五星戦隊ダイレンジャーの第39話

リュウレンジャーこと亮の仇敵である魔拳士・陣は、亮を庇ってゴーマ怪人の攻撃の餌食となった。
陣はザイドスに捕われ、牢屋の中に閉じ込めらている。

ゴーマの戦闘員コットポトロが見張りについているが、陣が身動きしていないのに気づく。
驚いたコットポトロが牢を開けると、たちまち陣がコットポトロを倒す。


一方でダイレンジャーとゴーマの間には停戦協定が結ばれ、亮たちは草野球を楽しんでいる。

一同「さぁ、来い!」「行くぞ!」「よっしゃ!」
亮 (なぜだ……? あのとき、なぜ陣は俺を庇った?)


脱走に成功した陣は、傷を負った身のまま、町はずれをフラフラとさまよう。

陣 (生き延びてやる…… 何としても。そして倒す! ザイドス、亮!)



魔拳 落日に散る



ゴーマの牢獄では、ザイドスが陣の脱走に気づいている。

ザイドス「フン、無駄なことを。奴の体はすでに、俺のもの」


一方の亮たち。
亮が考え込んでいる間に、ボールが頭上を飛んで行く。

将児「おぉい、亮!」
亮「……えっ? あぁ! いけねぇ、いけねぇ。ボール、ボール……」

亮がボールを捜して、木々の間を歩き回る。
傷だらけでの陣が、気を失って倒れている。


陣が目覚める。
そこは亮の自宅のベッドの上で、そばに亮が付き添っている。

亮「気がついたか?」
陣「……貴様!?」

陣が身を起こそうとして、傷の痛みに顔をしかめる。

亮「まだ動かないほうがいい」
陣「貴様が…… 俺を助けたのか?」
亮「あぁ。どうやら俺とお前は、切っても切れない縁があるみたいだな。ま、あんまり嬉しくはないけどさ」
陣「ふざけるな! うっ……! 貴様に助けられて、喜ぶ俺だと思っているのか?」

陣がベッドから飛び出して、痛々しい様子で、必死に拳法の構えを取る。

陣「戦え、亮! 今、この場で! うぅっ!? うっ……」
亮「陣……!」


亮はダイレンジャー本部で、一同に事情を話している。

将児「どういうつもりなんだよ、亮!? あんな奴を助けるなんて!?」
(かず)「そうですよ。あいつは、あなたの命を何度も狙った奴なんですよ!?」
亮「それだけじゃない…… 陣は、俺の命を救ってくれたこともある! だから……」


亮の自宅。
ベッドの上の陣に、亮が食事を運んでくる。

亮「で~きた! できたぞぉ、お待ちどうさん! 体力をつけるには、とにかく食べるのが一番! もちろん、味も保証付きだぜ。なんたって、こっちはプロだからな。ほら」

陣は無言で、粥の椀を払いのける。
亮は一瞬ムッとするが、平静を装い、床に散った粥を片づけ始める。

亮「あ~ぁ、やっちゃった。しょうがねぇなぁ」
陣「……」


亮は勤め先の中華料理店で、夜遅くまで働いている。

店員「亮ちゃん、今日も残業組?」
亮「はぁ、知り合いがケガしちゃって…… ちょいと、金がいるんスよ」
店員「そっか。じゃ、お先に。お疲れさん」
亮「お疲れ様でした。おやすみなさい!」

その頃、夜道を歩く1人のOLの前に突如、怪物が出現する。

「キャァァ──ッッ!?」


翌日。亮が車椅子の陣を押しつつ、駅を訪れる。
目の前には階段。

亮「すいません! どなたか手伝ってくれませんか? あの、すいません!」「すいません、お願いします!」「あの……」

必死に懇願する亮に構わず、大勢の客が通り過ぎて行く。

陣「無駄だ。みんな、自分のことばかり考えている。人なんてそんなもんだ」
亮「だったら…… 人の分まで、自分が優しくなればいい!」

亮は陣を背負い、片手で車椅子をつかみ、息を切らしながら階段を昇ってゆく。

亮「はぁ、はぁ、はぁ……」
陣「……」


その日の夜。
公園のカップルのもとに、またしても昨晩と同じ怪物が現れる。

「うわぁっ!」「助けてぇ!」「逃げろぉ!」

怪物が女性を噛み殺し、血塗れの口を手で拭う──


あくる朝。
陣がベッドで目覚めると、傍らでは残業明けの亮が、仕事着のまま寝ている。

亮「グー、グー…… ラーメン、餃子、お待ち…… 毎度…… ムニャ……」

陣は、険しかった表情を思わず緩める。
しかし、自分の手に染み付いた血に気づく。
袖をまくると、自分の腕が白い異形の形に変貌しかかっている。

陣「こ……、これは、一体!?」
亮「ふわぁ~ぁ…… あっと、ごめん。包帯替える時間だった」

陣がとっさに腕を隠し、布団をかぶる。

陣「放っといてくれ!! 俺は…… 俺は!」
亮「陣……!?」


亮は陣を車椅子に乗せ、公園へ連れ出す。

亮「どう? 気持ちいいだろう。たまには、外の空気も吸わなくちゃ」
陣「なぜだ? どうして俺に、ここまでする?」
亮「お前だって、俺を助けた」
陣「違う! 前にも言ったはずだ。俺は貴様を自分の手で倒したい。だから貴様を助けた。それだけのことだ」
亮「……そうだったな。本当言うとな、自分でもよくわからないんだ。ひょっとしたら、俺はお前と同じ理由で、お前を助けたのかもしれない」
陣「……」
亮「『お前を倒すのは俺だ』。そう思っていたのかもしれない…… 1人の、拳士として」
陣「1人の…… 拳士として?」

亮は真剣な眼差しで頷く。

陣「亮、頼みがある」
亮「……?」
陣「もし俺が拳士でなく、心をなくした怪物となったとき、そのときは! お前の手で、俺を殺してくれ!」
亮「えっ!?」
陣「急所は、ここだ!」

陣が自分の胸を指差す。

亮「何を言ってる? どういう意味だ!?」
陣「……うぅっ!? ……あぁっ、あ……」
亮「陣……!? おい、陣!」
陣「うわぁっ! うっ! うぅっ……」

陣が急に苦しみだし、その手が鉤爪に変る。

亮「陣、陣!?」
陣「忘れるな、俺との約束!」

陣は、心配そうな亮を突き飛ばし、フラフラと走り去って行く。

亮「陣──!」


昨晩までの怪物が白昼同道、人々に遅いかかる。
大五や将児たち4人が駆けつける。

大五「逃げろ!」
将児「バケモノ! これ以上、好き勝手な真似はさせねぇぞ!」
一同「みんな、行くぞ!」「気力転身!!」

4人がダイレンジャーとなり、怪物に挑む。

テンマ「大輪剣! ハァッ!」

テンマレンジャーの一撃が決まり、怪物の右腕から血が噴き出す。
怪物が逃げて行く。

テンマ「待ちやがれぇ!」


一方で亮は、必死に陣を捜し回っている。

亮「陣──! 陣──!」

陣がうずくまっている。

亮「陣!」
陣「……」
大五たち「亮──!」「亮!」

そこへ、大五や将児たちが駆けて来る。
陣が右腕に傷を負っている。
さきほど将児が怪物を攻撃した箇所と同じ──

将児「亮、こいつは!?」

陣が突然、人が変わったように亮に襲いかかる。

一同「亮!?」
陣「う、うっ、あぁ──っ!?」
亮「陣……!?」

陣の姿が、あの怪物の姿へと変わる。

亮「馬鹿な…… これは一体!?」

そこに、ザイドスが現れる。

ザイドス「ダイレンジャー!」
大五「ゴーマ!?」
ザイドス「もはや、そいつは陣ではない。奴が脱走する前に、奴の体に飢狼鬼(がろうき)の細胞を埋め込んでおいたのだ。完全に陣は飢狼鬼となった。今や陣としての心を失い、俺の言葉だけを聞く操り人形だ」
亮「何だとぉ!?」
ザイドス「ダイレンジャーを倒すのだぁ!」
亮「やめろ、陣! お前は拳士、操り人形なんかじゃない!」
大五「ザイドス……! 停戦したはずじゃなかったのか!?」
ザイドス「えぇ~? 何だって~?」

陣の変貌した怪物──飢狼鬼が亮たちに襲いかかる。

一同「うわぁぁ!」「オーラチェンジャー!」

やむなく5人が転身し、ダイレンジャーとなる。

リュウ「やめろ、陣! 陣──!」
シシ「無駄だ! 今の奴に、言葉が通じるか!?」

飢狼鬼の容赦ない攻撃が、ダイレンジャーたちに降り注ぐ。

一同「うわぁぁ──っ!」

(陣『俺が心をなくした怪物となったとき、そのときはお前の手で! 急所はここだ!』)

リュウ「許せ…… 陣!」

リュウレンジャーがスターソードを手にして突進。
意を決し、飢狼鬼の胸に突き立てる。
飢狼鬼が苦痛にあえぐが、まだ倒れない。

シシ「駄目だ、浅い!」

しかし飢狼鬼はスターソードに手をかけ、自らの胸に深く突き立てる。

リュウ「陣!?」
ザイドス「飢狼鬼!?」

飢狼鬼が、苦悶の声を漏らす。
その体に、次第に陣の姿がだぶる。

陣「俺は拳士! 貴様の思い通りにはさせんぞ…… ザイドスぅ!!」
ザイドス「このままでは、飢狼鬼が自滅する……」

飢狼鬼目がけ、ザイドスが妖力を吐きかける。
大爆発と共に、飢狼鬼と陣が分離する。
陣が、転身の解けた亮と共に、地面に叩きつけられる。

亮「陣!?」

無数のコットポトロたちが現れ、ダイレンジャーたちと乱戦となる。

亮「大丈夫か、陣」
陣「あぁ……」

亮たちもまた、コットポトロたちに取り囲まれる。

亮「やれるか、陣!?」

陣が力強く頷き、亮と共に立ち上がる。

亮「行くぞぉぉ!!」

亮と陣が生身のまま、コットポトロたちを蹴散らす。

亮「気力転身!!」
陣「魔性降臨!!」

亮がリュウレンジャーに転身、陣が魔拳士に変身し、コットポトロたちを一掃する。

ザイドス「おのれぇ、陣!」
陣「ザイドス、貴様だけは許せん! 行くぞぉ!!」

陣がザイドスに挑みかかる。
ザイドスの猛攻をかわしつつ、必殺拳の構えをとる。

陣「豹牙(ひょうが)流奥義・邪神風拳(ふうけん)! ハァァッ!」

必殺の連打が炸裂する。
しかしザイドスが、とどめの一撃を受け止め、逆に妖力を吐きかける。
至近距離での強烈な妖力が、陣の体をまともに直撃する。

陣「うわあぁぁ──っっ!!」


一方でリュウレンジャーは4人と合流し、飢狼鬼を追いつめる。

一同「天宝来来の玉、セット!」「セーフティロック解除!」「スターソード・オン!」
リュウ「みんな、胸の傷を狙うんだ!」
一同「おぅ!」「ファイヤ──ッッ!!」

最強武器であるスーパー気力バズーカの砲撃を食らい、飢狼鬼が爆発四散する。


亮たちが、転身を解く。
陣たちの戦いの場にザイドスはおらず、陣が倒れているのみ。

亮「陣!?」

陣が傷の痛みをこらえ、立ち上がる。

陣「拳士として……」
亮「……拳士として」

陣が拳法の構えをとり、亮もそれに応えて構える。

陣「うぅおおぉ──っっ!!」
亮「はいぃぃ──っっ!!」

2人が激突する。
拳と拳、蹴りと蹴りの激しいぶつかり合い。
陣の攻撃をかわし、亮が正拳を繰り出す。
勝負あった──かと思われたが、亮は陣の顔面寸前で拳を止める。

陣「甘いな…… どこまでも甘い奴だ、お前って奴は。これだけは憶えておけ。拳士は、非情を乗り越えることも必要だと」

陣が背を向ける。

亮「どこに行くんだ? その体で……」
陣「寄るな! 俺は俺でいたい! これ以上お前のそばにいたら、俺が俺でなくなってしまう」

陣が亮を制止して歩き出しつつ、振り向く。

陣「世話ばかりかけちまったな、亮。……ありがとう」


夕日に照らされた砂漠を、陣がフラフラと歩く。
ザイドスが現れる。
そして、地平線を埋め尽くすほど、コットポトロたちの大群。

ザイドス「やれぇ!」

陣の弾いたコインが宙を舞う。
敵を一掃した後、落ちて来るコインを受け止める得意のアクション。
襲い来るコットポトロたちを、陣が次々に蹴散らす。

コットポトロの銃撃隊が、陣目がけて、一斉に銃撃を放つ。

陣の受け止めるはずのコインが、地面に落ちる──


つづく

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最終更新:2014年07月12日 09:15