消せない罪(前編) ◆Z9iNYeY9a2
目が覚めた。
目の前に広がる光景は見慣れた部屋。
先輩の家の2階、木造の天井。
目の前に広がる光景は見慣れた部屋。
先輩の家の2階、木造の天井。
時計を見る。少し眠りすぎたようだ。
「そろそろ、先輩帰ってくるかな…」
体を起こしてベッドから立ち上がり部屋から出る。
部屋から出る時、視界の端に人影が映った。
体のあちこちをあらぬ方向に曲げられ、骨や内臓もはみ出して血塗れになった男がいる。
体のあちこちをあらぬ方向に曲げられ、骨や内臓もはみ出して血塗れになった男がいる。
そのまま歩幅も変えず、真っ直ぐ階段を降りていく。
階段の角には、全身から血を流し銃痕や裂傷でボロボロになった少女がいる。
階段の角には、全身から血を流し銃痕や裂傷でボロボロになった少女がいる。
「今日の晩ごはんの担当って、どっちだったかな」
キッチンへと向かう。リビングの襖を開けた。
胸に穴を開けた女の人がじっとこっちを見ていた。
胸に穴を開けた女の人がじっとこっちを見ていた。
キッチンに人影はない。まだ先輩は帰っていないようだ。
食材はまだ残っていただろうか。足りなくなっていたら帰ってくる前に買い出しに行かなければならない。
冷蔵庫を開く。
上半身だけになった金髪の女の子がいた。こちらをじっと見つめている。
食材はまだ残っていただろうか。足りなくなっていたら帰ってくる前に買い出しに行かなければならない。
冷蔵庫を開く。
上半身だけになった金髪の女の子がいた。こちらをじっと見つめている。
ガタリ、と扉が揺れる音がした。
「あ、先輩、帰ってきたのかな」
玄関へと急ぐ。
襖を開けたところに全身に火傷痕のようなものをつくった車椅子の少女がいる。閉じられている目なのにじっとこっちを見ているような気がした。
襖を開けたところに全身に火傷痕のようなものをつくった車椅子の少女がいる。閉じられている目なのにじっとこっちを見ているような気がした。
木の床の音を鳴らしながら小走りに玄関へと急ぐ。
向こうには二人分の人影が見える。きっと先輩と藤村先生だろう。
鍵を開けようとしているのだろう。こちらから開けよう。
向こうには二人分の人影が見える。きっと先輩と藤村先生だろう。
鍵を開けようとしているのだろう。こちらから開けよう。
玄関の脇に人の手と黄色い人形が置かれているのが見えた。視線は感じないが妙に存在感があった。
「今開けます、先輩、藤村先生、おかえりなさ―――」
鍵を開けて入口を開く。
そこに先輩はいなかった。
藤村先生はいた。腕を無くした上半身だけの姿で、地面にうつ伏せで転がっていた。
そこに先輩はいなかった。
藤村先生はいた。腕を無くした上半身だけの姿で、地面にうつ伏せで転がっていた。
「―――」
それで全部思い出した。
気付いた瞬間、それまで背後にあった家がドロリと溶けて闇の中に消えていく。
それまで見てきた人影が、背後に集まってじっとこちらを見ている。
それまで見てきた人影が、背後に集まってじっとこちらを見ている。
正面には少女が立っている。感情のない瞳で静かに見つめてくる。
これらが一体何なのかを理解したところで悲しくなってきた。
先輩がいないこと、藤村先生を自分の手で殺したこと。それらもある。
だけどそれ以上に。
先輩がいないことを思い出すまで、これまで行ったことを思い出さなかったこと。
これだけの人を殺しておきながら、そこに大きな罪の意識を感じなかったことに気付いたから。
だけどそれ以上に。
先輩がいないことを思い出すまで、これまで行ったことを思い出さなかったこと。
これだけの人を殺しておきながら、そこに大きな罪の意識を感じなかったことに気付いたから。
「プク」
視線を下に下げる。小さなピンク色の生き物がいた。
それは野球ボールほどの石を抱きかかえている。
その石を、こちらに向けて投擲した。
それは野球ボールほどの石を抱きかかえている。
その石を、こちらに向けて投擲した。
避けることもできぬままいたところ、それは右目付近に命中。
痛みを感じて顔を拭うと、ドロリとした液体が手を濡らし、右のまぶたが開かなくなった。
痛みを感じて顔を拭うと、ドロリとした液体が手を濡らし、右のまぶたが開かなくなった。
そこで、私の意識は覚醒した。
◇
病院を出発したニャースが遊園地へとたどり着いたのは、ルビーが夜神月と情報交換を行っている頃、屋外にそれ以外の3人が出ていた時だった。
「あ、ニャースだ」
「君たちはこっちに戻ったのか」
「Nのやつとは別行動ってことにしたからにゃ。
ところでおみゃーは誰にゃ」
「君たちはこっちに戻ったのか」
「Nのやつとは別行動ってことにしたからにゃ。
ところでおみゃーは誰にゃ」
イリヤとは顔合わせをしたことがあった故に面識があったが、スザクの顔を認識していなかったニャースは呼びかけられて思わず問いかけていた。
「この顔で合うのは初めてだったかな。仮面をしてたから無理もないか」
「あ、おみゃーはあっちのゼロだったにゃ?」
「ピカ?」
「そういやさっきのタイミングじゃおみゃーはいなかったにゃ。
こいつはNから預かったジャリボーイ―サトシってやつのポケモンでピカチュウっていうにゃ」
「……何か猫が二足歩行で歩いて喋ってるんだが」
「君はあまり見たことがないんだっけ?
彼らはポケモンという生き物らしい。その中でも彼は特異的な存在で、人間との会話が可能なんだとか」
「へぇ」
「あ、おみゃーはあっちのゼロだったにゃ?」
「ピカ?」
「そういやさっきのタイミングじゃおみゃーはいなかったにゃ。
こいつはNから預かったジャリボーイ―サトシってやつのポケモンでピカチュウっていうにゃ」
「……何か猫が二足歩行で歩いて喋ってるんだが」
「君はあまり見たことがないんだっけ?
彼らはポケモンという生き物らしい。その中でも彼は特異的な存在で、人間との会話が可能なんだとか」
「へぇ」
ニャースの姿に一瞬驚くような表情を浮かべた巧は、そう聞いてとりあえず納得したように頷く。
一方でイリヤはじっとピカチュウの姿を見つめている。
一方でイリヤはじっとピカチュウの姿を見つめている。
「ピカ?」
「ね、ねえ。その子」
「ニャ?そういえばおみゃーもこいつを見るのは初めてだったかにゃ?」
「ね、ねえ。その子」
「ニャ?そういえばおみゃーもこいつを見るのは初めてだったかにゃ?」
さっき遊園地に来た時にはそういえばポッチャマの元に向かっておりニアミスしていたかもしれない。
ピカチュウも合わせて初対面の巧達に自己紹介をするニャース。
ピカチュウも合わせて初対面の巧達に自己紹介をするニャース。
「…おみゃー何やってるにゃ?」
ふと見るとイリヤがピカチュウの前で棒をぶらぶらとさせている。
こちらからはその表情は見えなかったが、それが真っ直ぐと見えるピカチュウは露骨に警戒している。
こちらからはその表情は見えなかったが、それが真っ直ぐと見えるピカチュウは露骨に警戒している。
「ねえ、ちょっとこの子抱き上げていいかな?」
「ちょっと目がおかしいにゃ。
……仕方にゃーな。ピカチュウに少し話すから待ってるにゃ」
「ちょっと目がおかしいにゃ。
……仕方にゃーな。ピカチュウに少し話すから待ってるにゃ」
放置してもいいのかもしれないが、ニャースから見ても現状のイリヤの目の色は驚異に見えた。
かといってここで無理をさせればピカチュウは暴れて電撃を振りまくことになる。
かといってここで無理をさせればピカチュウは暴れて電撃を振りまくことになる。
ピカチュウを説得するニャース。
ものすごく不服そうに顔をしかめるピカチュウだが、しぶしぶニャースの説得を受け入れた。現在ニャースの言うことに逆らうことが難しいことも察した上での判断のようだ。
ものすごく不服そうに顔をしかめるピカチュウだが、しぶしぶニャースの説得を受け入れた。現在ニャースの言うことに逆らうことが難しいことも察した上での判断のようだ。
抱き上げて頬ずりをするイリヤ。そのまま少し離れた場所まで歩いていった。
「まあピカチュウのことは一旦置いといて、Nにモンスターボールの解析を頼まれたのにゃ。
もしかしたらこれがニャー達の首輪に関係あるかもしれないってことでにゃ」
「なるほど。今Nとの通信は可能だ。向こうの皆も交えて話すべきだろうな」
もしかしたらこれがニャー達の首輪に関係あるかもしれないってことでにゃ」
「なるほど。今Nとの通信は可能だ。向こうの皆も交えて話すべきだろうな」
と、ランスロットを待機させた辺りに目をやった時だった。
建物の中からガタリと何かが落ちるような音が響いた。
その衝撃から周囲のものを揺らしたのか、地面に落ちた何かが鋭い音を響き渡らせる。
その衝撃から周囲のものを揺らしたのか、地面に落ちた何かが鋭い音を響き渡らせる。
「おい、あの音の部屋、間桐桜が寝てた部屋だろ!」
巧とイリヤがすぐさま立ち上がり音のした方向へと向かっていった。
ニャースとスザク、そしてランスロットのコックピットで通信を行っていたルビーも遅れて飛び出した。
◇
起きた場所は見知らぬ天井だった。
今は夜で室内に明かりがないせいだろう、周囲が真っ暗でよく見えなかった。
今は夜で室内に明かりがないせいだろう、周囲が真っ暗でよく見えなかった。
腰を起こして腕で体を支えようとしたところで、寝かされていたベッドの上から転げ落ちた。
すぐそばに置いてあった机と、その上に置かれていたものを倒しながら地面へと倒れ込む。
地面に落ちたものは耳障りな音を奏でる。
地面に落ちたものは耳障りな音を奏でる。
受け身も取れずに転がり込んだ体は地面に打ち付けられて節々に痛みを走らせる。
「…っ」
小さくうめき声をあげながら、何故転がってしまったのかを思い返す。
周囲を探ろうと右手を動かそうとする。何も触ることができない。
周囲を探ろうと右手を動かそうとする。何も触ることができない。
「あれ…?」
右の二の腕付近に左手をやる。
まるで何かにすっぱり斬られているかのように、二の腕の先がなくなっていた。
まるで何かにすっぱり斬られているかのように、二の腕の先がなくなっていた。
少しずつ記憶が蘇ってくる。
これは確かナナリーの呼び出した巨人と戦った時に斬られたものだ。
体の他の傷は時間経過で治っていったからいつか治るだろうと思っていたのだが、なぜかこの腕だけは治ることがなかった。
吹き飛ばされて全身を地面に打ち付けられた時の体の傷や折れた骨も治ったのに、これだけはこのままだ。
体の他の傷は時間経過で治っていったからいつか治るだろうと思っていたのだが、なぜかこの腕だけは治ることがなかった。
吹き飛ばされて全身を地面に打ち付けられた時の体の傷や折れた骨も治ったのに、これだけはこのままだ。
「―――――――あ」
それをきっかけに、全ての記憶が脳裏に浮かび上がってくる。
逃げる少女へと銃を向ける自分。
こちらに立ち向かう少女を刃で切り裂く自分。
頼りになった大人の体を溶かしていく自分。
人を殺していく自分。
逃げる少女へと銃を向ける自分。
こちらに立ち向かう少女を刃で切り裂く自分。
頼りになった大人の体を溶かしていく自分。
人を殺していく自分。
食って、殺して、殺して、襲って、溶かして、殺して、暴れて、殺して、殺して殺して殺して殺して殺して殺して。
「あああああああああっ、違う、それは、私じゃ…!!」
思わず顔を掻き毟りながら絶叫する桜。
その時、部屋に明かりが灯った。
「おい、大丈夫か!!」
眩しい光の中で上から呼びかける人の顔を見る。
だけどその顔がよく見えない。というか視界もなんだか狭い。
だけどその顔がよく見えない。というか視界もなんだか狭い。
「誰、ですか…?」
『はーい桜さん、ちょっと失礼しますね』
『はーい桜さん、ちょっと失礼しますね』
ふわふわと、おもちゃのような何かが視界に入って質問を呼びかけてくる。
その問いかけに、答えられる範囲で答えていく。
その中で、今の自分の体の状態がある程度把握できていた。
その中で、今の自分の体の状態がある程度把握できていた。
右腕と右眼の欠損。そして残った左眼も視力を大きく失っている。
『ふむ、意識は少し混濁しているみたいですが、記憶に抜け落ちてるところはとりあえず見受けられませんね。
視力の低下はおそらくクラスカードを使用して神代の存在へと転身した副作用でしょう。もしかしたら他の身体機能にも影響が出ているかもですね』
「…大丈夫です、目は覚めました……」
視力の低下はおそらくクラスカードを使用して神代の存在へと転身した副作用でしょう。もしかしたら他の身体機能にも影響が出ているかもですね』
「…大丈夫です、目は覚めました……」
話していく間に、全部思い出した。
ふわふわと飛んでいるような、夢の中での感覚にも思われたが自分でも驚くほど全ての出来事をはっきりと記憶していた。
ふわふわと飛んでいるような、夢の中での感覚にも思われたが自分でも驚くほど全ての出来事をはっきりと記憶していた。
「皆さんを呼んでください。これまでのこと、全部話します」
だからこそ、話さなければいけないと思った。
◇
介護を受けながらもベッドの上に戻った桜は視線を下げて座り込んでいる。
室内にはイリヤ、巧、ニャース、スザク、そしてイリヤの手の中にいるピカチュウ。
そしてベッドの傍の窓にはルビーが陣取り、建物のすぐ横まで移動したランスロットに繋がっている。
そしてベッドの傍の窓にはルビーが陣取り、建物のすぐ横まで移動したランスロットに繋がっている。
ランスロットの通信機とルビーを通じてその光景が映し出されている先のアヴァロンにおいてはNや夜神月達がその光景を見ている。
可能な限り皆に聞いてほしいというのが桜自身の言ったことだった。
可能な限り皆に聞いてほしいというのが桜自身の言ったことだった。
(…まずいな)
その中で、月とNはこの後彼女が起こすだろう行動、そしてその影響に強く警戒をしていた。
彼女が何をしようとしているのかは、桜自身の思い詰めたような表情が全てを語っている。
彼女が何をしようとしているのかは、桜自身の思い詰めたような表情が全てを語っている。
「私は、ここに来てたくさんの人を殺しました」
そして告げられた言葉はその予想に違わぬ、自身の罪の告白だった。
デルタの力を纏って。
警官を惨殺したこと。
半狂乱の少女をおもちゃのように扱って殺したこと。
殺人者の女を撃ち殺したこと。
警官を惨殺したこと。
半狂乱の少女をおもちゃのように扱って殺したこと。
殺人者の女を撃ち殺したこと。
慕う恩師を食い殺したこと。
巨人を操って姉に似た人を殺したこと。
自分を叩いた男を怒りに任せて消したこと。
少女の杖を奪い、意のままに操って斬り殺したこと。
巨人を操って姉に似た人を殺したこと。
自分を叩いた男を怒りに任せて消したこと。
少女の杖を奪い、意のままに操って斬り殺したこと。
その一つ一つを、ゆっくりと口にしていく。
『一つ忘れてるわ。
ナナリーって子を覚えてる?』
ナナリーって子を覚えてる?』
桜が全てを口にし終わったと思ったところで、通信の先からアリスが口を挟んだ。
「…覚えてます」
『あなたが操ったっていう巨人に乗っていた子よ。
あの時N達に襲いかからなかったら、あの子も死ぬことはなかった』
「そう、ですよね…」
「……」
『あなたが操ったっていう巨人に乗っていた子よ。
あの時N達に襲いかからなかったら、あの子も死ぬことはなかった』
「そう、ですよね…」
「……」
責めるアリスの姿を見る巧とN。
巧は巴マミが魔女化した直接の原因が彼女ではないかと思い、Nもデルタのキックで消し飛んだピンプクのことを思い出す。
しかし言ったところで話が進まない。縁から桜を気にかけている二人は敢えてそれを言うことはなかった。
巧は巴マミが魔女化した直接の原因が彼女ではないかと思い、Nもデルタのキックで消し飛んだピンプクのことを思い出す。
しかし言ったところで話が進まない。縁から桜を気にかけている二人は敢えてそれを言うことはなかった。
場を沈黙が支配する。
桜の反応を待っている様子のアリスに対し、桜自身も相手の続く言葉を待っているようだった。
桜の反応を待っている様子のアリスに対し、桜自身も相手の続く言葉を待っているようだった。
あまり空気がよろしくないことを感じた月は話を進めるために口を挟んだ。
『それで、君はどうしたいのか?
元々ここの皆は君が行ってきた殺人はだいたいは把握している。細かいところや知らなかったこともないではないが。
だから真新しいというほどのものはない。その上で問いたいんだが。
君はその罪の告白をもって、どうしたいんだ?』
「………」
元々ここの皆は君が行ってきた殺人はだいたいは把握している。細かいところや知らなかったこともないではないが。
だから真新しいというほどのものはない。その上で問いたいんだが。
君はその罪の告白をもって、どうしたいんだ?』
「………」
月から見てモニター越しのその表情は前髪に隠れて窺うことはできない。
数秒の沈黙の後、絞り出すように口を開いた。
数秒の沈黙の後、絞り出すように口を開いた。
「私は、たくさんの人を、殺しました…。
今いるみなさんの大事な人も、アリスさんみたいに殺してる人がたぶんいると思います…」
「………」
「それに、私はこんな体です、もし生きてたらきっと皆さんに迷惑をかけます」
「おい」
今いるみなさんの大事な人も、アリスさんみたいに殺してる人がたぶんいると思います…」
「………」
「それに、私はこんな体です、もし生きてたらきっと皆さんに迷惑をかけます」
「おい」
その先に続く言葉に予想がついた巧は、桜の言葉を止めようと呼びかける。
しかし桜の言葉は止まらない。
しかし桜の言葉は止まらない。
「もし私のことが許せない、生きていちゃダメだって思うなら、殺してください…」
「お前、何言ってんだよ!!」
「辛いんです…、たくさんの人を殺して、藤村先生も殺して、先輩もいなくて…。
私には何も残っていない、血で染まった手しか、残ってないんです!!」
「お前、何言ってんだよ!!」
「辛いんです…、たくさんの人を殺して、藤村先生も殺して、先輩もいなくて…。
私には何も残っていない、血で染まった手しか、残ってないんです!!」
桜の荒げた声が響き渡る。
「いいだろう、もし君が本当にそれを望むというのなら」
静かに桜の話を聞いていたスザクが答える。
壁に預けていた背を前に動かすより先に、巧がその前に立ちふさがった。
壁に預けていた背を前に動かすより先に、巧がその前に立ちふさがった。
「待てよ、今のこいつは別に危なくはねえだろ、なあ!」
『確かにあの黒い魔力の気配はほぼ消えています。もし今の桜さんが人を殺そうとしても身体機能的に返り討ちにあうのがオチでしょう』
『確かにあの黒い魔力の気配はほぼ消えています。もし今の桜さんが人を殺そうとしても身体機能的に返り討ちにあうのがオチでしょう』
桜の心の奥にまだ残っているかは分からないが、とは言わなかった。
『すみません、少し桜さんを外して話し合いましょう』
提案したのはルビーだった。
当事者を外すことが正しい議論とは思わなかったが、今は本人がいてはやりづらい。
ついでに言うなら、正直まだ年端も行かぬ自身の主もこの議論からは外すべきではないかと思った一面もある。
当事者を外すことが正しい議論とは思わなかったが、今は本人がいてはやりづらい。
ついでに言うなら、正直まだ年端も行かぬ自身の主もこの議論からは外すべきではないかと思った一面もある。
桜は俯いたまま、何も言わなかった。
それを肯定と受け取った一同は部屋から出ていく。
それを肯定と受け取った一同は部屋から出ていく。
『イリヤさん、結果次第では気持ちのいい話し合いにはならないでしょうし、席を外しておくべきだと思います』
「…ううん、私も、命を張って桜さんを助けた一人だから」
「…ううん、私も、命を張って桜さんを助けた一人だから」
出るところでこっそり耳打ちするルビーだが、イリヤはその言葉を拒否して話に混ざることを選んだ。
◇
ルビーの通信で映像と音声が繋がっているアヴァロン内部。
「あの、アリスちゃん、大丈夫…?」
「大丈夫よ、うん、大丈夫。
ごめん、やっぱり抑えきれてないみたい」
「大丈夫よ、うん、大丈夫。
ごめん、やっぱり抑えきれてないみたい」
桜の姿を見ていたアリスを気遣うまどか。
その座る場所の近くにはえぐり取られたような穴が空いていた。
その座る場所の近くにはえぐり取られたような穴が空いていた。
「どうも、無意識のうちに力を使っちゃってたみたい」
「席を外しておくことをオススメするが」
「いいわ、夜神月。私だってそこまで感情に任せて動いたりはしない。
しないから」
「席を外しておくことをオススメするが」
「いいわ、夜神月。私だってそこまで感情に任せて動いたりはしない。
しないから」
ナナリーのことを許せたわけではない。
だが引きずっていては前に進むことができない。だからこの感情は心中の奥底に仕舞っておこうと思ったのだ。
それが、彼女自身が言った償いのための死を望む言葉で表出しかけた。
だが引きずっていては前に進むことができない。だからこの感情は心中の奥底に仕舞っておこうと思ったのだ。
それが、彼女自身が言った償いのための死を望む言葉で表出しかけた。
彼女がいる場所がモニタの向こうで良かったとアリスは思った。
通信の始まったタイミングで目を覚ましたポッチャマは一言も声を発していない。
Nにも心中を確信させないが、それでも察することはできた。
Nにも心中を確信させないが、それでも察することはできた。
「お前はどう思う、N」
「…タイガのことには思うところはある。が、これは彼女自身の問題だろう。
手を差し伸べることはできるかもしれないが、最終的な結論は彼女にしか出せないと思う」
「あの人は言わなかったけど、マミさんが絶望して魔女になったのも桜さんのせいかもしれないんですよね…?」
「あまり追求しすぎても仕方ないことだ。済んだことなのだから」
「…タイガのことには思うところはある。が、これは彼女自身の問題だろう。
手を差し伸べることはできるかもしれないが、最終的な結論は彼女にしか出せないと思う」
「あの人は言わなかったけど、マミさんが絶望して魔女になったのも桜さんのせいかもしれないんですよね…?」
「あまり追求しすぎても仕方ないことだ。済んだことなのだから」
この殺し合いで他者を殺す者がいなくなり脱出に向けて動き出そうと思ったこの段階において。
彼女の処遇が最後の試練となるのかもしれない。
彼女の処遇が最後の試練となるのかもしれない。
「ただ、どうしても考えてしまうことはある。
僕がもしまだキラだったら、彼女を裁いたのかどうか」
僕がもしまだキラだったら、彼女を裁いたのかどうか」
個人が直接手にかけただけでも8人。
過失や精神的な問題があったとしても多すぎるし、もし法であっても死刑以外の解決は難しいだろう。
そんな彼女を、おそらくキラは許容しなかっただろうと想定する。
過失や精神的な問題があったとしても多すぎるし、もし法であっても死刑以外の解決は難しいだろう。
そんな彼女を、おそらくキラは許容しなかっただろうと想定する。
「なら今の君は彼女を裁くのかい?」
「そんな資格はないさ。
松田や美砂はこちらから報復が必要な仲じゃない。美砂に至っては僕が言うのも何だが自業自得だ。
父さんのことは、それを理由に報復するようならきっとあの世で父さんにぶん殴られるだろうな」
「そんな資格はないさ。
松田や美砂はこちらから報復が必要な仲じゃない。美砂に至っては僕が言うのも何だが自業自得だ。
父さんのことは、それを理由に報復するようならきっとあの世で父さんにぶん殴られるだろうな」
そう言いながら、通信機の先のルビーに連絡を取り、桜の処遇はそちらに任せると言って通信を一時的に止めた。
現状介入する手段がないこちらがどうこう言う場面ではない。
ポッチャマを肩に乗せて窓の外を見るアリスと、彼女が座っていた場所にできた小さな床の窪みに目をやりながらそう考えて。
ポッチャマを肩に乗せて窓の外を見るアリスと、彼女が座っていた場所にできた小さな床の窪みに目をやりながらそう考えて。
◇
『分かりました。では桜さんについてはこちらで話し合わせていただきます』
室外に出たところでルビーはそう言って通信を切った。
『向こうの人には桜さんをどうするか決める権限がないのでこちらに一任したいとのことです』
「そうか、でも正直、彼女がいる場所がこっち側で助かったと思う」
「そうか、でも正直、彼女がいる場所がこっち側で助かったと思う」
そう言って周囲にいる皆を見回す。
桜を助けるために戦った巧とイリヤ。イリヤは美遊とルヴィアのことにはまだわだかまりが残っているようだが、助けた相手にここで行動に移すほど直情的でもないだろう。
桜を助けるために戦った巧とイリヤ。イリヤは美遊とルヴィアのことにはまだわだかまりが残っているようだが、助けた相手にここで行動に移すほど直情的でもないだろう。
ニャースとピカチュウは複雑だろう。特にピカチュウは仲間を殺されている。
一方で自分のトレーナーを殺害した相手を手にかけたのが桜だということには言葉にしづらいほどの複雑な感情がある。
一方で自分のトレーナーを殺害した相手を手にかけたのが桜だということには言葉にしづらいほどの複雑な感情がある。
だが向こうには桜のせいで友が死ぬ原因になった少女がいる。トレーナーを殺されたというポケモンがいる。
特に少女、アリスは向こうのチーム内では最大戦力といえるほどの力を持っている。
決してそこで行動に出るほど感情的だとは思わないが、その仇がさっきのような反応をした場合、果たして彼女は冷静でいられるだろうか。
特に少女、アリスは向こうのチーム内では最大戦力といえるほどの力を持っている。
決してそこで行動に出るほど感情的だとは思わないが、その仇がさっきのような反応をした場合、果たして彼女は冷静でいられるだろうか。
「俺個人には彼女に恨みはない。裁く権利もないと思ってる。
だけど間桐桜自身が生きる意思がないというのなら、この先は戦う力がない者以上に足手まといになるだろう。手を下す必要もあると思っている」
「…待てよ。言っただろ、あいつがおかしくなったのは最初にデルタギアを使ったからだって
ならあいつが自分を取り戻したんだったらやり直せる、そうじゃねえのか?」
だけど間桐桜自身が生きる意思がないというのなら、この先は戦う力がない者以上に足手まといになるだろう。手を下す必要もあると思っている」
「…待てよ。言っただろ、あいつがおかしくなったのは最初にデルタギアを使ったからだって
ならあいつが自分を取り戻したんだったらやり直せる、そうじゃねえのか?」
スザクのある種冷徹な意見に反論する巧。
「…一つ聞いておきたいことがある。
君がこれまでどう戦ってきたかは一通り聞いている。それを知った上で聞きたい。
彼女を生かしたいと思うその感情は、君自身の意思かい?」
「どういう意味だよ」
「本来彼女は君とは関わりを持っている人じゃない。
君が間桐桜をかばうのはきっと衛宮士郎という男のことだろう。
だがその男はもう死んだ。そして君は乾巧、衛宮士郎じゃない」
「だから、見捨てろってのか」
「余計なお節介かもしれないが、彼女を守るという意思がその男ありきのものだというのならその選択も必要だ」
「お前…っ!!」
君がこれまでどう戦ってきたかは一通り聞いている。それを知った上で聞きたい。
彼女を生かしたいと思うその感情は、君自身の意思かい?」
「どういう意味だよ」
「本来彼女は君とは関わりを持っている人じゃない。
君が間桐桜をかばうのはきっと衛宮士郎という男のことだろう。
だがその男はもう死んだ。そして君は乾巧、衛宮士郎じゃない」
「だから、見捨てろってのか」
「余計なお節介かもしれないが、彼女を守るという意思がその男ありきのものだというのならその選択も必要だ」
「お前…っ!!」
思わず胸ぐらを掴んでしまった巧。
傍にいたイリヤの体がその怒気にビクリと震える。
傍にいたイリヤの体がその怒気にビクリと震える。
『落ち着いてください二人とも!話が本題からズレてます!!』
ルビーが二人の顔の間に割り込む。
イリヤが一息飲み込むほどの間が空いて、巧はその手を離した。
「彼女が背負っているものはきっと、生半可な覚悟じゃ共に背負うことはできないものだ。
たぶん、それを背負うことに全てをかける必要さえあるかもしれない」
「…士郎はたぶん、それくらいの覚悟を持ってたんだよ。
だけど、俺だって軽い気持ちで言ってるわけじゃねえよ。うまくは言えねえけど」
たぶん、それを背負うことに全てをかける必要さえあるかもしれない」
「…士郎はたぶん、それくらいの覚悟を持ってたんだよ。
だけど、俺だって軽い気持ちで言ってるわけじゃねえよ。うまくは言えねえけど」
場の空気に険悪なものが混じりつつあった。
巧が手を出してしまったことが原因だが、スザクの言葉に対して巧だけでなくイリヤも若干の苦手意識を持ちつつあった。
巧が手を出してしまったことが原因だが、スザクの言葉に対して巧だけでなくイリヤも若干の苦手意識を持ちつつあった。
『はぁ…、議題は桜さんをどう対応するかです』
『じゃあ、こういうのはどうだい?
間桐桜自身に、役割を与えるんだよ。この場の皆の利益になるような役目をね』
「…おい、今の声は誰のだ」
『じゃあ、こういうのはどうだい?
間桐桜自身に、役割を与えるんだよ。この場の皆の利益になるような役目をね』
「…おい、今の声は誰のだ」
不意に、一同の会話に未知の声が響き渡った。
周囲を見回す中で、ニャースとピカチュウの隣に白い影が見えた。
周囲を見回す中で、ニャースとピカチュウの隣に白い影が見えた。
「ピカ?!」
「何ニャ、おみゃーは?!」
「何ニャ、おみゃーは?!」
横にいきなり現れた未知の生き物に大きく後退する二匹。
『君たちの前に姿を表すのは初めてだね。
はじめまして。僕はキュゥべえ。アカギに協力してこの殺し合いを管理しているものさ』
はじめまして。僕はキュゥべえ。アカギに協力してこの殺し合いを管理しているものさ』
白い生き物は、無機質に笑顔を向けながらそう答えた。
◇