夜の小島を覚束ない足取りでふらふらと歩く女の影があった。
女の名は鈴原涼子。
人気アイドルグループ「
ハッピー・ステップ・ファイブ」のセンター兼リーダーであり。
怒涛の如き勢いでアイドルシーンを上り詰めた、アイドル戦国時代を代表するアイドルの一人である。
光り輝くアイドル。
だが、その輝きは今や見る影もない。
その衣服は薄汚れ、輝きを写すはずのその瞳は、光なく虚ろな闇を宿している。
寒そうに震え、どこに行けばいいのかもわからないまま目的もなく彷徨っていた。
ふらついて、蹴躓いて、道端にあるには明らかに不自然な何かにぶつかった。
もたれかかりながら、なんだろうと呆とした頭でそれを見つめる。
それはコンビニに置かれているATMのような何かだった。
そう言えば、これまで通り過ぎていた道のりにもいくつかあったような気もした。
曖昧な頭で最初に確認した説明を思い返す。
確か、マップの所々にGPを使用するための交換機なるものが配置されているとか言う話だったか。
どうでもいい話だ。
彼女の興味はそんなところにはなかった。
それよりも一刻も早くみんなに会いたい。
彼女にあるのはそれだけだった。
「…………………」
だが、何か気づきがあったのか。
虚ろだった彼女の目が僅かに見開かれた。
もたれかかっていた体を起こし、タッチパネル式の交換機の正面に回って、躊躇いがちにゆっくりと手を伸ばす。
『はーい。あなたのシェリンです。初めてのご使用ですね。お助けが必要ですか?』
その手が画面に触れようとした瞬間、どこからともなく人形大の少女が彼女の目の前に実体化した。
『操作はタッチパネル式ですが、直接私に命じていただくことでも可能です。
ステータスアップは現在の能力値との差分だけ、』
「そういうのはいいわ。それよりも、この質問に答えるっていうのはどういう物なの?
今こうしてあなたとやり取りしているのとどう違うの?」
シェリンの言葉を遮り、矢継ぎ早に問いかける。
涼子が気にかけたのは『シェリンへの質問』という項目だった。
言葉を遮られたところでAIであるシェリンは気分を害するはずもなく、変わらぬ態度で応じる。
『基本的なシステムに関する事以外の、本来参加者に公開されない情報について回答が可能となります。
注意点といたしましては、運営上回答できない質問もいくつか存在しており、回答できない場合でも申請した時点でGPが消費されますのでご注意ください』
理不尽すぎる物言いだが、今更だ。それはいい。
涼子が知りたいのはただ一つ。
「例えばそれは…………他の参加者がどこに居るかなんて事も聞けるの……?」
『はい。お答えできます』
望みの回答を得て涼子の頬に赤みが戻る。
HSF(みんな)に会えるかもしれない。
そう考えただけで、凍えかけていた心に僅かに火が灯るようだ。
だが、涼子の探し人は5人。
5回の質問をするとなると250ptのGPが必要となる。
だが現在の涼子が支払えるGPは100ptまでである、全員は探せない。
なら誰を探す?
優先順位をつけなければならない。
心配な年少組のキララと由香里を優先するべきか。
それとも頼りになる利江や可憐と先に合流すべきか。
「……――あっ」
ひらめきがあった。
それは天啓だったのか。
霞がかっていた思考が晴れるようだった。
「――――本当に、一つの質問なら何でもいいのね?」
『はい。答えられるモノであれば』
答えになってない返答も気にならない。
これが通るならすべての問題は解決する。
対象は複数であろうとも、一つの質問であることに違いはない。
脱退した利江は対象から外れてしまうが、それは残りの50ptで聞けばいい。
『了承しました。GPが50pt消費されます。
問い合わせを申請しますので少々お待ちください』
特に異議を申し立てるでもなく、事務的にシェリンは対応する。
この
ルールのスキを突いたトンチのような質問が、果たして通るのか。
却下されれば50ptを失うだけの賭けである。
『お待たせしました』
数秒ほどで返答が返ってきた。
固唾を呑んで沙汰を待つ。
『申請が受理されました』
申請はあっさりと受理され、涼子の心配は杞憂に終わった。
『これからお教えするのはあくまで申請時の現在位置であり、その後その位置に居続けることを保証するものではありませんのでご了承ください』
「いいから、早くっ!」
注意事項を読み上げるシェリンを急かす。
シェリンは、それでは、と切り上げ、本題である回答を始めた。
思わず拍子抜けする。
HSFという括りなら涼子自身も含まれるのも当然だろうが、そんな情報はどうでもいい。
いいから早く次をと、気持ちばかりが急いていた。
――――近いっ!
涼子の心が波のように沸き立つ。
現在の涼子がH-6、可憐がG-4。
地図上でも繋がっているし、すぐにでも会える距離だ。
これも近い!
可憐とは逆方向だが、同じくらいの距離である。
可憐とソーニャに囲まれた場所にいる。
それだけで心が落ち着くようである。
少し遠いが、許容範囲内だ。
反対側と言うほど離れてはいないし、上手くいけば全員合流できるかもしれない。
どん底だった心が僅かながら希望に傾きかける。
あとは、
『以上となります』
「……………………………は?」
その時シェリンが何を言っているのか理解できなかった。
来ると思っていたものが来ず、冷や水をぶっかけられたように沸き立っていた心が急激に冷める。
訳もなく心臓が大きく跳ねた。
「…………ちょっとまって、まだでしょ?」
息が荒くなる。喉がカラカラに乾いてうまく唾が呑み込めない。
こめかみが痙攣するようにひくひくする。
脂汗が全身からあふれ出して気持ちが悪かった。
嫌な予感がする。
「キララは? キララの現在位置は…………ッ!?」
バクバクと心臓がうるさい。
うるさすぎて、大事な…………大事な言葉を聞き逃してしまいそう。
「……ねぇ。答えなさいよ。キララはどこにいるの!?」
悲鳴のような声を上げて、目の前の立体映像に詰め寄る。
電子妖精は微笑を浮かべたまま、表情を変えることなく告げる。
『
篠田 キララさんは死亡しました。現在位置は存在しません』
「―――――――ぁ」
全身から力が抜ける。
膝からその場に崩れ落ちた。
自分がこれまでどうやって立っていたのかすら分からなくなってしまったようだ。
「…………嘘よ。嘘言わないで。嘘よ! 嘘ッ!!」
『嘘ではありません。
篠田 キララさんは死亡しました。現在位置は』
「うるさいッッッ!!!!!」
乱暴にウィンドウを閉じて訳の分からないことをいう女を消し去る。
「嘘よ。キララが死ぬなんてそんな……」
そこまで言ったところで、脳裏に紫の顔をした男の恨めしそうに見開いた瞳が浮んだ。
目の前で死んでいった、自分が殺した男の死を思い出す。
「…………ぅぷっ」
吐いた。
人を殺した後も吐かなかったのに、強烈な死のイメージに吐瀉した。
だが、アバターの胃の中身はからなのか、出てくるのは胃液のような物だけだった。
「うぅ。キララ…………キララ……キララぁ………ぅ……っ。キララ…………ぁ」
立ち上がることもできず
己の吐瀉物の上で胎児の様に丸まって泣いた。
自分の体の一部が欠けたような喪失感。
いや、その方がどれほどましだっただろう。
彼女の世界は壊れてしまった。
もう二度と、元に戻ることはないだろう。
■
最初は、私と利江の二人で『ハッピー・ステップ』だった。
ユニットの名前は二人で決めた。
二人とも家にはいたくなかったから、放課後の教室で一冊のノートにあーでもないこーでもないと言いあいながら二人でシャペンを走らせていた。
不幸だった過去から飛び出して、これから幸福をつかむんだ、という意味を込めた名前だった。
それから、手あたり次第にいろんなオーディションを受けまくった。
レッスンなんて上等なものを受けたことはなかったし、振りも自分たちで考えた拙いものだ。
今思えば、本当にお遊びみたいなレベルだったと思う。
当然のごとくオーディションは落ちまくった。けれど充実していたと思う。
辛いだけだった人生が、初めて輝き始めた気がした。
中学も終りに近づいた頃。
やっと今の社長の目に留まって、レッスン生として養成所に所属が許された。
可憐とは養成所で出会った。
同じレッスン生としてともにレッスンを重ね、仲を深めていった。
翌年には由香里と、特待生としてソーニャが養成所に加わり。
次の年にユニット結成の話が持ち上がったところで、最後に加入したのがキララだった。
私も名前くらいは知っていた。
ドラマの主演経験もある元子役。
何の実績もない私たちの中にそんな彼女が放り込まれるという事に、いろんな意図を感じて私は気後れした。
だが、そんな私の印象は彼女の第一声で覆された。
『今日からアイドルを始める篠田キララです。
3歳のころから役者をやってました、芸歴は皆さんの中で一番長いです。
けれど、アイドルとしては今日生まれたばかりの新人です。
先輩の皆さん、どうか私にアイドルを教えてください。よろしくお願いします』
そう言って深々と頭を下げた。
落ちぶれた元子役がアイドルになる。
それが周囲からどういう目で見られるのか。
自分がどういう意図をもってユニットに組み込まれたのか。
そんな自分の立場を誰よりも理解していたのがキララだった。
アイドルとして生きる覚悟。
素人の覚悟しか持っていなかった私たちの中で、彼女だけが唯一プロとしての覚悟を持っていた。
私たちの中で一番幼く、一番大人な彼女との出会い。
そんな事があった。
■
もはや涙すら枯れてしまったのか、だらしなく口元を開いたまま何の感情もない顔で幽鬼みたいに彷徨い歩いていた。
考えると辛いから。
考えるのを放棄した。
そうすれば、何も感じず生きていけると、彼女は知っていたから。
「ッ…………子!」
自分がいつ立ち上がって、歩き始めたのか、明確な記憶がない。
継ぎ接ぎしたフィルムのようだ。場面が途切れ途切れだ。
ああ、どうでもいい。
こんな壊れたくらいにいるくらいなら、いっそ。
「涼子…………!」
「ぇ?」
顔を上げる。
自分を呼ぶ声。
懐かしいような、一番聞きたかった声が。
無意識の内に彼女を求めてそちらに歩いていたのか、それとも完全なる偶然か。
それは分からない。
ただ会えた。それだけで感情がないまぜになって枯れていたはずの涙がとめどなく溢れ出す。
「可憐…………? 可憐。可憐ッ!」
その存在を認めた瞬間、幽鬼のようだった足取りは駆け出すものに変わっていた。
飛びつく勢いで抱き着いた涼子を、可憐は両手を広げしっかりと受け止める。
可憐は自分の腕の中で泣きじゃくるリーダーの背を優しくなでた。
「おーおー。どないしたんやウチらのリーダーは泣きむしさんやなぁ。
こんな汚れてもうてせっかくの美人が台無しやないか」
そう言って可憐は涼子の涙を拭いて、衣服の汚れを払う。
そして嫌な顔一つせずに吐瀉物で汚れた口元を拭った。
「ぅぅ……可憐………可憐……ぅっ」
可憐は嗚咽を繰り返す涼子の背中をなだめるように擦り続ける。
決して急かすことなく、涼子が落ち着くのを待つように。
時間をかけて解きほぐし、涼子の嗚咽は徐々に落ち着きを取り戻して行く。
「それで。どないしたんや。なんや辛いことでもあったか?」
相手を落ち着かせるような優しい声で問いかける。
その問いに、涼子は答えようとして言葉を詰まらせる。
だが、言わねばならないと決意して、泣き叫ぶように言った。
「………………キララが、キララが死んじゃったよぉ…………ッ!!」
口にして再び涙を溢れさせる涼子。
その言葉は可憐に対しても頭を殴りつけるような衝撃を与えた。
「……なんで、そんな…………」
とっさに言葉が出ず、そんな事しか言えなかった。
「…………GPを使って聞いたの……みんながどこに居るのかって…………。
けど、キララの位置は教えられないって…………! キララはもう死んじゃったからって…………!!」
涙を流しながら、途切れ途切れに涼子は説明する。
その事情を聞き終えた可憐は、唇を噛みしめ固く目を瞑った。
だがそれも数秒。
すぐさま開かれた目の奥には何らかの決意の色が含まれていた。
「アホいいな――――それホンマに確かめたんか?
涼子が自分の目でキララが死ぬとこを見たわけやないんやろ?」
その問いに涙を流し続ける涼子は縦に首を振った。
「ほな、まだ分からんやないか!
何かの誤認や誤動作かもしれんし、仮に脱落してたとしても死ぬ言うの自体が嘘っぱちかもしれん。
いやそもそも、キララがここにおったちゅうんもホンマかどうかわからんやろ。
最初から呼んでもおらんのを死んだちゅうことにしとるだけかもしれへんやないか!
せやから、悲しむんはちゃんと全部確かめてからでも遅ぅはないやろ!?」
「けど…………!」
何かを言おうとする涼子の頬を両手で挟んで発言を遮る。
そのまま手を引き、顔を近づけて視線を無理やり合わせながら問う。
「涼子。あんたはウチとあのシェリンとかいうお人形さんのどっちを信じられる?」
「そんなの。可憐に決まってる」
何の迷いもなく即答する。
聞くまでもない問いだった。
「せやったら、今はウチを信じてその悲しみを預けてくれへんか? それじゃ……アカンか?」
「…………ダメじゃない。可憐を信じる」
どうしもうない欺瞞だった。
そもそも発言した可憐自身ですらそんな可能性を信じていない。
涼子だってそれは分かっているだろう。
無理な理屈だと分かった上でそれでも可憐を信じて飲み込だのだ。
立ち上がるために必要な欺瞞だったと信じて。
涙を止めた涼子がようやく自分の足で立ち上がった。
その最初の一歩で、距離を取るように可憐から離れた。
「涼子。どないしたんや?」
「ごめんなさい。私、もう一つ言わなくちゃいけないことがあるの」
泣き笑いのような表情で、別れを告げるように告白する。
「――――私も、人を殺しちゃった」
その罪の告白に、先ほどまでとは違う緊張感が奔り、静寂が落ちる。
「怖い、わよね。気持ち悪いわよね。ごめんなさい。
あなたが一緒いられないと思うんなら、仕方ないもの。消えろと言うんなら消えるわ」
震える声で言う。
罪を告白する少女の姿は、嫌われることを恐れる子供の様だ。
だが、懺悔を受ける少女の心に動揺は少なかった。
正直、そんな気はしていた。
というより、最初に問いかけた時に返ってくると思っていた答えがこれだった。
予想外の方向からダメージを喰らってしまったけれど、ある意味覚悟は決めていた。
「なんやそれ。ウチの前から消えて、どないするつもりやねん?」
強めの口調で問う。
その声に彼女たちのリーダーは、取り残された迷い子の様に小さく自身の身を抱いた。
「………どうしたらいいのかしらね? 自首、すべきなんでしょうけど、出来るような状況でもないし。
何よりそんな事をしたら、あなたたちに迷惑が掛かってしまう。それだけは避けたい。
安心して、なんて言っても信じられないだろうけど。けど絶対、あなたたちの迷惑にはならないようにするから……!」
縋るような視線。
自罰的な態度。
その全てが癪に障った。
「…………迷惑ってなんやねん」
「え?」
余りも勝手なその言いぐさに、可憐の中で何かがキレた。
「迷惑かけたらアカンのか……? んなわけあるかい。迷惑くらいかけろや! ウチらはあんたのなんやねん……?
それがダメやったら由香里なんてどうなんねん!? 毎日迷惑かけられっぱなしやっちゅうねん!
せやけどウチはあの子が大好きやぞ! 可愛ゆうて仕方あらへんわ!」
「か、れん?」
ここまで怒っている可憐を初めて見た。
いや、怒っているのか?
発言内容は愛を叫んでいた。
「涼子!」
戸惑う涼子の手が取られた。
涼子の体が驚きにビクリと跳ねる。
「大丈夫や! 何があってもウチはあんたの味方や。ウチだけやない他のメンバーだってそうや、当たり前やないか!」
「……けど」
「けどもへったくれもあるかい!
ウチが人を殺してたらどないや? あんたはウチを見捨てるんか!?
できへんやろ!? 自分が出来もせんこと人に押し付けんなやボケェ!!」
怒鳴りながら、思い切り抱きしめる。
抱き潰してしまうのではないかと言うくらい力を込めて、思い切り。
「…………大丈夫。大丈夫やから」
可憐はそう繰り返す。
自分自身にも言い聞かせるように。
何が大丈夫なのか可憐自身もよくわからないけど、それでも続ける。
「あんたが堕ちるんならウチも堕ちたる。大丈夫や、ウチがおる。信じろ」
保証のない信頼を強要する。
どうしようもなく欺瞞だらけだった。
どんな事情があれ、人殺しは悪だ。
そんな事、考えるまでもない当たり前のことである。
だけど、
(こないに傷付いてボロボロになっとる涼子を突き放せるかいな)
これで正解だったのか。
可憐には分からない。
だが、今の涼子を突き放すには、彼女は優しすぎた。
ソーニャならどうしただろう。
あれで締める所は締める女だ、もっとうまく答えを出せたかもしれない。
感情に素直な由香里なら、泣きながら糾弾するだろう。
一番年下だけど一番しっかり者だったキララなら、
「…………あっ」
そこで不意に可憐の視界がにじんだ。
抑えていたものが決壊して溢れそうになる。
(ッ。アカン。考えるな考えるな考えるな…………! 今ウチが折れたら終わりや…………!)
抱きしめている涼子に気づかれない様に必死で涙をひっこめる。
可憐を信じて無茶な理屈を飲み込んで立ちあがったのだ。
だから、今ここで可憐が折れるわけにはいかない。
(……スマンなキララ。今はウチらのリーダーを支えたらなあかんねん。
あんたの事を考えるのは全部が終わってからや。…………あんたの死を悲しんでやることもできへん、薄情な私を許してな)
[H-6/島西寄り/1日目・黎明]
[鈴原 涼子]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:B DEX:B LUK:A
[ステータス]:精神衰弱(ムードメーカーの効果により回復中)
[アイテム]:ポイズンエッジ。不明支給品×5
[GP]:100→50pt(シェリンへの質問により-50pt)
[プロセス]
基本行動方針:可憐を信じる
1.近くにいるソーニャとの合流
2.少し遠くにいる由香里との合流
3.どこにいるのか割らかない利江との合流(シェリンへの問い合わせも検討)
[安条 可憐]
[パラメータ]:STR:C VIT:C AGI:C DEX:C LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:40pt
[プロセス]:
基本行動方針:HSF(家族)を守る
1.涼子を支える
2.HSFのメンバー(利江を含む)を探す
3.「陣野愛美」と「郷田薫」に警戒
※
魔王カルザ・カルマをゲーム好きのどっかの社長だと思ってます
「正貴さん。アイドルランキングって知ってるかしら?」
地下アイドル黒野真央は傍らの男に問いかけた。
問われた男、笠子正貴は少しだけ考える様にして、そうですねぇと相槌を打つ。
「聞いたことはあります。あまり詳しくはないですが、1位の子の顔くらいは見たことがある気がしますね」
名前なんかまでは知りませんが、と付け足す。
元よりそれほど興味がなかったというのもあるが、服役期間もあり最新の流行には疎かった。
流石に露出の多い1位ともなれば、刑務所内での食事時間中にテレビから流れる貴重な情報の一つとして耳に入るものもあるが。
「そう、それじゃあ私の順位、何位だと思う?」
「……さあ? アイドルには詳しくないので何とも」
正貴は口を濁して明言を避ける。
こういう時の女という生き物は面倒だ。
低く言っても機嫌を損ね、高く言っても嫌味になりかねない。
「それで、何位なんですか?」
迷っている衣服のどっちがいいかを聞くようなものだ。
女の中では既に答えは決まっている。
男の役割はその答えを女の口から気持ちよく述べさせるだけである。
望み通りか、問われて女はハッと、吐き捨てるように笑った。
「それがねぇ! 圏外よ圏外!? 地下アイドルは集計対象外なんですって!?
笑っちゃうわよねぇ。私の6年間は評価する価値もないんですって!」
そう言って、女は狂ったように笑った。
本当に狂っていたのかもしれない。
アイドルという狂気に。
「なにがぁアイドルランキングよ!? なぁにがアイドル戦国時代よ!? ふざけんなっての!
あぁ下らない! 結局、権力者に股を開いて媚を売ればいくらでも操作できるものじゃない!
そんなものに一喜一憂している奴らもバカみたい! アイドルもファンもみんなバカよ!!」
侮蔑を込めた声で吐き捨てる。
アイドルを憎んでいるのではない。
むしろ彼女はこれでもアイドルを愛している。
だからこそ自身をアイドルとして認めない世の中を恨んである。
男は女の激情を無言のまま見つめていた。
そうして、全てを吐き出しきったのか、すっと女の瞳は冷静へと戻る。
細められた、その視線の先には慰めあう二人の少女の姿があった。
「正貴さん」
女が男を引き寄せる。
二人は熱い口づけを交わした。
淫らに舌と舌が絡み合い糸引く。
「――――だから殺しましょう。私の6年間のために」
「はい。あなたが望むのならばそうしましょう」
[H-6/島西寄り/1日目・黎明]
[黒野 真央]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E→D(「ヴァルクレウスの剣」の効果でLUKが1ランク上昇中)
[ステータス]:ほろ酔い、回避判定の成功率微増
[アイテム]:ヴァルクレウスの剣(E)、VR缶ビール10本セット(残り6本)、支給アイテム×1(確認済)
[GP]:10pt
[プロセス]:
基本行動方針:絶対に生き残って、のし上がる。
1.正貴を使って涼子と可憐を殺す
2.できる限り自分の手は汚したくない。
[笠子 正貴]
[パラメータ]:STR:C VIT:C AGI:B DEX:A LUK:C
[ステータス]:黒野真央のファン、軽い酒酔い(行動に問題はない程度)
[アイテム]:ナンバV1000(8/8)(E)、予備弾薬多数、支給アイテム×2(確認済)
[GP]:25p
[プロセス]:
基本行動方針:何かを、やってみる。
1.真央の望みを叶える
2.真央を護ることを「生きる意味」にしてみる。
3.他の参加者を殺害する。
※事件の報道によって他の参加者に名前などを知られている可能性があります。少なくとも真央は気付いていないようです。
最終更新:2022年05月31日 23:48