第559話:孤軍奔走 作:◆5KqBC89beU
 ヒースロゥの背後に朱巳が現れ、符術使いの視線がそちらを向いた。
風の騎士は敵の動揺を察知し、それと同時に、違和感にも気づいた。
符術使いからは、何故か一瞬だけ、完全に殺気が消えていた。
朱巳の足音が遠ざかり、敵の術が虚空を焼く。
何枚も呪符をこぼしながら、符術使いが顔をしかめる。
(どういうことだ?)
濡れた路面の上を駆け、得物を振り上げながら、ヒースロゥは思う。
ヒースロゥたちに向けられていたのは、ただの戦意でしかなかった。
敵の殺意は、眼前の対戦者にではなく、別の何かへ向けられていた。
「臨兵闘者以下略!」
符術使いが呪符を構え、後方へ跳躍する。
構えていた鉄パイプを、風の騎士は投擲する。
「電光来々、急々如律令!」
符術使いの投げつけた呪符から雷が発せられ、鉄パイプに遮られる。
だが、敵の攻撃は、足元からもヒースロゥへ襲いかかった。
(ああ、そうか)
ヒースロゥを見つめる符術使いの双眸に、彼への殺意は微塵もない。
(あの眼は、まるで――)
思いを言葉にする前に、ヒースロゥは気を失った。
風の騎士は敵の動揺を察知し、それと同時に、違和感にも気づいた。
符術使いからは、何故か一瞬だけ、完全に殺気が消えていた。
朱巳の足音が遠ざかり、敵の術が虚空を焼く。
何枚も呪符をこぼしながら、符術使いが顔をしかめる。
(どういうことだ?)
濡れた路面の上を駆け、得物を振り上げながら、ヒースロゥは思う。
ヒースロゥたちに向けられていたのは、ただの戦意でしかなかった。
敵の殺意は、眼前の対戦者にではなく、別の何かへ向けられていた。
「臨兵闘者以下略!」
符術使いが呪符を構え、後方へ跳躍する。
構えていた鉄パイプを、風の騎士は投擲する。
「電光来々、急々如律令!」
符術使いの投げつけた呪符から雷が発せられ、鉄パイプに遮られる。
だが、敵の攻撃は、足元からもヒースロゥへ襲いかかった。
(ああ、そうか)
ヒースロゥを見つめる符術使いの双眸に、彼への殺意は微塵もない。
(あの眼は、まるで――)
思いを言葉にする前に、ヒースロゥは気を失った。
 そして、見覚えのない建物の二階で、ヒースロゥは意識を取り戻した。
(あれから、何がどうなった?)
起きあがり、周囲に視線を巡らせながら、彼は状況の把握を試みる。
(下に一人、誰かがいる。それも、とんでもなく怒っている奴が)
あと少しというところで獲物に逃げられた狩人――そんな印象の気配がある。
(何者かは知らないが、すぐ近くにいる生存者は奴だけだな)
それくらいのことは、彼になら判る。
(体に傷や後遺症はない。手元にデイパックはあるが武器は見当たらない)
気絶させられてから数十分が経過しており、海洋遊園地内らしき風景が窓の外にある。
(……あいつは無事か?)
ヒースロゥの脳裏を朱巳の顔がよぎる。
彼をここまで運んできたのが朱巳かどうかは判らない。
一階にいる人物は、どうも平和主義者ではなさそうだ。運搬者とは別人だろう。
おそらく運搬者は生きている。どうにかして階下の誰かから逃げ延びたらしい。
運搬者が誰だったとしても、階下の人物との接触を最優先する必要はないようだ。
(まず、さっき戦った場所まで戻ろう)
デイパックを背負い、窓を開け、ヒースロゥはそこから外へ出た。
壁面の凹凸や雨どいなどを利用して、軽業師のように地面まで降りる。
方位磁石と懐中電灯を取り出したところで、不意に彼は顔を上げた。
建物の中から、足で扉を蹴り開けるような音がする。
(気づかれたか!)
デイパックを背負い直し、風の騎士は逃走を開始した。
(いずれはどうにかせねばならない相手だろうが……)
事態は一刻を争うかもしれない。
同行者の安否を確認するまでは、他のことに時間を割く余裕などない。
(あれから、何がどうなった?)
起きあがり、周囲に視線を巡らせながら、彼は状況の把握を試みる。
(下に一人、誰かがいる。それも、とんでもなく怒っている奴が)
あと少しというところで獲物に逃げられた狩人――そんな印象の気配がある。
(何者かは知らないが、すぐ近くにいる生存者は奴だけだな)
それくらいのことは、彼になら判る。
(体に傷や後遺症はない。手元にデイパックはあるが武器は見当たらない)
気絶させられてから数十分が経過しており、海洋遊園地内らしき風景が窓の外にある。
(……あいつは無事か?)
ヒースロゥの脳裏を朱巳の顔がよぎる。
彼をここまで運んできたのが朱巳かどうかは判らない。
一階にいる人物は、どうも平和主義者ではなさそうだ。運搬者とは別人だろう。
おそらく運搬者は生きている。どうにかして階下の誰かから逃げ延びたらしい。
運搬者が誰だったとしても、階下の人物との接触を最優先する必要はないようだ。
(まず、さっき戦った場所まで戻ろう)
デイパックを背負い、窓を開け、ヒースロゥはそこから外へ出た。
壁面の凹凸や雨どいなどを利用して、軽業師のように地面まで降りる。
方位磁石と懐中電灯を取り出したところで、不意に彼は顔を上げた。
建物の中から、足で扉を蹴り開けるような音がする。
(気づかれたか!)
デイパックを背負い直し、風の騎士は逃走を開始した。
(いずれはどうにかせねばならない相手だろうが……)
事態は一刻を争うかもしれない。
同行者の安否を確認するまでは、他のことに時間を割く余裕などない。
 符術使いがいた場所の周辺に、大したものは残っていなかった。
走る速度を上げながら、ヒースロゥは安堵の息を吐く。
彼の手には、放置されたままだったので回収してきた鉄パイプが握られている。
(とりあえず戦闘の痕跡は増えていない。楽観はできないが悲観するほどでもない)
全力疾走しつつ、ヒースロゥは背後にも注意を払う。
追跡者はいない。
結局、先ほどの建物にいた何者かはヒースロゥを深追いしなかった。
ヒースロゥではなく、彼を運んできた誰かの方を捜すことにしたのだろう。
アトラクションの隙間を駆け抜けながらヒースロゥは考える。
(問題は、俺が気絶させられた後で何が起きたか、だな)
朱巳が上手く立ち回り、そのおかげで命の奪い合いにはならなかったようだ。
(まぁ、あいつのことだから、舌先三寸で敵を丸め込もうとしたに違いない)
あっさり諦めて逃げるような性格ではなかった、とヒースロゥは朱巳を評する。
(だが、あの符術使いが相手では、説得は難しいだろうな)
氷の冷たさを思わせる銀の双眸を、彼は思い出した。
(瀕死の敗残兵が衛生兵に安楽死をねだるときのような、そういう眼をした敵だった)
どうせならあなたの手で殺されたい――そういう感情の色が、敵の瞳にはあった。
(俺と再戦して殺されるために、あの敵が俺の仲間をさらっていったのかもしれない。
俺を怒らせようとして人質を傷つけるくらいのことは、やりかねないな)
ヒースロゥの命と引き換えに敵が朱巳の身柄を要求した場合、朱巳ならば抵抗せずに
あえて捕まり、「どこか人のいない場所で少し休憩した方がいいんじゃない?」とでも
言って、G-8だとかH-8だとかを行き先として推薦し、火乃香・ヘイズ・コミクロンの
三人組がいるはずの地域まで敵を誘導する程度のことは、笑いながらやるだろう。
(E-3を通り抜け、半島方面へ向かうか)
仲間と合流するために、風の騎士は一心不乱に走っていく。
走る速度を上げながら、ヒースロゥは安堵の息を吐く。
彼の手には、放置されたままだったので回収してきた鉄パイプが握られている。
(とりあえず戦闘の痕跡は増えていない。楽観はできないが悲観するほどでもない)
全力疾走しつつ、ヒースロゥは背後にも注意を払う。
追跡者はいない。
結局、先ほどの建物にいた何者かはヒースロゥを深追いしなかった。
ヒースロゥではなく、彼を運んできた誰かの方を捜すことにしたのだろう。
アトラクションの隙間を駆け抜けながらヒースロゥは考える。
(問題は、俺が気絶させられた後で何が起きたか、だな)
朱巳が上手く立ち回り、そのおかげで命の奪い合いにはならなかったようだ。
(まぁ、あいつのことだから、舌先三寸で敵を丸め込もうとしたに違いない)
あっさり諦めて逃げるような性格ではなかった、とヒースロゥは朱巳を評する。
(だが、あの符術使いが相手では、説得は難しいだろうな)
氷の冷たさを思わせる銀の双眸を、彼は思い出した。
(瀕死の敗残兵が衛生兵に安楽死をねだるときのような、そういう眼をした敵だった)
どうせならあなたの手で殺されたい――そういう感情の色が、敵の瞳にはあった。
(俺と再戦して殺されるために、あの敵が俺の仲間をさらっていったのかもしれない。
俺を怒らせようとして人質を傷つけるくらいのことは、やりかねないな)
ヒースロゥの命と引き換えに敵が朱巳の身柄を要求した場合、朱巳ならば抵抗せずに
あえて捕まり、「どこか人のいない場所で少し休憩した方がいいんじゃない?」とでも
言って、G-8だとかH-8だとかを行き先として推薦し、火乃香・ヘイズ・コミクロンの
三人組がいるはずの地域まで敵を誘導する程度のことは、笑いながらやるだろう。
(E-3を通り抜け、半島方面へ向かうか)
仲間と合流するために、風の騎士は一心不乱に走っていく。
 しばしの時間を移動に費やし、G-8の櫓にヒースロゥは到達した。
未だに朱巳や符術使いの姿は見つけられず、三人組とさえ再会できていないままだ。
(……三人組が残していくと言っていたメモすら、一枚も発見できなかったな)
移動する途中で、彼の様子を探るような視線が向けられたことならあったが、殺意や
戦意を向けてくるような手合いは進路上にいなかった。
海洋遊園地を出発してから、彼は誰とも会話していないし、誰とも戦っていない。
(もう少し念入りに、この付近を調べておくべきか? それとも……)
刻一刻と増していく焦燥感を必死に抑えつけながら、風の騎士は歯噛みする。
未だに朱巳や符術使いの姿は見つけられず、三人組とさえ再会できていないままだ。
(……三人組が残していくと言っていたメモすら、一枚も発見できなかったな)
移動する途中で、彼の様子を探るような視線が向けられたことならあったが、殺意や
戦意を向けてくるような手合いは進路上にいなかった。
海洋遊園地を出発してから、彼は誰とも会話していないし、誰とも戦っていない。
(もう少し念入りに、この付近を調べておくべきか? それとも……)
刻一刻と増していく焦燥感を必死に抑えつけながら、風の騎士は歯噛みする。
【G-8/櫓/1日目・21:10頃】
【ヒースロゥ・クリストフ】
[状態]:精神的な余裕を失いつつある/体が濡れている
[装備]:鉄パイプ/懐中電灯
[道具]:懐中電灯以外の支給品一式(パン5食分・水1500ml)
[思考]:朱巳・ED・エンブリオ・パイフウ・BBの捜索
/殺人者を討つ/刻印の情報を集める
/火乃香・ヘイズ・コミクロンのメモを発見できなかった理由が気になる
[備考]:朱巳の支給品が何なのか知りません。
【ヒースロゥ・クリストフ】
[状態]:精神的な余裕を失いつつある/体が濡れている
[装備]:鉄パイプ/懐中電灯
[道具]:懐中電灯以外の支給品一式(パン5食分・水1500ml)
[思考]:朱巳・ED・エンブリオ・パイフウ・BBの捜索
/殺人者を討つ/刻印の情報を集める
/火乃香・ヘイズ・コミクロンのメモを発見できなかった理由が気になる
[備考]:朱巳の支給品が何なのか知りません。
【E-1/海洋遊園地/1日目・19:00頃】
【李淑芳】
[状態]:精神的におかしくなりつつあるが、今のところ理性を失ってはいない
[装備]:懐中電灯/呪符(5枚)
[道具]:懐中電灯以外の支給品一式(パン4食分・水800ml)
[思考]:殺人者を演じ、戦いを通じて団結者たちを成長させ、アマワを討たせる
/役立ちそうな情報を書き記す/北側の出入口から海洋遊園地の外へ出る
/どこかに隠れて呪符を作る
[備考]:第二回放送をまったく聞いておらず、第三回放送を途中から憶えていません。
『神の叡智』を得ています。服がカイルロッドの血で染まっています。
夢の中でアマワと会話しましたが、契約者になってはいません。
『君は仲間を失っていく』と言って、アマワが未来を約束しています。
【李淑芳】
[状態]:精神的におかしくなりつつあるが、今のところ理性を失ってはいない
[装備]:懐中電灯/呪符(5枚)
[道具]:懐中電灯以外の支給品一式(パン4食分・水800ml)
[思考]:殺人者を演じ、戦いを通じて団結者たちを成長させ、アマワを討たせる
/役立ちそうな情報を書き記す/北側の出入口から海洋遊園地の外へ出る
/どこかに隠れて呪符を作る
[備考]:第二回放送をまったく聞いておらず、第三回放送を途中から憶えていません。
『神の叡智』を得ています。服がカイルロッドの血で染まっています。
夢の中でアマワと会話しましたが、契約者になってはいません。
『君は仲間を失っていく』と言って、アマワが未来を約束しています。
※淑芳がこの後どう行動するかは既出の話によって確定しています。
【F-1/海洋遊園地内レストラン一階厨房/1日目・19:40頃】
【クレア・スタンフィールド】
[状態]:健康/濡れ鼠/激しい怒り
[装備]:大型ハンティングナイフx2/シャーネの遺体(横抱きにしている)
[道具]:支給品一式(パン6食分・水2000ml)、コミクロンが残したメモ
[思考]:この世界のすべてを破壊し尽くす/朱巳を追う
/“ホノカ”と“CD”に対する復讐(似た名称は誤認する可能性あり)
/シャーネの遺体が朽ちる前に元の世界に帰る
[備考]:コミクロンが残したメモを、シャーネが書いたものと考えています。
【クレア・スタンフィールド】
[状態]:健康/濡れ鼠/激しい怒り
[装備]:大型ハンティングナイフx2/シャーネの遺体(横抱きにしている)
[道具]:支給品一式(パン6食分・水2000ml)、コミクロンが残したメモ
[思考]:この世界のすべてを破壊し尽くす/朱巳を追う
/“ホノカ”と“CD”に対する復讐(似た名称は誤認する可能性あり)
/シャーネの遺体が朽ちる前に元の世界に帰る
[備考]:コミクロンが残したメモを、シャーネが書いたものと考えています。
※クレアがこの後どう行動するかは既出の話によって確定しています。
【F-1/海洋遊園地内レストラン地下/1日目・19:40頃】
【九連内朱巳】
[状態]:左手全体を粉砕骨折(治療不可)
[装備]:サバイバルナイフ/鋏/トランプ
[道具]:支給品一式(パン4食分・水1300ml)/トランプ以外のパーティーゲーム一式
/缶詰3個/針/糸/刻印解除構成式の書かれたメモ数枚
[思考]:クレアから逃げる/クレアと火乃香の関係を考える/ヒースロゥをどうにかして起こしたいが……
/パーティーゲームのはったりネタを考える/いざという時のためにナイフを隠す
/エンブリオ・ED・パイフウ・BBの捜索/刻印の情報を集める
/ゲームからの脱出/メモをエサに他集団から情報を得る
[備考]:パーティーゲーム一式→トランプ・10面ダイス2個・20面ダイス2個・ドンジャラ他。
もらったメモだけでは刻印解除には程遠い。
【九連内朱巳】
[状態]:左手全体を粉砕骨折(治療不可)
[装備]:サバイバルナイフ/鋏/トランプ
[道具]:支給品一式(パン4食分・水1300ml)/トランプ以外のパーティーゲーム一式
/缶詰3個/針/糸/刻印解除構成式の書かれたメモ数枚
[思考]:クレアから逃げる/クレアと火乃香の関係を考える/ヒースロゥをどうにかして起こしたいが……
/パーティーゲームのはったりネタを考える/いざという時のためにナイフを隠す
/エンブリオ・ED・パイフウ・BBの捜索/刻印の情報を集める
/ゲームからの脱出/メモをエサに他集団から情報を得る
[備考]:パーティーゲーム一式→トランプ・10面ダイス2個・20面ダイス2個・ドンジャラ他。
もらったメモだけでは刻印解除には程遠い。
| ←BACK | 目次へ(詳細版) | NEXT→ | 
| 第558話 | 第559話 | 第560話 | 
| 第527話 | 時系列順 | 第533話 | 
| 第528話 | クレア | 第540話 | 
| 第528話 | ヒース | 第575話 | 
