夜闇が山折の地を包む暮六つ。現代の産業革命とも呼ぶべき目覚ましい発展を遂げていた山折村は今や夢の後。
生者は疎か生ける屍と化した食人鬼すらも大多数が動かぬ肉袋と化し、既に村は打ち捨てられた死体も同然の有様であった。
現在進行形で跡地と化しつつある山折村の南西部の草原。そこに巌とも呼ぶべき巨大な山が一つ。
否、山ではない。頭には天を突くように生えた象牙のような双角。悍ましいほど隆起する赤黒く変色した筋肉。
それは巨人。かつて日本最強と謡われていた軍人、大田原源一郎の残滓。成れの果ての姿であった。
「グ……ウウウウ………!」
暗黒の中で響く怨嗟の唸り。矛先は主君への反逆者である元次期村長である少年と始祖の女王を自称する少女、そして己自身。
天よりの福音を得て、護国の誇りは主君への忠誠へと変わっても尚、大田原のストイックな性格は微塵も変化しない。
魔聖剣の閃光に焼かれた目を異能『餓鬼(ハンガー・オウガー)』で回復させている中、天より降り立つの一人の少女。
Tシャツとスパッツというスポーティーな格好の成長期真っ盛りの小柄な体躯。
かつては快活な表情を浮かべていた幼さを残す姉に似た愛らしい顔立ち。
そして、漆黒の中でも一際美しく輝く黄金の右目。
彼女の名は女王。かつては日野珠と呼ばれていた少女の残骸。成れの果ての姿であった。
「やあやあ、私の愛しい戦鬼(くぐつ)。随分と派手にやられたみたいじゃないか」
少女は呑気な声と足取りで恐るべき悪鬼へと歩みを進める。
まともな神経の持ち主であるのならば生存本能が危険信号を発し、今の大田原に近づくことを躊躇うであろう。
だが、女王は臆さない。なぜなら眼前の悪鬼こそが自らが生み出した最初の眷属であるからだ。
女王の権能『眷属化』。『HE-028』感染者であれば、いかな異能を持っていようと逃れられる事は叶わず。
強靭な精神及び精神耐性系の異能であれば抵抗(レジスト)自体は可能だが、それは一時凌ぎにしかならない。
48時間が経てば例外なく女王の傀儡と化す運命にある。
「どれ、物の試しに魔王の力で治してあげるとしよう。傅きたまえ」
女王の福音に従い、自らの半分ほどもない小さな主君に対して騎士のように跪く。
珠の華奢な手が大田原の強面に当てられ、淡い光を放つ。早戻しのように見る見るうちに網膜の火傷が癒え、元の形に復元された。
「申し……ワけ……ありませ……ン……。我が……女王……ヨ……!」
「いやいや、そんな畏まるのは止してくれ。息が詰まりそうだ。もっとフランクに接してくれたまえよ」
機械人形のようにぎこちないながらも頭を下げて礼節を尽くす悪鬼に向かい、女王は面倒そうに左手を左右に振って答えた。
それでも尚、大田原は自らを諫めるかのように下げた頭を上げることはない。珠の殻を被った女王はその様子にため息を大きく溜め息をついた。
「まあいいさ。それが君の個性というのならば尊重しよう。そろそろ未来の話をしようか」
「……ト……申シ……ますと……?」
女王の言葉にゆっくりと顔を上げ、呆けた凶相を麗しき主君へと向けて問うた。
知性を失いつつある現人鬼に対し、悪戯っ子のような笑みを浮かべ、鈴を転がすような声で女王は言葉を紡ぐ。
「あの亡霊から奪い取った力の性能試験をしようと思ってね。思念世界――異世界においてはダンジョンだったかな?の構築と魔力による深層心理への干渉のテストだ。
幸いにもうってつけの被検体(ラット)が7人。飛んで火にいるなんとやら。うち2人は私の障害になりうる存在だ。」
◆
階段を降りる。
階段を降りる。
降りた先には仄暗い廊下が続いていた。
未来人類発展研究所山折支部第一実験棟地下3階にて。
不気味なほど静まり返った純白空間の中で、コツコツと断続的に響き渡る複数の足音。
その集団は4人。現状における最高戦力である虎尾茶子を先頭にリン、哀野雪菜と続き、隊列の最後尾には特務機関の若きエージェント、天原創。
「……妙ね。特殊部隊の連中は疎か感染した職員の気配すらしないなんて」
「……それどころか死体や人がいた痕跡すらも見当たらない。作り物じみていてあまりにも不自然です」
得物すら構えず、自然体のまま気を張り巡らせて気配を探る茶子の言葉。当初のような少し乱暴な男口調から打って変わり。作り物じみた女言葉に変わっている。
創はホルスターから取り出したリボルバーを手にかけ、奇襲を警戒しつつ返答する。
茶子と創。立場を超えた二人の戦闘者に挟まれた少女二人――リンは不安創は表情を浮かべ、茶子にくっついて歩き、雪菜はガラス片代わりの刃物として茶子に手渡されたマチェットを構え、視線を左右に動かしながら慎重に足を進めていた。
「雪菜ちゃん、身体はどう?そろそろ良くなった?」
「……ええ。貸してくれた包帯のお陰で、大分」
雪菜へ体調を尋ねる茶子。言葉とは裏腹にその口調は冷徹さを感じさせるほど事務的でこちらを慮っているようには微塵も感じられない。
影法師の少女と開講する前、破れた制服から着替えている最中に茶子が回復機能のある包帯を貸してくれたのだ。
彼女を導いてくれた恩師、
スヴィア・リーデンベルグのように善意でというわけではないと断言できる。
虎尾茶子は哀野雪菜に価値を見出している。
「取り敢えず、この部屋から調べてみましょうか」
不意に足を止め、一同へ振り返る茶子に雪菜と創は訝し気な視線を向ける。
茶子自身が言葉には出していないものの、創と似た雰囲気や内情を知り尽くしたような立ち振る舞い。
しかし、雪菜の背後で周囲に気を配る創や危ういと感じるほど使命感に駆られていたスヴィアとは違い、信用はできても信頼などできない。
常日頃人の顔色を伺ってきた経験から、雪菜は茶子が研究所の関係者ではないかと肌で感じ取っていた。
「……虎尾さん、この部屋の名称は?」
「少なくとも人間ぶっ殺しゾーンや死体隠しルームではないから安心なさい」
創の疑問に曖昧な軽口で返答し、推定研究所関係者は演劇少女へと視線を向ける。
茶子の目の前には白く塗装された鉄扉とドアノブ。
ああ成程。
気遣うように目配せする創へアイコンタクトを交わし、手に持ったマチェットを掌に当てた。
「天原くん。貴方のお姉さんのプレゼントはあの薬物だけではないのでしょう?」
怪談部屋の手前。地下3階の部屋の探索を粗方終えた後、「隠し事はなしといったはずよ」と創へと冷たい口調で問いかけた。
ほんの僅かだけ逡巡するも、素直に少年はウエストポーチからスマートフォンらしきデバイスと液晶画面のついた小さな機材を取り出した。
「スマホと、ポケットWiFi……?」
「いいえ、こいつらは上手く偽装された無線通信機と小型発信機ね。規格から見るに軍事目的で使用されるかしら?」
首を傾げる雪菜の問いに創が答える前に、虎尾茶子こと研究所施設特殊部隊最強『Ms.Darjeeling』が答えを言い当てる。
ブルーバードこと青葉遥は、目の前の『最強』や研究所そのものとの対決に備え、活性アンプルを含めて様々な準備をしてきたのであろう。
「貴女のおっしゃる通りです、虎尾さん。ですが、妨害電波が山折村に展開されている以上、無用の長物に過ぎません」
「でしょうね。奴なら私との戦闘を見越してこれくらいはやるでしょう。ハヤブサⅢとの害鳥コンビで厄介事を引き起こそうとしていたのは容易想像がつくわ」
イラついた口調で忌々し気にぼやく茶子。リンのいる手前か、汚い言葉や舌打ちを抑えているのが理解できた。
ハヤブサⅢ。裏の世界(アンダーグラウンド)においてはかの日本最強である大田原源一郎と並ぶ生ける伝説と化した凄腕の工作員。
創も一度、一度仕事でかち合ったことがあるが、その技能は一流を超えた一流であった。
であるならば、即ち――。
「彼女と、協力関係を結ぶという事で?」
「業腹だけど、そうね。即ぶち殺してやりたくなるくらいムカつく奴だけど、今は抑えるわ。
あのクソ女ならば、終里所長や梁木副所長との交渉も相当上手くやるでしょう」
過去にハヤブサⅢとの因縁があったのだろう。苛立ちと殺意を滲ませながら茶子はここにいない麗人を罵倒する。
そして、他の階層へ移動すべく、階段部屋の扉へ手をかけようとしたその時。
「――ねえ、チャコおねえちゃん」
「ん?リンちゃん、どうしたの?」
幼い声と共に服の裾を引っ張られ、茶子は動きを止め、創や雪菜への態度が嘘のような穏やかで優しい声色で答える。
視線を落とすと困惑と不安がない混ぜになった表情を浮かべるリンが茶子を見上げていた。
思えばこの階層に来てからずっとリンは以前の快活さが嘘のように大人しい。
リンは救われることのなかった過去の自分の生き写しだ。
あの「怖い家」のような空間を探索していくうちにトラウマが呼び起こされたのかもしれない。
しゃがみこんで視線を合わせ、努めて柔らかな笑顔と口調で幼子に語りかける。
「疲れちゃったのかしら?少し休む?」
「ううん。リンはまだつかれてないよ。でも――」
「大丈夫よ。お姉ちゃんは絶対に怒らないから。何でも言って」
愛する王子様の優しい口調に安心したのか、幼い姫君は表情を和らげて言葉を紡いだ。
「あのね、リンたちはなんかいもこのかいにきておなじおへやをさがしてるよ?
それに、リンたちはいつからまっしろなおへやにいたのかな?」
幼子の短パンのポケットから――正確には茶子に手渡された御守りが淡い光を放っていた。
◆
階段を降りる。
階段を降りる。
降りた先には仄暗い廊下が続いていた。
「一体どうなっているんだ……?」
薄闇に包まれた白亜空間の中、腰に二振りの刀を携えた少年――八柳哉太は一人、怪訝な表情で立ち尽くしていた。
彼の手には自身のスマートフォン。薄暗い周囲を照らすため、いつの間にか喪失していたマグライトの代用にライドアプリを起動しようとして、異変に気づいた。
(時間表示が信じられない早さで変化し続けている。それだけじゃない、日付表示も文字化けしている。何が起こっていやがるんだ……!?)
山折村には現在、妨害電波が展開され、スマホなどの通信機器は常時圏外になっており、外部への通信は不可能になっている。
しかし、録音アプリの音声再生やLINEなどのチャットアプリののメッセージ履歴の閲覧などのオフラインでも利用可能な機能には制限はかかっていない。
ホーム画面の日時表示もその一つだ。僅か数十分前まではオフラインでも正確な表示をしていた。
そして、哉太の懸念はもう一つ。
(それに、アニカ達は今どこにいるんだ……?)
『ここ』を共に訪れた筈のアニカ達6人の仲間が
行方知れずになっている。
何故か哉太一人で単独行動をする羽目になったせいか、一人で考え込んでいるうちに違和感に素早く気づくことができた。
ハウダニットーーどのようにしてここに迷い込んだのか。バスに乗っていた他のメンバーはどうしていないのか。
相棒の天才探偵の真似をして原因を探ろうとしても脳に霞みがかったような錯覚に陥り、自身の思考が強制的に中断される。
得体のしれない『ナニカ』の力によって深層意識を誘導・改変されているように思えてしまう。
何者かの異能による影響――それもリンの魅了(チャーム)のように意識下を改変してしまう精神干渉系ではないかと考えられる。
その容疑者の第一候補は、見えざる力――呪詛により魔王を破滅へと追い込んだ山折村の祟り神の一柱、『隠山祈』。
「何にせよ、俺一人じゃ解決の糸口が見つけられない。他の誰か、できれば仲間と合流できればいいんだが……」
思慮深い仲間達六人の顔を思い浮かべながらスマホのライトを起動させ、手始めに薄暗い足元を照らす。
「キィ」と小さな鳴き声が聞こえる。足元に目を凝らすと、そこには直立する20センチほどの淡褐色の体毛の小動物が一匹。
「実験動物のネズミ……?立ってるし、スチュアート・リトル的なヤツか……?」
視線を受けた山ネズミは二足歩行で哉太の前に出ると、「ついて来い」と器用に右前足を動かして、誘導しようとする。
「やっぱりスチュアート・リトルじゃねえか」という内心を口には出さず、彼(または彼女)の後をついていく。
曲がり角の手前で山ネズミは静止し、小さな前足の指で「見てみろ」とばかりに指差す。
ジェスチャーに従い、警戒を怠らずに覗き込む。視線の先にはやつれ切った表情を浮かべた長い黒髪の少女――かつて哉太が在籍していた山折高校の飼育委員長の姿。
「え……うさぎちゃん……?」
「また、哉太くん……なんだ……」
疲弊しきった様子のうさぎ。ブラウスの胸ポケットからひょっこりと金襴袋の御守りが顔を出していた。
「つまり、うさぎちゃんは階段を降りる度にここの反対側に出て、俺と何度もかち合わせになっていたってことか」
「うん。これで多分四回目。二人で一緒に階段を上り下りしても、反対側に出ちゃってる」
様々な種類の謎機材が立ち並ぶ部屋の中、少年と少女は床で向かい合うように腰を掛ける。
たまたま扉が開いていた曲がり角近くの部屋――細菌保管室というらしい――に入り、情報交換をすることになった。
哉太曰く、自分達は時間が歪曲された異空間にいるらしく、更に何者かの異能らしき力で潜在意識に干渉が行われていると考えた。
うさぎ曰く、時間だけでなく、空間さえも捻じ曲げられていると考えており、哉太と再会するのはこれで4度目。
階段を上り下りすると、いつの間にか哉太と離れ離れにになり、再び曲がり角で哉太と再会することを繰り返していたとのこと。
そして、二人共、バスを下車した記憶も地下研究所を訪れた記憶が存在せず、他の5人の仲間が行方知れずなのが共通していた。
「それに、私の異能もなんだかおかしくなってるみたい……。」
「確か、君の異能は時間帯で十二支の動物を召喚できるヤツだっけ?」
「うん。バスに乗ってた時はだいたい夜7時か8時くらいだったから、羊のメリーちゃんか三猿様が来てくれるって思ったの。
でも、来てくれたのはネズミのヤマネちゃん。どうなっちゃんだろう、私……」
憔悴した様子のうさぎ。
最愛の姉、犬山はすみの死。顕現した祟り神『隠山祈』との邂逅。友人である虎尾茶子との対立。そして、知らされた自らの出自。
犬山うさぎは宮司の娘という少し特殊な生まれでも、本質は普通の高校生。立て続けに起きた出来事に心が参ってしまうのも無理はない。
そんなうさぎを労わるかのように、山ネズミのヤマネちゃんが彼女の肩に飛び乗って頬を摺り寄せ、寄り添う。
うさぎの異能に怒っている事態は何なのか。それを探るべく、探偵の助手たる少年は思考を巡らせる。
時空が歪曲された空間による弊害か。それとも短時間で受けた莫大なストレスの影響か。
それとも、うさぎの前世――隠山望であることを自覚したことが関係しているのか。
いずれにせよ、心優しい少女に何らかの異変が起きていることに違いない。
それと、懸念はもう一つ。
「なあ、うさぎちゃん。さっきから気になっているんだが、君の御守り、何か光ってないか?」
「え……?あ、ホントだ。見てなかったら気づかなかった」
指摘を受け、うさぎは胸ポケットから御守り――住まいである山折神社から持ってきた――を取り出す。
哉太の言葉がなければ気づかない程の淡い光を放つ御守り。友人である春姫や同行者であるリンもそれぞれ一つずつ持っていると聞いた。
御守りを見ていると、何かが引っかかる。天才探偵の推理を間近で見てきた経験か、少年の直感がそう告げている。
相談する相手は目の前にいるのだが、彼女の疲弊しきった様子を見ると、心労をかけてしまうようで気が引ける。
「……少し休憩しよう。情報をまとめる時間が欲しい」
「……うん、そうだね。私も色々考えたいことがある」
「時間は15分くらいにしよう。時計は使えないけど、タイマーは使えるみたいだし、時間が経ったらもう一度話し合おう」
「分かった」
提案にうさぎは小さく頷きを返し、寄り添う山ネズミを撫でた後、壁に寄りかかって目を閉じる。
哉太もうさぎ同様、頭をリフレッシュさせるために警戒を怠らないよう気を張りつつ、小休止に入ることにした。
(ん……?なんでこんなに水減ってるんだ?飲んだ覚えはねえぞ)
サックから取り出した半分以上減ったミネラルウォーターのボトルを前に、少年は首を傾げる。
哉太が飲食したのはアニカ達と別荘での休憩が最後。それ以降は何も口にしていない。無論、茶子に渡された水にも口をつけてない。
『うん。これで多分四回目。二人で一緒に階段を上り下りしても、反対側に出ちゃってる』
不意にリフレインされるうさぎの言葉。もし、うさぎが何度も哉太と遭遇していたのなら、一緒に休憩したこともあったかもしれない。
新たな前提が付け加えられ、少年は再び思考を巡らせる。
(あ……!)
そこで、思い至る。
何者かの異能による潜在意識への干渉。
時空が捻じ曲がった空間で繰り返されるうさぎとの再会。
異変が起きたうさぎの異能と残量が減ったボトルの水。
そして――繰り返された記憶を保持するうさぎと保持できていない自分。
そこに、オカルトという要素が加わり、ピースが揃う。
自身のパートナーほどではないが、哉太なりに結論を導き出す。
解決の糸口となるのは、うさぎちゃんの御守りでないのか。
その推理を伝えるべく、多少の申し訳なさを感じつつもうさぎを起こすため、立ち上がるが――。
「え……ウサミちゃん!?他に誰かいるの!?」
「うおっ……!いきなりどうした?」
哉太が話しかける前にうさぎが飛び起き、きょろきょろと辺りを見渡す。
その勢いに押され、哉太は喉元まで出かかっていた言葉を飲み込んでしまう。
うさぎの肩に止まっていた山ネズミも驚き、床に落ちてしまった。
「あ……ごめんね、ヤマネちゃん。ウサミちゃんがそばにいた気がするんだけど、知らないかな?」
うさぎの問いに、「キイキイ」と鳴き声を上げながら、山ネズミは左右に首を振る。
小さな友達の反応に「そっか」と少しだけ悲しそうな表情を浮かべた後、うさぎは哉太へと向き直る。
「哉太くん。女の人の声が聞こえた気がしたんだけど、誰か来てなかった?」
「いや、俺ら以外ここにはいないぞ。それに俺には声どころか人の気配も感じない。
というか何かあったんだ?状況が掴めないんだが」
「あ、そっか。ごめん、少し混乱してた」
山ネズミの友達へと同じようにうさぎは哉太に謝る。
彼女にとって人間の友達も獣の友達も優劣がなく、どちらも大切に思っている。
「すぐ近くでヤマネちゃんの他に、白兎のウサミちゃんがいるような私を見つめている気がしたの。
それから、頭の中に『望、早く起きて。キミに危険が迫っている』って女の人の声がして。ごめん、ちょっと眠ってたから夢見てたのかも」
「望って、確かアニカ達が言うにはうさぎちゃんの前世?の名前だよな」
「そう、だと思う。それがどうかしたの?」
哉太の言葉に対してうさぎは怪訝な表情を浮かべて答えると、じっと彼の反応を待つ。
「休憩中、俺も情報整理して考えをまとめていたんだ。それで脱出の鍵になるっぽいものが浮かんできたんだ」
「え?それじゃあ……」
「ああ、少し早いけど、休憩を切り上げて情報に鮮度がある内に話し合おう。それで――」
哉太の言葉が止まり、うさぎの表情が強張る。
見えかけてきた希望を打ち消すかのような轟音が鳴り響く。
ずしゃ。
ずしゃ。
ずしゃ。
鉄杭を打ち付けるかのような轟音が断続的に響き渡る
明確な死の気配の接近を、扉越しに察知する。
忘却の彼方にいる主の正気を取り戻そうと、肩に乗った山ネズミが彼女の手を甘噛みする。
正気を取り戻した少女は、「新薬開発室」と書かれた部屋の扉も前まで移動し、いつでも脱出できるよう身構える。
若き天才剣士は刀を抜いて、廊下への入り口に陣取り、接近する強者との戦闘に備えて身構える。
そのまま、二人と一匹は息を殺して待ち続ける。
ずしゃ!
ずしゃ!!
ずしゃ!
ずしゃ。
ずしゃ……。
廊下に響き渡る足音は徐々に小さくなっていく。
幸いにも、こちらに気づくことなく、死の気配は遠ざかっていったようだ。
音で悟られぬよう哉太はドアノブに手をかけ、慎重に扉を開いて足音の正体を確かめる。
「………!?」
思わず息を呑む。
特撮の怪人のような3メートルを優に超える巨体。
隆起した岩山を彷彿させるような赤黒く変色し、盛り上がった筋肉。
頭蓋を突き破って出てきた天を突く角。
その体に纏わりつく生理的嫌悪を催す黒い靄のような『ナニカ』。
哉太の目に飛び込んできたものは、紛れもなく『鬼』であった。
◆
「急がぬか、山折の。でなければ山折村は手遅れになるぞ」
「んなこたぁ分かってらぁ!ごれが俺の出せる限界値なんだよッ!」
闇夜に染め上げられた山折村にて、一筋の閃光が尾を引く。
少年、山折圭介が目麗しい少女巫女、神楽春姫を背負いながら疾走する。
彼の腰には光輝く一振りの剣。女王の覚醒を機に宝聖剣ランファルトより新生した幼神の失われた名を冠する魔聖剣■■■。
剣から迸る魔力により圭介の脚力は強化され、一人の少女を背負っているとは思えぬ豪速で駆け抜ける。
かたや愛する想い人の意思。かたや神に愛された山折村の未来。
与えられた結末のためではなく、自らが掴み取る未来のため。王と女王は共に征く。
「うおッ!?」
「くっ……!足元に気をつけぬか、戯け」
足元の何かに躓き、勢いよく転倒する圭介。それに伴い春姫も地面に落とされ、少年の不注意に怒りをぶつける。
大田原との激突により、春姫の持つ天性の肉体は彼女自身が体験したことのない痛み――筋肉痛に苛まれており、満足に動くことのできないのが現状だ。
しかし、事態は火急を要する。故に魔力で肉体を強化された圭介が背負って移動をすることになった。
「真っ暗なんだから気を付けようがねえだろ。文句あるなら一人で歩けよ」
文句を言いつつも立ち上がり、ずり落ちた春姫に手を差し伸べようとする。
春姫もそれに応え、圭介の手を取ろうと差し伸ばし、手を止める。
「ん?どうした春」
「急かすな。足元を見よ」
「そこがどうかしたのか?」
「何かがそこにあるのだ」
圭介の躓いた先を指で指し示し、春姫は目線で彼に調べるよう命じる。
「少しくらい自分で動けっての」とぶつくさ文句を言いつつも、圭介は素直に応じた。
指し示した場所まで移動して視線を落とすと、割れた地面から生えた龍の装飾が施された柄。
掘り起こすと、現れたのは歪曲した幅広な片刃の中国刀、柳葉刀。
「……いつから俺らの村は剣が自生する危険地帯になっちまったんだ?」
「しかして、そのお陰で我らも助かっているのは事実であろう。喜べ、山折の。これで汝の武装も手に入ったわけだ」
「それってどういう――」
剣を掘り起こした圭介につかつかと春姫は歩み寄ると、止める間もなく彼の腰のベルトから宝聖剣の後釜にあたる魔聖剣を引っ張り出した。
「いきなり奪い取るのはなしだろ!」
「元はといえば山折神社に奉納されていた儀式剣よ。駄剣の後継でああるのならば妾の所有物に違いはあるまい」
「今ジャイアニズムを発揮してる場合じゃ……ああもう、好きにしろよ!」
「元よりそのつもりだ」
犬猿の仲ではあるが、圭介と春姫は幼少期より長い付き合いのある間柄である。
傲岸不遜な言い回しも謎の威圧感も慣れ親しんだものであり、止めようとしても無駄だという事は十年以上の経験で身に染みて理解している。
故に渋い顔をしながらも彼女の蛮行を止めることはしなかった。
圭介の様子など気にも止めず、全ての始祖たる巫女は新生した聖剣の柄を手に取り、高らかに宣言する。
「聞け、新たに生誕せし聖剣よ!今より汝の担い手はこの神楽春姫である!」
聖剣の魔力が流動する。しかし、生れ出た魔力は春姫に反発するかのように風の衝撃を放つ。
その勢いに押され、圭介は思わず後退り、たたらを踏んだ。
「おい!手を放せ春ッ!!理由は分かんねえけど、そいつはお前を拒絶してるッ!!このままじゃ……!」
「騒々しい……!主が何者か理解できぬか駄剣ッ!!その力は山折村(せかい)救済のためにある……!
故に、父と同じく妾に仕えるのが道理である……!妾に従え、聖け―――!」
瞬間、春姫の身体から眩い光が鼻たれ、周囲一帯を真昼の如く照らす。燦然たる閃光に呑まれ、圭介じは思わず目を閉じてしまう。
瞼が閉じられるその刹那、少年の視界には転倒する春姫。そして突如として顕現した――。
(白兎……?)
次第に光が弱まり、辺りは元の夜闇に包まれた草原へと戻る。
目を開けると、そこには倒れた始祖の巫女とその隣で地に伏せる一振りの聖剣があった。
聖剣に光は灯っておらず、代わりに弱い光を放つのは春姫の巫女服の袂の中の御守り。直感だが、子の御守りが強烈な光を放ったかのように思えた。
圭介が名を呼びながら圭介は倒れた春姫の元へと駆け寄り、彼女の容体を確認する。
「うう……」
「春ッ……!おい春!しっかりしろ!目を覚ませ!」
呼吸は止まっておらず、脈も安定おり、圭介は一先ず胸をなでおろす。
しかし、どれだけ身体を揺すっても起きる気配はなく、次第に心中に焦りが生じ出す。
「無理やりにでも止めるべきだったか」と悪態をつきながら揺すっていると不意に春姫の身体が起き上がる。
「ったく、やっと起きたか。心配かけさせんな……ってその雰囲気はいのりさん?」
「――大春姫は気絶してるだけっぽいから安心して。ごめんね、圭介君、あの子に変わって謝るわ」
柔らかな表情を浮かべた春姫――否、彼女と人格が入れ替わった厄災の権化、『隠山祈』が圭介へと頭を下げる。
紆余曲折の果てに、隠山祈は神楽春姫に救済され、その魂を春姫の中に封じられた。結果、いのりは春姫の肉体を間借りし、村人の味方として行動を共にしている。
春姫が意識を失った今、肉体の主導権はいのりにあり、今まで取り込んできた数々の異能を使えるのようになっている。
「いのりさん、哉太達――天原って子の行き先はどんな感じになんだ?」
「望……いや、今は犬山うさぎの気配ね。今は二つに分かれているみたい」
「あの7人の中にもう一人、春みたいな神社関係者がいたってことか?」
「多分そう、みたい」
隠山祈は怪異である。そのため怪異と相反する存在――神職関係者の気配を察知することが可能である。
スヴィア・リーデンベルグらにより事態収束の鍵を握るのは、若きエージェント『天原創』の異能だと彼らは推察している。
「二つに分かれたってことは、あいつらに何かあったのか?分断されたとか、グループ分けして行動することになったとかそんな感じか?」
「……一分断されたというのが一番あり得そうね。怪異としての感覚では少し離れたところにいるって感じがするけど、マタギとしての感覚だと彼らの気配を感じない」
「つまり、どういうことなんスか?」
「言語化するのは難しいけど、地下深くとかここにあってここにはない、こことリンクした別の次元に彼らが飛ばされたって感じかな?」
春姫が聞いていたなら罵倒していたであろういのりの回答。
首を傾げながら答えるいのりに、圭介もまた彼女と同じように首を傾げる。
頭を絞りつつ、いのりの抽象的なふわっとした言葉から、伝えたいエッセンスを抜き出す。
「つまり、あいつらは分断されて異空間に放り込まれたってことなんスかね」
「かなり無理やりな推理だけど、端的に言ってしまえばそうなるかな。心当たりがあるの?」
「あります。影の女の子――俺は神様って呼んでる子が、俺と俺の彼女を再会させるため、異空間を生み出していました」
「あの子が……うさぎが貴方達を……!」
女王の手により消滅させられた影法師の少女の事を聞いたいのりが悲痛な声を漏らす。
何故、影法師の少女を知り合いの飼育委員長の名で呼んだのかは気になるが、それを問い詰める時間はない。
哉太達7人の手掛かりはないか。周囲を見渡すと北の道路にマイクロバスが見える。
確か「あれはデイケア施設で送迎用に使われていたバス。集団の移動手段として使われていた可能性が高い。
「いのりさん、北にあいつらの移動手段に使ってたって思われるバスがありました。行きましょう」
「そうね。そこを調べれば何か見つかるかもしれないし、行きましょうか」
散らばる食べかけのサンドイッチ。壁に立てかけてあるスケートボード。床に転がるマグライト。座席に無造作に置かれているガラス片。
人がいた面影が残る車内は、夜闇に包まれ静謐を保っていた。
創達7人の手掛かりを探すべく、圭介といのりは人の痕跡が残るマイクロバスの中を手分けして調査していた。
「座席とかにはまだ体温が残ってる……。あいつら、神隠しにでもあったのか?いのりさん、どう思います?」
「……………」
「いのりさん?」
「……ああ、ごめんね。少し考え事してた」
呆けていた神楽春姫の姿を借りた怪異の女は、圭介の声ではっと我に返る。
彼女が想うのは想い人、神楽春陽か。それとも彼女を慕っている様子だった影法師の少女か。あるいは両方か。
いのりの様子を見る限り、春姫の意識が戻る様子はない。思わぬ所に手がかりがあるのかもしないから、少し話を聞いてみよう。
「いのりさん、そういえばついさっき神様のことをうさぎって呼んでましたよね。
俺の知り合いにも「犬山うさぎ」っていう名前が似たヤツがいるんスけど、関係があるんスか?」
「ああ、わたしと記憶を共有している春姫はともかく、圭介君には話してなかったね。それは――」
曰く、影法師の少女は神楽春陽の養子として引き取られ、いのりが彼女の名付け親であり、その名は「神楽うさぎ」でること。
曰く、神楽うさぎは祈の隠山望とは同い年の同性という事もあり、親友といっても良い間柄であったこと。
曰く、神楽うさぎの傍らには常に白兎が見守っており、彼女が悪戯をすれば白兎がいのりや春陽を呼んで叱らせ、彼女が落ち込んでいるときは慰めるように寄り添っていたこと。
曰く、神楽うさぎは春陽が不在の間、留守を任された神楽一族や隠山の里の民の推薦で、貴族としての教育を受けるために都へ留学したこと。
曰く、神楽うさぎが留学した数日後、何本もの鉄矢が突き刺さった白兎が山中で見つかり、可愛がっていた望が悲愴に暮れていたこと。
「それから、春姫から聖剣の記憶を読み取ったんだけど望はもう一度この世界で「犬山うさぎ」って覚の子孫として生まれ変わったみたいなの」
「つまり、うさ公の前世は「隠山望」って名前で、神様の友達だったってことでいいんスか?」
「そうなるのかな。他に何か気になることある?」
春姫が決してしない、穏やかな表情を浮かべて圭介へと問いかけるいのり。
別人だと分かっていても性悪な女王気取りと同じ顔ではなすため、どうも調子が狂い、自然と変な敬語が出てしまう。
「そういえば、話の中に白兎がいましたよね。春の奴が気絶した時に見た気がしたんスけど、そいつと関係あります?」
「……ウサミも、なんだね。確証はないけど、多分関係あると思う」
「名前、あったんですね。名付け親はいのりさんですか?」
「ううん、わたしじゃない。名前を付けたのはまだ小さかった頃の妹の望。神楽うさぎと同い年の子」
「そいつのこと、いのりさんは何か知りませんか?神様と一緒に空から降ってきた以外で」
「そうね……。ウサミは言葉は話せないけど、わたし達人間以上に知性を感じさせる存在だったわ。
わたしや春陽様よりも大人びた感じをしていたし、それに争い事を好まない優しい雰囲気をしていた。
まるで、わたし達を見守る神様みたいだった……」
かつての思い出を懐かしむような憂いを帯びた表情で言葉を紡ぐいのり。
ほんの数時間前は呪いを振りまく存在だったと春姫から聞いていたが、今の様子を見る限りそれが嘘のように思えてしまう。
「――――それは否。白兎は礼儀を知らぬ傲慢な獣ぞ」
突如、いのりの柔らかな雰囲気が掻き消え、天性の肉体に現れたのは高圧的な雰囲気の巫女、神楽春姫の人格。
穏やかな表情は跡形もなく消え去り、代わりに現れたのは美貌に似合わぬ厳めしい表情。
「うわっ、急に出てくるなよ。それになんでキレてんだ?」
「泡沫の夢幻にて、彼奴と相対したのだ。己が立場を弁えぬ傲岸不遜な在り様、所詮は獣であった」
美しい柳眉を吊り上げて怒りを露わにする春姫に圭介は気後れする。
十数年の付き合いの中で、ここまで感情を表に出す春姫を見たことがない。
始祖の巫女は慄く少年へとずんずんと足を進め、つい十数分前と同じように彼の腰から聖剣を引き抜いて目を閉じる。
その挙動で先程の出来事を思い出して思わず息を呑むが、聖剣はうんともすんとも反応しない。
良く見ると、巫女装束の袂から覗いていた御守りが光の粒子へと変わり、瞬きの後には跡形もなくなっていた。
「――やはり、何も起きぬか」
「何一人で納得してんだよ!さっきみたいなことが起こったらどうするつもりなんだ!」
「知らぬ」
春姫は圭介の叱咤など存ぜぬとばかりに受け流す。
無言で取り上げた聖剣を返すと、その代わりと言わんばかりに反対側に差した中国刀を鞘ごと手に取った。
この異常事態でも変わらない唯我独尊にある種の安心感を覚えてしまう。。
だが、長年の付き合いだからこそ気づいてしまう。
「妾はどのくらい意識を失っていた?」
「そうだな。大体30分くらいか?」
「成程。余計な時間を食ってしまったな」
唯我独尊を体現したその在り様も、傲慢さから見え隠れする知性にも陰りはない。
負傷はあれど、天性の肉体にも依然として変わらない。
しかし、直感で感じ取ってしまう。神楽春姫から言語化できない何かーー
「おい、春!窓の外見てみろ!ここから少し離れた場所に人が浮いている!多分あれは―――」
「おそらく日野珠であろうな。彼奴が此方へと向かわぬうちに天原とやらと……何?」
「春、どうした?」
「いのりが彼処から聖なる気配を察知した。急がねばならぬ。……何?代われとな?不服だが、背に腹は代えられぬ」
「応、少し休んでろ。いのりさん、さっきみたいに全力で走るぞ」
「了解!圭介君、魔力を自分の足に回して全力で走るのよ!でないと置いてくからね!」
――彼女を構成する大切な要素が永劫に失われてしまった。そう思えてしまうのだ。
【E-3/草原・マイクロバス前/一日目・夜】
【
山折 圭介】
[状態]:疲労(大)、眷属化進行(極小)、深い悲しみ(大)、全身に傷、強い決意
[道具]:魔聖剣■、日野光のロケットペンダント、上月みかげの御守り
[方針]基本.厄災を終息させる。
0.うさぎがいると思わしき場所へと向かう。
1.女王ウイルスを倒し、日野珠を救い出す。
2.願望器を奪還したい。どう使うかについては保留。
3.『魔王の娘』の願い(山折村の消滅、隠山いのりと神楽春陽の解放)も無為にしたくない。落としどころを見つけたい。
4.春……?
[備考]
※もう一方の『隠山祈』の正体が魔王アルシェルと女神との間に生まれた娘であることを理解しました。以下、『魔王の娘』と表記されます。
※魔聖剣の真名は『魔王の娘』と同じです。
※宝聖剣ランファルトの意志は消滅しましたが、その力は魔聖剣に引き継がれました。
※山折圭介の『HE-028』は脳に定着し、『HE-028-B』に変化しました。
【
神楽 春姫】
[状態]:疲労(極大)、眷属化進行(極小)、額に傷(止血済)、全身に筋肉痛(極大)、魂に隠山祈を封印、???喪失
[道具]:血塗れの巫女服、研究所IDパス(L1)、[HE-028]の保管された試験管、山折村の歴史書、研究所IDパス(L3)
[方針]
基本.妾は女王
0.うさぎがいると思わしき場所へと向かう。
1.女王ウイルスを止め、この事態を収束させる
2.日野珠は助け出したいが、それが不可能の場合、自分の手で殺害する
3.襲ってくる者があらば返り討つ。
[備考]
※自身が女王感染者ではないと知りましたが、本人はあまり気にしていません
※研究所の目的を把握しました。
※[HE-028]の役割を把握しました。
※『Z計画』の内容を把握しました。
※『地球再生化計画』の内容を把握しました。
※隠山祈を自分の魂に封印しました。心中で会話が出来ます。
※隠山祈は新山南トンネルに眠る神楽春陽を解放したいと思っています。
※隠山祈と自我の入れ替えが可能になりました。
隠山祈が主導権を得ている状態では、異能『肉体変化』『ワニワニパニック』『身体強化』『弱肉強食』『剣聖』が使用可能になりますが、
周囲の厄を引き寄せる副作用があり、限界を超えると暴走状態になります。
※神楽春姫から???が失われました。
◆
階段を降りる。
階段を降りる。
降りた先には仄暗い廊下が続いていた。
「ううう……くうう……!」
無機質な白で満たされた空間にて、一人の美しい少女が額に脂汗を滲ませて、苦痛に呻きながら歩みを進めていた。
少女の名は天宝寺アニカ。明晰な頭脳で数多の凶悪犯罪を解決し、このVHにおいてもブレーンとして収束の糸口を探し続けた金髪碧眼の天才探偵である。
そんな彼女は現在、突如として襲ってきた全身の痛みを堪えながら歩みを進めていた。
(バスに乗っていたと思ってたら、Laboratoryと思わしき場所にいて……。かと思ったら急に全身が痛くなって……。
それに、何度階段を上り下りしても同じ場所に出てる……。カナタ達もいない……。What is happening……?)
思考を回そうとするも途端に万力で締めあげられるような強烈な頭痛が襲い、思わずへたり込んでしまう。
何とか立ち上がろうと壁に手を着くも、バランスを崩して転倒してしまう。
この異空間に閉じ込められたことによる影響か。それとも単に疲労が積み重なったことによる発熱か。
(いえ、恐らくEnigmatic spaceに閉じ込められた影響ね。突然Fever due to headacheが起きるなんておかしいもの。
それに、持ち物も色々なものがいつの間にかなくなってるし、スマホのClockにも異常が出てる。
多分、だけどこの異常事態を引き起こしたMain culpritはMs.チャコの言っていたイヌヤマイノリ……かしら?)
しかし、可能性は低いながら単なる風邪の可能性も捨てきれない。むしろ、そうであってくれた方がありがたい。
ショルダーバッグの中から鎮痛剤を見つけ出し、飲料水で流し込む。少なくとも、気休め程度にはなるだろう。
それに、先程から頭の中で蟲の這いずるような奇妙な感覚が訪れている。
(女王を、守れ?女王に命を捧げよ?いったい何のことなの?Auditory hallucination?)
意味の分からない謎の暗示。自分の意思を無視しして操られるような、リンの魅了(チャーム)を彷彿させる言葉が何度も頭を過ぎる。
この異空間に迷い込んだのは自分だけなのか。それとも他の6人もどこか別の場所に転移させられたのか。
考えるべきことは山ほどある。やるべきこともたくさんある。しかし、謎の苦痛がアニカを襲っている現状で必要なのは薬が効くまでの一時の休息。
(First of all、この部屋で休みましょう……。少し楽になったら、カナタ達を探して、それで……)
ふらつく足に力を込めてを無理やり立ち上がり、手短にあった部屋――新薬開発室というらしい――のカードリーダーにL2パスを遠し、キーロックを解除する。
カチリと無機質な音が響き、ドアの解錠を確認してからノブを回し、音をたてぬよう、ゆっくりと鉄扉を開くと――。
「ふむ、成程。キミが運命線の見えぬ感染者か」
優雅に椅子に腰を掛けた少女が視界に映りこんだ。
アニカと少しだけ年の離れた少女は見た目にそぐわぬ大人びた仕草で語り掛けてきた。
「私の名は女王。キミたちが躍起になって探し求めていた存在だ。
肉体は日野珠という少女のものを拝借しているがね。よろしく頼むよ、天宝寺アニカ」
椅子から立ち上がり、歓迎するように少女は手を広げる。
淡褐色と黄金の色彩(オッドアイ)が覗き込む。
脳に巣食い出した蟲が蠢き、隷属(ほんのう)と謀叛(りせい)がせめぎ合う。
視界に入れた瞬間、体調不良で半ば酩酊しかけていた意識が急激に覚醒する。
五感から発せられる極大の危険信号が、生物としての本能を叩き起こす。
「くっ……!」
反射的に探偵少女は動き出す。
異能により肩のバッグから殺虫剤を取り出し、目の前の少女に向けて噴射する。
相手の無力化を図った、アニカらしくない短絡的な行動。
しかし、眼前の少女は目の前に黒曜石の盾を作り、放射された毒霧から身を守る。
(魔法!?なんで魔王のSkillを……!?)
「やれやれ、物騒な挨拶だ」
やんちゃな子供に手を焼いた大人のように、肩を竦めて苦笑する『女王』。
直後に霧を防いだ壁が崩れ、アニカの目の前には短機関銃を構えた少女の姿。
「ハロー、そしてグッバイ♪」
少女は死者を送るとは思えぬにこやかな声で引き金に手をかける。
銃弾が発射されるその刹那、アニカの異能が発動する。
自身の失態。魔王により失いかけた命。イヌヤマイノリと思わしき怪異との邂逅。
数多の要因による多大なストレス。それが重なり、「テレキネシス」が進化を果たす。
異能の範囲は変わらない。持ち上げられる重量にも変化はない。
だが、操作の精密性が格段に上昇した。その結果。
――ガシャン、と少女の手にあったサブマシンガンが握ったグリップを残し、パーツを床に散らばせた。
「ほう、ほう。土壇場で異能が進化を果たしたということか。
それに、銃もここまで綺麗に解体されるとは。テロリスト養成塾にでも通塾経験があるのかね?」
「No need ……to, answer……!」
余裕たっぷりの表情で問う女王に対し、息を切らせながら探偵少女は答える。
二か月前。大規模テロ事件に巻き込まれた際、突如現れた青髪の美女が「念のため」と言い、アニカと剣道少年に半ば強引に教えたのだ。
「まさかこんな場面で役に立つなんて」とハルカと名乗った彼女へと心中で感謝を述べる。
しかし、安心したのも束の間。目の前には未だ底を見せない女王。そして、アニカの周囲には切っ先を向けた黒曜石の長剣が展開されていた。
魔王との対決時、全身を串刺しにされた記憶が蘇り、アニカの明晰な頭脳に刻み込まれた恐怖と絶望がリフレインし、身を竦ませる。
「さようなら、良いチュートリアルになったよ。ハッピーエンドの先でまた会おう」
「……………カナタ……」
迫る絶命の剣。脳裏を過るのは自分に寄り添ってくれたパートナーの存在。
絶望し、目を瞑る探偵少女へと無慈悲にも死の刃が迫る。しかし――。
―――パリン。
「……え?」
ガラスが割れる様な音が密室に響き、閉ざした瞼を開く。
目の前で制止する形を失いつつある剣――切っ先から光の粒子へと変わり続けている。
そのすぐ後ろで軽く手を突き出した『女王』少女ーー余裕のある表情から一変、驚いて瞠目している。
『まもってあげて。あのこを、ひとりにしないであげて』
幻聴か、幻覚か。アニカのすぐ傍で、死に別れた筈の犬山はすみの気配を感じた。
「……成程。キミが九条和雄と同じ力を持つ存在か。少しだけ厄介だな」
ほんの少し、興味深そうな表情を浮かべて語り掛ける女王。
何故、今ここでクラスメートの名前が出てくるのか理解できない。
矢継ぎ早に女王はアニカの頭上から獄炎の塊を降らせる。
しかし、黒の剣と同じようにアニカを焼き尽くす前に、破裂音と共にその痕跡が掻き消えた。
(Perhaps、Mr.アマハラみたいに異能を無力する力なの?)
突如目覚めたとしか思えない「テレキネシス」に次ぐ異能。その要因は理屈ではなく心で察しはついている。
魔王との最初の対峙で命を落とした犬山はすみ。アニカ自身の殺されかけ、今際の際で感じた温かみと共に力が宿るのを感じた事を覚えている。
死に瀕したはすみが祈りを託した、と探偵少女は感じ取った。
ほんの僅かだけ、眉を潜めて考えこむ日野珠の殻を被った女王。
現状では魔王の力らしき異能を持つ彼女を無力化できる術をアニカは持たない。
導き出される最適解は逃げの一手。機を失わせて、この場から離脱し、何とか哉太ら仲間と合流する。
再び異能でバッグから高出力のスタンガンを取り出し、スイッチを解除して電流を走らせる。
狙うは脳に近く、皮膚が露出した首筋。考え込んで意識が此方に向いてない内に攻撃する。
顎に手を当てて考え込む仕草をする女王はまだ思考の最中にいるように思える。
ゆっくりと彼女の視界に入らぬように死角へと移動させる。
そして、首筋目掛けて迅速に飛ばすもーーー。
「気づいていないとでも思ったかい?」
届く直前に叩き落とすように少女の拳が振られ、頑強な特注スタンガンが粉々に砕かれ、その破片を床に散らばらせる。
奇襲に失敗し、アニカの背中に冷たい汗が流れる。すぐに気を取り直し、殺虫剤を取り出して視界を奪おうとする。
「――残念だが、むざむざと同じ手を食らうつもりはないよ」
拳を握りしめ、アニカの懐へと肉薄する女王。咄嗟に反応して後ろへと下がって回避を試みる。
しかし、探偵少女は格闘技は疎か喧嘩をした経験はない。思考が反射神経に追い付かず、振り抜かれた拳はアニカの腹部を強かに打った。
「が、ハッ……!」
衝撃により臓器が圧迫され、訪れた強烈な痛みでアニカは思わず膝を付いた。
咳き込み続けるアニカを『女王』日野珠は見下ろす。
「魔力付与(エンチャント)した打撃は、本来ならば鋼鉄をも砕くほど強化したつもりだったのだかねだが、これで漸く九条和雄の力の一片を理解できた。
ーーー異能と魔術問わず己の直接的に危害を加える『魔王』の力に対する絶対的な耐性。ふむ、実に厄介だが、素晴らしい力だ」
「天宝寺アニカ。お察しのとおり、君達が迷い込んだ異空間(ダンジョン)を作り出したのは紛れもなくもう一方の『イヌヤマイノリ』の力だ。
この研究所地下三階を模した空間は記憶を元に時空が切り離された異界。しかし、時間の流れは滅茶苦茶だが移動した距離は外部とリンクしている不思議空間。
尤も彼女の肉体が失った後に目覚めた力だかね。どうやら彼女自身が自覚してはいないが、次元の間とやら大部分の力を落としてきたらしい。
名前は……そうだな。彼女の名前は知らないが『不思議な世界へようこそ!(イン・ワンダーランド)とでも名づけようか」
「が……ァ……!」
密室の中、14歳の中学生が12歳の小学生の首を片手で締めあげ、宙に持ち上げる。
宙吊りになった探偵少女は女王の腕に爪を立て、必死に苦しみから逃れようとするも、その力が弱まることはない。
女王が強化したのは手首から下の腕力。アニカの首を締めあげてる握力は日野珠のものだ。
そこまで強い力ではないからこそ安易な絶命は許されず、徒にアニカを苦しめる羽目になっている。
「目的は君達集団の分断。完全には覚醒していない以上、まだ天原創の力で元の魂を追い出してもらうわけにはいかないからね。
ついでに私の傀儡も放っておいた。吸収した『イヌヤマイノリ』の一柱の厄を集める力と魔王の力、少しだけ強化を施しておいたのさ。
それと時空が歪み、意識が誘導されてたのが気になっていただろう?ガワだけの伽藍洞に魔王の力と私の精神干渉を合わせてみたんだ。
結果はまあ、そこそこ上手くいったと思うよ。キミの様子を見る限り、宵川燐(よいかわりん)の異能と同じ効力を発揮しているみたいだ」
「……ぅ……ぐ……」
頸動脈が圧迫され、徐々に意識が白み始める。
探偵としての矜持か。その状態でも尚天宝寺アニカの脳は女王が語り出す真相を聞き逃していない。
「欠点といえば、巻き込んだ私自身も巻き込まれた君達も出る場所はランダムだってことだ。
本当はキミともう一人の運命線が見えない感染者を一緒くたにして私が傀儡の元に送り込もうと画策していたがね。
ま、実用には程遠いが一先ず及第点だ。君と残りの雑多を分断できただけでも良しとしよう。
何故君に話したのか疑問に思った顔だね。ただの情報整理さ。口に出した方が効率よく考えを纏められる。壁に向かって話すのは空しいんだ」
「……ぁ……」
言葉の終わり、更に強い力で首を締めあげられる。
逃れようと必死に動かしていた手足の力も既にうしなわつつある。
肉体から魂が乖離していく奇妙な感覚が訪れる。
少しずつ狭まってくる視界。その端に映るのは淡い光球(オーブ)
『まだ、諦めてはいけない。生きたいと願うのならば手を伸ばすんだ』
光の中から聞こえるのは穏やかな女性のソプラノボイス
光球(オーブ)はアニカのすぐ近くまで迫ってきている。
自分を絞殺しようとしている女王はその光に気付いている様子はない。
身体に残る最後の力を込めて、手元まで迫った光球(オーブ)に手を伸ばし、掴んだ。
瞬間、密室で目を眩ます強烈な閃光が炸裂した。
「なーーーー!?」
女王の驚愕の声が聞こえ、アニカの首を掴んでいた力が緩む。
振り落とされたアニカは地面に尻餅をつき、臀部に痛みを感じた。
先程まで首を絞められていたはずなのに不思議と苦しみはない。
目を丸くするアニカの前にはいつの間にか現れ、こちらをじっと見つめる白兎。
ふと、何かを握りしめていることに気が付き、掌を見る。
そこには金襴袋の小さな御守り。意志を持っているかのように淡い光を放っていた。
「ーーーく、目が……!?」
「一体、何が……?!」
膝を付いて両手で目を覆い、悶える『女王』日野珠。
呆然とするアニカの足にに何か小さい物が当たったような感覚。
視線を下げると、ふわふわの毛並みの白兎が、アニカをじっと見つめている。
そして、再び聞こえる女性の綺麗な声
『ここから出よう。私が君を導いてあげる』
(このWhite Rabbitは一体どこから出てきたの?Experimental animal?)
未だ全身を襲う痛みを堪えながら逃れた探偵少女は疾走する。
彼女の前方には駆ける白兎――思い浮かぶのは仲間の犬山うさぎが召喚した動物達のような雰囲気。
駆け出した先は階段部屋。女王感染者と遭遇する前、階段を上り下りして何度も同じ場所に舞い戻ってしまった場所。
『大丈夫、心配しないで。必ず君も、君の友達も助けるから』
アニカの不安を感じ取ったかのように、白兎(のものと思われる)声が聞こえる。
脱出の糸口が見つからない以上、目下の白兎を信じるほかはない。
L意を決して2パスを使用して鉄扉を開き、無機質な階段を下る。
―――瞬間、辺りに再び眩い光が広がる。
目を開けると、そこは夜闇に包まれた草原のど真ん中。
研究所の面影はどこにもなく、柔らかな夜風が幼い少女の身体を撫でる。
いつの間にか、全身の痛みもなくなっている。
「戻って、きたんだ……!Thank you!Ms.Rabbit…あれ?」
導いてくれた白兎に感謝の言葉を述べようとするが、その姿はいつの間にか掻き消えていた。
返答代わりに、アニカの手にあった御守りが「どういたしまして」と答えるようにほんのりと熱を帯びた。
「とにかく、カナタ達に今あったことを伝えなくちゃ…!」
女王との邂逅。はすみの決死の行動によって付与された『九条和雄』と同じ力。そして、白兎の存在。
伝えなければいけないことが山ほどある。それに、仲間達の行方も分からない。
決意を新たにし、天才探偵、天宝寺アニカは夜に駆ける。
【E-2/草原/一日目・夜中】
【
天宝寺 アニカ】
[状態]:異能理解済、衣服の破損(貫通痕数カ所)、疲労(大)、精神疲労(大)、悲しみ(大)、虎尾茶子への疑念(大)、強い決意、生命力増加(高魔力体質)眷属化進行(極小)
[道具]:殺虫スプレー、斜め掛けショルダーバッグ、ビニールロープ、金田一勝子の遺髪、ジッポライター、研究所IDパス(L2)、コンパス、飲料水、医療道具、マグライト、サンドイッチ、天宝寺アニカのスマートフォン、羊紙皮写本、犬山家の家系図、白兎の御守り
[方針]
基本.このZombie panicを解決してみせるわ!
1.早く皆と合流して、「Queen Infected」の事を知らせなくちゃ!
2.私を助けてくれたMs.Rabbitの事、ウサギに聞いてみましょう。
3.あの女(Ms.チャコ)の情報、癇に障るけどbeneficialなのは確かね。
4.やることが山積みだけど……やらなきゃ!
5.リンとMs.チャコには引き続き警戒よ。特にMs.チャコにはね。
[備考]
※虎尾茶子と情報交換し、
クマカイや薩摩圭介の情報を得ました。
※虎尾茶子が未来人類発展研究所関係者であると確認しました。
※リンの異能を理解したことにより、彼女の異能による影響を受けなくなりました。
※広場裏の管理事務所が資材管理棟、山折総合診療所が第一実験棟に通じていることを把握しました。
※犬山はすみが全生命力をアニカに注いだことで、彼女の身体は高魔力体質に変化し、異能『魔王』に対する強力な耐性を取得しました。
※『神楽うさぎ』の存在を視認しました。
※日野珠が女王感染者であることを知りました。
※白兎の存在を確認しました。
◆
薄暗い廊下の中、4人の男女が階段部屋の前で一塊になっていた。
「つまり、今まで私達は何度も階段を上り下りして、その度にお部屋を調べたことを忘れちゃってたってことなの?」
「うん。はじめはチャコおねえちゃんにもなにかかんがえがあるんじゃないかっておもってたんだけど、おなじことをなんかいもくりかえしていたの。だいたい4かいくらい。
それで、なんかへんだなあっておもったんだけど、リンおかしいこといってないよね?」
「ううん。むしろその逆でお姉ちゃんとっても助かったわ。教えてくれてありがとうね、リンちゃん」
勇気を出して報告してくれたリンに感謝の言葉を述べ、茶子は幼い功労者を抱きしめた。
幸せを顔いっぱいに浮かべた幼子と彼女の勇気を褒める研究所関係者を尻目に、若きエージェントと演劇少女は共に怪訝な表情を浮かべる。
「つまり、今僕達がいる研究所を模したこの空間は何者かの異能で作られた場所である可能性が高い……ということですか」
「仮にそうだとしたら、天原さんの異能を無効化する右手で触れた瞬間に私達は外に出られるはずよ。でも、天原さんが壁に触れてもそうはならなかった」
雪菜の言葉に可能性を否定され、創は頭を悩ませる。
自身の右手は異能で構築された者を現実に返す「細菌殺し(ウイルスブレイカー)。それは化の強大な魔王ですらも例外ではない。
だとするのならば、バスに乗車している最中に何者かの異能により催眠状態で研究所まで移動させられた?
だとしたなら、何故ここまで回りくどいやり方をした?下手人の目的は何だ?
一つ一つ情報を整理しながら、早熟の天才は頭を回し続ける。
「ーーー恐らく、下手人は『イヌヤマイノリ』だ」
不意に、それぞれ施行を巡らせている創と雪菜の耳に澄んだ女性の声が届く。
視線を向けるとリンの肩に手を置いた茶子が二人を見据えていた。
「――九条和雄と対峙した怪談使い『七不思議のナナシ』。彼は異空間にクラスメートを閉じ込めて殺し合いを画策したらしい」
ぞっとするような冷たい声で淡々と述べる茶子。バスの中で話し合いをしていた時、茶子の口から出てきた怪談使い。
九条和雄を起点に発生した、現代科学では説明のつかない摩訶不思議な超常現象。
息を呑む創と雪菜の前で、茶子は言葉を続ける。
「情報源によれば、九条和雄達は元凶である七紙光太郎の本当の願望を叶えた後、出口を探し出して異空間を消し去ったと書いてあった」
情報源とやらは仲間の天才探偵、天宝寺アニカの持つスマートフォンの事だろう。
無断でプライバシーを覗き見たことについては一先ず置いておく。
「……ですが、僕がこの空間の物体に右手で触れても何も起きませんでした。異能と違う、怪異には聞かないという事でしょうか?」
「半分正解で半分外れだと思っているわ。私の推理にはなるけど貴方が右手で触れた瞬間、認識できない早さで無力化された壁が再生していると思えるの。
それに脳に干渉が行われて認識を操作されている考えられている今、空間の揺らぎにはきづけなかったんじゃない?
他には九条和雄が出口になっていた屋上への階段を上った際、何か白い塊のようなものを見たらしいの。
それに和雄が触れると辺りに光が広がって、気づいたら屋上じゃなくって正面玄関の前に他のクラスメート達と一緒にいた。
恐らく、出口らしき場所から出る際に現れた白い塊とやらが怪異の『核』なんじゃないかしら?」
アニカのスマートフォンから調べた情報から一つの解を導き出し、茶子はリンを伴って、鉄扉の前に立つ。
茶子の視線を受けて、雪菜はマチェットを手に取り、刃を掌に当てた。
白い手から溢れ出す鮮血。傷は体に巻き付けた包帯の力で少しずつ塞がっていく。
手の上に溜まった酸性の血液を、ノブに零して無理やり扉を開いた。
茶子とリンが階段部屋に入り、傷が治った雪菜に続いて創も扉の中へと入る。
「天原さん、後はお願いします」
目の前に現れた出口と思わしき上階と下階へと続く階段。その手前で相を信頼する雪菜の言葉と視線。
雪菜の反対側では茶子とリンが腕を組んで創を待っていた。
「ーーーよし」
意を決して一人、階段を上る。
徐々に白み始める視界。薄れていく感覚。意識を何とか保ちながら階段を上り続ける。
そして創の視界に映る一人の少女の後ろ姿。それに手を伸ばす。
ふと、少女が振り返る。
ショートカットの黒髪。
動きやすそうな服装。
そして――普段の快活さとは違う、物憂い気な感情を宿した双眸。
「ーーーー珠さん?」
ーーーパリン。
彼女の肩に手を触れた瞬間、ガラスが割れたような音が耳に届く。
白い視界が開けると、そこは割れた道路の前であった。
冷たい風が4人の身体を撫でつける。
視線を北に向けると、何故か草原のど真ん中に放置してあった。
「もどって……これたの?」
沈黙を破ったのは異空間脱出の鍵となった幼い少女、リン。
それに答えるように、保護者である茶子が安心させるよう優しく彼女の肩へと手を置いた。
謎の異空間からの脱出は成功した。しかし、一同に喜びはない。
八柳哉太、犬山うさぎ、天宝寺アニカ。分断された仲間3人は未だ行方知れず。
哉太、うさぎ両名と親交があった茶子はここにはいない祟り神「隠山」を睨むように遠方へと視線を向けていた。
何気なしに、ウエストポーチから通信不能と思われている発信機を取り出し、スイッチを入れる。
驚愕に創は思わず目を見張る。ディスプレイに点群が灯る。即ち――
創の様子を察したのか、肩に雪菜の手が置かれる。
「天原さん、どうかしました?」
「通信が、復活した…?」
「ーーーは?」
創の言葉に茶子が驚愕の声を上げ、懐からスマートフォンを取り出す。
しかし、すぐに肩を落とす。その直後、怒りの表情を浮かべたまま創へと歩み寄り、胸倉を掴んだ。
「てめえ、付くならもっとマシな嘘をつきやがれ!!」
「チャコおねえちゃん、どうしたの?!」
「虎尾さん、やめて!」
怒りを察知した雪菜とリンは茶子を宥めようと駆け寄る。
少女二人の慌ただしい様子など気にせず、茶子は創に罵声を浴びせる。
憤怒の形相を浮かべる茶子を見据え、創は言葉を紡ぐ。
「く……復活したのは軍用通信みたいです……!恐らく、特殊部隊に何らかの動きがあったんだと思います……!」
「……チッ。だったら安易に言うんじゃねえよクソ中坊」
舌打ちと共に手を放し、若きエージェントへと毒づく研究所関係者である剣姫。
リンは不安そうな顔で茶子に抱き着き、「怖い所見せてごめんね」と申し訳なさそうに言う保護者に頭を撫でられる。
雪菜は茶子へと怒りの一瞥をくれた後、創に駆け寄って心配そうに見つめる。
「ーーー次は、ハヤブサⅢとの合流を目指しましょう」
痛々しい沈黙の中、最初に口を開いたのは不和の元凶になった虎尾茶子。
「他の仲間達はどうするのか」と聞こうとしたが、血が滲むほど拳を握りしめた彼女の様子を見て、やめた。
仲間を捨て置く判断をするのは、茶子としても苦渋の判断だったらしい。
創とて哉太ら3人の安否が心配だ。傍らにいる雪菜も、茶子の傍で不安そうな表情を浮かべるリンも同じだろう。
創を先頭に4人は歩き出す。
「…………願望器……か……」
夜風に運ばれてきた耳に届いた昏くか細い声。
先程まで怒りをあらわにしていた茶子の言葉。
理由は分からないが、その言葉に創は不安を掻き立てられていた。
【F-2/道路/一日目・夜中】
【
虎尾 茶子】
[状態]:異能理解済、疲労(特大)、精神疲労(中)、山折村への憎悪(極大)、朝景礼治への憎悪(絶大)、八柳哉太への罪悪感(大)、????化
[道具]:ナップザック、医療道具、腕時計、木刀、長ドス、八柳藤次郎の刀、ピッキングツール、アウトドアナイフ、護符×5、モバイルバッテリー、袴田伴次のスマートフォン、研究所IDパス(L2)
[方針]
基本.協力者を集め、事態を収束させ村を復興させる。
0.創の持つ小型発信機に従い、ハヤブサⅢと思わしき人物と接触する。
1.有用な人材以外は殺処分前提の措置を取る。
2.顕現した隠山祈を排除する
3.リンを保護・監視する。彼女の異能を利用することも考える。
4.未来人類発展研究所の関係者(特に浅野雅)には警戒。
5.朝景礼治は必ず殺す。最低でも死を確認する。
6.―――ごめん、哉くん。
7.…………願望器、ねえ。
[備考]
※未来人類発展研究所関係者です。
※リンの異能及びその対処法を把握しました。
※天宝寺アニカらと情報を交換し、袴田邸に滞在していた感染者達の名前と異能を把握しました。
※羊皮紙写本から『降臨伝説』の真実及び『巣食うもの』の正体と真名が『隠山祈(いぬやまのいのり)』であることを知りました。
※月影夜帳が字蔵恵子を殺害したと考えています。また、月影夜帳の異能を洗脳を含む強力な異能だと推察しています。
※『神楽うさぎ』の存在を視認しました。
※『神楽うさぎ』の封印を解いた影響で■■■■になりました。
【リン】
[状態]:異能理解済、健康、虎尾茶子への依存(極大)、不安
[道具]:メッセンジャーバッグ、化粧品多数、双眼鏡、缶ジュース、お菓子、虎尾茶子お下がりの服、御守り、飲料水(残り半分)
[方針]
基本.チャコおねえちゃんのそばにいる。
1.ずっといっしょだよ、チャコおねえちゃん。
2.アニカおねえちゃんたち、だいじょうぶかな?
3.チャコおねえちゃんのいちばんはリンだからね、カナタおにいちゃん。
4.いのりちゃんにまたあえるかな?
[備考]
※VHが発生していることを理解しました。
※天宝寺アニカの指導により異能を使えるようになりました。
※『神楽うさぎ』の存在を視認しました。
【
天原 創】
[状態]:異能理解済、記憶復活、疲労(特大)、虎尾茶子への警戒(中)
[道具]:ウエストポーチ(青葉遥から贈られた物)、デザートイーグル.41マグナム(0/8)、スタームルガーレッドホーク(6/6)、ガンホルスター、44マグナム予備弾(30/50)(
ジャック・オーランドから贈られた物)、活性アンプル(青葉遥から贈られた物)、通信機、小型発信機、双眼鏡
[方針]
基本.パンデミックと、山折村の厄災を止める
0.小型発信機に従い、ハヤブサⅢと思わしき人物と接触する。
1.全体目標であるVHの解決を優先。
2.災厄と特殊部隊をぶつけて殲滅させる。
3.スヴィア先生を探して取り戻す。
4.あれは、珠さん……?
5.虎尾茶子に警戒。
[備考]
※上月みかげは記憶操作の類の異能を持っているという考察を得ています
※過去の消された記憶を取り戻しました。
※山折圭介はゾンビ操作の異能を持っていると推測しています。
※活性アンプルの他にも青葉遥から贈られた物が他にもあるかも知れません。
※『神楽うさぎ』の存在を視認しました。
※軍用通信が解除されたことで小型発信機でハヤブサⅢの通信機を追跡できるようになりました。
【
哀野 雪菜】
[状態]:異能理解済、強い決意、二重能力者化、異能『線香花火』使用による消耗(中)、疲労(大)、虎尾茶子への警戒(中)
[道具]:バール、スヴィア・リーデンベルグの銀髪、替えの服、包帯(異能による最大強化)、マグライト、マチェット
[方針]
基本.女王感染者を探す、そして止める。
0.小型発信機に従い、ハヤブサⅢと思わしき人物と接触する。
1.絶対にスヴィア先生を取り戻す、絶対に死なせない。絶対に。
2.虎尾茶子は信頼できないけれど、信用はできそう。
[備考]
※叶和の魂との対話の結果、噛まれた際に流し込まれていた愛原叶和の血液と適合し、本来愛原叶和の異能となるはずだった『線香花火(せんこうはなび)』を取得しました。
※制服から着替えました。どのような服装かは後続の書き手様にお任せします。
※『神楽うさぎ』の存在を視認しました。
◆
轟音が轟く。破壊音が鳴り響く。
白い空間の中、黒い靄を纏った巨人が壁を破壊しながら、視界に入った獲物を追い続ける。
獲物は男女二人。聖刀を手に持つ剣士、八柳哉太と肩に山ネズミを乗せた少女、犬山うさぎ。
二人は息を切らせながら背後から襲い来る脅威から逃れるため、白亜の廊下を疾走していた。
(クソ、閉所じゃまともに剣を振るえそうにない!それどころか回避も難しい……!)
斬撃を無効化する特異な体質と驚異的な身体能力を持つ魔人『気喪杉禿夫』。
未来予知に近い直感を持ち、恐るべき剣術にて村人の鏖殺を企てた血に飢えた剣鬼『八柳藤次郎』。
天原創、山折圭介、八柳哉太の3人を同時に相手取り、死に際に大暴れした特殊部隊員。
山折圭介を依代にして世界の支配を目論み、魔法という未知の力を以て暴虐の限りを尽くした『魔王ヤマオリ・テスカトリポカ』
いずれも哉太がこれまで対峙してきた相手。彼らを打倒した経験を余すことなくその身に還元した天才剣士は、襲い来る『鬼』との戦闘は不利だと判断。
最悪、自分どころか庇護対象であるうさぎを巻き込んで死なせかねない。
故に、取った決断は逃げの一択。
「哉…太くん、この先は階段部屋……!行き止まり……だよ!」
「でも今のところ、そこしか奴から隠れられそうな場所はない!」
息を切らせて問いかけるうさぎに事実を突きつける。
うさぎが言うには、階段部屋の扉は鍵が掛かっていない。上り下りさえしなければ、背後の脅威から逃れられる可能性が高い。
『異変』は記録した媒体には適応されない。万が一、逃げるために階段を使用したとしても残した記録を見れば記憶が消えていても状況を把握できるはずだ。
「じょ……おう……敵……、排除……!」
黒い靄をまき散らしながら、赤鬼は哉太達を追走する。
最早一刻の猶予もない。哉太の前で全力疾走するうさぎは意を決して階段部屋の扉を開き、中に飛び込んだ。
哉太もうさぎに続いて部屋へダイブし、ドアを閉める。怪物の勢いは止まらず、迫りくる死の気配。
怪物はこちらを抹殺すべく、壁をぶち破るに違いない。記憶が消えるのを承知で階段を降りるほかはない。
哉太と同様にうさぎも覚悟を決め、下り階段へと足を運ぶ。
「ーーーあ」
「く―――」
漂白が始まる意識。薄れゆく記憶。視界が閉ざされる瞬間、の目の前に飛び込んできたのは哉太に背を向け、扉の前に立つうさぎと彼女に縋りつく白兎。
『ーーー望。この先へは行かないでくれ。この扉の先に行ってしまえば、君は……!』
「…………」
『お願いだ!君には幸せな天寿を全うして欲しいんだ!これ以上、私に大切な人を失わせないでくれ……!』
「…………」
『私達12体がこの世界に訪れたのは、君に幸せになって欲しいからなんだ!君に使い潰されても良い!君の友も助けると約束する!だから―――』
「……ごめんね、ウサミちゃん。貴方達も私にとっては大切な友達なの。だから、死なせたくない』
『ああ……ああああ……!!』
薄れゆく意識の中、哉太の目に映ったのはm悲愴な声を上げる白兎と扉の先へと足を進める犬山うさぎ―――隠山望の姿。
目を開けると、そこは夜闇に包まれた草原に哉太とうさぎは立ち尽くしていた。
哉太の手には淡い光を放つ聖刀。研究所らしき空間にいた記憶も存在している。
十数メートル先には、つい先程まで襲い掛かってきた黒い霧を纏う鬼。
そして、哉太の傍らには―――。
「うさぎ……ちゃん……?」
「うん。私だよ、哉太くん」
肩に山ネズミを乗せた纏う雰囲気がガラリと変わった少女――犬山うさぎの姿。
こちらに気付いた途端、全力で向かってくる戦鬼。
哉太が身構えると同時に、うさぎも手をかざす。
「お願い、来て――――」
【D-2/草原/一日目・夜中】
【
八柳 哉太】
[状態]:異能理解済、疲労(特大)、精神疲労(大)、喪失感(大)
[道具]:脇差(異能による強化&怪異/異形特攻・中)、打刀(異能による強化&怪異/異形特攻・中)、双眼鏡、飲料水、リュックサック、マグライト、八柳哉太のスマートフォン
[方針]
基本.生存者を助けつつ、事態解決に動く
0.うさぎちゃんと共に鬼を討伐する
1.アニカを守る。絶対に死なせない。
2.村の災厄『隠山祈』の下に残してきた圭介を救出したい。
3.村の災厄『隠山祈』を何とかしてあげたい。
4.いざとなったら、自分が茶子姉を止める。
5.ゾンビ化した住民はできる限り殺したくない。
[備考]
※虎尾茶子と情報交換し、クマカイや薩摩圭介の情報を得ました。
※虎尾茶子が未来人類発展研究所関係者であると確認しました。
※リンの異能及びその対処法を把握しました。
※広場裏の管理事務所が資材管理棟、山折総合診療所の地下が第一実験棟に通じていることを把握しました。
※『神楽うさぎ』の存在を視認しました。
【
犬山 うさぎ】
[状態]:感電による熱傷(軽度)、蛇・虎再召喚不可、深い悲しみ(大)、疲労(大)、精神疲労(極大)、???
[道具]:ヘルメット、御守、ロシア製のマカノフ(残弾なし)
[方針]
基本.少しでも多くの人を助けたい
1.村の災厄となってしまった隠山祈を助けたい
[備考]
※『隠山祈』の存在を視認しました。
※自身が『隠山祈』の妹『隠山望』であることを自覚しました
※異空間に閉じ込められたことにより、異能「干支時計」に変化があります。
※白い空間の中で、白兎と対話しました。
【
大田原 源一郎】
[状態]:ウイルス感染・異能『餓鬼(ハンガー・オウガー)』、眷属化、脳にダメージ(特大)、食人衝動(中)、網膜損傷(再生中)、理性減退
[道具]:防護服(内側から破損)、サバイバルナイフ
[方針]
基本.女王に仇なす者を処理する
1.女王に従う
[備考]
女王感染者『日野珠』により強化を施されました。
◆
「まったく、してやられたな」
草原の上空にて。日野珠は腕を組んで下界を見下ろしていた。
取り逃した天宝寺アニカ。絞殺する直前で彼女は何もない虚空に手を伸ばていた。
その瞬間、突如炸裂した閃光が運命視を持つ眼を封じ、魔王としての力を失わせた。
「だが、良い傾向だ。少しずつではあるが、私自身も進化しつつある」
しかし、取り逃がしはしたものの天宝寺アニカとの対峙で、得たものもある。
体感する己の進化。奪い取った魔王の力だけではない、新たな異能も目覚めつつある。
「おや?マイクロバスから誰かが……ああ、誰かと思えば尻尾を巻いて逃げた二人じゃないか」
下界を見下ろすと目視できる二つの点群。ダンジョンの中にいた時は未だ敗走を続けていたと記憶している。
山折圭介と神楽春姫。二人は草原に向けて驚異的な速さで疾走している。
「飛んで火にいるなんとやら……ってところか。ついでだ、脳に負荷を与えて異能の覚醒を早めるか」
夜闇の中、女王は不敵に嗤う。
彼女の右目に映る未来―――誰もが満ち足りた世界(ハッピーエンド)。
「さて、私が望む『Z』を始めよう。
【E-2/草原上空(飛行中) /一日目・夜中】
【
日野 珠】
[状態]:疲労(小)、女王感染者、異能「女王」発現(第二段階途中)、異能『魔王』発現、右目変化(黄金瞳)、頭部左側に傷、女王ウイルスによる自我掌握
[道具]:研究所IDパス(L3)、錠剤型睡眠薬
[方針]
基本.「Z」に至ることで魂を得、全ての人類の魂を支配する
1.Z計画を完遂させ、全人類をウイルス感染者とし、眷属化する
2.運命線から外れた者を全て殺害もしくは眷属化することでハッピーエンドを確定させる
[備考]
※上月みかげの異能の影響は解除されました
※研究所の秘密の入り口の場所を思い出しました。
※『Z計画』の内容を把握しました。
※『地球再生化計画』の内容を把握しました。
※女王感染者であることが判明しました。
※異能「女王」が発現しました。最終段階になると「魂」を得て、魂を支配・融合する異能を得ます。
※日野光のループした記憶を持っています
※魔王および『魔王の娘』の記憶と知識を持っています。
※魔王の魂は完全消滅し、願望機の機能を含む残された力は『魔王の娘』の呪詛により異能『魔王』へと変化し、その特性を引き継ぎました。
※魔術の力は異能『魔王』に紐づけされました。願望機の権能は時間と共に本来の機能を取り戻します。
※戦士(ジャガーマン)を生み出す技能は消滅し、死者の魂を一時的に蘇らせる力に変化しました。
※異能「???」に目覚めつつあります。
最終更新:2024年06月12日 22:45