ShortStory

現在ライダー大戦四期掲載中。

第一期ShortStoryはこちら
第二期ShortStoryはこちら
第三期ShortStoryはこちら
第四期ShortStory2はこちら




以下のSSは第四期大戦中に各参加者から本スレに投稿されたものとなります。
本戦チャットログの流れと合わせて楽しまれる事をお勧めします。



ネ申土奇 ◆GOD/v/26uQ 氏作 :2009/12/28(月)

 格調高い家具が揃えられた一室、一人の初老の男が窓を見つめていた。
「――ようやくこの時が迎えられた。長かったような、短かったような、不思議な感覚だよ」
 男がそっと窓枠をなぞる。それに合わせてかノック音が響き、ゆっくりと部屋の扉が開かれた。
「失礼します。参加者のデータ登録が完了いたしました」
 来訪者は二人。一人は神経質そうな長身の男。すらりとした眼鏡が知的な印象を引き立たせている。
全身黒に染まった衣装は静かだが確かな威圧感を齎していた。
男は扉を閉めると隣の女性に合図をした。女性が手にした書類を読み上げる。
 女性の声は澄んでいたが何所か冷たく、無機質に響いた。
淡々と読み上げる傍で長身の男は何事か呟いている。その発言は彼の表情からあまりいい物では無い事が読み取れた。
「次に、シェードより回収した次元転送装置ですが、問題なく稼動しております」
 女性は男の素振りに顔色一つ崩さない。まるで顔を貼り付けているかのようだった。

「ご苦労だった、マーテル。下がっていい」
 マーテルと呼ばれた女性は儀礼的に会釈をすると来た時のように音を立てずに退室した。
残った男が一歩前に踏み出し、初老の男と向き合う。
「神埼さん。貴方が私を甦らせてくれた事には感謝しています。だが私は貴方の目的を聞いていない。
貴方は一体何を企んでいらっしゃるのです」
 矢継ぎ早に繰り出される言葉の数々。それに少しも参ることなく神埼は応対した。
「簡単な事だよ。私は、私の夢を叶える」
 神埼の瞳がギラリと光った。その眼差しは真剣そのもので質問したはずの男が気圧されるほどだった。
だが男も黙ってはいない。はぐらかされた事に苛立ちを露にし、更に詰め寄る。
「夢と一体なんです? ライダー同士で戦わせる事が貴方の望みだとでも?」
「そのうち判るよ。私がただ道楽でこのファミリーを作った訳ではない、という事がね。
君にも手伝って貰う事になるだろう。期待しているよ、ビショップ君」
 神埼がビショップの方に手を置き、ゆっくりと退室する。
残されたビショップは忌々しそうに歯と歯を打ち付け、乱暴に扉を開いた。


――1stステージ 『解き放たれた獣達』



ガート ◆IKup9Hv/8E 氏作 :2009/12/28(月)

『ライダー大戦・第4期』――「我址」――

ディケイドが始めて訪れた異世界―クウガの世界―
ディケイドとクウガの活躍により、究極の闇は打ち破られ、平和が取り戻されたように思えた…

深夜のとある大学。
考古化学研究室には数人の研究生と学生が残り、研究を続けていた。
未確認生命体が出現した遺跡からは数多くの遺物が出土され、それらの分析は昼夜問わず進められていた。
その部屋から一人離れ、図書室の本棚の書物を調べている学生…それが中井龍だった。
彼は普段は熱心に本を調べるようなタイプではない。ネットの文献を簡単に検索して済ませる方だ。
しかし、その日の彼は何となく本を漁りたい気分だった。思えばこれが既に闘いの幕開けだったのかもしれない…
「なんだ、これ…」
古ぼけた一冊の本に栞のように挟まっていたのは見慣れぬ一枚のカード。
それを手に取ったとき、研究室から爆音が鳴り響いた。
「な…!」
龍は慌てて図書室を飛び出し、研究室へと駆け戻る。
辿り着くと、そこに拡がっていたのは破壊された研究設備に遺物、横たわる学友たち。そして…
「ヂバサザゾボザンガート!」
おぞましき異形の怪物…
「未確認生命体…!?」

龍は慌てて研究室の瓦礫に身を隠す。
「(みんなあいつにやられたのか…? 警察呼ばないと…)」
ポケットに手を突っ込んで携帯を探すが、なかなか見つからない…代わりに手に触れたのはさっき図書室で見つけたカードのみ。
「(…そうか。携帯入れたカバン、図書室に置いてきちまったのか!)」
物陰からこっそりと様子を窺うが、荷物を取りに戻る余裕を与えてくれそうな怪物には見えなかった。
(それを使え…)
「(何…?)」
龍の頭の中に声が響く…そして目の前に転がる古代の遺物。
何気なくそれを手に取ったとき…異形も同時に目の前に現れた。
「ゴセパデスドンガート!」
(ベルトを腰に着けろ…闘え…!)
「ベルト…?」
龍が遺物を手に取った途端、頭の中に流れ込む膨大なイメージ…!
「…何となく、分かった!」
遺物を腰に巻くとそれはぴったりと体にくっつき…やがて同化していくのを感じた。
確信はない…しかし感じる。強大な力を…!
「みんなの仇…取らせてもらう!」
がむしゃらに拳を、脚を、打撃を繰り出す。その度に体に赤い装甲が纏わりつくのが分かる。
そして、最後に仮面がその顔を覆った…
「レザレダバキュグキョブボザバギシャ…ガート!!」
「ああ、俺のことか…? “ガート”っていうのは…」
黄金の角を輝かせ、深夜の闇に駆ける深紅の戦士。
新たなライダーが今、目覚めた…


ガート ◆IKup9Hv/8E 氏作:2009/12/30(水)

「なんだ…この力は…?」
白き身体―グローイングフォーム―まで弱体化したガートの身体を激しい光が包み込んでいた。

―ライダー大戦・4期―
仮面ライダーガートVS仮面ライダーディケイド

舞台はクウガの世界――そこを再び訪れた破壊者“ディケイド”は新たな戦士“ガート”と遭遇。
ガートは予想外に善戦するもディケイドには敵わず、追い詰められていた…
イリュージョンによる分身を展開するディケイドは地に伏せる白いガートを包囲した。
「お前の力。妙だな…俺の知っている奴に似ている…」
「似てる…第4号のことか?」
「ああ、未確認生命体第4号…仮面ライダークウガ」
「…仮面ライダー…クウガ…?」
「…だが、お前はクウガじゃない。お前は誰だ…?」
ディケイドが向ける銃口にガートは敗北を感じた…そのとき、
「(…諦めるな)」
「何?」
再び頭の中に響く謎の声…
「(今の俺にはこれしか言えないが…お前ならまだ闘える…)」
「またこの声か…しんどいけど…やるしかないよな…!」
立ち上がろうとするガートの周囲に光の玉が踊り始める。

「ディケイド…勝負はこれからだ…!」
徐々に赤みを取り戻していくガートの身体…そして周囲に衝撃が走り、ディケイドの分身を消し飛ばす!
「なんだ…この力は…?」
白き身体―グローイングフォーム―まで弱体化したガートの身体を激しい光が包み込んでいた。
そして…復活。深紅の戦士―マイティフォーム―
「何…!?」
突然の復活に慌てて攻撃するディケイド。しかし、引き金を引いても銃弾は発射されなかった。
「はっ!」
その隙を突き、ガートの翳した手からエネルギー弾が放たれる。
「…やるな」
ガートの攻撃を受け、ディケイドは接近しながらカードを読み込む。
―『ATTACK RIDE SLASH』―!
「させるか!」
ガートは自らの周囲に飛散するエネルギーを盾にし、ディケイドの剣戟を弾き返す。
ディケイドも負けじとそのエネルギーを掻い潜り、重たい一撃を浴びせる。
両者疲労困憊…睨み合いが続く。
ガートは思う…ここで決めるしかない…!
そのとき、ディケイドの口が開く。
「お前…クウガに似てるがクウガじゃない…何者だ?」
「…ガート」
そう呟くと高く飛び上がる。必殺の一撃を決める為に…!
「俺は…ガートだ!」
「成る程…だいたい分かった」
ディケイドも読み込む―必殺のカードを

ガートの軌道上に並ぶ黄金のゲート。ディケイドとガートの脚がぶつかり合う。
轟音が鳴り響き、大地に2人の戦士が着地する。
「俺に破壊出来ないライダーがいたとはな…流石、ユウスケの世界の後輩ライダーだな」
「お前…未確認生命体じゃないのか?」
ガートの質問にディケイドは立ち上がって答える。
「何だ。本当に知らないのか? 俺は通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ…」
「仮面ライダー…ディケイド…?」
「…しかし、俺の旅もどうやらここまでのようだな」
そう言うとディケイドの腰からバックルが弾けとび、変身が解除される。
「これも神埼とやらの仕組んだ大戦の影響だろう…」
士の姿がおぼろげに霞んで見える。その背後には不気味な魔法陣が浮かんでいた。
「縁があったらまた会おう…“仮面ライダー”ガート…」
「待て…まだ話は…」
ガートが手を伸ばすも士の姿は完全に魔法陣に消え、そこにはディケイドライバーだけが残されていた。
変身を解いた龍は疲労と激痛に耐えながら、それを拾い上げ、呟く。
「“仮面ライダー”か…」



キラー ◆EPOPARks.rxa 氏作 :2009/12/31(木)

ディケイドの誕生により物語はオリジナルとはかけ離れた
もう1つの世界を生み出した。
その1つ、龍騎の世界。
人々がライダー裁判制度によって犯罪を裁く世界。
そこに、神崎シロウはいた。
彼の願いはただ1つ。平穏な生活。
ただ、平和に生きたいと願い。
そんな彼にも1つだけ、人とは違う欲望を持っていた。
人を殺すという趣味。あくまで彼にとっては趣味なのだ。

「マイ…出かけてくるよ。すぐ、戻るからね。」

シロウの部屋。隅にかけられた椅子に座る人形のような少女。
蝋人形と化したそれに向ってシロウは微笑みかけた。
神埼という男から届いた手紙。非常に興味がある。
しかし、下手に動くと自分の本性を知られてしまう。

ライダーの能力を利用し、犯罪に手を染めていることを。
それだけは避けなければならない。
自分と、そして愛する妹の為に。

―仮面ライダーキラー 戦闘開始



ネ申土奇 ◆GOD/v/26uQ 氏作:2010/01/09(土)

「音楽はいい。心を豊かにしてくれる。そうは思わんかね、ビショップ君」
 大型のコンポから流れるBGMに恍惚の表情を浮かべる神埼。
だがそんな彼の様子を理解できないという風にビショップは見つめている。
「私は人間の作った芸術と言う物に興味を持ち合わせていませんので」
 早口で発せられた言葉には軽蔑と憐憫とが含まれていた。
神埼はビショップの言葉に少しも気落ちすることなく音楽を楽しんでいる。
まるで童心に帰ったかのように振舞う神埼に、ビショップはその眉間の皺を一層強めた。

 ふと扉が開かれる。その先にはマーテルが少しの感情を見せずに立っていた。
「報告します。強化チケットの配布が終了しました。どれも正常に機能しています」
 相変わらずの起伏の無い音読に脇に控えたビショップは辟易している。
一方で神埼はそんなマーテルの言葉を聞き、一層心を躍らせていた。
「そうか、それは良かった。殺し合いも順調に進んでいるようだし、何よりだ」
 後ろに流れている音楽の曲調が一転する。優麗だった交響曲から静粛な夜想曲に。
「一つ聞きたい事があります。どうも何人かの参加者に手を加えているようですが」
「ディケイド君の事かな。彼は優秀だったが、功を急ぎすぎた。私は、もっとじっくり殺しあって欲しいのだよ」
 神埼は不敵に微笑む。その眼差しは底が見えず、ビショップを困惑させた。

「調整用の手勢はどうするのです? 既にシアゴーストサバトが撃破されましたが」
「もう用意してあるよ」
 パチン、と神埼が指を鳴らすとマーテルに続いて四人の女性が入室する。
一人はビショップ同様漆黒の装束に身を包んだ女性。
一人は清楚な衣装と肩まで伸びた長い髪を携えた気品ある女性。
一人は黒のチャイナドレスが目を惹く長身の女性。
一人はあどけない風貌で慎ましく控えている少女。

「彼女達が今度の刺客、という訳だ」
 ズラリと並んだ女性達に流石のビショップも圧倒されている。
「皆美しいとは思わないかね? 芸術を解さない君でも、美の感覚はあると思うのだが」
「……生憎その様な物に興味は持っていませんので」
「そうか、残念だよ。彼女達なら君とも仲良くやれると思ったのだが」
 神埼の言葉をきっかけに女性達の姿が変化していく。
純白の鋏を手にする者、二つの顔を持つ者、長き鞭を携えた者、鈍色の羽を纏った者。
そのいずれも畏怖を覚える姿であったが、同時に美しさを備えていた。
「どうかな? 彼女達の美貌は」
 試すように投げかけた神埼にビショップは躊躇うことなく言い捨てた。
「判りかねます」
 今度は神埼も落胆する様子を見せない。想定通り、と言ったところだろう。

「さぁ、行きたまえ。君達にも願いはあるだろう」
 次々に退室していく異形たち。その中で、唯一鞭を持った者だけがそれを躊躇った。
その様子に神埼はピンと来たのか、不敵に笑ってみせた。
「この曲が気に入ったのかね。後でマーテルにCDでも持っていかせよう」
 その言葉に少しの礼を見せると、最後の彼女も部屋を後にした。

 再び静けさを取り戻した一室。神埼だけが笑みを浮かべ続けていた。


――2ndステージ 『美しき処刑人-パニッシャー-』



ガート ◆IKup9Hv/8E 氏作:2010/01/09(土)

砂漠の中、一人横たわる青年。彼の身体は限界に近づいていた。
他の参加者と違い、闘いとは無縁だった彼にとって不完全な古代の遺物はあまりに負担が大きかった。
そんなとき、起き上がることもできずにいた彼へと、どこからともなく舞い降りた1枚のチケット。それは青年の身体に吸い込まれるようにして消えていった。

気がついたとき、青年の意識は真っ白な空間の中に漂っていた。
その不可思議な空間で青年は見慣れぬ人物と対峙する。年は自分よりも少し上に見える。
「やっと直接会えたな…」
その声はどこか聞き覚えのあるもの。そう…ガートに変身するきっかけを作った不思議な声。
「いつも無理をさせてすまない。あのとき俺が君に変身を勧めなければこんなことには…」
申し訳なさそうに語るその態度は、真にその人が誠実であることを感じさせた。
「先程、神埼からチケットが届いた。俺の経験からすれば…これから闘いはますます厳しいものになる…」
そう言うと、その人はチケットを手渡した。
「このチケットは君には完全な力が引き出せない…だが、俺とは相性がいいようだ。だから、俺が君をサポートする…出来る限りのサポートを…」
そのチケットを受け取ると、青年のベルトに電撃が走り、全身から力が込み上がるのを感じた。
「…1つだけいいですか?」
「なんだ…」
「あなたはいったい…誰なんですか? なんで俺を助けてくれる…?」
「罪滅ぼし…かな。俺は…誰も守れなかったただの破壊者だから……」

――ライダー大戦4期 2ndステージ 仮面ライダーガート『覚醒』



G3-X ◆iKG3A2uXR. 氏作:2010/01/11(月)

巨大生物、サバトを撃退した氷川は傷の手当てを受け、G3ユニットの研究室へと帰還していた。

「随分と派手にやってくれたものね」

 ボロボロになったG3の胸部ユニットを眺めながら責めるような口調で小沢が呟き、氷川が申し訳なさそうにうな垂れる。

「すいません、僕の力が足りなかったばかりに…G3をここまで大破させてしまって」
「ま、機械なんて使うだけ使って壊して何ぼよ。氷川君が気にすることじゃないわ」

 そう言いながら背もたれを傾け、うーんと小沢が背伸びをする。

「でも氷川さんのせいっていうより…」

 尾室の呟きを小沢の睨むような視線が中断させる。

「何よ、言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ」
「いや、だって氷川さん頑張ってるじゃないですか。あの第四号だって氷川さんの強さは認めてましたし…
 それにあの化け物を倒せたのもG3の力っていうより灰色の怪人や氷川さん自身の力っていうか…」

 尾室の言い分を聞き、不機嫌になりながらも小沢がPC画面を立ち上げた。

「わかってるわよ。もっとも…G3は元々アンノウンとの戦いで消耗もしていたし、データも十分集まったし潮時ね。
 G3はあくまでプロトタイプ。蓄積されたデータは完成系であるG3-Xに生かされるわ」
「G3…X」

 立ち上がったPC画面にはG3-Xの細かなデータが表示され、氷川と尾室の視線を釘付けにする。

「この世界を護るという大任…果たして本当にG3-Xに担えるのでしょうか」

 スーツを着込んだ北条が入室し、早々に嫌味を漏らす。

「何よそれ、G3-Xじゃ力不足だっていうの?」
「いえ、そういうわけではありません…ですが、それ以上の物があるはずでしょう?G4という切り札が」
「なんであんたが知ってんのよ!?」

 北条の言葉に思わず立ち上がった小沢が睨みつけるが、北条は興味がないかのように視線を逸らし氷川へと向けた。

「氷川さん、この世界の命運はある意味であなたが握っている…お願いしますよ。
 あなたが不在の間にアンノウンが現れた場合は新開発されたV1システムで私が対応します」
「そういう売り込みは本当上手ね、あんた」

 北条は小沢の言葉を無視し退室しようとするが何かを思い出したように立ち止まり、振り返る。

「そうそう、あの灰色の怪物ですが…名称が決まりましたよ。オルフェノク…造語のようですが、名前等どうでもいいことですね。
 オルフェノクもライダー大戦の参加者らしいですね?まだ我々の世界のどこかに潜んでいるのならV1システムは戦います。
 ですがオルフェノクを本来相手にしなければならないのは参加者として選ばれたあなただ。その事を忘れないでください」

 言いたいことを言い終えた北条が今度こそ研究室を後にする。
 小沢は尾室に愚痴をこぼし、氷川は自らに課せられた使命の重みと静かに戦っていた。

 数日後


 G3-Xのシミュレーションルーム。
 搭載された新型AIとの同調を促進させる為、氷川は試験用の装甲を装着しシミュレーションが開始された。
 電脳空間で装備される架空のG3-X。そして彼の目の前に現れる架空の相手…第四号。

「氷川君…あなたがこれから戦う相手は、第四号やガートと名乗った青年のように本来は敵対しなくていいはずの相手が中心になるわ。
 戦いづらいことはわかっているけれど…覚悟を決めて」
「…了解」

 電脳空間でG3-Xが第四号へと発砲する。高性能AIと氷川の意思が衝突し、氷川の身体を傷つけていく…が。
 彼は倒れない、今までの戦いが氷川を強くし意識を失うことはない。
 しかしそれが原因で誰も高性能AIの完璧すぎるという欠陥に気づけない、暴走の危険を残したままG3-Xは戦いへと飛び込んでいく…



アークオルフェノク ◆XsvaOSw0h. 氏作:2010/01/11(月)

  #00 揺り籠の中の悪夢

 彼の身体は宙に浮いていた。しかし珍しい体験をしているにも関わらず彼の心は躍らない。
 それもそのはずだ。己の身を引き裂かれるような痛みの中で何を楽しめというのか。
 既に歯向かう力などなかった。むしろ幼い彼がここまで耐えれたことを褒め称えるべきだろう。
 だがもう限界だ。身の内から湧き出る力が彼の身を食い破る。
 もう駄目。諦めた彼の脳裏に浮かんだのは大切な人達の顔だった。
 素っ気無い態度をしていたにも関わらず親身に接してくれたお姉ちゃんやお兄ちゃん達。
 もう少し大人になれば彼も謝ることができただろう。しかしその身はもう限界なのだ。
 ただただ悲しくて、痛くて。その瞳を潤わせる。
 しかし涙が頬を伝う前に彼の身体は粉々に砕け散った。
 不死者の王たる存在を産み落として。



 次に彼が目を覚ましたのは薄暗い水槽の中だった。
 何が起きたのか思い返そうとすると激しい痛みと共に過去の映像が再生される。
 大好きな人達が変身する。大好きな人達が自分を殺そうとする。大好きな人の一人が自分にとどめを刺す。
 映像が再生し終わったとき、彼は自分の身体が自分のそれとは違うことに気がついた。
 白く大きな、不死者の王としての身体。どんなに戻ろうとしても決して小さな自分には戻れない。
 絶望に打ちひしがれる中、視界に異形の怪物が突如入ってきた。
 映像の中にも出てきた怪物。それが元は人間だと知っていた彼は最後の希望に助けを求め、手を伸ばす。

「たす、けて」
「助けて? アナタを苦しめる者はもういないわ」
「もとに、もど、して」

 彼の声質と言葉に疑問を持ったのか海老の意匠を持った怪物は悩むように俯く。
 そして脳内で仮説が組み立てられたのか、それを嘆くように水槽の縁へと崩れこんだ。

「……?」

 突然のことに驚き、彼は伸ばした手が水槽の中に戻された。
 やがて怪物は何か思い立ったのか彼へと恐る恐る話しかける。

「ぼ、ぼく?」

 彼は首を傾げて反応する。それは自分が王ではない、何も知らないという事を語っていた。
 仮説は立証された。だが怪物はそれでも優しい声で彼へと語りかける。

「自分がどうなったか、わかる?」

 彼は頷く。問いはまだ続く。

「じゃあ自分がどんな力を持っているかは?」

 彼は首を一度傾けるも曖昧混じりに一度頷いた。

「わかったわ……素直に言うけどもう君の身体は元に戻らないの。永遠に、元には戻れないの」
「!?」
「だけど今の君にはオルフェノクの、私たちの王になれる力があるの。だから人間に戻ることは諦めて――」
「い、やだ……嫌だ!」

 そう簡単に諦めきれるわけがなかった。
 この姿である限り大切な人達のいた場所へは戻れない。そしてそれ以外の人間からも攻撃される。
 水槽を破壊し、怪物を突き飛ばし、薄暗い部屋を逃げ出す。

「ま、待って! ちっ」

 彼は走り抜けながら周りの様子を伺う。薄暗い、そして光が無い。どうやらここは地下のようだ。
 だがそうでなくても彼は外に出られる方法がわかっていた。上へ向かえば必ず外には出る。
 そして探すことさえ煩わしい階段などを使わなくても、ただ外壁を破壊するだけでここを出られる力が今の彼にはあるのだ。
 青い炎。その力を光弾にし、天井に向かって撃ち放った。

「わっ!?」

 その瞬間炎が天井を打ち壊し、瓦礫が彼へと降り注ぐ。しかし彼の身体は瓦礫の重圧を物ともせず、傷一つ見当たらない。
 そして瓦礫を吹き飛ばして見上げる、ぽっかりと空いた黒い空が見えた。
 確か飛べたような。その感覚を夢から読み起し彼は黒い空へと飛び上がる。



「待ちなさい!」

 外に出ると先の怪物が仲間を引き連れて彼を追いかける。
 だが空を自在に飛びまわれるのは自分だけだった。彼は思いつく限り遠くまで逃げ続ける。
 そしてもう追ってこないと思ったところで地面へと降り立つ。見る限り一番背の高いビルだ。
 人は寝静まった夜。だけどもしかしたら誰かにこの姿を見られるかもしれない。だけどここなら見つからない。
 そう思って安心しきったその時、印象的な女の声がした。

「まあ! 何でこんなところにオルフェノクの王がいるんでしょう!」

 彼が視線を向けるとそこには全身を青い服で包んだ女の人が見えた。
 どこかで見たような気がするけどなんだか思い出せない。
 わざとらしく言う彼女を不自然に思うことなく、彼はただ単純に誰なのかを問いかけた。

「だ、だれ?」
「私? 私は……そう、私はスマートレディ! とーっても優しいお姉さんよ!」

 スマートレディと名乗る女からは胡散臭さしか感じられない。だが彼はそれでも助けを求めた。
 言葉に出せば、優しいと自称した彼女なら何らかの力を貸してくれると感じて。

「……たす、けて」
「うーん、助けてって言われてもどう助けたらいいのかお姉さんにはわからないなぁ」
「もどりたい」
「ああっ、わかった! 人間に戻りたいのね。でもそれは私の……ううん、きっとこの世界の力じゃ誰にもできないと思うの」

 彼女の言葉に彼は呆然と立ち尽くす。
 だいたい言っていることは理解できる。つまりはもう元に戻れないのだ。絶対に。

「えーん、このままでは一生人前に出ることができないまま。で・も!」

 女は懐から小奇麗な手紙を取り出し、それを彼へと渡した。

「じゃーん! この手紙を持っていれば別の世界に行けちゃいます!
 そしてこの手紙を持って旅をすれば、最後にはきっと元の姿に戻れるはずなの!」
「ほ、ほんとう?」
「お姉さんは嘘をつかないわ! でも元に戻るまでの道のりはとーっても険しいのよ」
「……がんばる」
「偉い偉い! それでね、元に戻るための条件だけど……」

 スマートレディの背中が一瞬光り、そして人一人がすっぽりと入るような大きな魔方陣が浮かび上がった。

「ここから出てくる人、もしくは入った後に出てきた人達をみーんな倒しちゃえばいいの」
「……ころ、すの?」
「それはアナタの自由! でも殺さないと偉い人が刺客を送ってくるから注意してね」

 生きる殺すという事は正直彼にとって曖昧だった。
 だが自分が一度死んだときを思い返し、もし対戦相手がいい人だったらと思うと胸がチクチクと痛んだ。
 その迷いを悟ってか否かスマートレディは彼へと最後の一押しをする。

「大丈夫! ただ最後まで生き残れば良いの! そうすればきっと、人間の身体を取り戻せるはずよ!」

 最後にスマートレディは大きなローブを優しく彼へと手渡す。

「そしてお姉さんからの特別ボーナス! いつもはこれを着ていれば人間達に君の姿は見られない!」
「うん……ありがとう」

 ただし明るい所はなるべく避けてね、と念を押される。彼は素直に一つ頷いた。

「それじゃあお姉ちゃんは帰るね。後はこわーいお姉さんに見つからないように!」

 彼はローブを纏い、スマートレディへぺこりとおじきをした。
 彼女はそれに答えて大げさに手を振ってバイバイする。それを背に彼は魔方陣の中へと消えていく。



 彼は目を覚ます。
 人の身体では無くなったといえ、彼にはまだ睡眠が必要だった。状況を整理し、なれない戦いの疲れを癒すための時間が。
 今日の夢は彼が二度目の命を授かった時の記憶。
 "自分"が何故蘇ったのか、このまま戦い続ければ本当に元の身体に戻れるのだろうか。
 答えは見えない。無理矢理成長させられた自分の脳もその答えを導き出せるほどではなかった。
 彼が立ち上がると目の前に魔方陣が出現する。
 彼の――アークオルフェノク、鈴木照夫の、人間に戻るための戦いはもう始まっていた。




 そしてここからは余談。
 彼がこの世界のある場所へと消えた後、スマートレディの前に海老の意匠を持った怪物が姿を見せる。

「か、影山さんですかー?」
「私のことはどうでもいいの。貴女、何で逃がしたの?」
「……ただ困っていたあの子を助けたかっただけですよー。それだけじゃ納得しませんかー?」
「そう。それで、さっきのは何? 魔方陣のようにも見えたけど」
「たぶんそれで正解です。あの子にひと時の夢を見させてくれる、不思議な不思議な魔方陣!」
「ふぅん。それでもちろん、貴女は今回も裏方に居るのよね?」
「いいえー、今回はただ戦士に手紙を渡してくれって言われただけよー。戦いを生き残った彼に渡そうとも思ったけど……きゃは!」

 ぶりっ子するスマートレディを無視してロブスターオルフェノク、影山冴子はしばらく考え込んで彼女の言葉に嘘はないかと探ろうとする。
 しかしその事が無駄なんだと彼女は気が付いた。今彼女がすべきなのは王の身体を取り戻し、その人格を再生させる事。

「追いかけたいですかー?」
「当たり前よ。できたら苦労しないけど……」
「だったらこれをどーぞ!」

 スマートレディが懐から何かを取り出す。
 それはまだ何も刻まれていない、カードのような白い紙だった。

「これは?」
「確かぁ、王の人格を修復するための鍵って言ってたような、ってきゃっ!」
「よこしなさい! ……それより、貴女は何でこんな物を持っているの?」
「企業秘密でーす。といっても所属していた企業は潰れちゃいましたけどー」
「そう……まあいいわ。これを使えば王は――」

 安堵するロブスターオルフェノクだったが、スマートレディは思い出したかのようにそれをぶち壊す言葉を放つ。

「だ・か・ら、それは鍵なんですよ。それだけじゃもちろん王の人格は戻らないって言ってました!」
「そうなの?」
「そうなんです! でも時期が来れば自然と兆候が現れるって言ってましたよ。選ばれさえすればね」
「選ばれる? 何に?」
「そこまではわかりませーん。それじゃぁ、私はこれで」

 立ち去ろうとするスマートレディにロブスターオルフェノクは問いかける。

「貴女、私に協力しない?」
「そこまでやる義理はありませんよーぅ。私は一人寂しく人間として生きますからぁ」
「そう……そういえば琢磨君、元気にしてるかしら」
「あ、この前工事現場で見ましたよー!」
「落ちたものね。あの時逃げさえしなければ」
「新しい仕事の時間でーす。ですから私はこれで」

 それではー、とスマートレディは足早に立ち去る。
 止めることも考えはしたがそれはいつでもできる事だ。まずは王を追いかけなければならない。
 そう思った瞬間カードが白く発光し、目の前に大きな魔方陣が出現する。

「便利ね。有効活用させてもらうわ」


 それから追跡者と王の追跡合戦は幾度も繰りかえされる。人のいない闇の中、人気の無い山の中でも。
 ある時は部下を引き連れて、ある時は単身で。王の居場所にはカードが導いてくれる。
 そして単身での捜索時の、ボロボロのローブを纏った王の身体を見た時の事。

「……これは、もしかしたら!」

 彼に逃げられた後、彼女は気が付いた。
 カードが薄く光り、何かが宿ったかのような暖かさを帯びた事に。
 彼女は歓喜する。それは選ばれたという合図。後は鍵を差し込むだけだった。
 だが今の状況で追いかけても恐らく簡単に逃げられてしまうだろう。

「フフ、念には念を押させてもらうわ。待ってなさいね、坊や」



アークオルフェノク ◆XsvaOSw0h. 氏作:2010/01/12(火)

#Ex
王の覚醒

 彼は逃げる。
 今までに無いほどの不安が追跡者である彼女から感じられた。
 青い炎をばら撒きながら気の間を駆け抜けるも彼女を完全に撒く事ができない。
 手下のオルフェノク達が行く手の邪魔をする。ここは山の中、自由に飛びまわれるほど空間が空っぽでは無い。

「待ちなさい。もう戦う必要なんて無いのよ。私が元に戻してあげるから」

 それは嘘。見え見えの罠に引っかかるほど彼は単純じゃなかった。
 不死者達を飛び越え、必死に魔方陣が現れるのを待ち続ける。だがやがて彼に向かって白い光が飛んでいく。

「あら、自分から向かっていくのね。フフ、面白いわ」

 それは彼女の、ロブスターオルフェノクこと影山冴子の手から飛び出したものだった。
 スマートレディから貰い受けた、王の人格を取り戻すための鍵。これさえあれば王は戻ってくる。
 そして鍵は自ずから扉を開けるために鍵穴へと向かったのだ。

 黒い空間。彼の目の前に白く異形の身体が浮かび上がる。
 そしてその白い影が自分へと語り欠ける。

「我は復活した。身体を貰い受けるぞ」
「っ……!」

 自分が崩れていくのがわかる。折角チャンスを得たのに、彼に諦められるわけが無かった。

「い、嫌だ―――!」
「ぬうっ!?」

 衝撃波が王の人格を空間へと縫い付ける。
 復活したばかりである王の人格は、たかが己の一因である彼にさえ勝てないほどまだ不完全。
 完全になるには力を蓄えなければならない。ならばと王のは抵抗を止める。

「ふむ……しばらくはその身体、貸し与えよう。しかし力が戻れば――」

 気が付けば彼は王の身体へと戻っていた。
 自分を見下ろし期待に満ちた視線を送るロブスターオルフェノク。
 それに気づいた彼は無言で立ち上がってふらふらとその場から立ち去る。
 だが彼女が追っ手を向かわす事は無かった。様子のおかしな彼に、彼女は王が復活したという確信を得ていたからだ。

「フフ、しばらくはぼうやの好きにさせてあげる。でもいつまで持つかしら?」

 既に光は注がれた。満たされた器はやがて新たに注ぎ込まれたモノで満たされる。
 その時が彼女の、彼女達の勝利の時だった。


名前:
コメント:

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2010年04月25日 01:16