「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

過去から湧き上がる疑念

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だれでも歓迎! 編集
東ユーラシア最大の人口を誇る首都・モスクワ。
その中心に、東西に長く貫かれた広大な広場がある。
――赤の広場。
中世の頃より重要な国家行事が数多く行なわれ、南にはスターリンや片山潜などが眠るクレムリンの城壁とその中の大統領官邸、城壁に接しているレーニンの遺体が保存展示されているレーニン廟、西には国立歴史博物館、東には葱坊主の屋根の聖ヴァシーリー寺院と処刑場・布告台だったロブノエ・メストといった歴史的建造物の多くが立地する文字通り歴史の目撃者である。

何より士気高揚と国力の誇示を目的とした閲兵式は世界中の注目を集め、それはコズミック・イラの年代に入っても変わらない。
それが今日・コズミック・イラ79年4月18日、5年ぶりに復活の日を見たのである。
コズミック・イラ70年代。
度重なる災害と戦争に襲われ、世界の中心から完全に衰退してしまい、ついには国家分裂まで味わい地獄の底に落とされる。
国力を誇示するはずの閲兵式も自然と行なわれなくなった。
それから5年、大飢饉、革命戦争、武装組織の蜂起と苦難を味わいながら、ついにそれを復活させるまで至った。

(ついにここまで成し遂げたぞ)

広場に設けられたVIP用の閲覧用タワー。――広場を完全に見渡せる高層建築の最上階にて、セルゲイは己の功績を示す瞬間が来るのを待ちわびていた。
無論、軍事力だけが国家の全てではない。
だが、度重なる苦難に見舞われパレードすら行なうことができなかった暗黒の時代に決別し、栄光が待つ新たなる時代への第一歩とすることを国民に示すには、この閲兵式はもってこいだ。
セルゲイはそう考えていた。
そして国民には祖国の復活を実感できる”とっておき”を用意した。
それもすぐにお披露目となる。

(さて、連合のお役人殿はどのように感じられるか?)

最上階に設けられた閲覧室には、市街全土が見渡せる巨大な窓だけではなく、広場の様子を映し出すモニターが幾つか設置されていた。
その中の1つに目を見やる。
それにはセルゲイが自ら招待した統一地球圏連合の役人達が何名か座席に座り、関係者と談じているところが映し出されていた。
その表情には少しばかりではあるが軽蔑の色が見える。
どうせまた、「東ユーラシアなど大したことはない」と見下しているのだろう。
今はそうやって軽蔑しておればいい。
すぐにその間抜けな顔は開いた口が塞がらなくなるのだから。

(その間抜け面をさらに間抜けにしてやろう)

セルゲイは口には出さず、吐き捨てた。






久しぶりの国家行事とあって、モスクワの街は普段とは比較にならないほど活気付いていた。
街中には数え切れないほどの露店が出店し、市街各地に設けられた様々なイベント会場には人が群がっている。
雪がちらつくほどの寒さを吹き飛ばすかというほどの熱気は、暗いニュースに沈みこんでいた東ユーラシアの人々を元気付けるには十分すぎる効果がある。
その熱気に満ちた会場に、1つの例外も無く掲揚された旗がある。
『自給自足こそ国の礎』
英語と、地元の言語であるロシア語で描かれたその言葉こそ、就任4ヶ月でここまで国力を回復させたセルゲイ政権の代名詞といえる『自給自足政策』を連想させる代表的なスローガンだ。
そして今回の国家行事の主役は2つあった。
1つは久方ぶりの閲兵式。
もう1つは、国内各地から招待された優秀な農業従事者達だ。
胸元に農業をあしらった勲章を頂く彼らは、セルゲイの自給自足政策の中心である農業活性化のための政策の1つである、『優秀農業者コンテスト』にて優秀な成績を収めた者達である。
彼らはイベント期間中、浴びせられる賞賛の声が途切れることはない。
彼らは自作の歌や熟練の技を披露して、自らの技を競い合うと共に会場を盛り上げる役目も負っていた。
それが午前中のメーンイベント。
そして、午後のメーンイベントは午前中とは打って変わって1つの会場に人々が殺到する。
そう、5年ぶりに復活の日を見た閲兵式と称された軍事パレードだ。
午前中のイベントをすっぽかしていい場所を確保しようと場所取りに出る者たちも多く、徹夜組まで現れるほどだった。





パレードは午後0時30分、軍楽隊の演奏と共に開始された。
コサック騎兵に扮した者達が行進し、次いで各地の子供達が趣向を凝らした踊りを披露していく。
沿道を埋める数十万にも達しようかという人々が興奮を高ぶらせる。
ここからが本番だ。
本隊の隊列がモスクワ中心部のメインストリートにまで進んでくる。
このまま赤い広場へと行進するのだ。
隊列を組んでいるのは各地の軍より召集された精鋭達。
その先鋒が赤の広場の先に姿を現し、市民達は歓声を次々に挙げた。
現れたのは東ユーラシア陸軍の昔からのトレードマークと言える戦車隊。
兵器のカテゴリとして旧式化したとはいえ、運用しだいではモビルスーツにも匹敵する戦闘力は放棄するには惜しい存在だ。
150台の戦車の大行進は民衆を魅了する。
その後には整然と隊列を組んで行進する歩兵部隊。
よくもここまで動きが揃うものだという声があちこちから聞こえる。
そしてこの日のパレードの主役であるモビルスーツが少し間を置いて現れた。
30機を越える鋼鉄の巨人――世界中の主力となっているGWE-MP006Lルタンド、その飛行型だ。
全高18mを超す巨体から湧き出る威圧感に誰もが息を呑んだ。



VIP達に渡されたパンフレットでは、『第6戦闘航空軍所属』と明記されていた。

「フン、半年前の我らのパレードの猿真似というわけか」

その様子を眺める統一連合の役人達は苦笑を隠しきれずにいた。
意識しているのかしていないのか、その形態は彼らが半年前の関わったオーブの『統一連合樹立三周年式典』における軍事パレードに酷似するところがあった。

「所詮、テロリストに脅迫された政府が、『テロリストに負けるほど弱くはない』というところを見せようと無い袖を強引に振った結果なのでしょう」

同行する秘書がそっと彼なりの意見を耳打ちする。
役人達も皆同じような考えだ。
先日、ガルナハンに陣取るテロ組織『ローゼンクロイツ』は東ユーラシア政府に対して要求を突きつけた。
『政治権限を我らに委譲し、現政権は総辞職せよ』と。
それにはまた次のように付け加えられていた。
『この要求が受け入れられない場合、我らは貴国に対し宣戦布告するものと成す』
つまり、実態はどうであれ『ローゼンクロイツ』による東ユーラシア共和国に対する全面戦争布告というわけだ。
実際にはずっと以前から各地で武装闘争を繰り広げているのだが。
そして、それを受けた東ユーラシア政府はかねてから行なわれる予定だった軍事パレードの内容を変更し、より軍事的な意味合いを強くする物へとした。
セルゲイ曰く「ガルナハンからの対話は全て認めない」だそうだ。
それは意思表示というところだろうか。

「フン、招待された身だ。せめて、ユーラシアが何をできるか見せてもらおうかね」

彼らは相変わらず見下した態度でパレードを見つめた。



軍事パレードのメインを成す隊列は第2陣が姿を見せていた。
オリーブドラブに身を包んだ巨人が20機。
ZGMF-1000ザク。
5年前の戦争で旧ザフト軍の主力兵器として各地で暴れまわった機体だ。
当時最新鋭の機体も、ここ数年のオーブと大西洋連邦のモビルスーツ開発競争の煽りで急速に旧式化したものであり、第1陣に配備されていたルタンドが主力機となった今、世界中で急速に配備数が減少している。
前陣にシールドを左肩に1基備えたザクウォーリア、後陣に同じ物を両肩に一対備えたザクファントムという構えの隊列が前進していく。
行進に合わせて軍歌が演奏される。
それに興奮した少年達が、目を輝かせて吹奏に合わせて合唱し、大人達もそれに唱和し歌声はあっという間に市の中心部に広まっていった。
そして次に現れたのは、それまでの巨人達とは一風変わった4足歩行の機体――TMF-/A-803バクゥ。
メタリックグレイの式典カラーを輝かせながら15機のバクゥが、獲物を狙うライオンの如き動作で行進する。
そして同時に、空に爆音が木霊した。
見上げた市民達に移ったのは50機は超えるであろうモビルスーツの大群が綺麗に隊形を整え、優雅に現れる姿。
ZGMF-2000グフである。
先のバクゥ、ザクもそうだが、5年前の戦争の後に急速に旧式化した旧ザフト軍の機体は、ザフトを吸収したオーブ軍の主力がルタンドに切り替わると同時に退役し、売り払われた。
それを1年前の革命戦争で軍備の半数以上を失った東ユーラシアが安価で購入し今に至っていた。
そのグフの大群が優雅に組んだ隊列を解き、次の瞬間にはまるで決闘のように剣を交えあいながら優雅かつ壮大に飛び回る。
その姿に、地上からは大きな歓声が上がる。
尽きぬ歓声の中をパレードは進んでいった。





その様子をセルゲイは満足そうに見守っていた。

(さすがは我が軍の精鋭といったところか)

今まさに眼前で剣を交えながら飛んでいくグフに眼を見やり、セルゲイは中に乗る者の姿を思い浮かべた。
召集した50機のグフのパイロット達は精鋭揃いであり、皆熟練のパイロットだ。
そして、その中でも剣を交えながら飛ぶ機体を操る者はいずれも精鋭揃いの中でも抜きん出た腕前を有する文字通りのエリートなのだ。
全員が500時間以上の戦闘飛行を経験しているという事実が、如何に優れているかを証明してくれる。
ただ、それらの者達が全員正規の兵士達でないことは少々皮肉なことではあった。

(正規軍のパイロットではまだ彼らには勝てぬか…)

セルゲイはそう心の中で呟きながら、歓喜に沸くパレードに眼を見やった。
いよいよフィナーレだ。
そして、待ちわびた瞬間である。
彼は心臓の鼓動が高まるのを感じとった。





会場のボルテージが最高潮に達した瞬間、それは起こった。
歓声がざわめきへと変わり、数十万の民衆が一点に釘付けにされる。
集中する視線を突き破るように、”ソレ”は現れた。
ルタンドでも、空軍のグフでも、オーブが世界に誇るGWE-MP001Aマサムネでもなければ統一連合軍の時期主力機とされるストライクブレードでもないソレは、この瞬間世界に初めてその姿を現す。
漆黒に身を包み、アメノミハシラのゴールドフレーム天を思わせるツインアイとモノアイを同時に搭載した頭部。
背には一見無骨そうでありながら広げれば優雅な翼。
神話に登場する鳥人を連想させるその身体は避弾経始を追求した曲線的なフォルムによってさらに生き物を思わせた。

「な、何なんだあの機体は!?」

視線が釘付けになったのは民衆だけではなかった。
招待されていたVIP達もまた身を乗り出し、一心不乱にその機体を見つめ続ける。
当然と言えば当然だろう。
彼らに渡されたパンフレットには、この漆黒の機体は記述されていなかったのだから。
唖然として見つめる彼らの口は開いたまま塞がらず、それを指摘する者もそこには居合わさなかった。

「あ、あれはアメノミハシラの機体か!?頭部が似ているが…」

「いや、違うぞ!むしろあの曲線的なフォルムは革命軍のシュヴァルベに似て…」

視線を釘付けにされたまま、数々の憶測が飛び交う。
同じ機体が続け様に20機も現れた時と彼らの焦りが最高潮に達したのはほぼ同時だった。

(た、大変だ!本社に連絡しなければ…!!」

冷や汗混じりに携帯電話に手を伸ばす。
彼らはその職業柄、眼前に現れたその機体が自らの脅威となることを察した。
『統一地球圏連合経済開発省軍需物資売買課』
簡略にいえば、モルゲンレーテ、即ちオーブで開発された兵器を他国に売りつけるのが仕事である彼らにとって、漆黒の機体が彼らの市場に齎す悪影響を予測するのは簡単なことだった。







モルゲンレーテの者達が焦る様は、モニターを経由してセルゲイの目にも入っていた。
思ったとおり、その”間抜け”な顔はさらに間抜けさを晒し出している。

「ふっ、ざまあみろ」

思わず悪態をつく。
鳥人を思わせる機体――クラウンベルHa260フッケバイン。
これこそセルゲイが用意した『とっておき』だ。
セルゲイは就任した当初、経済と農業を重視する一方でオーブからの兵器購入をキャンセルし、膨大な予算を浮かせていた。
それによって浮いた資金の投資先の1つが国内の軍需産業育成だ。
その努力は早々と実った。
その第1陣がこの機体。
各方面から集めた技術者達の努力によって完成された機体だが、特に革新的な技術を積む物ではない。
ただ、ゲシュマイディッヒパンツァーを応用した全周囲対応避弾電磁波とブロックごとにパーツを入れ替えることで整備性を向上させたトランスフェイズ装甲、そして被弾した際の貫通力を削ぐ避弾経始。
このフッケバインは既存の技術を極限にまで向上させた機体といえよう。
自国産の兵器を自国の主力とすることこそ、国民が祖国の復活を実感できる。
それがセルゲイの思考が導いた結論だった。

「君達の売りつける兵器は高すぎる。それに国内経済には何も齎さないのだよ、オーブ」

思わず本音が出る。
実際には様々な理由があるが、簡略に言えばそれが軍需産業を育成した理由だ。
経済回復が急務である今、軍事費は出来る限り削減した方がよいのは目に見えている。
しかし――九十日革命で受けた打撃から立ち直らない中途半端な軍事力では世界水準から立ち遅れ、有事の際に対応ができなくなる恐れもある。
現に再び九十日革命のような大規模な武装蜂起が起きてしまったら対応は出来まい。
経済回復か、軍備回復か?
その答えとして選んだのが、当時オーブからの購入に頼っていた軍備を自国産のものに変えてしまうことだった。
各地には軍需産業の工場が建てられ、それは当時尚も15%はいた完全失業者の受け入れに貢献し、国内の治安も安定した。
各部隊に占める兵器の割合は自国産が急速に拡大し、その事実は国民にも受け入れられ支持率も上がった。
つまり、どちらも回復させてしまおうと言うわけだ。
これこそ選り取り緑ではないか。
そして軍需産業育成の成果はまだ続く。
現にこのフッケバインに続く新たな機体の開発が続々と進行しているのだ。
これらも今年中にはお目見えとなるだろう。

「さて、問題はここからか」

ただ、国内で軍需産業を育成することは外交面で問題を起こす。
統一連合が今進めいている主権返上政策というのは、議論されていることはともかく本来の目的は各国をただの行政府に仕立て、世界中の国家を1つに纏めてしまおうというものだ。
当然、国家間の戦争は消滅して完全平和が構築される。
それを目的とする統一連合からすれば、加盟している国が独自に兵器の開発をすることは忌々しき問題だろう。
全世界国家の構築は、パワーバランスの一極集中なくして成り立たないのだから。
それでもセルゲイが軍需産業の育成を進めるにはそれなりの理由があった。
主権返上というのだから当然主権が失われることになる。
それは独自の文化やアイデンティティを失わせ、終いには自分で考えることすら出来なくなってしまうのではないか。
そういう不安が各地から出ている。
他ならぬセルゲイ自身もそのような不安があり、主権返上には断固として反対を貫いている。
ただ、セルゲイの場合はそれ以前に統一連合に対する根深い不信感が渦巻いていた。
その根源にあるのは、一昨年前の大飢饉――死者500万人を記録した未曾有の食糧難。
あの時の鮮烈な光景はセルゲイの脳裏に焼き付いて離れない。
人が死した人を喰らい、それでも足りなくなると衰弱しきっていてもまだ生きている人に喰らいつく。
この世がこの世でなくなるとはこういうことかと、嫌というほど思い知らされた。
そんな地獄絵図の原因は何とも簡単な物だった。
コズミック・イラ70年代半ばごろより、世界中で大飢饉の兆候は起きていた。
元よりあのブレイクザワールドの未曾有の大災害に持ってきて、二度目の世界大戦。
物資が不足するのも当然のことではないか。
この時、既に大飢饉が起きるであろうことは世界中で予測されていた。
そんな状況で統一地球圏連合が成立した時、世界中の民衆は統一地球圏連合が予測される大飢饉の対策を打ち出すと、誰もが思っていた。
……だが、それはなかった。
統一地球圏連合は己の地盤を固めるため、即ち世界を支配化に治めるために軍備の大拡張に走る。
その結果、南半球で食糧難が起き、その対策として備蓄食糧の放出を強制された北半球の国家は1年後の大飢饉の直撃を食らった。
統一地球圏連合の無為な政策が、大飢饉を生み結果500万もの人々が無念の死を遂げたのだ。
戦争ではない。直接核弾頭が落ちてきたわけでなければ、デストロイが暴れまわったわけでもないのだ。
だが――予測していながら何も対策を採らなかった結果の500万もの人々の死。
これを虐殺と呼ばずに何と言うのか?
無意味なほどの軍備拡張などせず、食糧の増産に務めていればそのような悲惨な事態など起きなかったのだ。

そう思ったところで、ある疑念が生まれてくる。

(まさか、”わざと”大飢饉を起こしたのか?)

まず始めに食糧難に陥った南半球の国家は、統一連合に対して友好的な国家が多い。
それらが危機に陥った時、連合政府は真っ先に北半球の国家に対して備蓄している食糧を全て放出せよと命じた。
そこで疑問が生まれる。
全世界規模での食糧問題など1年で解決するわけがないのは明確だ。
なら、もしその時南半球の大飢饉を回避できてもまた何処かで食糧難が起きるのは目に見えているではないか。
となれば、その時に備えてある程度の食糧をとって置くのが常ではないのか。
にもかかわらず、統一連合は即時に食糧の全放出を命じた。
その結果南半球は救われたが、予想されたとおり1年後、予備の食糧が無い北半球は大飢饉に襲われる。
ところで、だ。
南半球は統一連合に友好的な国家ばかりだが、それに対し北半球は統一連合に対して懐疑的な国が多かった。
大西洋連邦は統一連合の主権返上には真っ先に反対しているし、東ユーラシアも同様に反対しているし表向きは接近していても実際には友好的には思っていない。
西ユーラシアは直轄領だが現地住民は反感を募らせ、友好的だったのは親統一連合の筆頭スカンジナビア王国だけという事実。
しかもこの大飢饉に際しスカンジナビア王国ではほとんど死者は出ず、500万人の大半が東ユーラシアと大西洋連邦の死者というから、その一連の食糧難が統一連合の地盤固めの謀略と見えるのも当然な話ではないか。




それ以来、セルゲイは統一地球圏連合に対し好意的な思いを抱くことは無くなった。
そして痛感する。
他国に自国のことを任せてなどいられない、と。
つまるところ、世界中が主権返上して完全な世界国家が誕生すれば、世界全ての国々がただの地方行政府と化す。
即ち上からの命令は絶対服従というわけだ。
ということは、また大飢饉が起きた場合、ソレに伴う『死人を輩出する』責任をまた押し付けられるということが言える。
冗談ではない。
東ユーラシアでだけで300万もの人々が犠牲になったあの大飢饉を再び味わえというのか。
セルゲイが日に日に募らせる統一連合への疑念は、いつの日か憎しみへとその姿を変貌させていた。

(貴様らの配下になど決してなるものか……!!)

心の中で湧き上がる憎悪のあまり、彼はパレードが興奮を残したまま終了したことに気がつかなかった。

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