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ラハと魔法の園-the graystory-

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ラハと魔法の園 -the graystory-



※シリーズの重大なネタバレを含みます。未プレイの方は注意

序章


薄暗い広間にて対峙する三人の人間。
奥に居るのは世界を恐怖に陥れた闇の魔法士アークギルド。
そして彼を追い詰めているのは、S級魔法士のルクシエと、ザヴァン。
戦いの末、アークギルドは死亡し、塵と消えた。
残された二人の魔法士は、戦いの最中に命を落とした亡き友のことを想う……。

その17年後。
魔法界ベグド暦1336年。
光のルクシエメール魔法学校の前に一人の少年が倒れていた。
少年の名前はラハ。
名前以外すべてを忘れていた彼は、この学院の院長ルクシエの提案で、記憶を取り戻すまで魔法学院で生活をすることになる。

ラハが学内を見学中、中庭で二人の魔法生に魔法で攻撃されている少年の姿を目撃する。
慌てて少年を助けに入るが、魔法を使えないために防戦一方。
その時、サリィ=デビッドと名乗る少女が割って入り、ラハに魔法の使い方を教える。
彼女は魔法の杖を渡すとそのまま去って行ってしまったが、ラハはそのおかげで魔法生達を撃退することに成功する。

助け出した少年からは感謝されたが、その瞬間、「絶対に…許さない」という何者かの声が、ラハの脳裏をよぎる……。

中庭の騒動の一部始終を見ていたらしいルクシエ学院長。
ラハの撃った魔法の威力から、天才魔法生であるサリィに匹敵する才能の持ち主かも知れないと呟く。


第一章 炎と氷


「万年落ちこぼれ」と呼ばれているD級魔法生チャタと友達になったラハ。
その日の授業は戦闘魔法の実習授業。
戦闘魔法講師のフーバルトは、魔法生全員を「炎と氷の洞窟」へと転移させ、それぞれ二人組になって洞窟から脱出する様にと命じる。

同じ組のチャタと共にどうにか洞窟から脱出したラハだったが、他の魔法生が洞窟から戻らないことを見かね、フーバルトに「自分が助けに行く」と申し出る。フーバルトはそんなラハを魔法で気絶させ、「邪魔だ」と言い放ち教室から出て行く。

寮で目を覚ましたラハは、フーバルトが呼んでいると聞き、職員棟にある彼の部屋に向かう。
「実習授業の洞窟から戻ってこない魔法生がいる。どうか助けに行ってもらえないだろうか」
フーバルトの頼みを快く引き受けたラハは、移動魔法で転移させられる。
しかしそこは授業で訪れた洞窟では無く、見た事も無い場所だった…。

ラハを飛ばしたフーバルトは薄く笑う。
「人助け、か……。私の一番嫌いな言葉だ」

一方その頃。職員棟に行ったきり戻ってこないラハが気に掛かるチャタの元に、サリィがやって来る。
フーバルトとの一件を聞かされた彼女は、追跡魔法でラハの行方を突き止め、チャタと共に彼のいる洞窟へと転移する。

そこは「ルミナルトの洞窟」という、C級魔法生試験に使われる場所だった。
ラハは魔物に襲われて死にかけていたが、サリィの治癒魔法のおかげで事なきを得る。
フーバルトの行いは罪にならない。魔法界では「自己責任法」というものが存在し、自ら危険に飛び込んでいく事はすべて自己責任とされるのだという。理解できないラハだが、そんな法があってもチャタやサリィが助けに来てくれたことに感謝し、三人で洞窟の脱出を目指す。

洞窟の最深部に到達し、フィアフリードという魔物を倒した三人。
サリィに礼を言うラハに、彼女は寂しげに呟く。

「もう誰かを助けようと思わないで。私は、他人のために命を張るなんて馬鹿な奴、……大嫌いなの」

奥にある転移クリスタルを使って帰って行くサリィ。
ラハは、彼女が最近使い魔を亡くしたことをチャタから聞く。
きっとその使い魔もサリィを助けるために命を張ったのかも知れない。

ラハとチャタが彼女に続き転移クリスタルで脱出した先は、フーバルトの部屋だった。
驚くフーバルトの元に、副院長のミランダが訪れる。

「おめでとうラハ君、チャタ君、貴方達は今日からC級魔法生よ」

ミランダの言葉に驚く三人。
試験の手続きは踏んでいないが、フィアフリードを倒した者は漏れなくC級魔法生になれる規則が定められているらしい。
称号を得た二人の姿に、フーバルトはただただ悔しがるのだった。

第二章 湖の妖精たち


魔法薬のヤクル先生の授業が行われている。
「変系薬」と呼ばれる、人間を別の生き物の姿に変えられる薬があるらしい。
授業の終わりに「アルバイトを募集している」と聞かされたラハとチャタ、そしてチャタの幼なじみでラハに片想い中の月花は、引き受けるためにヤクルの部屋へと向かう。

学院の中庭に「永遠湖」と呼ばれる湖があり、その底には妖精が住んでいるという。
妖精は永遠に美しさを保つ薬を持っているらしく、その薬を分けてもらう事が、仕事の内容だった。

三人は水中呼吸ができる薬を飲むと、湖に飛び込む。
やがて妖精の住処を見つけるが、妖精は薬を渡すことを拒絶する。
「妖精の粉」は湖を保つために必要な薬だった。それがなければ棲んでいる妖精達は死に絶えてしまう。
それでも薬が必要と渋る月花に、ラハは諦めることを決心する。
「若さも、美しさも、僕達人間には百年も必要無いものだよ」

その時、妖精の住処が大きく揺れ、「ユネラ」と呼ばれる魔獣が2体現れたことを知る。
ラハ達の後をこっそり追って来ていたサリィがその内の1体を石化させて沈める。
残りの1体は何とかラハ達が倒すことが出来た。

彼らの戦う姿を見た妖精は、「妖精の粉」をラハに渡し、湖を保つことを諦めようとするが、ラハは断る。
渋っていた月花も、魔獣ユネラとの戦いを経て、妖精達を守ることを決心した。

サリィの移動魔法で学院に戻って来たラハ達は、ヤクルに報告するために学院長室へ。
報告の後、魔獣ユネラとの戦いを一部始終見ていたというルクシエ院長は、三人のとった行動を褒め讃える。

そしてラハの記憶がまだ戻っていない事を心配するルクシエ。
魔法で記憶を戻すことは出来ないのかと尋ねるチャタに、「死んだザヴァンが記憶魔法の使い手だった」と話し始める。
十日前、学院近くのニブラスの町で、魔法界法長ザヴァンが何者かに殺害された事件が発生したらしい。彼はかつてルクシエと共に、闇の魔法士アークギルドと戦った戦友でもあった。

話が終わりラハ達が去ったあと、ルクシエは副院長ミランダに話し始める。

ザヴァンが死んだ十日前と言えば、ラハが倒れていた日のちょうど前日。
記憶魔法の使い手の死亡直後に、記憶喪失の少年が現れた事は、偶然にしては出来すぎだと訝しむルクシエ。
また、ザヴァンの死因は炎魔法による焼死であることも気に掛かっていた。
炎魔法はラハが得意としていた魔法だったからだ。

第三章 謎の手紙


チャタの元に、医務室のラクリス先生からラブレターが届いたという。
さっそく医務室を訪れるチャタだが、ラクリスに出した覚えは無く、手紙の差出人はラクリスでは無く「クラリス」になっていると指摘される。手紙をゴミ箱に入れようとしたチャタを咎めるラハ達。差出人を傷つけない上手な断り方を教わるため、ラハとチャタは月花に相談に行くことに。

手紙をよく読むと、差出人は魔法学院の地下にある「願いが叶う泉の前で待つ」と書かれていた。
ラハ、チャタ、月花の三人は、手紙のヒントを元に地下への階段を探し当てる。

次々と提示される謎解きを行い、三人はついに「願いが叶う泉」の前に到達する。
そこでは差出人である女子魔法生クラリスが待っていたが、手紙には一人で来る様にと書かれており、三人で来たことに彼女は苛立つ。そして手紙はチャタでは無く、ラハに宛てたものである事が発覚する。

その泉は百年に一度、妖精達の喜びによって生まれる泉で、その伝説を知ったクラリスは「ラハの記憶を元に戻してもらう」という願いを叶えるつもりだったのだ。
一人で来なかったラハを軽蔑し、帰ろうとする彼女に月花が怒り、二人は激しく口論となる。

口論の末、激昂したクラリスは泉に「あの者をネズミに変えて」と願う。
しかしネズミの姿に変えられてしまったのは、咄嗟に月花をかばったラハの方だった…。

第四章 B級魔法生試験


ネズミに変えられてしまったラハを元に戻すため、チャタと月花は情報集めを始める。
その途中、ヤクル先生から「魔法品業者が学院前に落とした変系薬の小瓶が、空になっていた」と聞かされる。誰かに変身して学院に忍びこんでいる可能性があるらしい。そしてその者がザヴァン法長を殺害した犯人という気がしてならないという。

調べ物をするために図書館を訪れたチャタの前で、サリィがジークという上級魔法生と言い争いをしていた。
ジークは魔法教会の重鎮の息子で、サリィを妻に迎えようと企んでいるらしい。
拒絶するサリィをジークは禁術で拘束し、強引に連れて行こうとした時、ネズミ姿のラハが炎魔法で助けに入る。

その魔法と行動で、サリィはラハがネズミ姿になっている事に気付く。

「妖精の泉の力で変えられてしまったものなら、妖精達が何か知っているかも知れない」
と考えたサリィは、チャタ・月花を連れて、永遠湖の妖精に会いに行く。
妖精は「泉の願いを消す事は出来る」と答えた。
ただし、「これまで叶えられてきた全ての願いまでも消えてしまう」という。
願いを叶えられた者達の願いを消してしまったことで、彼らからの恨みを一生背負って生きてかなければいけない。
その覚悟はあるかと問う妖精に、サリィは迷わず「ある」と答える。

願いを消すには、学院奥地にある蒼の森の女神像に、特別な剣を刺す事だった。
蒼の森に入ることを許されているのはB級魔法生以上であるため、チャタ・月花は入れない。
B級魔法生であるサリィは、一人で森に入り、一人で背負うことを決意する。

学院に戻り、午前の授業を終えるチャタと月花。
その日は午後からB級魔法生試験が行われることになっていた。
チャタと月花は、無関係なサリィ一人に背負わせる訳にはいかないと、試験を受けてB級魔法生になろうと決め、試験に参加する。規則を破らず堂々と蒼の森へ行くために。

ネズミにされも何故か強力な魔法を撃てるラハの尽力のおかげで、試験は最上層に到達。
だが、合格まであと一歩の所でチャタが倒れてしまい……。

第五章 さよならの魔法


蒼の森に足を踏み入れたサリィの元に、上級生のカシェとシエスタがやって来る。
女神像のある広場まで一緒に行くというので、三人で向かう。

やがて女神像の前まで辿り着き、カシェ達は帰って行く。
サリィは妖精から受け取った剣を女神像に突き立てると、願いを打ち消された憎悪を抱く亡霊の様なものが彼女に襲いかかる。

どうにかして亡霊を退けたサリィは、何者かに声をかけられる。
それはサリィを妻にしようと画策していたジークだった。
彼は禁術を使って再びサリィを拘束し、今度は心を支配して意のままに操る禁術を使おうとしていた。

禁術を使われる前に「死の魔法」で自殺しようと詠唱を始めるサリィ。
慌てて禁術を使おうとするジーク。

そこに間一髪、人間姿のラハが立ちはだかった。

サリィが願いを打ち消した事でラハにかけられたネズミ化が解け、また、ラハ・チャタ・月花の三人もB級魔法生試験に合格しており、堂々と蒼の森にやって来られたのだ。
ジークの前にルクシエ院長やフーバルトが現れ、ジークの父親が先ほど違法薬物の取引で逮捕されたと話す。
後ろ盾が無くなった彼自身も、禁術行使の罪で逮捕された。

その夜。食堂で試験合格を喜ぶチャタ達だったが、ラハだけは浮かない顔をしている。
それはラハをネズミに変える原因を作り出したクラリスの事だった。
彼はクラリスに謝るため、サリィと共に、クラリスが向かったという学院長室へ転移する。

しかしそこにクラリスの悲鳴が響く。
慌てて学院長室に入ると、何者かに襲われ血を流したルクシエ院長が倒れていた……。
彼は息も絶え絶えに呟く。「ザヴァン……」

その瞬間、院長の魔力の暴発に巻き込まれ、ラハとサリィは夢の世界に飛ばされてしまう。

二人は、闇の魔法士アークギルドと、ルクシエら三人のS級魔法士が戦っている光景を目にする。
17年前に起きた出来事が、どうやら目の前で再現されているらしい。
きっとルクシエの記憶に違いないとサリィは言う。

闇の魔法士に立ち向かっているS級魔法士は三人。
院長のルクシエと、最近殺害されたザヴァン。そしてディーバ=ダイラスという名の若者。

だが戦いの最中、ダイラスはアークギルドの使い魔とともに自爆して死亡。
その隙を突いてアークギルドが倒される。サリィ曰く、この自爆が闇の魔法士滅亡のきっかけとなって、ディーバ=ダイラスは「伝説のS級魔法士」と呼ばれる事になったという。

ルクシエが闇の魔法士死亡を伝えるために去った後、突然、ザヴァンが高らかに笑い始める。
「悪く思うなよダイラス……」

ラハとサリィの二人は察する。
ディーバ=ダイラスの死は自爆でも、闇の魔法士による仕業でも無く、
ザヴァン法長により画策されたものかも知れないことを。


第六章 魔法祭


一年に一度の魔法学院の祭「魔法祭」が開催された。
この日、学院のどこかに「愛と友情の宝珠」と呼ばれる二つの石が隠されており、それを探し当てた男女が、今夜の舞台上で永遠の愛を誓い合うことで、宝珠は「必要の魔法石」へと変わるらしい。

ラハは月花と共に宝珠探しを始め、そのうちの一つを手に入れる。

もう一つの石を探していた時、クラリスの姿を見つける。
彼女はラハに謝罪するが、ラハは彼女に対して礼を言う。
驚いてその理由を尋ねるクラリスに、「大変な想いをして僕の記憶を取り戻そうとしてくれたことが嬉しかった」と告げるラハ。頑なに心を閉ざす人間には、謝罪よりも感謝の方が効くこともある、そう助言したのはサリィだったのだ。
それを聞いたクラリスはようやく笑顔を見せるが、月花は複雑な気持ちを抱く。

17時に中庭で待つ、というメッセージをサリィから受け取ったラハ達は、彼女に会いに行く。
サリィは「愛と友情の宝珠」のもう一つの石を持っていたのだ。

月花がラハに片想いしている事を知っていたサリィは、持っていた石を月花に譲ろうとする。
しかし月花は受け取らず、ラハとサリィが壇上に上がるべきだと言い放つ。
ラハと愛の誓いなんて自分には出来ないというサリィ。
月花はその理由を尋ねるが、彼女は「分からない」と答える。

その有耶無耶な態度に激昂した月花は、思わずサリィの頬を叩く。

ラハの姿を元に戻すためだけに泉の願いを消し、罪を背負う事を選んだサリィ。
だがあの時、月花には彼女と同じ選択をとる事が出来なかった。
「選択できなかった事こそが正しかったと思える様に、自分を諦めさせて欲しい」と懇願する月花。
その悲痛な声を聞いたサリィは、ラハと壇上に上がることを決意する。

魔法祭の壇上に上るラハとサリィ。
サリィは魔法で時間を止め、自分の想いをラハに打ち明ける。

なぜ自己責任法が当たり前になっているこの世界で、ラハを助けようと思ったのか。
ラハを助けたいと思う気持ちばかりが芽生えるのか。
彼女はその答えにようやく辿り着いたのだった。

それは、ラハが、

サリィの使い魔だったから。


壇上での誓いが終わり、中庭では後夜祭が行われていた。
ラハは、自分がサリィの使い魔のネズミだったことを思い出す。だからネズミの姿になっても、強い魔法を撃つ事が出来たのだ。そして学院前に落ちていた変系薬を飲んだため、人間の姿になっていたことも思い出すことが出来た。
しかしそれ以上の記憶は思い出せず、サリィの方も何故使い魔が死んだ事になっていたのかを思い出せなかった。
きっと二人は何者かに記憶を消され、書き換えられているのだ。

二人が手にした「愛と友情の宝珠」は、枕元において一晩眠ることで、必要の魔法石に代わり、二人にとって必要な魔法をかけてくれるという。その魔法がどんな魔法なのかは分からないが、もしラハがこのまま人として生きることが出来るといい、そう信じて、二人は明日、中庭で会う約束を交わす。

しかし翌朝。
ラハが目覚めた時、サリィはどこかへと姿を消していた……。

最終章 ねずみ色の記憶


サリィを追いかけるため、ラハも学院を出る。
彼女の向かった先はニブラスの町。
変系薬の効き目が切れてネズミに戻るまでの時間が迫っていた。

ニブラスの町には、先月殺害されたザヴァン法長の屋敷がある。
ラハはその屋敷に入ると、ザヴァンの自室でサリィの姿を見つける。

彼女は、枕元に置いた必要の魔法石の力で、失った記憶をすべて取り戻したと話す。
誰がザヴァン法長を殺害したのかも……。

一ヶ月前、ザヴァンに客人として招かれていたサリィは、17年前、彼と共に闇の魔法士と戦ったディーバ=ダイラスの話を聞く。
その時、ダイラスに子供がいた事を思い出すザヴァン。
その子供がどうなったのかは知らないと言いかけた時、彼は気付いた。

サリィこそが、ザヴァンの手で自爆に見せかけて殺害されたディーバ=ダイラスの娘だったのだ。
サリィの名前は、彼女の母親であるジュリア=デビッドが名付けたもので、愛する夫であるディーバ=ダイラスの名をすべて込めたのだという。

Sary David(サリィ=デビッド)

スペルを真逆にすると

Diva Dyras(ディーバ=ダイラス)

父ディーバはサリィが生まれてすぐに死んでしまったため、この名前こそが失った父との唯一の絆になっていた。
サリィが父の復讐に現れたと思い込んだザヴァンは、怯えながらディーバ殺害の理由を語り始める。彼は以前からジュリアの事を愛しており、自分から奪ったうえ、身体の弱い彼女に子供を生ませたのが許せなかったのだという。

サリィは呟く。
「絶対に……許さない」

彼女は最初からザヴァンを殺害するつもりは無く、糾弾するために記録魔法石に今のやり取りを記録していたのだ。
許しを請うザヴァンにサリィが背中を向けた瞬間、彼は麻痺の魔法で彼女を縛り付ける。

「君はダイラスに本当によく似ているねえ。その詰めの甘い所までそっくりだ」

笑うザヴァンに、為す術なく床に突っ伏すサリィ。

「さらばだダイラスの娘、すべてを失え!」

ザヴァンがサリィに記憶消去の魔法をかけようとした時、懐にいた彼女の使い魔のネズミ・ラハが間に飛び込む。
そしてザヴァンに向けて、夥しい炎の魔法が飛んだ……。

長い回想が終わり、ザヴァンを殺してしまったのは自分だったこと、そしてザヴァンの魔法の影響で記憶を失った事を知るラハ。
罪は償うつもりだと話すサリィ。彼女は当時この部屋で自分が記録したあの魔法石を回収しに来たのだ。

その時、突如、ラハの身体が光り始めた。
変系薬の効果が切れてネズミの姿に戻る時が来たのだ。
「僕は、サリィを守れた?」
「ラハ…貴方は、ちゃんと私を守ってくれたわ」
「ありがとう、これからも、サリィのそばに……」
「ええ、ずっと一緒よ。当たり前でしょ」


罪を償うために一度魔法学院に戻ったサリィと使い魔ラハは、予想外の光景を見て驚く。
ルクシエメール魔法学院が燃えている。
フーバルトの話では、突然、沢山の魔物が襲撃して来たらしい。
サリィとラハは、魔物と戦っていた月花やチャタと共に黒幕が向かったという院長室を目指す。

院長室で待ち構えていたのは、ラハ同様に変系薬を飲み、ピエロの姿に扮して学院内に潜んでいた、ザヴァンの使い魔セトだった。

魔法界法では「主が死ぬと、使い魔は暴走を引き起こす。よって暴走を起こす前に使い魔は処分されなければならない」というルールが定められていて、その法に対する暴動を起こすべく、魔法界のトップであるS級魔法士であるルクシエ院長と、それに従う魔法生を皆殺しにすることを企てたのだった。
そんな法律を作って使い魔達が暴動を起こしたのは、すべて人間達の自己責任であると語るセト。

「人と使い魔が傷つけ合う方法じゃなく助け合う方法でなぜ解決しようとしない」とチャタは怒る。
「人と使い魔が信じ合える関係を築くことが出来れば、きっと法は変えられる」と月花は言う。
そんなことは無理だと笑うセトに、ルクシエが冷たい言葉を言い放つ。

「ならば何故、法の中心を狙わない。魔法教会を狙わない。それが出来ないのは君が弱い者いじめしか出来ない様な、脆弱な魔物だからじゃないのか」
その言葉に激昂したセトは、変系薬の効果が切れて、真の姿で皆に襲いかかってくる。

「ラハ、私が貴方を守る」
「僕が、君を守る」

サリィ達は激闘の末、セトを打ち倒す。

「変系薬っていうのはね、本人が考えもしないものには決してなれないんだ」
「ラハ君は、サリィ君と同じ人間になって、より分かり合いたいと心の底から思ったから、人間になることが出来た」
「君はどうだろう。法というマリオネットの糸で操られ続けた、」
「文字通り、ピエロだったんじゃないかね」
冷たい目でそうセトに声をかけるルクシエ。
苦々しげに息を引き取るセトを悲しげに見つめるサリィ。

彼女はルクシエにザヴァン法長殺害を自白し、その後、魔法教会にて裁きを待つ身となった。

エピローグ


魔法教会の審理の結果、サリィとラハは「無罪」が言い渡された。
自己責任法を説いた本には「他者を助けるために命を落としても殺した者は罪に問われない」という法律だが、続きがあり、「また、他者を助けるために殺人を犯しても、それもまた罪に問われることは無い」と記されていた。

それは闇の魔法士集団による魔法連続殺人が後を絶たなかった時代に定められた法律で、当時、彼らに襲われている者を助けに入った家族や恋人、第三者が巻き込まれることが多く、魔法教会による検証や立証が困難だった。
よってこの様な法を定めて「人助け行為」そのものを抑制することで、捜査や心理を円滑にする効果があったという事らしい。

ルクシエは学院長室で呟く。
「誰が定めたんだろうねえ、こんな法律」

サリィが置いた記録魔法石には、ラハの魔法ではザヴァンは死んでおらず、その直後に使い魔のセトが現れる映像が映し出されていた。
深手を負っていたザヴァンは、現れた使い魔に向かって「肝心な時に訳に立たないクズめ」と吐き捨てる。
セトは怒りに身を震わせる。
「使い魔はクズじゃない…」
「あ?」
「クソの役にも立たないのはお前の方だ!!」
そしてザヴァンの断末魔が響き渡った。

自己責任法。
それはお前が作った法律だろ?

END
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