(意外とちょろかったな……)
……とはいえこんなもの、処世術と呼ぶにはあまりにもウザったい。人によっては怒りを買うこともありそうだが、残念ながらタケピィーはそういうことに気付けていない。
彼の処世術は普通ならば「ウザいだけ」と思うような立ち振る舞いだ。そうやって蔑みを受けるうちに如何に馬鹿げたことをしているか理解しそうなものだが、タケピィーをイジメから救ったのはこの処世術。
内心ではクラスの誰もが『ウザい』と思っているが、だからこそ誰も彼の相手をしない。
馬鹿という蔑みは受けるが、バカキャラを演じているという自覚はあるがゆえにそんな蔑みすらも真に受けない。
馬鹿という蔑みは受けるが、バカキャラを演じているという自覚はあるがゆえにそんな蔑みすらも真に受けない。
むしろそういうふうに演じてるのだから『馬鹿』という言葉はそれだけネタキャラとして振る舞えてる証明とすら思えた。
なによりトラウマになるほどの嫌がらせの数々が止み、今までにないポジションを確立出来た――と本人は思い込んでいるのだ。
ゆえに殺し合いでも処世術次第でなんとかなると考え、アルカードに声を掛けた。
どう見ても常人ならば近寄りたくないタイプの言動をしていたが、そこは似た者同士。
どう見ても常人ならば近寄りたくないタイプの言動をしていたが、そこは似た者同士。
キャラを演じるという意味ではタケピィーも同じなので、アルカードに対して引いたり差別する気は起きなかった。
だが人間を見下す吸血鬼――というアルカードのキャラ性。これが災いして襲われる可能性をタケピィーは危惧していたが、思った以上にちょろかった。
まあ人間誰しも、褒められたら嬉しいものだ。処世術は殺し合いの場でも効果を発揮する、とタケピィーは確信する。
まあ人間誰しも、褒められたら嬉しいものだ。処世術は殺し合いの場でも効果を発揮する、とタケピィーは確信する。
(俺はハズレスキルだし、最初に強そうな人と手を組めたのは良かったなぁ)
プレイヤーは皆VRCで使っていたアバターで参加している。見た目が強さなんてわからないのがこの世界だが、それでもタケピィーにはアルカードのアバターがカッコよくて強そうに見えた。
それに吸血鬼を称するということは、能力も吸血鬼関係の何かだということが想像出来る。
戦闘向きじゃないスキルを与えられたタケピィー的に戦闘特化の仲間を得られたのは有難い限り。アルカードのことを『チョロい』とは思うが同時に感謝もしている。
戦闘向きじゃないスキルを与えられたタケピィー的に戦闘特化の仲間を得られたのは有難い限り。アルカードのことを『チョロい』とは思うが同時に感謝もしている。
(それにここまで喜んで貰えると、俺としても嬉しいし。……こんなに誰かに気に入られたの、生まれて初めてかもな)
過去にはイジメを受け、ネタキャラを演じ始めてからはまともに相手をされなくなった。
タケピィー自身は相手にされてない――なんて気付いてないが、それでも寂しさのようなものを感じてたのも事実。
タケピィー自身は相手にされてない――なんて気付いてないが、それでも寂しさのようなものを感じてたのも事実。
何故ならネタキャラになって以降も、彼は誰かと仲良くなれたことがないから。友達同士の何気ない会話が羨ましくもあった。
それでもイジメられないためにネタキャラという“仮面”を被って馬鹿なフリをする。羨ましいという気持ちも、心の奥底まで沈めてしまえ。
それでもイジメられないためにネタキャラという“仮面”を被って馬鹿なフリをする。羨ましいという気持ちも、心の奥底まで沈めてしまえ。
……VRCを始めた理由も仲の良い友達が欲しいから。ゲーミングPCにヘッドセット。ネタキャラらしい動作をするにはフルトラ必須だと考えて、トラッカーまで買い揃えた。
VRCの情報を出来るだけ調べ、美少女アバターが好まれる世界ということも事前に把握。
VRCの情報を出来るだけ調べ、美少女アバターが好まれる世界ということも事前に把握。
可愛らしいアバターをベースにピエロのような白塗り、赤鼻という“可愛さとネタキャラ感が程よく混ざった改変アバター”を完成させた。
パッと見ではわかりづらいが、よく見たら可愛らしい顔立ちをしている――という、ギャップ萌えのようなものまでしっかりと狙っている。
結果――誰かと仲良くなることは出来なかった。
最初はみんな笑ってくれるのに、何故かいきなり離れていくのだ。
……最初だけ面白おかしいキャラとして注目されるが、慣れてきたらウザさだけが残りイラつく存在にしか見えなくなるのだ。
……最初だけ面白おかしいキャラとして注目されるが、慣れてきたらウザさだけが残りイラつく存在にしか見えなくなるのだ。
それにタケピィーというキャラの性質上、彼と心から仲良くなろうとするプレイヤーなんていなかった。正に哀れなピエロである。
ぼっちの集いなんてものがあるから、顔を出したこともあった。
タケピィーは正真正銘のぼっちだ。当然、彼らに混ざる資格がある。
タケピィーは正真正銘のぼっちだ。当然、彼らに混ざる資格がある。
だがあろうことか、タケピィーは――彼らに会った時までネタキャラ全開。挙句の果てにはぼっちという存在自体を下げ始めた。
シエル達を持ち上げつつも、ぼっちの集いでぼっちをネタにするという暴挙。あまりにもイカれた行為だが、タケピィー本人にそんな自覚はない。
シエル達を持ち上げつつも、ぼっちの集いでぼっちをネタにするという暴挙。あまりにもイカれた行為だが、タケピィー本人にそんな自覚はない。
『今のお前は受け入れられねェ。もっと自分に素直になれるようになってから、また来いよ』
シエルはそんなことを言ってたが、タケピィーには未だ彼の考えが理解出来ない。
――自分に素直になったら、どうせまた虐められるだけだろ
どれだけネタキャラとして振る舞っても。
偽りの仮面を被っても。
それでも過去の傷は消えない。トラウマとなり、心に強く突き刺さっている。
偽りの仮面を被っても。
それでも過去の傷は消えない。トラウマとなり、心に強く突き刺さっている。
夏樹尊は弱者だ。ネタキャラという仮面で誤魔化してるだけで、そこまでメンタルが強いわけでもない。
それでも仮面を脱ぎ捨てることなく、ひたすらに無理を続ける。
VRCのユーザー名――タケピィーはリアルでも名乗っている、芸名のようなものだった。
ゆえに彼は夏樹尊ではなく、タケピィーとして振る舞う。自分はタケピィーだと言い聞かせる。
VRCのユーザー名――タケピィーはリアルでも名乗っている、芸名のようなものだった。
ゆえに彼は夏樹尊ではなく、タケピィーとして振る舞う。自分はタケピィーだと言い聞かせる。
夏樹尊は弱くて惨めないじめられっ子で。
タケピィーは誰からもイジメを受けないネタキャラだ。
タケピィーは誰からもイジメを受けないネタキャラだ。
だから彼はタケピィーという仮面を取ることを、極端に恐れている。
夏樹尊として真正面からコミュニケーションを取るなんて絶対に嫌なことだ。
夏樹尊として真正面からコミュニケーションを取るなんて絶対に嫌なことだ。
『タケピィー死ね』、『タケピィーは馬鹿』という言葉はただの弄りにしか聞こえない。
だがこれが夏樹や尊という名前を使われたら――タケピィーのメンタルは多大なダメージを受けることだろう。
だがこれが夏樹や尊という名前を使われたら――タケピィーのメンタルは多大なダメージを受けることだろう。
ゆえに夏樹尊はタケピィーで在り続ける。
この殺し合いでも、それを変えるつもりはない。
この殺し合いでも、それを変えるつもりはない。
もしも夏樹尊が殺し合いに巻き込まれたら情けなく取り乱すだろうが、タケピィーだからいつものペースを乱さずアルカードと会話出来た。
死にたくないし、恐怖心だってある。それすらもタケピィーという仮面が隠してくれた。
処世術だって通用したのだ。いつも通りタケピィーとして振る舞えば、生き残ることは出来るだろうと確信する。
処世術だって通用したのだ。いつも通りタケピィーとして振る舞えば、生き残ることは出来るだろうと確信する。
なによりも――。
「ん?そんなに私の方を見つめてきて、どうしたのだ?」
「アルカード様に見惚れてただけよ♡」
「アルカード様に見惚れてただけよ♡」
アルカード。
処世術で持ち上げて仲間になったが――彼とならいつか“本物”の仲間になれるなもしれない。
処世術で持ち上げて仲間になったが――彼とならいつか“本物”の仲間になれるなもしれない。
お笑い芸人を目指してる……なんて冗談半分で今まで言ってたが、こうして心の底から笑ってもらえると。嬉しそうにしてもらえると。なんというか――ちょっとだけ幸せな気分になれる。
「そうか。ちなみにその笑みはなんだ?」
「え……?」
「え……?」
一瞬、虚をつかれたように普通の男声が漏れ出る。タケピィーではなく、夏樹尊の声が。
(俺、いつの間にか笑ってたのか……)
別に笑おうと意識したわけじゃないのに。
タケピィーの――夏樹尊の顔は、いつの間にか笑っていた。アルカードを見て、微笑んでいた。
タケピィーの――夏樹尊の顔は、いつの間にか笑っていた。アルカードを見て、微笑んでいた。
「ん?その反応を見るに、もしかして笑っていたわけではないのか?」
「……自分でも無意識のうちに笑ってたみたいね♡」
「……自分でも無意識のうちに笑ってたみたいね♡」
「ほう。何かいいことでもあったのか?」
「そうねぇ……。アルカード様の下僕になれたことかしら♡」
「そうねぇ……。アルカード様の下僕になれたことかしら♡」
タケピィーが――夏樹尊が本音を口にすると。
アルカードはニッと笑った。それはもう、子供のような無邪気な笑みで。
アルカードはニッと笑った。それはもう、子供のような無邪気な笑みで。
「そうか、そうか!私の下僕になれてそんなにも嬉しいか、タケピィーよ!」
「ええ♡……だからずっとアルカード様のお傍に居たいわ♡」
「ええ♡……だからずっとアルカード様のお傍に居たいわ♡」
「当然だ!下僕たるもの、永劫に私の元を離れてはならぬからな!ハッハッハ!」
彼らは共に問題児だ。
今まで世間から散々馬鹿にされ、蔑まれてきた。
だがそんな彼らにも、こうして手を取り合える者が居た。
アルカードもタケピィーも――殺し合いの中だというのに、心が幸福に満たされる。
今まで世間から散々馬鹿にされ、蔑まれてきた。
だがそんな彼らにも、こうして手を取り合える者が居た。
アルカードもタケピィーも――殺し合いの中だというのに、心が幸福に満たされる。
「それにしても、タケピィーよ。……貴様、意外と可愛い顔をしてるのだな」
「あら♡私に惚れちゃったの?」
「あら♡私に惚れちゃったの?」
「主と下僕の禁断の恋愛か。それも悪くないが――純粋に可愛いと思っただけで、別に惚れてなどいないさ。私たちは男同士だろう?」
「そうね♡――でも私は出会った時から一目惚れよ♡」
「フッ。ならばケツ穴には注意しなければな」
「そうね♡――でも私は出会った時から一目惚れよ♡」
「フッ。ならばケツ穴には注意しなければな」
そんなアルカードを見て、タケピィーは笑う。
仮面の下――夏樹尊は心から微笑んでいた。
仮面の下――夏樹尊は心から微笑んでいた。
【C-7/一日目/黎明】
【アルカード】
[状態]:健康
[装備]:制御術式開放@スキル 杭
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~2
[思考・状況]基本方針:人間共に吸血鬼の始祖の力を教育する
1:あの女達(吸血姫ティアラ&クドラク)をブチ殺す
2:タケピィーは下僕にしてやろうではないか
【アルカード】
[状態]:健康
[装備]:制御術式開放@スキル 杭
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~2
[思考・状況]基本方針:人間共に吸血鬼の始祖の力を教育する
1:あの女達(吸血姫ティアラ&クドラク)をブチ殺す
2:タケピィーは下僕にしてやろうではないか
【タケピィー】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~3
[思考・状況]基本方針:死にたくないし、いつも通り道化を演じる
1:アルカード様に守ってもらう。そのために持ち上げとく
2:アルカード様とはいつか“本物”になれるかもしれないな
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~3
[思考・状況]基本方針:死にたくないし、いつも通り道化を演じる
1:アルカード様に守ってもらう。そのために持ち上げとく
2:アルカード様とはいつか“本物”になれるかもしれないな
前話 | 次話 | |
025:TRUE STORY | 投下順 | 027:知らぬが仏 |
025:TRUE STORY | 時系列順 | 027:知らぬが仏 |
前話 | 登場人物 | 次話 |
問題児と問題児 | タケピィー | Justiφ's ―それでも― |
問題児と問題児 | アルカード | Justiφ's ―それでも― |