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穣子1

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orz1414

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「秋穣子様。僭越ながら我が声をお聞きください」

「豊穣は届けたし、収穫際も終わったでしょ? 他に何かあるの?」

「里の者が秋穣子様を好いているのは御存じだと思います」

「まあ、豊作を嫌う人はあまりいないわね」

「それは物事の一面にすぎませぬ。秋穣子様だからこそ、好かれている事を忘れないで頂きたいのです」

「うーん、豊穣を除いた私ってよくわからないわ」

「ご自分のことは案外見えないものです。秋穣子様は女性としても魅力的でございます。
神を愛してしまう馬鹿者がここにいるのですから。…また来年お会いしましょう」

8スレ目 >>780

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「ヴぁー、かったるいー、仕事めんどいー」
「そこ行くシケた顔した貴方!何かお悩みの様子ね?」
「どちら様ですか」
「私は秋 穣子、人は私を豊穣の神と呼ぶわ」
「はぁ。それで自分に何の用事ですか」
「貴方の枯れた心を穣らせに」
(枯れたら穣る物も何も無いような……)
「さ、私の能力で一つだけ何かを豊に穣らせてあげるわ。何が良い?」
「ぁー、んー、穣らせるったって別に恋とk「おっけー、任せなさい」話最後まで聞けや」
「それじゃあ不束者ですがよろしくお願いします」
「しかもお前とかよ!?」

9スレ目 >>303

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朝起きると枕元に芋があった。里芋である。
何だこれはと手にとって見たが、やはり里芋であった。
とりあえず眼鏡をかけ辺りを見回してやると、襖の近くに何かある。
半纏を羽織って見に行くとまた芋である。今度はジャガイモだ。
小首をかしげながら居間に行き、囲炉裏に薪をくべ火を起こす。
ふと火から目を逸らすと、下座に長芋が置いてあるのが見えた。
ああ奴さんの仕業か、と得心しながら家の中を見て回る。

彼女は存外すぐに見つかった。
竈で煮炊きなどをしている。
そんなものは囲炉裏でやってしまえばいいのにと言うと、彼女は鉤が邪魔で蒸し器を使えないと言った。
成る程、良く良く見遣れば鍋の上に蓋ではなく木製の蒸し器などが載っている。
大方この中で粉吹芋でも作っているのだろう。
その下には何が入っているのかと聞けば、南瓜の煮付けを作っていると言う。
そも何故そんな物をここで作っているのかと聞けば、
男の一人暮らし、碌な物を食べてはいないだろうからと言われた。
全くその通りな物で頭が上がらない。
しかしこうしてみればまるで嫁に貰ったようだと言うと、顔を紅葉よりも赤くして俯いてしまった。


朝食を済ませ。茶などを飲んで一服していると、先程のやりとりがふと思い浮かんだので、
本当に嫁に来る気はないか、と聞いてみると、また顔を赤くして俯いた後、
自分は曲がりなりにも神だから人里に嫁ぐことはできないと言われた。
ただ婿に来てくれるなら……、と言うと急いで帽子を被り穣子は何処かに走っていってしまった。

12スレ目>>158

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朝起きて雨戸を開けると柿の集団首吊があった。
今度は干し柿かと幾らかのあきれを覚えつつ居間に通じる襖を開けると、
いかにも一仕事終えましたという風に茶などを啜る穣子とその姉がいた。

あれは何かと尋ねれば、干し果物を作ると言う。
ひいては出来上がるまでの間、家の敷地を幾らか貸して貰えないかと言う事だった。
貸す事には取り立てて問題は無いが、何を作るのかと聞いたところ、
まず手始めに毎年作る干し柿を作り、以下葡萄や杏、林檎、蜜柑、芋なども乾燥させると言う。
何もここでやる必要も無いだろうと言えば、山の中は日が当たらず風通しが悪く、
また鳥なども多いため干すには不適当と言うことであった。
しかし里の中も人が多いもので、もしかすれば悪童共に干した端から食い尽くされることも有り得ると言えば、
子供らに幾らか分ける程度の分量は十二分に有るし、それに有効な対策を考えてあるとも言う。
そういうことならと、出来た物の幾らかを貰うのと引き換えに、庭先と縁側・納戸の軒下、物干し竿の一つを貸した。
いかなる付き合いでも取り立てるべきはきちんと取り立てなければならない。


昼過ぎに仕事を一旦切り上げ家に帰ってみると、庭やら軒下やらに見事な果物の簾が出来あがっていた。
外から庭に回るのは骨が折れそうなので内に入り、縁側に回ると案の定茶を啜る秋姉妹がいた。
いつの間にこんなに拵えたんだと聞けば、なに自分が了承するのを見越して先に自宅で吊るしておき、
承諾を取ったら家に戻ってそれを持って来ただけだと言う。
これでは外が見えないから、誰が来ても判らないだろうと言ったら、足音で誰が来たかはなんとなく判るらしい。
子供らが入ってきたなら大抵は複数の足音がするし、大人は一つの足音が玄関に向かうそうな。
これでは子供が悪戯し放題だろうとも言ったが、一番外には芋しか吊るしていないし、
家の手伝いで干した子もいるだろうから早々取る様なことはしないだろうと言われた。
いや、今更秋の果物を干すのは珍しいから、好奇心で取る奴は取るんじゃないかと思ったが言わないで置いた。
秋が終わったと言って暗くなられても困る。

しかし姉妹二人で食べるには随分大量に干すものだと言ったら、何でも山の上へ新しく来た神社に半分程納めるのだそうな。
更に半分、全体の四半分を自分たちが食べ、残りを自分に寄越すつもりだったらしい。
端から貰えるのならば別の条件にしておけばと嘯くと、なら別のことにしようかと秋姉の静葉さんに伸し掛かられた。
肩に顎など乗せられどうしようかと逡巡していると、前から穣子が腰に手を回し力を込めて抱きついてきた。
臍を曲げた妹を見て、静葉さんはくすくす笑いながら体を離しまた縁側に座りなおす。
手の上だなと思いながら穣子の後ろ頭に手を当てると、抱きつく力が幾らか弱まった。


昼が過ぎて仕事に戻り、夕近くになって家に帰ると家に灯りが点っている。
不思議に思いながら戸を開けると、炉辺でまた茶を啜る秋姉妹がいた。
山に戻らなくてもいいのかと聞けば、明日も来るのだから構わないだろうと言い、
それとも戻っていて欲しいのかと茶を差し出されながら言われてしまった。
そんなことは無いと出されたぬる茶を飲みながら言うと、ならいいじゃないと言われ焼き栗を渡された。

日も暮れて空き腹の鳴く頃になると白飯と焼鮭、里芋と烏賊の煮付け、掻き揚げが出た。
酒など呑みながら芋を突付いていると、ふっと静葉さんに置いた杯を取られ一息に飲み干されてしまった。
苦笑しつつ文句を言うと、柿の潰した物を入れた焼酎を穣子が持ってき、静葉さんの頬を引っ張ってから炉辺に座った。
幾らかして夜風に当たってくると言って静葉さんが出て行き、居間には二人が残された。

迷惑だったかと不意に穣子が漏らす。いきなり押しかけ勝手に物を吊るして、と。
そんなことは無いと言ったが、浮かぬ顔は晴れない。
ぐちぐちと箸で柿をまた潰しながら一人で呑むのは味気無いと言うと、それなら良かったとようやく顔が晴れた。

今日は泊まるから明日は弁当を作ろうか、と柿酒をおよそ呑み終わる頃合に言われた。
普段弁当など作らず専ら店食いで済ませているのに、いきなり豪勢な弁当では怪しからん。
また人里によく出ているのが公になるのは不味かったんじゃないのか、と聞くと、
来るだけなら問題は無いし、どの道顔を出さなければ誰が作ったかなど判りっこないだろうと言われた。
冬にあれだけ干せば、なにかしらの有力者か収穫関連の神が居ることは想像出来るだろう、と言おうと思ったがやはりやめた。
外は暗いのに家の中まで暗くなられては困る。

折角の申し出だが丁重に断ることにした。
そんなに私の居ることが知られたく無いのか、と半泣きになられたので頭を撫でて説明する。
何の事は無い、今日だって昼ぐらいには家に戻って昼を食べて戻るくらいの時間はあったのだ、
ならこれから昼は家で一緒に食べればいいだろうというだけだ。


また酒など呑みながら穣子を愛でていると、静葉さんのことを思い出した。
随分前に夜風に当たると言って出て行ったきり未だに戻ってこない。
酒に強い神様なのだから高々一杯で酔っ払ってへたり込んでいるということは無いだろうが、
ここらの地形には不慣れなのだから迷っている可能性は大いにある。
いくら吊るし物が有るとはいえ、夜中似た様な屋根の並ぶ場所でこの家を探るのは難しいだろう。

探しに行こうと穣子と玄関口に行くと、小姑は帰る、新婚気分を存分に味わえとの書置きがあった。
それを見て狼狽するやら顔を赤くするやらで忙しい穣子を眺めつつ、外を見回す。
納戸なり吊り下げた果物の間なりに隠れて驚かす心算かと思ったが、そういうことも無く、どうやら本当に家に帰ったらしい。

どうにも本当に家に帰ったようだと穣子に言うと、仕様の無い姉さんですね、と声を上擦らせて返事をしてくる。
泊まるつもりだったのだからそんなに緊張することも無かろうにと考え、二人と一人とでは違うかと考えを改める。


晩酌を終え、適当に風呂を沸かし入る。
穣子を先に入れようとしたが、自分は風呂が長いからと固辞されてしまう。
冗談で一緒に入るかと言うと顔を赤くさせて風呂に押し込まれた。

穣子の風呂は言うだけあって、だいぶ長かった。このうちに布団を敷いておこうとしたが大きな問題がある。
あまり泊まり客など来ないので客間は長いこと掃除をしておらず汚く、他の部屋は仕事用具などで埋まっている。
ならば選択肢は二つ。自室に布団を二つ並べるか、一つを居間に持って行くか。
反応が面白そうなので前者に即決する。

寝巻きを着込んだ穣子が炉辺にやってきたので、水を飲みながら談笑し、並んで歯を磨く。
先に穣子を寝床に移して、囲炉裏の薪に灰をかけ消火し、明日の朝一に使う薪を四隅になんとなく突き立てて置く。
遅れて寝床に向かうと、薄暗い行灯の光の中で穣子が布団の上に正座して待っていた。
赤くなって狼狽えているものだと思っていたので、この反応にはこちらが面食らってしまう。
さてどうしたものかと思案していると、穣子がやおら頭を下げてお願いしますと言ってくる。
思惑とは逆にこちらが狼狽しながら、恥をかかせてすまないが今の時分でそのようなことをする気は無いと説明する。
そのまま薄明かりでよく判別出来ないが、おそらく当惑したような表情をしているだろう穣子の腕を引っ張り、
相対した体勢で抱きしめ、布団の中に入る。
今はこれでと言うと幾らか安らいだ表情で穣子が目を閉じる。
それを見て穣子の唇に唇を重ね自分も目を閉じた。

12スレ目>>247


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朝起きると横に金木犀の鉢があった。
危うく倒しそうになりながら眼鏡をかければ、似たような鉢植えがもう幾らかある。
またかと思いながら居間に続く襖を開けるが誰もいない。
これだけ置いて帰ったのかと考えながら雨戸を開けると、
そこには植え替えなどに精を出す秋姉妹がいた。

何をしているのかと問えば、秋の草木等植えていると言う。
何故そんな物を植えているのかと聞けば、この家には草花が少ないと答える。
園芸の趣味など無いので確かに菊も秋桜も、或は寒牡丹も植えてはいないが、
それでも枝垂れ梅や桃は植わっているし、実は付けないが甘蕉なども埋まっている。
然して少なくないのではないかと返すと秋の草木は少ないと言われる。
言われれば少ないが、花の手入れは七面倒臭いので植える気は無いし、
花のなる木を植えるより柿やら金柑やらの実のなる木を選んだだけである。
なんとも色気の無い話だが、色気で腹の膨れるでも無し、男の一人暮らしなぞこの程度の物だろう。

しかしそんなことではいけないと穣子は言う。
曰く、草木花実を見てただ食欲のみでは趣に欠ける。それは良くない、と。
なれば曼珠沙華などは見て飽きないので好きだ、と言ったら穣子も喜んでいた。
だが真実最も好きなのは夏の盛りに咲く時計草だなどとは、口が裂けても言えなかった。


後で全く今更なことだが、勝手に造園などしてしまって良かったのかと言ってきた。
特に何を植えるでもなし、遊ばせているのだから目隠し位どうという事も無い。
それにどうせお前の家にもなるんだと言うと、穣子は静葉さんの掘った穴に顔を隠して入ってしまった。

12スレ目>>520 うpろだ842

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昼頃起きると、枕元に穣子が豆など備えて座っていた。
何をしているのかと問うと、今日は節分なので鬼遣らいの準備をして待っていたと言う。
昼にやる様なものでもなかろうと言うと、それ以外にも幾らか用意している物があるという。
取り敢えず居間に移動すると、そこには豆料理が用意されていた。
しかし正直自分は豆と言う物は苦手である。
豆乳も醤油も用意されているが特にこれらが苦手で、以前外で何度か飲んで皆駄目だったことがある。
その旨を告げると、穣子はそれらを引き込めていった。

お八つに稲荷寿司が出たと思ったら、中身はおからだった。
怒っているんだろうか。


夕は湯豆腐と麦酒のようなものだった。
酔った勢いで豆など盛大に投げていると、斜向いの家からも威勢の良い声と共に何かの割れる音がする。
どうやら投げた豆で硝子戸やら塀やらが割れたらしい。
日頃からあそこの婆さんが鬼なんじゃなかろうかと思っているが、真相は闇の中だ。

そのまま風呂に入るがどうも湯が白い。
何故かと思って聞いてみると、どうも豆乳を入れたらしい。
ちょうど湯も白いのだから一緒に入らないかと誘ってみるが、素気無く断られる。
しょうがないので宵の口より降り始めた雪を眺めつつ、
一人ゆっくり長風呂を楽しもうとするも、豆の臭いが段々強くなってきて嫌になりすぐ退散した。

温もれず不満が残るので、差し当たり穣子に膝枕をさせて晴らすことにしようと考えたが、
今日に限っては横に寄ると逃げていってしまう。
やはり怒らせたか。


あまりよい日ではなかったと考えながら、仕方なく床に就く。
程なくして襖戸の開く音がし、穣子が入ってくる。
しかし隣の布団に入る気配は無く、枕元に静かにたたずんでいる。
その手には鈍く輝く凍り豆腐が握られていた。

驚き、急いで起き上がるが遅く、既に掛け声一気穣子の腕から豆腐は放られていた。
ひとしきり豆腐を投げつけられた後、何故こんなことをしたのかと問うてみると、
豆を食わないのは鬼だからだろうと思った、
以前外では鬼のような所業をしていたと言うのだから鬼が巣食っているに違いない、
今は反省しているとのたまった。
つまり折角育てて絞った豆乳が飲まれず不満だったからか、と言うとそっぽを向いてそうだと答える。
苦手なのだから仕方ないだろうと言うと、それでも飲んで欲しかったと泣く。

泣いた女を鎮める法など元来機微に疎い自分には判り様が無いので、
ひとまず抱き付き抱き締め頭など撫でてやると落ち着いたらしい。
そこで謝り、次は取り敢えず飲んでみることにすると確約すると、
先刻は自分も大人気無かった。そこまで苦手なら無理しないでも良いという返事が来た。
そこで好いた女の絞った物なら檸檬でも甘夏のような物だと言うと、穣子は布団の中に潜ってしまう。
なので自分も布団に潜り、掻い繰り抱き寄せてやると、丸くなって顔を隠してしまった。

12スレ目>>668 うpろだ868

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朝起きると家中に甘い匂いが漂っている。
すわ何事かと飛び起き、火元に走ると穣子がなにやら黒い物を煮込んでいる。
これは何だと言うと、まあ飲んでみろとばかりにお椀を差し出してきた。
一啜りしてみると、少し粘り気がありほのかに甘い。
朝食に一つどうかと勧められたが、しかし丁重に断る。
流石に朝っぱらから汁粉は食えんぞなもし。


昼を喰いに家に帰るとお萩が用意されていた。
こんな時期に何故とは思うが、好物なので残さず平らげておく。
付け合せの白菜漬を齧りながら茶を飲んでいると、餡団子がでてきた。
昼飯と全く被っている気もするが、気にしないことにする。

お八つに食えと渡された包みを開けると、お萩が入っていた。
ここは長命寺とかにしておいて欲しかったが、余っていたのか。
しかしもう一日の砂糖摂取量は確実に超えているだろうな。


夜、仕事を終え帰ると、明かりが灯っている。
冬場に家が明るいと言うのも、部屋が暖かいというのもなかなか嬉しい。

夕にも、やはりお萩が出てきた。
予想通りなのでもはやどうでもいいが、味噌汁の代わりに汁粉が出るのはいただけない。
何故こんなに甘味、しかも小豆物ばかりを推してくるのかと訊くと、逆に今日は何日かと問うてきた。
十四日と答えると同時に得心がいった。
成程、向こうでは自分と然して関係無い行事だったから気付かなかったが、これがあったか。
しかしそれにしては贈る物がいささか異なると言うと、
何分外の物だし、こちらではあまり売っておらず栽培も難しかったと酷く恐縮している。
それを非常に愛おしく思い、穣子の腕をつかんで引きよせ、頭などを撫で付けてやると、
気持ちよさそうに目を細めている。
その様を猫のように思い、撫でる手を顎の下、また更に下へと持っていくと、突然穣子が体を曲げて拒んできた。
見ると手が衣服の下にもぐりこみそうになっている。
あれこれは、と思い手を外し、代わりに体を持ち上げ股の間に座らせる。
そのまま頬やら背やらを撫でていると、またたびを嗅いだ猫のように気持ちよさそうに目蓋を閉じていた。
こちらが撫でるのを止めると、迫る様に頬擦りなどしてくる。
それを見てなおさら猫のようだと思い、また頭や腹などを撫でてやると身を捩って悦んでいた。

ひとしきり可愛がった後で穣子に猫の様だったと言うと、自分も猫のような時があるという。
さて確かに向こうにいるときは姉に、まるで猫だとよく言われていたと言うと、
なら出来る子供も猫かもしれないと穣子が言い、自分の言ったことに赤面したのか、
こちらの膝の中に顔を埋めてしまった。

12スレ目>>973 うpろだ928

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休日に昼まで寝ていたら穣子に敷布団を引き抜かれた。
いきなり何をするのかと文句を言えば、こんないい日にいつまでも寝ているなと言う。
成る程確かに外はいい天気で、何処かに出かけるには絶好の日和である。
しかし数週働き詰めで疲れているのも事実。
ここは穣子に我慢してもらい、一日体を休めてやろうとしたら、枕も掛け布団も取り上げられた。
問答無用とは正にこの事である。

軋む体を押さえ立ち上がり、日の当たる縁側に移り横になる。
座布団を畳み枕にし、そのまま目を閉じようとすると炉辺まで引きずられる。
やれ飯を食え、食ったら何処ぞに出かけるぞと言うが、眠くてとても食う気になれない。
それでも寝惚け眼を擦りながら胃に流し込めば、強烈な苦味で目を覚ます。
何かと思えばお新香に紛れてふうきみそがいた。
傍らでは穣子が引っかかったとばかりに笑っている。
一つ怒鳴りつけでもしてやりたい気分だが、吐き気でそれもままならぬ。
熱い茶を一口飲み口中と胃を落ち着かせ、また白菜の漬物など抓まんで気を落ち着かせる。
時を見てふうきみそを穣子の白飯の上にあけ、自分は朝食を終える。
ただ特別嫌いでも無いという風なので、撒いたからといって何が起こるわけでもないのだが。


腹がこなれてきた頃に着替え、揃って川辺の方へ出る。
まだ春分前だというのに、既に背の低い草が生い茂り、川岸は緑に染まっている。
日差しも強く、実に春らしい日和だと言うと、小秋日和だと返される。
春も秋も似たような気候で小秋日和と呼んでもいいのだろう、しかし些かの抵抗がある。
適当に土手に転がり、春告精も飛んでいるのだから春だ、と上を指しながら言う。
それでも穣子は横に腰掛け強情に小秋日和だと言い張る。
秋の神様としては自分の舞台が来るは待ち遠しいのかもしれないが、
いつも待ち焦がれているというのは疲れるだろうし、それに少し癪に障る。
ならば家に帰って小さい秋でも作ろうかと言うと、穣子は一拍置いて赤くなり、
自分の肩に顔を埋めて動かなくなってしまった。

13スレ目>>543 うpろだ1006

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その日仕事をしていると珍しく客が来た。秋穣子という神である。
普通の人間はこんなところに用は無い。まして神なら尚更だろう。
それで化学屋に何の用かと問えば、幾らか窒素肥料を分けて欲しいと言う。
それなら里に卸しているのだからそこから買い求めればいいのだが、欲しいのは石灰窒素だという。
さて硫安や苦土肥料も面倒だが、更に面倒な代物である。
炭化物から作る肥料なのだが、いかんせん製造装置は無いしそれを作る技術も無い。
あれば農薬と肥料を両立出来たと言っていたが、残念ながら諦めて貰おう。
そも自分の本業は火工品製造で肥料の知識は少ないのだ。
そうを言うと、なら肥料の知識を付けてしまえと言ってきた。
それならばこちらも手伝う準備があるとも言ってくる。
非常にありがたい、だが断る。まだ装置で手を加えないといけない部分もあるのに、他に手を割く余裕は無い。
しかし後で本を幾らか持って来ると言って戸から出て行ってしまった。
なかなかに強引な御仁である。

翌日仕事場に行くと、全体何処から仕入れた物か山積みの本を持って戸口の前で待ち構えている。
正直避けて通りたかったが、なにぶん見通しの良い所に建っている物で、裏口を使うにも丸見えで意味がない。
仕方がないので近づけば挨拶もそこそこに、昨日言っていた本を持ってきたから読んでみろと言う。
確かに持ってきた本に肥料や農薬についての記述はよく書かれている。
しかし大抵は趣味の園芸や園芸通信といった家庭菜園などに関する雑誌であった。
つまりは作物別の施肥の時期や割合、或いは農薬の濃度の指南であり、作り方については特に何も書いていない。
そのことを指摘しようとすると、そっぽを向いてしまう。どうやら載っていないとわかってのことだったらしい。
それについて別段どうのと言うつもりも無いが、その仕草が子供のようで非常に愛らしく悪戯をしたくなる。
里では随分大事な神様のようなので、実際にはそんなことは出来ないのだが。


さて、何故かあれ以降穣子さんが作業場によく来るようになった。
何かが出来るのを見るのは楽しいものだし、来たい気持ちはよく分かる。
しかし製造途中の代物を面白半分に摘み上げるのはよろしくない。
特にここで作っているのは、軍用爆薬などより威力は弱いが、それでも火薬類なので危険なのだ。
むしろ雷管をつけず火に放り込めば爆発する分、こちらのほうが性質が悪いともいえる。
その点注意したら素直に謝り、代わりに夕飯を作ってくれると言う。
いい加減里の飯屋も飽きつつあったのでこれは有り難いことである。

自宅に帰り、夕飯時に出てきたのは加薬ご飯や蒸し鶏だった。
それはいいのだが何故飯が黒いのかが解せない。
紫と言い張っているが、明らかに違う。
しかし食べてみると存外に美味い。豊穣の神の面目躍如といったところか。
これならちょくちょく作って欲しいというと、幾らか詰まった後、別に構わないという返答がきた。
益々有り難いことである。

それからというもの、月に数度の割合で穣子さんが何か作り置きの物を家に置いていくということが出てきた。
中身は煮物や煮付けなど、簡単な物ではあるがそれでも面倒で普段は滅多に作らないものである。
味付けも程よく、米を食うにはいい塩梅になっている。
ただ休日に届けられている時もあったが、玄関先に置いてあり、特に声を掛けて貰えなかったのは気になる点である。
そのような態度をとられると、果たして新作料理の実験台にでも使われているのではないかという気分になってしまう。


程無くして、自分が穣子さんと出来ているのではないかという噂が立っていることを、仲買の人から聞かされる。
なんでも奴さんが作業場やら自宅にいるのを目撃したのが多くいるらしい。
こういう噂が出ると彼方も此方も面倒になるかもしれないので、しらばくれる事にした。
わざわざ神様が買付けに来ることは無いし、そも女が来る所でも無いだろうと言ったら、それもそうだと言って同意された。
彼がここをどのように思っているか良く分かるという物だ。全く値段を上げてしまおうか。

仲買が帰った後、内室に隠れていた穣子さんに怒られる。
何故怒るのか合点がいかないので訊いてみればまた怒られる。
さて何に怒っているのだろうか、無理矢理内室に押し込んだことか、来たことがないと嘘をついたことなのか。
はたまた女の来る所ではないと、しかし来ているのに言ったことか。
それを訊こうにもすっかり臍を曲げてしまって、とても訊ける風ではない。
仕様が無いので、ひとまず頭を冷まさせるという意味合いでも放っておくことにした。

はて小一時間作業をしていたらどうしたことだろう、ますます機嫌が悪くなっている。
話しかけても向こうを向いたまま返してこない。
なにやら小声で呟いているようだが、いかんせん小声で聞き取るのは難しい。
仕方無しに顔を近付け何を喋っているのかを判別しようとしたが、いきなり横に顔が現れたのに驚いたのだろう、
穣子さんは素っ頓狂な声を上げて前に倒れこんでしまった。
彼女は床に手をつきながらいきなり何をするんだと憤っているが、こんな所で無視を決め込んでいた方が悪い。
立ち上がるのに手を貸しながら、何故怒っているのかを再度問うてみる。
口ごもりながらも返してきた答えは、まるで自分がいてはいけないようだったから、という物だった。
内室に押し込まれ、来たことなど全く無いと否定されたのだから、さてそうも思うだろうか。
だが実際いるべきではないのだからしょうがないだろう。
一応薬品を扱う場所なのだから、白衣に保護眼鏡とは言わないが、ひらひらと動きにくく引っかかりそうな服装は止めて頂きたい。
そのような旨を伝えると、幾らか愕然としたような表情をして、やがて裏口から外に出て行った。


それ以来、といってもまだ数日しか経っていないのだが、穣子さんを見かけることは無かった。
しかし、それでも近日中に料理を持って家に来るだろうという確信があった。
それは単純に玄関先に出しておいた鍋が回収されていたからなのだが。
よっていい機会なので予てより企てていた、捕縛計画を進行させることにする。
これは玄関先に蚊帳を吊り下げ、誰かが来たら落下するような罠とする、至って簡単な物である。
自宅に来る人間は少ないので誤爆の可能性も低い。したらしたで運が悪かった、というだけのことである。
この程度のことで目くじら立てる者もそういないはずだ。
問題は自宅にいる間しか作動させられない点だが、まあ数日休みにしてしまえばいい。
最近過労気味だったのだし、休暇を一気に消費してしまってもいいだろう。


結論から言うと、罠は不発に終わった。
目標だった穣子さんが庭から入ってきたため、意味が無かったのだ。
彼女は鍋一つを両手に吊り下げてやってきたが、それより驚いたのが服装である。
いままで紅や緋色を基にした、飾りの多い服だったのに、今は飾り気のない白い服である。
どういった心境の変化で服を変えたのかと聞いてみたら、これが一向に答えない。
まあ庭先で立たせたままというのも甚だ都合の悪いことなので、ひとまず家の中に入れることにした。

しかし中に入れたとしても落ち着かない物である。
仄暗い室内で男女が膝突き合わせ、唯の無言で座り込んでいるのだ。
今までなら自分の仕事場で、且つ作業をしていたので余り気にしなかったが、全く今更ながら二人ぎりであると思い知らされる。
だが外に出るわけにも行かず、どうにもならぬ。のっぴきならない状況とは正にこのことではなかろうか。
やる事無しなのでよくよく見遣れば、単に白い服とだけ思っていたが、細々と意匠など鏤められている。
ならば成る程、これも着飾っているといって全く相違あるまい。
しかし尚分からないのは、何故そのような服をここに来るために着てきたのかということである。
或いはこの後また用事でもあるのかも知れないが、それならそれでこんなところでゆっくりしている暇もあるまい。
さて如何な用件かと尋ねたところ、まず煮物を作ったので届けに来たといわれた。
蓋を開けてみると、鍋一杯に詰まった筍の煮物であった。さてこれは早急に食べなば駄目になってしまう。
して、まずということは、他にも用件があるのかと聞いてみると、此方は口ごもってしまった。
詰まるところまたも膠着状態に陥ったわけである。
いつまでも固まっていても埒が明かないので、とりあえず茶を入れ茶菓子を出す。
こうしてみると幾分落ち着いたもので、菓子を摘まみながら世間話などを興じる程度にはなった。

そうする間に随分外も暗くなり、室内ももはや仄暗いといったものではなく、全くの暗闇になっている。
洋灯に火を入れながら、時間のほうはいいのかと尋ねてみる。
しかし何故かきょとんとした顔をしてこちらのほうを見ている。
なので粧し込んでいるのだから何処かに行くのではなかったのか、と再度尋ねてみた。
返事は、そんなことはない、今日の予定はここに来るだけだということだ。
ならばどうして普段着ないような服を着込んでいるのかと訊いてみる。
数瞬逡巡して口を開いた結果には、白い服が好きだと言っていたからと答えられた。
それを聞いて此方も固まってしまう。はてな自分は白服が好きだったかしらん。
しかしそんなことは無く、またそのようなことを言った覚えというものも無い。
これはもしかすると幾らか前の日のことを取り上げているのかもしれない。
あれは作業室内の着物をどうこういったもので、普段の着物についてではないのだが。、
さては誤解を解いたほうがいいのやも知れぬが、ではこの言の意味はなんなのかと思えば言い出せない。
いやさそこまで鈍感ということは無しに、おおよそ解りはするが果たしてそれが合っているのかという疑念はある。
なにより紅を塗りたくったような顔色になっているのを見れば、幾らか苛めてやりたいと思うのも人情というものか。
だが苛むといっても特にどんな行動の取れるわけでもない。
精々が固まり続けてちらちらと上目遣いに此方を見上げてくる彼女の様子を見て楽しむ位のものだ。

どれだけの時間が経ったろうか、不意に彼女は顔を上げ座ったままこちらに摺り寄って来た。
全く鼻と鼻の触合わんばかりの距離にまで顔を近付けて、こちらを見てくる。
余りに近すぎまた暗すぎて、近眼の眼鏡越しでは上手く合焦することが出来ない。
此方が焦点をあわせようと少し身を引くと、向こうも体の横に手を付いて身を乗り出してくる。
それに驚くようにして更に身を引き、やがて勢い余って後ろに倒れ彼女が前に手をつく。
これは自分が彼女におよそ押し倒されるような格好になる。
少しして自分が今何をしているのかを理解したのか、穣子さんが身を引く。
遅れて自分も体を引き起こし、座りなおす。

さてなこれは返事はどうなのか、という催促なのであろうか、或いは此方から言い出せ、という合図なのであろうか。
判断という物は出来ないが、なんにせよ何かを言わねばなるまい。
しかし気の利いた言葉というのは意識すれば出てくるものではなく、時間は無為に過ぎていく。
外では春風が吹き、障子戸ががたがたと騒いでいる。
何処かから風が入ったのか突然に灯りの火が大きく揺れ、そして消える。
炉辺でなかった事も災いしたか、月明かりも無く部屋は真っ暗になり、物の輪郭も碌に見えない。
恐らくは穣子さんが火を探しているのだろう、近くで何かを探る音がする。
しかし向こうのほうに火は置いてなく、燃料やら薬を入れた箱の置いてあるだけである。
そう燃料があるのだ。それほど危険な物ではないが、それでもこぼせば殊に面倒な代物である。
音のする大体の方向とかすかな気配から、彼女のおよその位置の当たりをつける。
辺りに何があったかに注意しながら膝立ちで少し進み手を伸ばすと、指先に何かが触れた。
それを掴み此方に引き寄せ、胸元に抱き寄せる。
腕から腹にかけては柔らかな感触が伝わり、息を吸い込むとほのかに甘い香りがする。
どうやら引き寄せたこれは家具や亡霊などではなく、確かに彼女らしい。
恐らくはまた顔を真っ赤に染め上げていることだろう、手足をばたつかせ抱き留めている腕から逃げようとするのが微かに見える。
しかし本当に逃げようとしている風ではなく、実際引き寄せている力は既に弱めているのに一向に解ける気配が無い。
やがてもがくのもやめ、此方に体をもたれ掛けてくる。

それから更に、もうどれだけ経ったのか見当もつかないが、時間が経った。
それでも自分は彼女を胸元に抱き留め続けている。
彼女もまた逃げるような素振りは見せず、時たま体を揺すったり此方の頬に手をやってきたりした。
もうこれでいいのではないかと思うが、しかしこれではいけないのだろう。
顔を彼女に頬擦り出来るほど近付け、好きだと囁き腕を放す。
彼女は数瞬固まり、ぐるりと顔を此方に向け見つめてくる。
それに応えるように手を頭に持っていき、髪を掻き分けてやる。
手を離したとき恐らく顔を上気させた彼女に正面から抱きつかれ、押し倒され、それでも今度は彼女が飛び退くことは無かった。

うpろだ1104

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朝目覚めると横に顔があった。穣子の顔である。
慌てて起きようと右手を横につけば、柔らかい感触がある。
そちらを見てみるとなにやら黄色が見える。どうもこれは静葉さんらしい。
つまり、一緒の布団で穣子が、横にもう一組の布団を敷いて静葉さんが寝ていると言うことだ。
はて何故このようになっているのか、と思い揺り起こそうとするが、随分気持ちよさそうに寝込んでいるので、些か気が引ける。
ではどうしよう、巻いて二柱とも押入れにでもしまってみようか、と穣子の顔を見ながら考えているとじきに穣子が目を覚ました。
その時ちょうど左右どちらの頬が柔いかを試していたので、寝起きで驚き恥ずかしがるという大分珍しい表情を見ることが出来た。


さて静葉さんも起こし、何故此処にいるのか問うと、この間の干し果物が出来上がったので届けに来たという。
土間を見ると干し柿やらなにやらが堆く積まれている。
だが聞きたいのはそれではなく、何故横で眠っていたのかだと言うと、早い時間に出てきたので眠かったと言われた。
そうだろう、それはよく分かる。しかし挟まれていた理由が分からない。姉妹一緒の布団でいいだろう。
しかしそれを言う前に静葉さんに、そんなことはどうでもいいじゃないと言われた。
成る程確かにどうでもいい。では気にしないようにしよう。
それより今の問題は朝食が足りないと言うことだ。面倒なので夕以外は専ら洋餅を食べるが手持ちは足りず、米も炊いていない。
また倉庫も満杯であり、最近よく来る神物がいるので客間に置くわけにも行かずで、干し果物をしまう場所も無い。
二進も三進も行かぬ状況だが取り敢えずは茶でも出しておこう。茶菓子は届けられた干し杏と炙った干し芋でいいだろう。

だが乾物も随分な量を持ってきたものだが、どの程度の分量をこちらに振り分けたのかと訊いてみた。
するとどうにも四割ほどを持ってきたらしい。
さて四割でこれなら全体でどれだけ干していたのだろうか、庭にあったときはこれだけの量ではなかったはずである。
やはり不適当と入っても自宅で干せるものは干していたのか、それとも別個にまた用地を確保していたか。考えても詮無い事か。
若干量が増えていやしないかと訊いたが、そんなことはない食べる者が増えたのだから妥当だろうと言われた。
横を見て、そういえば米は先月一斗買っていたのを思い出す。
これだけあれば二月三月は持ったのに一月少しで無くなるとは、確かに食べる者が増えている。
隣でその分食べる物が増えているじゃないかという声が上がる。自分の目を気にしてのことか。
しかし、言ってはいないが自分は芋はあまり好きではない。だのに芋ばかり持ってこられても困る。

さて、出した甘味の粗方を食い尽くしたところで朝食をどうするか訊いてみる。
穣子に何かあるのかと言われたが、特になにも無いと返す。
なら訊くなと怒られたが、それは礼儀として訊かないわけにもいくるまい。
相も変わらず朝食を食べていないのかなどと、穣子に小言を言われるが、右から左に受け流す。
別段食べていないわけではないのだ。ただ正午過ぎまでずれ込んでいるだけなのだ。
それを言ったら更に怒られた。しかし横を見ると静葉さんがくすくすと笑っている。
なんぞ可笑しいところでもあったかと思うが、別段思い返してもそのようなところは見当たらない。
穣子と顔を見合わせていると、お似合いの夫婦だと言われた。
全体怒られているのに何故そのような発想になるのか理解できないが、褒められているらしいので良しとする。
見るまでもないことだが、穣子はやはり顔を赤くしていた。夫婦と言う言葉に反応してのことだろう。
最近昼間は始終ここにいるのだから、夫婦扱いされたところで大したこともあるまいに。
むしろこちらはいい加減半端はやめて嫁に来て欲しいがなかなか首を縦に振ってはもらえない。
周りの住人も特に問題なく受け入れているのだから、神と人の結婚などどうでもいいだろうに。
そも妖怪が問題なく里にいる現状、神が住み着いたところで文句の出ようはずも無い。

取りとめもなくそんなことを考えていると静葉さんが帰ろうとしていた。
何故かと問うと、彼女は一言眠いと返し玄関から出て行った。実に尤もなことである。
穣子もひどく眠たげで、自分がいるから意地で起きているといった風である。
なのでちょっとした悪戯を決行する。
まずは仕事に出かける。穣子は朝食を食えと言って来るが腹が重くなるのは嫌なので無視する。
仕事場に着いたらいくらか機械と装置の稼動状況の点検をし、休業の立て札をして自宅に帰る。
冬場は川の水が少なく発電機が動かせないため、開店休業状態なので休んでも問題ない。
部屋の様子を盗み見ると、案の定穣子は幸せそうに布団に包まって眠っていた。
それを起こさないように、ゆっくり慎重に布団の中に入りこむ。
あとは本でも読みながら起きそうになるのを待ち、その時に腕枕をしておこう。
果たしてどのような表情をするか今から楽しみである。

>>うpろだ1158


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朝起きると枕元に穣子が正座して座っている。
その形相は幽鬼のようで、普段の様子とは全く異なっていた。
何も怒られるようなことをした覚えはないが、それでも非常に不安になる。
とりあえず何を怒っているのかと訊いてみると、雨が少ないと怒られた。
確かに梅雨だというのに少ないが、そんなことを自分に言われてもどうしようもない。
このままでは作物が取れるか心配だと言われたが、苦情は山の上の神様にでも言って貰いたいものだ。
さてそんなに心配ならば川の様子でも見に行くかと誘う。
里の近郊にも川は流れているし、沼やら何やら沢山ある。
そいつらを見てやれば幾らか気も和らぐだろう。
この誘いに穣子は二つ返事で乗ってきた。


曇り空の下、川原を揃って歩く。山の方までかかる雲は薄く、雨の降りそうな気色はない。
川原は丸石が多く歩き辛いが足を取られるほどではない。
しかし穣子にはそうでも無いようで、彼女は自分の腕に掴まりながら歩いている。
流れる川の水は満々とは言えないがそれでも量は多く、干上がる様子は微塵も無い。
ここに着く前に農業用の溜池や水田もあったが、その水も豊富であった。
川の水量を見て安心したか、穣子は水面を覗き込んで魚などを見ている。
里に来るまでの間に川なり無かったかと思うが、山の麓から道順によっては水場は無かった。
沢はあるが、それには普段から水はちろちろと流れるだけである。
これでは水の量なんぞ判らんよな、と子供らの声を後ろに思う。


いつの間にか山にかかっていた雲も失せ、日が覗く様になっていた。
晴れてみれば酷い日照りで、何時に無く暑くなりそうな気配がする。
穣子は川に入って子供らと水の掛け合いなどをして遊んでいて、自分はそれを川原で傍観している。
淵のほうではすでに水に浸かっている子もいて、全く梅雨らしくない。
さて奴さんは川原を歩くのも恐る恐るだったのに、果たして滑った石の上に立っていられるのだろうか。
そう思いながら見ていると、案の定水飛沫を身を捩って避けようとした拍子に釣合を崩して転んでしまった。
びしょ濡れになって半泣きで岸まで戻る穣子を走って迎える。
手拭はあるが所詮汗を拭くためのもので、体を拭ける位に大きなものではない。
幸い日はまだ照り続けているし雲も無いので、服はすぐに乾くし、体が冷えることも無いだろう。
とは言えずっと濡鼠のままと言う訳にも行かないので、急いで上着を脱がせる。
着替えを取って来ようかとも考えたが、時間がかかるので自分の着物を着させることにした。
草叢の中で着替えさせている最中、さて下はどうしようかと思ったがはてどうしよう。

結論としては穣子にとっては些か問題はあるが、大方問題無かった。
代わりに着させた上着は十分大きく十分長く、何とか腿の辺りまでは隠し通せることが出来たのだ。
穣子は非常に恥ずかしがっていたが、なんにせよ火急なので仕様が無い。
濡れた服を持って急いで家に帰る。穣子が後ろに隠れているので非常に歩き辛い。
この辺りは仕事場にも近く暇つぶしによく歩くところであるので、人目に付きにくい裏道はよく知っている。
そのような道を選んでやれば、彼女の格好を余人に見せずに着くだろう。

道中穣子はしきりに謝っていたが、予想通りのことである。寧ろ注意しなかった自分にも非があるとしてもいい。
既に滅多に人の通らない古い農業路に入っており、穣子は背中から離れている。
別段気にしていないと言うと穣子は安心したように笑い、前を向いて歩き始めた。
やはりあの格好は恥ずかしいのか、首を回して人がいないかを確認している。
後ろには対して注意を払っていない様なので、先ほど背に張り付かれた分張り付き返す。
素っ頓狂な声を上げて慌てふためく穣子は予想通りなので一切気にしない。
暫く抱き締めながら歩いていたら観念したのか狼狽えるのをやめ、体をこちらに預けてきた。
穣子の水に落ちた体はまだ少し冷たかったが、擦り合わせた頬だけは熱病に罹ったように熱かった。

うpろだ1211

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夜半、暑さの所為で目を覚ますと穣子に抱き付かれていた。
仕様の無い奴だと思いながら絡まる腕を解く。
さて寝直そうかというところで障子越しに月明かりが見えた。
汗の引かないまま眠り直すのも気持ち悪いので、丁度良いと思い散歩をする。
空を見上げると、雲にも隠れずに煌々と輝く満月が天頂にいた。
この明るさならば行灯を持たなくても道は十二分に見通せる。
遠出をすれば妖怪に襲われるかもしれないが、近場ならば大丈夫だろう。


外に出ると涼しい風が吹いていた。事前に汗を拭いていなければ腹を下していたことだろう。
適当に家の周りを歩きながら、体の粗熱が取れるのを待つ。
大分汗も出なくなったので家に戻ろうと思ったが、ふと目に付いたので自宅脇の畑に入る。
自分の畑なのだが、長い間世話をせずにいたのでさぞ荒れているだろうと思いきや存外整っていた。
恐らくは穣子が手を入れていたのだろう、畑に植わっている作物はどれも良く生っている。
ただどれも形は見たことのあるのだが、大きさが畸形と言えるほど肥大化していた。
これも穣子の力に依るものなのだろうが、それにしても面妖なことだ。
こんなことをして土が死んだりはしないのだろうかと思いながら、畝の間を歩く。
富有程の大きさになった柿を見上げていると、不意に後ろから声が掛かった。
振り返ると、寝が足りないのか若干不機嫌そうな顔をしている穣子がいる。
何をしているのかと問われたので、眠れないので散歩をしていたと答えた。
なら私も一緒に周るといって、穣子は腕を絡め、しな垂れてくる。
それを断る理由も、振り解く理由も無いので手もつなぎ、連れ立って畑の中を歩いた。

説明されながら歩くと、随分な種類の作物が育てられていることが判った。
外周の、道との境界の辺りには秋桜と金木犀がいる。
畑には似つかわしくないが、庭の延長程度に考えれば問題ない。
多種多量の芋の植わっている地域を抜けると、柿やら梨やら蜜柑やらの苗木が育てられていた。
所々に大きな木があるが、それらは山から適当に持って来たものらしい。
勝手に持って来てよかったのかと聞いたら、一本くらいどうという事も無いそうな。
随分な大雑把さだが、幾らもあるうちの一つなら別段構わないのかもしれない。


家の裏口近くの葡萄棚の下に設えられた長椅子で一休みする。
葡萄の一房一房に白い袋が被せられ、どのくらいまで育っているのか見ることは出来ない。
しかしこれも山から持って来たのだろうが、どうやって持って来たのか全く不明だ。
自生しているもののはずも無いから、自前の品なのだろうがそれにしても大きい。
端まで水の行き渡る限界くらいの大きさなのだから、二人掛でも運ぶのは難しかろう。
そんなことを思いながら葡萄を見ていると、何を考えているのかと穣子に叱るような口調で言われた。
両の手で自分の顔を挟みつけ対面させ、折角の月夜の逢瀬なのだから私を見ていろと宣う。
さていつの間にそんなものに変わったのだろうか、と内心苦笑しながら真直ぐに見つめてやる。
すると向こうもじつと見てくるのだからこうなればもう我慢比べのようなもので、どちらかが恥ずかしくなるまでずっと続いてしまう。
今度の勝負は自分の勝ちで、穣子はふいと下に目線を逸らしそのまま俯いてしまった。
その顔を両手でぐいと持ち上げ、またまじまじと見つめてやる。
月夜の白光に照らされてもなお頬は紅潮しているのが見て取れ、また大分熱い。
頬に添えた手の片方を放し、その手で頭を撫でてやると穣子は気持ち良さそうに目を細めた。
そのまま顔を近づけていくと穣子は細めた目をまた細め、ついには目を閉じる。
それに促されるように更に顔を近づけ、幾分長めの口付けをする。

顔を離したときに、ふとある思いが浮かぶ。
以前に一度、冗談交じりに嫁に来ないかと誘ってみたが、今なら受け入れてくれるだろうか。
あの時は体面があると言って断られたが、それももう気にしないでいてくれるだろうか。
まだ顔を持ち上げたまま懊悩していると、穣子に怪訝そうな顔で話しかけられる。
それになんでもないと答えてやり、一息に抱き寄せてやると驚いたのか穣子は体を固くした。
しかしそれも一瞬のことで、すぐに胸の内に安心したように擦り寄ってくる。
暫く頭を撫でてやり、その間に言葉を考えておく。
とはいえ生来気障な性質ではないので、大した文言が浮かぶわけでもない。
仕様がないので、撫でる手を止め顔を上に向けさせる。
やはり不審そうな顔をしてこちらを見上げてくる穣子に、唯うちに嫁に来いとだけ言ってやる。
穣子は数瞬迷ったような表情をすると、二三度周りを見回すように首を回した。
そのうち何かを考えるような仕草をとると、やおら抱きつき場所をあけて置いてくださいとだけ返してくる。
自分は短い返事を返し、そして二人でまた口付けを交わした。

うpろだ1380

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 新宿駅というターミナル駅はひとえに巨大である。
 多数のJRの路線に小田急や京王、東京メトロに都営地下鉄まで合わさり、それだけに改札の数は多い。
 更にJRの場合は東口、西口、南口の他にも新南口やサザンテラス口などがある。
 つまるところは待ち合わせに単に改札出てすぐと言っただけでは確実に迷うのだ。
 さて所で自分はちゃんと新宿駅新南口と言っていたであろうか。
 ここは改札機の数が少なく、見通しやすいのはいいことなのだが反面ホームから遠いのでどうにも着きにくい。
 プリペイドの携帯でも持たせておけばこんなに心配しないでもすんだろうにと思いながら、辺りを見回す。
 柱の周りをうろつきながらしきりに腕時計を見つめてやきもきしていると、不意に肩を叩かれる。
 振り返るとそこには長らく待っていたものがいた。
「お待たせ」
 珍しくスキニーのジーンズに白のインナーと黒のカーディガン、黒のショートブーツという出で立ちをした彼女は、自分の正面に回り言った。
「どれくらい待った」
「大体十分くらいかね」
「ちょっと待たせちゃったね」
「このくらいは待つでしょ。それより迷わなかった」
 聞くと彼女は右手を顔の前に持ってくるとぶんぶんと振っていった。
「なかなかどうして、結構迷うわね。東京駅ほどじゃないけど」
「まあ、あそこは別格さね」
 言いながら柱から背中を離す。彼女も下ろしていた鞄を持ち直し、歩く準備をする。
「じゃあ何処に行こうかね、穣子」
 と言いながら左腕をさしだすと、彼女は静かに右腕を絡ませ自分に並んだ。
「今日はこの辺りのデパートめぐり。それで明日は明日で考えましょう」
「ならとりあえず一番近いところに行こうか」
 そう言って改札より一番近いデパートに歩き出した。


 そして入った瞬間に思い出した。ここはどちらかと言うと年寄り向け、金のある人間向けだ。
 しかも入り口から宝石店があるから特に性質が悪いんだったここ。
 ルミネにしとけばよかったかなあ、と思いながらゼロの多さへの覚悟を決めた。

 幸い大きな騒動、と言うか出費は無かった。ただ宝石にはやはり豪く興味を示したようで、随分欲しそうな格好ではあった。
 ああ俺の実入りの少ないばっかりにと反省することしきりで、イミテーションでもいいから後で買ってやろうと決めたのである。

 買い物の途中に、休憩がてら適当なカフェに入りおやつを食べる。
 紅茶を飲みながらケーキを食べるのを見ていると、欲しそうにしていると見て取ったのかフォークに欠片を突き刺して差し出してきた。
 恥ずかしいことこの上ないが、周りは特段気にしている様子もないし、それを受け入れることにした。

「それにしたって、こんなところでよかったのか」と食べながら聞く。
「こんなところって言うと?」
 自分の問いに穣子が聞き返す。都会のど真ん中だろうと言うと得心のいったようで、ああと頷いた。
「都会は怖くて近づけなかったのよ。お姉ちゃんとじゃ不安だし」
「それで知ってる人間がいるから、それに案内させればいいやって?」
「そういうこと。田舎の温泉とかは大抵行ってるしね」
「それは羨ましいねえ」
 茶化し半分羨望半分に言ってやると、穣子は笑顔になって言ってきた。
「それなら来年は箱根にでも行こうか、今からじゃ無理だけど」
「そうだね。二人でしっぽり湯治とでもいこうか」
 そういうと穣子は顔を赤くして俯いてしまった。

 軽く食べ終わるとまた腕を組んで二人店内を動く。
 服屋で立ち止まり、宝石屋で立ち止まり、また服屋で立ち止まる。
 途中でハンズに寄ったり、本屋に行ったりしてまったりと時間を消費した。
「そろそろホテルに行こうか」
 空が暗くなったころに、此方から切り出す。
「そうね。場所わかる?」
「さっぱりだ。まあ適当に調べれば出てくるさ」
 穣子はまあいいかという感じでこちらを見ている。
 まだ暗くなったとはいえ早い時間なのだし、時間はたっぷり有るのだから二人で外を歩くのもいいだろう。


 駅の案内板などで調べながら、ゆっくり歩いてホテルを目指す。
 八雲さんより渡された紙に書いてあったそれは随分上等なものだった。
 何時の間に予約なんて取っていたのかと言う疑問は尽きないが、そんな野暮は言いっこ無しか。
 部屋に通されると荷物を置き、すぐにふたりでベッドに横になった。
 投げ出した手同士が触れ合い、どちらとも無く。それを握り締める

「ねえ、明日何処行こうか」
 ベッドの上で穣子が聞いてくる。
「何処でもいいよ。渋谷でも池袋でも秋葉原でも」
「そう、それじゃあ……」
 穣子はそこで言葉を区切り、体を起こして此方の顔を覗き込んだ。
「ねえ、帰りたくなったりしないの?」
「なんで?」
 更に顔を近づけて言う。
「あなたの家に行ってみたいと思って」
「ああ、家ならもう行ったし」
「……おい」
 がっしと肩を掴まれる。言われた方としてみればそんな気分だろう。
「何で一人で行っちゃうのよ。私の紹介は?」
「いや、往復二時間ちょっとだし、時間有るから下見に行こうかなと」
 肩を引き掴んで揺さぶられるが、こればっかりは甘受するより他にない。
 酔うほどに頭を引っ掻き回し、睨む様な調子で此方の顔を見つめてくる。
「下見なら私を親と合わせる気があるのね、無いなんて言わせてたまるもんですか」
 激昂した口調で穣子が言う。
 しかし、全くない、とその考えを打ち砕くとまたも烈火のごとく怒り出した。
「何で紹介しないの。他に誰かいるの?」
「いや、単純にどう言ったらいいものか、考えが浮かばないだけだが」
「そんなの嫁です、って言えばいいだけじゃない」
 またも肩を揺さぶられながら言われ、吐きそうになるのを堪えてそれに返した。
「だって何年も行方不明でふらっと帰ってきて結婚しましたはおかしいだろう」
 あー、と納得したような不満そうな声を出され、身がすくむ。
 表情は幾分穏やかになっているが、それでもまだ怒り顔だ。
「だから親と会うときは、適当なアリバイ作ってもらってからになるな」
 何かを言われる前に先んじて言っておく。本音では全く会いたくないという風に、ため息をつきながら。
「駆け落ちしてました、とかじゃ駄目なの?」
「駄目だと思うなあ。する理由が無いんだもん、態度でばれちまう」
 そう言うと、二人で頭を抱えて何か良い理由がないかと考える。
 とはいえ咄嗟に良い考えなど浮かぶはずも無く、迷宮入りと相成った。
「でも先延ばしにしていてもよくないのよねえ」
「まあ、それはそうなんだけれどもね」
 二人顔を見合わせてまたため息をつく。すると穣子が何かを思いついたらしく呼びかけてきた。
「ねえ、それじゃあやっぱり明日行ってみない?」
「そりゃ後回しにしてもだめとは言ったが、急すぎる」
「まあ、行きたくないならしょうがないんだけれども、」
 そこで一旦言葉を区切り、にっこりと微笑みながら穣子が言った。
「その代わりに明日は銀座で買い物ね」
 ああそうきやがったか。月賦でいろいろ買わせるつもりだろうか、これは後々響いてくる。
 どちらに行っても酷い事になる究極の二択。なかなか辛い明日になりそうだ。


新ろだ79

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