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咲夜2

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■咲夜2


酷く熱かった。
頭はズキズキ痛むし、身体の節々も痛む。
鼻の奥が詰まって気持ち悪い。
ボロ布で鼻をかんだら、鼻水がベットリついていた。
ゴミ箱に捨てて、脇に挟んだ体温計を取り出す。
古式奥ゆかしい水銀式の体温計は、40のところで止まっている。
「ちっともよくなってねえな……」
枕元に体温計を置いて、布団の裾を引っ張りあげた。
あと3,4日はベッド暮らしになるだろう。
陰鬱な気持ちで、布団の中に潜り込む。

数日前から、俺は高熱を出して寝込んでいた。









――こん、こん。
寝込んでいる俺の元に、ドアをノックする音が届いた。
誰だか知らないが、来客はあまり歓迎できない。
今の俺は風邪でうんうん唸ってる身分である。
客の相手をするのは辛いし、なにより移したら大変だ。
「ハンサム星人○○は、ただいま留守にしております」
御用のあるお客様は……と続けようとしたが、ドアの向こうからの声に遮られた。
「つまらない冗談はいいわ。入るわよ」
いいともダメとも言わないうちに、ドアが開いてひとりの人物が入ってくる。
銀の髪が目をひく、鋭い眼差しをしたメイド服の女性。
――十六夜 咲夜。紅魔館の殺人メイド長である。
このぶしつけな客に、俺は布団にくるまったまま応対してやった。
「何の用だか知らないが、俺はご覧の通り病人だぞ?」
「知ってる。だから、見舞いと看病に来たの。
お嬢様に頼まれてね」
「最後の一言が無けりゃ、素直に感動してたんだがな」
「お見舞いひとつで感動なんてしていらないわよ」
彼女は愛想なく言って、手にさげていた袋をテーブルの上に置いた。
「そいつは?」
「おみやげ。林檎とか、蜜柑とか」
「あーん、とかしてくれる?」
林檎でやるのは変な気もするが、細かいことはスルーしよう。
咲夜は溜息をついて、「……バカ」 と言ったあと、
「ところで、ちゃんと御飯たべてるの?」
「森の新鮮な空気を、腹いっぱい吸ってるぜ」
「……何もたべてないのね」
食べなきゃ治らないわよと。
肩をすくめて、咲夜は台所の方に向かった。
「何かつくってあげる。どれくらいなら食べれそう?」
「……固形物は口にできそうにない」
「了解」
俺の調子を聞くと、さっそく作業にとりかかる。
ここに来たことは一度くらいしか無いはずだが、物の場所で迷ってる風は無かった。
さすがは殺人メイド長。
妙に感心しながら、俺はぽつりと呟いた。
「しっかし、レミリアが見舞いをよこすとはなあ……」
正直、あいつには嫌われていると思っていたのだが。
「あら、お嬢様は貴方をとても気にいってるのよ?」
「凡人の分際で偉そうな俺をか?」
「偉そうなくせに実は気の弱い貴方が、可愛くてしかたないんですって」
むむむ。ロリッ娘の分際で生意気な。
「ふん、俺は橋の上をスキップで渡るくらい強気ですっての」
「どっちなんだか、私は分からないわね。
逃げ出した件があれば、爆弾の件もあるし」
咲夜が言ってるのは、つい数週間前の出来事である。
俺が、この幻想郷に住むようになった、きっかけの出来事。












野山の探検が好きな俺は、ある日、山登りをしていて遭難した。
草木を掻き分け、さ迷っているうちに、偶然たどりついてしまったのである。
――この幻想郷に。
そんな俺の前に現れたのが、腹ペコのレミリア=スカーレット。
血を吸おうと迫る彼女に、抵抗することも出来ず。
吸われる寸前、苦し紛れに言った台詞が、俺の命を救った。
「あと一ヶ月ありゃあ、お前なんか倒すくらい強くなってみせるのになあ」
この台詞に、レミリアは原作のワムウの如く乗ってきた。
「面白いわ。凡人が一ヶ月で吸血鬼に勝てるのか? 試してみましょう」
そう言って、霧雨魔理沙なる魔法使いに俺の育成を任せたのである。
彼女は嫌そうにしながらも、結局引き受けてくれた。

一ヶ月の特訓は、想像を絶する苦しいものだった。
何度も諦めかけた。逃げ出しかけたこともある。
しかし、魔理沙に支えられて、俺はなんとか低級妖魔くらいの力をつけた。




レミリアとの決戦は、一方的な展開になった。
修行したとはいえ、俺の力など彼女の前では虫ケラ同然。
レミリアは俺を侮り、いたぶることに夢中になった。
力を小出しにして、必死に抵抗する俺を嘲笑って。

やがてそれにも飽きたのか。
つまんない。そう呟いた後、一瞬で。
殆ど反応も出来ないまま、俺は腕を引き千切られた。
――意識が白く焼けた。
次の瞬間、襲ってきたのは悶絶するほどの激痛。
恍惚の表情を浮かべ、レミリアは千切った腕の血を啜る。
俺が狙っていた展開どうりに。
――数秒後。
轟音を発して、俺の腕が爆発する。
さすがに防げず、レミリアは千々の肉塊と化した。

この展開を予期して、腕と脚に炸薬を仕込んでいたのである。
千切られたら爆発する、ウドンゲ印の時限装置。
腕一本と引き換えに、かろうじて俺は勝利を収めた。

再生したレミリアは、悔しげながらも俺を認めてくれて。
一ヶ月の間で幻想郷をすっかり気に入った俺は、ここに永住することを決めたのだった。













しばらくして、咲夜はお盆にカップをふたつ乗せて戻ってきた。
せっかく作ってくれたのだ。受け取るべく、俺は身体を起こそうとしたが、
「いつつ……お、起きれん……」
身体の節々が痛み、あえなくダウンする。
なんてこった。うら若き10代の漢が、まるでギックリ腰のじーさんだ。
「重症ね……仕方ないか」
咲夜はテーブルにお盆を置いて、布団を剥ぐと、俺の後首に手を回した。
「ちょ、咲夜……?」
「いいから、もう一度起きてみなさい」
支えるくらいで痛みが和らぐとは思えないが、再び身体を起こしてみる。
「……あれ?」
今度は痛みもなく、すっと起きることが出来た。
どういうことだろう。目でカラクリを問うと、
「昔、美鈴に習ってね。私も多少“気”を使えるの」
「ふうん……ま、たいしたもんだ。お陰で起きれたよ」
なんだか、少し体調も良くなった気がする。
咲夜は微かに笑んで、湯気をたてるカップをひとつ取ると、
「これは持てる?」
「どうだろな……ん、大丈夫」
握力も弱まっていたが、物を持てないほどでもなかった。
受け取ったカップの中には、濃い色の液体が入っている。
漂う甘い香り。微妙な酸味。これは多分……
「はちみつレモン、か」
「ご名答。飲めそうになかったら、残していいわ」
「いや、ありがたく戴くよ」
丁度こんな感じの飲み物が欲しいと思っていたのだ。
熱さに気をつけて、そっと口をつける。
口の中に広がっていく透明な甘味。
懐かしい味だった。よく母親に作ってもらったことを思い出させるような。
「……美味い」
吐息にまぜて、俺は素直な感想を零した。
「どういたしまして」
咲夜は心持ち嬉しそうな顔を見せて、自分もカップに口をつけた。



はちみつレモンを啜りながら、俺たちはたわいもない雑談をかわした。
「やっぱりさ、風邪ひいた時と冬はコレだよな」
半分ほど減ったカップの中身に目をやり、しみじみ呟く。
「玉子酒なんかも有名じゃない?」
「いやいや、あれは全然ダメだ」
「……どうして?」
首を捻る咲夜に、俺は素晴らしい実体験を聞かせてやった。
「一度、風邪ひいた時に飲んでみたことがあるんだよ。
そしたら……おもくそ悪化したんだ。いやマジで」
「貴方がお酒に弱いだけでしょ」
「な、なんだって―――」
言われてみればそうかもしれない。
酒を飲んだことはそれなりにあるが、美味いと思ったことは殆ど無かった。
「そうか、俺は酒に弱いのか……」
「……なんで落ち込むのよそこで」
「だって……酒に弱い漢なんて、格好つかないじゃん」
痛みも悲しみも、酒とともに飲み込んで隠す。
涙見せぬ孤高の漢が、酒を呷って微かに見せる哀愁はたまらないのである。
「貴方はそういうタイプじゃないと思うけど」
「憧れてるだけだっての。それに、酒が飲めないと宴会とか付き合えないだろ」
幻想郷の妖どもは、たいていが酒飲みである。
俺がこの郷に来る数ヶ月前など、三日おきに酒盛りをやってたらしい。
伊吹とかいう鬼にハメられて仕方なくやってたというが、みんな酒好きなのは間違いない。
「飲めないなら、ジュースとかミルクで付き合えば?」
「……絶対みんな大笑いするぞ。○○ちゃんはおこちゃまでちゅね――とか言って」
「実際お子さまじゃないのよ」
「お子さまじゃないやい。十八のうら若き好青年だっての。
……あ、そうか。あんたは三十路だったっけ」
ほんの冗談のつもりで、そう言った途端。
――カッ!
横髪を数本かすめて、ナイフが壁に刺さっていた。
「……てっとりばやく、熱を冷ましてあげましょうか」
爽やかな微笑みがメチャクチャ怖い。
「スンマセン、調子に乗りすぎました」
敵が第二射を放つ前に、俺は平謝りしていた。
「まったく……八雲紫だったら、今頃スキマ送りよ」
「ジョークひとつでスキマ逝きかよ……やれやれ、ここの連中はほんと短気だな」
外界から隔離された幻想の郷。
気のままに生きるのは結構だが、少しは愛と平和の大切さを知ってほしいものだ。
「やはり俺が愛を教えてやるしかあるまい」
「……なにが愛だか」
「ふふん、今に見てろ。お前だってデレデレさせてやるからな」
このツンデレメイドがデレデレする様は、さぞかし萌えることだろう。
夢溢れる俺の言葉を、咲夜は、
「私を口説くつもりなら、十回生まれ変わって出直してくることね」
ばっさり切って捨てた。
「むむう、俺の何が不満なんだ」
「はっきり言って全部」
○○にかいしんのいちげき!
「うぐっ……そりゃあないよ咲夜さん。どうダメか、はっきり指摘してくれないと」
「それじゃ訊くけど。私を甘えさせられるくらいの強さが、今の貴方にある?」
それは……ない。
未だ日々を生きるだけで精一杯の有様だ。
ルーミアやチルノより弱い俺は、買出しに人里へおりるのにすら危険が伴う。
「……確かに、今は弱い」
それは認めなくてはならない。
単に戦闘力だけではなく、俺はきっと精神だって弱い。
例えばこの郷の少女たちの心が深く傷付いた時、支えになることが出来るか?
答えはノーだ。なぐさめにすらなるまい。
「でも、俺は強くなる。強くなってみせる。
紫と弾幕ごっこが出来て、えーりんをデレデレさせられるくらい。
みんなに認められるくらい、強くなるんだ」
遥か遠い目標。
夜空の星よりも遠く、たどり着くのは不可能とさえ思えるけれど。
漢の目標はそれくらい困難なものでなくてはなるまい。
「そして……幻想郷ハーレムを完成させてやる。絶対に」
青年よ、大志を抱け!
雄々しい俺の野望を、咲夜は理解出来ずに嘲笑う……ことは無かった。
俺を見つめる咲夜の目は虚ろに、どこか違う場所を見ている。
「おい、咲夜……」
「ん、あ……なに?」
「どうしたんだよ。実は咲夜も体調悪かったのか?」
心配して言う俺に、咲夜は首を横に振って、
「ちょっとね、考えてたの」
「何をだよ」
「今の、バカバカしいハーレム妄想について」
バカバカしいと言いながらも、表情に呆れた色は無い。
「今の私たちは、きっと幸せだわ。
普段は気ままにのんびり過ごして、たまにみんなで大騒ぎして。
こんな日々がずっと続けばいい。そう思えるくらい。
……だけど、そんな毎日もいつかは終わる」
わずかに俯いて、咲夜は言葉を続けた。
「五十年もすれば、私や貴方は寿命を迎える。
数百年で、大半の妖怪、妖精も死ぬでしょう。
お嬢様は妹様、パチュリー様と元の静かな暮らしに戻って。
幽々子や妖夢は冥界から出ることはなく。
輝夜は兎たちが居なくなって、いっそう妹紅との殺し合いに興じるようになるわ」
俺は黙ったまま頷いた。
多分、咲夜の予想はそのまま現実になるだろう。
「お嬢様たちにとっては、それはそれで楽しい暮らしなのかもしれない。
でも、私は……寂しいものとしか思えないのよ。少なくとも、今に比べたら」
「ならさ、あんただけでも吸血鬼になって寄り沿ってやれば?」
「それは出来ない。きっと霊夢や魔理沙も断るでしょう。
幽々子や輝夜が誘ったとしてもおんなじ。
断る理由はそれぞれだけど、説得してもきっと気持ちはかわらないわ」
「薄情なやつだな。愛するご主人様だろ?」
「……全てのものは変化するわ。人も、妖も、この世界さえも。
だから幸せな日々だって、足掻いたところでいつかは喪われてしまう」
だけど。
微苦笑を浮かべて、咲夜は言った。
「貴方がもし、私たち全員を骨抜きに出来るくらい、強く優しい素敵な男性になれたら。
幸せな日々をそのまま、永遠に出来るかもしれない。
――そんな、夢物語を想像してみたの」
ほんとにバカバカしい、夢みたいな話だけどね、と。
そう言って、咲夜は肩をすくめた。
「――バカバカしくなんてないさ」
強い語調で、俺は否定する。
なぜなら。
「それはまさに――俺が目指すところだからな」
幸せが永遠で何が悪い。
今の暮らしが永遠で何が悪い。
永遠にみんなを愛し、愛される。それが俺の夢。
「さあ、まずはキミが俺の胸に飛び込んで―――イタっ!」
咲夜に突っ込みチョップを喰らって、俺は再びベッドに倒れた。
チョップで倒れる弱々しい我が身が悲しい。
「痛いじゃないか。首のあたりがグキっていったぞ、グキって」
「調子に乗るからよ。あと三日はそうして寝込んでなさい」
呆れた風に咲夜は言ったが。
頬がほんのり染まっていたことには、突っ込まずにおいた。
――ハーレムマスターへの道程は、まだまだ遠い。


やがて、ふたつのカップも空になって。
「まったく貴方は……起きてるとろくな事を言わないわね」
言いながら、咲夜は俺の額の汗をタオルで拭い、そっと手で触れた。
やわらかな温もりが、心地よく頭部を癒す。
「本当に癒されてる気がする……」
「癒してるわよ。さっき言ったでしょ、私も“気”を使えるって」
なるほど、体調が少し良くなったように思えたのは気のせいではないらしい。
「つまり、咲夜の愛で癒されてるわけだな」
「まあ、病人を労る程度の愛は持ってるわね」
簡単にあしらわれてしまった。
「軽口たたくより、大人しく寝てた方が治りが早いわよ」
「ちぇっ……仕方ない、そうするよ」
しぶしぶと言った口調で、俺は目を閉じた。
実はそろそろ眠たかったのだ。
「子守唄はいる?」
「いらない。それじゃ御休み……」
咲夜の手の温もりが、心地よく眠気を誘って。
まどろみに、俺はそっと意識を委ねた…………















青年が眠りについたのを確認すると、咲夜は手を離して立ち上がった。
もう少し彼の眠りを見守っていたかったが、自分には仕事があるのだ。
「それに、後で魔理沙あたりも見舞いにくるでしょうし」
幸せそうに眠る、あどけない青年の顔を見つめる。
自分や紅魔館の皆、幽々子らや永遠亭の連中さえ落としてみせると言った青年。
とうてい実現不可能なことだが、この青年ならやるかもしれない。
事実、魔法のまの字も知らない凡人の身で、初級とはいえ一ヶ月で魔法を身に着けて。
まぐれだとしても、レミリア=スカーレットを撃破して見せたのだ。



そして、一番やっかいなのは。



この青年を、自分が気に入っているということだった。
今は好意止まりだが、これが愛情に変わらないとは自信が持てない。



「簡単には落ちてあげない。だけど……」




青年の頬に顔を近付け、そっと口付ける。




「早く、私を落としてみせなさい。
人間の私たちは、すぐに老いてしまうんだから」




顔を離して、やわらかに微笑み。
十六夜咲夜は、青年の家を後にしたのだった。

2スレ目 >>217

───────────────────────────────────────────────────────────

「冷えてきたな……」
雪のちらつく窓を眺め、やや温くなった紅茶を飲みながらポツリと呟く。
俺、○○が此処、幻想郷と呼ばれる異界に来てはや半年。季節は冬を迎えている。

運の悪い人間はそのまま妖怪に食われてお陀仏らしいが、何の因果か俺は吸血鬼のお嬢様が治める屋敷「紅魔館」で働いている。血を定期的に吸わせる事を条件に。
そのお嬢様――レミリア――曰く、「ただの気紛れよ。それ以上でもそれ以下でもないわ」、らしい。
まあ家も無い、金も無い、これといった特殊な力も無い、と無い無い尽くしの俺としては願ったり叶ったりだったが。
自己紹介で門番の名前を聞いて呼んだら涙を流して喜ばれたのも、その数日後に他のメイド達と一緒にレミリアの妹――フランドール――に殺されかけたのも今となってはいい思い出だ。……良くねぇ。

「ああ、あの時はマジで走馬灯と三途の川見れたんだよなぁ。フランの奴、すっげー嬉しそうに突っ込んできたし……」
初撃の大技でメイド長を庇って(他のメイドに投げられて壁にされたとも言う)大火傷。意識を失った俺は詳しい事は知らないが、聞くところによると、間一髪の所でレミリアが間に合ったらしい。流石は吸血鬼。
全身大火傷、両腕にいたっては肩まで炭化寸前までいったが、奇跡としか言いようの無い魔法とか薬のお陰で今は五体満足でいる。ビバ、ファンタジー。

「あー、現実逃避は終わったか? 私はそろそろ帰るぜ? 紅茶とお菓子ご馳走さん。私としてはもう少し濃い方が好きだな」
白黒の魔法使いによって急速に現実に引き戻される。畜生、勝手に飲み食いしやがって……



……事の始まりは数分前。今日の仕事も終わって自室で一息ついていた所にソレは来た。



「おーい、○○。いるかー?」
「魔理沙か? 開いてるぞ」
いつでもジャイアニズム全開なコイツともそれなりに長い付き合いだ。俺の世界のブツを偶に持ってくるし。PSXにはマジで驚いた。だが使えねぇ。
「お邪魔します、と」
静かにドアを開ける魔理沙。しきりに横を気にしながら。
「どうした? いつもならドアをぶち破らんばかりの勢いで来る癖に」
「いや、な。驚くなよ? ……絶対に驚くなよ?」

……イキナリ嫌な予感がする。俺の理性と本能と第六感が全会一致で「コイツを追い出せ、コイツの訪問を無かった事にしろ」、と警報をかける。
当然それに逆らう理由もなく、
「かえr「マスタースパークとミルキーウェイ、どっちだ?」……了解」
理不尽な暴力に屈する俺。議会もお手上げ。……クソッタレだ。
「で、今日はどうした? 部屋にも入ってこないし。なんか持ってきたのか?」
完全に諦めた俺はおとなしく話を聞くことにした。無力な俺を笑わば笑え。ただしマスタースパークを食らった後でな。
「ああ……ちょっと向こうを向いててくれ」
「? ああ」
言われるままに窓に目をやる。
ズルズル……
なにかを引きずる音が聞こえる。
ボフッ
俺のベッドに乗せたらしい。嫌な予感が止まらない……
「よし、いいぜ。頼むから大声を上げないでくれよ? 私の命に関わるんでな」


なにやら物騒な事をのたまう魔理沙。振り向いたその先には……


「……働きすぎだな、俺。遂に幻覚が見えるようになったか」
「私にも見えるぜ。お揃いだ。やったな」
「笑えねぇ。笑えねぇ冗談だ。寧ろ夢だな。夢だと言ってくれ……」


本物にしか見えない犬耳とふさふさな尻尾が生えた状態で気絶している、ここのメイド長、十六夜咲夜だった……



――で、冒頭に戻る。



「待て、いくらなんでもこれは似合いすぎて俺の理性が危険でピンチでメルトダウン寸前だぞ? てか本人の部屋に連れて行けよ。どこにあるのか知らんが」
「悪いな。私もメイド長の部屋を知らないんだ。他のメイドに聞くのもマズイだろ? バレるし。そこでお前に白羽の矢が立ったわけだ。近かったし。良かったな」
「ああ。まったくだ。感激のあまり涙が止まりそうにない。で、アレは本物なのか? お前の趣味とかだったら本気で引くぞ? 後説明もしてくれ。詳しくな」
「心配しなくても本物だよ。まあ、そのなんだ。図書館から拝借した魔道書を早速試したくてだな」
「……たまたま通りかかった咲夜にかけたらこうなったんだな?」
俺のベッドを占領しながら気持ち良さそうに寝ている咲夜を眺めながら問い詰める。が、答えは無い。ちなみに姿も。
「逃げたな……G」
テーブルの書置きには「後は任せる。効果は半日ぐらいで消えるらしいから安心しろ。解呪は出来ないらしいけどな。骨は拾ってやるよ。万が一バラしたら……」、となんともありがたいお言葉が書かれていた。ジーザス。
Gとは主に台所に生息する通称「黒い悪魔」だ。気配無く消える所とかそっくり。
生命力は折り紙つき。いまならお友達価格。そーなのかー。

「……アホか、俺」
さて、受信してないでいい加減真面目に考えよう。
事態は単純ながら深刻。限りある選択肢の先はDEAD ENDで一杯だ。
特に何気にピコピコ揺れてる尻尾と犬耳。動物好きな俺を悶死させるのに十分な破壊力。
しかもここにいるのはいつもの完全で瀟洒なメイド長ではなく一人の無防備かつ可憐な犬耳少女。
相乗効果でダメージ限界突破、みたいな?
髪を撫でてみる。サラサラだ。手入れが行き届いてる。
せっかくだから耳を撫でてみる。おおっ! ふにふに!
「んっ……」
次、尻尾。ふわふわの天然モノだ。いつもの癖で思わず強めに握ってしまう。
「んぅっ……」
なんていうか、可愛いな。
ヤバ、ムラっと来た。寧ろこのままおいしくいただいても……

……オイ! ウヲイ! マジで落ち着け俺! (ガン!)
さっきからナニしてる!? (ガン!)
思考が破綻シテマスヨ!? (ガン!)
死亡フラグを自分で立ててどうする!? (ガン!)
額からナイフを生やしたいのか!? (ガン!)

「はあ、はあっ……ヤバかった……」
思いっきり壁に頭を打ち付けることでなんとか平静を取り戻す。紅い染みが出来たがあえて無視。
とりあえずコイツが起きるまでは待っていよう。で、ナイフが飛んでくる前に原因を説明する。完璧だ。
魔理沙の報復が怖いが、流石に殺されはしないだろう……多分。
せっかくだから俺はこの生存率の高い(と思う)選択を選ぶぜ!
……いや、普通にメイドを呼んでもいいんだが、後で「十六夜咲夜非公式ファンクラブ」に殺されそうだし。
このシチュエーションは絶対に危険だ。他人には見せられない。魔理沙……覚えてろよ……

今はいない魔理沙に恨みを込めていると、ふとベッドの上の彼女と目が合った。
壁の音で目を覚ましたんだろう。清々しいまでの自爆っぷりだ。
「おい、大丈夫か……?」
やるだけやった(と思う)。後は神に祈るか……




中途半端な所で続く




犬耳な咲夜さんを書きたかった。
後悔はしていない。
後編もきっとこんな感じ。寧ろ加速?
妄想全開のアホ文章で申し訳ない。

>>295

───────────────────────────────────────────────────────────

掃除をしていると美鈴が薄気味悪い笑みで話しかけてくる。
「咲夜さぁーん! 昨日はお楽しみだったみたいですねぇ。ウッシッシ!」
「な、何を根拠にそんな事を……」
すると美鈴が、首のある部分をチョンチョンと指差す。
「誤魔化そうとしても無駄ですよ。しっかり愛の証のキスマー……」
美鈴が言い終わる前に時止め、部屋に確認しに行く。ついでの美鈴にお礼は忘れない。
「ク。あれ、いなくなってる。っていうか何よ! いつもよりナイフ量多くない!少しからかっただけなのにぃ!」
館に美鈴の叫び声が響く、いつより二倍の量だ。さすがに今日は復帰はできないだろう。
もし奴がこのことを喋ったら……。 よし!館のみんなに中華料理を振舞ってあげましょう。
「それにしても油断してたわ。昨日は疲れてて、あんなことするつもりなかったのに……」
と、昨日こと思い出したのか鏡の前でモジモジ(死語)している。その様子を○○とお嬢がこっそり覗く。
「あんた達ちょっとは自重しなさいよ。最近、館の風紀が乱れまくりよ」
「そうはいいますがね、お嬢。ベットでまるで子犬のような目で今日はするの? なんて聞いてくるわけですよ。」
「それは、たまらないわね。さすが瀟洒ッ! ツボがわかってるぅ!」
「いやいや、これもお嬢の教育の賜物です」
人目も気にせず、廊下でクマカカカッ!と二人で笑う。
「あら、楽しそうですわね」
「あ、あら咲夜いたの…」
「いましたよ。突然ですが、お嬢様は最近お太りになられたみたいなので一週間おやつは抜きです」
「そんな!ヴァンパイアライフの最大楽しみ! お・や・つが一週間もお預け!うぎぎぎ! 終わった何もかも!」
ガシャンと窓をブチ破り、陽光降り注ぐ外に飛び出してゆく。輝く太陽の下でお嬢はおやつに会えるかな
だって食べたいーんだもん。
「あんたは、これから妹様の遊び相手よ。思う存分イタズラしてきなさい。」
「望むところ!といいたいが無理!あれは真性のS! こっちがヒギィされる」
レーヴァテインを○門に突っ込まれる。ものすごく熱いです…。まちがいなく逝かされちゃう!
「存分にヒギられなさい。さようなら」
ああ、私の人生は終わた。最後に!
「咲夜さん大好きです! 愛してます!! 結婚してください!!!」

4スレ目 >>69

───────────────────────────────────────────────────────────

「ああ、暇だ……」

 いきなりだが本当にやることが無い。
 趣味と実益を兼ねて始めた“人里からマヨヒガまでお気軽に”が謳い文句の宅配便は休みの日だし、いつも楽しみしている天狗の新聞も今日はお休みらしい。特別な日、との事だ。
 それにしても……今日って何の日だっけか。

「ま、いっか」

 そう切り捨てて疑問を窓の外に投げ捨てる。覚えてないって事は大した日でもないんだろ。

 さて、本気で暇でも潰すか……。
 抗う事の許されない世界意思の元、即座に俺は思考を光速で展開させていく。

 ――青年妄想中。

 ……そうして数十分が経過し、某大作RPGも裸足で逃げ出す壮大な冒険と数多の犠牲の果てに勇者の証である伝説の光のメイド服を手に入れた霊夢が、第七世界全てを支配する魔王であるミスティアの居城である屋台で世界中の元気を集めた茶碗と魔女っ子ステッキを手に半裸で阿波踊りを狂ったように踊り始める所まできて――、

 ――コンコン。

 そんな控えめなノックの音が聞こえた。そして混沌極まる妄想は、瞬時にそれを生んだ混沌に飲み込まれる。次は無い。
 しかし誰だ? 文なら普通に玄関なぞブチ破ってくる筈。よく薬の材料を注文しにくるえーりんさんはノックせずに入ってくる筈だ。このようなノックをしてくる相手には心当たりが無い。宗教の勧誘でもなかろう。玄関に“諸々の勧誘お断り”ってはってあるし。

 なら見知らぬ妖怪? いや、それも無いと思う。ていうか妖怪ってわざわざ人間の家襲うのにノックするのか?

 ――コンコン。

 二度目。ノックの音は相変わらず控えめに。
 っといかん。

「どうぞ、開いてるよ」

 外に聞こえるように、少々大きめの声を出す。
 待ってました、とばかりにガチャリ、とドアが開いた。
 そして入ってきたのは……、

「こんばんわ。お邪魔するわね」

 俺の家の近所の館でメイド長をやってる十六夜咲夜さんでした。しかも私服。凄まじくレアな光景だ。ていうか持ってたのか、私服。いっつもミニのメイド服だからロングスカートなのが妙に新鮮だ。眼福眼福。
 ……しかし、何ゆえこんな微妙な時間(夜七時だ)に。いや、知らない仲でもないけどさ。

「魔理沙から聞いたんだけど、貴方、中々イケる口らしいじゃない。いきなりで悪いんだけど、ちょっと付き合ってくれる?」

 そう微笑んで掲げるのはバスケット。中にはグラスとワイン。
 ワインは言うまでもなく、グラスからすら俺みたいな庶民にはとても手が出せないオーラが漂っていた。

「ん、喜んで」

 当然快諾する。美人さんのお誘いを無下に断れるほど俺は女性関係に自由してない。
 タダで高い酒を飲める、という誘惑も当然あったが。

「んで? 本日はどういったご用件で?」

 言外に「本当の用件を言え」と伝える。

「あら、判った?」
「わからいでか。魔理沙に酒の話をしたことは無い。未成年だろうし」
「我ながら迂闊ね。……これ、貴方の事でしょ?」

 どこからか取り出し、手渡されたのは新聞。当然文の物だろう。日付は……今日?
 色々と疑問に思いつつも記事を見る。そして一面トップを見て納得。

「……成程」

 ――本日お誕生日のお目出度い人。紅魔館近所にお住まいの○○さん。

 でかでかと俺の盗撮写真が載っていた。仕事中の。
 まあ盗撮はいい。見た所恥ずかしい写真でもないし。しかしこのお目出度い人、というのはいただけない。年中頭が春な腋巫女じゃあるまいし。

「というわけだから。グラスはプレゼントするわ。ナイフの餌食になりたくなかったら精々割らないように」
「うい、了解」

 おっかない要求に苦笑する。
 しかしありがたいもんだ。正直本人も新聞見るまで忘れてたっつーのに。

 何時の間にか中身を注がれていたグラスを受け取る。
 目の前の彼女も二十歳未満だろうが、そこはそれ。美人さん以下略。

「誕生日おめでとう。乾杯」
「乾杯」

 ――チン。


※1この後、文とかえーりんがお祝いに来て微妙に修羅場るはずだったが蛇足っぽいんでカットカットカットォ!

4スレ目 >>233

───────────────────────────────────────────────────────────

「……腹、減ったな」

 毛布に包まりながら夜空を見上げ、ポツリと呟く。ひもじい。
 眼前は荒野。ていうか地獄。目にも精神衛生上にも非常によろしくない。
 これも全部あの三人のせいだ。人の家の前で喧嘩するのはいいけど少しは手加減しろよ。

「……畜生。輝夜とレミリアに損害賠償請求してやる」

 気の赴くまま怨嗟を呟く。
 当然、文は本人からせしめる。覚悟しやがれ。絞れるだけ絞ってやる。できないなら身体で……。

 ――ぐ~。

「……」

 間抜けに腹が鳴った。適当な事を考えて紛らわせようかと思ったが、やっぱりひもじい。
 そこで思い出す。そういえば今日の俺は晩飯がまだなのだ。そりゃあ腹も減るはずだ。しかし、今すぐに食うもの、食えるものは……。

「……あ」
 ――ねえ、おつまみ持ってきたんだけど、ちょっと台所借りていいかしら。

 思い出す。咲夜の持ってきたチーズを。
 そして俺はチーズに一口も手をつけていない。つかワインもそんなに飲んでない。俺よ、そんなんでいいのか? 咲夜はきっと明日になったら持って帰るぞ? 
 あんな高そうなモノ、そうそう戴ける物じゃない。それをみすみす溝に捨てるのか!?

「冗談。今、俺が全部貰う」

 決めると同時に家に侵入。……しかし、侵入って。一応ここ俺の家なのに……。
 自分で言ってて少し虚しくなったが、気を取り直して部屋に入り、並べた布団を横目で見る。

「……仲良く寝ちゃってまあ」

 先ほどまでの乱闘が嘘のように、二つの布団を三人で仲良く使っている。右に文。左にえーりんさん。真ん中に咲夜。三人とも寝相がいい。
 朝が来て、三人同時に目が覚めた場合、大変な事が起こる気がしないでもないが、そこはアホ毛の神様にでも祈ろう。
 しかし、なんというか。この状況は。

「これだけ綺麗どころが揃ってて、この有様。どういう事よ……?」

 まあ、ここで手を出せばその瞬間デッドエンド決定なわけだが。さらに問答無用で地獄行きだろう。
 果てしなく物騒な事を考えながら、椅子に座る。部屋の明かりは消したまま。部屋に差し込むのは月明かりだけ。
 グラスとワインとチーズはそのままテーブルに置いてあった。当然か。俺が手をつけていないのだから。
 苦笑しながらワインをグラスに注ぐ。注ぐ。注ぐ。
 そしてつまみを口の中に放り込む。瞬間広がる濃厚なチーズの味。

「……美味い。流石レミリアの屋敷のモノなだけはある」

 ただただ美味い。ワインも美味い。それ以上の感想が無い。いかに俺が貧乏舌なのか判った瞬間だ。どうでもいいが。

 ――――。
「…………」

 無言でもう片方のグラス、つまり咲夜のそれを持つ。

 ――ひゅっ。

 そして背後に投擲。グラスが音を立てて空気を割く。
 が、壁にぶつかって割れる事は無い。何故なら……。

「ちょっと。割れたらどうするのよ。これ高いんだから」

 背後から不満そうな声。咲夜だ。
 やっぱり起きてやがったか。

「喧しい。人の家の前であれだけ暴れたんだ。これでチャラにしてやるから安いと思え。後、撒き散らしたナイフの片付けはしとけよ」
「はいはい」

 そこまで言うと咲夜は俺の前で飲んでいた。態々メイド服も着替えてまで。
 しかし咲夜はこういう仕草がよく似合う。俺とそう年は離れていない筈なのだが。
 この色女め。

「で、どこで起きた?」
「綺麗どころ、の所」
「さいで」

 つまり今か。
 咲夜は酔っているのか照れているのか、少々顔が赤い。
 まあ、別に聞かれても困る事でもないので別にいいか。
 三人が美人なのは言うまでも無い事だし。

 咲夜と俺はそんな雑談を交わし続け、そのまま朝が来て、これといったいざこざも無く、三人は帰っていった。
 さらに言うと、気が付けば俺の家の前は何事も無かったかのように直っていた。三人が直したらしい。……すげえ。
 そして、部屋に戻った俺の前には……。

「……自分のグラス、忘れてやんの」

 咲夜のグラスが置かれていた。ま、いいか。その内自分で取りにくるだろ。
 一個なら売ってもいいけど、ばれたら刺されそうだしな。

 ――翌日。
「……早かったな。グラス取りに来たのか?」
「飲みに来たわ。今日は夕食持参で」
「……上げってけ」

 ――数日後。
「……持って来た酒は昨日の分で終わったろ」
「新しく持ってきたわ」
「……」

 ――一ヵ月後。
「……なあ。これって普通“通い妻”って言わないか?」
「あら。泊まってないわよ」
「まあ、いいんだけどさ。現に助かってるし」

 ――三ヶ月後。
「じゃあ、行ってくるわね」
「ん。ああ、今日は帰りが少し遅くなるんだど、晩飯は……」
「心配しなくても○○が帰ってくるまで待つわよ」
「すまん」

 ……あれ? なんかおかしくね?
 そういやここ最近、文の新聞もえーりんさんも来てないような……?

4スレ目 >>282-283

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咲夜は毎日うちに来る。
「あのさぁ。ずっと気になってたんだけど」
思い切って訊ねることにした。
「何かしら?」
さっさっとパンを口に放り込みながら相槌を打っている。
食事の仕方一つとっても彼女のそれはひどく洗練されていて、見てると気持ちがいい。
いま食べているパンも彼女が用意したものだ。
こんな風に咲夜はあれこれと僕の世話を焼いてくれる。
「何でうちに来るの?」
「迷惑かしら?」
艶然と微笑みながら聞き返す。
それだけで、爽やかな朝もなんだか色っぽいものに変わってゆくような気がするから不思議だ。
「いや、そんなことないんだけどさ。その、このままだと、自分じゃ何一つできなくなりそうで」
どもりがちに答えた僕に。
「あら」
何でもないようにそう言ったときの彼女の顔は。
「一生面倒を見てあげてもいいのよ?」
控えめに言っても、とても美しかった。

4スレ目 >>387

───────────────────────────────────────────────────────────

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 明るい将来設計と家族計かk(ry





『レミィ?用事って?』
「夜分遅く済まないね、パチェ」
『テレパス会話なんて何年振り?』
「百から先は数えて無い―――咲夜に内緒話するなんて、あんまり無いわ」
『それも、盗聴含めて絶対にバレない方法で?
 ―――で、何をすれば良いのかしら』
「恩に着る―――愛してるわ、パチェ」
『感謝の極み、とでも言っておくわ、マイスイート』
「で、本題だけれど―――用意して欲しいものが有るの。
 一つは簡単だけれど、直ぐ用意すべき品。
 もう一つは急がなくて良いけど、とてもとても難しい品。
 多分、私達だけでは無理なものね」
『―――必要なのね。あの子の為に』
「ええ―――急ぎ足の灰被りが、どんなに急いでも、絶対に帳尻を合わせる時計よ」





「お早う御座います、お嬢様」
「今晩は、咲夜。いつも御苦労様」

 広く深い紅魔間の一室、一面深い紅で塗られた部屋。
 中央にベッド、壁際に箪笥、その他諸々。
 もはや語るまでも無く、当館が主、レミリア=スカーレットの寝室である。
「ふわぁ~……」
「今日は少々お早いですね」
 欠伸に合わせて寝巻きから細く小さな腕と、一対の蝙蝠羽が、可愛らしく伸び上がる。
 そこへさり気無く手を伸ばし、慣れた手並みで召し物を替える従者の姿も、また定番。
「ん。今日は咲夜に言って置く事があったからね」
「私に、でしょうか?」
 一声交わす間に、着替えは完了。
 姿見の前で『完璧』と誉のお言葉も、何時もの光景である。

「そうねぇ―――あ、そーだ」
「はい?」

 ただ、最近の紅魔館にも、ちょっとした変化が訪れていた。

「指輪は、ちゃんと着けなさいな?」
「しかし」
「私を嘗めてんのか。んな安物の銀製品何ざ堪えないわ」


 ぴくり、と従者の目尻が引き攣る。


 それを横目で眺めつつ、紅の悪魔の、

「それとも―――嫌いなのかしら?それ―――」
 あっさりとした一言を。


「―――そんな事ありませんッ!!」
 瀟洒とは程遠い態度で、従者は遮る。
 瞳は激情に踊り、主を見る視線は、まるで親の敵を見るかのよう。

「―――んなムキにならんでも……っふふ」
「え―――っあ」
 一瞬の従者の変わりように、くつくつと抑えた笑いを隠せない悪魔嬢。
 直ぐに従者の顔も、『やられた』と伏せられてしまう。

 ―――控えめな、ノックの音がした。
「聞いてた?」
 その一言を許諾とし、控えめな音を立ててドアが開く。

「……お嬢様よぉ、人が悪いにも限度があるぞ、それ」
 扉からおずおずと入ってきたのは、窮屈そうに着崩した礼服が目立つ、一人の男。
 片手で顔を覆うように翳し、指の隙間からは、壁の色に負けない程度の赤面が覗く。

 彼、○○は幾年程前に、幻想郷へと迷い込んできた客人。
 紅魔館に身を置く理由は『働かざるもの食うべからず』のもと、彼が選択した居住先が此処だった、だけのこと。
 幸いにして、その手の仕事を向こうで日雇い程度には稼いでいる為か、『使えない』と言う理由で
 放り出される事も無かった。

 そして現状の通り、紅魔館が誇るパーフェクトメイド・十六夜咲夜に御執心らしく、
 また彼女も、プレゼントの2、3は受け取る程度の関係までにはなっていた。

 ―――指輪を渡したのは、つい最近のことである。


「お、お嬢様っ」
 事の次第を理解した途端、従者の顔が茹で上がる。
 こちらは壁など勝負にならない程に赤かった―――とは後の悪魔嬢の談。
「あーあどーしよ、咲夜取られちゃったーしくしく悲しいなー♪」
 それはもう腹黒兎のかくやのしたり顔で、扉の側へと歩いていくお嬢様。
「あ、あの、こ、これは」
「諦めろ咲夜さん……全ては『運命通り』と言う奴なんだろ―――この人のな」
 どちらも羞恥のあまり半泣きの体を顕してきた従者二人。れ・みぜらぶる。

「うわーんこーしてやるぅ♪」
「あ゛ッ痛っ!?」
 片手で『噴水のような涙を流してランナウェイ』のポーズを構えると同時、
 もう一方の手で、従者崩れの男を後ろから張る。
 悶絶して体勢を崩した男の倒れた先には、面食らった従者と―――大きなふかふかベッド。
「ひゃあ!?」
「おふぁ!?」
 暗黙の了解のような『お約束』か、○○に押し倒される格好になるメイドさん。
 振り向けば―――

「でも悲しいけれど~♪悪魔と人間ですものね~♪ならば私はあなたの為に身を引くわ~♪」
 相も変わらず似非オペラ風味のイントネーションをつらつらと吐くお嬢様。
 既に部屋の外、ドアの隙間からハンカチ片手に目元を拭う可憐な少女―――無論芝居である。

「―――とゆーわけで、私はこのハートブレイクをフランやパチェに慰めてもらうから♪
 さくやー、あなた今日はお休みで良いわ」
 嘘泣きをはたと止め、ちろりと赤い舌を出して、
「ちょ、お嬢―――」
「反論は一切聞かないのであしからず。あ、出血大サービスで部屋は自由に使って良いわよ」
 形容するなら『あくまの笑み』を浮かべて、

「では、ごゆっくりー(はぁと)」
 部屋の扉を閉じた。
 ご丁寧に、鍵付きで。

「……つーか咲夜さん。何故に向こうから鍵掛けられるんか?」
「お、お嬢様がお忍びで不意に外出したりするから―――っていい加減退きなさいっ」
「と、とは言っても―――っわわ、動くな色々と当た―――ご」
 最高の角度で、○○の鳩尾に肘鉄が入った。

「おお゛お゛お゛お゛お゛ッ……」
「あーもう、お嬢様ったらこんな結界の類何処で……」
 悶絶する○○を他所に、咲夜は扉の検分を始める。
 だが当然といえば当然か、華奢な造りの筈の扉はびくともしない。

「せめて、洗面所や火の元その他全て完備なのが、幸いかしらね」
「っ……あと飯も酒もな。言われて運んで来た」
 こうなると最早完璧なスイートルームである。

「はぁ……」
 眉間に手を当て、途方に暮れる瀟洒な従者。
 さしものパーフェクトメイドも、こうなるとほぼお手上げである。

「ま、しゃーないさ」
 一方の○○は、一転して降参のご様子。
 ベッドに腰掛け、自分が持ってきたワゴンの中身を改め始めた。
「仕様が無い、って―――」
「それよりも―――っと失礼」
 詰め寄ろうとした咲夜を制し、その左手を取る。

「……何時の間につけたんだか」
「あ……」
 その薬指には、如何にも安物です、と言わんばかりの銀の指輪。

「古道具屋でパン一斤が化けたような代物だってのに……有り難い事で」
 言葉も無い、という表情で、その手を優しく諸手で包む。
 その表情に咲夜は無言。ただ僅かに頬を染め、呆けた目で○○の顔を眺めていた。

「……俺で、良かったのか」
 ふと漏れた、自嘲交じりの、消え入りそうな声。
 その一言に、咲夜は悪戯っぽく微笑む。
「そうね―――確かに色々足りないわね」
「ったく、容赦ないな」
「ええ、なって無いわ、全然」
 そのまま○○の隣に座り、見せ付けるように指輪を翳す。
 ふと○○気が付けば、右手にはナイフ。

「だから、こうしちゃう」
「は?」
 かつん、と。ナイフの切っ先が指輪に立てられ―――



 ―――次の瞬間には、膝の上に、二つに増えた指輪が転がっていた。

「うわ、また手の込んだ」
 手にとって見れば、銀の指輪は螺旋状、丁度互いに噛み合う形でスライスされていた。
 中程で一端斬り飛ばされ、完全な輪にはなっていない。

「ええ、私から見たらその指輪程度。
 ここに転がり込んで精々数年。未だ弾幕の一つ飛ばせず空も飛べず、弾除けとしては毛玉にも劣る。
 貴方が掃除をすれば、舞う埃の方がだいぶ多くて、猫イラズにもなりはしない。
 外から持ってきた土産話も、果たして何時底を付くのやら」
「……うわーい、舌先だけで薄っぺらい俺のプライドボッコボコ」
「ボコボコになる程あるの?」
 ○○のハートが廃棄決定の針休めのようになって来たところで、
「でもね」
 と、項垂れた○○の手を取る。

「それでも、初めて会ってから今までずっと。
 私を等身大の人間として接し、気に掛けてくれたのよね」

 目を伏せ、その両手を抱くように包み、静かに頬に当てる。
 ○○は、赤ら顔を背け、蚊の鳴くような声で呟く。
「……だってあんた、お嬢様の事になるとテンパリがちだし、
 意外に抜けてる事あるし……休んでる姿とか、あんま見ないし」
「余計なお世話よね。これでも生涯現役・悪魔の狗よ?」


「で……一生死ぬ人間、なんだよな」


 背けた眼を再び戻し、真摯な視線を咲夜に向ける。
 彼女はただ頷くのみで、続く言葉を待つ。


「あんたに何かあれば、あのお嬢様も、妹様も、本の虫も、美鈴も。
 そしてあの巫女さんや白黒―――あんたを知る人皆が悲しむ」

「そんなに縁深い人妖関係を築いたつもりは無いのだけれど?」
 浴びせられるのは、突き放すような冷たい声。
「さ、私にこの指輪を渡すまでは良いわ。
 あとは、その契約が、私が受けるに足るかどうか。

 ―――言って御覧なさい?
 どんな口上で、この悪魔の狗を従えるのかしら?」

 それまでとは一変。
 それこそ、彼女の象徴の一つであるナイフの様な鋭さを以って、
 彼へと詰め寄る。

 だが○○は首を振り、優しい表情で続ける。

「時を操るあんたにとって。
 自分が死んだ後、あの人たちがどうなるのか。悲しむのなら、その人をどれだけ苛むのか。
 そして、自分に続く者は、ちゃんと現れるのか―――怖いことといったら、そのくらいだろ」

 何より、と顔を寄せ、手を優しく解き、

「それをあのお嬢様に当て嵌めて考える。その事が何よりも、それこそ想像するのも恐ろしく、辛い―――
 ……と、俺は勘違いを承知で思ったんだが」

 肩から、浅く、柔らかく抱きしめた。
「育ての親であり、遺す娘であり―――必ず置いて逝く、家族だものな」

「何が出てくるのかと思えば―――とんだ妄想ね」
 辛辣な口調は変わらないが。
 その眼は潤み、表情は、温かい笑みに変わっていた。

「でも面白い話。―――で、そんな私に対して、貴方の売りは何?」
「紅魔館で、あんたと同じ時間単位の人間が増える。
 そーすりゃ、節度わきまえて休み取るようになるし、能力に任せた無茶もやらなくなる」
「私がどうもしなければ意味ないじゃない―――他に無いの?」
「単純に人手が一人増える。あんたの手間が減る」
「そこまで鍛え上げる手間も考えなさい―――次」
「あんたの世話係に、一切の遠慮なく使える人手だ。それも今すぐ」
「余計なお世話よ」

 そのうち咲夜も腕を回し、彼の背に手を置く。
「もう無いのかしら?」
「ある。ここからは取っておきだ」


 どっかの本で見たかもしれない。ただの二番煎じかもしれない、と。
 そう前置きして、優しく言う。


「仮にあんたに置いてかれても、俺は絶対に悲しまない。あんたの為に」
「その時にならないと解らないわね」
「出来ないことは無いさ。その時は確実に、あんたが待ってるんだから」
「天国と地獄で別れたら?」
「閻魔に伝言と花束ぐらいは頼むとしようか。
 他に、泣いている奴が居たら、叩いて引き摺り立たせて、そして笑顔に変えてやれる」
「他の誰かでも、出来るわね」
「応とも。が、ここが肝だ。

 ―――絶対にあんたより長生きして、あんたに出来ないフォロー済ませて。
 そして必ず、あんたの所に辿り着く。あんたの待っている所に。

 ―――この約束を出来るポジション、今の俺以外に早々無いと思うんだが?」



「―――自惚れにも限度があるわ」
「先刻承知」
「皮算用って知ってる?」
「出来なくても差し引き零。マイナスにはならんな」
「―――前置きのせいで、興醒め、よ」
「元より以下略。俺にゃどーも似合わないし、取って付けた感があるんでな」
 ○○の背に、より強い力が掛かる。

「……俺だけで用意できるのは、もう打ち止めだ」
「じゃあ、一つ、質問」
 いつの間にそうしていたのか。
 ○○の胸に埋められていた、咲夜の顔が上がる

「それだけ……用意されて……断ったら、わた、し、どん……っな、女に、見られるのよ」

 ―――涙でぐしゃぐしゃになった、満面の苦笑が。

「それこそ、俺のマイハートブレイクで済む問題だ。
 他の誰にも、文句は言わせないし―――」

 ○○はすかさずハンカチを取り出し、涙その他で色々当てられなくなった顔を整えてやる。

「自分を貫く為なら、お嬢様の為なら、神様だってナイフ一本で捌いちまう。
 そんな怖い怖いメイドさんが―――」

 最後に、涙の跡さえ拭い去り、満足げに微笑み、言い切る。

「俺の―――愛しい愛しい十六夜咲夜だ」




「―――申し分無いわ。―――お受けしましょう」

 次に現れたのは、言うまでも無く。

 元通りの『完全で瀟洒な微笑み』を浮かべる、可憐な乙女だった。


「そっ―――か」
 途端、脱力する○○。音を立ててベッドに背を投げ出す。
 見る見るうちにその表情が綻び、やがて汗がだらだらと流れ―――そして耳まで赤ら顔へ。
「うへー、すっげ恥ずかしい上に臭ぇ台詞吐いちまったー……
 しかも、もしかしなくても俺って滅茶苦茶キモイー?」
「撤回は許さないわよ?」
「当たり前だっての―――ただ、俺今すごーいイタタタタな人だよなーって」
「んな事何時までも言ってると、色々と当てられなくするわよ?
 『歯医者』って知ってる?」
「げ、やめてそれマジ勘べ―――ッ!??」



 ○○の口は、より積極的且つ情熱的且つディープな方法で塞がれた。

 ―――つまりは、咲夜の唇によって直接、である。



「―――っは」
 艶やかな残滓を伴って、二人の顔が離れる。
 一体どれだけ、組み伏せていたのか。
 ○○の顔に羞恥とは違う赤みが混じる辺り、決して短くは無い。

「ふふ……こっちの方が良いわね、やっぱり」
「さ、咲夜さ―――」

 間髪居れず。但し先程より長く。

「―――っふ、私は息継ぎなんて『停めれば』問題ないけど、貴方はどう?」
「……そう、くるか……っ何で……」
 鼻は使えるが、向こう側から『吸われて』いる為、
 流石に三度目となると、人類の肺活量記録に挑戦することになる。
「色々あるんだけれど……そうね、先ず一つだけ」

 紅潮した、妖艶さの滲む笑みで、上から○○を見つめる咲夜。

「咲夜、って呼んでくれるなら、止めてあげる」
「……それ、いまいちデメリットが良く解らんのだが……」
「あら失礼、なら皆まで言ってあげるわね」



「……呼んでくれたら止めてあげる―――その後は、貴方のものよ」 




(省略されました。全てを読むにはここにFINAL波動砲を16連射してください:猶予時間2秒)




「で  き  る  か  ーーーーーーーーーッ!!!?」
「ブブーハイ残念時間切れー」
「あ゛ーーーーーーーーー!!!?」
「はいはい出歯亀出歯亀」


 レミリアの一言により、水晶球が曇り、何も写さなくなった。
 彼女の力により件の結界を介し繋がっていた『糸』が、断ち切られた為である。

「そして証拠隠滅&記録防止ちょっぷー」

 パチュリー御用達の高級水晶球が、極超音速のギロチンドロップにより木っ端微塵に粉砕された。

「うわぁい徹底しているわね高級品よ10年ものよロイヤルフレアすんぞこの悪魔」
「じゃあ残してたらどーしたの?」
「無  論  百  万  回  保  存  す  る」
「オーケィ、パチェ。お前とは後で弾幕言語で熱烈に愛を確かめ合う必要があるらしい」
「それは良いわね。向こうよりも熱烈になるよう、腕によりを掛けるわ」


 素敵な友人関係である。



「ちょ、ちょっと待ちなさいよアンタッ!?」
 半泣き状態の顔のまま、本日の来客者が異議申し立てに入った。

「承諾条件の一つにこんな千年に一度あるかないかのディープシチュエーション閲覧権限があったから
 わざわざ永遠亭まで来たってのに!?意義有りッ!  ニアそ」
「やかましいぞ永遠の引き篭もり。立会人になる権限をやるとは言ったが、そこまでは範囲外。
 それともあの中に乱入するか?永遠に魂刻まれるのがお好みなら止めないが」

「そ れ も ま た 良 し ッ Σd( ゚皿゚  )」

「正直なのは良い事だ。気に入った。―――おい隙間」
「はいはい地下室一名ごあんなーい」
「ギャーーーーーッ!!!?えーりんえーりんたすけてえーr(とす)あふぅ」
「姫、ぶっちゃけたい所を敢えてオブラードに包みまくって控えめに言いますと、
 今作業の邪魔しやがりますなら、今直ぐにでも蓬莱の薬中和剤開発に着手しますが。
 参考程度に、今の心境なら姫専用一人分限定で10秒で仕上がります」
「死刑宣告ッ!!!?」
「魔理沙、ウザイから即効性でお願い」
「人の恋路を以下中略、ファイナルスパークッ!!!!!!」


 凄まじくごたごたとした喧騒(約一名分)を、虹色の魔砲が光に還元していく。
 後に残った灰は小悪魔が掻き集め、隙間に放り込んでいった。

「で、開発部、どのくらい掛かるのかしら」
 邪魔者に一瞥くれてやった後に、レミリアは『開発部』要員に呼びかける。
 図書館内の閲覧室一つ分をちょろまかし、永琳の術によって咲夜の空間操作に便乗、改竄を行い、
 隙間に蓋を仕上げさせ、留めに知識人に隠させて作った区画。
「彼女の能力の歴史のみ抜き出せとは……極上の無茶を言うものだ」
 咲夜の近辺の消耗品を検分しているのは、歴史を操る半獣。
「あら、無理ではないのね?」
「当然だ。胸焼けするほど良い歴史を拝ませてもらったし―――蔵書を幾つ見ても良いのだろう?
 甲斐はある」

「能力の複製も、そこまで手間は掛からないわね。正直、姫が居なければ一生掛かっても無理だったわ。
 報酬、期待しているわよ?」
 
 永琳が断片化した能力の残滓を部品と呼べる段階まで術式変換し、輝夜の術によりそれを固着化する。
「んー、式はこんなものでよいかしら」
「紫様……それでは術者の負荷が大きすぎるのでは」
「えー?また効率化?これ以上自由度を減らすのは勿体無いわよ?」
「限定的で良いんですってば。大き過ぎるモノだとあの巫女でも感化できません」

 固着した能力の断片を配置する回路としての式を編むのは、八雲の仕事。

「緋々色金じゃ駄目ね。これだけ精密な装置だもの、もっと軽く高純度でも魔的位階が高いモノでないと」
「げげ、後はミスリル位しか残ってないぞ?」
「当て、ある?」
「……事情を霊夢に話して、陰陽玉一つ頂くしかないかもな」
「アレを核にするのー!?設計から練り直しじゃない!?」

 膨大且つ強大なそれらを、実像として結び支える『器』を用意するのは、寄蒐家二人。

「……ふーっ、神酒や霊薬でドーピングしても、これだけの負担……厳しいわ」

 その全工程で消耗される魔力を、七曜の賢者が一手に担う。

「パチェ、大丈夫?」
「問題ないわ―――たかが大奇跡程度、悪魔の加護の前に敵ではない。
 ええ、それこそ一週間で形にしてみせようとも」
 疲労の色を隠せない表情で、しかし何時もの半眼ではなく、覇気ある眼で友に応える。

 周囲も、それに続く。
「一週間とは言ってくれる」
「貫徹決定ね、私はともかく、他は大丈夫?」
「なら敢えて今のうちに寝ておこうかしら。後で問題が出たら事だわ」
「解りました、お休みなさいませ―――橙、屋雀の屋台にひとっ走り頼む」
「あいあいさー♪」
「八卦炉は仕組みから全然違うしなぁ……あ、肝吸いを頼む」
「頭に栄養が欲しいわねー、冥界のに茶菓子もお願い」

「ぐはぁーーッ!!!?」
 ずばむ、と扉を開け放ち、全身真っ黒焦げの輝夜が帰ってきた。
「Wellcome back, Etarnal Lunatic "NEET".」
「誰が永狂ニートかこの悪魔ッ!?つまるところ同類の分際でッ!!
 ―――あ、素材ならウチにあるミステリウムから漁って良いわよ―――けふぅ」
 そこまで言って力尽きたか、口から煙を吐き、尻餅をつく。

「悪いわね―――妹は落ち着いた?」
「今はまた妹紅が相手してるわ。引っ張ってきて正解。―――何をやったのよ?」
「ちゃっちゃっと、時空間操作の能力のうち、『パラドックス自動解決』っぽい部分をちょっとだけ、ね。
 因果上、この世に一つの能力を、間借り出来るようにしてみたわ」

 ぼすん、と盛大な音を立てて五体倒地する月の姫。

「んな発狂ギリギリ、禁忌的にも完全ビーンボールすりゃ、反動でパニック症状も起こすわよ。
 ―――素面のアンタのほうがおかしいわ」

 フランドールの能力はありとあらゆる物を、望む規模で破壊することさえ可能だとされる。
 ただ、それを認識・知覚する必要があり。
 ―――万物の法則を超える能力のピンポイントとなると、それこそ姉の領分のほうが都合が良い。

「そーでもないわ。今は日光どころか月光も毒ね。もースカスカ」
「閻魔は黙認?」
「寧ろこっそり支援されたかも―――理由は多分、私の動機と同じだろうがね」


 ―――ぴくり。
 動機、という言葉に、全員が反応する。



「そーいやそうね。これ何のために作るのよ?」
「ウチの可愛い狗を嫁に取ろうなんて言い出す馬鹿に、のしつける為よ」
「だーかーらー、何で普通の人間にあのメイドの能力をのしつける必要が有るの?」
「何だ、私なんかより倍以上生きていて、そんなことも見当付かないのか」




 途端、レミリアの表情が満面の笑みに変わる。
「そう遠くないうちに、咲夜に長い暇を出す日が来る―――具体的には、一年程」


「―――ん~成る程~」
 思い至ったか、蓬莱の姫も全く同じ表情を浮かべる。
 他の面々も、気付いたものは、頬の笑みを隠せない。


「何が可笑しい?」
「悪魔でも楽しみなのね、そういうの」
「ああ、楽しみだともさ―――うふ」
「ふっふふふふ」



「「うふ、うふふふふふふふふふふふ―――」」
 余りにも不似合いな笑みを浮かべる大物二人にさえも。
 気に障る者等、一人も居なかった。


「うふ、うふふふふ、うふふふふふ―――」
「いやいや魔理沙」
 誘爆したもの一名。




「いやいや、気の早いことだけれど、笑みが止まらない」
 すっかり笑みに細まった眼で、作業代の『ソレ』を見つめる。


 ―――ほんの、一年で良い。
 その時間を買う為なら、どのような財でも投げ打とう。
 ―――たかだか人間でも、我が愛娘も同然。
 その一年で、彼女の幸せを『買える』のだ。
 財を払う範囲で得られる幸せなら、安いものだ。

 その幸せを運んでくれる、あの婿への礼にも丁度良かろう。
 精々、幸せな日々に馬車馬よりも働くがいい。






 ―――そこでふと、思い出す。

「そういえば、奇遇ね」
「何が?」







 不便だと半ば戯れに定めた、愛娘の誕生日。
 その初めての記念日に渡したものと、結果的に同じものとなってしまった。
 ―――流石にこれは、読めなかった。
 全く、『縁とは異なるもの』とは悪魔にも適応されると言うのか。流石は幻想郷。










「あの子に初めて贈ったプレゼントと同じか―――懐中時計」











「小町」
「何です、映姫様」
「子供を愉しみにし、それが産まれて来る幸いを守ること。それはまっこと尊い善行なのです」
 ―――ええ、子供は世の宝ですとも。それが安息に世に生まれ落ちるなら、閻魔様の眼も緩みますとも」
「何回目ですかその台詞。そりゃーそんな糸目じゃ何も見えないでしょーに」
「あらやだ小町ったら正直者ねぇ」
「(うへぇ、気持ち悪い)」









―――二十四時間後。


「お休みはどうだったかしら、咲夜」
「ええ、実に充実した一日でしたわ」
「一日と3時間、でしょう?」
「流石はお嬢様、お見通しでしたか」
「FINAL16連射は失敗だったけれどね」


「あら、意外と片付いているのね、部屋」
「立つ鳥跡を濁さず、と言います」



「―――随分と長く、延長試合に縺れ込んだようだけれど」
「お互い、決定的リードを奪えずに―――熱烈な一戦でしたわ」
「点取り合戦?」
「守備に回ることなど、頭に有りませんでした」



「……そこで徹底的にスルー?動じなくなったわね」
「それはそうですとも」




「瀟洒な母にならなくてはいけませんから」

「(ぱーちぇー……予定早めないと拙いわ。五日で出来る?)」
『(むりぽ)』



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本日の基本コンセプト。
→咲夜さんを幸せ一杯に泣かせたい。


本日の発展系コンセプト。
→親心全開なお嬢様が見たい。


結局のところ、この二つで全てです。
途中からオーバーな部分も出ましたが、後悔だけはしておりません。


……さて、愛しの霊夢は何処行ったOTL
浮気御免なs(夢想転生

4スレ目 >>433(うpろだ0024)

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「悪魔の狗ってお前が呼ばれるなら、俺は悪魔の狗の狗になってやる!」

せっかくだから俺は下僕フラグを立てるぜ!

4スレ目 >>668

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変人と言ったら変かもしれないが、一風変わった店を経営している知り合いがいる。
そいつの店は何とも奇妙な品ばかりが並んでいて、まさしく趣味でやっているような店だった。

「こーりん元気か?」と、お決まりのセリフとともに店へ入る。

すると、そこには、こーりんの他に見慣れた紅白の巫女と白黒の魔女、そして初めて見る客がいた。

そして、この時が俺と彼女の最初の出会いだった。

最初、その見慣れない客は、他の二人の客と話をしていた。そして、俺は客がきていても暇そうにしている
こーりんに小さな声で話しかけた。

「こーりん、あのお客さんは?」
「ああ、霊夢達の知り合いで、湖に大きな館があるだろう?そこで働いているメイドだよ」
「へぇー」

俺はじっと、そのメイドの横顔を見ていた。すると突然、こちらの視線に気付いたのか、横目で鋭い眼差しを向けてきた。
それは一瞬だったが、俺はその目から発するプレッシャーの様なものに負けて、思わず顔をそむけた。

「お前、ほれただろう」

目の前のこーりんがニヤニヤした目で言った。そう言われた時、俺の顔、特に耳が熱くなった。・・・そして、こーりんの言葉を否定することはできなかった。

あの人の目は鋭く、威圧感もある。だけど落ち着いてもいて、どこか優しそうな雰囲気も併せ持っている。なんとも不思議だ。
しかし、ずっと見とれたまま、再び目が会うと気まずそうな予感がしたので、適当にこーりんと下らない話をして、店の品を眺めることにした。
趣味が悪いと思える物、昔から売れ残っているもの、買わないけれどお気に入りのモノ、様々なものが不規則にならんでいる。

「失礼、そこを通らせて頂いてよろしいかしら」

彼女の声は突然聞こえた。俺は申し訳なさそうな顔をして、急いで通路からどく。すると、彼女は微笑しながら一言ありがとう、と言って店から去っていった。
気付けば紅白も白黒も店から出ていく所だった。

「やはり気になるか」

こーりんは後から声をかけてきた。そして、俺は彼女は普段店にくるのかと訪ねると、何度か店に来た事はあるが、
殆ど店でたむろしている、霊夢や魔理沙が目的だと教えてくれた。また、霊夢がこーりんに対して、館の主である吸血鬼が
いつも神社でたむろしていて、時々だが従者である彼女が迎えにくることがあることも、伝えてくれた。
ただ、これを聞いても俺にはどうしようもなかった。ただ、こーりんの言っていた通り、神社に主を迎えにきた彼女を遠くから見ることだけはできた。
いや、それだけしかできなかったと言うべきか。俺は、彼女は、ずっと遠いままの存在で終わることを予感していた・・・。

そのまま、月日が流れ、いつしか俺の心の中の彼女は消えそうになっていた。人の心とは移ろいやすいものだ。
だが、事件は突然やってくるものだ。それは俺が再びこーりんの店へ行って帰る道中の出来事。
薄暗い林道の中を歩いていると、茂みの方から小さなうめき声が聞こえた。その声には聞き覚えがあった。

…彼女だ! 

気がついたら、俺は無我夢中になって彼女を探していた。そして、ようやく見つけた彼女は、全身傷だらけで倒れていた。俺は急いで彼女の元へと駆けつける。

「だ、大丈夫か!?」

俺は大声で呼びかけた。すると、彼女はまた小さな声で苦しみながらも、やがて俺の声に気付いて目を覚ます。
ただ、同時に彼女は驚き、とっさに俺を突き飛ばして、距離を取った。そして、服に隠し持っていたナイフを取り出して構える。
が、俺の顔をよく確かめると、彼女は平静を取り戻し、ナイフをしまった。

「ごめんなさい」

彼女は申し訳なさそうに言った。それに対して俺は気にしないでと返す。
どうやら、彼女はお嬢様と呼ぶ、館の主を迎えにいく途中、妖怪に襲われたらしい。それで彼女は闘い、妖怪は退けたものの、彼女自身も疲れ果て、気を失ってしまったようだ。

落ち着いた彼女は、再び膝を地につけた。まだ力が出ないらしい。ひとまず、ここでじっとしている訳にもいかないので、彼女を抱いて家のある村へ向かった。
道中、俺と彼女は様々な話をした。例えば、館の話、主の話、巫女の話なんかもした。また、以前、神社の近くで俺が彼女を見ていたことに気付いていた、という事にも触れた。
俺はそれを聞いて、凄く恥ずかしく思ったが、彼女は悪い気はしなかったと笑った表情で言ってくれた。

俺達は、陽が沈んだ後、ようやく村につき、落ち着いた。しかし、ホッとした次の瞬間、俺は村の入り口に一人の少女が居ることに気付いた。
彼女もこれに気付き、慌てた様子で少女に声をかけた。

「お嬢様!」
「…全く、迎えにもこないと思ったら、館にも居ないし、ずいぶん探したわよ」
「…申し訳ありません。」

彼女は急いで俺の腕から離れ、少女の元へと向かった。それから彼女の側へ寄ると、こちらに振り向いて言った。

「咲夜と申します。今日はありがとうございました」

そして、彼女は少女と共に闇へと消えていった。


後日、俺が自宅で暑さに倒れていると、突然、客がきた。急いで服装を直して玄関に迎え出てみると、
そこには以前にも増して魅力的な瞳を輝かせた彼女が居た。

「何故か、急にお暇を頂いたので、先日のちゃんとしたお礼に参りました」

とりあえず、玄関で立たせたままなのも申し訳ないので、挨拶をすませると家の中へと招き入れた。
そこから、俺が背を向けて奥へ案内しようとした時、いきなり彼女は肩から腕を回して抱きついてきた。

「今日は一日、あなたの側に置かせて貰ってよろしいでしょうか」

無論、俺にはそれを断ることなどできなかった。

4スレ目 >>853(うpろだ0048)

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俺なんて一行告白が精一杯だぜ。
「時を操るからなんだってんだ。
あんたは一人の女性で……
俺が惚れてしまうほどにいい女なんだ」 →咲夜


うーん?うまくいかないなあ。

4スレ目 >>861

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俺も咲夜に一言いっておくか。
「能力の所為じゃない、俺の時間は君の魅力のおかげで止まってしまったんだ。」

ξ・∀・)<臭いセリフ

4スレ目 >>862
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