エウレカ・ゴールドクラウン

冒険者編集中……

「ようキスケさん、久しぶりに来たぜ。変わってないな、あんたも、この店も、店内も。新しい冒険者は育ってるか? …そうか、期待できそうだな。じゃ、角のテーブルに座ってるから、酒を2つお願いするぜ。片方はルーンフォーク向けのものを。」
「何かあったら呼んでくれ、しばらくこの街に居る予定だ……え、俺にお客さん?何の用なんだ?冒険の話を聞きたい?なるほど……」
───冒険者の店、エピックシーカーにて

俺の家へようこそ。ゆっくりしていってくれ。



 キルヒア神官様が話を聞きに俺を訪ねてくるようになるなんてな。ああ、その椅子に座ってくれ。準備はできているんだ。


 それはエルの淹れてくれた紅茶だ。たぶん大丈夫。


 一応自己紹介しようか。俺はエウレカ・ゴールドクラウン。シャドウの冒険者だ。メイン武器はフレイルで、近接戦闘を主に担当してる。出身はユーレリアのエーファー王国で、冒険者になる前はそこで暮らしていたんだ。綺麗な街なんだぜ。

 向こうにいるのはエルクィヌス。色々あって今は一緒にいることになった。詳しいことは本人から聞くといい。



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 まず、俺がフェンディルまで来た理由を話そう。

 そうだな、俺は「自由」が欲しかったんだ。戦える技術を磨いて、冒険に出て、成果を得る。人助けにもなる。そういうのに憧れていてな。故郷じゃ結構めんどくさい生活だったんだぜ?やれ会食だのやれ舞踏会だのやれ許嫁だの、そんな感じのアレだ。今は連接棍を意気揚々と振り回してる一冒険者がだ。信じられるか?あ、なんでもないぞエル。その杖をしまってくれ。
 今はそういうことの重要性も理解できる。あの生活に戻るつもりは無いけどな!




 エル、そこの棚に置いてある紙束を取ってくれ。(数枚ずつに仕分けられた紙が机に広げられる)そういえばお前にも最初の頃の話はしてなかったな、彼女と一緒に聞いていてくれ。


 (咳払いの音)
 さて、本題だ。今までの冒険の話をしよう。
 これはユリスカロア神殿の長がまとめてくれた資料なんだ。名前はあんたも聞いたことあるだろ?話す内容以外にも色々依頼はやってきたけど主要なものだけ話そうか。


 まずは…そうだな。今でも付き合いのある連中とエピックシーカーで組んだときの話からか。
 駆け出し冒険者に回ってくることの多いコボルド退治が、俺の冒険者としての始まりだ。あのときはキールとミシェルとルナだったかな。コボルド退治に行って…ミシェルのやつが、コボルドリーダー含めて全員わからせていた記憶がある。ミアキスの身体能力ってのはすごいもんだな。惚れ惚れしたぜ。
 そこでアルフォンスっていう貴族の娘ちゃんを助けたのが、俺達に後々大きな影響をもたらすことになったんだ。

 2つ目はブラグザバスの神官が起こした土地枯らし騒動だな。村の人達にとってみればあれは相当な災難だったんじゃないか?確かキールとミシェルと……あー、あいつの名前は伏せておこう。後世のためにならないだろうからな。気になるんだったらそっちで調べてみると良い。すぐ見つかるはずだ。今は(D)と呼ぼう。
 悪の神官は苦戦したけどなんとかぶっ倒せた。あいつらは何がしたくてあんな悪いことをするんだろうな?

 3つ目は森林調査とお花摘みだな。そのままの意味だぞ?花摘みの方はメイっていうこれも貴族の娘ちゃんからの直々の依頼ってことで、名を上げるチャンスだったな。受けたのは俺とキールとルナと(D)だ。
 森じゃ不思議なことが起きたり樹林の番兵ってのを倒したりしたな。自然環境での立ち回りの重要性は身に染みたぜ。
 帰ってきてからも娘ちゃんが襲撃にあったんだけど、俺達がしっかり守ってやったさ。これが冒険者だ!って感じでな。メイとアルが仲良くしてるってのはその時知ったな。

 後は……(D)が冒険者を辞めたな。なんでも品物の無理な発注をかけて借金背負ったとか。


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 これ以降は少し真面目な話になるけど、リラックスしながら聞いていてくれ。終わった話だ。全部。


 4つ目は、蛮族共から村を守る依頼だったな。他の冒険者の手伝いってのとゴブリン程度って話だったから気楽に行ったが、想定よりも大きな軍勢だったから苦労したぜ。しばらくゴブリン共の顔は見たくなかったな。
 あのときは妙に明るくなった(D)にも会ったな。黒い粉を渡してきたんだが、これは公の情報だろう。例の『火薬』だ。あんたもキルヒア神殿で聞いてるだろ?その粉がどれだけフェンディルを陥れるか、受け取ったときにわかっていればな……。もちろん使わずに廃棄したさ。効果のわからない危険な薬品を使う馬鹿がいるか?

 5つめは、魔物退治だな。ある村の畑を荒らす魔物を退治してくれって依頼だった。……ただ、その畑で栽培されていたのは火薬の原料だった。で、その畑の管理者が『花を摘む者』、襲撃を指示していたのが王国側についていた蛮族って話さ。どうだ?理解できるか?
 結局は襲撃される前に何者かによって村に火が放たれたせいで、村も畑も全部燃えちまったんだ。襲撃の目的を失って見境なくなったオーガは俺達が片付けた。
 その頃からこの国は混沌としつつあったようだな。冒険者の依頼にも妙なのが増えてきていた気がする。


 6つめは……(ガサガサ)あれ?ないな……(ガサガサ)

 ああ!そうだ、あの頃から依頼がキツくなってきたんだ。だからメンバーの増員を計画してて……それで各自の知り合いを呼びつつ、メイの嬢ちゃんのバースデーパーティーに参加したんだ。
 俺はここの出身じゃないからそういうやつがあんまいなくてな。困ってたんだけど、そのときにユーレリアにいるはずの旧友が訪ねてきたんだ。この辺で俺が必要になるとか意味分かんないこといってたけど…傭兵の勘は当たるもんだな。そんなこんなでそいつにもメンバー入りしてもらったんだ。

 7つめは、火薬絡みの依頼だった気がする。あの頃は同じような依頼を片付けていたから詳細は覚えてないんだ。ギルドかどこかの記録媒体を参照してくれれば、どれだけ厄介だったかわかるさ。


 8つめは、ディルクールの人々にも被害が出た事件の時のやつだな。俺達はその事件の前に、『グリム・アビスハート』っていう火薬で違法行為を働いていたやつを〆るために都の外へ出ていたんだ。メイ嬢ちゃんのところからの直々の依頼だった。アビスハート家に恩があるから、代わりに実働部隊として冒険者にやって欲しかったんだとさ。
 アビスハート当主はなんなく片付くはずだったんだが、そいつが最後の抵抗で火薬を持ち出してな。自身へ過剰投与して魔物化しやがったんだ。あのときは目を疑ったな。こんなものが流通していたのかって。
 で、〆た後にディルクールで緊急事態が起きてるって知らせが届いたんだ。急いで帰ってきてみれば、街は魔物化した人、人、人。軍と冒険者たちが対応していたけど、どうすればいいかわからずに躊躇していたのは鮮明に覚えている。

 俺達は事情を聞くためにメイとアルのところへ向かったんだ。メイはすぐにみつけて保護できた。

 そしてアルフォンスを探して瓦礫の山を巡っていたんだが……。





 なあ、神官さん。【デーモンルーラー】って技能を知ってるか?習得すれば魔神を使役したり自身に投影したりできるようになるやつだ。魔神を呼び出すために穢れのない贄が必要になることもある。






 そこには、【贄になったアルフォンス】と【デーモンルーラーになった(D)、ドール・ビュール】がいた。
 アルからは魂が消えていた。そこにあったのは抜け殻になった体だけだった。

 俺にはかつての戦友がそこにいるとは信じられなかった。こんなことをするやつだとは思っていなかったんだ。
 問いただす前にドールはアルを抱えてさっさと消えやがった。呼び出した魔神だけを残してな。

 魔神の討伐は問題なかった。仲間も頑張ってくれた。あのとき問題だったのは街の惨状、火薬の処理、そしてメイだ。どうやら彼女はアルととても親しい間柄だったようなんだ。キールが落ち着かせていなかったら……ひとつやることが増えていたかもしれない。そんな状況だった。

 その後は人々の救助と街の修復にしばらく追われていた気がする。あまり思い出したくない一件だ。




 長く聞いてるのも疲れるだろうし、一度休憩しようか。まだまだ冒険譚は続くぜ。



 ああ、その菓子はモスルクが持ってきてくれたやつだな。あいつめっちゃ頭いいから何か必要な情報があったら訪ねてみるといい。エピックシーカーにも定期的に顔を出しているはずだ。




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 さて、そろそろいいか?


 次は……あー、ミシェルが誘拐されたやつか。本当は笑い話にしてもいいんだが、本人に悪いから普通に話そうか。
 あいつを花嫁にするってことで監禁したアホがいたんだが、そいつの屋敷からさくっと連れ出してきただけだな。まぁ、たいした話じゃない。


 その後にあったのが、霧と共に人が消える事件だな。これは俺の友人が戦ってきたのを聞いただけなんだが、魔神とドールの仕業だったらしい。クソみたいなやつだ、ほんと……


 街で魔神の苗床を片付けた話もしておこうか。守りの剣に保管されていた剣のかけらを、ドールが大量に盗んでいった時と同じ時の話になる。その頃のディルクールはかなり不安定な時期だった。町の人達もかなり精神をやられていたかな。はっきりいってキツイ状況だった。
 そこで持ち込まれた依頼が「街のどこかに魔神の苗床がいるから、見つけ出して片付けて欲しい」ってんだ。王都にそんなものがいたら国が終わる。ロゼッタとサブリナ、エルにも声をかけて急いで調査に出たさ。
 やつらは確か、軍の兵舎とスラムにいたんだ。まだひどい状況にはなっていなかったが、場所がヤバかった。だから全力で対処にあたって、どうにか片付けることは出来た。

 さっきも言ったが、その時の混乱に乗じてドールが剣のかけらを盗んでいった。守りの剣の本数には影響なかったが、街の警備にかなり人員を割く必要が出ていたみたいだな。地方の防備も軍の管轄であることを考えると相当苦労してたと思うぜ。




 (紙をめくる)
 …この話は、するべきか?エル、どうする?  ……そうか、お前がそう言うならそうしよう。


 神官さん、俺は今から少し突飛な話をするが、これはただの独り言だ。記録を続けててもいいし、何も聞かなかったことにしてくれてもいい。そういう話だ。






 俺達は未来の世界に行ってきたことがある。






 まぁ、単純な話だ。未来の世界であの戦争がどうなって終結するのかを見てきたのさ。ちょいと”お呼ばれ”してね。

 灰の世界だったよ。国も街もなんもかんもが死んでいた。絶望を体現したかのような状態だった。

 ただ、アルとメイは生きていた。俺達に、あの未来を回避する力を授けるために待っていたんだ。
 彼女たちとは約束をした。「違う未来で会おう」ってな。

 そうして力を受け取った後この世界に戻ってきた俺達は、ドールを討つという使命の重さを感じることになる。












最終更新:2020年03月22日 00:37