アサルトリリィ -Sacred world-
♡
私たちが暫く走ってると、全裸の男が二人も見えた。
周囲には排泄物と血。……あまり想像したくないけど強引に『そういうこと』をした可能性が浮上してくる。
お尻は繊細で傷つきやすいし、ちゃんと浣腸しないと便意を催すものだから……。
どうして殺し合いの場でそんなことが起きたのかは、理解出来ないけど……。
周囲には排泄物と血。……あまり想像したくないけど強引に『そういうこと』をした可能性が浮上してくる。
お尻は繊細で傷つきやすいし、ちゃんと浣腸しないと便意を催すものだから……。
どうして殺し合いの場でそんなことが起きたのかは、理解出来ないけど……。
「二人とも裸ということは、どうやら一方的なお楽しみの最中だったみたいですね♡」
「うん。しかもよく見たら、片方は男性器から血が出てる……?」
「ふむ。強姦された側がなんとか抵抗した――ということでしょうか」
「うん。しかもよく見たら、片方は男性器から血が出てる……?」
「ふむ。強姦された側がなんとか抵抗した――ということでしょうか」
「……タチバナさん、こんな状況でも冷静だね」
「強姦なんて世の中には意外と溢れてますから♡お嬢様が狙われそうになったことだって、もう何度も♡」
「強姦なんて世の中には意外と溢れてますから♡お嬢様が狙われそうになったことだって、もう何度も♡」
タチバナさんは元々がベテラン執事で人生経験も豊富だから、意外と達観してる。
普段の態度から想像出来ないくらい荒事に慣れて、冷静さを崩さない。
普段の態度から想像出来ないくらい荒事に慣れて、冷静さを崩さない。
それがすごく頼りに思えるけど、同時に彼女の壮絶な人生を物語ってるみたいで……複雑な気持ち。
――そんなことを考えてるうちにも、事態はどんどん進む。私たちが作戦会議するのを待ってくれるほど、現実は優しくない。
「タチバナさん……ッ!」
「わかりました♡」
「わかりました♡」
赤髪の人が攻め立てられてるのを見て、私たちは走り出した。
露出した下半身でビンタされた後、流れるような顎への連撃。
男性器を武器として使う発想は謎だけど、相手の手強さが見て取れる。
でもようやく間合いに入った。ここならきっと、外れない。
露出した下半身でビンタされた後、流れるような顎への連撃。
男性器を武器として使う発想は謎だけど、相手の手強さが見て取れる。
でもようやく間合いに入った。ここならきっと、外れない。
「――形態変化(エンダァン・ゲシュタルテン)。変形(モード)――弓(ボーゲン)」
ステッキを弓矢に変化。
そして狙いを大柄の方へ向けて――射出(シュート)する!
そして狙いを大柄の方へ向けて――射出(シュート)する!
「ちィ!新手か!」
男が固めた拳は、私の矢を撃ち落とした。
いや――真正面から叩き割った……?
ただの正拳突きで?まさかこれがスキル……?
いや――真正面から叩き割った……?
ただの正拳突きで?まさかこれがスキル……?
だけどとりあえずこれで危機は一時的に回避出来た。
あとは魔法少女らしく――名乗っておこうかな。
あとは魔法少女らしく――名乗っておこうかな。
「魔法少女、爆現……!」
「ふぅ、間に合いましたね。美少女ヒーロー見参です♡」
「ふぅ、間に合いましたね。美少女ヒーロー見参です♡」
――決まった!
やっぱりこういうの、大事だと思う。気合いの入り方が違うから。
やっぱりこういうの、大事だと思う。気合いの入り方が違うから。
「魔法少女?ヒーロー?HAHAHA、そうかい」
大柄の男は私とタチバナを見てニタァと笑うと格闘技のような構えを取った。
「連続殺人鬼ケツアナ・ホルノスキーだ。俺を止めたいなら掛かってこい、カマホモ共!」
「カマホモ?違うよ。私たちは――」
「元は男と言えども、今は立派な美少女ですっ!」
「元は男と言えども、今は立派な美少女ですっ!」
♡
乱入者の二人が声を発した時、マキシムは彼女達が女性アバターを使った男性だと瞬時に理解した。
まず仔猫の方は声が中性的だ。それだけならまだ女だとも思うが、まだ声変わりをしてない少年のようなイメージを受けた。
マキシムはこれまで散々、少年で遊んで来た犯罪者だ。必然的に見る目も、耳も培われ――そういうものは『なんとなく』程度の感覚だが判別出来る。
そしてタチバナは、これはもう紛れもない男だろう。男性が女声を作るとだいたいアニメ声になるが、彼女の声が正にそうだ。
VRCの中にもそういう人種は希少でこそあるが、何人か見てきた。皆、ナチュラルな声というよりもアニメ声寄りだった。
実は女声とは裏声を元に発声する人種が大多数を占めている。
地声アプローチの場合はナチュラルになりやすいが、裏声アプローチの場合はアニメ声になる――という仕組みだ。
地声アプローチの場合はナチュラルになりやすいが、裏声アプローチの場合はアニメ声になる――という仕組みだ。
もっともマキシムはそんなことまでは知らず、VRCの経験からそういう答えを出したに過ぎない。
ただ地声がアニメ声の女というだけで外れてる可能性もあったが、あの反応を見るに当たりだろう。
ただ地声がアニメ声の女というだけで外れてる可能性もあったが、あの反応を見るに当たりだろう。
(あいつらはどんな声で鳴くのか気になるが……真二よりは何倍も強そうな相手だな)
人格的には男だが、肉体的には美少女。
その歪さはマキシムのホモとしての好奇心を刺激するが、決して油断出来ない相手だというのも理解している。
その歪さはマキシムのホモとしての好奇心を刺激するが、決して油断出来ない相手だというのも理解している。
(ロリの方はともかく、あのメイド……間違いなく強い)
ロリの方は、弓を握る腕の筋肉が緊張しているのが見て取れる。素人丸出しの弱者だろう
だが殺人鬼と聞いても冷や汗ひとつ欠かず、それどころかこちらに殺意を向けてくるメイド――アレはどう見ても場馴れしてる人間だ。
最初に遭遇した男ほどではないが、決して油断ならぬ相手だとマキシムは直感的に理解する。
最初に遭遇した男ほどではないが、決して油断ならぬ相手だとマキシムは直感的に理解する。
「気を付けろ。そいつのスキルは超握力……ガッ!」
「ちィ!」
「ちィ!」
体勢を立て直して、警告を促した真二を叩く。八つ当たり気味に叩いたせいであまり力を入れてなかったが、今の状況では手負いの雑魚など二の次だ。
ただでさえちんぽを激痛が蝕み、なんとかしたいところ。こんなタイミングで乱入者が来るなんて、運の無さを嘆きたい。
「――形態変化(エンダァン・ゲシュタルテン)。変形(モード)――剣(シュヴェルト)」
仔猫が弓を剣に変化させる。
変幻自在に任意の武器へ姿を変えられることが彼女の創造武具の強みだ。
変幻自在に任意の武器へ姿を変えられることが彼女の創造武具の強みだ。
そして巨漢へ駆けると、剣を袈裟に振るう。マキシムは彼女のことを素人だと見くびっていたが、それにしては動きが良い。
どうして戦場に慣れていないのか謎だが、技術だけは有ると認識を改める。
どうして戦場に慣れていないのか謎だが、技術だけは有ると認識を改める。
これはVRCでいのりや刹那――つまりコセイ隊の活動としてもみじに稽古されていた成果だ。
いのりが言い出しっぺでただの遊びの一環だったはずが、もみじが「やるからには本気で」ということでかなり鍛えられた。
いのりが言い出しっぺでただの遊びの一環だったはずが、もみじが「やるからには本気で」ということでかなり鍛えられた。
だがマキシムは技術だけでなく、様々な経験も培っている。想定外の事態なんて何度もあった。
ゆえに彼は焦ることなく、冷静に仔猫の一撃を両手で受け止める。いわゆる真剣白刃取りだ。
ゆえに彼は焦ることなく、冷静に仔猫の一撃を両手で受け止める。いわゆる真剣白刃取りだ。
殴って対処するというのも考えたが、未知の創造武具に拳をぶつけるというのはリスクがある。拳は彼の武器だ、これを傷付けられたらあまりにも痛い。
「惜しかったな!」
「そのセリフ、そっくりそのままあなたにお返しします♡」
「そのセリフ、そっくりそのままあなたにお返しします♡」
仔猫の腹を蹴飛ばし、返り討ちにしようとした直後――いつの間にか接近していたタチバナが小太刀で肉薄する。
初撃はブラフで、この攻撃こそが本命だ。はっきり言って、素人の攻撃が通る相手だとは考えていなかった。
もしも握力を用いた攻撃を仔猫に加えようとした場合は別の手段を考えていたが、蹴り技で好都合。
もしも握力を用いた攻撃を仔猫に加えようとした場合は別の手段を考えていたが、蹴り技で好都合。
……もちろん仔猫には出来る限り傷を負わせたくないが、この場は殺し合い。戦場だ。それに主人の意志を尊重するのも、メイドの役割である。
「チッ!」
『気を付けろ。そいつのスキルは超握力……ガッ!』
(投擲しての追撃はやめた方が良さそうですね……)
タチバナは小太刀の投擲による追撃も考えたが、真二の助言を思い出して体勢を整えた。
超握力。圧倒的な握力。肉体を握られたらそれは即ち致命傷となるし、パンチなども高威力を誇ることだろう。
それらも恐ろしいことであるが――
超握力。圧倒的な握力。肉体を握られたらそれは即ち致命傷となるし、パンチなども高威力を誇ることだろう。
それらも恐ろしいことであるが――
(追撃を誘ってるのがバレたか。まぁ構わんさ、これくらい実力があることは見越していた)
マキシムは自分の策略が見破られたことを察すると、雪原に両指を立てる。
ざざざ、と雪へ跡が刻まれ――すぐに勢いは止まる。
ざざざ、と雪へ跡が刻まれ――すぐに勢いは止まる。
そして着地と同時に雪に手をめり込ませて、それを思いっきり手で後ろへ押すことで弾丸の如く走った。
圧倒的な速度で秒にも満たない刹那、タチバナに迫ると拳を振り抜く。
圧倒的な速度で秒にも満たない刹那、タチバナに迫ると拳を振り抜く。
「シッ!」
「――読めてました♡」
「――読めてました♡」
正拳突きが到達するよりも早く、タチバナはバク宙。ついでにお返しとばかりにメイド服に隠し持っていた支給品の銃を取り出すとマキシムの急所(ちんぽ)を正確に射抜いた。
ちんぽという想定外の場所を狙われたからこそ、ガードも出来ずにまともに受けてしまう。
ちんぽという想定外の場所を狙われたからこそ、ガードも出来ずにまともに受けてしまう。
「グ、ォオオオオ!!」
――ちんぽ、喪失。
激痛と男性のアイデンティティを失ったショックにマキシムが絶叫する。
たとえ仮の姿であっても、急にちんぽをグチャグチャに破壊されるというのは悲しいことだ。彼は強姦を生業としているし、己がちんぽに自信を持っていたからその悲痛は計り知れない。
たとえ仮の姿であっても、急にちんぽをグチャグチャに破壊されるというのは悲しいことだ。彼は強姦を生業としているし、己がちんぽに自信を持っていたからその悲痛は計り知れない。
この戦闘、ここまでのペースは完全にタチバナが握っていた。
相手のスキルが開示されてるというメリットは大きく、その構えやスキルの内容から格闘技を得意としていることも明らか。
相手のスキルが開示されてるというメリットは大きく、その構えやスキルの内容から格闘技を得意としていることも明らか。
ならば相手の土俵に立つなんて無茶なことはせず、出来る限り接近戦に持ち込まれないように警戒しながら戦えば良い。
――とはいえ、理屈的には簡単でも実行するのは難しい。タチバナの技術と経験があってこそ、成し遂げられている。
それにもしも接近戦に持ち込まれたら苦戦することは間違いないだろう。
それにもしも接近戦に持ち込まれたら苦戦することは間違いないだろう。
「俺のちんぽが……。ちんぽが!!」
「ちんぽ、ちんぽって下品ですね。時代はメスホモですよ?」
「ちんぽ、ちんぽって下品ですね。時代はメスホモですよ?」
「ふざけるな。俺のちんぽを、返せ――!」
「やれやれ。ほんと、あなたみたいな性犯罪者って誇りを踏み躙られるとすぐ怒りますよね♡」
「やれやれ。ほんと、あなたみたいな性犯罪者って誇りを踏み躙られるとすぐ怒りますよね♡」
怒りとは判断力を鈍らせる。
どんな人間でも冷静さを保った方が強いというのが道理だ。
ならばこれから始末する相手には出来る限り怒り狂って、取り乱してもらった方が好都合。
どんな人間でも冷静さを保った方が強いというのが道理だ。
ならばこれから始末する相手には出来る限り怒り狂って、取り乱してもらった方が好都合。
(仔猫ちゃんが見たら嫌な顔をするでしょうし、彼女の前ではあまりこういう面を見せたくないですけどね……)
我ながら性格悪いな――なんてタチバナは考えて。それでも大切な人を守るためなら、それくらい喜んでしてみせるのが彼女の流儀だから。
「決めたぞ。俺はお前を殺すッ!」
――瞬間、タチバナの胴体に強烈な痛みが走る。
「ぐっ……!」
凄まじい衝撃を受け、気付けば体が吹っ飛ばされていた。握っていた銃も落とし、使い終えた後にメイド服へしまっていた小太刀くらいしか手元にない。
(これはいったい……。さっきと同じ動作なのに、明らかに速度が……)
マキシムが地面に手を着いて走ったと思ったら、いつの間にか蹴り飛ばされていた。
目にも留まらぬ速度――とまではいかない。視認くらいは出来た。だが初見でこれを対処しろという方が難しい。
目にも留まらぬ速度――とまではいかない。視認くらいは出来た。だが初見でこれを対処しろという方が難しい。
「シッ!」
追撃の右ストレート。
身を捩り回避を試みるが、それを察したマキシムは膝蹴りを放つ。
身を捩り回避を試みるが、それを察したマキシムは膝蹴りを放つ。
彼のスキルは強力だが、何もそれだけが持ち味というわけじゃない。素手の格闘戦に限ればマキシムは全参加者の中でもトップクラスに強いだろう。
このスキルの恐ろしいところは、相手が拳を警戒するあまりブラフとしても強く機能するという点でもある。
「が、は……っ!」
腹へ膝の直撃を受けたタチバナの背中へ、今度は肘を叩き付ける。
たった二発だが、強烈な攻撃だ。隙を見せないために拳を使われていないことだけが唯一の幸運だろう。
たった二発だが、強烈な攻撃だ。隙を見せないために拳を使われていないことだけが唯一の幸運だろう。
「タチバナさん!!――形態変化(エンダァン・ゲシュタルテン)。変形(モード)――弓(ボーゲン)」
ようやく体勢を立て直した仔猫がタチバナの危機に悲痛の声をあげ、矢を放つ。
弓矢の名手というわけでもないから、相手に当たる間合いまである程度は近づく必要があるのがデメリットとなってしまっている。
もしも優れた腕を持っていたのなら、もっと早くタチバナを助けることも出来ただろう。
もしも優れた腕を持っていたのなら、もっと早くタチバナを助けることも出来ただろう。
「痒いな」
――だが今更弓矢などが通じるマキシムではない。
拳の一振で幾多もの矢を砕き、ニタァと笑ってみせた。
拳の一振で幾多もの矢を砕き、ニタァと笑ってみせた。
しかしそんなこと、仔猫も把握済みだ。先程も矢を砕かれたのだから。
今回の攻撃は、自分が駆け付けるまでの時間稼ぎに過ぎない。
今回の攻撃は、自分が駆け付けるまでの時間稼ぎに過ぎない。
「――形態変化(エンダァン・ゲシュタルテン)。変形(モード)――剣(シュヴェルト)」
弓を剣に変化させると、猫のように軽やかな身のこなしで前へ跳躍。重い一撃を振り抜く。
「仔猫ちゃん、その男に接近戦は危険です……!」
タチバナが制止するが、もう遅い。
「また止められたいのか?」
マキシムは先程と同じように真剣白刃取りしてみせる。あまりにも直線的で、読みやすい動きだった。
だが両手が使えないこの状態――ほぼ無防備に近くなるこの状態を待っていた。
十中八九、蹴りが飛んでくるがそれは気合いで持ち堪えれば良い。仔猫は意を決して――。
十中八九、蹴りが飛んでくるがそれは気合いで持ち堪えれば良い。仔猫は意を決して――。
「グァァァァアアア!このガキャアアアア!」
マキシムの剥き出しになった弱点(ちんぽの残骸)を思い切り蹴った。
凄まじい激痛に彼は叫ぶが、それでも剣は離さない。
凄まじい激痛に彼は叫ぶが、それでも剣は離さない。
(まずい……!)
「お返しだ!」
「その甘さが命取りだ!!」
両手の塞がったタチバナへ右ストレートを振り抜いた。
彼女にこれを回避する術はない。直撃したら死を免れない。
彼女にこれを回避する術はない。直撃したら死を免れない。
ある程度の間合いがあればともかく、この至近距離でこの速度。
この危機を乗り越えるには――切り札を使うしかない。
この危機を乗り越えるには――切り札を使うしかない。
それに運の良いことに、後方には拳を構えた強姦被害者がある。
彼のスキルは不明だが、武器ではなく徒手空拳ということは――身体能力系と考えるのが妥当か。
彼のスキルは不明だが、武器ではなく徒手空拳ということは――身体能力系と考えるのが妥当か。
(一か八か、やってみる価値はありますね……)
――そして時は止まる。
タチバナを中心とした一定範囲だけが、何も動かなくなる。
時の停滞。自分以外は万物が動けなくなるという、理不尽な法則(ルール)の押し付け。
今この世界は彼女だけが正義。誰もタチバナの覇道を止められやしない。
時の停滞。自分以外は万物が動けなくなるという、理不尽な法則(ルール)の押し付け。
今この世界は彼女だけが正義。誰もタチバナの覇道を止められやしない。
「私と仔猫ちゃんの世界は、誰にも邪魔させません♡」
そして此度のデスゲームでは皮肉にも停滞が具現化された。――時の巻き戻しによる死者蘇生など、そんな都合の良い権利は与えないとばかりに。
死者は二度と蘇らない。だからこそ思い出を、宝を大切に出来るのが人間というものだが――なかなかどうして、大切な主人の死を乗り越えるというのは難しい。
そんなタチバナが今は自分と仔猫の未来を思い描いて、スキルを使用した。
渇望の変化。未来へ進みたいという前向きな願い。
それらが更に高まればやがて進化や変化する可能性も秘めているが――それはまた別の話。
渇望の変化。未来へ進みたいという前向きな願い。
それらが更に高まればやがて進化や変化する可能性も秘めているが――それはまた別の話。
……小太刀で首を狩るという選択肢もあったが、チート対策までされているこのデスゲームで時止め+確殺というコンボが決まるかは怪しい。そんなものがまかり通るなら、大抵の参加者を殺せてしまう。
万が一を考慮して最も安全でリスクの低い手段をタチバナは選んだ。
万が一を考慮して最も安全でリスクの低い手段をタチバナは選んだ。
そして時は、動き出す。
「ぐっ……!」
吹っ飛ばされたマキシムのうめき声。
そして――。
そして――。
「うおおおおお!」
「が、ァアア!!」
「ぐ、ァ……!」
「ぐ、ァ……!」
マキシムが絶叫と共に凄まじい反応速度で振り向き、真二の頭蓋を握り砕く。
骨が勢い良くグシャリと粉砕され、脳髄と血潮が周囲に飛び散った。
最後の最後に厄介なことをされたが――所詮、素人なんてこんなものだ。
骨が勢い良くグシャリと粉砕され、脳髄と血潮が周囲に飛び散った。
最後の最後に厄介なことをされたが――所詮、素人なんてこんなものだ。
「――!」
あまりにも残虐な光景。
そして生々しい死体に仔猫の背筋が凍る。
そして生々しい死体に仔猫の背筋が凍る。
「大丈夫ですよ。仔猫ちゃんには私が付いてますから♡」
「でも、あの人……。し、死……」
「……人はいずれ死ぬものです。私も仔猫ちゃんも――」
「でも、あの人……。し、死……」
「……人はいずれ死ぬものです。私も仔猫ちゃんも――」
死は意外と身近なものだ。タチバナはそれを身をもって理解している。
あまりにも理不尽で、誰にでも襲い掛かる回避不可能の終焉――それが死。
あまりにも理不尽で、誰にでも襲い掛かる回避不可能の終焉――それが死。
「……やだ。タチバナさんには、ああなってほしくない」
「大丈夫ですよ。私は無敵のメイドさんですから♡」
そんなことを言われたら、意地でも二人で生き残るという決意が更に強くなってしまうじゃないか。
タチバナは戦場の中、そっと仔猫を抱き寄せて――優しくその唇に、口付けした。
仔猫とタチバナは出会ってから、たったの数時間。
しかしその時間は濃厚で、瞬く間に絆が深まった。
しかしその時間は濃厚で、瞬く間に絆が深まった。
「なに、呑気なこと……してるんだ?次はお前達の――」
――そして集いし絆は、やがて新たな力を呼び起こす。
参加者の一人、赤音の創造武具『赫炎神将・鬼修羅(キシュラ)』が必殺技を有しているように――どの参加者にも切り札は存在する。
そして今、仔猫はそれを掴み取った。
そして今、仔猫はそれを掴み取った。
理不尽な死を前に、タチバナを決して失いたくないという思いが極まり――彼女の口付けにより絆が新たな境地へ仔猫を導いてゆく。
必殺技がデフォルトで生み出されていなくとも、想い次第で創造される。これぞ創造武具やスキルの真骨頂。
マキシムのブラッディ・ハンドの握力が更に増したのも、彼の殺意が極大になったことによる進化。つまりマイナスの心意だ。
そして当然、希望の絆により発生するプラスの効果もある。
そして当然、希望の絆により発生するプラスの効果もある。
「集いし愛の絆が、新たな銀河を呼び起こす!愛と希望を照らす道となれ!」
仔猫が刀身を撫でると、瞬く間に光り輝く。
それはまるで星屑(スターダスト)のような、光子(フォトン)のような――絆や希望を象徴する煌めき。
それはまるで星屑(スターダスト)のような、光子(フォトン)のような――絆や希望を象徴する煌めき。
「顕現せよ、シューティング・スター・ギャラクシー!」
――その剣は、新たな武器(剱)へと進化した。持ち主である仔猫が青く輝き、彼女に力を与える。
そして仔猫はマキシムという驚異に刃を向け、彼を葬ろうと決意。――しかし相手が悪人とわかっても、どうしても緊張する。
「ぁ……」
それがダメだった。
その心の揺らぎが、創造武具を戻してしまった。
無我の境地(クリアマインド)へ至らぬ半端な心では――進化の先(アクセル・ウェポン)を使いこなせない。
その心の揺らぎが、創造武具を戻してしまった。
無我の境地(クリアマインド)へ至らぬ半端な心では――進化の先(アクセル・ウェポン)を使いこなせない。
だが此度の輝きが無駄かと言えば、そうじゃない。
(ちっ。ここは一先ず退くか……)
弱者と侮っていた少女の進化。
マキシム自身もこの戦闘で進化したが、今や手負いな上に相手は二人。片方は手練れで、もう片方は新たな力を手に入れた。
マキシム自身もこの戦闘で進化したが、今や手負いな上に相手は二人。片方は手練れで、もう片方は新たな力を手に入れた。
当たり前だがマキシムは勝算のない戦いなどしない。自殺願望があるわけでもないし、なるべく楽しみたいのだ。
ゆえに彼は地面に手を着くと、その場を後にした。自分と真二、二人分のデイパックを器用に持ち去って。
今はこの中に回復薬や武器があることを期待して、次の狩りに備えるのがベストだ。
今はこの中に回復薬や武器があることを期待して、次の狩りに備えるのがベストだ。