聖闘士星矢の最終回 (漫画版)

聖闘士星矢(セイントセイヤ)の最終回 (漫画版)


冥界最奥の楽園・エリシオンで繰り広げられる、星矢(セイヤ)たちと冥界の神・冥王(めいおう)ハーデスとの最後の戦い。
星矢が渾身の拳を繰り出すが、逆にハーデスに吹き飛ばされる。

星矢「うわあ──ッ

星矢が痛烈に地面に叩きつけられ、アテナの聖衣(クロス)が地面に転がる。

星矢「あ…… ア……アテナの聖衣が…… う…… くっ…… こ……これだけは……」

アテナの聖衣をつかもうとする星矢の手に、ハーデスは剣を突き立てる。

星矢「ぐわあっ!!
ハーデス「アテナが滅んだ今 そんな物を大事にかかえていたとて何になる」
星矢「あ……ああ ううう~」
瞬「星矢──ッ!!」
ハーデス「騒ぐな人間どもよ おまえたちがいかにあがこうとも もはやすべて終わったということを教えてやろう…… 見ろ 地上の姿を!!

ハーデスが剣を頭上に掲げると、地上の光景が映し出される。
太陽が月に覆い隠され、日食により地上が闇と化している。

星矢たち「うっ!!」「なにぃ!?」「ああ!!」「こ……これは……」「太陽が!!

太陽光が永遠に絶たれたことで全生物が死に絶え、地上が死の世界と化す「グレイテストエクリップス」──

ハーデス「そうだ 今や太陽は完全に月に覆い隠された!! ここにグレイテストエクリップスは完成したのだ!! 一直線に並んだ九つの星は二度と動くことはない!! これで地上は永遠に暗黒の世界となったのだ!!


地上、ギリシア・聖域(サンクチュアリ)
星矢たちの勝利を祈り続ける魔鈴(マリン)、シャイナ、邪武(ジャブ)たち、そして星矢の実姉・星華(セイカ)

シャイナ「魔鈴……」
魔鈴「むうぅ~ や……やはりダメだったのか…… 生あるものはいつか必ず死ぬ…… いつかは必ず死というものに支配される…… 抗うことなど誰にもできやしないんだ その絶対的な死の統括者であるハーデスを倒すなんて…… 人間にとって初めから不可能なことだったのかもしれない……」
星華「いいえ 違います 私にはまだ聞こえます 星矢の生命(いのち)の声が……」

星華の見上げる夜空に、星矢たち5人の姿がだぶる。

星華「未だに死に屈していないみんなの生命の声が…… それは喜びの(うた)…… それは希望の光…… 星矢たちが生命の詩を謳い続けている限り…… 私も希望を捨てません…… 決して……」
シャイナ「セ……」
魔鈴「星華ちゃん……」


ハーデス「さぁこれでおまえたちの望みはすべて絶たれた!! 今度こそ往生際よく死ぬがよい!!
星矢「う…… くっ…… だ……だめだ もう…… もう体中のすべての力が抜けてしまった…… こ……今度こそ完全に()られる……」
ハーデス「このハーデスからじかに死を与えられることこそ光栄と思え!! 死ねペガサス!!

星矢めがけてハーデスが剣を振り下ろす──が、その剣撃が何かに阻まれる。

ハーデス「なにぃ!? 剣がはじかれる!! こ……これは 何かの力がペガサスを守っている!! むうぅ~ な……なんだ これは──ッ!?

星矢が透明な球体のようなものに包まれている。そして紫龍(シリュウ)たち4人もまた同様に。

ハーデス「バカな! ペガサスだけではない!! ここにいた死に損ないの聖闘士(セイント)全員が球のような物に包まれるとは……!! むうぅから こ……こんなマネは人間にはできん…… できるものといえば……」
星矢「あ……アテナ!!

アテナ・城戸沙織の閉じ込められてる大甕から、声が響く。

声「星矢!! その生命(いのち)の球に包まれていればハーデスも手出しはできません そしてそれは無事に地上まで貴方たちを運んでくれるでしょう…… 今までご苦労様でした さぁお帰りなさい 今こそ人の世に……

さらに沙織の血を吸って真っ赤に染まっていた大甕から、徐々に血の色が消えてゆく。

ハーデス「な……なにぃ 大甕から血の色が失せてゆく こ……これは甕の中のアテナの体に血が戻っているということか……!! お……おのれ ここにきて甦らせてなるか!! 大甕ごと一刀両断にしてくれる──ッ!!
星矢「アテナ──ッ!! 今こそこの聖衣を──ッ!!
ハーデス「な…… なにぃ!?

ハーデスが剣を振り下ろすと同時に、星矢が大甕目がけてアテナの聖衣を投げつける。
大甕が真っ二つになり、中から沙織が初めて聖衣を身に纏い、聖杖と盾を手にした姿で現れる。

ハーデス「アテナ!! ま……まさか貴女は このハーデスの肉体をおびき出すため 自らヒュプノスの手にゆだねられ その大甕に入っていたというのでは……」
沙織「ハーデス! 神話の時代から続いた貴方との戦い…… これで決着をつけましょう」
ハーデス「ぬうぅ~ こしゃくな──ッ!!

ハーデスの振るう剣を、沙織が盾で食い止める。

星矢「沙織さ──ん!!
ハーデス「アテナ 貴方は神なのだぞ なのになぜそうまで人間のために戦うのだ 愚かな人間に神が鉄槌を下そうとするのを なぜ邪魔し続けるのだぁ~」
沙織「違います! 貴方が思う程 人間は愚かではありません」
ハーデス「バカな! 人間ほど愚かな存在があるか ほうっておいたらどこまでゆくか計りしれんのだぞ だから悪行を積み続ければ死後 地獄へ落ちて未来永劫苦しむのだと教えねばならんのだ!! このハーデスが造り上げた死後の恐怖があるからこそ かろうじて地上は今のままで済んでいるのだぞ!!
沙織「ハーデス それはあなたの傲慢というものです」
ハーデス「な……なにぃ」
沙織「一匹の虫も殺さず一輪の花も摘み取らずに一生を終えられる人間が一人でもいるでしょうか…… 人間は神ではありません だからどんな善人でもわずかな悪行は心ならずも犯してしまうものなのです それが生きるということなのです 生きてゆくためには仕方のないことなのです…… でもその罪も 死によってすべて清められるのではないのでしょうか…… 善人も悪人も 生きとし生きるものすべて死の後は平等に永遠の安らかな眠りにつけるべきではないのでしょうか…… それを生前の罪を理由に 死んだ後も苦痛を与えるなんて…… ハーデス 貴方は間違っています!」
ハーデス「だ……黙れ──ッ!!

逆上したハーデスの剣撃で、沙織が吹き飛ぶ。

沙織「うっ!! きゃあ──っ!!」
星矢たち「アテナ──ッ!!
ハーデス「アテナ…… 人間をかばう貴女とは結局 相容れることはない もはや問答は無用のようだ さぁ 人間のために死ぬがいい──っ!!

沙織にハーデスの剣が迫る。

星矢「さ……沙織さぁ──ん!! うおおおお──ッ!!

星矢が渾身の力で生命の球を自ら打ち破り、沙織とハーデスの間に割って入り、渾身の拳を撃つ。

ハーデス「なにぃ!? うおおおおお──ッ がはぁ──ッ

星矢の拳でハーデスが大きく吹き飛び、神殿の壁に叩きつけられる。

ハーデス「ぐ…… うぅ…… ば……ばかな…… に……人間が…… 人間がここまで余を苦しめるとは…… むうぅ……」
瞬「や……やった! 星矢が……
紫龍「ハーデスに初めてダメージを与えたぞ!
氷河「い……今ならハーデスにとどめを刺せる!
一輝「 そ……そうだ 今なら…… ! うっ あ……あれは──ッ!? セ……星矢ァ──ッ!! 星矢!!

ハーデスに反撃したと思われた星矢も、その左胸に深々と剣を突き立てられていた。

沙織「し……しっかりして星矢!! 地上では姉さんが…… 姉さんがあなたを待っているのよ……」

星矢がかすかに微笑み、そして静かに目を閉じる。

沙織「セイヤアアアァ──ッ 死なないで! 死んではだめぇ──ッ!! あなたを愛する人のためにも生きて! お願い 星矢ァ──ッ
一同「セ……星矢の小宇宙(コスモ)が……!!」「小宇宙が消えてゆく!!」

ハーデス「フッ アテナよ 人間といっしょにいるうちに あなたもすっかり愚かになったようだな…… このハーデスにとどめを刺せたかもしれんたった一度のチャンスを…… そのペガサスが命がけでつくった僅かなチャンスを 感情で泣きじゃくり みすみす逃すとは……

沙織が泣きじゃくっている間に、ハーデスの剣が再びハーデスの手に戻る。

ハーデス「そのペガサス 結局は犬死にだな…… せっかく生き延びられたものを自ら死に飛び込むとは つくづく愚かな男よ……!」

ハーデスを睨みつける沙織。

沙織「ハーデス 貴方は愛というものを知っていますか」
ハーデス「何!?」
沙織「確かに神から見れば 人間はどうしようもない愚かな存在かもしれない…… で……でも人間は どんな人でも愛というものを持っているのです その愛のために人間はどこまでも優しくなれる! どこまでも強くなれるのです!! たとえ神でも愛を知らぬ貴方に人を罰する資格などありません!!」
ハーデス「アテナ! 言うことはもはやそれだけか!! ならば愛などなんの力にもならぬことを思い知って死ぬがいい──ッ

剣を振り上げるハーデス。しかし紫龍たちもまた、生命の球を自ら打ち破って飛び出す。

ハーデス「!
紫龍たち「アテナは討たせん!!
ハーデス「な……なに!? なんだ この者たちの小宇宙は!? し……信じられん!! 死に損ないの彼らの小宇宙がこのハーデスを圧倒するとは!!
沙織「ハーデス これが愛です! 人間が持つ偉大なる力!! 生命の源から沸き上がってくる愛の力!! それはなにものにも負けることはないのです!!

紫龍たち4人の小宇宙を受け、沙織の放った黄金の聖杖がハーデスの胸を貫く──!!

紫龍たち「や……やったぁ!!」「ついにハーデスを討ち破ったぞ!!」「見たか星矢」「ぼくたちは勝ったんだよ──ッ

(むうぅ~ バ……バカな 死を統括する余が…… か……神である余が この冥界において倒されるというのか…… し……信じられぬ…… 信じられぬ……)

ハーデス「だ……だがこのハーデスが滅びれば 余が創り出したこの冥界も同時に消える…… 地獄もエリシオンもすべて……」

ハーデスの姿が消えてゆく。

(ア……アテナ 貴女たちもこの世界の崩壊に呑み込まれ…… 共に消滅せざるを得ないだろう……)
(け……結局 人間たちに完璧な勝利などありえぬということだ……)

(アテナよ…… あなたは神でありながら一体いつになったら気づくのか……)
(愛など人間がきれいごとで創り出した妄想にすぎんということを……)

(目に見えぬ愛など所詮 何人(なんぴと)も信じてはいないのだ…… 何人も…… な……)

ハーデスが消滅し、同時にハーデス神殿も崩壊を始める。

紫龍たち「アテナ……」「沙織さん」
沙織「みんな…… 帰りましょう 光ある世界(ところ)へ……」

勝利を収めたものの、動かくなった星矢の前に、皆の顔に勝利の喜びはない……


地上。ハーデスの死によりグレイテストエクリップスが解け、日食で隠れていた太陽が再び現れる。

邪武たち「おお! み……見ろ 太陽が!!」「太陽が再び姿を現したぞ!!
シャイナ「星矢……!!」
魔鈴「帰ってくるんだよ…… きっと……」


「光あふれる すばらしいこの世界へ……!!」


(終)

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最終更新:2015年04月12日 09:09