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涙も痛みも運命さえも超えて

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kaleidscope/涙も痛みも運命さえも超えて ◆Z9iNYeY9a2



ランサーとアサシンが先導を取り、その後ろからセイバーが追いかけ、宙を舞うキャスターが魔法陣を展開し始める。

その中で、イリヤはランサーの攻撃を素早い身のこなしで避けていく。
槍の軌道を読み、突きを顔をそらして避け、振るわれた槍は身をかがめて回避。
そこからリーチ内に入ったことで振るわれたアサシンの刀は短剣の投擲で軌道をそらし、外した隙に地を蹴る。

背を向けた無防備な状態のイリヤを斬りつけようとしたアサシンの体は、その後ろから放たれた赤い光弾によって吹き飛ばされる。
間髪入れず、イリヤの背後で槍を構えるランサーの足元を、巧がブラスターで撃ち抜きその動きを止めた。
振り向いたランサーに向けてブレイカーモードの刃で斬りつけ足止めを図る。

そのままイリヤは突っ込んでいく中で、目の前に立ち塞がる騎士と大男の姿を見た。

(セイバー…、バーサーカー…!)

この殺し合いの場でも出会った二人。しかしその姿には命を感じない。
これはまるで操り人形のように淡々とこちらへの殺意を向けるだけの存在。
あの二人に比べても力は劣化しているとはいえアサシンの能力で相手にできる存在ではない。

瘴気を纏った大剣による横薙ぎを跳んで避ける。
しかしその跳んでいる状態のところに追撃をかけるバーサーカーの一撃を避けることができず、イリヤの体は吹き飛ばされる。

地面に転がった小さな体は、そのまま動かなくなったと同時に消失。
妄想幻像によって生み出された分身を身代わりに、本物のイリヤは既にバーサーカーの背後に着地しそのまま駆け抜けている。

キャスターが宙から幾つもの光弾が放たれ地面を穿つもそれらを避けて走るイリヤの目前に現れたのは巨大な刀を構えた巨人。
マークネモの振り下ろした刀を横に回り込んで回避、次いで放たれた頭髪に結び付けられた多数の刃、ブロンドナイフを縦横無尽に走り回って避ける。

しかしその巨体を足蹴に飛び越えていこうと跳んだところでブロンドナイフの軌道が変わり、地面に刺さっていたはずの刃がイリヤへと向かう。
殺気に振り返ったイリヤの体が刃に貫かれ―――その体はバーサーカーに吹き飛ばされた時と同じく消失した。

そのままマークネモの脇を駆け抜けようとした本物のイリヤの進行を、マークネモから飛び出した人影が遮った。

そこにいたのはかつて初戦闘で戦った黒化英霊と全く同じ姿をした長髪の女。

構えるライダーに対し短刀を投擲。しかし手の刃で弾かれ、返す手で鎖のついた刃が投げられる。
回避し前を向いたイリヤ、しかしライダーは既に目の前。驚愕しつつも刃を振るうが当たらず、逆にその長い脚が体を捉える。
吹き飛ぶイリヤを、その速度より速く地を蹴り迫ったライダーの追撃が迫る。

態勢を立て直す暇すら与えぬライダーの連打。
刃を構えられず隙だらけになった体に、今度は刃が突き立てられた。

刃は肩を貫き、更に宙で鎖に全身を絡め取られ拘束される。
そのまま力任せに鎖を振り回され、地面に叩きつけられるイリヤの体。
しかしそれもまた消失。

分身を囮に、一瞬の間にライダーの横を駆け抜けようと大きく跳び。

しかしその体は宙に張られた鎖に足を取られたことで大きくバランスを崩して地面に転倒。
起き上がった時、ライダーの鎖はイリヤの周囲に蜘蛛の糸のごとく張り巡らされていた。

『姉さん、イリヤさん、流石に何度も使いすぎです!』

妄想幻像による分身も、3度目となれば敵の対応も早い。
鎖を縫ってこちらへの突撃を仕掛けるライダーを避け、後方に下がって態勢を立て直すイリヤ。

『ちょっと、あの黒化英霊、以前私達が戦った時よりも強くなってないですか?』

ルビーの懸念の声も最もだ。
以前戦った際はイリヤ自身が戦闘経験の少なさ故に圧されたとはいえ、ここまで機敏に、積極的に接近戦を仕掛けてくる敵だっただろうか。

『おそらく、ですが。士郎様がセイバーのクラス、イリヤ様がバーサーカーのクラスのサーヴァントのマスターであったとして。
ライダーのマスターはもしかすると』

前を向くと、纏った鎧の音を鳴らしながらこちらへと歩み寄る桜の姿。

『なるほど…、偶然か運命か、かつて従えたサーヴァントを受肉させパスを繋げたことで、その魔力相性がかつての黒化英霊以上の戦闘力を発揮するに至っているかもしれないと』

ライダーが鎖を解くと同時、桜の拳がイリヤへと迫る。
腕で防御の態勢を取り防ぐも、基本能力の違いからか守りきれず大きく吹き飛ばされる。

痺れる腕で短刀を投げるも、桜は難なくそれを受け止め、逆に自身の武器のように構える。

『いけません!武器を手放しては桜さんの手数を増やすだけです!』
「…っ」

迫る桜の振るう短刀。
受け止めるも、同じ武器を使っているはずなのに全く受けきれない。
まるで長年の愛刀であるかのように器用にこちらへと斬りつけてくる。

どうにか急所を斬られることだけは防ぎ続けるが、腕や脚、脇腹に幾つもの切り傷がつけられていく分までは対応できない。

後ろに下がって距離を取り、再度桜の様子を確認するイリヤ。
対してゆっくりと体を起こしながらイリヤの方を見る桜。

共に息が荒く、肩で呼吸をしている。

体のあちこちに傷を作り、白い肌を血が汚しているイリヤ。
対して桜は使い魔に任せた戦いが多かったこともあってか傷はない。
しかし短刀を握った手が震えているのをイリヤは見逃さなかった。

更にこちらへと一歩足を進めた桜は、ふいに顔を抑える。
目周りを兜で覆われた顔の、下半分の口と鼻の辺り。そこから手を離した時、桜の手には血がついていた。

『一度にあれだけの使い魔に対してあれだけの動きをさせていれば、脳がオーバーワークにより負荷がかかるもの。
今の桜さんは、言ってみれば数日間徹夜でぶっ続けの作業をしてるようなものです』
「これ以上続けたら、どうなるの?」
『桜さんの脳の機能に障害が残る、程度ならまだいいでしょうね。下手をすれば脳の機能が停止して命を落とす可能性も』
「…っ、桜さんもう止めて!!」

思わずイリヤは叫んでいた。
体の異常に桜自身が気付いてなかったとは思えない。
こうして止まっている間も、後ろでは巧がサーヴァントを抑えて戦っているのだ。

きっと桜は最後には自分が死んでしまうことも視野に入れた上でこうして戦っている。

「士郎さんも、そんな桜さんの姿、絶対に望んでない!」
「ふ、ふふ。あなたが先輩を語らないでください」

周囲に落ちていた短刀を拾い両手で弄びながらイリヤに殺気を向ける。

「そもそも先輩がどんな気持ちで私を受け入れてくれたか、愛するって言ってくれたか、あなたに分かるんですか?」

無造作に、しかし鋭く一直線に投げられた短刀を弾いて前を向いた瞬間、桜の姿はイリヤの目の前にあった。

「姉さんは助けてくれなくて!!誰も私のことを間桐桜として見てくれなくて、ただの実験材料を見るような目で見て!!
そんな中で先輩だけが私の味方になってくれた!!こんな化物の私を!!
ずっと人を食べ続けて、もしかしたらいつか本当に”悪”になってしまうかもしれない私を!!」

刃を受け止めるイリヤの動きが鈍る。

イリヤの脳裏に浮かんだのは、もう一つの世界でホムンクルスとして生まれ生かされ続けた自分の姿。
あれと同じ業を背負わされて生きてきたのが桜なのかもしれない。

『イリヤさん!!』

動きが鈍った隙を逃さず、桜の突き出した短刀はイリヤの心臓を捉えていた。
しかし貫かれたイリヤの体は黒い煙になって霧散。

『イリヤさんしっかりしてください!今のやつは危なかったですよ!!』
「ご、ごめんルビー…!」

気を取り直して桜の元を向こうとして、横から飛来する鎖の音に咄嗟に飛び退く。
桜の横でライダーも主を守るように動き始めていた。

「分からないですよね、あなたには。だってあなた、とても幸せそうなんですもの」

鎖が投げられると同時に桜が動き、短刀を突き付ける。
身を翻して避けたところで今度は桜は鎖を掴み振り回す。その鎖を掴んでいたライダーの体がこちらへと迫る。
遠心力に合わせた蹴りがイリヤの体を捉え吹き飛ばす。

「がはっ…」

地面をもんどり打って飛ばされたイリヤの体からカードが弾き出される。

『いけません!ダメージを受けすぎました!』
「イリヤ?!くそっ、邪魔だお前ら!」

地面に転がったイリヤを見た巧は近寄ろうとするも、シャドウサーヴァント達を振り切ることができず身動きが取れない。

「もしかしたら本当に、あなたはただの人として生きてきただけなのかもしれない。
でも、ならそれこそ私や先輩のこと、軽々しく語らないで!」
「くっ…」

起き上がったイリヤはカードを拾い、空へと退く。

「逃しません…、ライダー!!」

しかしキャスターに追撃を任せることなく桜はライダーを呼びかける。
呼び声の意図を読んだライダーは、素早くペガサスを呼び出す。
その背に乗ったライダーの後ろに、膝を立てた態勢で乗る桜。

そして、その手に一本の剣を取り出した。
全体を黒く塗りつぶされた、身長ほどはあろうかという両刃剣を。



動けぬままその場に縫い付けられた巧だったが、それを成していたシャドウサーヴァント達が急に形を失って全てが地に崩れ落ちた。

「…?何だ?」

相手の体力切れか何かかと思った巧だったが、影を形作っていた泥は再度集まり黒くのっぺりした巨人の姿へと変化する。

ふと、その後ろの風景の中で空を飛びイリヤを追う一陣の光を見た。
間桐桜とライダー、そしてその手に握られている剣。


―――もし他者の武器を操る力を封じて、自身の剣を、おそらくは黒き両刃剣を携えてきた時は注意を。それはかの騎士の持つ切り札だ

セイバーの言葉が脳裏を過った。

(…まさか)
「おいイリヤ!!その剣に気をつけろ!!」

思わず叫ぶ巧を、影の巨人の腕が薙ぎ払った。


『イリヤさん!迎撃を!!あの武器たぶん宝具です!!』
「…っ」

振り返ったイリヤの目には、ライダーの駆るペガサスに跨りこちらへと一直線に迫る桜の姿。
その手に構えられている剣は青白く輝いている。

「―…砲撃(フォイア)!!」

急ぎルビーから魔力砲を放つも、ペガサスに当たる前に消滅。黒化英霊による劣化品とはいえ現状のイリヤの魔力ではペガサスを怯ませることすらできない。

「―――ー縛鎖全断(アロンダイト)」

目の前に迫り宝具の真名を唱える桜。
刀身に魔力の輝きが溢れる。セイバーの聖剣を抜いた時の光に似ているが、それを距離をつけて振り抜く気配はない。
おそらくはあの魔力を刃として斬りつけるつもりなのだろう。

『姉さん、障壁を!!』
『え、はい、イリヤさん!!』

サファイアの声に反応したルビー、イリヤが障壁を展開。
星型の魔力壁が前面に現れる。しかし宝具を受けるものとしてはあまりにも頼りない。

目の前に迫った光を前に、思わず目をつぶったイリヤ。
その時、体が何かに押された。


「過重湖光(オーバーロード)―――!!!」

魔力を纏った魔剣・無毀なる湖光の一撃が放たれ、周囲を光が照らす。
剣に込められた魔力が、斬りつけられた対象の内部に流れ込み絶大な破壊力を生み出す。

しかし、それを受けたのはイリヤではなかった。

『さ、サファイアちゃん!?』
「えっ」

柄の部分を一直線に斬りつけられたサファイア。

イリヤを逃がすために攻撃の命中を錯覚させて相手の注意を一瞬でも反らすために敢えて攻撃を受けたのだ。
それはサファイアの柄の部分へと命中、斬りつけられた場所からは魔力が溢れ、爆発。
障壁で守っていたとはいえ衝撃までは相殺しきれずイリヤの体を吹き飛ばす。

その拍子にルビーもイリヤの手元を離れてしまう。

『イリヤさーーーーん!!』

転身が解け、イリヤの体は浮力を失い墜落していく。

「…!!くそ!!」

巧はそんな様子を見て巨人を捨て置きイリヤの元に飛ぼうとする。
しかし宙を飛んだ巧の足を、巨人の帯が掴んでいた。
進行を阻まれ逆に引きずり降ろされた巧。そして逆に巨人はイリヤの墜落地点まで素早く迫り。


ドプン

まるで粘度の高い沼に落ちたかのような音を立てて、イリヤの体は巨人の中に呑まれていった。

「な…っ」

言葉を失う巧、ルビー。

そんな彼らの前で、桜は手にしていた剣を消失させる。
巨人の形が蠢き、それまでと同じ、シャドウサーヴァント達の形へと変化していく。


「さあ。邪魔者は一人減りました。
残るはあなただけですよ、乾巧さん」

ペガサスから飛び降りた桜は、口に不気味な笑みを浮かべながら巧達の元へとゆっくりと迫った。




泥の中に落ちたイリヤは、闇の中を蹲って漂っていた。

本来ならすぐさま消化されるものだがそれが成されないのは桜自身が敢えて嬲るために生かしているのか、あるいはイリヤの持つ特性ゆえか。
しかし生かされたとしてもどうしようもなかった。

体から少しずつ力が奪われていく感覚。
周囲を覆う闇の中から響く憎悪のような声。

(私は…どうすればよかったの…?)

何も知らなかった。知らされなかったから。
助けたいと思ったのは真実だ。衛宮士郎のことを置いても、それがイリヤがイリヤたる思いなのだから。

だけど向き合ってしまうと、まるで自分の人生そのものに対して楔を打たれたかのような感覚に包まれていく。

この泥が、ある意味では自分が背負うべきものだということを知っている。
それを背負わされた少女と、果たしてどう向き合うべきなのか。

(分からないよ…)

それはこれまでの10年と少しをただ普通に生きてきたイリヤには重すぎるものだ。

―――だったら諦める?

誰かが囁く声が頭に響く。

諦める。それも選択肢なのかもしれない。
ここで死んでしまえば、きっとこの泥の呪いも、背負うはずだった宿命も、その苦しみも全てなかったことにできるだろう。

(……―――…)

なのに、諦める気にはなれなかった。

色んな人が死んでいった。
凛さんも、ルヴィアさんも、バゼットさんも、クロも、士郎さんも、バーサーカーも、美遊も。
シロナさんもミュウツーさんも結花さんも。

そして、生きてるみんなはまだ戦っている。
巧さんも、セイバーも、あの白い騎士に乗った人も、Lさん達もきっと。

士郎の背中が脳裏に浮かび。バーサーカーから確かに聞こえた激励を思い出し。


「それでも、…私は……、負けたくない…」

目を閉じたイリヤがそう口にした時だった。

どこからともなく泥の中にひらり、と舞った一羽の純白の羽。
それは泥など存在しないかのようにイリヤの周囲を浮遊した後その足に備え付けられたカードホルダーに触れた。

闇の中を眩い光が照らし、イリヤは思わず目を開く。

「分かってんじゃないの、イリヤ」
そこに聞こえたのは、もう二度と聞くことがないと思っていた声で。
もう二度と見ることのない顔。

鏡写しになったように自分と同じ形をした顔、しかし褐色の肌を持ったその少女は。

「く、クロ…?!」

クロエ・フォン・アインツベルン。
既に命を落としたはずの、自身の片割れの存在。

「ど、どうして?!」
「私だって驚いてんだけどね。まさかまたこうして出てこられるなんて。
だけど強いて言うなら、最期にあんたの幸せを祈った一人の少女の願いが起こした奇跡、ってところかしら」

と、クロが手につまんだ一枚の羽。
見覚えはあった。長田結花、クレインオルフェノクの羽。美遊が最期に彼女が残したものと言っていた。

「たぶん美遊が最期に願いを込めた結果、ほんの少しの魔力がこれに宿っていたみたいね。
私の人格ももうカードから表出することはないはずだったんだけど、少しだけ、こうやって顔を出せたってわけ」
「それじゃあ、クロは…」
「これが最後。魔力が尽きたら消えるわ。イリヤの中に還って、ね」
「…!」

再会に喜ぶ間もなかった。
それではこうして会えた妹は、まるで自分に別れを告げるためだけに現れたみたいだ。

「どさくさで妹とか言わないでくれるかしら。
と、そんなことを言ってる場合じゃないわね」

と、不意にイリヤの目の前に指を突き出したクロは。

バシッ

鋭い音を立てて指を弾いた。

「ギャイン!!」

額を打ったデコピンの衝撃に思わず仰け反るイリヤ。

「な、何すんの!!」
「全く、答えは分かってるのにそうやっていつも悩んで、そういうところ本当イリヤね!
だけど今回だけは、私があんたの悩みに答えを教えてあげるわ。
お姉ちゃんの最後のアドバイスよ、聞きなさい」
「クロこそお姉ちゃんって――」
「それはもういいから!」

と、クロはイリヤを指さして語る。

「いい?確かにこの泥も、あの女の宿命も、本来ならあんたが背負うものだったかもしれないものよ。それはきっとどうやっても変わらない。
だけど、あんたはそうはならなかった。ただの少女として学校に行って、友達を作って、家族と幸せに過ごしてるわ。
どうしてだと思う?」
「どうして、って…」

質問の意味が分からなかった。
その問いかけには、そうなったからそうしている、としか答えられない。

「じゃあ言い方を変えるわ。あんたがそういう生き方をすることを願った人がいるはずよ。誰だと思う?」
「願った、人…」

アインツベルンの家からイリヤを連れ出し。その宿業から解放し。
ただごく普通の、幸せあれと願った人。

「もしかして…、ママと、お父さん?」

母親と父親。アイリスフィール・フォン・アインツベルンと衛宮切嗣。

「分かってんじゃないの」

クロはその答えを聞いて、畳み掛けるように紡ぐ。

「あんたの幸せは、あんた一人のものじゃない。ママやパパがそうあってほしいって願って戦って、その果てに掴み取ったものなの。
それを否定するってことは、二人の戦いも否定することと同じよ」

ある時見た、封じられたクロの記憶。あれが二人が決意した時の光景なのだとしたら。
そして、クロは知っている。二人がどんな思いで自分の力を封じて、ただの”イリヤ”として生きてこさせたのか。

「これはパパとママのことだけじゃないわ。あんたと一緒に戦った人やあんたを守った人たち、その思い全部が今のイリヤ、あんたなのよ」
「………」
「それは誇るものでこそあれ、後ろめたいなんて思う必要なんてないの。
だから、もっと胸を張りなさい。私はこんなに幸せなんだって、色んな人に守られて生きてきたんだって」

その言葉に、イリヤは自分を縛っていた一つの鎖が解き放たれたように感じた。
心に引っかかっていたものが取れ、それまで見えなかったものが見え始めた。

「そしたら、もう、後は分かってるわね」
「――――うん」

やらなければいけないこと、ではない。
やりたいこと、やるべきことがある。

因縁も宿業も関係ない。
ただ、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンとして。

「だったら、やってやりなさい。
この世全ての悪とか、魔術師何百年の宿願とか、何より女の子のウジウジした悩みとか。
そんなもの、全部ぶっ飛ばしてやりなさい!」

クロの言葉を噛み締めながら、イリヤは瞳を一度閉じる。

「あんたが生きてきた道に注がれた愛やみんなの想いは、そんなものに負けないんだから!!―――――」

そして瞼を開けた時、そこにクロの姿はもうなかった。
これが本当の意味で今生の別れ。だけど、もう涙は流れなかった。


ただ、聞こえるのは泥の発する呪詛の声のみ。

だけど、もうイリヤはそんなもので止まる気はしなかった。




ランサーを切り伏せ、アサシンの刀を受け止めた後刀を掴み動きを封じ中断蹴りを叩き込んで粉砕する。

「おい、イリヤはどこだ?!」

巨人が分かれたシャドウサーヴァント達。この中のどれかにイリヤがいる。
そう言ったのは墜落後咄嗟に拾い上げたルビーだった。

『分かりません!詳しく探知をしようにも泥のせいでジャミングが――でもイリヤさんは確かにまだ生きています!』
「くそっ!」

言いながら桜の方を見た巧。
操るシャドウサーヴァントの数は先程と比べて大きく増えている。常にほとんどの敵が動いている状態だ。

加えて。

「…っ!!」

突き出された魔力の刃を受け止める巧。
宝具によって斬りつけられたサファイアを拾ったのが桜だった。
解放された宝具のダメージは魔法使いによって作られた礼装といえども堪えたのか、サファイアはしゃべることも反抗する様子もない。

『サファイアちゃんを離しなさい!』
「五月蝿いですね。あなたもすぐ主と同じ場所に送ってあげますよ」

と、巧の背後から巨斧を振りかざすバーサーカーの姿をルビーは探知。
ランサーやアサシンの攻撃と比べれば避けやすいとはいえ、直撃すればブラスターファイズとて無事で済む攻撃ではない。
しかし桜に対応する巧は、背後のバーサーカーの対処が追いつかない。

そのまま力一杯振り下ろした斧剣は。
巧の体を砕くことなく、逆に巧の体に泥として当たり、その全身を黒く濡らす。

全身から放射される熱により泥が逆に焼かれていく中、巧はバーサーカーの方を向く。
今のバーサーカーに起こったことは桜にも予想外だったのか、彼女の動きもまた止まっている。

そこには白と黒の双剣を手に腕を広げ、赤い外套を纏った――アーチャーのクラスカードを夢幻召喚したイリヤが佇んでいた。

「無事だったか!」
『イリヤさん良かった!…イリヤさんその魔力は――』
「話はあと!まずこの群れの中から桜さんを引っ張り出して!」

巧からルビーを受け取ったイリヤは、一直線に桜の元に向かって駈ける。
既に桜はイリヤの出現に体制を立て直すために後ろに後退している。
その行く先を封じるシャドウサーヴァント達。

しかし襲い来る群れを見ても、イリヤは速度を緩めはしない。

ランサーが振るう槍を双剣で受け、押し返す。
距離を取ったランサーへ向け投影した干将莫耶を投射、同時にランサーはイリヤを迎撃するかのように槍を投擲態勢に入り。
瞬時にランサーの側に転移したイリヤは、干将莫耶が命中する直前でそれを受け取り、その体を切り裂いた。
直前で飛び道具から近接武器へと変化した攻撃には矢避けの加護が発動できず、切り裂かれて消滅していく。

更に駈けるイリヤに向けてキャスターが魔力弾を照射。
イリヤは今度はキャスターへと向けて2セットの干将莫耶を飛ばす。
迫る双剣を迎撃しようと宙に飛びながら砲撃を撃っていくキャスター。撃ちきれず迫ったものには防壁で防ぐ。
そこにイリヤは高く跳び背後に回り、引き絞った矢を射出。
双剣の迎撃に意識を割かれたキャスターは対応できず、体の中心を撃ち抜かれて地に落ちていく。

そのキャスターを蹴り、桜の元に空から向かう。


「私、色々考えてみて、私の因縁とか私の運命とか、そういうことでごちゃごちゃになってた。
でも、冷静になってちょっと考えてみたの」

その手に構えた双剣を鶴翼のごとく巨大化させ広げ、一気に桜に振り下ろす。

「今の桜さん、すっっっっっっっごく!!!腹が立つ!!!!」

サファイアの刃で受け止め、切り返す桜に、負けず劣らずの気迫で畳み掛けるイリヤ。

「死にたいとか恨めしいとか、全部そっちのことばっかり言って!!
お兄ちゃんのこと私が取ったとか、自分を裁いてほしいとか!!!
全部桜さんの都合じゃないの!!」
「…っ!?」

怒るイリヤの連撃。動揺しつつもその剣を受ける桜。
技量は決して劣ってはいない。むしろそれだけなら今の桜の方が上だろう。
なのに、返しの一撃を打つことができない。

「それを言ったら、友達を殺された私はあなたを許せないし!!
いっぱい殺したんだったら先にすることあるでしょ!!
なのにあなたは死にたいとか叱ってほしかったとかそればっかり!!」
「あなたに何がっ…!!」

逆上した桜は、攻撃を篭手の部分で受ける。
返す暇を与えることなく手に持った干将を引き、そのまま武器の主導権ごと奪い取る。
しかし奮った剣はイリヤに当たることなく。

見失ったイリヤの姿を桜が確認した時には、イリヤは高く跳び上がり矢を構え桜へと狙いを定めていた。
射出用に変形させた莫耶が桜へと向けて射出。しかし桜は着弾する寸前でその矢を受け止める。

間一髪で矢の主導権をも奪えたことに安堵した桜。
故に宙からすぐ横に転移したイリヤに気づくのが遅れる。

攻撃を警戒したが、一瞬の交錯の後イリヤはこちらから離れていく。
刹那の困惑の後、その手に握られているものの存在を見た瞬間、イリヤの狙いを桜は悟る。

「サファイア、大丈夫?!」
『い、イリヤ様…。私は大丈夫です』
「…少し、無理をさせるかもしれないけど、大丈夫?」
『――――、大丈夫です。私のことはお気になさらず!』

奪取したサファイアの声の弱々しさを見たイリヤは念の為の確認の呼びかけを行うと、サファイアは調子を取り戻したように声を出す。

今のイリヤの使えるカードの力はこのアーチャーの力だけ。しかしこの能力はあの黒騎士の英霊とは相性が悪い。
もし魔法少女形態であればどうだろう。クロが帰還し魔力が戻った今であっても、魔力総量の違いから一筋縄ではいかないだろう。

ならば、手は一つ。

「私を、馬鹿にしてっ…!!」

怒りのままに桜はマークネモをイリヤへと差し向ける。
立ち止まって両手にステッキを構えたイリヤへと、素早い動きで刀を振り下ろし。

その瞬間、イリヤの体が光に包まれた。

闇を照らさんばかりの輝きを放つイリヤの体は、マークネモの体を振り下ろされた刀ごと断ち切った。
巨体は崩れ、行き場を失った刀身の欠片は桜の元へと飛んでいく。
咄嗟に桜の側に駆け寄ったライダーが、それを弾き返す。
弾き返された刃は泥となって飛び散り、桜の顔を汚した。

拭いながら桜が空を見上げた時、淡い桃色の魔力翼を纏った少女の姿がそこにあった。
手に持っているステッキは一つ。もう一つは消えたのではない。ルビーとサファイアを示す五芒星と六芒星は一つに、同化し一つのステッキとなっている。
身にまとった衣装もイリヤの普段のカラーリングの中に青色の、美遊のそれを連想させる色彩が混じっている。

「私の因果とか、背負うものとか、そんなの関係ない。私がやることはただ一つ……。
―――あなたをぶん殴って引きずってでも!!連れて帰って謝らせる!!!!」

カレイドライナー・プリズマイリヤ=ツヴァイフォーム。

イリヤが何に縛られることもなく自身の思うままの想いを胸に飛翔した姿。
そこにあるのは、しがらみでも因果でもない。
ただ一人の、少女の強い思いだった。


歯ぎしりをした桜は、自身がこの場で最大に”信用”している存在の名を呼ぶ。

「ライダー!!」

呼び声と同時にライダーは駆けながら光となって空を舞い。
イリヤに向けて高く跳んだ桜の体を受け止めながら、敵対者のいる高度まで天馬を駆った。

「先輩のことも…、私をバカにしたことも…、何よりあなた自身の存在も…。
全部許しません。あなたは私がこの場で殺してあげます!!」

天馬の後ろでライダーの体に片手を回し、もう一方の手で双剣二本をまるで繋げるようにして構えた桜。
騎乗兵を思わせる態勢で、桜は目の前のイリヤを強く睨んだ。



―――彼女は自分の意志で道を選び、それに対し真っ直ぐに進み続ける強さを持っている子だ
―――もし彼女が自らの意志で自身の運命に立ち向かい戦う意志を持ってあなたと共に立った時、彼女を共に戦う戦士として見てあげて欲しい。
守るべき存在ではなく、背を預けて戦う仲間として。


巧の脳裏に、セイバーに言われた言葉が脳裏を過り。
そして、言葉の意味を今ようやく実感を持って理解した。

「ぶん殴って謝らせる、か」

それは自分には出せなかった答えだと思う。
背負う覚悟だけで自分の中で完結させていたが故に、桜自身の問題が見えていなかった。木場の時と同じだった。
間桐桜と向き合うにはそれだけでは足りなかったのかもしれない。

だけど、自分でもいきなり変わることはできないとしても。
わがままな少女には、更にわがままな少女の強いエゴをぶつける。
そんなことができる少女なら、あるいは。

「なら、やってみろイリヤ」

巧は地上の影の使い魔達を一瞥する。
彼らもただ見ているだけではない。隙さえあれば空の桜を援護しようと構え、あるいは飛ぼう、跳ぼうとするものもいる。

「お前の背中は、俺が守ってやっからよ!!」

そんな使い魔たちに向け、巧もまたファイズブラスターを構えた。




間桐桜とイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
擬似的な使い魔の生み出した天馬の純白の翼と、自身の魔力が生み出す淡く輝く翼。

睨み合った二つの翼は、同時に互いに向けて動き始め。
イリヤは構えたステッキを、桜はその手の奪った双剣を。
互いにぶつけ合った。


周囲に魔力と衝撃が響き、白い少女と黒い少女の戦いの第二ラウンドが幕を開ける。



【C-4/緑地地域/一日目 真夜中】

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(中)、胸に打撲(小)、決意、ツヴァイフォーム変身中、クロ帰還による魔力総量増大
[装備]:カレイドステッキ(ルビー&サファイア(サファイア損傷中))@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:クラスカード(キャスター(使用時間制限))(ランサー(使用制限中))(アサシン(使用制限中))(アーチャー(使用制限中))@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、破戒すべき全ての符(投影)
[思考・状況]
基本:皆と共に絶対に帰る
0:桜をぶん殴る
1:その後桜を謝らせる。だから絶対に死なせない。
[備考]
※2wei!三巻終了後より参戦
※ミュウツーのテレパシーを通して、バーサーカーの記憶からFate/stay night本編の自分のことを知識として知りました。



【乾巧@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中)、決意、ファイズ・ブラスターフォーム変身中
[装備]:ファイズギア+各ツール一式(ファイズエッジなし)@仮面ライダー555 、ファイズブラスター@仮面ライダー555
[道具]:共通支給品
[思考・状況]
基本:ファイズとして、生きて戦い続ける
1:間桐桜を助けるために、イリヤの支援
[備考]
※参戦時期は36話~38話の時期です
※遊園地メンバー、イリヤ、さやかと一通りの情報交換を行いました。
※黒騎士の能力をセイバー経由で把握しました



【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]:黒化、右腕欠損、魔力消耗(中)、クラスカード(???)夢幻召喚中、投影された干将莫耶、イリヤに対する強い怒り、シャドウサーヴァント使役による脳への負荷
[装備]:マグマ団幹部・カガリの服(ボロボロ)@ポケットモンスター(ゲーム)、クラスカード(ライダー・泥により受肉中、ペガサス召喚中)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード(???)(夢幻召喚中)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、シャドウサーヴァント(セイバー、ランサー、キャスター、アサシン、バーサーカー、マークネモ)
[道具]:基本支給品×2、呪術式探知機(バッテリー残量5割以上)、自分の右腕
[思考・状況]
基本:狂気に任せて行動する
1:イリヤ、巧を殺す。今はとにかく自分を馬鹿にしたイリヤ優先。
2:先輩のいない世界などもうどうにでもなればいいと思う
[備考]
※黒化は現状では高い段階まで進行しています。
※クラスカードを夢幻召喚した影響で状況判断力、思考力が落ちています。時間経過で更に狂化が進行する可能性があります。
※ライダーのクラスカードは泥の影響で英霊の形を象った使い魔となっています。その姿はプリズマ☆イリヤ本編の黒化英霊のそれに近いです。
※欠損した右腕は現状夢幻召喚の影響で一時的に治っています。解除すると元に戻るでしょう。

※シャドウサーヴァントについて
  • 影の巨人を黒騎士のスキルで変質させたものです。桜が取り込んだものが形を作って顕現しています。
  • 能力は黒化英霊@プリズマ☆イリヤと比較してもなお劣化しています。宝具は使えませんがスキルは一部再現されています。
  • 各一騎ずつしか顕現できませんが、桜の魔力、あるいはカードの力が消失するまで復活します。
  • 挙動や技術は黒騎士の英霊のスキル由来により再現されていますが、多く動かす、再現度を高めていくたびに桜の脳に強い負荷がかかっていきます。



150:舞い降りる剣 投下順に読む 152:Nとニャース・ポケモンと人間
155:ReStart準備中 時系列順に読む 154:立ち向かうべきもの
149:キボウノカケラ 乾巧 156:believe
150:舞い降りる剣 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン
146:杯-世界の色彩 間桐桜



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