魔法少女は絶望と戦いの果てに ◆Z9iNYeY9a2
―――――――――Interlude
「そういや」
まだ目的の場所にまで辿り着かないといった辺りだろうか。
ふと巧は思い出したかのようにさやかに問いかけた。
ふと巧は思い出したかのようにさやかに問いかけた。
「暁美ほむらのやつが言ってたことなんだけどよ、『魔法少女は人間じゃない』みたいなこと言ってたんだが、あれってどういう意味なんだ?」
「………」
「………」
聞いた瞬間、さやかの表情が強張ったように感じられた。
少しいきなりすぎたか、と後悔する巧。
少しいきなりすぎたか、と後悔する巧。
しかしさやかは、静かに口を開いて話し始めた。
「…私達魔法少女はさ、どんな願い事も叶えてもらう代わりに魔法少女として戦うことを背負わされるんだけどさ。
その時私達の命は、人間の体からこのソウルジェムに移し替えられるんだ」
その時私達の命は、人間の体からこのソウルジェムに移し替えられるんだ」
と、さやかはソウルジェムを取り出す。
濁りを残した、掌に乗るほどの大きさの青い宝石。
濁りを残した、掌に乗るほどの大きさの青い宝石。
「命を移し替える?どういうことだよ?」
「これが壊されない限り、私達は死なない。例え心臓を潰されても頭を壊されても、魔力さえあれば回復させることができる。
でも、逆にこれが壊されれば私達魔法少女は命を落とすの」
「……それで、その魔女とかいうのとずっと戦い続けなきゃいけないってことか?」
「うん、それって人間っていうより、戦うためだけに存在するゾンビみたいでしょ?」
「これが壊されない限り、私達は死なない。例え心臓を潰されても頭を壊されても、魔力さえあれば回復させることができる。
でも、逆にこれが壊されれば私達魔法少女は命を落とすの」
「……それで、その魔女とかいうのとずっと戦い続けなきゃいけないってことか?」
「うん、それって人間っていうより、戦うためだけに存在するゾンビみたいでしょ?」
さやかのまるで自嘲するかのような言葉に、巧は頷くことも否定することもできなかった。
ただ、一つだけ気になっていたことだけを聞く。
ただ、一つだけ気になっていたことだけを聞く。
「…マミのやつはそのこと知ってんのか?」
あの言葉から推測するに、ほむらは知っていたのだろう。
だがマミはそんな様子をおくびにも出さなかった。
だがマミはそんな様子をおくびにも出さなかった。
こちらに心配をかけないように隠していたのか、それとも何も知らなかったというのか。
「キュウべえは最後まで気付くことなかったって言ってたから、私の知ってるマミさんは知らないはず。もしかしたら、こっちのマミさんも……」
「………そう、か」
「………そう、か」
知らず知らずのうちにマミが背負わされていたものに思いを馳せる巧。
「…お前は、大丈夫なのかよ?」
今隣にいる、それを知った少女は一体何を思っているのか。それを知ればマミの気持ちに近づけるのだろうかと思い、巧はそう問いかける。
「私は…、もう大丈夫。色々…あったけど振り返るよりもやらなきゃいけないことが、今はあるから」
「そうか」
「そうか」
少女の決意を、そうして受け止め話を終わらせた巧。
――――もしこの時、もう少し踏み込んだところまで考えていれば。
あるいは、この先に待ち受ける運命を受け入れる覚悟ができたかもしれない。
そう後悔することになるのは、もう少し先の話。
―――――――――Interlude out
◇
タイミングで言うならば、放送が始まって間もない辺りだろうか。
それは突然訪れた。
それは突然訪れた。
ドクン
「――――――」
「さて、どこに繋がっているのか分からないが、L、もしくはこの殺し合いに抗おうと考えている者達がいるのならば聞いてほしい」
「え、あれ?…何これ…、痛い…?」
「桜さん?」
「桜さん?」
「あ、あああああああああああああああああぁぁぁぁ!!」
桜が突如身動ぎしながら叫び声を上げるのとマミが付近に魔力の気配を感じ取ったのはほぼ同時だった。
それもただの魔力ではない。魔法少女のものではない、むしろ魔女のそれに近いドス黒い気配。
吐血しながらもだえ苦しむ桜の姿を見ても、その気配故に身を案じる余裕すらマミにはなかった。
それもただの魔力ではない。魔法少女のものではない、むしろ魔女のそれに近いドス黒い気配。
吐血しながらもだえ苦しむ桜の姿を見ても、その気配故に身を案じる余裕すらマミにはなかった。
「…まさか……!」
「おい、どうした!」
「何があったニャ!」
「みんな!離れて!」
「おい、どうした!」
「何があったニャ!」
「みんな!離れて!」
理解するよりも自身の経験が発した警告を頼りに、皆に向けて声を上げるマミ。
地面を真っ黒な影が覆い尽くす寸前、マミは咄嗟の判断でニャースと総一郎に向けてリボンを飛ばし宙へと持ち上げた。
地面を真っ黒な影が覆い尽くす寸前、マミは咄嗟の判断でニャースと総一郎に向けてリボンを飛ばし宙へと持ち上げた。
「うおっ!」
「ニャッ!?」
「ニャッ!?」
桜の周囲数メートルの範囲をどす黒い質量を持った影が覆う。
マミはバックステップで距離を取りながら、マスケット銃を展開。影に向けて銃口を向ける。
マミはバックステップで距離を取りながら、マスケット銃を展開。影に向けて銃口を向ける。
「…桜、さんよね?」
恐る恐る問いかけるマミ。
対応はしたとはいっても何が起きたのか把握などできてはいない。
ただ、彼女から湧き出るその黒い気配はどう見ても人間のものではない。
対応はしたとはいっても何が起きたのか把握などできてはいない。
ただ、彼女から湧き出るその黒い気配はどう見ても人間のものではない。
もしかしたら何かが彼女に取り付いていて、そのせいで桜がおかしくなってしまった。マミはそう思いたかった。
だから、この問いかけも否定、あるいは返答無しであってほしかった。
だから、この問いかけも否定、あるいは返答無しであってほしかった。
「―――ええ、そうですよ巴さん」
なのに、ゆったりと顔を上げた桜は、さっきまでの不安定でたどたどしい口調と同じと思えないほどにはっきりとそう返答した。
紫と白の交じり合っていた長髪は完全に真っ白に染まり、その瞳には底の見えない闇がうごめいているようにも見えた。
紫と白の交じり合っていた長髪は完全に真っ白に染まり、その瞳には底の見えない闇がうごめいているようにも見えた。
「それは、何?」
「それってどれのことですか?」
「とぼけないで!あなたから出てくるその黒い影よ!」
「それってどれのことですか?」
「とぼけないで!あなたから出てくるその黒い影よ!」
動揺がマミの声を荒げさせる。
ついさっきまで一緒にいた少女の突然の豹変。
そしてそこから生み出されている闇色の何か。
ついさっきまで一緒にいた少女の突然の豹変。
そしてそこから生み出されている闇色の何か。
もしマミの常識で考えた場合、魔女のような何かに取り憑かれていて、ついさっきまでは平常であったのが何かの弾みで魔女の口づけに該当する呪いが発動してしまったか。
だからマミは確かめる必要があった。
彼女がまだ正気であるのか。もう手遅れなのか。
だからマミは確かめる必要があった。
彼女がまだ正気であるのか。もう手遅れなのか。
助けられるのであれば、見捨てるわけにはいかないのだから。
「……ねえ、巴さん。あなたには感謝してるんです。
あんなにボロボロで一人ぼっちだった私に優しくしてくれて」
「………」
「だけど、今の私はやらなきゃいけないことができる力を取り戻したの。さっきまでの何もできない私じゃない。
先輩に殺してもらうために悪い子になる、そんな私に。
だから、どこにいるのか分からないけど、聞いているならお礼を言わせて。バーサーカーを倒した誰かさん?」
あんなにボロボロで一人ぼっちだった私に優しくしてくれて」
「………」
「だけど、今の私はやらなきゃいけないことができる力を取り戻したの。さっきまでの何もできない私じゃない。
先輩に殺してもらうために悪い子になる、そんな私に。
だから、どこにいるのか分からないけど、聞いているならお礼を言わせて。バーサーカーを倒した誰かさん?」
まだカメラが回っていることを意識してかそんなことを語り出す桜。
「だからもしみんなじっとしててくれるなら、優しく殺してあげる。
ねえ、巴さん。あなたも一緒に逝きましょう?」
「っ…!」
ねえ、巴さん。あなたも一緒に逝きましょう?」
「っ…!」
マスケット銃を撃ち出すマミ。
しかしその銃弾は桜の前面に現れた影が弾き飛ばす。
別に難しいことなどしていない。撃ち出されることが決まっている弾丸など、手の動きを注視していれば対応できる。
だからマミは自身の後方に5丁のマスケットを展開。引き金を自身の指にかざすことなく魔力による自動発射で迎撃。
鬱陶しそうに顔を歪めつつも、桜はその弾丸をリボンのような漆黒の魔力帯で弾く。
だからマミは自身の後方に5丁のマスケットを展開。引き金を自身の指にかざすことなく魔力による自動発射で迎撃。
鬱陶しそうに顔を歪めつつも、桜はその弾丸をリボンのような漆黒の魔力帯で弾く。
うち一発の対応が間に合わず、桜の肩を銃弾が掠めていった。
赤茶色のパーカーに一本の線が走り露出した腕からは血が流れ出る。
赤茶色のパーカーに一本の線が走り露出した腕からは血が流れ出る。
しかし。
「ニャニャッ!!」
ニャースの叫ぶ声がマミの耳に届き思わず上を見上げる。
見ると、ニャースを釣り上げていたリボンを弾いた銃弾が掠めていったようで、支えていた布が切れかかっていた。
見ると、ニャースを釣り上げていたリボンを弾いた銃弾が掠めていったようで、支えていた布が切れかかっていた。
狙ってやったのかそれとも偶然なのかは測れない。ただ、銃弾を放ち続けていればいずれあのリボンやあるいは宙の二人に命中する可能性だってある。
反撃のように放たれた黒い影をかわし、マミは桜に向けて大量のリボンを放つ。
両手から放たれた黄色のリボンの束は幾重にも結び上がり、頑丈な縄のごとき太さへと形を変える。
魔力帯が迫るリボンの束を切り払おうとするも、それらの攻撃に対抗するために編み上げられたそのリボンの束を切り刻むことができない。
魔力帯が迫るリボンの束を切り払おうとするも、それらの攻撃に対抗するために編み上げられたそのリボンの束を切り刻むことができない。
「――ん…、くぅっ…!」
そのまま桜の体を縛り上げ地面へと繋げて拘束するマミ。
さらには泥から少し浮かせた地面には網目にリボンが張られており、地面から浮き上がる影に対する防波堤となっていた。
さらには泥から少し浮かせた地面には網目にリボンが張られており、地面から浮き上がる影に対する防波堤となっていた。
素早くマスケット銃を向けるマミ。
照準は、彼女の心臓。
何故彼女がそうなってしまったのかは分からない。だが、人の形がベースの魔女ならば、弱点は人の急所に近い場所のはず――――
何故彼女がそうなってしまったのかは分からない。だが、人の形がベースの魔女ならば、弱点は人の急所に近い場所のはず――――
(――人…)
そう、そこに立っているのは間桐桜その人の姿をしたものだ。
もし彼女がまだ間桐桜でいるのだとしたら、これは果たして正しいやり方なのだろうか。
もし彼女がまだ間桐桜でいるのだとしたら、これは果たして正しいやり方なのだろうか。
奇しくもこれまで戦った魔女がほとんど人型とはかけ離れた異形の存在ばかりであり。
魔法少女と戦うことはあっても命を奪うまではたどり着くことがなかったこと。加えて――
魔法少女と戦うことはあっても命を奪うまではたどり着くことがなかったこと。加えて――
(……桜、さん)
彼女自身が、短い時間とはいえ心を通わせ、守ると決めた存在であったこと。
それらの事実が銃口を向けたマミの覚悟を鈍らせた。
それらの事実が銃口を向けたマミの覚悟を鈍らせた。
「フフフ」
その一瞬。
それだけで桜は自身の魔力で体を覆ったリボンを黒く塗り潰し魔力を侵食。
マミの魔力で編まれた強靭なリボンは魔力を食い尽くされてボロボロになって消滅した。
それだけで桜は自身の魔力で体を覆ったリボンを黒く塗り潰し魔力を侵食。
マミの魔力で編まれた強靭なリボンは魔力を食い尽くされてボロボロになって消滅した。
「優しいんですね、巴さん」
「…っ」
「…っ」
そのまま自身を覆う魔力帯をマミへと伸ばし両腕を、足を拘束する桜。
振り解こうと抗うも、縛られた箇所から魔力を吸い上げられているかのような脱力感が襲い、力を込めることすらも困難。
振り解こうと抗うも、縛られた箇所から魔力を吸い上げられているかのような脱力感が襲い、力を込めることすらも困難。
「何…、この力は……」
それでも必死で抗おうとするも、魔力消耗が異常なほどに激しく。
「ニャア!」
「ぐおっ!」
「ぐおっ!」
やがてニャース、総一郎の二人を釣り上げていたリボンすらも維持できなくなり、切れたリボンは二人の体を地面に叩き落とした。
「巴さんの魔力、とてもおいしい…」
「桜…さん、ダメ…!目を覚まして……」
「桜…さん、ダメ…!目を覚まして……」
迫りより、マミの頬をスッとなぞりながら体に手をやる桜。
その間にも徐々に吸い取られていく魔力。
マミのソウルジェムの濁りがそれに合わせるように表出化していく。
マミのソウルジェムの濁りがそれに合わせるように表出化していく。
このまま魔力を吸い尽くされては、彼女を止めることすらもできなくなる。
「さぁ、一緒に堕ちて、一緒に悪い子になりましょう……」
「…あああっ!!」
「止めろ!!」
「…あああっ!!」
「止めろ!!」
そんな二人の元に、走って駆け寄る者が一人。
影の中に足を踏み入れて思わず脱力感に体をよろけさせつつも二人の元に走り寄った夜神総一郎は。
グイ、とマミと桜を引き離す。
拘束帯こそ引きちぎれなかったものの特に力を入れて踏ん張ることもしていなかったためあっさり桜はマミから体を離し。
拘束帯こそ引きちぎれなかったものの特に力を入れて踏ん張ることもしていなかったためあっさり桜はマミから体を離し。
「夜神さん!」
―――パシン
桜の頬を、思い切り平手で叩いた。
乾いた音と共に横を向く桜の顔。
その顔には何が起こったのか理解できていないかのように唖然とした表情が浮かんでいた。
乾いた音と共に横を向く桜の顔。
その顔には何が起こったのか理解できていないかのように唖然とした表情が浮かんでいた。
「君は、自分が何を言っているのか分かっているのか!!」
驚きで力が弱まったのか、拘束帯はマミの体をあっさり離す。
地面に跪いて息を整えるマミ。
ニャースが駆け寄ってその身を心配する。
地面に跪いて息を整えるマミ。
ニャースが駆け寄ってその身を心配する。
「何があったかは知らないが、自分から人を殺して裁いてもらいたいなどと…」
「―――――――」
「―――――――」
それが桜にとってあまりに予想外のものだったのか、叩かれたままの態勢で止まっている。
「どうしてそんなに自分を捨てたがる!君はまだ若い、まだ未来があるだろう!!」
彼女が何を背負っているのかは彼には分からない。
しかし総一郎、親であり警察官である彼にしてみれば、先の言葉、殺してもらうためにもっと悪い子になりたい、などという言葉は到底受け入れられるものではなかった。
高校生くらいの少女が、何故そうまでして死にたがっているのか。
しかし総一郎、親であり警察官である彼にしてみれば、先の言葉、殺してもらうためにもっと悪い子になりたい、などという言葉は到底受け入れられるものではなかった。
高校生くらいの少女が、何故そうまでして死にたがっているのか。
「そんなになって人を殺して、君の親御さんは何て思うんだ!」
言って行動した後で、夜神総一郎は思った。
命をかけて戦う者がいる場所で、戦えない者が出しゃばるこの行為はきっと正しいものではないのだろう。
命をかけて戦う者がいる場所で、戦えない者が出しゃばるこの行為はきっと正しいものではないのだろう。
だが、桜のその姿を見ていたら気がつけば体が動いていた。
桜の姿が、もしかしたらかつての息子のそれに被るところがあったのかもしれない。
そして、この行為はもしかすると本当は月にこそすべきだったことだったのかもしれない。
桜の姿が、もしかしたらかつての息子のそれに被るところがあったのかもしれない。
そして、この行為はもしかすると本当は月にこそすべきだったことだったのかもしれない。
だが目の前にいるのは夜神月ではない。
その言葉を受けた桜は、まるで何かを突かれたかのように歯軋りして総一郎を睨みつけた。
その言葉を受けた桜は、まるで何かを突かれたかのように歯軋りして総一郎を睨みつけた。
「―――あなたに、何が分かるんですか」
総一郎は知らなかった。それらの言葉の一つ一つが桜にとっては地雷に等しいものだったことに。
未来があるだろう?
そんなものはない。自分の体のことは自分がよく分かっている。
聖杯の器として多くの命を取り込んだ自分の体に、どれほどの未来があるというのか。
そんなものはない。自分の体のことは自分がよく分かっている。
聖杯の器として多くの命を取り込んだ自分の体に、どれほどの未来があるというのか。
親が何と思うか?
家族は自分のことなど少しも案じてはいない。案じているとするならばせいぜい聖杯としての機能だけだろう。
家族は自分のことなど少しも案じてはいない。案じているとするならばせいぜい聖杯としての機能だけだろう。
その瞬間、桜の怒りの矛先が総一郎へと向いてしまった。
それだけが、彼にとっての不幸だろう。
それだけが、彼にとっての不幸だろう。
夜神総一郎は思う。ここもきっと間違えてしまった。
だけどそれでも、警察官として、そして子を育てた一人の父親として、後悔する生き方はしたくなかった。
だけどそれでも、警察官として、そして子を育てた一人の父親として、後悔する生き方はしたくなかった。
「ダメ!逃げて夜神さん!!」
マミが必死でリボンを伸ばして助けようとする、その目の前で。
「…!間桐さく――――――」
桜の足元から膨れ上がった影が、一瞬で夜神総一郎の体を飲み込んだ。
マミのリボンはその体には届かず。
ただ、黒い影の中に飲み込まれて消えていった。
ただ、黒い影の中に飲み込まれて消えていった。
一人の男の正義感、そして情、その全てを虚無へと返すように。
【夜神総一郎@デスノート(実写) 死亡】
「………」
地面に落ちるリボンを前に、マミは膝を着き。
そんな彼女に駆け寄るニャース。
そんな彼女に駆け寄るニャース。
「に、逃げるニャ…」
「これで邪魔者はいなくなりましたね。もっと遊びましょう、巴さん?」
「……ニャース、ここから、逃げて」
「おみゃーも逃げるんニャ!」
「私が、ここで彼女を足止めするから、だからあなただけでも逃げて」
「何でおみゃーが…ニャニャッ!?」
「これで邪魔者はいなくなりましたね。もっと遊びましょう、巴さん?」
「……ニャース、ここから、逃げて」
「おみゃーも逃げるんニャ!」
「私が、ここで彼女を足止めするから、だからあなただけでも逃げて」
「何でおみゃーが…ニャニャッ!?」
喋る途中と言ったところでニャースの体を覆っていく黄色いリボン。
まるで球のように黄色いリボンをぐるぐる巻きに包むニャースの体。
まるで球のように黄色いリボンをぐるぐる巻きに包むニャースの体。
飛来してきた黒い泥を回避するマミ。外した泥は壁に着弾し、まるで溶かすかのようにジュッと大きな穴を開けた。
大きな穴は地上10数メートルといった場所にいる街並みを映し出している。
大きな穴は地上10数メートルといった場所にいる街並みを映し出している。
マミはそのままグルグル巻きにしたリボンの端を持って、思い切りニャースの体をそこから放り投げる。
「ニャ、ニャあああああああああああああああああああああああ!!!!」
絶叫するニャースの前。
マミは桜の姿を見据える。
マミは桜の姿を見据える。
「まだ、足りないなぁ…。ねえ巴さん、あなたも食べさせてくれないかしら?」
「…どうして、こんなことをするの…?さっきまでのあなたは嘘だったの…?」
「嘘なんかじゃありませんよ。たださっきまでは調子が出なかったから静かにさせてもらっていただけです」
「…どうして、こんなことをするの…?さっきまでのあなたは嘘だったの…?」
「嘘なんかじゃありませんよ。たださっきまでは調子が出なかったから静かにさせてもらっていただけです」
桜の隣に、2メートルほどはあろうかという黒い影が顕現する。
ドス黒い魔力で編まれたのっぺりとした巨人はこちらへとその両腕に当たるだろう魔力帯を伸ばしてくる。
ドス黒い魔力で編まれたのっぺりとした巨人はこちらへとその両腕に当たるだろう魔力帯を伸ばしてくる。
ゆっくりとした動きのそれをマミがかわすことは難しいことではない。
しかしその力はかなりのものであったようで、叩き付けられた瞬間地面を抉り大きな穴を穿った。
しかしその力はかなりのものであったようで、叩き付けられた瞬間地面を抉り大きな穴を穿った。
マミは宙を舞った状態で顕現させた銃を着地と同時に発砲。
それは巨人の体を貫通して穴を空ける。しかしすぐさまその穴は修復。
再度振り上げた腕がマミへと襲いかかる。
それは巨人の体を貫通して穴を空ける。しかしすぐさまその穴は修復。
再度振り上げた腕がマミへと襲いかかる。
パパパパパパパパ
再度生成したマスケット銃を、一斉に射出してその腕を牽制。
のみならず、多方向に渡って放たれた銃弾は一部が命中し、一部が弾かれ壁へと跳ね返り。
機関銃のごとき数の銃弾が壁を穿ち続ける中、天井の照明を吊るす電線を切断。
のみならず、多方向に渡って放たれた銃弾は一部が命中し、一部が弾かれ壁へと跳ね返り。
機関銃のごとき数の銃弾が壁を穿ち続ける中、天井の照明を吊るす電線を切断。
轟音を立てて、巨大な照明機器が放送場へと墜落。
衝撃でマミと桜の間で視界を失わせるほどの煙幕が打ち上がった。
バシン
その照明機器を、巨人は一叩きで広場の隅に追いやり。
「無駄ですよ、そんなものではこの子は―――――」
照明を失って薄暗くなった空間、桜はマミを捕らえんと周囲の気配へと気を配り。
「…いない?一体どこに――――」
広場に巴マミの気配がないことに気付く、その時。
まるで巨大な砲撃が放たれるような音が響くと共に。
彼女のいる場所へと放たれた何かが壁を突き破り大爆発を引き起こした。
まるで巨大な砲撃が放たれるような音が響くと共に。
彼女のいる場所へと放たれた何かが壁を突き破り大爆発を引き起こした。
(…ここで、止めなきゃ……)
自分に戦う力がなかったばかりに守れなかった。
佐倉杏子。千歳ゆま。C.C.。そして今、夜神総一郎も目の前で命を落とした。
佐倉杏子。千歳ゆま。C.C.。そして今、夜神総一郎も目の前で命を落とした。
今のマミはそれら守れなかったことに対する後悔から表出した贖罪の気持ちで桜と相対していた。
「私が止めなきゃ…、みんなが……」
みんな。
杏子も、ゆまも、C.C.も。夜神総一郎も、親しかった、この場で親しくなった者はほとんど死んでいった。
杏子も、ゆまも、C.C.も。夜神総一郎も、親しかった、この場で親しくなった者はほとんど死んでいった。
だからこそ、止められなかった。
例え目の前にいる少女が、自分が守ろうと決めた者であっても、他者の命を奪う者であるならば倒さねばならない。
例え目の前にいる少女が、自分が守ろうと決めた者であっても、他者の命を奪う者であるならば倒さねばならない。
その思考の矛盾にすら気付かないほどに、マミの心は憔悴していた。
例えこの先、自分が魔法を使えず戦いに支障をきたすことがあっても、まず目の前の彼女を止めなければ未来などないのだ。
そんな思いの中で、彼女はニャースを放った壁の穴から飛び出し。
自分の魔力のほとんどを使い尽くすだろう勢いで、その一撃を放とうと構えていた。
それはもはや銃と呼べるサイズではない。さながら列車砲とでも呼ぶべき巨体の砲身。
それはもはや銃と呼べるサイズではない。さながら列車砲とでも呼ぶべき巨体の砲身。
さくらTVビルのそばで佇むその物体の上で、マミはそこを見据えていた。
(もう、誰も死なせたくない…!)
目を見開いたマミは、覚悟を決めたように振り上げた手を下ろし。
「――――ティロ……、フィナーレ!!!!!!!!!!」
巨大な砲身から放たれた弾丸は、さくらTVの間桐桜がいるであろう場所目掛けて射出され。
命中と同時に大爆発を起こしてさくらTVビルを崩落させた。
命中と同時に大爆発を起こしてさくらTVビルを崩落させた。
◇
政庁に辿り着いたさやかと巧。
しかしそこにあったのは瓦礫の山になったその施設の成れの果てだけ。
以前さやかが来た時にあった建物の面影はどこにもなかった。
見つかったのは、巨大な剣に貫かれて息絶えたユーフェミアの躯だけだった。
しかしそこにあったのは瓦礫の山になったその施設の成れの果てだけ。
以前さやかが来た時にあった建物の面影はどこにもなかった。
見つかったのは、巨大な剣に貫かれて息絶えたユーフェミアの躯だけだった。
彼女の死自体は先の放送で名前を呼ばれたこともあって全く想定していなかったことではない。
今は他の皆の消息を確かめることが優先、と政庁を立ち去り周囲の市街地を二人は駆け回っていた。
今は他の皆の消息を確かめることが優先、と政庁を立ち去り周囲の市街地を二人は駆け回っていた。
幸い、巨大な車のようなものが何かを引きずるように移動したようなタイヤの跡が地面に残っていたこともあってそれを追えば皆の現在地に辿り着けるのではないかという推測は立てられていた。
そして。
「……何で死んでんのよ、あんた」
見つけたものは、緑髪の少女が胸に穴を開けて息絶えている姿。
自分のことを不死身だと言っていた魔女は、しかし心臓を引きぬかれたかのような傷を再生させることもなく目を閉じていた。
自分のことを不死身だと言っていた魔女は、しかし心臓を引きぬかれたかのような傷を再生させることもなく目を閉じていた。
その顔があまりにも安らかなように見えることが、さやかの感情を逆撫でさせた。
「あんだけ人に偉そうなこと言っておいて、何でそんな顔で死ねるのよあんた…!!」
やりきれなさに近い感情がさやかの中で燻り始める。
ピッ
そんなさやかの横で、トランシーバーを手にした巧はそれを通じて語られた情報を彼女へと伝える。
「あの屋敷のやつらから連絡があった。集合場所は遊園地に変更、だってよ」
「…それってあそこのみんなが襲われたってこと!?まどかは、みんなは大丈夫なの!?」
「そこまでは分かんねえよ」
「…それってあそこのみんなが襲われたってこと!?まどかは、みんなは大丈夫なの!?」
「そこまでは分かんねえよ」
冷静さを装いつつも、巧の心境が穏やかではないのはその口元が引きつっているのを見れば分かる。
さやかとて戻りまどか達皆の無事を確かめたい思いは強い。
しかしここまで来たのだ、マミ達の姿を見つけなければ戻ることはできない。
さやかとて戻りまどか達皆の無事を確かめたい思いは強い。
しかしここまで来たのだ、マミ達の姿を見つけなければ戻ることはできない。
だが。
「…他のやつらは、マミ達はどこにいるんだ?」
そう、他の皆の姿はここにはない。
マミも、夜神総一郎も、もう一人のゼロという男も、ニャースというポケモンも。
マミも、夜神総一郎も、もう一人のゼロという男も、ニャースというポケモンも。
その緑髪の少女以外の存在がないことの意味を考える巧。
嫌な予感が脳裏をよぎるが、この場にある死体はこの少女のものだけ。
マミ達はまたどこかに移動したということなのだろうか。
嫌な予感が脳裏をよぎるが、この場にある死体はこの少女のものだけ。
マミ達はまたどこかに移動したということなのだろうか。
―――――――――――にゃあああああああああああああああ!!!
そう考えた時だった。
叫ぶような声がすごい勢いで近づいてきていることに気付いたのは。
叫ぶような声がすごい勢いで近づいてきていることに気付いたのは。
「え、ニャース?どこから―――」
「おい、上だ!」
「おい、上だ!」
と、空を見上げる巧とさやか。
そこには黄色いリボンでグルグル巻きになったニャースが空から放物線を描いて落ちてくる様子だった。
このまま落ちれば無事では済まないだろう。
受け止めなければ、と走りだす二人。しかし墜落場所が遠く、走っても間に合わない。
このまま落ちれば無事では済まないだろう。
受け止めなければ、と走りだす二人。しかし墜落場所が遠く、走っても間に合わない。
「ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!!!」
叫び声と共にニャースの体が地面に近づき。
その先にあるだろう無残な光景を想像して思わずさやかが顔を背けた時だった。
その先にあるだろう無残な光景を想像して思わずさやかが顔を背けた時だった。
ビョーン
体をグルグル巻きにしていたリボンがニャースの周囲を覆うように展開、球状のトランポリンのように広がって地面から跳ね上がった。
そのまま地面に再度墜落してきたそれを受け止めるさやか。
「このリボン…、マミさんの…。ニャース、一体何が――」
「ブクブクブクブク」
「ブクブクブクブク」
さやかはニャースに問いかけるが、ニャースは墜落の時の恐怖のあまりか泡を吹いて気絶していた。
「向こうの方から飛んできたぞ」
「向こう……山にあるあの大きなビルから?」
「向こう……山にあるあの大きなビルから?」
そこにあったのはさくらTVという名前のビルのはず。
記憶を掘り返してそう思った次の瞬間だった。
ビルへと閃光が奔り、轟音と共に巨大な爆発を引き起こしたのは。
思わず光に目を背ける二人。
次に目を開いた時には、ビルの上半分ほどがえぐられたかのように消滅していた。
次に目を開いた時には、ビルの上半分ほどがえぐられたかのように消滅していた。
「もしかして、マミさん?!」
「…おい、急ぐが大丈夫か?」
「…おい、急ぐが大丈夫か?」
爆発の元の場所を見ながら、巧はさやかに問う。
あそこまで、人の足で急いでも数十分はかかるだろう。
だが、人の足でないのならばあるいは数分というところまで短縮できるかもしれない。
あそこまで、人の足で急いでも数十分はかかるだろう。
だが、人の足でないのならばあるいは数分というところまで短縮できるかもしれない。
さやかは自身のソウルジェムを見る。
あれから特に魔法を使う局面には遭遇していないこともあり、ソウルジェムの濁り自体はそこまで致命的なほどではない様子だ。
今ここで移動のために魔法を使ったとしても、あそこでおそらく起こっているだろう戦闘に加わり彼女を助けることはできるはずだ。
今ここで移動のために魔法を使ったとしても、あそこでおそらく起こっているだろう戦闘に加わり彼女を助けることはできるはずだ。
「大丈夫!急ごう!」
コクリと頷いてさやかは身にまとう衣装を魔法少女のそれへと変化させる。
同時に巧もまた、自分の姿を灰色の異形の姿へと変える。
同時に巧もまた、自分の姿を灰色の異形の姿へと変える。
一瞬その姿、巧のオルフェノク形態に驚くさやか。
「―――行くぞ」
しかしその影が巧の顔を映し出してさやかへと語りかけてきたのを見て、目の前のそれが乾巧であることを受け入れる。
そうして、一組のオルフェノクと魔法少女はさくらTVのあった場所へと向けて駆け抜け始めた。
魔法少女は自身の罪を受け止め、傷付けてしまった人の力になるために。
オルフェノクは前に進み己の弱さを受け入れる一歩として、あの強くか弱い少女を守るため。
オルフェノクは前に進み己の弱さを受け入れる一歩として、あの強くか弱い少女を守るため。
◇
「驚きました。まさかあんな攻撃までできるなんて……」
巴マミが死力を尽くす勢いで放った一撃。
それを受けた間桐桜は、しかし未だ原型をとどめていた。
それを受けた間桐桜は、しかし未だ原型をとどめていた。
あの砲撃はさすがに直撃を受けていれば桜とてひとたまりもないほどの威力だった。
間一髪のところで巨人を盾にして威力を軽減させ、短距離転移を駆使してどうにか爆風の少ない場所まで回避した。
間一髪のところで巨人を盾にして威力を軽減させ、短距離転移を駆使してどうにか爆風の少ない場所まで回避した。
しかしそれでもまだ間に合わず、魔力を全力で防御に用いて壁を作った上で敢えて後ろに吹き飛ばされることで衝撃を軽減させることに成功した。
結果マミのいた場所からは離れた位置に飛ばされてしまったが、その辺りは止むを得ない。
あれだけの爆風から生き延びたのだ。墜落の衝撃で全身の骨を折ってしまったことくらい我慢しなければならないだろう。
あれだけの爆風から生き延びたのだ。墜落の衝撃で全身の骨を折ってしまったことくらい我慢しなければならないだろう。
コキリ、コキリ
立ち上がろうとすると、体の骨が何かおかしな音を立てる。
どうにか立ち上がるものの、体のバランスが取れずうまく動けない。
もしもう少し”間桐桜”の成分が強ければ、全身の痛みに呻いただろうが、今の彼女には痛みを感じる感覚がかなり消えていた。
もしもう少し”間桐桜”の成分が強ければ、全身の痛みに呻いただろうが、今の彼女には痛みを感じる感覚がかなり消えていた。
「仕方ないなぁ。もう少し休んで体が動かせるようになってから出発しようかなぁ」
地面に仰向けに寝転がって、全身の骨の修復を待つ桜。
傷が治るのと放送が始まるの、どっちが早いだろうなぁ、と思いながら、少女は休み始めた。
傷が治るのと放送が始まるの、どっちが早いだろうなぁ、と思いながら、少女は休み始めた。
その放送で彼女が探す人物、衛宮士郎の名が呼ばれるということなど全く視野に入れることなく。
【???/一日目 夕方】
【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]:黒化、ダメージ(右腕欠損・止血)(全身骨折・回復中)、魔力消耗(中)
[装備]:マグマ団幹部・カガリの服@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:基本支給品×2、呪術式探知機(バッテリー残量5割以上)、自分の右腕
[思考・状況]
基本:先輩に殺されるためにもっと悪い子になる
1:全身骨折が治るまでは休息
2:その後は先輩を探して回る
[備考]
※アンリマユと同調し、黒化が進行しました。魔力が補充されていくごとにさらに黒化も進行していくでしょう。
[状態]:黒化、ダメージ(右腕欠損・止血)(全身骨折・回復中)、魔力消耗(中)
[装備]:マグマ団幹部・カガリの服@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:基本支給品×2、呪術式探知機(バッテリー残量5割以上)、自分の右腕
[思考・状況]
基本:先輩に殺されるためにもっと悪い子になる
1:全身骨折が治るまでは休息
2:その後は先輩を探して回る
[備考]
※アンリマユと同調し、黒化が進行しました。魔力が補充されていくごとにさらに黒化も進行していくでしょう。
※さくらTVにて放送が流れました。最大でティロ・フィナーレが放たれるまでのどこかまで放送されていたと思われます。
◇
その時の巴マミは冷静ではなかった。
自分の命に替えても桜を止めなければならない、という強い使命感の元で行動していた。
自分の命に替えても桜を止めなければならない、という強い使命感の元で行動していた。
命に替えても。
すなわち、魔力消耗が激しく以降の行動に支障をきたすことがあったとしても、というくらいには。
すなわち、魔力消耗が激しく以降の行動に支障をきたすことがあったとしても、というくらいには。
彼女は知らなかった。
魔法少女がソウルジェムを濁らせきった時の真実を。
もし知っていたら、彼女は果たしてその攻撃を行っただろうか。
魔法少女がソウルジェムを濁らせきった時の真実を。
もし知っていたら、彼女は果たしてその攻撃を行っただろうか。
しかしこの殺し合いの場においてはその限りではない。
千歳ゆま、佐倉杏子は魔力を使い果たすより前に、ソウルジェムを砕かれて命を落とした。
しかし呉キリカ、暁美ほむらは魔力を使い果たしソウルジェムを自壊させた。
しかし呉キリカ、暁美ほむらは魔力を使い果たしソウルジェムを自壊させた。
そこには主催者・アカギやアクロマ、インキュベーター達による何かしらの力が働いていたことが原因。
理由は分からないが、その力は魔女の誕生を抑制しているものであった。
理由は分からないが、その力は魔女の誕生を抑制しているものであった。
だが。
彼らが暁美ほむらを利用してギラティナを降臨させた時、彼らにとっても想定外の事態が発生していた。
彼らが暁美ほむらを利用してギラティナを降臨させた時、彼らにとっても想定外の事態が発生していた。
制限装置の不調。
例えば、この場においてはサーヴァントは受肉し肉体を得る。カレイドステッキは平行世界のアクセスに制限を受ける。
オルフェノクは使徒再生による同族を増やす行為を成功させることができない。
例えば、この場においてはサーヴァントは受肉し肉体を得る。カレイドステッキは平行世界のアクセスに制限を受ける。
オルフェノクは使徒再生による同族を増やす行為を成功させることができない。
その中には、魔女の誕生を抑制するものも存在していた。
巴マミのソウルジェム、本来ならば自壊するはずだったもの。
しかし、制限装置の不調によって効果が発揮されなくなってしまっていた。
しかし、制限装置の不調によって効果が発揮されなくなってしまっていた。
その結果――――――
◇
泣くことができればよかった。
失ったものを悼むことができたならば、ここまで絶望はしなかったかもしれない。
しかし、彼女は自責の念があまりにも強すぎた。
彼女にとっての始まりは、両親の死。その時に自身の生を願ったことにあった。
だから救われた命を、せめて一人でも多くの人を救うために使いたいと思って戦い続けていた。
だから救われた命を、せめて一人でも多くの人を救うために使いたいと思って戦い続けていた。
なのに。
(――守れなかった……誰も……)
もしもあの時自分が千歳ゆまの元から逃げなければ。
もしもあの時もう少し冷静でいて佐倉杏子達の元から離れなければ。
もしもあの時ユーフェミアを置いて離れることさえなければ。
もしもあの時C.C.を一人にせず常に一緒にいれば。
もしもあの時間桐桜を撃ちぬいていれば。
もしもあの時もう少し冷静でいて佐倉杏子達の元から離れなければ。
もしもあの時ユーフェミアを置いて離れることさえなければ。
もしもあの時C.C.を一人にせず常に一緒にいれば。
もしもあの時間桐桜を撃ちぬいていれば。
全ては仮定にすぎない。
彼女が行動したとしても結局同じ結末は迎えてしまったかもしれない。
だが、巴マミにとってそんな事実は関係ない。
救えなかった、助けられなかった事実だけが残り続ける。
彼女が行動したとしても結局同じ結末は迎えてしまったかもしれない。
だが、巴マミにとってそんな事実は関係ない。
救えなかった、助けられなかった事実だけが残り続ける。
間桐桜を撃退した今、その想いをぶつける相手も存在しない。
敢えていうならば、自分自身にその絶望をぶつけることしかできない。
敢えていうならば、自分自身にその絶望をぶつけることしかできない。
曲がりなりにもニャースを逃がすことには成功している。しかしその事実よりも助けられなかったものへの意識が強すぎた。
巴マミの思考が負のいたちごっこを始めて回り始めてしまっていた。
「私、どうしてこうなのかな…?
どうして誰も助けられずに、一人だけで助かっちゃうのかな…?」
どうして誰も助けられずに、一人だけで助かっちゃうのかな…?」
―――どうしてあの時、もっとみんなを助けられなかったのかな?
自分だけ。
いつだって自分だけが死にたくないと助かってきた。
いつだって自分だけが死にたくないと助かってきた。
こんな私が、正義の魔法少女なんて――――
「マミ!!」
「マミさん!!」
「マミさん!!」
ああ、こんなにも自分が恨めしい、自分を消してしまいたい。
そんな気持ちの時に。
そんな気持ちの時に。
どうして、彼と会っちゃうのかな?
「たっくん…」
駆け寄ってくる灰色の体はほんの短い間共に行動した人。
その隣にいるのは魔法少女だろうか、どこかで会ったような気がするが思い出せない。
その隣にいるのは魔法少女だろうか、どこかで会ったような気がするが思い出せない。
「おい、何があったんだマミ!」
その体は人間の姿になってこちらに走ってくる。
あの時と変わらぬ、優しい顔だ。
あの時と変わらぬ、優しい顔だ。
こんな私とは、全然違う。
「…ねえ、たっくん。私、ただ寂しかった。
いつも一人ぼっちだった…。だから戦いに逃げて忘れようとしてたの」
「マミ…?」
いつも一人ぼっちだった…。だから戦いに逃げて忘れようとしてたの」
「マミ…?」
目の前で足を止めるたっくん。
「誰かのために戦うなんて嘘…、私はいつも自分のことばっかり…」
「な、何言ってるのマミさん……」
「私どうしてこうなのかな?いつも誰も守れなくて、自分ばっかり。」
「おい!しっかりしろ!」
「―――どうして、あの時もっとみんなを助けられなかったのかな?」
「な、何言ってるのマミさん……」
「私どうしてこうなのかな?いつも誰も守れなくて、自分ばっかり。」
「おい!しっかりしろ!」
「―――どうして、あの時もっとみんなを助けられなかったのかな?」
ゾワリ
マミは気付かない。
ただでさえ限界状態であったソウルジェムの濁りが、絶望を吐き出す度にその色を濃くしていっていることに。
ただでさえ限界状態であったソウルジェムの濁りが、絶望を吐き出す度にその色を濃くしていっていることに。
「自分だけ。そう、自分だけが死にたくないって、そんな我侭で自分勝手な想いだけで戦って。
あの時、ゆまちゃんを見捨てずにいたら、こんな寂しい想いなんて…。
そんなことを考えてたんだもん。私、魔法少女失格ね…」
「違う!マミ、それは違う!!それを言ったら、俺だって――――」
「マミさんは立派な魔法少女です!私の憧れの……」
あの時、ゆまちゃんを見捨てずにいたら、こんな寂しい想いなんて…。
そんなことを考えてたんだもん。私、魔法少女失格ね…」
「違う!マミ、それは違う!!それを言ったら、俺だって――――」
「マミさんは立派な魔法少女です!私の憧れの……」
肩を掴み話しかける巧。
その傍で励ますように声をかけるさやか。
しかし、二人の言葉はマミに届くことはなく。
その傍で励ますように声をかけるさやか。
しかし、二人の言葉はマミに届くことはなく。
「そっか…そういうことになっちゃうのね……」
絶望した瞳は何かを悟ったように虚空を向いて話し始め。
「―――――――たっくん、ごめんね」
パキリ
やがてソウルジェムの濁りが飽和したその時。
巧とさやか、二人の目の前で、巴マミの命の結晶は絶望の種へとその形を変化させた。
巧とさやか、二人の目の前で、巴マミの命の結晶は絶望の種へとその形を変化させた。
【巴マミ@魔法少女おりこ☆マギカ 魔女化】