司から話を聞いて、この場のみんなを纏める。
2.他の魔法少女とも共存し、今は主催を倒す為に戦う。
3.ディケイドを警戒する。
4.真木清人は神をも冒涜する十二番目の理論に手を出している……!
【備考】
※参戦時期は第十話三週目で、魔女化したさやかが爆殺されるのを見た直後です。
※真木清人が時間の流れに介入できることを知りました。
※ひとりぼっちじゃないことを実感した上、先輩っぽい行動も出来ているのでメダルが増加しています。
【
桜井智樹@そらのおとしもの】
【所属】無(元・白陣営)
【状態】ダメージ(中)
【首輪】150枚:0枚
【装備】なし
【道具】大量のエロ本@そらのおとしもの、ランダム支給品0~1
【思考・状況】
基本:殺し合いに乗らない。
1.これからどうすんの?
2.知り合いと合流したい。
3.二度と変身はしない。
4.いつかマミのおっぱいを揉んでみせる。絶対に。
5.残りのエロ本は後のお楽しみに取っておく。
【備考】
※エロ本は半分程読みました。残り半分残っています。
※二人に隠れてエロ本を読んでいたのでメダルが増加しました。
○○○
「――何が、起こったのですか!?」
驚愕の声を漏らすのはウェザー。
状況は確実に井坂の優勢である筈だった。
ベルトもメモリも破壊した。身体もボロボロに傷め付けてやった。
照井竜がこれ以上この
井坂深紅郎に牙をむくことなど、有り得る訳がない。
そう思っていたのに……ウェザーの手の中のアダプタが消失している。
どうして? アダプタは何処へ消えたのか。
いや、分かっている、消えたのではない。
消えたのではなく――
「――この強化アダプタは返して貰うぞ」
ウェザーの後方に佇む"アクセル"がそう言った。
薄暗い夕闇の中で、青いバイザーの奥に隠された円状の複眼が眩く輝く。
細部の形状の違いこそあれど、メタリックレッドの装甲を纏ったその姿は紛れもなく"アクセル"だ。
「何故、です……何故アクセルに!?」
「俺に質問をするな」
ベルトもメモリも失った照井竜が、一体どうして再びアクセルに変身出来る?
変身出来る訳がない。奴が再び仮面ライダーアクセルに変身することなど……
そこまで考えて、そこで井坂は気付いた。
“いや、待て! アレは違う! "仮面ライダーアクセル"ではないッ!”
井坂が意識を向けたのは、奴の腹部の装甲だ。
腹部にバイクのハンドルにも似た装甲を纏っているが、それはベルトではない。
アレはあくまでアクセルの身体の一部で出来た装甲だ。メモリも刺さってはいない。
仮面ライダーアクセルと酷似した外見をしているが、しかしよく見れば、全身がかつてとは違う。
その身体を覆う装甲は以前の機械的なものと比べれば、よりドーパント然とした生物的なフォルムをしている。
むしろ"照井竜は仮面ライダーである"という固定観念を捨て去ってみれば、奴のそれはまさしくドーパントの肉体といえるだろう。
「そうか……そういう事ですか! ようやくわかりましたよ!」
井坂が思い起こすのは、ほんの数秒前の出来事。
最後の悪あがきで立ち上がった照井竜の下に飛翔してきたのは、赤きガイアメモリ。
それに目を奪われた一瞬の隙に、奴は自らそれを掴み取り、首筋へと叩き込んだ。
赤いガイアメモリは照井の身体に吸い込まれるように首筋へと入っていった。
そこから起こった全ては、ほんの一瞬だった。
照井の身体が赤い輝きを放ったかと思えば、奴はさながら炎の弾丸よろしくこのウェザーの懐に飛び込み、強化アダプタを奪還せしめたのだ。
つまり、奴は生温いドライバーで変身していた軟弱な"仮面ライダーアクセル"では既にない。
今の奴は、自立行動する次世代型のガイアメモリ"T2アクセル"と融合した戦士。
この"T2ウェザー"と同じ次世代型のドーパント……
言うなれば、T2アクセル・ドーパントといったところか――!
「なるほど……従来のアクセルは死に、T2アクセルドーパントとして復活したという訳ですか!」
「復活ではない……進化だッ! きさまへの怒りと憎しみが、俺をもう一度立ち上がらせたッ!」
そう言って、アクセルは元より携行していたエンジンブレードを振り上げる。
既に満身創痍だった筈の身体で、アクセルは再びこのウェザーに挑もうというのだ。
何度負かしても、どんなにいたぶっても、傷付ければ傷付く程に強くなるその心。
その不屈の闘志に、消える事のない桁違いの憎しみに、井坂は称賛さえ送りたくなった。
「素晴らしい、素晴らしいですよ! 照井竜くん! もっと私に、その可能性を魅せてくださいッ!!」
井坂深紅朗は今、確信を懐いたのだ。
あの男は、照井竜はガイアメモリを更なる次元へ進化させる可能性を秘めている!
あの男は、自分で言った通りにT2アクセルメモリを更なる高みへと進化させてくれる!
あの男は、この井坂深紅郎がいる限り、究極を目指し何処までも進化を続けてくれる!
“ああぁ……これだからガイアメモリの研究はやめられないんですよぉ!”
ウェザーの仮面の下で、ジュルリと舌をなめずる音が聞こえた気がした。
遊んでやろう。そしてじっくりとその進化の程を見極めてやろう。
嬉々として雷雲を呼ぶウェザーに対して、
「さあ思い切り……振り切るぜッ!!」
アクセルは脹脛に装着されていた車輪を地面に滑らせ滑走を開始。
ウェザーが放った雷撃を右へ左へと回避しながら、高速で走り来るアクセル。
なるほど確かに今までのアクセルよりも幾分か速度は上がっているのだろう。
が、この程度ならば先のブースターにも劣る。対処が出来ないワケはない。
「では、次はこれはどうです?」
正面に広範囲に冷気の壁をつくり、そこから猛吹雪を放つ。
点の攻撃は回避出来ても、面の攻撃を回避する術など持ってはいまい。
無数の雪がその身体を凍て付かせんとアクセルに迫る。
だが――!
「そんなものでッ!!」
雪がアクセルに降り積もる前に、アクセルの身体が急激な赤熱化を開始した。
ほんの一瞬でその身体を灼熱の弾丸へと変えたアクセルは、降り掛かる吹雪の全てを溶かしてのける。
凄まじい蒸気を発生させながらウェザーに迫ったアクセルは、灼熱の炎をその身に纏ったまま、
――ENGINE――
――MAXIMUM DRIVE――
アクセルとエンジンメモリの相乗エネルギーを得たエンジンブレードを振り下ろした。
間合いも、気迫も、完璧だ。並のドーパントなら、確実にメモリブレイクは免れないだろう。
しかし、このT2ウェザーを操る井坂深紅郎を仕留めるには、まだ詰めが甘い。
これで勝てると一瞬でも思ったのであれば、甘過ぎる。
炎の刃が届くよりも先に、ウェザーが発生させたのは豪雨を孕んだ雨雲。
アクセル目掛けて一転集中とばかりに降り注ぐ雨は、その身の熱を大幅に奪った。
こちらの雨もかなりの勢いで蒸発せしめられたが、それでも効果の程は十分。
元より満身創痍のアクセルは、豪雨に打たれた事で僅かにその勢いを失った。
ウェザーほどになれば、回避するには十分過ぎるほどだった。
今回も最小限の動きで僅かに身体を右へずらし、アクセルの一撃を回避する――
「……えっ!?」
――つもりだった。
炎を纏ったアクセルの蹴りが、回避した右側から急迫したのだ。
突然の姿勢変更。振り下ろした剣はそのまま、脚部だけを回し込んで蹴りに来たのだ!
たまらず頓狂な声をあげるウェザー。一撃ならばともかく、二段構えの攻撃に回避の術はない。
強烈な横からのキックを脇腹に受けたウェザーは当然元居た場所まで蹴り戻され、
「トドメだぁーーーーーーーーーーーーッ!!!」
そこへ迫る炎と稲妻を纏ったアクセルの剣。
蹴りで受けたダメージと、エンジンブレードによるトドメの一撃。
まさしく必殺の技といえるそれが迫り来るのを、ウェザーはスロー映像でも見るかのように眺めていた。
人が交通事故に逢う瞬間などに体験するといわれる、アドレナリンによるスロー現象だ。
なるほど体内でアドレナリンが過剰分泌された時というのは、こういうふうになるのか、と。
井坂深紅朗は、ウェザードーパントの肉体を得た上で、その効果の程を実感していた。
アクセルの攻撃がスローモーションに……否、止まっているかのように見える。
そこで黙って見ているだけでないのが、井坂深紅郎という男の恐ろしいところだった。
回避の時間はないが、やられることもない。
奴はこのウェザーを相手によくやった。
その善戦、褒めてやってもいい。
だが……やはりまだ詰めが甘い。
「―――――――――――――ッ!!」
攻撃に転じる一瞬の隙。がら空きになっていたアクセルの胴に、特大のカマイタチをブチ込んだ。
気象を操れるウェザーには、アクセルと違い、幾つもの技のバリエーションがある。
例え何処まで肉薄されようとも、ウェザーが手札を全て切ることなど有り得ない。
「う、ぁ――ッ!?」
体勢を崩したアクセルの身体が大きく吹っ飛ぶ。
が、それでも。敵が繰り出した技も、意地の一撃。
流石に完全にカウンターを決める事は出来ず、アクセルの一撃もまたウェザーの肩をかすめた。
肩から叩き込まれた炎と稲妻のエネルギーに、ウェザーの身体が爆ぜて吹っ飛ぶ。
「グゥ……ッ!」
――しかし、予想の範囲内だ。
上手く風を操って、地面への激突は避ける。
ウェザーは、寸での所で身体を打ち付けることもなく着地した。
対するアクセルには、もはや受け身を取る余裕もなかったのだろう。
身体を派手にアスファルトに打ち付け、ガイアメモリを排出していた。
「どうやら、私の勝ちのようですねぇ」
まだ戦闘行為の続行が可能であるウェザーを前にしての変身解除。
決着はついた。この勝負、勝利者は井坂深紅郎である。
“……まあ、よくやった方だと褒めてあげましょう”
アクセルの一撃を受け、痛む肩を抑えながら内心でごちる。
あの小僧、当初思っていたよりも随分とやるようになった。
手加減を抜きにした、この井坂深紅郎にほんの一撃でも与えたのだから。
奴は確かに滅多にお目にかかれない逸材であった。
「井坂ッ……深紅、郎ォォ……ッ!」
「……ほう! まだ立ち上がると言うのですか!」
全身に擦り傷と醜い痣を作りながら、それでも照井は立ち上がる。
いや、立ち上がろうとして、しかし力及ばず、その身体は地へとくずおれた。
当然だ。ただでさえ手負いの状態で幾度となくウェザーの攻撃を受けたのだから。
むしろ、それでもまだ立ち上がろうとするその根性はやはり称賛に値する。
が、勝負は勝負だ。この戦いに勝ったのは井坂だ。
貰うべきものは貰ってゆこう。
「それでは、君のメモリとアダプタを……」
後ろ手に手を組んだままゆっくりと照井の元まで足を進めるウェザー。
照井の手に握り締められたメモリとアダプタへと手を伸ばそうとしたところで、
“いや……待て、この小僧……”
その手は、ぴたりと止まった。
照井竜は、今も怒りと憎しみに燃える昏い瞳を此方に向けている。
どす黒い感情を真っ向からぶつけられて、そこで井坂の気は変わった。
伸ばしかけていた手をひっこめ、嘲笑混じりに照井の顔を俯瞰する。
「照井竜くん、君はやはり素晴らしい逸材だ。君にはまだ可能性があります。私への怒りと憎しみはきっと、そのT2アクセルメモリをもっと高次元のメモリへと進化させることでしょう」
「な……にィッ!?」
「君を殺すのはそれからです。アダプタもその時一緒に頂きましょう。それまでは竜くん、精々私を怨み、憎み、力を蓄えることです。君が次に私の目の前に現れてくれるその時まで、私もこの殺し合いを楽しんでいましょう」
そう言って、ウェザーの耳元からT2ウェザーメモリを排出する。
「それでは、その時が来るのを待っていますよ」
メモリをポケットにしまった井坂は、涼しげな表情で照井を一瞥すると、最後に会釈をして踵を返した。
どの道、アクセル風情がいくら進化したところで、同じく進化を続けるT2ウェザーを倒すのは不可能だろう。
事実、今回もブースターやT2と色々見せてくれたが、どれもウェザーには届いていないのだから。
ならば、そんな相手を今すぐに殺してやることもない。
精々怒りと憎しみの炎を燃やして、アクセルメモリを進化させるがいい。
ちょうどいい捕食の頃合いが来たら、その時は確実なトドメを刺してやろう。
“ふふ……楽しみにしていますよ。君のアクセルメモリが私のものになるその時を……!”
井坂深紅郎は静かに笑う。
インビジブルメモリに引き続いて、また新たな楽しみを見付けたのだから。
照井が派手にばら撒き続けたセルメダルを、まるで磁石が砂鉄を集めるかのように吸い寄せ回収しながら、井坂は泰然自若と龍之介の元へ戻っていった。
「ヒュゥゥ~~~ッ! 楽勝だったね、先生!」
「ええ、当然です」
子供のようにはしゃぐ龍之介。
そんな彼を見て、井坂はふと思った。
“……照井竜といい、龍之介くんといい、やはり私は"竜"に縁があるのでしょうか?”
そんな取り留めもない事を考えながら、井坂と龍之介は引き続き会場の中心部へと向かってゆくのであった。
【一日目-夕方】
【C-5 市街地】
【井坂深紅郎@仮面ライダーW】
【所属】無
【状態】ダメージ(小)、肩にエンジンブレードによる斬り傷
【首輪】40枚(増加中):0枚
【装備】T2ウェザーメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品(食料なし)、ドーピングコンソメスープの入った注射器(残り三本)&ドーピングコンソメスープのレシピ@魔人探偵脳噛ネウロ、大量の食料
【思考・状況】
基本:自分の進化のため自由に行動する。
0.照井竜の成長ぶりに期待大。
1.インビジブルメモリを完成させ取り込む為に龍之介は保護。
2.T2アクセルメモリを進化させ取り込む為に照井竜は泳がせる。
3.次こそは“進化”の権化である
カオスを喰らって見せる。
4.ドーピングコンソメスープとリュウガのカードデッキに興味。龍之介でその効果を実験する。
5.コアメダルや魔術といった、未知の力に興味。
6.この世界にある、人体を進化させる為の秘宝を全て知りたい。
【備考】
※詳しい参戦時期は、後の書き手さんに任せます。
※ウェザーメモリに掛けられた制限を大体把握しました。
※ウェザーメモリの残骸が体内に残留しています。
それによってどのような影響があるかは、後の書き手に任せます。
※ドーピングコンソメスープを摂取したことにより、筋肉モリモリになりました。
【
雨生龍之介@Fate/zero】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【コア】コブラ
【装備】カードデッキ(リュウガ)@仮面ライダーディケイド、サバイバルナイフ@Fate/zero、インビジブルメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、ブラーンギー@仮面ライダーOOO、螺湮城教本@Fate/zero
【思考・状況】
基本:このCOOLな状況を楽しむ。
0.先生つえー! 最ッ高にCOOL!
1.しばらくはインビジブルメモリで遊ぶ。
2.井坂深紅郎と行動する。
3.早く「旦那」と合流したい。
4. 旦那に一体何があったんだろう。
【備考】
※インビジブルメモリのメダル消費は透明化中のみです。
※インビジブルメモリは体内でロックされています。死亡、または仮死状態にならない限り排出されません。
※雨竜龍之介はインビジブルメモリの過剰適合者です。そのためメモリが体内にある限り、生命力が大きく消費され続けます。
○○○
ビルとビルの間を吹き抜ける冷たい風は、今の照井竜にはやや堪える。
照井は先の戦いで、奴の持てる炎熱系意外の全ての気象技の洗礼を受けた。
ディケイド戦で傷付いた身体にウェザーの攻撃の嵐は、正直キツい。
今にも意識を失ってしまいそうな中、それでも照井は絶叫する。
「クソッ! クソォォッ! 俺に奴は倒せないのかッ! 家族の仇は討てないのかッ!!」
探し求めた家族の仇を目の前にして、挑んだ結果はまたしても敗北……。
これが悔しくないわけがない。これ程の屈辱を受けたのは初めてだ。
怒りの炎がこの身を食い破るのではないか、そんな錯覚さえいだく程に、照井の中の炎は熱く、昏く燃え上がる。
「うわぁーーーーーっ!! あぁああああああああああああッ!!! クソッ! クソォッ! 畜生ォォッ!!」
慟哭にも似た嗚咽を漏らしながら、照井は何度も、何度も固いアスファルトを殴った。
殴った手から、真っ赤な血がどくどくと溢れ出るが、そんな痛みは気にならない。
絶叫する照井の双眸から、涙がとめどなく溢れるが、そんなことにも構わない。
ただ吐き出しようもない怒りを、どうにもならない地面にぶつけるしか今の照井には出来ないのだ。
アクセルメモリも、ドライバーをも破壊されて、ドーパントに魂を売って、それでも照井は奴に弄ばれたのだ。
本当に痛いのは身体ではない。何よりも痛いのは、ズタズタに引き裂かれた照井のプライドだ。
「二度と忘れんッ! この痛みと屈辱! 絶対にッ、絶対に忘れんぞ、井坂深紅郎ォォッ!!」
血と涙でぐしゃぐしゃに汚れた顔で、それでも瞳はさながら猛禽類の如き輝を放つ。
愛する家族の尊厳にかけて、あの井坂深紅郎だけは必ず殺す。
どんな困難に邪魔されようと、奴だけは絶対にこの手で殺す。
でなければ、もうどうにもおさまりがつくとは思えなかった。
“その為ならば、俺は仮面ライダーの名など捨てても構わんッ!”
もう後戻りする道はない。
仮面ライダーのベルトは破壊された。
仮面ライダーであろうとする心も打ち砕かれた。
今の照井は、ただ復讐の為だけに危うく燃える修羅、アクセルドーパント。
よもやドーパントに、仮面ライダーの正義だなどという綺麗事は説く者も居ないだろう。
あの井坂深紅郎の息の根をこの手で止める為に必要ならば、ドーパントとして何処までも進化してやる。
激しく、熱く、そして昏く哀しい決意を懐きながら、照井は意識を闇へと沈めていった。
元より限界を越えて戦っていた身。井坂によって与えられた疲労が、今になってどっと押し寄せたのだ。
血と涙を流しながら気絶した照井の頭上を、鳥のような形のメモリが浮遊する。
まるで照井を案ずるようにその場に浮かぶソレの名は、エクストリームメモリ。
エクストリームメモリは思考する。
誰かを呼んでくるべきだろうか。こんな時、あの二人で一人の探偵がいてくれたら……。
しかし、エクストリームメモリは知らない。
じきに日が没しようかというほぼ同刻、照井がアクセルドライバーを失ったように、
エクストリームメモリの本来の持ち主である
フィリップもまた、大切な相棒を失っていることを……。
それを知った時、彼らは一体何を思うのだろうか?
【一日目-夕方】
【C-5 市街地】
【照井竜@仮面ライダーW】
【所属】無(元・白陣営)
【状態】激しい憎悪と憤怒、ダメージ(大)、疲労(大)
【首輪】45枚:0枚
【装備】{T2アクセルメモリ、エンジンブレード+エンジンメモリ、ガイアメモリ強化アダプター}@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、エクストリームメモリ@仮面ライダーW、ランダム支給品0~1(確認済み)
【思考・状況】
基本:井坂深紅郎を探し出し、復讐する。
0.気絶中。
1.何があっても井坂深紅郎をこの手で必ず殺す。でなければおさまりがつかん。
2.井坂深紅郎の望み通り、T2アクセルを何処までも進化させてやる。
3.ウェザーを超える力を手に入れる。その為なら「仮面ライダー」の名を捨てても構わない。
4.他の参加者を探し、情報を集める。
5.Wの二人を見つけたらエクストリームメモリを渡す。
6.ディケイド……お前にとっての仮面ライダーとは、いったい―――
【備考】
※参戦時期は第28話開始後です。
※メズールの支給品は、グロック拳銃と水棲系コアメダル一枚だけだと思っています。
※鹿目まどかの願いを聞いた理由は、彼女を見て春子を思い出したからです。
※T2アクセルメモリは照井竜にとっての運命のガイアメモリです。副作用はありません。
最終更新:2012年12月25日 19:54