今俺にできること ◆2kaleidoSM


巴マミは走っていた。
激しい戦いと、それに身を投じている者達のいる場所に背を向けて。

そこには、桜井智樹を、鹿目まどかを殺したカオスがいるというのに。
今だそこで戦い続ける者もいるというのに。

それが、それだけ彼女の心に負担を強いていたか。

桜井智樹。
彼がいなかったら、きっと巴マミという少女は己を見失ったままあるいは狂気の道へと堕ちていたかもしれない。
優しくて、友達思いで。
それでいてあの時友達を殺したというジェイクに対しては怒りも露にしていた。
そんなごく普通の少年。

鹿目まどか。
ずっと共に戦ってきた、魔法少女の後輩。
彼女もまた優しくて、強くて。
それでいて、己自身で経験したことではないが錯乱した自分を迷わず倒すほどの強い意志を持っていた。

大切な存在で、こんなところで死んでいいような人じゃなかった。
だけど、彼らはもういない。

自分の目の前で、あのカオスに殺されていった。
彼女に対する憎しみが落ち着いたところで、巴マミを襲ったのは強烈な虚無感、後悔、そして悲しみだった。

もう誰も失うことがないように得て、自分なりに磨いてきた力が、肝心な時に役に立たない。
己のリボンが、誰の命を繋ぎ止めることもできていない。
むしろ、マスケット銃が人の命を奪ったほどだ。

「結局私、一人ぼっちね……」

どれほどの距離を走ったかという頃、思わずそう呟いた瞬間足から力が抜けた。
涙を流そうとすると、脳裏をよぎるジェイクの頭を撃ち抜いた瞬間のあの手ごたえ。

これは人を殺した自分への罰なのだろうか、と。
そう思ってしまったら泣くことすらできなかった。

確かにあれは咄嗟のことだった。あそこで撃たなければ、智樹君が撃たれていただろう。あの場ではそれしか選択肢はなかった。
本当にそうだろうか?
もしあそこでオーズドライバーを回収したと同時に、彼の支給品を取り上げる、あるいはリボンで拘束していれば、あそこで殺すことはなかったのではないか?
もっとベストな選択もあったはずなのに、油断して、気を抜いて。
そんな自分への罰なのだろうか。

火野映司は言った。失敗することは悪いことなのか、と。

だが、取り返しの付かないものもある。
例えばその失敗が人の命を奪ったとき。どれだけ悔い改めようと、省みようと、それはもう二度と帰ってはこないのだ。
そう、あの場で消えていった三人の命のように。


「私には…、誰も守ることができないの…?」

もし彼女の近くに誰かがいれば。
桜井智樹でもいい。鹿目まどかでもいい。
ワイルドタイガーでも、火野映司でも。
美樹さやかでも、暁美ほむらでも。

もし彼女の近くにいたなら、巴マミはここまで思いつめることはなかっただろう。
しかし、今の彼女はどうしようもなく一人だった。

鹿目まどかも桜井智樹も死に。
火野映司は狂気に落ち。
それを止めるために戦うワイルドタイガーに手を貸すこともできず逃げるしかなかった今の彼女には。

それらの事柄は重すぎたのだ。

止むことのない自責の中で、思考が堂々巡りを始めて。
走ることもできなくなった巴マミ。

そんな彼女の元に。

「おい君!大丈夫か?!」

彼は現れた。


マミ自身の心理に、一刻も早くジェイクのことを忘れたいという意志があったこと。
桜井智樹、鹿目まどかの死に心が平静でなかったこと。
そして、懐疑的であったとはいえ、もし万が一、彼の言ったとおりニンフが生きていたなら、死んでしまった桜井智樹のことを、何と伝えればいいのか。

そういった心理状態が、知らず知らずのうちに、マミを虎徹の言った場所から離れた場所へと向かわせてしまっていた。
それが果たして巴マミにとってよかったのかどうかは分からない。

ただ言える事。
それは、その結果が巴マミと後藤慎太郎を引き合わせたのだということ。


例えその心に強い焦りや嫉みに近い思いが燻っていようと。
それでも目の前で少女がじっと蹲っているのを無視できるほど、後藤慎太郎という男は欲望に忠実には生きていなかった。

「あなたは…?」
「俺は後藤慎太郎、殺し合いには乗っていない。君を保護する」

ひとまず構えつつ走っていたその手の銃を下げ、少女へと駆け寄る。
顔色も悪く、体のあちこちには激しい戦いにでも巻き込まれたかのような汚れが目立つ。

「わ…私は巴マミと言います…」
「マミちゃん、か。一体何があったんだ?」

そういえば、この先には火野映司が暴走している場所だったはず。
まさかとは思うが、まさかオーズに襲われたのだろうか。

と、そんな心配はある意味では的中していた。

「後藤、さん?もしかして火野さんのお知り合いの…?」
「…!あいつを知っているのか?!」
「火野さんは…あそこで…自分を見失って…暴走を…」

やっぱりか―――!

そう思ったときマミの向かってきた方角だろうその先を、睨むように見据えていた。
思わず立ち上がり、その先へ向かおうと歩を進める。

「え、あの、ちょっと…!」

しかしその傍からはただならぬ様子にも見えた後藤を、マミもまた思わず呼び止めていた。

「君は向こうの方向へ行ってくれ!牧瀬紅莉栖園咲冴子という二人がいるから、彼女達と合流するんだ!」
「いえ、私のことじゃなくて、あなたはどうするんですか?!」
「火野のやつを止める。やっぱりあいつにオーズはふさわしくなかったんだ…!」

後ろの言葉は、後藤にしてみれば思わずこぼれ出たような言葉だったが、それはいくらマミでも流すには強烈な意味を持った言葉だった。
思わず後藤を引き止めていた。

「ちょっと…、待ってください!」
「何だ!俺は急いでいるんだ!用があるなら早く済ませろ!」
「あなたは火野さんの仲間なんですよね?オーズがふさわしくないってどういう―――」
「あんな奴が俺の仲間なわけがない!あいつが勝手にオーズドライバーを使ってオーズになっただけだ!
 あいつなんかより、俺の方がオーズにふさわしいんだ!」

映司の仲間という認識に気を悪くしたのか、怒鳴るように叫ぶ後藤。
その様子は、火野映司より聞いていた後藤慎太郎という男の印象とは、また大きく異なっていた。
少なくとも、彼がオーズにふさわしくないなどという言葉を投げかけるとは思わなかった。

(まさか…、彼も時間軸が…?)
「ま、待ってください!」

彼女の直感が、この彼をあの場所へと向かわせることはまずいと告げていた。
それに、オーズの力を求めているということは、今は彼は何かしらの力をもっていない、ないしオーズには及ばない可能性が高い。

「何だ!俺は急いでるんだ!」
「あそこは危険です!グリードと、カオスというとても危険な子もいるんです!」
「だからだ!俺ならもっとオーズをうまく扱える、グリードだって倒せるし世界だって守れるんだ!」

危険だ、と思った。
火野映司と後藤慎太郎の間にどんな確執があり、どうやってそれを乗り越えてきたのかは分からない。
だが、今の彼を暴走している火野映司と引き合わせることがどれだけまずいか。それはマミにも分かった。
それが火野映司のためにも、後藤慎太郎のためにもならないということが。

止めなければならない。
そう確信したマミは咄嗟に後藤の手を掴む。

「ダメです…!今のあなたが行ってもできることは…」
「っ…!五月蝿い!!」
「きゃ…」

その言葉に思わず強く反応し、マミの手を強く振り払う後藤。
力が入りすぎた影響で、手を振り払うと同時にマミの体を突き飛ばしてしまった。

悲鳴を上げて地面に倒れこむマミ。

「あ…、す、すまない。大丈夫か?」

さすがにやりすぎたと感じたのか、謝ると同時にマミの近くに駆け寄る後藤。
そんな後藤に対してマミは顔を伏せたままだ。

と、次の瞬間、後藤の腕に黄色い何かが結びついた。

「…?!な、これは…」

それは手錠のように手首に絡みつき、後藤の手を縛り上げる。
特にきつく拘束されているわけではないが、後藤の力で引き千切れるものでもなかった。

突如手を拘束した何かを解こうと慌てて手を動かそうとする後藤に対し、マミは顔を伏せたまま言う。

「…あそこで今火野さんが戦ってる存在は、その十倍の拘束をたった数秒で破りました。
 身も心もボロボロな映司さんが戦ってるのは、それほどまでに強い存在なんです…」
「君は…一体…」
「私は魔法少女。希望の力で、絶望を生む存在から多くの人々を守ってきた。
 でも、こんな力があっても私は…、友達も助けてくれた人も、誰も救えなかった……!
 殺した相手を前に、そこで戦う人を残して逃げることしかできなかった…!」

気が付いたら吐き出していた、自分の感情。
救えなかった者に対する強い後悔。そして逃げるしかなかったその罪悪感。
どれだけベテランの魔法少女として戦ってきた巴マミであっても、その精神はヒーローの域などには達していないのだから。
気がつけば、その眼からは、一人でいた頃には全然流れなかった涙が溢れていた。

そんな、目の前で己の無力さに嘆く少女を見て。

――――俺は何をしているのだろう

ふと後藤はそんなことを考えていた。

平和のためこの殺し合いを止めるといいながら、あの野球帽の男も取り逃がし。太った少年を助けることもできず。
冴子さんや紅莉栖ちゃんを、特に殺し合いに乗った人物と遭遇したわけでもないのに同行したというだけで守った気になって。
オーズや、それ以外のヒーローなる存在が力を持っているということに嫉妬し。

なのに実際に力を持って戦っていたのはこんな子供だった。

冷静になって考えてみれば、俺は何もしていない、できていないのではないかと。
世界平和のためなどと大層なことを言っておきながら、こんな少女が戦っている間、自己満足に浸っていただけではないのか。

何が、「俺の方がオーズにふさわしい」だ。
力があっても、何も守れなくて泣いている少女が目の前にいるというのに。

では、今俺が目の前で泣いている少女に対して、何ができるというのだろうか。

(俺は――――)





「マミちゃん、あそこで何があったのか、詳しいことを教えて欲しい」

マミの心が落ち着き、手のリボンを外してもらったところで後藤はまずそう問いかけた。
まず何をするにも必要なことだ。そもそも自分は向かうといいながら、火野映司が暴走したということしか知らないのだ。


マミの話した情報。

ジェイク・マルチネスという悪との戦い。
奪われたオーズドライバー、オーズに変身したジェイクと暴走するオーズ。
戦いが終わって、一息ついたところで襲い掛かったカオスなる少女。
激戦で死に往く仲間達、そしてそんな彼らの前に姿を現したグリード。そして、火野の暴走。
そして、そんな中で一人戦うワイルドタイガー。

それが、巴マミの話した、あの場で起こった全てだ。
しかし驚いたことに火野の暴走はそれが初めてというわけでもないという。

ジェイクなる悪がオーズに変身したということと合わせて、後藤の脳裏に一つの可能性がよぎった。

(火野でなくてもオーズには変身することができる…、だが暴走したのは悪だったからとして、火野は何故暴走している?
 もしかして、オーズには誰でも変身することができる代わりに暴走しやすくなる調整でもされているのか…?)

実際に見てみなければ何もいえないが、もしその可能性があった場合、自分に使いこなせるのだろうか…。
少し慎重になる必要があるかもしれない。
そう考えられたのは、少しでも冷静になれたおかげなのかもしれない。
そういったところは目の前の少女に感謝すべきだろう。

グリード、エンジェロイドなる存在、そして火野映司が戦っているらしいあの場所。
そんな場所に、こんなショットガンだけ持っている自分が行ってどうにかなるのだろうか。

いや、まずはこの少女を安全な場所まで移動させることが先決。園咲冴子と牧瀬紅莉栖の元へ――――

と、そう思ったところで、暗い空に流れ星のような一陣の光が走った。
こんなところで流れ星が?と後藤は一瞬疑問に思ったが、それにしては光が消えるのが遅い。
いや、そもそも流れ星とは上から下に流れるものだろう。
なのにあの光は明らかにどこかへ向かっているかのようで。

「あれは……まさか…、エンジェロイド…?」

エンジェロイド。
あの場所で暴れているカオスという者と同じ存在。
しかし、マミの話ではそのエンジェロイドは一人が放送で名を呼ばれ、もう一人は先に言ったジェイクという男に殺された可能性が高いという。

なら、あそこに向かっているのは―――

イカロス……?!」

マミにはその答えの想像がついた。

まずい。
あそこでは桜井智樹が死んでいる。そしてその仇であるカオスがいる。
エンジェロイドの戦闘力の高さはカオスと戦って十分に理解した。
だからこそ。
もし今そこで、桜井智樹の骸を見た、彼と最も親しかったエンジェロイドがその仇を目の当たりにすれば。
そして、もし二人のエンジェロイドがぶつかり合えば。
そこにいる周りの人間は―――

「火野さんとワイルドタイガーが危ない…っ!」

走り出そうとするマミ。
その手を、後藤が掴み引きとめた。

「待つんだ。俺が行く」
「後藤さん…?!ダメです!今あそこにいくのは――」

ああ、それは自分自身がよく分かっている。俺が行っても戦力にならないことくらい。
だから、せめて今の俺にもできることをしよう。

「分かってる。だから、せめて火野とそのワイルドタイガーって人くらいは助けられるように手助けをする。
 火野が暴走してるなら、引っ叩いてでも目を醒まさせてやるさ」

それくらいのことはできるはずだ。
世界を救うために悪を倒すことは今はまだできなくても、目の前の少女を安心させるために人を助けることくらいならできるはずだ。

「だから、マミちゃんは紅莉栖ちゃんと冴子さんの元に行ってくれ。いずれ火野達を連れて戻る」
「…じゃあ、せめてこれを」

そう言ってマミが差し出したのは一枚のコアメダル。
持っていた3枚の白いメダル。その中でもあの場所で散っていった後輩の魔法少女がずっと大切に持っていた一枚。
何の役にも立たないかもしれないが、それでもせめてあの子の込めた想いが彼を守ってくれれば。そんな願いから渡した、一枚のコアメダル。

「…ありがとう」

そう一言お礼だけを言い残して、後藤はエンジェロイド、グリード、そしてオーズの入り混じった戦場へと一人駆けていった。
自分には何ができるか、もしかしたら何もできないかもしれない。それでも自分が向かうことで、一人でも救える者がいるなら。
それもまた、自分の求める世界平和のための第一歩になるのではないかと、そう思えたから。


「………」

巴マミは、そう言う後藤を見送る。
もしかしたら、ここで彼を追うという選択肢はあったのかもしれない。
だがここで戻れば、一人残って戦うワイルドタイガーを裏切ることにもなりそうな気がして。
結局彼の姿が見えなくなるまで、立ち上がることはできなかった。

「鹿目さん……、後藤さんを、火野さんを、ワイルドタイガーを…お願い…」

きっと彼が行くより自分が行ったほうが、戦力的にはいいのかもしれない。
だけど、今の彼ならあるいは、火野さんを助けてくれるかもしれない。

そう小さな望みを、あの白いコアメダルに託してマミは一人祈った。

そして後藤の指した方、牧瀬紅莉栖と園咲冴子のいるらしい方を目指そうとして。

(あれ…?)

何故だろうか。
牧瀬紅莉栖というその名に。
聞き覚えがあるような気がして。
心の中に、よく分からない、言いようのない不安が膨れ上がっていたのは。

それが気のせいなのか、それとも何か記憶の奥でその名を聞いたことがあるせいなのか。
巴マミにはまだ分からなかった。


【一日目-夜中】
【C-6 路上】


【後藤慎太郎@仮面ライダーOOO】
【所属】青
【状態】健康、若干の気持ちの焦り
【首輪】100枚:0枚
【コア】サイ(感情)
【装備】ショットガン(予備含めた残弾:100発)@仮面ライダーOOO、ライドベンダー隊制服ライダースーツ@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式、橋田至の基本支給品(食料以外)、不明支給品×1(確認済み・武器系)
【思考・状況】
基本:ライドベンダー隊として、できることをやる
 1.キャッスルドランに向かう。
 2.今は園咲冴子と牧瀬紅莉栖を守る。協力者が見つかったら冴子達を預ける。
 3.殺し合いに乗った馬鹿者達と野球帽の男(葛西善二郎)を見つけたら、この手で裁く。
 4.マミちゃんのために、火野映司とワイルドタイガーを助ける
 5.今は自分にできることを…
【備考】
※参戦時期は原作最初期(12話以前)からです。
※メダジャリバーを知っています。
※ライドベンダー隊の制服であるライダースーツを着用しています。
メズールのことを牧瀬紅莉栖だと思っています。
※巴マミからキャッスルドランで起こった出来事を一通り聞きました
※オーズドライバーは火野でなくても変身できる代わりに暴走リスクが上がっているのではと考えています

【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】黄
【状態】ダメージ(極大)、疲労(極大)、深い悲しみ、カオスへの憎しみ
【首輪】70枚:0枚
【コア】ゴリラ:1、ゾウ:1
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品、ランダム支給品0~1(確認済み)
【思考・状況】
 基本:???
 1. ここから離れる?
 2.他の魔法少女とも共存し、今は主催を倒す為に戦う?
 3.ディケイド、イカロス、カオス、メズール(と赤い怪人)を警戒する。
 4.真木清人は神をも冒涜する十二番目の理論に手を出している……!
 5. 人を殺してしまった……
 6. 後藤さん…
 7. 牧瀬紅莉栖という名前に聞き覚えが…?
【備考】
※参戦時期は第十話三週目で、魔女化したさやかが爆殺されるのを見た直後です。
※どこまで虎徹の指示に従うかは、後続の書き手さんにお任せします。
※もしかしたら虎徹から牧瀬紅莉栖のことを聞いたかもしれません。
  聞いていなければ、嫌な予感は気のせいである可能性もあります。


118:呪いをかけられた天使 投下順 120:This Illusion
118:呪いをかけられた天使 時系列順 121:死【ろすと】
114:時差!! 巴マミ 133:遭遇!!
112:謀略の夜 後藤慎太郎 123:欲望交錯-足掻き続ける祈り-


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最終更新:2015年07月04日 21:51