15回目の脱獄の話になる。
その時の孤児を使っての陽動というオレ様にしちゃ単純な手段。
だがそん時捕まっていた場所が、心を読む力をを部下全員に与えるっていう馬鹿げた超力持ちが支配している悪徳看守が管轄する監獄だった。
だから一度「壊れる」必要があった。わざと拷問に屈し、心を空っぽにする必要があった。
「脱獄王がこんなことで折れるのか」という心理をとことん利用させてもらった。
無心で脱獄のために自動的に動けるように、反射神経の全てを脱獄のための最適な行動を取らせるように研ぎ澄ました。

見事、俺の流した情報から孤児どもが立ち上がって、その後の俺はオレ自身の本能に従いながら、孤児たちの助けも借りて脱獄成功ってやつだ。
孤児の中に「他人の記憶を消す超力」を持ってるやつがいてな、計画のいちばん重要な部分がバレないようにオレ様の記憶の一部を消させてもらったのも功を奏した。
数ヶ月前にあった怪盗がどっかのド変態富豪に取っ捕まったって噂も、いい感じに撹乱になってくれたかもな。
ま、孤児ども何人か死んじまったがそれはオレに関係のない話だ。生き残れなかったやつはご愁傷さまってやつだな。

まあ、本題はこの後の蛇足の話になっちまう。
そん時の超力持ちの孤児(ガキ)が、「手伝った分の報酬代わり」とかどうとかでオレ様を連れ出した。
別に断っても良かったが、こいつの超力は今後役立つし利用できるってことで敢えて受けることにした
そんで、連れ出し先にいやがったのが、散々ヤられれちまってえげつねぇ事になってた女ときた。

「ぶっ壊れた女」を助けようとするとは、物好きなもんがいたもんだ。っては思ったさ。
と言ってもオレ様が頼まれたのはそいつをガキの隠れ家に運ぶことぐらいだった、大した内容でもなかったな。

そいつの目は、死んでいた。
死んでいたが、死んでいなかった。
死体ほぼ同然の顔で、安堵していたガキの顔をほんの少しだけ見て、何か呟きながら微笑んでやがった。

神がいない世界。神が救わない世界。神が放棄した世界。
何処ぞの過激派がそんな事を口にしていたのを聞いたことがある。
救いのない世界で、救いの手を伸ばす女の噂を聞いたことがある。

ああ、それがこいつか。
オレ様はそれを知って、どうでもいいことだと思った。
ーーオレには関係のない、話だと。

★★★


「ちょっ~とごめんなさぁぁぁぁい!!!」
「わ、わぁ!?」
                    ・・・
男を連れて、女が地面を駆けーー否、地面を泳いで逃げるようにこちら側へとやってきた。
メカーニカや四葉のお目に掛かる強者を探す傍らで、ブラックペンタゴンへと向かっていた矢先の事。
男の方は鉄屑に塗れたダンディで、女の方にトビは見覚えはあった。
あいつはあの時のやつか、と。
少し驚き気味、というよりもすぐさま騎士の一体を出現させてお目々キラキラさせていた戦闘狂(ヨツハ)を抑え込んで。

「どっかで見たやつだと思えば」
「あ、あの時の少年と一緒にいた見知らぬ誰かさん……で合ってる?」

トビとしては覚える必要性の低いことであったため、そこまで記憶にとどめていなかったのだが。
肝心の相手のほうがまるっきり覚えていると来た。
こんな所であの時のやつと出会うなんざどんな確率だ、等とトビが独り言ちる。

「あれ、トビさんの知り合い?」
「そっちのアイアンマンは兎も角、そこの女は顔見かけた程度のやつだ。知り合いってわけでもねぇ」
「人のことをアイアンマン呼ばわりか、ちゃんとジョニー・ハイドアウトって名前があるんだがな噂の脱獄王。……そっちのアンタは、ただでは黙ってくれそうにないか?」
「ジョニー・ハイドアウトってあの噂で聞くすっごく強いスクラップナイトさん!? よし、ちょっと戦ってくれま」
「待て待て待て。というか件の鉄の騎士まで放り込まれてんのか」
「誰だか知らないけどストップ、ストップ! 便利屋(ランナー)さんも落ち着いて!」

興味津々、と四葉が鉄の騎士へと視線を向ける。
ジョニーもまた臨戦態勢を取ろうとしたところで怪盗と脱獄王が静止に走った。
首輪が一つ手に入る事になるならまだいいと思ったが、それ以前に優先すべき、聞くべきことがあった。

「ーーどうして急いでた?」

女が急いで逃げたように見えたから。
地面を泳いでいたのは超力によるものだということで今は思考することでもない。
本題は、何から逃げていた? ということである。

「私たち、最初は岩山に上がろうとしてたんだけど。嫌な予感がするって便利屋(ランナー)さんが言うから、軽く石ころ投げてみたらーーその石ころが破裂した」
「石が、破裂か」

女ーー怪盗ヘルメスが説明するにはこうである。
大海賊の脅威を乗り切り、ジョニー)の依頼を済ませてまずは岩山を経由して別の場所に向かおうとした矢先。
ジョニーの第六感が嫌なものを感じる、ということヘルメスが試しに小石を岩山の頂上へと投げてみて。
その岩が不自然に歪曲し、破裂したのだ。
何者かによる超力での攻撃だと危惧し、岩山を下り逃げるように離れたのが二人の経緯となる。
ちなみに泳ぐヘルメスに対してジョニーは追いつくのに一苦労したとか。

「石が破裂って、しかも見えてない相手からは何もしてないみたいなのに?」
「俺の感からすりゃありゃ領域系の超力に思えた。それにしても滅茶苦茶だがな」

そう告げるジョニーの言葉が端的な事実を表している。
四葉とて、今まで様々な強者と戦ったことがあるが、岩が歪曲して破裂するという異常現象を、領域クラスで常時展開できるような者は聞いたことはない。

「……聞いてみりゃ、オレ様には関係のない話か」
「ずいぶんとドライだな、脱獄王(マッドハッター)。抜けた後のことなんざ気にしないってか」

脱獄のみを目的とし、それ以外の些事は気にしない脱獄王にとっては関係のないことだ。
その超力で誰が犠牲になろうが、最終的に脱獄さえ出来ればどうでもいい。
鉄の騎士の皮肉にも意に介さない。

「いやでも私は関係あるかもトビくん。だってそんな事できる人ってことは滅茶苦茶強いってことだよね! いいなぁ会いたいなぁ戦ってみたいなぁ!」

そして、案の定四葉の中でその超力持ちに対する期待感と好奇心が湧き上がっている。
子どもがおもちゃに興味を示すそれである。
というか完全にその気である。

「ごめんトビさん! ちょっと岩山の方に寄り道してもいいかな!?」
「「ダメに決まってン(る)だろ」」

脱獄王と鉄の騎士の言葉が見事にハモった。



「でもその領域、徐々に広がっていくっていう可能性はないかな?」

パン、と手を叩いてくだらない小競り合いを切り上げるように、ヘルメスが声を上げた。

「……アビスでちょっと調べ物した時に、超力が制御できなくて幼くしてアビスに放り込まれたって子いるらしいわ。もしかして岩山にいるのってその子かなって」
「そいつの話は知ってる、メアリー・エバンスか」
「さっすが脱獄王、そういう事前調査はお手の物って感じ?」

メアリー・エバンス。赤子の時より制御不可能の超力を持ち、施設に隔離された後も制御不可能として異例のアビス送りとなった新世界の嬰児。
世界の理を歪ませる夢の世界(ドリームランド)の眠れる支配者。彼女の夢は現実を侵食する。

「……そいつは、事情が違ってくるな」

ヘルメスの言葉が事実なら、その夢の世界は現在進行系でこの無人島内の岩山を中心に領域を広げつつあるだろう。
そんな災害があるとするならば、脱獄までの準備期間を考慮した場合間違いなく「立ちはだかる壁そのもの」となる。
勿論脱獄王としてはそれを利用しての脱獄も一興、と言いたいところだが。流石に賭けをするにしては「アウト」が過ぎた。
通常の法則が通じない空間で、脱獄そのものがどうなるかすらも。
最悪頭をイカレさせられるなんてことも、有り得てしまう。

「でしょ? 私たちもあなた達も、目的を達成するためには岩山を中心とした超力現象をなんとかしないといけない。それに私も目的が終わったらこっから出るつもりだから」
「オレの脱獄の邪魔しないなら別に脱獄のために付き合ってやらんでもないな」

別に脱獄のための脱獄手伝い、というのなら別にどっちでも良い。
こういう強力も脱獄の醍醐味、利用できなくなったら機を見て捨てれば良い。
勿論こうなった場合は信頼関係もある程度大事、ということで無難な台詞をトビは選んで告げる。

「その前に、一つだけ聞かせろ、お前はーー」

その前に、トビは彼女(ヘルメス)に聞くべきことがあった。

「そいつを殺したいのか、救いたいのか。どっちだ?」

見るからなお人好し、凶悪犯に似合わぬ善性を持つ合わせる怪盗に向けて。
トビ・トンプソンは自他共に認める脱獄狂。
人の命なぞ気にするだけ狂うだけだと言うことを知っている。
元からそのような心持ちなど生まれた時から持ち合わせていない脱獄王は。
泥にも悪意にも塗れようとも折れることはあっても狂うことだけは無かった怪盗に向けて、問い質す。
あれを救うのは不可能だ、ガキだからといって優しさを見せた瞬間殺されてもおかしくない無差別の災害。
メアリー・エバンスとはそういう怪物(もの)だ。制御できる手段を持たなければ世界に順応すら出来ない。
いや、順応できる世界にと捻じ曲げてしまう。
夢から醒めた先にあるのは、絶望でしか無い。
その少女に絶望という名の現実を叩きつける覚悟はあるのか、と。



「そんなワガママ言える立場じゃないのは分かってる。その時は後悔しながら我慢するわ」

脱獄王の問いかけに、凛とした言葉で怪盗は返す。

「でもね、救うことが間違いだなんて言わせない」

たった一つ、譲れないものだけを、脱獄王に突きつけて。


「…………………はぁ」

暫し、考え込んで。
呆れたように、ため息を吐き。

「……俺達はメカーニカってやつを探してる」
「メカーニカ? いろんなアイテム作ってくれるメカちゃんのこと?」
「いやお前あいつと知り合いだったのか初めて知ったぞ。じゃあ話は早い。そいつ「脱獄王が会いたがってる」って伝えておけーーそいつなら、あれの対抗策も何とかなるだろ」

脱獄王の言葉に、怪盗は思わず口を開いた。
それと同時に、脱獄王の思惑も理解した。
最も、利用されることは、怪盗にとっても覚悟の内である。

「……性格悪いやつ」
「オレは脱獄以外に興味はないんでな。だが、お前らとの協力関係を組むのは"得"にはなる、と思っただけだ」
「分かったわ。でも、私にも譲れないものがあるから、その時は」
「オレだってオレの脱獄を邪魔するやつには容赦はしない。だがオマエはそういう所の線切りはわきまえてるだろ。ーー行くぞ、ナイトウ」
「は~い。鉄の騎士さ~ん、もしも戦う事になったら目一杯楽しもうね~!」

そう吐き捨てるように、脱獄王は少女と騎士と共に去っていく。
ただ一度、振り返った脱獄王だけは、怪盗の瞳に消えぬ焔を見た。





「脱獄王(マッドハッター)に、戦闘狂(ラビット・マーチ)か。厄介この上ねぇぞ」

ジョニー・ハイドアウトは、脱獄王とは初対面だった。
人像書こそ見たことあれど、小人のような外見からは考えられないほどの圧だった。
弱者であると同時に強者。脱獄だけしか見ない本物の狂人。
永遠の不自由者。
そんな脱獄王に付き従う、騎士を従える戦闘狂少女もまた、難儀な人物。

「そんでどうする、メカーニカってやつ探すのか?」
「一応知り合いだからね、職業柄、頼み事することもあったから」

上手に脱獄王に依頼を掴まされた形である。
この怪盗のお人好しっぷりが上手に利用された。
だが、そのメカーニカとやらが彼女の知り合いだというのは意外な事だろう。
そういう事をしているのならアイテムも中々に入り用だった、ということは察せられた。

「……うーん、迷惑かけちゃってごめんね」
「骨折り損の草臥儲なんざよくあったことだ、気にはしねぇさ」

申し訳無さそうな表情で言葉を漏らしたヘルメスに、思わずジョニーは言葉を返した
言ってしまえば変に譲らなかったヘルメスのプライドの問題なところはあるが。
それであの脱獄王に利用される形とは言え協力に近い関係を結べたのは功を奏した。

「出来れば救いたいってんだろ、例のやつ」

何より、ヘルメス自身は例の彼女を死なせないやり方を探していたのだろう。
それでも無理なものは無理だと、割り切れなくとも受け入れる弱さと強さを持ってこそだ。
出来ることなら諦めたくない、もしもの時は苦しみ続けて受け入れる。
理想主義者と現実主義者が混合した感じというわけか。
それに、彼女にはそんな暗い顔は似合わない、なんてジョニーは思ったのだろう。

「……励ましが欲しいわけじゃないんだけど、それでもありがと、便利屋(ランナー)さん」

そんな不器用な鉄の騎士の心情を察したのか、怪盗はいつもながらの軽い態度のウィンクをジョニーに向けていた。


【G-4とF-4の間/舗装道路/一日目・深夜】
【ジョニー・ハイドアウト】
[状態]:健康
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.受けた依頼は必ず果たす
1.頼まれたからには、この女怪盗(チェシャキャット)に付き合う
2.脱獄王とはまた面倒なことに……
3.岩山の超力持ちへの対策を検討。
4.メカーニカを探す。

【ルメス=ヘインウェラード】
[状態]:健康、覚悟
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.私のやるべきことを。伸ばした手を、意味のないものにしたくはない。
1.まずは生き残る。便利屋(ランナー)さんの事は信頼してるわ
2.岩山の超力持ち、多分メアリーちゃんだと思う……。出来れば、殺さないで何とかする手段が。
3.メカちゃんを探す。脱獄王からの依頼になったけど個人的にも色々あの娘の助けがいりそう
※後遺症の度合いは後続の書き手にお任せします
※メカーニカとは知り合いです。メカーニカ側からの心象は他の書き手にお任せします

★★★



「トビさーん、あのまま放っておいても良かったのかな?」

内藤四葉は懸念していた。
凶悪犯だらけのアビスにおいて、彼女は余りにも"まとも"に位置する側の人物だ。
ジャンヌ・ストラスブールや、噂の元洗脳兵もその部類に入る。
つまり、"善人"の部類に入る者だ。

「もしかしたら、トビさんの対立するかもしれないよ? 私はそれでもいいんだけどね」

あの真っ直ぐさは、いつかトビ・トンプソンと思想での対立がありうる。
脱獄のみを求めるものと、手を伸ばせるなら出来れば救うと願っている彼女。
彼女もおそらくは脱獄を狙っているだろうが、脱獄王とは水と油に近いものなのかもしれない。
四葉としては、鉄の騎士と戦う機会が出来るのだからそれでいいとは思っていたが。

「心配するな。対立はあれど、脱獄するという点で協力できるならオレ様も悪いようには扱わない。メカーニカとのラインを作ってくれるならそれでお釣りが来る」

だが、トビにとってそれはいつもの些事だ。
ああいう手合は、自分のポリシーが犯されない限りは出来る限り約束を守るタイプ。
だからその時が来るまでは馬車馬のごとく働いてもらえばいいだけの話。
あの怪盗も目的を果たせば脱獄するようなことを示唆していたため、それに乗じての脱獄も悪くはない。
それにメカーニカの知り合いと出会えたのは思わぬ拾い物。
彼女を介せばある程度交渉はスムーズに行くだろう。

「それに」

その上で、トビ・トンプソンが怪盗に対して感じたもの。
救いのない世界で、救われぬ誰かに救いを授ける少女。
善人がバカを見る世界になったこの世界で、その信念を貫くことは至難の業。
それでも、諦めることを選ばなかった、そんな牢獄に繋がれる選択をした彼女はーー

「オレ様以上に不自由なやつは初めて見たかもしれねぇってことだ」

【F-4/舗装道路/1日目・深夜】
【内藤 四葉】
[状態]:健康、岩山の超力持ちへの好奇心
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.気ままに殺し合いを楽しむ。恩赦も欲しい。
1.トビと連携して遊び相手を探す、または誘き出す。
2.ポイントで恩赦を狙いつつ、トビに必要な物資も出来るだけ確保。
3.もしトビが本当に脱獄できそうだったら、自分も乗っかろうかな。どうしよっかなぁ。
4.あの鉄の騎士さん、もしも対立することがあったら戦いたいなぁ。
5.岩山の超力持ちさんかぁ、すっごく気になる!!出来たら戦いたい!!!(お目々キラキラ)
※幼少期に大金卸 樹魂と会っているほか、世界を旅する中で無銘との交戦経験があります。
※ルーサー・キングの縄張りで揉めたことをきっかけに捕まっています。

【トビ・トンプソン】
[状態]:健康
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.脱獄。
1.内藤 四葉と共闘。彼女の餌を探しつつ、護衛役を務めてもらう。
2.首輪解除の手立てを探す。そのために交換リストで物資を確保、最低でもナイフは欲しい。
3.構造や仕組みを調べる為に、他の参加者の首輪を回収したい。
4.工学の超力を持つ“メカーニカ”とも接触したい。
5.ブラックペンタゴンを調査してみたい。
6.あの二人をうまく利用してメカーニカとの接触を図る。
7.岩山の超力持ち(恐らくメアリー・エバンスだろうな)には最大限の警戒、オレ様の邪魔をするなら容赦はしない。
※他にも確保を見越している道具が交換リストにあるかもしれません。

028.地獄行き片道切符 投下順で読む 030.裁かるるジャンヌ
時系列順で読む 035.神の試練
ツインスター・サイクロン・ランナウェイ ジョニー・ハイドアウト 若きギャングスター
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最終更新:2025年03月18日 23:46