ピンク色の誓い・らきロワ編 ◆G/G2J7hV9Y
大事な誓いが、あった気がするのです。
笑点でも影の薄い、名前も覚えて頂けない私ですが、それでも大事な誓いがあった気がするのです。
いつ、どこで出会ったのでしたっけ。
仕事で移動してた時でしたっけ。それとも、銀座でおしぼり配りのバイトしてた時でしたっけ?
曖昧な記憶の彼方に浮かぶのは、1人の女子高生の姿。
大きな眼鏡に、いまどき珍しい、綺麗なストレートの長い髪でしてねぇ……
ああ、髪の色は淡いピンクでした。金髪やら茶髪やらに染めてる子と違って、さほど目立ちもしない色です。
『日本人としてはさして珍しくもない髪色』ですな。それこそ、集団にでも紛れればすぐに埋もれてしまうような。
いつ、どこで出会ったのでしたっけ。
仕事で移動してた時でしたっけ。それとも、銀座でおしぼり配りのバイトしてた時でしたっけ?
曖昧な記憶の彼方に浮かぶのは、1人の女子高生の姿。
大きな眼鏡に、いまどき珍しい、綺麗なストレートの長い髪でしてねぇ……
ああ、髪の色は淡いピンクでした。金髪やら茶髪やらに染めてる子と違って、さほど目立ちもしない色です。
『日本人としてはさして珍しくもない髪色』ですな。それこそ、集団にでも紛れればすぐに埋もれてしまうような。
……あれ?
いま私、何か妙なことを言ったような……はて?
いま私、何か妙なことを言ったような……はて?
ともあれ、なんとなく気が合った、のでしょうね。
どちらもたまたま桃色だった、ということもありました。周囲の引き立て役、という共通項もありました。
ファンでもないのに女子高生の友達、なんて私の歳を考えればちょっと誤解を招きそうで怖いのですが。
それでも、私たちは確かに、友達でした。
どちらもたまたま桃色だった、ということもありました。周囲の引き立て役、という共通項もありました。
ファンでもないのに女子高生の友達、なんて私の歳を考えればちょっと誤解を招きそうで怖いのですが。
それでも、私たちは確かに、友達でした。
どうでもいいようなことを、2人で語りあった気がします。
愚痴にしかならないことを、2人で零しあった気がします。
同病相哀れむという言葉そのままに、2人で慰めあった気がします。
そして、何か大事なことを、そこで誓った気がします。
愚痴にしかならないことを、2人で零しあった気がします。
同病相哀れむという言葉そのままに、2人で慰めあった気がします。
そして、何か大事なことを、そこで誓った気がします。
まあ私も、何度も死んだりフェードアウトしたりしましたからねぇ。
おまけに聖杯戦争だサーヴァントだと、色々ありましたからねぇ。
って、何でしたっけ? 「成敗戦争」? 「鯖の味噌煮」? はて?
ま、色々あり過ぎましたから、記憶が混乱しているのかもしれません。我ながらいい加減なものです。
ほら、こうして彼女の名前すら出てこないのですからね。
おまけに聖杯戦争だサーヴァントだと、色々ありましたからねぇ。
って、何でしたっけ? 「成敗戦争」? 「鯖の味噌煮」? はて?
ま、色々あり過ぎましたから、記憶が混乱しているのかもしれません。我ながらいい加減なものです。
ほら、こうして彼女の名前すら出てこないのですからね。
だけど、「忘れません」。
約束は忘れても、名前は忘れても――あの子の事は、忘れません。
約束は忘れても、名前は忘れても――あの子の事は、忘れません。
出来れば、影薄く幸薄い「あの子」にこそ、私の落語で笑顔を分けてあげたかったんですけどねェ……。
☆ ☆ ☆
『影が薄いというのも悩み物で御座います。
私事では御座いますが、私なんぞは名前も忘れられ、名簿にまで『笑点のピンク』などと書かれる始末。
山田君よりも認知度が低いとなると、これはちと焦りすら覚えてしまいますなァ。
とはいえ一方では、影の濃い方は濃い方なりに、それぞれ悩んでらっしゃるご様子……』
私事では御座いますが、私なんぞは名前も忘れられ、名簿にまで『笑点のピンク』などと書かれる始末。
山田君よりも認知度が低いとなると、これはちと焦りすら覚えてしまいますなァ。
とはいえ一方では、影の濃い方は濃い方なりに、それぞれ悩んでらっしゃるご様子……』
たった1人の独演会は、空が白み始めてもなお続けられていた。
途中何度か休憩を挟みつつも、既に数時間が経過しようとしていた。
しかし疲労の色を笑顔で隠し、ペットボトルの水で軽く口を潤すと、また滑らかに言葉を紡いでいく。
途中何度か休憩を挟みつつも、既に数時間が経過しようとしていた。
しかし疲労の色を笑顔で隠し、ペットボトルの水で軽く口を潤すと、また滑らかに言葉を紡いでいく。
『と、いうわけで……今回のお題です。
『影が濃けりゃァいいってモンじゃないよ』とのお言葉に、『どういうことだい?』と合いの手を入れますので、
キャラが濃すぎて困ってらっしゃる方になりきって、その理由を説明してあげて下さい。では参ります』
『影が濃けりゃァいいってモンじゃないよ』とのお言葉に、『どういうことだい?』と合いの手を入れますので、
キャラが濃すぎて困ってらっしゃる方になりきって、その理由を説明してあげて下さい。では参ります』
観客のいない、寒々しくも広々とした公園。
高座に見立てた広場の端、草むらにちょこんと正座をした落語家は、拡声器越しに朗々たる声を響かせる。
高座に見立てた広場の端、草むらにちょこんと正座をした落語家は、拡声器越しに朗々たる声を響かせる。
『影が濃けりゃァいいってモンじゃないよ』
『どういうことだい?』
『出るロワ出るロワ、何故だか誤解されまくり。大抵ロクな目に合いやしねェ』
『どういうことだい?』
『出るロワ出るロワ、何故だか誤解されまくり。大抵ロクな目に合いやしねェ』
1人2役、身振りを変え声色も変え、まるでそこに2人いるかのような、芸の冴え。
そして「そりゃ自業自得だよ!」との横からのツッコミさえ聞こえてきそうな、絶妙な間合いの『沈黙』。
どっと沸いた会場が収まるのを待って……いや、ちょうど収まるくらいの時間を待って、彼は次のネタに移る。
そして「そりゃ自業自得だよ!」との横からのツッコミさえ聞こえてきそうな、絶妙な間合いの『沈黙』。
どっと沸いた会場が収まるのを待って……いや、ちょうど収まるくらいの時間を待って、彼は次のネタに移る。
『影が濃けりゃァいいってモンじゃないよ』
『どういうことだい?』
『はいはいヤンデレヤンデレ。恋敵の名を言ってマーダーさせときゃキャラ再現だろ、ってそりゃないよ』
『どういうことだい?』
『はいはいヤンデレヤンデレ。恋敵の名を言ってマーダーさせときゃキャラ再現だろ、ってそりゃないよ』
訓練された一流の落語家は、笑いの神様の電波を受信する。
その場に合わせた最適なネタが、彼の口を借りて飛び出してくるのだ。
ネタが降りてきたその瞬間に、しかし自分でも全てを理解できるわけではない。
理屈ではなく直感で、ネタの良し悪しを判断する。意味が分からないままに、笑えるかどうかだけを判定する。
そういった直観力があればこそ、笑点での長期レギュラー、などという偉業も勤まるのだ……
そりゃ、ちょいとばかり周囲に座ってらっしゃる方々が目立ちすぎですけどね。ええ。
その場に合わせた最適なネタが、彼の口を借りて飛び出してくるのだ。
ネタが降りてきたその瞬間に、しかし自分でも全てを理解できるわけではない。
理屈ではなく直感で、ネタの良し悪しを判断する。意味が分からないままに、笑えるかどうかだけを判定する。
そういった直観力があればこそ、笑点での長期レギュラー、などという偉業も勤まるのだ……
そりゃ、ちょいとばかり周囲に座ってらっしゃる方々が目立ちすぎですけどね。ええ。
『影が濃けりゃァいいってモンじゃないよ』
『どういうことだい?』
『悪魔悪魔って、しつこいよ。私のキャラってそれだけなのかな、少し頭、冷やそうか…… ッ?!』
『どういうことだい?』
『悪魔悪魔って、しつこいよ。私のキャラってそれだけなのかな、少し頭、冷やそうか…… ッ?!』
と、オチを言い切った所で、ふと落語家の言葉が止まる。
微かに鼻に届くのは、血の匂い。
どこからともなく肌を刺してくる視線には、たっぷりの殺意が含まれていて。
この気配、この空気。間違いない。
いさじを逃がした時に抱いた懸念、好戦的な者に襲われるという懸念が、現実のものになりつつあるのだ。
しかし言葉が止まったのも一瞬のこと。彼はそれでも飄々とした態度を崩すことなく、先を続ける。
微かに鼻に届くのは、血の匂い。
どこからともなく肌を刺してくる視線には、たっぷりの殺意が含まれていて。
この気配、この空気。間違いない。
いさじを逃がした時に抱いた懸念、好戦的な者に襲われるという懸念が、現実のものになりつつあるのだ。
しかし言葉が止まったのも一瞬のこと。彼はそれでも飄々とした態度を崩すことなく、先を続ける。
『影が濃けりゃァいいってモンじゃないよ』
『どういうことだい?』
『影が濃いを通り越して、真・驚きの黒さ。ニコニコ笑顔も真っ黒です』
『どういうことだい?』
『影が濃いを通り越して、真・驚きの黒さ。ニコニコ笑顔も真っ黒です』
瞬間、殺気がその質を変える。その色を変える。
あらら、どうやら地雷を踏んでしまったようですねぇ、とばかりに、ピンクはおどけて頭をはたいてみせる。
ここは自然公園、広場を前にしているとはいえ、隠れる場所はいくらでもある。
それでなくても、笑点のピンクには戦う能力などありはしないのだ。
この気迫で襲いかかられれば、まず助かりはしまい。
しかし一体、今のネタのどこが「この人」の気に障ってしまったのでしょうかね?
首を捻りながらも、それでも彼は、彼にできるたった1つのことを続けようとして、
あらら、どうやら地雷を踏んでしまったようですねぇ、とばかりに、ピンクはおどけて頭をはたいてみせる。
ここは自然公園、広場を前にしているとはいえ、隠れる場所はいくらでもある。
それでなくても、笑点のピンクには戦う能力などありはしないのだ。
この気迫で襲いかかられれば、まず助かりはしまい。
しかし一体、今のネタのどこが「この人」の気に障ってしまったのでしょうかね?
首を捻りながらも、それでも彼は、彼にできるたった1つのことを続けようとして、
『影が濃けりゃァいいってモンじゃないよ』
『どういうこと、だ……ッ!?』
『どういうこと、だ……ッ!?』
お題に対する合いの手を入れた所で、その声が唐突に途切れた。
拡声器が、彼の手から飛ぶ。
いや、拡声器を握っていた右手首ごと、宙に舞う。
足元の影の中から、疾風のように飛び出した、漆黒の影。
刃渡りの短いアーミーナイフで、正確に手首「だけ」を切り飛ばしながら、その乱入者は叫んでいた。
まるで笑点のピンクの言葉の後を継ぐように、悲痛にも聞こえる叫びを上げていた。
拡声器が、彼の手から飛ぶ。
いや、拡声器を握っていた右手首ごと、宙に舞う。
足元の影の中から、疾風のように飛び出した、漆黒の影。
刃渡りの短いアーミーナイフで、正確に手首「だけ」を切り飛ばしながら、その乱入者は叫んでいた。
まるで笑点のピンクの言葉の後を継ぐように、悲痛にも聞こえる叫びを上げていた。
「高町なのはの顔にウルトラマンレオの身体、赤木しげるの声。無理に影濃くするにも程があるだろjk!」
☆ ☆ ☆
最初は、怒りだった。
書き手としてのイメージを好き放題言い立ててくれた挙句、「こんな姿」にしてくれた「書き手」への怒り。
その怒りが彼・『熱血王子』にマーダーの道を歩ませた。
自分をこんな姿にした書き手の手首、切り落としてやらねば気が済まない。
しかしどの書き手が書いたのか分からない。ならば、全ての書き手の手首を切り落とすまで、と。
印象的な彼の作品から創造られた必殺技、《破棄すべき全ての手(リスト・ブレイカー)》を決めるまで、と。
その怒りが彼・『熱血王子』にマーダーの道を歩ませた。
自分をこんな姿にした書き手の手首、切り落としてやらねば気が済まない。
しかしどの書き手が書いたのか分からない。ならば、全ての書き手の手首を切り落とすまで、と。
印象的な彼の作品から創造られた必殺技、《破棄すべき全ての手(リスト・ブレイカー)》を決めるまで、と。
だが、そうやって殺し合いに乗り、戦いを繰り返すうち、いつしか1つの言葉が彼を呪縛するようになる。
サラマンダー。
かつてFFDQロワにて名を馳せた、「本気でやっているのに誰も殺せないマーダー」。
その影が目の前にちらつきだし、彼は、苛立ちと焦りを覚えるようになった。
サラマンダー。
かつてFFDQロワにて名を馳せた、「本気でやっているのに誰も殺せないマーダー」。
その影が目の前にちらつきだし、彼は、苛立ちと焦りを覚えるようになった。
自らの力不足を恥じた彼は、そして修行によって新たな技を身につけようとした。
《破棄すべき全ての手(リスト・ブレイカー)》の上位版の大技、《破棄すべき全ての首(ネック・ブレイカー)》。
手首をただ斬り落とすだけの技から、手首・足首・乳首・首の7箇所同時斬撃への大幅な進化。
《破棄すべき全ての手(リスト・ブレイカー)》の上位版の大技、《破棄すべき全ての首(ネック・ブレイカー)》。
手首をただ斬り落とすだけの技から、手首・足首・乳首・首の7箇所同時斬撃への大幅な進化。
しかし、その新たなる技を持って向き合った敵が、相性としては最悪の敵・『影の繋ぎ師』。
圧倒的な硬さ、圧倒的な再生力、圧倒的な隙のなさ。
押される一方の展開の中、たまたま確保できた女性書き手・『お姉さま』を人質に逃げるのが精一杯だった。
圧倒的な硬さ、圧倒的な再生力、圧倒的な隙のなさ。
押される一方の展開の中、たまたま確保できた女性書き手・『お姉さま』を人質に逃げるのが精一杯だった。
そしてその逃げた先で、人質だったはずのお姉さまとも、戦いになり。
死力を尽くした果てに……敗北した。
死力を尽くした果てに……敗北した。
心が折れるには、十分過ぎる敗北だった。
心が折れるには、十分過ぎる愛情を向けられた。
そして、まさに彼がマーダーの道を諦め、対主催に転向しようと思った、まさにその時。
心が折れるには、十分過ぎる愛情を向けられた。
そして、まさに彼がマーダーの道を諦め、対主催に転向しようと思った、まさにその時。
闇が、彼の背後から手を伸ばしてきた。
柊つかさの姿をした、ニコロワ書き手のジョーカー・『愛媛の0RbUzIT0Toは大変な演説をしていきました』。
『愛媛』と通称される彼女の能力は、『真・驚きの黒さ』。『ありとあらゆるものを真っ黒に染める程度の能力』。
主催者側から派遣された『愛媛』は、そして、崩れかけた熱血王子の心も身体も、黒一色に染め上げた。
殺し合いのゲームを円滑に進めるために、数少なくなっていたマーダーとして、染め直した。
傷ついた身体も支給品で癒され、影に潜る能力も与えられ……ただ、潰れた両目だけは元に戻らずに。
そして、ぽっかり開いた眼窩の片方に、守れず、救えず、自ら殺してしまった『お姉さま』の眼球を入れられて。
『愛媛』と通称される彼女の能力は、『真・驚きの黒さ』。『ありとあらゆるものを真っ黒に染める程度の能力』。
主催者側から派遣された『愛媛』は、そして、崩れかけた熱血王子の心も身体も、黒一色に染め上げた。
殺し合いのゲームを円滑に進めるために、数少なくなっていたマーダーとして、染め直した。
傷ついた身体も支給品で癒され、影に潜る能力も与えられ……ただ、潰れた両目だけは元に戻らずに。
そして、ぽっかり開いた眼窩の片方に、守れず、救えず、自ら殺してしまった『お姉さま』の眼球を入れられて。
刷り込まれたのは、絶対的な恐怖。
誰にも許して貰えない事に対する、圧倒的な恐怖。
そしてまるで、どこかの殺し合いでつかさに支配されたゴマモンのように。
ただひたすらに、謝罪の言葉を口にし続けた。
謝りながら、光溢れる者たちを襲い、殺していった。
誰にも許して貰えない事に対する、圧倒的な恐怖。
そしてまるで、どこかの殺し合いでつかさに支配されたゴマモンのように。
ただひたすらに、謝罪の言葉を口にし続けた。
謝りながら、光溢れる者たちを襲い、殺していった。
ごめんなさい――その謝罪は、しかし一体、誰に対するものだったのか。
ごめんなさい――その謝罪は、恐怖と黒さを植えつけてくれた『愛媛』に対するものだったろうか。
ごめんなさい――その謝罪は、右眼窩に入っていた眼球の主・『お姉さま』に対するものだったろうか。
ごめんなさい――その謝罪は、自らが襲い傷つけてしまった人々に対するものだったろうか。
ごめんなさい――その謝罪は、あるいは裏切りかけたマーダーたちに対するものだったろうか。
ごめんなさい――その謝罪は、恐怖と黒さを植えつけてくれた『愛媛』に対するものだったろうか。
ごめんなさい――その謝罪は、右眼窩に入っていた眼球の主・『お姉さま』に対するものだったろうか。
ごめんなさい――その謝罪は、自らが襲い傷つけてしまった人々に対するものだったろうか。
ごめんなさい――その謝罪は、あるいは裏切りかけたマーダーたちに対するものだったろうか。
ごめんなさい――その謝罪は、あるいはひょっとしたら、初期の、自分自身の、怒りに対する――!
☆ ☆ ☆
笑いは、全てを相対化する。
笑いは、権威あるモノを引き摺り下ろしてしまう。
笑いは、深刻な状況を改めて見つめなおす余裕を与えてくれる。
笑いは、権威あるモノを引き摺り下ろしてしまう。
笑いは、深刻な状況を改めて見つめなおす余裕を与えてくれる。
中世の闇の中、圧倒的な権力を振るう貴族や司祭らを、堂々と真正面からネタにしてみせた道化師たち。
近代の文明化のうねりの中、権力者たちの弾圧にペン1本で立ち向かった、風刺作家たち。
遥かな古代より、「笑い」は弱者が強者に立ち向かう、数少ない武器だったのだ。
近代の文明化のうねりの中、権力者たちの弾圧にペン1本で立ち向かった、風刺作家たち。
遥かな古代より、「笑い」は弱者が強者に立ち向かう、数少ない武器だったのだ。
笑い、というちっぽけな光程度では、真に黒き闇を白く染め直すことなど出来ない。
それでも光に照らされれば、凹凸くらいは見えるようになる。
見失っていた自分の輪郭くらいは、分かるようになる。
それでも光に照らされれば、凹凸くらいは見えるようになる。
見失っていた自分の輪郭くらいは、分かるようになる。
「ふ、ふ、ふ……。まさか、自分で認めてしまうとは……な」
絶対的な恐怖の対象であった『愛媛』も、笑いの対象になりうるのだ、と認識し直して。
根源的な怒りの原因であった『自らの容姿』も、自分自身の口で笑い飛ばす。
狂気に支配され無為に彷徨い続けていた熱血王子は、笑点のピンクの落語を聴き、正気を取り戻していた。
殺意と黒さをそのままに、ただ『愛媛』の影に怯えるだけの状態を、脱していた。
根源的な怒りの原因であった『自らの容姿』も、自分自身の口で笑い飛ばす。
狂気に支配され無為に彷徨い続けていた熱血王子は、笑点のピンクの落語を聴き、正気を取り戻していた。
殺意と黒さをそのままに、ただ『愛媛』の影に怯えるだけの状態を、脱していた。
彼は目の前でうめく落語家を見下ろす。
手首の切断。常人にとっては、十分に死に至る傷だ。
脈を触れる手首の動脈は、人間が外傷によって失血死しうる急所の1つ。
残された手で傷口を押さえる程度では、どうにもなりはしない。
悠然と落語家のことを見下ろして(いや、眼球は欠落しているのだが)、熱血王子は小さくつぶやく。
手首の切断。常人にとっては、十分に死に至る傷だ。
脈を触れる手首の動脈は、人間が外傷によって失血死しうる急所の1つ。
残された手で傷口を押さえる程度では、どうにもなりはしない。
悠然と落語家のことを見下ろして(いや、眼球は欠落しているのだが)、熱血王子は小さくつぶやく。
「あえて言おう……『ごめんなさい』ではなく、『ありがとう』と。
俺は容易には許されない存在だし、許されるために何でもする覚悟は変わらないが……
それでも、久しぶりに自分を見直せた。久しぶりに、自分の言葉を口にできた」
「ああ……どうやら元気になられたようですねぇ。そいつァ良かった。本当に良かった」
俺は容易には許されない存在だし、許されるために何でもする覚悟は変わらないが……
それでも、久しぶりに自分を見直せた。久しぶりに、自分の言葉を口にできた」
「ああ……どうやら元気になられたようですねぇ。そいつァ良かった。本当に良かった」
激痛に脂汗を浮かべながらも、驚くべきことに落語家は、熱血王子に笑顔を向けてきた。
よく見ればその左手は、ただ斬られた傷口を押さえているだけではない。
右手の断端、そこに何やら葉っぱのようなモノを押し当てている。
回復効果のある支給品・薬草。慌てて取り出したせいか、周囲に同じような葉っぱが散らばっている。
もちろんその程度では、斬れた腕を繋ぎ直すことなど出来はしないが。
少なくとも、失血を止める程度の効果はあるようだった。
よく見ればその左手は、ただ斬られた傷口を押さえているだけではない。
右手の断端、そこに何やら葉っぱのようなモノを押し当てている。
回復効果のある支給品・薬草。慌てて取り出したせいか、周囲に同じような葉っぱが散らばっている。
もちろんその程度では、斬れた腕を繋ぎ直すことなど出来はしないが。
少なくとも、失血を止める程度の効果はあるようだった。
だがしかし、ここで出血多量を免れたとしても、彼が相変わらず死に瀕していることに変わりはない。
走って逃げようにも、正座を続けていた足は痺れきり、ロクに立ち上がることすら出来ぬ状態。
熱血王子が再びその刃を振るえば、今度こそ成す術もなく死に至るだろう。
走って逃げようにも、正座を続けていた足は痺れきり、ロクに立ち上がることすら出来ぬ状態。
熱血王子が再びその刃を振るえば、今度こそ成す術もなく死に至るだろう。
だから、この止血は生き残るためのものではない。
笑点のピンクが、死から逃れるためのものではない。
死んでも伝えたいと思ったことを、語るだけの時間を作るものだ。
思いもかけず、彼の落語は「殺し合いに乗っている者」にまで届いた。
なら、もう少し言っておきたいことがある。
ありふれた殺し合い否定の説得ではなく、それよりも増して、言っておきたいことがある。
笑点のピンクが、死から逃れるためのものではない。
死んでも伝えたいと思ったことを、語るだけの時間を作るものだ。
思いもかけず、彼の落語は「殺し合いに乗っている者」にまで届いた。
なら、もう少し言っておきたいことがある。
ありふれた殺し合い否定の説得ではなく、それよりも増して、言っておきたいことがある。
「どうやら貴方は、私を殺すおつもりでいらっしゃるご様子。
そして残念なことに、私には抵抗する手段も御座いません。
いまさらみっともなく命乞いするのも何ですし、この度もこの辺が頃合かとも思います。
ですが、いくつか私の言葉を聴いては頂けないでしょうか。
いやなに、お時間は取らせません。
何せ私、ほらこの通り。血は止まっても、今すぐにでも倒れてしまいそうな有様ですから」
「…………」
そして残念なことに、私には抵抗する手段も御座いません。
いまさらみっともなく命乞いするのも何ですし、この度もこの辺が頃合かとも思います。
ですが、いくつか私の言葉を聴いては頂けないでしょうか。
いやなに、お時間は取らせません。
何せ私、ほらこの通り。血は止まっても、今すぐにでも倒れてしまいそうな有様ですから」
「…………」
しばしの沈黙。
その沈黙を肯定と受け取って、笑点のピンクは言葉を続ける。
自分を殺そうとしている者に向け、最後の遺言を語り始める。
その沈黙を肯定と受け取って、笑点のピンクは言葉を続ける。
自分を殺そうとしている者に向け、最後の遺言を語り始める。
「まず1つ。貴方が何をしてしまったのか、私にはとんと分かりませんが……
許されたいのなら、むしろお笑いなさい。
辛気臭い顔をしてちゃァ、幸せの方から逃げていってしまいます。
笑う門には福来る、とも言います。
多少無理してでも、笑ってなさい。泣いて怯えてちゃァいけませんよ」
許されたいのなら、むしろお笑いなさい。
辛気臭い顔をしてちゃァ、幸せの方から逃げていってしまいます。
笑う門には福来る、とも言います。
多少無理してでも、笑ってなさい。泣いて怯えてちゃァいけませんよ」
落語家の浮かべた、邪気のない笑み。つられるように、熱血王子の口元も不器用に釣り上がる。
眼窩は虚ろに落ち窪んだままだし、これはむしろ怖い表情と言ってもいいかもしれない。
それでもその様子に満足したように頷くと、笑点のピンクは次の話を切り出す。
眼窩は虚ろに落ち窪んだままだし、これはむしろ怖い表情と言ってもいいかもしれない。
それでもその様子に満足したように頷くと、笑点のピンクは次の話を切り出す。
「2つ目。そうですな、私を殺した後にでも、この着物を持っていかれると宜しい」
「……着物を?」
「左様。先のお言葉を聞くに、どうやら貴方はそのお姿のことで困ってらっしゃるご様子。
しかしいまさら姿形をどうこう出来やしませんから、せめてこの、ピンクの着物を羽織られてはどうかと。
目立たぬ私をかろうじて目立たせてくれた、この着物。
きっと視線はピンクに釘付けになり、あなたの異貌もさほど意識されなくなるでしょう」
「……着物を?」
「左様。先のお言葉を聞くに、どうやら貴方はそのお姿のことで困ってらっしゃるご様子。
しかしいまさら姿形をどうこう出来やしませんから、せめてこの、ピンクの着物を羽織られてはどうかと。
目立たぬ私をかろうじて目立たせてくれた、この着物。
きっと視線はピンクに釘付けになり、あなたの異貌もさほど意識されなくなるでしょう」
かつて笑点では、ピンクの着物を着た落語家は出演が短命に終わると言われ、事実そうなっていた。
その「呪われたピンクの着物」の呪詛をひっくり返したのが、三遊亭好楽……いや『笑点のピンク』である。
20年にも及ぶ、長期の出演。もはや彼にとってはこの色はラッキーカラーだ。
同じように見えざる呪いに苦しんでいる熱血王子の助けになれば、と、笑点のピンクは愛着ある着物を託す。
その「呪われたピンクの着物」の呪詛をひっくり返したのが、三遊亭好楽……いや『笑点のピンク』である。
20年にも及ぶ、長期の出演。もはや彼にとってはこの色はラッキーカラーだ。
同じように見えざる呪いに苦しんでいる熱血王子の助けになれば、と、笑点のピンクは愛着ある着物を託す。
「3つ目……これは私自身のことではないのですが、柊つか、ら、ラララ~♪」
「……??」
「いや失礼。私としたことが、もうネタ切れですか。いやはや締まらぬものですねぇ」
「……??」
「いや失礼。私としたことが、もうネタ切れですか。いやはや締まらぬものですねぇ」
いさじに言われた「柊つかさを励ましてやってくれ」という願いを託そうとして、すんでの所で思いとどまる。
いくら今は話が通じているとはいえ、相手は殺し合いに乗っている者。
誰かを見逃してやってくれ、と頼んでも、かえって逆効果になる可能性が高い。
いさじ自身の頑張りを期待して、笑点のピンクは自らの無力を無言で詫びる。
いくら今は話が通じているとはいえ、相手は殺し合いに乗っている者。
誰かを見逃してやってくれ、と頼んでも、かえって逆効果になる可能性が高い。
いさじ自身の頑張りを期待して、笑点のピンクは自らの無力を無言で詫びる。
「さて、では、もう言い残したことも御座いません。やるならひと思いにやって下さいよ。
ほんとこの手も、痛くて痛くて。こんな弱音、笑点で吐いたら山田君に全部持ってかれちゃいそうですけど」
「分かっている……。敬意をもって、お前を殺す……そしてサラマンダーの影からも脱してやる……!」
ほんとこの手も、痛くて痛くて。こんな弱音、笑点で吐いたら山田君に全部持ってかれちゃいそうですけど」
「分かっている……。敬意をもって、お前を殺す……そしてサラマンダーの影からも脱してやる……!」
笑点のピンクの言葉に、熱血王子は身構える。
本来なら、一般人に過ぎぬ笑点のピンク相手に、技など使うまでもない。
それでも彼は、己の消耗も省みず、最大限の敬意をもって、その技を放った。
専用宝具もない状態で、ただ純粋に自らの技として、その攻撃を放った。
本来なら、一般人に過ぎぬ笑点のピンク相手に、技など使うまでもない。
それでも彼は、己の消耗も省みず、最大限の敬意をもって、その技を放った。
専用宝具もない状態で、ただ純粋に自らの技として、その攻撃を放った。
「全力全壊……御免ッ! 《破棄すべき全ての首(ネック・ブレイカー)》!」
一閃7斬。
笑点のピンクの、首が飛ぶ。
左手首が飛ぶ。右足首が飛ぶ。左足首が飛ぶ。
あえて乳首の斬撃を外したのは、彼の死後に譲られるピンクの着物を守るためか。
クルクルと首だけで宙を舞いながら、笑点のピンクは、そして最期にふと思った。
笑点のピンクの、首が飛ぶ。
左手首が飛ぶ。右足首が飛ぶ。左足首が飛ぶ。
あえて乳首の斬撃を外したのは、彼の死後に譲られるピンクの着物を守るためか。
クルクルと首だけで宙を舞いながら、笑点のピンクは、そして最期にふと思った。
ああ……「あちら側」には、もう「彼女」は来てる頃合ですかねェ……。
今度こそ、忘れず、に…………!
今度こそ、忘れず、に…………!
【笑点のピンク@カオスロワ 死亡】
☆ ☆ ☆
夜が、明けようとしていた。
もうすぐ日が昇る。
闇に溶け込む黒き身体の利を活かせる時間は終わり、これからは光に生きる者たちの時間。
これから厳しくなるであろう戦いを前に、しかし、熱血王子は怯まない。
もうすぐ日が昇る。
闇に溶け込む黒き身体の利を活かせる時間は終わり、これからは光に生きる者たちの時間。
これから厳しくなるであろう戦いを前に、しかし、熱血王子は怯まない。
「どうやら書き手ロワの連中もいるようだな……俺が取り逃がした連中も、いるかどうか……」
冷静さを取り戻したことで、名簿の確認もできた。地図も把握した。
書き手ロワよりの参戦者に、「自分の容姿をこのように描いた書き手」がいればよし。その手を斬りおとす。
もし、いなければ……その時は、優勝者の権利で……!
書き手ロワよりの参戦者に、「自分の容姿をこのように描いた書き手」がいればよし。その手を斬りおとす。
もし、いなければ……その時は、優勝者の権利で……!
「ごめんなさい、だな。
だが俺は、こうでもしなきゃ自分を許せないんでな……!」
だが俺は、こうでもしなきゃ自分を許せないんでな……!」
笑点のピンクの願い通り、ややぎこちなさの残る笑顔を浮かべ。
黒一色の身体に、そこだけ鮮やかなピンクの着物を羽織り。
彼は優勝を目指すべく、大股で歩き出した。
誰かに許されるためではなく――自分自身を、許すために。
黒一色の身体に、そこだけ鮮やかなピンクの着物を羽織り。
彼は優勝を目指すべく、大股で歩き出した。
誰かに許されるためではなく――自分自身を、許すために。
【D-4/自然公園/1日目 早朝】
【熱血王子@書き手2nd】
[状態]:黒化、両目損失(感覚に影響なし)、歪んだ笑み、変身中
[装備]:朝倉涼子のアーミーナイフ@書き手2nd、ピンクの着物@笑点のピンク
[持物]:デイパック、基本支給品一式、薬草×8@ニコロワ、ランダム支給品0~2
[方針/行動]
基本方針:自分を自分で許せるようになるために、笑って殺して優勝する。
1:黒く染まってない奴を優先して笑いながら殺す
2:白に寝返りそうな奴も笑いながら殺す。
3:かつて戦った書き手ロワ出身者(下の※参照)は、特に確実に殺す。
[状態]:黒化、両目損失(感覚に影響なし)、歪んだ笑み、変身中
[装備]:朝倉涼子のアーミーナイフ@書き手2nd、ピンクの着物@笑点のピンク
[持物]:デイパック、基本支給品一式、薬草×8@ニコロワ、ランダム支給品0~2
[方針/行動]
基本方針:自分を自分で許せるようになるために、笑って殺して優勝する。
1:黒く染まってない奴を優先して笑いながら殺す
2:白に寝返りそうな奴も笑いながら殺す。
3:かつて戦った書き手ロワ出身者(下の※参照)は、特に確実に殺す。
※書き手ロワ2nd、247話「熱血対熱血~正義の系譜~」熱血怪人との戦いの直前から参加
※愛媛への恐怖を一部克服しました。黒さとマーダー路線はそのままです。
※書き手ロワ2ndで(この参戦時期で)遭遇したことがあり、かつこのロワに参戦しているのは、以下の2名。
クールなロリスキー@書き手2(外見:柊かがみ)と、忘却のウッカリデス@書き手2 です。
ただしどちらも名前は知らず、また、ウッカリデスは当時仮面を被っていたので顔も知りません。
※愛媛への恐怖を一部克服しました。黒さとマーダー路線はそのままです。
※書き手ロワ2ndで(この参戦時期で)遭遇したことがあり、かつこのロワに参戦しているのは、以下の2名。
クールなロリスキー@書き手2(外見:柊かがみ)と、忘却のウッカリデス@書き手2 です。
ただしどちらも名前は知らず、また、ウッカリデスは当時仮面を被っていたので顔も知りません。
【ピンクの着物@笑点のピンク】
『笑点のピンク@カオスロワ』の着ていた着物。
名前は忘れられてもその着物の色は印象に残るくらい、目立つ代物である。
『笑点のピンク@カオスロワ』の着ていた着物。
名前は忘れられてもその着物の色は印象に残るくらい、目立つ代物である。
※首と両手首・足首を切り落とされ、着物を剥ぎ取られた笑点のピンクの死体の傍に、
拡声器@ロワ全般、座布団@現実、共通支給品一式、笑点のピンクの首輪、が落ちています。
拡声器@ロワ全般、座布団@現実、共通支給品一式、笑点のピンクの首輪、が落ちています。
065:彼 ら の 行 方 | 投下順 | 067:彼女のフラグ取捨選択 |
065:彼 ら の 行 方 | 時系列順 | 068:涼宮ハルヒの雌伏 |
027:救いを求めるその相手 | 熱血王子 | 095:No Chance in Hell |
023:『笑☆点』 | 笑点のピンク |