――3日後、サムクァイエットの街からコルダミアの街を通る街道を東ユーラシア共和国軍の補給部隊が通過する。
その情報がリヴァイブの元に届けられてすぐ仮面のリーダー、ロマ=ギリアムはリヴァイブ基地のブリーフィングルームに主なメンバーを集めた。
シンやコニール、大尉達だけでなくサイやセンセイ、他にも幾人もの男達の姿が見える。
全員が注視する中、ロマは今回のの情報と自らの方針を示した。
敵の補給線を断つ事は戦略的にメリットが大きい、だから今回敵の補給部隊を叩く、と。
シンやコニール、大尉達だけでなくサイやセンセイ、他にも幾人もの男達の姿が見える。
全員が注視する中、ロマは今回のの情報と自らの方針を示した。
敵の補給線を断つ事は戦略的にメリットが大きい、だから今回敵の補給部隊を叩く、と。
「でもよお……リーダー」
するとそれまでテーブルに頬杖をついて退屈そうにロマの話を聞いていた一人の男が、おもむろに手を上げる。
ラフな金髪に赤いメッシュをした軽薄そうな男。
少尉だ。
一見やる気のなさそうな雰囲気だが、少尉はロマの提案に明確な疑問を差し挟んできた。
ラフな金髪に赤いメッシュをした軽薄そうな男。
少尉だ。
一見やる気のなさそうな雰囲気だが、少尉はロマの提案に明確な疑問を差し挟んできた。
「どうにも敵が動きがあからさま過ぎないか?こうも露骨だと、俺には何か裏があるようにしか思えねえ」
「確かにそれはもっともな疑問だと僕も思う。先日の件もあるしね」
「確かにそれはもっともな疑問だと僕も思う。先日の件もあるしね」
先日の件とは、ソラを帰国させるための交渉が実は軍の罠だったという一件だ。
幸いシンの活躍で軍を逆に撃退したものの、確かに罠に嵌った事には変わりない。
当のロマとて危うく命を落とすところだったのだ。
幸いシンの活躍で軍を逆に撃退したものの、確かに罠に嵌った事には変わりない。
当のロマとて危うく命を落とすところだったのだ。
「なら今回は見送るべきかもしれませんね。軍も今度は備えをしっかりしてくるでしょうし、あえて危険を冒す必要があるかと言えば疑問ですから」
少尉の隣で腕を組み静かにロマの話を聞いていた中尉も、落ち着いた口調で異を唱える。
”動”の少尉に、”静”の中尉。
印象の全く正反対の二人だが、いわんとする意見は同じだった。
ところがそんな二人にそばに座るシンは威勢よく言い放つ。
”動”の少尉に、”静”の中尉。
印象の全く正反対の二人だが、いわんとする意見は同じだった。
ところがそんな二人にそばに座るシンは威勢よく言い放つ。
「いいじゃないか、罠でも。逆に噛み破ればいいだけだ」
「オイオイ、シン!オマエな、そう気安く言うが、この間が上手く行ったからといって今度も上手く行くとは限らねえんだぞ!?」
「危険は承知さ。だがこのまま敵の罠の影に怯え続けるなんざ、俺はまっぴらゴメンだね」
「なんだぁ?俺がビビってるとでも言いたいのか?」
「さあね」
「テメエ……」
「オイオイ、シン!オマエな、そう気安く言うが、この間が上手く行ったからといって今度も上手く行くとは限らねえんだぞ!?」
「危険は承知さ。だがこのまま敵の罠の影に怯え続けるなんざ、俺はまっぴらゴメンだね」
「なんだぁ?俺がビビってるとでも言いたいのか?」
「さあね」
「テメエ……」
シンの挑発に少尉の眉間が歪み、二人の間で視線が鋭く交錯する。
一触即発。嫌な感じ。
ところが周囲は特に驚くわけでもなく、何故かニヤニヤと二人の行く末を見守っている。
一触即発。嫌な感じ。
ところが周囲は特に驚くわけでもなく、何故かニヤニヤと二人の行く末を見守っている。
「ちょっと、アンタ達!今は作戦会議中よ、下らないケンカは後にしてよ」
「……わーったよ」
「チッ」
「……わーったよ」
「チッ」
コニールに水を差さされた二人は、再びロマの方に向きなおす。
「大尉はどう思う?」
ロマはそばに立つ咥え煙草をした大柄な黒人男性――大尉に話を向ける。
大尉は一口目の煙を吐き出すと、重く静かに自分の見解をリーダーに述べた。
大尉は一口目の煙を吐き出すと、重く静かに自分の見解をリーダーに述べた。
「……確かに俺も少尉と同意見です。ですがそれでも俺は今回は敵の襲撃に踏み切るべきだと考えています」
ブリーフィングルーム内が一瞬ざわめき立つ。
しかし大尉は一顧だにせず続ける。
しかし大尉は一顧だにせず続ける。
「確かに軍はソラさんの一件で俺達を罠に嵌めました。そして今回のあからさまな補給作戦。素人目に見ても誰だって罠だと考えるでしょう。しかしそこが落とし穴です」
「というと?」
「これは軍と俺達の心理戦でもあるんです。つまり敵の狙いは、あえて目立つように動く事で俺達を疑心暗鬼にさせ、今後の行動を制限する事にあると俺は睨んでいます。敵が動くたびに罠だと疑えば、俺達は満足に身動きが取れなくなるし、今後の作戦に支障が出るでしょう。しかも仮に罠にかかれば、そこで俺達を討ち取ればいい。そこが軍の狙いだというわけです」
「なるほど」
「というと?」
「これは軍と俺達の心理戦でもあるんです。つまり敵の狙いは、あえて目立つように動く事で俺達を疑心暗鬼にさせ、今後の行動を制限する事にあると俺は睨んでいます。敵が動くたびに罠だと疑えば、俺達は満足に身動きが取れなくなるし、今後の作戦に支障が出るでしょう。しかも仮に罠にかかれば、そこで俺達を討ち取ればいい。そこが軍の狙いだというわけです」
「なるほど」
仮面のリーダーは静かに頷いた。
「つまり軍にとってはどっちに転んでも自分達の手のひらの中、という訳ですね」
「そういう事だ、中尉。だからこそそれを打ち破る価値がある。罠を仕掛けておきながら逆に返り討ちに会えば、今度は軍が手詰まりになる。今後の主導権を俺達が握る事になるんだ」
「……なるほど、確かにその意味では重要な一戦かもしれません」
「そういう事だ、中尉。だからこそそれを打ち破る価値がある。罠を仕掛けておきながら逆に返り討ちに会えば、今度は軍が手詰まりになる。今後の主導権を俺達が握る事になるんだ」
「……なるほど、確かにその意味では重要な一戦かもしれません」
上官の言葉に中尉も納得する。
そして大尉はブリーフィングルームに集まった全員に呼びかけた。
そして大尉はブリーフィングルームに集まった全員に呼びかけた。
「俺はあえて敵の策に乗ってみようと思う。その上で打ち破る。皆、どうだ?」
「大尉がそこまで言うなら異存無しですよ。奴等のいいようにされるのは、俺も癪に障りますから」
「大尉がそこまで言うなら異存無しですよ。奴等のいいようにされるのは、俺も癪に障りますから」
少尉が声を上げる。
それに続いて他の男達からも「いいぞ、一戦やってやろう」「おーし、奴らを返り討ちにしてやろうぜ!」等と同意する声が次々に続いた。
それに続いて他の男達からも「いいぞ、一戦やってやろう」「おーし、奴らを返り討ちにしてやろうぜ!」等と同意する声が次々に続いた。
「……よし」
作戦決定だ。
大尉はロマに向かって無言で頷く。
ロマも同じ様に返し、現在入っている軍の情報をコニールに確認する。
大尉はロマに向かって無言で頷く。
ロマも同じ様に返し、現在入っている軍の情報をコニールに確認する。
「コニール。サムクァイエット基地に新たな動きはあったかい?」
手元の資料をパラパラとめくりながら、コニールはロマに説明する。
「協力員の定時連絡によると、今のところ変わった動きはないようね。定時訓練、午前と午後の定期便もいつも通り。今回の作戦のために新たな増援や装備を導入したという情報も今のところないわ」
「コルダミアは?」
「同じ。駐留部隊、現地警察ともに目立った動きは見られないわね」
「そうか……。では今回の敵の行動が罠だという前提で作戦を組む。出動は3日後。敵の補給部隊と併せて増援部隊を一気に叩く!皆、いいね?」
「「「「おう!!」」」」
「コルダミアは?」
「同じ。駐留部隊、現地警察ともに目立った動きは見られないわね」
「そうか……。では今回の敵の行動が罠だという前提で作戦を組む。出動は3日後。敵の補給部隊と併せて増援部隊を一気に叩く!皆、いいね?」
「「「「おう!!」」」」
リーダーの声に男達は威勢よく立ち上がり各自持ち場に戻る……はずだったのだが――。
ところが今日はまだ続きがあった。
ところが今日はまだ続きがあった。
「コニール」
「?」
「?」
不意にシンがコニールに向かって何かを投げ渡す。
シンが腕に嵌めていたAIレイだ。
シンが腕に嵌めていたAIレイだ。
《始まるぞ》
聞きなれた電子音声。
それがゴングとなった。
それがゴングとなった。
バキッ!!
鈍い打撃音が重なって響く。
両者同時に顔面への一撃。
ブリーフィングルームのど真ん中で、たちまちシンと少尉の殴り合いが始まった。
両者同時に顔面への一撃。
ブリーフィングルームのど真ん中で、たちまちシンと少尉の殴り合いが始まった。
「あーあ、終わった途端これだわ」
はぁっとコニールはため息をつく。
リヴァイブ名物『シンと少尉の一本勝負』。
この二人が衝突すると拳と拳のド突き合いになるのが、いつものパターン。
メンバーにとってはもはや見慣れた光景だ。
しかしそうは分かっていてもコニールは頭を抱えてしまう。
そんな彼女をAIレイがよく分からない慰めをする。
リヴァイブ名物『シンと少尉の一本勝負』。
この二人が衝突すると拳と拳のド突き合いになるのが、いつものパターン。
メンバーにとってはもはや見慣れた光景だ。
しかしそうは分かっていてもコニールは頭を抱えてしまう。
そんな彼女をAIレイがよく分からない慰めをする。
《気にしたら負けだ。俺は気にしない》
一方、呆れるコニールを他所に周りの男達は盛り上がるばかりだ。
「おい、どっちに賭ける?」
「少尉に200」
「俺も少尉に100!」
「アーガイル整備班長はどうします?」
「そうだなあ。僕はシンに200って所かな」
「少尉に200」
「俺も少尉に100!」
「アーガイル整備班長はどうします?」
「そうだなあ。僕はシンに200って所かな」
するとサイの横から幼い声。
「俺、俺も!シンに50!」
「シゲト……。お前いつの間にここに潜り込んだんだ」
「ヘヘっ」
「シゲト……。お前いつの間にここに潜り込んだんだ」
「ヘヘっ」
少年はバツが悪そうに、ペロっと舌を出した。
二人の喧嘩を肴に、賭けに興じて盛り上がるのはロマ達も同じ。
二人の喧嘩を肴に、賭けに興じて盛り上がるのはロマ達も同じ。
「確か今までの戦歴は15勝13敗4分けで、少尉が勝ち越してるんじゃなかったか?」
「ええ、そうです。大尉」
「……なら、俺は少尉に1000だ」
「大尉と同じく、僕も少尉に2000賭けるよ」
「……では、私はシンに4000です」
「おお~。大きく出たな中尉。あとで後悔しても知らんぞ」
「溜まってた僕の中尉への貸しが、やっと減らせるねえ」
「さて……、それはどうだか分かりませんよ、リーダー」
「ええ、そうです。大尉」
「……なら、俺は少尉に1000だ」
「大尉と同じく、僕も少尉に2000賭けるよ」
「……では、私はシンに4000です」
「おお~。大きく出たな中尉。あとで後悔しても知らんぞ」
「溜まってた僕の中尉への貸しが、やっと減らせるねえ」
「さて……、それはどうだか分かりませんよ、リーダー」
ドタバタ騒ぎに野卑な声援を送る男達。
毎度の事とはいえコニールはすっかり呆れかえってしまう。
毎度の事とはいえコニールはすっかり呆れかえってしまう。
「ったく毎度の事だけどさあ……。どうしてこうウチの男共はバカばっかなのかしら」
一人愚痴る彼女に黙って見守っていたセンセイが声をかける。
「いいじゃない。恒例行事だと思えば何て事はないわよ」
「でも、センセイ。大怪我でもしたらどうするんですか!?出動に差し支えますよ」
「大丈夫よ、コニール。その辺の加減はあの二人も十分分かってるから。それにね、私はこう思うの。こんな穴倉の中で溜め込んでるよりは、こうして発散した方がよほど健全だってね。まあ青春の殴りあいってところかしら」
「でも、センセイ。大怪我でもしたらどうするんですか!?出動に差し支えますよ」
「大丈夫よ、コニール。その辺の加減はあの二人も十分分かってるから。それにね、私はこう思うの。こんな穴倉の中で溜め込んでるよりは、こうして発散した方がよほど健全だってね。まあ青春の殴りあいってところかしら」
微笑むセンセイにコニールはどうにも浮かない顔を見せる。
今ひとつ納得できないのだろう。
今ひとつ納得できないのだろう。
「う~ん、そんなもんですかねえ?」
「そんなものよ。じゃあ、私は消毒液と絆創膏の準備でもして医務室で二人を待ってるわ。頃合を見て、適当なところで切り上げなさいって二人に言ってあげてね」
「はあい」
「そんなものよ。じゃあ、私は消毒液と絆創膏の準備でもして医務室で二人を待ってるわ。頃合を見て、適当なところで切り上げなさいって二人に言ってあげてね」
「はあい」
ブリーフィングルームを去っていく白衣の女性を見送ると、コニールはシン達の喧嘩に威勢のいい声援を送る男達の背に向かって、小さく呟いた。
「……ホント、ウチの男共はバカばっかなんだから」
――三日後。
三機のシグナスの後をダストがついていく。
モビルスーツが歩く度に重低音が大地に響いた。
シンと大尉達はそれぞれのモビルスーツを駆り、予定移動ポイントに急いでいた。
目指すポイントは、サムクワァイエットの街とコルダミアの街を結ぶ二本の街道と等距離に位置する、ちょうど中間地点にあたる場所だ。
この二つの街を結ぶ街道は二本あり一方は直線路、一方は蛇行した迂回路になってる。
しかしこの二つのルートのうち、どちらのルートを補給部隊が通るのかまでは分からなかったので、中間地点で待機する事になったのである。
敵、補給部隊を発見のために、先に出発したコニール率いる歩兵部隊は二つに分かれた。
直線路をAルート、迂回路をBルートとし、それぞれ足止め用の罠を仕掛けてる手筈になっている。
移動ルートを特定し次第、罠で敵部隊の足を止め、大尉達のモビルスーツ隊が来るまでの時間を稼ぐのだ。
もちろんこれには敵の企みを暴露する、という目的もあった。
モビルスーツが歩く度に重低音が大地に響いた。
シンと大尉達はそれぞれのモビルスーツを駆り、予定移動ポイントに急いでいた。
目指すポイントは、サムクワァイエットの街とコルダミアの街を結ぶ二本の街道と等距離に位置する、ちょうど中間地点にあたる場所だ。
この二つの街を結ぶ街道は二本あり一方は直線路、一方は蛇行した迂回路になってる。
しかしこの二つのルートのうち、どちらのルートを補給部隊が通るのかまでは分からなかったので、中間地点で待機する事になったのである。
敵、補給部隊を発見のために、先に出発したコニール率いる歩兵部隊は二つに分かれた。
直線路をAルート、迂回路をBルートとし、それぞれ足止め用の罠を仕掛けてる手筈になっている。
移動ルートを特定し次第、罠で敵部隊の足を止め、大尉達のモビルスーツ隊が来るまでの時間を稼ぐのだ。
もちろんこれには敵の企みを暴露する、という目的もあった。
《目的地まであと16分。現地ポイントに到着後、各機合図が来るまでそのまま待機だ。いいな》
大尉の指示が通信器から飛ぶ。
補給部隊のルートが特定出来ない以上、連絡が来るまでモビルスーツは無闇に動くべきでは無い。
それ故にシン達は敵部隊に関知されない位のポイントで隠れ、歩兵部隊の指示を待つのだ。
ダストを自動操縦に任せ、シンはモニタに映る様々なデータを確認していく。
不意にレイがシンに話しかける。
補給部隊のルートが特定出来ない以上、連絡が来るまでモビルスーツは無闇に動くべきでは無い。
それ故にシン達は敵部隊に関知されない位のポイントで隠れ、歩兵部隊の指示を待つのだ。
ダストを自動操縦に任せ、シンはモニタに映る様々なデータを確認していく。
不意にレイがシンに話しかける。
《シン、分かっていると思うが………》
「無茶するなってんだろ。わかってるよ」
「無茶するなってんだろ。わかってるよ」
シンの声に怖れはない。
誰が相手であれ敵ならば何時かは殺り合う相手。
ただそれだけの事。
誰が相手であれ敵ならば何時かは殺り合う相手。
ただそれだけの事。
《ならいい。油断さえしなければ負ける事もないだろう》
「何だよ、戦術的なアドバイスは無しか?」
「何だよ、戦術的なアドバイスは無しか?」
そんな会話に、突然大尉が割り込んでくる。
《俺が戦術考えるんじゃ不満か?ええおい》
《戦争慣れ、という意味でなら我々は君よりも上だよ。シン》
《前回はあっちからの奇襲だったからな。こっちから売る喧嘩なら任せとけ。テメーに喧嘩の売り方を教えてやるよ》
《戦争慣れ、という意味でなら我々は君よりも上だよ。シン》
《前回はあっちからの奇襲だったからな。こっちから売る喧嘩なら任せとけ。テメーに喧嘩の売り方を教えてやるよ》
中尉、少尉も次々に会話に参加する。シンは呆れたように呟いた。
「どいつもこいつも戦争大好き連中だな……」
不意に妹――マユの事を思い出す。マユは今の俺を見て、どう思うのだろうか、と。
(……軽蔑されるに決まってるじゃないか)
どう考えてもそうだろう。
マユは、戦争などと無縁な存在だった。そういう存在が戦争で死ぬのは間違いなのだ――そうシンは思う。
マユは、戦争などと無縁な存在だった。そういう存在が戦争で死ぬのは間違いなのだ――そうシンは思う。
(俺みたいな奴は、戦争やってるしかないんだろうけどな)
初めて人を殺した時は、何時だったろう。あまり、覚えていない。覚えていないほど人を殺したのか――自分でも嫌になる考えだ。
(俺は、いつまで人を殺すんだろう……)
戦場に出る前、いつも考えてしまう。
こんな事何時まで続くのか。
誰も助けてくれはしない、それなのに何時の間にか選んでしまった地獄の道。
今では笑って人殺しが出来る程、自分は染まってる。
光の中に居るはずのマユが、今の暗闇にいる血塗れの自分を許すわけが無い――そう思う。
こんな事何時まで続くのか。
誰も助けてくれはしない、それなのに何時の間にか選んでしまった地獄の道。
今では笑って人殺しが出来る程、自分は染まってる。
光の中に居るはずのマユが、今の暗闇にいる血塗れの自分を許すわけが無い――そう思う。
「許して貰える訳、無いよな……」
ついつい口をついて、泣き言が出る。
次の瞬間、シンは直ぐに後悔した。
その呟きをレイはおろか、他の3人も聞いていたのだ。
次の瞬間、シンは直ぐに後悔した。
その呟きをレイはおろか、他の3人も聞いていたのだ。
《なんだなんだオイ、女に振られた事でも思い出したか?》
《女性に嫌われるのは辛い事ですが、ね。……戦場では考えない事です》
《イヤちょっと待て。それはつまりは珍しくシンが色気づいたって事だろ?よっしゃ、今度街に下りたら俺がいい女紹介してやるよ》
《しかし少尉の趣味がシンの嗜好に会いますかね。私は少々疑問に感じます》
《そりゃどーゆー意味だよ!?中尉!》
《女性に嫌われるのは辛い事ですが、ね。……戦場では考えない事です》
《イヤちょっと待て。それはつまりは珍しくシンが色気づいたって事だろ?よっしゃ、今度街に下りたら俺がいい女紹介してやるよ》
《しかし少尉の趣味がシンの嗜好に会いますかね。私は少々疑問に感じます》
《そりゃどーゆー意味だよ!?中尉!》
人を肴に三人は好き勝手に言い募る。
もはや完全に魚を見つけた漁師状態である。
もはや完全に魚を見つけた漁師状態である。
「好きに言っててくれ……」
大尉が茶化し、中尉がまとめ、少尉が混ぜっ返す――いつ終わるともしれない他愛無い会話。
シンはそれを聞き流しながらふと不運にもリヴァイブの虜になった少女、ソラの事を思い出した。
シンはそれを聞き流しながらふと不運にもリヴァイブの虜になった少女、ソラの事を思い出した。
(マユが大きくなってたら、ソラみたいになってたのかな)
意外と口うるさくて、直ぐ泣いて。
その癖、突然怒り出して、今度は落ち込んで。
その度にシンはマユの扱いに困っていた事を思い出す。
ここ最近ソラの扱いでも困ったからだろうか。
マユと同じように。
その癖、突然怒り出して、今度は落ち込んで。
その度にシンはマユの扱いに困っていた事を思い出す。
ここ最近ソラの扱いでも困ったからだろうか。
マユと同じように。
《もうすぐポイントに到着するぞ。各機準備しろ》
さっきとは違う鋭い大尉の声。
生と死の交わる戦場の匂いが漂う。
一人会話に参加しなかったレイが、冷静に伝える。
生と死の交わる戦場の匂いが漂う。
一人会話に参加しなかったレイが、冷静に伝える。
《自動操縦を切るぞ。いいな、シン》
「ああ。任せろ」
「ああ。任せろ」
コントロールスティックを握るシンの手に機体の力感が伝わる。
ダストがシンの手足になった瞬間だ。
ポイントに着くとシン達モビルスーツ隊は全機足を止め、その場に駐機させる。
あとはコニール達の指示待ちになる。
ダストがシンの手足になった瞬間だ。
ポイントに着くとシン達モビルスーツ隊は全機足を止め、その場に駐機させる。
あとはコニール達の指示待ちになる。
その頃――。
Aルートに張ったコニールの部隊は街道を望む丘の影から、道路を進む大型車両の一団を発見した。
大小合わせて十数台のトラックや大型トレーラーが列を成して悠然と街道を走っている。
Aルートに張ったコニールの部隊は街道を望む丘の影から、道路を進む大型車両の一団を発見した。
大小合わせて十数台のトラックや大型トレーラーが列を成して悠然と街道を走っている。
「来た来た……」
双眼鏡を眺めながらコニールは、獲物を見つけた獣のように舌舐めずりをした。
「目標発見。B-15、WM。そう通信して」
WMとは西南方向の略である。
「了解!」
彼女の部下の一人がジープに積んである通信機に走る。
「さて……、仕掛けるわよ」
コニールはそばにいた部下に指示を送ると、彼は手元のボックスのスイッチを押す。
すると。
すると。
ズズズゥゥン……。
遥か遠くから聞きなれた地鳴りと爆発音が鳴り響く。
街道の真ん中からいくつもの黒煙が立ち上り、補給部隊の車列はたちまち大混乱に陥っていた。
――今、開戦の狼煙が上がったのだ。
街道の真ん中からいくつもの黒煙が立ち上り、補給部隊の車列はたちまち大混乱に陥っていた。
――今、開戦の狼煙が上がったのだ。
「……また戦争になるんですか?」
医務室の診察椅子に座るソラの口からこぼれた問いに、ふとセンセイのカルテを書いていたペン先が止まる。
ソラは一日一回、医務室に定期健診に来る事になっている
軟禁生活のストレスから体調を崩していないか検査するためだ。
もちろんこれはカウンセリングとしての意味もあって、適当に話し相手を用意する事で、ソラの心理的孤独感を和らげようというのだ。
こうした処置で彼女が大人しくしてくれれば、不安要素は減るという観点からもリヴァイブの益になるとロマは考えていたからだ。
センセイはペンを置いて、ソラの方に向いた。
ソラは一日一回、医務室に定期健診に来る事になっている
軟禁生活のストレスから体調を崩していないか検査するためだ。
もちろんこれはカウンセリングとしての意味もあって、適当に話し相手を用意する事で、ソラの心理的孤独感を和らげようというのだ。
こうした処置で彼女が大人しくしてくれれば、不安要素は減るという観点からもリヴァイブの益になるとロマは考えていたからだ。
センセイはペンを置いて、ソラの方に向いた。
「どうして戦争が起きるって思ったの?」
「……ここに来るまでほとんど人を見ませんでしたし、誰もいない感じだったんで……。それに……」
「それに?」
「シゲト君が急に来て、『シンがAIレイを必要なんだって』って言ってレイさん持って行っちゃったんです。だから……」
「……ここに来るまでほとんど人を見ませんでしたし、誰もいない感じだったんで……。それに……」
「それに?」
「シゲト君が急に来て、『シンがAIレイを必要なんだって』って言ってレイさん持って行っちゃったんです。だから……」
うつむいたまま、たどたどしく答えるソラにセンセイは小さな笑みを浮かべる。
「ソラさんって勘が鋭いのね。……そうね、戦争よ。それも、今回はこちらから仕掛けるわ。」
こちらから仕掛ける、という言葉にソラは心臓を鷲掴みにされた様なショックを受ける。
息が詰まるような感覚が支配していく。
何を言うべきなのか、言葉が見つからなかった。
息が詰まるような感覚が支配していく。
何を言うべきなのか、言葉が見つからなかった。
「……軽蔑する?」
心を見透かしたような一言。
胸に刺さる。
何も言えない。
しかしソラは黙ったままではいたくなかった。
どうしても言わなきゃいけない、そう彼女の心が訴えていたから。
喉の奥から搾り出すようにして、ソラはセンセイにそれまで溜まっていたものをぶつけた。
胸に刺さる。
何も言えない。
しかしソラは黙ったままではいたくなかった。
どうしても言わなきゃいけない、そう彼女の心が訴えていたから。
喉の奥から搾り出すようにして、ソラはセンセイにそれまで溜まっていたものをぶつけた。
「……戦争する人達は、おかしいです……!しかも好きこのんでなんて。あの人だって、何時も喜んで戦ってて……」
答えの出ない疑問がソラの中を駆け巡る。
何でだろう。
どうして戦わなきゃならないんだろう。
私は何でここに居るんだろう。
どうしてこんな所で。
本来いるはずのない場所にいる自分が、こんな話をしている。
”戦争”という言葉、世界に翻弄されているソラがそこにいた。
センセイは少しだけ考え込むように天を仰ぐと、ふっと小さく漏らした。
何でだろう。
どうして戦わなきゃならないんだろう。
私は何でここに居るんだろう。
どうしてこんな所で。
本来いるはずのない場所にいる自分が、こんな話をしている。
”戦争”という言葉、世界に翻弄されているソラがそこにいた。
センセイは少しだけ考え込むように天を仰ぐと、ふっと小さく漏らした。
「そうね……。戦わずにすめばそれに越したことはないわね」
「なら、どうして……!?」
「……誰も、望んだように生きるのは難しいのよ。戦いたくなくても戦わざるを得ない、戦いたくなくても明日を生きるために戦わないといけない場合があるの。私達はこのコーカサスという土地を人々がもっと自由に、もっと幸せ、もっと人間らしくに生きられる土地にしたいの。でも東ユーラシア共和国の政府は外国との関係を優先するばかりで、ここに生きる人達の事なんて見向きもしない。そのために毎日たくさんの人が飢えたり、凍えたりして死んでいる。そういうのを一日も早く止めたいのよ」
「だからって、戦争なんかしなくても良いじゃないですか……!」
「戦う事でしかで世の中を良くする術がなければ、人は戦うものよ。だから戦争は起こるのよ」
「それは詭弁です!戦争なんかしたら皆困ります!」
「なら、どうして……!?」
「……誰も、望んだように生きるのは難しいのよ。戦いたくなくても戦わざるを得ない、戦いたくなくても明日を生きるために戦わないといけない場合があるの。私達はこのコーカサスという土地を人々がもっと自由に、もっと幸せ、もっと人間らしくに生きられる土地にしたいの。でも東ユーラシア共和国の政府は外国との関係を優先するばかりで、ここに生きる人達の事なんて見向きもしない。そのために毎日たくさんの人が飢えたり、凍えたりして死んでいる。そういうのを一日も早く止めたいのよ」
「だからって、戦争なんかしなくても良いじゃないですか……!」
「戦う事でしかで世の中を良くする術がなければ、人は戦うものよ。だから戦争は起こるのよ」
「それは詭弁です!戦争なんかしたら皆困ります!」
それまでうつむいていたソラは顔を上げキッと睨む。
だがそんなソラにセンセイは微笑みを返す。
だがそんなソラにセンセイは微笑みを返す。
「やっと上を向いたわね」
「……!」
「ソラちゃん。私の考えを押し付けたくないから私から貴女に答えを言うような事はしない。勿論貴女が疑問に思い、質問してきた事にはできるだけ正確に答えるようにするわ。……でもね、これだけは覚えておいて。”正義なんてものは、人の数だけ有る”の」
「私が、間違っているっていうんですか!?」
「……!」
「ソラちゃん。私の考えを押し付けたくないから私から貴女に答えを言うような事はしない。勿論貴女が疑問に思い、質問してきた事にはできるだけ正確に答えるようにするわ。……でもね、これだけは覚えておいて。”正義なんてものは、人の数だけ有る”の」
「私が、間違っているっていうんですか!?」
一層ソラは声を荒げてしまう。
しかしセンセイは優しく彼女を見つめたまま静かに諭す。
まるで母のように、ソラの全てを包むように。
しかしセンセイは優しく彼女を見つめたまま静かに諭す。
まるで母のように、ソラの全てを包むように。
「いいえ、貴方は間違ってなんかいないわ、きっと本当は誰も間違っていないのよ。でもね、結果として”間違っていた”と言われるのが世の中なの。ソラちゃん、もっと世の中を知りなさい。私達が貴女の思っている”正義”では無かったとしても、いつか貴女にもきっと解る時が来る。――人は、正しい事だけでは生きて行けないという事が」
「……だからって悪い事でも、……何をしてもいいっていうんですか?」
「違うわ。”どんな状況でも生きる努力をしなさい”という事よ。そうすれば今の貴方に見えなかったものがきっと見えてくるから。そのためには、貴女は俯いていては駄目。辛くても、見上げなさい。人は、前を見ないと周りを見る事の出来ない生き物なのだから」
「……だからって悪い事でも、……何をしてもいいっていうんですか?」
「違うわ。”どんな状況でも生きる努力をしなさい”という事よ。そうすれば今の貴方に見えなかったものがきっと見えてくるから。そのためには、貴女は俯いていては駄目。辛くても、見上げなさい。人は、前を見ないと周りを見る事の出来ない生き物なのだから」
暖かい眼差しのまま告げるセンセイの言葉に、ソラはふと孤児院で一番好きだったシスターの言葉を思い出していた。
――ソラ。どんな時でも、空を見上げてごらん。辛い時、悲しい時……どんな時でも。きっと空は、ソラの味方。何時もソラを助けてくれるから――
(……どうして……。どうして今になってあの時教わった言葉が頭に浮かぶのかしら……)
それきりソラは黙り込んでしまう。
今度はセンセイも話しかけなかった。
今度はセンセイも話しかけなかった。
《B-15、WMか。……ちっとばかり面倒な事になるな》
《予想算出襲撃ポイントでは、遮蔽物がありませんね。相手からも丸見えです》
《予想算出襲撃ポイントでは、遮蔽物がありませんね。相手からも丸見えです》
コニールからの通信を受けやいなや、シン達は全速力で目標の政府軍補給部隊のいる地点に向かっていた。
敵は荒野をまっすぐに突き抜ける街道のAルートを選んでいたのだ。
そこは周囲に緩やかな丘が少々ある事を除けば、満足な遮蔽物もなく見晴らしもいい場所である。
攻めにくく、守るに適した絶好のポイントであった。
すぐに大尉は戦術の修正をし、中尉が直ぐにそのフォローを開始する。
敵は荒野をまっすぐに突き抜ける街道のAルートを選んでいたのだ。
そこは周囲に緩やかな丘が少々ある事を除けば、満足な遮蔽物もなく見晴らしもいい場所である。
攻めにくく、守るに適した絶好のポイントであった。
すぐに大尉は戦術の修正をし、中尉が直ぐにそのフォローを開始する。
《部隊を分散させるしかないか。……よし、まず少尉と俺は後ろから攻め込んで不意を付く。シンは先行して敵前面にて待機。ダストはこの中で一番足が早い。混乱に乗じて輸送部隊を仕留めろ》
《私はどうします?》
《中尉、お前に指示は必要ねぇだろうが。俺たちの後ろで適当にぶっ放してろ》
《了解です》
《私はどうします?》
《中尉、お前に指示は必要ねぇだろうが。俺たちの後ろで適当にぶっ放してろ》
《了解です》
そんなやり取りの合間に少尉のボヤキが挟まる。
《やーれやれ、またシンがいいとこ取りですかい》
《そうぼやくな。先陣の俺達が敵を燻り出さなければこの作戦の意味は無い。忘れたか?俺達はわざと敵の罠にかかりに行くんだぞ。それとも少尉、いいところを見せたければ一人で突っ込んでみるか?》
《んにゃ、御免こうむります。俺は、まだ死ぬつもりはないんで。シン、お前が後詰だ。ヘタ打ったら承知しねーぞ!》
「ああ、わかったよ。任せろ」
《そうぼやくな。先陣の俺達が敵を燻り出さなければこの作戦の意味は無い。忘れたか?俺達はわざと敵の罠にかかりに行くんだぞ。それとも少尉、いいところを見せたければ一人で突っ込んでみるか?》
《んにゃ、御免こうむります。俺は、まだ死ぬつもりはないんで。シン、お前が後詰だ。ヘタ打ったら承知しねーぞ!》
「ああ、わかったよ。任せろ」
少尉の軽口にシンはフッと笑みを浮かべる。
つくづくこの三人はチームワークが良い。
つくづくこの三人はチームワークが良い。
(俺達も、こうだったら――少しは違ってたかもな)
自分、レイ、ルナマリアの三人――自分達ではチームワークが取れていると思っていた。
だが、今のこの三人を見ていれば自分達が如何にバラバラだったか良く解る。
一対一なら勝てると自負していたがチーム戦、もしレイとルナマリアが居てチームを組めたとしても勝てる気がしなかった。
だが、今のこの三人を見ていれば自分達が如何にバラバラだったか良く解る。
一対一なら勝てると自負していたがチーム戦、もしレイとルナマリアが居てチームを組めたとしても勝てる気がしなかった。
(若かった、って事か)
シンは首を振って考えを振り払う。
今は思い出に浸っている時ではない。
今は思い出に浸っている時ではない。
「コルダミアに駐留してる政府軍はどうする?奴等が増援に来たらやっかいだぞ」
頭を切り替える意味でシンは大尉に聞いてみた。返事は直ぐに帰ってきた。
《現地の部隊に”花火”を上げさせるよう、とっくの昔に指示を出してる。今頃、政府の駐留部隊はそっちの騒ぎで手一杯だ。……俺の指揮にケチ付けるなんて百年早いぞ》
ニヤリと笑う大尉――慣れない事は言うものでは無い、と目が語っていた。
《シンは戦略は赤点だった。許してやって欲しい》
レイにまで言われる始末である。
ともあれ、シン達は動き出した。
シンの心には不安は無い。それは、確かにこの三人が居る事の安心感も手伝っていた。
ともあれ、シン達は動き出した。
シンの心には不安は無い。それは、確かにこの三人が居る事の安心感も手伝っていた。
――待機していた場所から約15分後。
遠くに数条の黒煙が見える。
目指す街道についたのだ。
大型のトレーラー群がダストのモニタにも視認出来る。
すでに大尉たちはシンと別れ、それぞれ配置についている。
シンは補給部隊の進路方向から、大尉たちは後方から攻める手はずになっている。
あとは攻撃の火の手が上がるのを待つばかりだ。
遠くに数条の黒煙が見える。
目指す街道についたのだ。
大型のトレーラー群がダストのモニタにも視認出来る。
すでに大尉たちはシンと別れ、それぞれ配置についている。
シンは補給部隊の進路方向から、大尉たちは後方から攻める手はずになっている。
あとは攻撃の火の手が上がるのを待つばかりだ。
《概ね予定通りだな。……シン、手筈は覚えているな?》
すさかず冷水を浴びせるレイにシンは渋面になりながら返す。
「大尉達が攻撃を開始したら、前面に展開すりゃ良いんだろ?」
《まあ、そうだ。どの道順序はこの場合あまり関係ないが……恐らく大尉達はシンへの負担を少しでも軽減してやろうという腹積もりなのだろうな》
「お優しい事で」
《まあ、そうだ。どの道順序はこの場合あまり関係ないが……恐らく大尉達はシンへの負担を少しでも軽減してやろうという腹積もりなのだろうな》
「お優しい事で」
口では捻くれた事を言っているが、シンの顔は嬉しそうだ。
信頼出来る仲間――シンが最も求めていたもの。
その上、背中を安心して預けられる存在となるとそうはいないからだ。
そんな仲間と戦う、これほど嬉しい事は無い。
信頼出来る仲間――シンが最も求めていたもの。
その上、背中を安心して預けられる存在となるとそうはいないからだ。
そんな仲間と戦う、これほど嬉しい事は無い。
《シン、もう少しスピードを上げろ。このまま併走しても意味が無い。この距離なら発見されても有効打はどちらも打てんからな。発見される危険性を憂慮するより、相手方の援軍に寄る挟撃こそ避けるべきものだ》
「OK、レイ」
「OK、レイ」
シンはダストのコンソールを操作して脚部ホバーエンジン及びローラーユニットを起動、ダストの地上最速形態である“ローラーダッシュモード”に移行する。
砂塵を上げてダストが疾駆し、街道が走る荒野の中に一気に躍り出た。
もう敵補給部隊もこちらを補足しただろう。
だが、シンの心に恐れは無い。
ぺろりと乾いた唇を拭い、シンは凄絶に微笑む。
シンの中の”暗い炎”が今、ちりちりと火花を上げつつあった。
砂塵を上げてダストが疾駆し、街道が走る荒野の中に一気に躍り出た。
もう敵補給部隊もこちらを補足しただろう。
だが、シンの心に恐れは無い。
ぺろりと乾いた唇を拭い、シンは凄絶に微笑む。
シンの中の”暗い炎”が今、ちりちりと火花を上げつつあった。
進路を塞ぐように巻き起こった爆発の群れに、街道の補給部隊は騒然としている。
何台ものトラックや大型トレーラーが道を外れ右往左往していた。
しかしガドルはそれがレジスタンスの襲撃の初弾だと気づく。
何台ものトラックや大型トレーラーが道を外れ右往左往していた。
しかしガドルはそれがレジスタンスの襲撃の初弾だと気づく。
「全方位警戒!総員、降車戦闘準備!!」
トレーラー群の中程に乗っていた補給部隊隊長チャーリー=ガドルは乗員全員に指示を出す。
囮なら囮として、その役目は果たさねばならない。
その時レーダーを監視していた部下が、敵の来襲をガドルに告げた。
囮なら囮として、その役目は果たさねばならない。
その時レーダーを監視していた部下が、敵の来襲をガドルに告げた。
《――左舷十時方向、距離1000!敵モビルスーツ補足!》
補給部隊レーダー担当の士官が声を上げると、ガドルは静かに言った。
「やはり来たか。根回しはしておくものだな」
ガドルはもちろんこの作戦を立案したガリウス司令も、レジスタンス“リヴァイブ”が来るとおおよそ察知していた。
そのためにわざわざ高い金を払って情報屋を買収し、さらに他のレジスタンスを経由するという手間をかけてまで情報を流したのだから。
そのためにわざわざ高い金を払って情報屋を買収し、さらに他のレジスタンスを経由するという手間をかけてまで情報を流したのだから。
「今、最も売り出し中のテログループ“リヴァイブ”。叩き潰すのならば、早い方が良い。そのための作戦だ」
そう、ロマが危惧した通り、この”補給部隊の大移動”はリヴァイブを誘き出して一網打尽にする作戦であった。
例え全滅させられなくても、リヴァイブの虎の子と云って良いモビルスーツ部隊に大打撃を与える事が出来ると踏んでいるのだ。
例え全滅させられなくても、リヴァイブの虎の子と云って良いモビルスーツ部隊に大打撃を与える事が出来ると踏んでいるのだ。
「モビルスーツ隊に迎撃させろ!だが敵は一機とはいえ手練れだ!油断するな!!」
トレーラー群、後方のトレーラーに据え付けてあったモビルスーツ“ルタンド”が次々に起動する。
連合のダガーとザフトのジンを、足して二で割った様なシルエットの巨体が次々に起き上がる。
その数、およそ8体。
砂塵が舞う荒野をダストは更に速度を上げて、補給部隊の車列に向かっていく。
様々な思いを余所に、熱砂は更に熱くなりつつあった。
連合のダガーとザフトのジンを、足して二で割った様なシルエットの巨体が次々に起き上がる。
その数、およそ8体。
砂塵が舞う荒野をダストは更に速度を上げて、補給部隊の車列に向かっていく。
様々な思いを余所に、熱砂は更に熱くなりつつあった。
このSSは原案文第4話「今ここにいる現実」Bパート(アリス氏原版に加筆、修正したものです。