ーー神は公平だ、誰であろうと、試練を乗り越えれれば救われる資格はある。





アルヴド・グーラボーンの身に何が起こったか。
いやそれを説明する事象を簡潔に告げるならば。
狂信の巡礼者に襲われて、気を失った。ということだ。

夜上神一郎を先導させてついて行き、郎党を増やしながら生き残ることを優先とした途端のこれという。
凍てつく殺意、鋼の如き無感情。何より"マトモ"ではない。
かつてのアルヴドの同胞にも似たようなイカれた狂人がいたが、あれは志を同じくする者として話は通じたし、一仕事した後に一緒に酒とつまみを味わう程度には仲が良かった。
眼前のこれは、明らかに話を通じるような相手ではないのは明白だった。

迫るくる氷爆の嵐を前に、アルヴドは抵抗の間なく巻き込まれ、気を失った。
運がいいのか悪いのか、はたまた夜上神一郎の判断だったのか。
その結果、下半身だけが氷漬けになりアルヴドが気絶した後。

対峙するは巡礼者と狂信者。
狂気と狂信。
殺戮と審判。

ーー正常な人間に、この戦場に立つ資格など無い。





超力に目覚めたものには二つの種類がある。
一つは、己の超力に胡座をかき研鑽を怠ったもの。その手の類の超力犯罪者は雑多の羽虫の如くより上位のものに狩られていくのみである。
そしてもう一つは、超力のみに感けず己を鍛え続けるもの。そもそも、超力に依存しない戦闘能力に長ける者。
ジルドレイが今、応対する眼前の男ーー夜上神一郎は、後者の部類であった。

「ほう」

確実に仕留めるつもりで放った、直撃すれば爆発する手榴弾の役割も果たす氷槍を、まるで精密機械とも言うべき最低限の動作で避ける夜上に、ジルドレイは関心したような声が漏れた。
先に戦った殺人者は、超力で強化された肉体も含めての戦い方であり、それは間違いなく強者による戦い方。
そしてこの男は、力がない者の戦い方。
囚人服に傷を作りながらも、最低限の動作で攻撃を避け続ける。常時死と隣り合わせの綱渡りを一瞬の気も抜かずに行っているようなもの。まともな精神では数秒持たないはず。
この直後も氷釘による行き着く暇もない攻勢を繰り返しているが、白い息を吐かせながらも夜上に動揺はない。
彼女のような超力の補助なしでこうしているのだから、感嘆するのも当然というべきか。

「目がいい」

だが、夜上の本領は戦闘ではない。
その証左に、避けることは出来ても、反撃することは出来ていない。
閉じ込める氷壁も、仕留めるための氷撃も華麗に避ける男だが、その上でこのジルドレイへの反撃の手段はない。
銃やら何やら持っている素振りはしたが、実力差が離れすぎているため使用すること自体が自殺行為として使ってこないなだろう;
ならば持久戦に持ち込もう。疲弊させて狩人の如く弱った獲物を仕留めよう。
夜上が平原から森へと隠れる。ならばと指定された空間に寒冷を齎す。
森が冷え、樹木が凍える。
凍えた枝より氷柱が生え、意思を持って夜上を追う。
回避行動を誘発させ指定の位置に誘導し、氷壁を展開。
最後まで氷柱を避けきって無傷であった男は敢闘したほうだろう。
3つの氷壁に追い詰められた男の元へ、巡礼者ジルドレイは静かに迫った。
夜上に動揺はなく、ただジルドレイの目を見据えーー声を掛けた。

「その顔、見覚えはありますね。ーーその様子では騙るだけの別人でしょうか」

「ええ、この顔は我が聖女、ジャンヌの御顔を再現したものです。最も、再現することそのものに意味はありません」

夜上とてジャンヌの経歴や顛末は耳にしている。
そしてジャンヌの善行と謂れなき悪行を追い続け再現した模倣犯の話も。

「私はジャンヌになることではなく、この世界に、そして私自身に、ジャンヌの威光と存在を刻みつけること」

それは、聖女の輝きに焼かれたたった一人の凶行。
人間未満として生まれ落ちた破綻者を灼いた輝きに導かれる。
誘蛾灯に誘われた蛾のように。

「それが我が巡礼であり、唯一無二の彼女の元へとたどり着くための我が使命なのです」

狂気のままに、焼き付いた"それ"に導かれ、聖女と呼ばれた輝きの足取りを追う。
生まれながらに人の心の一部が欠落した彼が見出した救いの一つ。
それの善悪など関係はない。ただ光に導かれるがままに。
そう、巡礼者にとっての唯一無二の輝き、それこそがーー












「ーーお前の目は節穴か?」



巡礼者に、真っ向から意義を唱える声があった。
その狂気一つで生死が決まるその断崖で、夜上神一郎は笑っていた。
不敵?
錯乱?
現実逃避?
いや違う、彼は正気である。
正気のまま、不敵に笑っている。

「そんなものが唯一無二だなどと、笑わせる」

「どういう意味です?」

物腰の柔らかい雰囲気が、一変した。
内に秘めた本性は、こういうものだと。
正気と狂気、その薄皮の紙一重の上に。
夜上神一郎/神(カミ)がアビス送りになったその理由の一端が、そこに。
高圧的ながら、城壁に阻まれたかのように心の内が見えない。

「では逆に問う。貴様には、ジャンヌはどう見えた?」

「ーー何者にも、私にも手の届かぬ輝きです」

「ハッ。」

軽蔑にも似た失笑。
告解に来た咎人を嘲笑うかのような。

「そんな程度の光は、ただの俗物でも持ち合わせてるぞ」

「何?」

「他人に嫉妬する咎人は同じ言葉をほざく。それは己がそれになれないと理解しているからだ。そして、それこそ己すら見ていない」

神は知っている。神(おのれ)へ懺悔に来るものは、真に懺悔など望んでいない。
己の罪悪感を別の理由で覆い隠すための、自ら苦しみを忘れるための手段でしか無い。
他人を罵り正当化するために、自ら苦しみを背負うことを放棄する。
そのような愚劣を、神は何人も見てきた、そして何人も殺してきた。

神は知っている。嫉妬と崇拝は限りなく似ている。
自分はそうなりたい、でもそうなれない。
持たざるものが、何の努力もせずに自己の怠慢を言い訳に優れたものへ感情を向けているだけのこと。

「光に灼かれた? 巡礼だ?」

この狂人はジャンヌ・ストラスブールに灼かれた。
それは正しいだろう。
この男は元来から人間性の一部が欠如している。
感情を見せることはあれど、必要だからやっているだけの、まるで虫のような生態。
神眼(ネオス)は嘘を見抜く。だが神は、その真偽ですら見れぬ機微すら見抜く。

「お前はあの凡俗を特別と履き違え、それから目を逸らしただけだろう、野箆坊(ノーフェイス)」

「ーーーージャンヌが、凡俗ですと?」

間抜けたジルドレイの唖然とした声。
自らの特別を「凡俗」と断された、その衝撃。
感情が欠落したジルドレイが唯一心動かされるのはジャンヌ・ストラスブールに絡むことのみ。

「そうだ。お前はジャンヌの軌跡を辿っていたのだったな。彼女が人を殺せばお前は人を救い、彼女が殺戮を起こしたと思えばお前はそうしたのだろう。ーーただの普通の人間ではないか」

「ただの、人間? にん、げん?」

ジルドレイの中身が、崩れていく感覚。
自らが信仰した偶像が、誰とも知らぬ誰かにそのヴェールを引き剥がされていく感覚。

「善を行う、魔が差し悪を為す。それは人間として当然のことだ。善人が悪行を為すこともあれば、悪人が善行を為す事がある」

「最もジャンヌは、神(わたし)からしても見間違えること無き善人ではあるがな」と神が軽く付け加える。
ジャンヌという人間、神の評価からしても否定できない善性の持ち主である。
牧師の息のかかったメディアは彼女を大悪人と報道したが、神にそのような欺瞞は通用しない。


「喜び、怒り、哀しみ、喜ぶ。苦しみ、発狂することもある。それでも諦めないと立ち上がることもある。ーーそれは人間に出来る当然のことだ。貴様はそんな"当然"を特別としていたのか?」

「ーージャンヌは、違う……!」

反論した。
それに驚いたのは、当のジルドレイ本人。
自らの聖域に土足で入り込んだこの男に、反論せざる得なかった。

「何が違う? 彼女が仮に万能だとしても全能ではない。未来を予知することは出来ない、すべてを救うことは出来ない」

「ジャンヌは、我が光はそのような矮小で凡俗なものではない」

そのような物言いを、許せなかった。
ジルドレイが視た光は、誰にでもなれるようなものではない。
それだけは、許せなかった

「哀れだ。人はその気になれば、第二のジャンヌ・ストラスブールになぞ簡単になれるぞ?」

「ふざけるな……そんなはずがない……」

「簡単だ。只人はその一歩を踏み出すことで誰かになれる。善にも、悪にも。それと同じ理論だ」

神は、軽くあしらう。
人が変われないのは、その一歩を踏み出せないからだ
踏み出せたのならば、人は何かになれる。
それこそ、ジャンヌ・ストラスブールのような聖女にもなれる。
その一歩の難しさを、神は知っている。
その上で一歩を踏み出せる人間は"当然"のようにいる、と。

「そんな一歩程度で、そんなことで、理想になれるだと、ふざけるな」

「貴様が思ってるほど世界は狭くはない。英雄や外道になれずとも、己の所業に迷いながら一歩踏み出す程度なら、矮小な俗物ですら出来ることだ」

「その一歩すら踏み出せぬ者たちはどうする?」

感情をなくした男から、感情が垣間見える。
その口調こそ淡々としているものの、その顔面には青筋が浮かび上がっている。

「そうだな。それすら出来ぬものは己の神(こえ)すら耳を向けず逃げ出しただけの俗物以下だ」

狂人の反論に、何の微動だにせず神は切り捨てる。

「俗物どころか、咎人すら下回る。咎人ですらその弱さから一歩を踏み出すぞ。貴様も踏み出した側だろう」

一歩踏み出す。というのは簡単ではない。
だが、それにたりうる理由さえあれば人は善人にも悪人にも、狂者にもなれる。
救われぬ子供が明日に希望を持てるような世界を作りたくて、青い志のままにテロリストに身を投じた男のように。
自分だけが生き残ったが為に、誰かを助けずにはいられない希望の少女のように。
借金返済の為から始まり無自覚に罪を重ね続けた媚び諂う弱者のように。
世界の不自由さを自覚し、不自由から脱出するという欲に囚われた脱獄王のように。
少女の涙一つを理由に、その手を取った救国の聖女ジャンヌ・ストラスブールのように。


「貴様は、それと特別だなどと、思い込みたいだけだ」

「黙れ」

「己が見出したものが凡俗であったと認めたくないだけだ」

「……黙れ」

神から見た、ジルドレイ・モントランシーとは。
ありふれた理由から立ち上がっただけの少女を神聖視したいだけの。
そんな凡俗を特別なものと崇めたいだけの哀れな咎人に過ぎない。
人は理由さえあれば踏み出すことが出来る。
その理由が、環境であれ、人為的であれ、好運不運であれ。
己の神(こえ)を耳を傾け、決められるものの強さ。
それは俗人も咎人も変わらない。強いも弱いも変わらない。貧富も、環境の差も何の関係はない。

「そして貴様は、己の神(こえ)に耳を背けるどころか聞くことすら出来ず、そのような善性の俗人を特別なものだと勘違いしただけど、哀れな盲信者に、過ぎないのだ」

「だ、ま、黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!!」

ーーこの日、ジルドレイは初めて『怒りの感情』を露わにした。
苛立ちは今までにもあった。それでも、このようなことにまで発展することは無かった。
それはジャンヌのことであろうとも、なぜならそう至る前に発言者をなぶり殺しにしたから。
自分がどれだけ矮小なものだろうとそれはどうでもいい。
ただ、ジャンヌをそんな程度のものだと見下されたことは、決して許さなかった。
己の見た輝きを、崇高を。
誰とも分からぬ誰かに矮小化されたその事実が許しがたかった。

世界が凍える。ジルドレイという男の初めての怒りに呼応し。
世界が冬に包まれる。
既に周囲の気温はマイナスを軽く突破している。
並の人間ならば凍えて動けない凍結の牢獄と化したこの森の中で。






「ーーは?」

ジルドレイの目に神はーーーいなかった。
視界が不安定。右側の視界が赤く染まっている。

「悔い改められない限り、貴様は止まったままだ、永遠に」

巡礼者の右目は、神の手刀によって抉り取られた。

「が、あ、あああああああああああああああああ!!!!!?」

氷に映り込んだ己の壊れた顔に、絶叫を上げる巡礼者。
それは痛みによるものではない、ジャンヌの御顔を取り返しのつかない所まで壊されたという事実に悲鳴を上げる。
右目は凍結させて処置したが、自らに刻みつけたジャンヌの顔は既に崩壊している。

「神(わたし)を見ろ」

神は、巡礼者を覗き込むように、そう告げる。
機能を失った右目に、光が見えた。

「ジャンヌ、ジャンヌ、どうか私にーーー!!!!」

それをジルドレイは希望だと信じた。
ジャンヌだと信じた。
そうだ、ジャンヌは特別だ。
何者にも穢せぬ、何者も及ばぬ、そういう存在だと。

「ジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌじゃーーーーー?」


























そこにあったは、夜上神一郎(カミサマ)の姿だった。
ジャンヌではなかった。

「何が見えた?」
「ーーー神、よ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーあ」


神がいた。
神が居た。
神様が居た。
神様が"在った"

後光を纏う、それは神だった。
神父服を着込んだそれは神様だった。
神などいない、それをジルドレイは最初から知っていた。
なのに、神様がそこにいた。
いた。
神がいた。
神様がいたのだ。
いないはずの神様が。
この世界の何処にもいないはず神様が。
神、神、神、神。神様、神様、神様、神様。


神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神
様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様

「あ、ああ」

神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様
神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神

「ああ、あああーーー!」

神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様
神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様


「ああああああああああああああああああああああああああああーーーー!!!!!!!」

巡礼者は、逃げた。
眼前の現実から目を背けるように。
己に映り込んでしまった"神様"を見たくないと。





『お前は、本当はこんな事しても世界は変わってくれないって知ってたんじぇねぇのか?』



『お前は、自分の弱さを神様だとかで責任転嫁してただけじゃねぇのか?』



『お前は、オレから逃げただけじゃねぇのか?』



『オレの声から、耳をそらすな』







「目が覚めたようですね」
「……コーイチローか。てっきりあのイカれの方かとビビっちまったぜ」

アルヴドが夢を見て目を覚ました時には、すべてが終わっていた。
凍結の残滓が残る森林が、何があったを語る証拠であった。
神一郎の囚人服は傷が目立ち、彼の右手には血の跡があった。
真っ先に脱落した自分の代わりに戦ってくれたのか?とアルウドは思った。
ほんの少しだけ、安堵し。口を開いた。

「夢を、見ちまった。俺と同じ顔したやつに、色々言われる夢だ」

夢の中で聞いた、自分の顔をした何かが自分へ問いかける声。
それは自分の中に燻る何かだったのか、それとも己の目を背けていた本心か。

「逃げただけじゃねぇのかって、他に責任転嫁してただけじゃねぇかって言われちまった」

子供の未来のために子供を犠牲にするという矛盾に、罪悪感を感じていないわけではない。
だからこそ、この神父のお眼鏡に掛かった側面もあっただろう。
それが後に繋がることだからと、愚直に妄信的に信じていた。
その末路が今だと繋がったのなら、自分はあの声に言い返す資格など無いのだろう。

「……悔しいが、俺は何も言えなかった。」
「それが聞こえたのならば、またそれが聞こえた時の為の向き合う準備をしておくべきでしょう」

その時の神一郎の声が、そことなく優しいものだった。
その時の神一郎の顔は、誇らしげに喜んでいたように見えた。

「勘違いすんじゃねぇ、俺はやっぱまだ神(クソカス)共のことは大嫌いだ」

が、アルウドが神一郎の事を信頼したわけではない。
神様は大嫌いだし、自分だけが生き残れる手段があればそれに縋るだけのこと。
だが、「まだ」と挟んでしまったのはどうしてなのか、それはアルウド自身にもわからないことだった。

「ところでよ、俺達を襲ってきたやつ、どうなったんだ?」
「ああ、あの咎人ですかーー」

そして気になったこと。
アルヴドが気を失った後、神一郎が襲撃者を追っ払ってくれたのは明らか。
だがあんなやつをどうやって追っ払ったのか、そこだけが気になっていた。



「あれは試練になりましたよ。そしてあの咎人自身も試練の最中です。救済の試練の機会は、誰にでも与えられるのですから」

この時、アルヴドは神一郎への評価を改めた。
この男は、自分にも救済の道を与えてくれるような底抜けのバカであることは変わりない。
神様どうこうは気に入らないし、信用もできっこないがその部分は安心出来ることには代わりはない。

「そのために罪のない子どもたちを犠牲にすることに何も思わなかったのですか」と神一郎が自分に尋ねていた事を思い出して、安堵と戦慄がアルヴドの中に改めて湧いた。
何かを思ったから、自分がそういう中途半端だったからこそ、彼はこの男に善人と思われたのだろう。
一線を越えれないまともだったから、自分はまだ生きていられたのだ。

あの狂ったヤツに対して、救済の試練の機会どうこうとか言った。
恐らく、この神父はあれ相手にほぼ言葉だけで追い払ったことになる。
その上で、神父は、化け物を試練へと仕立て上げた。
この男は、あまりにも「平等」が過ぎるのだ。
その優しさも、手厳しさも、その垣間見えた狂気も、全てをひっくるめたそれこそが、この男のーー

「安心してください。あなたが聞いた声は、必ずしもあなたのためになるものです」

そして、この神父は優しい言葉で、満面の笑みで告げてくれた。
その言葉に、その心に安心感を覚えてしまった。
間違いなく善意で発してくれたその言葉に、アルヴドはただ黙って頷くしか無かった。


※C-2の森林地帯がジルドレイの超力の影響で一部凍結し、冬の森と似たような状況になっています。時間が経てば溶けるでしょう。

【C-2/平原/1日目・深夜】
【夜上神一郎】
[状態]:健康、右手に返り血の痕
[道具]:デジタルウォッチ、ポケットガン(22口径、残弾1発)
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.救われるべき者に救いを。救われざるべき者に死を。
1.なるべく多くの人と対話し審判を下す。
2.できれば恩赦を受けて、もう一度娑婆で審判を下したい。
3.目の前の彼については…もう少し様子見で。だが"声"が聞こえたのなら安心です。
4.あの巡礼者に試練は与えられ、あれは神の試練となりました。乗り越えられるかは試練を受けたもの次第ですね。誰であろうと。
※刑務官からの懺悔を聞く機会もあり色々と便宜を図ってもらっているようです。
ポケットガンの他にも何か持ち込めているかもしれません。

【アルヴド・グーラボーン】
[状態]:健康、精神安定
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.24時間生き延びられればなんでもいい。
1.コーイチローの言う通り、なるたけ徒党を組んでおいたほうが生き残りやすいかもな。
2.銃があれば一応戦えるんかね……?
3.超力って何なんだろな。ほとんど使ったことねえからわかんねんだよな…
4.もし、夢の中の俺自身とまた話するってことになったら、俺はそれにどう返せるのやら…
※神一郎の話術により神一郎をある程度信用できる人物と思っています。また、精神的にかなり安定しました。
※夢の中で聞こえた声が何なのかは後の書き手にお任せします。





「見えない! 聞こえない! ジャンヌが、ジャンヌを感じられない!!」

かの輝きは『神』に塗りつぶされた。
走れど走れど、ジャンヌの姿は見えない。
神の姿しか見えない。
神しか幻視出来ない。
神様しかいない。

「消さなければ、消さなければぁぁぁっ!!!」

消さなければならない。神様を。
己からジャンヌを奪った神様の幻影を。
ジャンヌの輝きを凡俗へと貶めた神の幻想を。
否定しなければ否定しなければ否定しなければ。
そうでなければ今まで生き続けた意味がない。

「消えてくれない、あの神が、神の姿がぁ!!! 何故ぇ!!!!?」

それでも消えない。潰れた右目が、ずっと神様の姿しか映し出してくれない。
脳裏に焼き付いて離れない。消えてくれない。
認めたくなかった。あれが神であると。神様であると。

「殺さなければ、潰さなければ、全て、全て全て全て!!そうでなければ!!!」

どうするべきか。殺すしか無い。
あの男が俗人であろうと一歩踏み出せるならばジャンヌにもなれると言った。
認めない、認めてなるものか。
そんな俗物にジャンヌが同じとなることが。
ならば殺してやる、何もかもを。
ジャンヌを取り戻すために。
唯一無二たるジャンヌを取り戻すために!
すべてを皆殺し、全てを地獄に変え。たった一つの輝きを取り戻す
そうしなければならない。
そうでなければならない。
この脳髄に焼き付いた尊い神をーー

「……私は、今。尊いと? ジャンヌ以外、をーー?」

一瞬でも、そうと思ってしまった己の心に発狂しかけ、何とか収めようとする。
止まらない、止められない。この怒りを、この現実を。
ならば殺し尽くすしか無い。神の言葉を否定するために。
この沸き立つ力を、止まぬ憤怒と共に振るいて。
唯一無二はジャンヌのみ。そうでなければならない。そうじゃなければ。

「殺さなければ全て全て全て全て壊して壊して殺してジャンヌをジャンヌをジャンヌジャンヌジャンヌを取り戻さなければあはははははは、あははははははは!!!!!!!!」

ジャンヌを取り戻さなければ、全て殺し尽くしてジャンヌを取り戻さなければならない。
さらなる狂気に塗りつぶされて、巡礼者は厄災の一つと相成った。
神の試練が、一つ解き放たれた。
巡礼者は、これより氷獄(ヘル)を齎す猟犬(ガルム)として脅威の一つとならん。


【D–3/森の中/一日目・深夜】
【ジルドレイ・モントランシー】
[状態]: 右目喪失、怒りの感情、発狂、神の幻覚
[道具]: 無し
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本. ジャンヌジャンヌを取り戻すそのためにすべて殺す殺さなくては神が神が私の脳髄に尊き神が張り付いて来てくれないあああああああああ
1. 出逢った全てを惨たらしく殺す
※ジルドレイの脳内には神様の幻覚がずっと映り込んでいます。
※夜上神一郎によって『怒りの感情』を知りました。
※自身のアイデンティティが崩壊しかけ、発狂したことで超力が大幅強化された可能性があります。










神は善悪を区別する。救われるべき者に救いを。救われざるべき罪人に罰を。
だが、救済への試練に挑むものに善悪の区別は存在しない。
故に。


ーー神様は平等だ。乗り越えられなければ、たとえ善人でも殺す

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029.エンカウント・クレイジー・ティーパーティ 時系列順で読む 027.嵐時々鋼鉄、にわかにより闇バイト
神様はいずこに。 夜上 神一郎 Dies irae
アルヴド・グーラボーン
巡礼者と殺人者 ジルドレイ・モントランシー

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最終更新:2025年03月22日 09:42