きっさんらが
2003年4月15日(火)part1
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rockshow
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4月15日
校門まで残り200メートル。
また、いた。
「おまえ、またかよ…どうして、ひとりじゃ上れないんだ?」
「えっと…それは…その、なんといいますか…」
「いや、別に無理して話さなくていいけどさ…俺ら他人だし」
「あ、はい…」
「でもさ、学校は真面目に出たほうがいいぞ」
「遅刻してます」
ぴっ、と俺を指さした。
「俺はいいんだよ…俺は…」
目を逸らす。
そもそも何を俺はこんなに真面目ぶって、他人を諭してるんだろう。
そう、こいつの言う通り、同じ不良学生だ。
「好きにしてくれ」
見捨てて、ひとり坂を登り始める。
ただ…
そんな不良に見えなかったから、話しかけてしまっただけだ。
それだけだ。
「あっ、待ってください」
声…さっきの女の。
「あの…ついていっていいですか」
振り返ると、すぐ後ろにちょこんと立っていた。
「どうして」
「それは…ひとりで行くのは、不安だからです………」
こんな見ず知らずの男を頼るこいつ。
友達のひとりやふたり、居るだろうに、なんでまた俺なんかを…。
俺は逆行に目を細めながら、坂を見上げる。
どうせ、すぐそこまでだ。
「好きにしてくれ」
言って、再び歩き出す。
「待ってください」
「今度はなんだよ」
彼女は俺を見つめながら…
「あんパンっ…」
そう言った。
「………」
俺はなんて答えればいいのだろうか。
「フランスパン」
「なんのことだか、よくわからないです」
「それはこっちのセリフだ。なんだ、あんパンが好きなだけか」
「いえ、取り立てては。といっても嫌いなわけではないです。どっちかというと好きです」
回りくどい奴だった。別に何でもいい。
「いくぞ」
「はいっ」
その返事は、少しだけ元気になっていた。
謎の言葉は、まじないか何かだったのか。
たとたとたとっ…
後ろから駆け足に近い足音が聞こえ続けた。
また、いた。
「おまえ、またかよ…どうして、ひとりじゃ上れないんだ?」
「えっと…それは…その、なんといいますか…」
「いや、別に無理して話さなくていいけどさ…俺ら他人だし」
「あ、はい…」
「でもさ、学校は真面目に出たほうがいいぞ」
「遅刻してます」
ぴっ、と俺を指さした。
「俺はいいんだよ…俺は…」
目を逸らす。
そもそも何を俺はこんなに真面目ぶって、他人を諭してるんだろう。
そう、こいつの言う通り、同じ不良学生だ。
「好きにしてくれ」
見捨てて、ひとり坂を登り始める。
ただ…
そんな不良に見えなかったから、話しかけてしまっただけだ。
それだけだ。
「あっ、待ってください」
声…さっきの女の。
「あの…ついていっていいですか」
振り返ると、すぐ後ろにちょこんと立っていた。
「どうして」
「それは…ひとりで行くのは、不安だからです………」
こんな見ず知らずの男を頼るこいつ。
友達のひとりやふたり、居るだろうに、なんでまた俺なんかを…。
俺は逆行に目を細めながら、坂を見上げる。
どうせ、すぐそこまでだ。
「好きにしてくれ」
言って、再び歩き出す。
「待ってください」
「今度はなんだよ」
彼女は俺を見つめながら…
「あんパンっ…」
そう言った。
「………」
俺はなんて答えればいいのだろうか。
「フランスパン」
「なんのことだか、よくわからないです」
「それはこっちのセリフだ。なんだ、あんパンが好きなだけか」
「いえ、取り立てては。といっても嫌いなわけではないです。どっちかというと好きです」
回りくどい奴だった。別に何でもいい。
「いくぞ」
「はいっ」
その返事は、少しだけ元気になっていた。
謎の言葉は、まじないか何かだったのか。
たとたとたとっ…
後ろから駆け足に近い足音が聞こえ続けた。
………。
チャイムが鳴り授業が終わった。
「あの…」
「…ん?」
不意に声をかけられ振り向く。
「あ…」
藤林椋…?
このクラスの委員長をしている奴だっけな。
もっとも、正しくは委員長をやらされている奴、なんだろうけど…。
確か杏の双子の妹だったな。
頼りなさげな目を左右に泳がしながら、俺の机の隣に立っている。
「え…えっと…」
「…なに?」
「あ、あの…これ…」
そう言って俺に差し出してきたのは一枚のプリントだった。
「…ラブレター?」
「え?ち、ちがいま――…」
「見かけによらず大胆だな? むき出しで渡すなんて、なかなか出来ることじゃないぞ」
「その…ラブ…レターとか…そんなのじゃないで――…」
「じゃあ不幸の手紙か? こんなに堂々と渡すってのはイジメだと思うんだが…」
「ふ、不幸の手紙でもないと思います…」
「………」
「………」
「果たし状?」
「~~~…」
ぐっ…
藤林は顔を真っ赤にしながら、プリントを俺の胸に押し付けた。
「あ、朝のHRの時に配られたプリント…です」
「なんだ、つまらねぇ」
受け取ったプリントを見ないでそのまま机の中に押し込む。
どうせ大したプリントでもないだろうし。
「………」
「…ん? まだ何かあるのか?」
「ぁ…えっと…あまり遅刻とかしない方がいいと思うんです」
「…別にお前には関係ないだろ」
「でも…その…学校には…ちゃんと来た方が良いと思いますから…」
「委員長ともなると、同じクラスの奴の出席にまで口を出すのか?」
「そ…そういうわけじゃ…ないですけど…でも……その…」
ジワ…と目が潤む。
「………」
少し言い過ぎたかもしれない。
「悪かったよ、ちょっと言い過ぎた」
「いえ…出過ぎたことを言った私が…悪いですから……すみません…」
「おい岡崎、委員長泣かすなよ。姉貴が飛んで来るぞ」
「…大丈夫です…泣いてませんから…」
目を涙でうるうるさせて言うセリフでもないと思う。
とりあえず、目から零れてはいないから、泣いていないということにしよう。
「…まぁ忠告だけはもらっとくよ」
「あ、は、はい…でも、できれば…遅刻もしないようにしてください」
藤林はそう言うと、上着のポケットからトランプを取り出した。
そしておもむろにぎこちない手つきで札をくりだす。
シュッ…シュッ…シュッ…シュッ…。
「…?」
シュッ…シュッ…シュッ…シュ――…
「あ…」
バララ…。
派手に床にばらまいた。
「あ…あ…う~…」
慌てて床に落としたトランプを拾い集めると、また札をくりだした。
今度はちゃんとくれたらしい。
藤林はトランプを不恰好な扇状に広げると、俺に裏を向けて差し出してきた。
「…え? なに…?」
「…あの…どうぞ」
「…一枚選べと?」
「さ、三枚選んでください…」
「………」
いきなりわけがわからん…。
手品でも見せてくれるのだろうか…?
とりあえずトランプの束から三枚抜き取る。
「見せてください」
「ほれ」
俺の選んだ三枚の札をジッと見つめる。
「…あ…」
「ん?」
「…岡崎くん…明日遅刻です」
喧嘩売ってんのか…こいつ…。
「あのなぁ、遅刻しないで来いと言っといてなんだそれは?」
「あ…あの…学校に来る途中、横断歩道を渡れなくて困っているお婆さんがいて、手をかしてあげていたら遅刻してしまいます…でもたくさん感謝されて、お小遣いとかもらえます」
「ちょっと待てっ!なんだその具体性抜群な占いは?! タロットとかならともかく、トランプでそんなこと言われて納得いくか! 数字とマークだけで、どうやってそんな事態が浮かび上がってくるんだ」
「お…乙女のインスピレーションです…」
第六感フル稼働だ…。
しかも言いきってるし…。
「…ひょっとして実は俺に学校に来てほしくないとか…?」
「そ…そんなことないです…ただ…占いでそう出ただけなので…」
「…わかった。明日は絶対遅刻しないからな」
「え?」
「横断歩道でお婆さんが困っていても見て見ぬフリだ」
「そ、それはよくないと思います… こ…困っている人は助けてあげないとダメだと思うんです…」
「いや、見捨てる」
「でも…」
キーンコーンカーンコーン…。
「あ…」
「ほれ、チャイムが鳴ったぞ。自分の席に戻れ」
「…は…はい…」
俺に言われて肩を落としながら自分の席に向かう藤林。
ったく…こっちの方が落ち込みたくなる…。
「あの…」
「ん?」
「占い…あまり気にしないで下さい…」
それだけを言うと、藤林は小走りで自分の席へと戻っていった。
「………」
やっぱりあいつは喧嘩を売ってるんじゃないのか…?
妙な占いの結果だけを残されて、少しブルーになった。
チャイムが鳴り授業が終わった。
「あの…」
「…ん?」
不意に声をかけられ振り向く。
「あ…」
藤林椋…?
このクラスの委員長をしている奴だっけな。
もっとも、正しくは委員長をやらされている奴、なんだろうけど…。
確か杏の双子の妹だったな。
頼りなさげな目を左右に泳がしながら、俺の机の隣に立っている。
「え…えっと…」
「…なに?」
「あ、あの…これ…」
そう言って俺に差し出してきたのは一枚のプリントだった。
「…ラブレター?」
「え?ち、ちがいま――…」
「見かけによらず大胆だな? むき出しで渡すなんて、なかなか出来ることじゃないぞ」
「その…ラブ…レターとか…そんなのじゃないで――…」
「じゃあ不幸の手紙か? こんなに堂々と渡すってのはイジメだと思うんだが…」
「ふ、不幸の手紙でもないと思います…」
「………」
「………」
「果たし状?」
「~~~…」
ぐっ…
藤林は顔を真っ赤にしながら、プリントを俺の胸に押し付けた。
「あ、朝のHRの時に配られたプリント…です」
「なんだ、つまらねぇ」
受け取ったプリントを見ないでそのまま机の中に押し込む。
どうせ大したプリントでもないだろうし。
「………」
「…ん? まだ何かあるのか?」
「ぁ…えっと…あまり遅刻とかしない方がいいと思うんです」
「…別にお前には関係ないだろ」
「でも…その…学校には…ちゃんと来た方が良いと思いますから…」
「委員長ともなると、同じクラスの奴の出席にまで口を出すのか?」
「そ…そういうわけじゃ…ないですけど…でも……その…」
ジワ…と目が潤む。
「………」
少し言い過ぎたかもしれない。
「悪かったよ、ちょっと言い過ぎた」
「いえ…出過ぎたことを言った私が…悪いですから……すみません…」
「おい岡崎、委員長泣かすなよ。姉貴が飛んで来るぞ」
「…大丈夫です…泣いてませんから…」
目を涙でうるうるさせて言うセリフでもないと思う。
とりあえず、目から零れてはいないから、泣いていないということにしよう。
「…まぁ忠告だけはもらっとくよ」
「あ、は、はい…でも、できれば…遅刻もしないようにしてください」
藤林はそう言うと、上着のポケットからトランプを取り出した。
そしておもむろにぎこちない手つきで札をくりだす。
シュッ…シュッ…シュッ…シュッ…。
「…?」
シュッ…シュッ…シュッ…シュ――…
「あ…」
バララ…。
派手に床にばらまいた。
「あ…あ…う~…」
慌てて床に落としたトランプを拾い集めると、また札をくりだした。
今度はちゃんとくれたらしい。
藤林はトランプを不恰好な扇状に広げると、俺に裏を向けて差し出してきた。
「…え? なに…?」
「…あの…どうぞ」
「…一枚選べと?」
「さ、三枚選んでください…」
「………」
いきなりわけがわからん…。
手品でも見せてくれるのだろうか…?
とりあえずトランプの束から三枚抜き取る。
「見せてください」
「ほれ」
俺の選んだ三枚の札をジッと見つめる。
「…あ…」
「ん?」
「…岡崎くん…明日遅刻です」
喧嘩売ってんのか…こいつ…。
「あのなぁ、遅刻しないで来いと言っといてなんだそれは?」
「あ…あの…学校に来る途中、横断歩道を渡れなくて困っているお婆さんがいて、手をかしてあげていたら遅刻してしまいます…でもたくさん感謝されて、お小遣いとかもらえます」
「ちょっと待てっ!なんだその具体性抜群な占いは?! タロットとかならともかく、トランプでそんなこと言われて納得いくか! 数字とマークだけで、どうやってそんな事態が浮かび上がってくるんだ」
「お…乙女のインスピレーションです…」
第六感フル稼働だ…。
しかも言いきってるし…。
「…ひょっとして実は俺に学校に来てほしくないとか…?」
「そ…そんなことないです…ただ…占いでそう出ただけなので…」
「…わかった。明日は絶対遅刻しないからな」
「え?」
「横断歩道でお婆さんが困っていても見て見ぬフリだ」
「そ、それはよくないと思います… こ…困っている人は助けてあげないとダメだと思うんです…」
「いや、見捨てる」
「でも…」
キーンコーンカーンコーン…。
「あ…」
「ほれ、チャイムが鳴ったぞ。自分の席に戻れ」
「…は…はい…」
俺に言われて肩を落としながら自分の席に向かう藤林。
ったく…こっちの方が落ち込みたくなる…。
「あの…」
「ん?」
「占い…あまり気にしないで下さい…」
それだけを言うと、藤林は小走りで自分の席へと戻っていった。
「………」
やっぱりあいつは喧嘩を売ってるんじゃないのか…?
妙な占いの結果だけを残されて、少しブルーになった。
三時間目が終わって、机に突っ伏していると、隣の席でどん!と大きな音がした。
顔を上げると、春原の奴が机に鞄を叩きつけていた。
「どうした、朝っぱらから不機嫌そうだな」
「………朝はいい目覚めだったよ…」
「そりゃよかったじゃん」
「問題はその後だよ…」
〈僕は、朝食を食べた後、コーヒーを入れて、部屋に戻ってくるんだ。 朝の穏やかな一時。この時間が一番、幸せを感じる時だね。〉
「急げよ…」
〈僕はいつものように、ラジカセの再生ボタンを押して、コーヒーを飲み始める。 BGMはお気に入りのヒップホップ。しかも、この世にひとつしかないマイベストだ。
『いやぁ、優雅だねぇ…』
ずずぅーっ。
『…YO!YO!オレ岡崎!オマエはっ――オマエは…アオテナガフクロオオスノハラモドキ! 青くて手が長くて袋を持ってて大きい春原のモドキなんだ。って、モドキじゃないオリジナルで十分怖ぇよっ!ってツッコミたくならんか?』
『ぶぅーーーーーーっ!』〉
「コーヒー吹き出しただろうがっっ! なんで、イカしたラップが、おまえのわけわからんラップに替わってるんだよっ!」
「え? それ、俺か?」
「オレ岡崎って、自己紹介してたじゃないかよっ!」
「ああ、そうだったな…」
「あのテープは、一本しかないお気に入りのベストだったんだよっ!」
「おまえのためにと思ってやろうとしたんだから、勘弁しろよ」
「あんなもの、うまくできていたとしても、うれしいわけないだろ!」
「なんでだよ。おまえのいいところをピックアップしてラップで歌ってやろうとしたんだぞ?」
「アオテナガ…覚えられんぐらいわけわからんわっ!」
「アオテナガフクロオオスノハラモドキだよ。 モドキじゃないオリジナルで十分怖ぇよ!ってツッコミたくなるだろ?」
「ならねぇし、だからってなんなんだよっ!」
「いや、いざやってみたら、それぐらいしか思いつかなかったんだよ。悪いっ」
「すんげぇ、人の神経逆撫でしてるんですけどっ」
「え? 俺が悪いのか?」
「僕が悪いんすかねぇっ! しかも、おまえ、録音ボタン押しっぱなしで帰っただろっ! その後もずっと消えてたじゃないかよぉっ」
「あんな、古くさい曲いいじゃん」
「あれが最高なんだよっっ!戻せよっっ!」
「無理言うな」
「CD、また借りてこいよっ!」
「今度、また、気合入れて盗り直すから、それで許してくれよ」
「二度と録るなっ、触るなっ!――くそぅ…どうして、こんな目に…」
「いい教訓になっただろ。今度から大切なテープはちゃんとツメ折っておけよ」
「ツメ折ってあっても、あんたテープ貼って、録音しそうなんだけど…」
「じゃあ、大事なものは隠しておけ」
「あんたが、何もしなければいいだけでしょっ! もう、二度と僕の部屋にくるなっ」
乱暴に椅子を引いて、座る。
「昼まで寝るから、起こすなよ…」
「おまえはさっきまで寝ていたんじゃないのか」
「清々しい朝を、誰かさんにぶちこわしにされたからね…」
言って、机に突っ伏す。
「ふわぁ」
眠気が移ったのだろうか、生あくびひとつする。
そして、四時間目の科目を、前の机の上を見て確かめる。
あの薄い教科書は…英語のグラマーか。
当てられまくる授業だった。
「(たるい…サボろう…)」
教室を抜け出し、いつものように旧校舎のほうに向かった。
顔を上げると、春原の奴が机に鞄を叩きつけていた。
「どうした、朝っぱらから不機嫌そうだな」
「………朝はいい目覚めだったよ…」
「そりゃよかったじゃん」
「問題はその後だよ…」
〈僕は、朝食を食べた後、コーヒーを入れて、部屋に戻ってくるんだ。 朝の穏やかな一時。この時間が一番、幸せを感じる時だね。〉
「急げよ…」
〈僕はいつものように、ラジカセの再生ボタンを押して、コーヒーを飲み始める。 BGMはお気に入りのヒップホップ。しかも、この世にひとつしかないマイベストだ。
『いやぁ、優雅だねぇ…』
ずずぅーっ。
『…YO!YO!オレ岡崎!オマエはっ――オマエは…アオテナガフクロオオスノハラモドキ! 青くて手が長くて袋を持ってて大きい春原のモドキなんだ。って、モドキじゃないオリジナルで十分怖ぇよっ!ってツッコミたくならんか?』
『ぶぅーーーーーーっ!』〉
「コーヒー吹き出しただろうがっっ! なんで、イカしたラップが、おまえのわけわからんラップに替わってるんだよっ!」
「え? それ、俺か?」
「オレ岡崎って、自己紹介してたじゃないかよっ!」
「ああ、そうだったな…」
「あのテープは、一本しかないお気に入りのベストだったんだよっ!」
「おまえのためにと思ってやろうとしたんだから、勘弁しろよ」
「あんなもの、うまくできていたとしても、うれしいわけないだろ!」
「なんでだよ。おまえのいいところをピックアップしてラップで歌ってやろうとしたんだぞ?」
「アオテナガ…覚えられんぐらいわけわからんわっ!」
「アオテナガフクロオオスノハラモドキだよ。 モドキじゃないオリジナルで十分怖ぇよ!ってツッコミたくなるだろ?」
「ならねぇし、だからってなんなんだよっ!」
「いや、いざやってみたら、それぐらいしか思いつかなかったんだよ。悪いっ」
「すんげぇ、人の神経逆撫でしてるんですけどっ」
「え? 俺が悪いのか?」
「僕が悪いんすかねぇっ! しかも、おまえ、録音ボタン押しっぱなしで帰っただろっ! その後もずっと消えてたじゃないかよぉっ」
「あんな、古くさい曲いいじゃん」
「あれが最高なんだよっっ!戻せよっっ!」
「無理言うな」
「CD、また借りてこいよっ!」
「今度、また、気合入れて盗り直すから、それで許してくれよ」
「二度と録るなっ、触るなっ!――くそぅ…どうして、こんな目に…」
「いい教訓になっただろ。今度から大切なテープはちゃんとツメ折っておけよ」
「ツメ折ってあっても、あんたテープ貼って、録音しそうなんだけど…」
「じゃあ、大事なものは隠しておけ」
「あんたが、何もしなければいいだけでしょっ! もう、二度と僕の部屋にくるなっ」
乱暴に椅子を引いて、座る。
「昼まで寝るから、起こすなよ…」
「おまえはさっきまで寝ていたんじゃないのか」
「清々しい朝を、誰かさんにぶちこわしにされたからね…」
言って、机に突っ伏す。
「ふわぁ」
眠気が移ったのだろうか、生あくびひとつする。
そして、四時間目の科目を、前の机の上を見て確かめる。
あの薄い教科書は…英語のグラマーか。
当てられまくる授業だった。
「(たるい…サボろう…)」
教室を抜け出し、いつものように旧校舎のほうに向かった。
足音を殺して、廊下を進む。
ここらの教室は、ほとんど使用されていない。
申請があれば文化部の部室にあてがわれるらしいが、実際は放置されている。
見咎められることなく、俺は空き教室のひとつに潜り込み、適当な椅子に座り、背もたれに深く体を預けた。
カーテンのない窓の向こう、代わり映えのしない空。
「せっかくサボって、やることは暇つぶしかよ…」
自分の呟きが、がらんとした部屋に吸い込まれていく。
こんな生活も、いつか変わるんだろうか?
変わる日が来るんだろうか?
そんなことを言ってた奴がいたな…
女々しい奴だと思ってから、自分だと気づいた。
俺は目を閉じた。
時間だけを先送りに出来たら、どんなにいいだろうと思った。
………。
……。
…。
ほぼ真上に来た太陽の陽射しに、たまらなくなって目を開けた。
何もない場所にいるのは、そのぐらいが限界だった。
俺は空き教室を出た。
ここらの教室は、ほとんど使用されていない。
申請があれば文化部の部室にあてがわれるらしいが、実際は放置されている。
見咎められることなく、俺は空き教室のひとつに潜り込み、適当な椅子に座り、背もたれに深く体を預けた。
カーテンのない窓の向こう、代わり映えのしない空。
「せっかくサボって、やることは暇つぶしかよ…」
自分の呟きが、がらんとした部屋に吸い込まれていく。
こんな生活も、いつか変わるんだろうか?
変わる日が来るんだろうか?
そんなことを言ってた奴がいたな…
女々しい奴だと思ってから、自分だと気づいた。
俺は目を閉じた。
時間だけを先送りに出来たら、どんなにいいだろうと思った。
………。
……。
…。
ほぼ真上に来た太陽の陽射しに、たまらなくなって目を開けた。
何もない場所にいるのは、そのぐらいが限界だった。
俺は空き教室を出た。
何気なく階段を下りようとした時。
廊下の突き当りの引き戸が目に入った。
図書室だった。
『閉室中』と書かれた札がかかっている。
よく見ると、戸の端がほんの少しだけ開いていた。
なぜだか気になった。
廊下の突き当りの引き戸が目に入った。
図書室だった。
『閉室中』と書かれた札がかかっている。
よく見ると、戸の端がほんの少しだけ開いていた。
なぜだか気になった。
引き戸を開け、中に入ってみた。
背の高い書棚と閲覧席が、整然と並んでいる。
かすかな風に乗って、埃と紙の匂いがした。
吹き流されたカーテンが、息をするように揺れている。
その向こう、窓際に人影があった。
子供っぽい髪飾りをした、物静かな感じの女生徒。
胸元の校章の色は、俺と同じ三年生だ。
なぜだか、床にぺたんと座り込んでいる。
…気分でも悪いんだろうか?
近づこうとして、彼女が熱心に本を読んでいるのに気づいた。
サボリだろうか?
こんな時間に教室にいないのは、俺か春原ぐらいだと思っていた。
俺のことには気づかず、彼女は本を読み続けている。
と、ページをめくる手が止まった。
何か見つけたらしい。
なぜかハサミを取り出した。
本のページに刃を当てて、何秒かの間動作を止める。
何かを念じるかのようだった。
そして。
じょきじょきじょき。
ためらうことなく、本を切り抜いていった…
「ちょっと待て、こらっ」
思わず駆け寄ってしまっていた。
「?」
手を止めて、俺の顔を見上げる。
なぜだか、彼女は素足だった。
上履きも靴下も、脱いだまま床に置かれている。
その周りに、彼女のものらしい巾着袋と本の山…
さらによく見れば、どこから見つけてきたのかクッションまで敷いていた。
真剣なまなざしと、自分の家のようなくつろいだ格好が不釣合いだった。
「それ、図書室の本だろ?」
「??」
何事か考える。
じょきじょきじょき。
「はい」
切り取ったページの隅を新しく切って、俺に差し出してきた。
「はしっこの方が、おいしいの」
カステラか焼き豚みたいなことを言う。
「食べるのか、あんたはこれを」
成り行きで受け取ってしまった紙切れを突きつけ、そう訊いてやる。
「食べないの。ヤギじゃないから」
「そうだろうな」
「紙、食べたい?」
「俺だって食べたくない」
「お腹、空いてない?」
「いや。そろそろ腹は減ってきたところだ」
「私も、お腹空いてきたの」
「………」
会話が噛み合っているようで、根本的にずれている気がする。
「とにかくだ。学校の本を切り取るのはどうかと思うぞ」
柄にもないが、一応説教しておく。
じょきじょき。
聞いちゃいなかった。
「?」
「いや、もういい。勝手にしてくれ」
渡されたページの切れ端を、床に放った。
ついでに、少女の周りに置かれている本をそれとなく眺める。
いちばん厚い本の表紙には、『宇宙物理学~その歴史と展望~』と書かれていた。
俺が読んでも、1行も意味がわからないだろう。
こんな図書室には似つかわしくないぐらい、専門的で高価そうな本ばかりだ。
よく見ると、『県立図書館蔵書』と印がおしてある。
「………」
そもそも学校の本じゃなかった。
「あのなあ…」
思わず髪を掻きむしる俺。
「『みんなのものは大切に』って、子供の頃親に言われただろ?」
「??」
また何事か考える。
巾着袋の中から、何か箱のようなものを取り出し、ぱかっと蓋を開ける。
「お弁当」
「………」
「とってもおいしいお弁当」
聞いてないっての。
「私の手作りなの。 今日のメニューは、出汁巻き卵と肉じゃがとほうれん草と煮豆なの。特にこの辺が自信作」
タッパーの中を指さす。
「たしかに、うまそうだけどな…」
図書室は、飲食禁止だった気がする。
それ以前に、今は授業中だったような気もする。
「食べる?」
「いや、そうじゃなくてだな…」
「今日のは、粘土じゃないから」
「…普段は粘土で作った弁当を食ってるのか?」
「食べないの。お腹こわすから。 粘土、食べたい?」
「俺だって食べたくない」
「お腹、空いてない?」
「いや。そろそろ腹は減ってきたところだ」
「私も、お腹空いてきたの」
会話が噛み合わない上に、ループしてるような気がする。
「ちょっと待て。俺はだな…」
「食べる?」
俺の目をまっすぐに見て、もう一度訊いてくる。
「食べる…?」
どこか心細そうな声。
窓から入ってくる風に、子供っぽい髪留めがふわりと揺れる。
なぜだか少し、罪悪感を覚えた。
…食べるか。
「少しだけ、もらうな」
彼女は少し安心したように、こくりと頷いた。
「いただきましょう。 いただきます」
きちんと手を合わせ、ぺこりとお辞儀をする。
「あーんして」
「あーん。…って、初対面なのにそんな恥ずかしいことできるかっ!」
「???」
なにが恥ずかしいのか、わからないらしい。
「はあ…」
この少女の浮世離れっぷりは、只者ではない気がする。
「ええと… でも、お箸、一膳しかないの。 どうしよう…」
俺は肉じゃがをひとつ、指でひょいっとつまんで、口に入れた。
よく噛んで食べる。
冷たいけれどよく味が染みている。
これが手作りなら、かなり料理上手だと思う。
「お…」
少女は何か言いかけて、もう一度俺の顔を見た。
「おいしい?」
「まあまあ、だな」
答えると、かすかに微笑んだ。
「もっと食べる?」
その時、昼休みのチャイムが鳴った。
もう15分もすれば、予習をする生徒でここも混み合うはずだ。
そう量が多くない弁当を、これ以上もらうわけにもいかない。
「邪魔したな」
それだけ言って、彼女から背を向けた。
「ええと…」
何か言いたそうにして、ためらったのがわかった。
「また、明日」
それだけ聞こえた。
俺は肩越しにひょいっと左手を上げて、図書室を後にした。
背の高い書棚と閲覧席が、整然と並んでいる。
かすかな風に乗って、埃と紙の匂いがした。
吹き流されたカーテンが、息をするように揺れている。
その向こう、窓際に人影があった。
子供っぽい髪飾りをした、物静かな感じの女生徒。
胸元の校章の色は、俺と同じ三年生だ。
なぜだか、床にぺたんと座り込んでいる。
…気分でも悪いんだろうか?
近づこうとして、彼女が熱心に本を読んでいるのに気づいた。
サボリだろうか?
こんな時間に教室にいないのは、俺か春原ぐらいだと思っていた。
俺のことには気づかず、彼女は本を読み続けている。
と、ページをめくる手が止まった。
何か見つけたらしい。
なぜかハサミを取り出した。
本のページに刃を当てて、何秒かの間動作を止める。
何かを念じるかのようだった。
そして。
じょきじょきじょき。
ためらうことなく、本を切り抜いていった…
「ちょっと待て、こらっ」
思わず駆け寄ってしまっていた。
「?」
手を止めて、俺の顔を見上げる。
なぜだか、彼女は素足だった。
上履きも靴下も、脱いだまま床に置かれている。
その周りに、彼女のものらしい巾着袋と本の山…
さらによく見れば、どこから見つけてきたのかクッションまで敷いていた。
真剣なまなざしと、自分の家のようなくつろいだ格好が不釣合いだった。
「それ、図書室の本だろ?」
「??」
何事か考える。
じょきじょきじょき。
「はい」
切り取ったページの隅を新しく切って、俺に差し出してきた。
「はしっこの方が、おいしいの」
カステラか焼き豚みたいなことを言う。
「食べるのか、あんたはこれを」
成り行きで受け取ってしまった紙切れを突きつけ、そう訊いてやる。
「食べないの。ヤギじゃないから」
「そうだろうな」
「紙、食べたい?」
「俺だって食べたくない」
「お腹、空いてない?」
「いや。そろそろ腹は減ってきたところだ」
「私も、お腹空いてきたの」
「………」
会話が噛み合っているようで、根本的にずれている気がする。
「とにかくだ。学校の本を切り取るのはどうかと思うぞ」
柄にもないが、一応説教しておく。
じょきじょき。
聞いちゃいなかった。
「?」
「いや、もういい。勝手にしてくれ」
渡されたページの切れ端を、床に放った。
ついでに、少女の周りに置かれている本をそれとなく眺める。
いちばん厚い本の表紙には、『宇宙物理学~その歴史と展望~』と書かれていた。
俺が読んでも、1行も意味がわからないだろう。
こんな図書室には似つかわしくないぐらい、専門的で高価そうな本ばかりだ。
よく見ると、『県立図書館蔵書』と印がおしてある。
「………」
そもそも学校の本じゃなかった。
「あのなあ…」
思わず髪を掻きむしる俺。
「『みんなのものは大切に』って、子供の頃親に言われただろ?」
「??」
また何事か考える。
巾着袋の中から、何か箱のようなものを取り出し、ぱかっと蓋を開ける。
「お弁当」
「………」
「とってもおいしいお弁当」
聞いてないっての。
「私の手作りなの。 今日のメニューは、出汁巻き卵と肉じゃがとほうれん草と煮豆なの。特にこの辺が自信作」
タッパーの中を指さす。
「たしかに、うまそうだけどな…」
図書室は、飲食禁止だった気がする。
それ以前に、今は授業中だったような気もする。
「食べる?」
「いや、そうじゃなくてだな…」
「今日のは、粘土じゃないから」
「…普段は粘土で作った弁当を食ってるのか?」
「食べないの。お腹こわすから。 粘土、食べたい?」
「俺だって食べたくない」
「お腹、空いてない?」
「いや。そろそろ腹は減ってきたところだ」
「私も、お腹空いてきたの」
会話が噛み合わない上に、ループしてるような気がする。
「ちょっと待て。俺はだな…」
「食べる?」
俺の目をまっすぐに見て、もう一度訊いてくる。
「食べる…?」
どこか心細そうな声。
窓から入ってくる風に、子供っぽい髪留めがふわりと揺れる。
なぜだか少し、罪悪感を覚えた。
…食べるか。
「少しだけ、もらうな」
彼女は少し安心したように、こくりと頷いた。
「いただきましょう。 いただきます」
きちんと手を合わせ、ぺこりとお辞儀をする。
「あーんして」
「あーん。…って、初対面なのにそんな恥ずかしいことできるかっ!」
「???」
なにが恥ずかしいのか、わからないらしい。
「はあ…」
この少女の浮世離れっぷりは、只者ではない気がする。
「ええと… でも、お箸、一膳しかないの。 どうしよう…」
俺は肉じゃがをひとつ、指でひょいっとつまんで、口に入れた。
よく噛んで食べる。
冷たいけれどよく味が染みている。
これが手作りなら、かなり料理上手だと思う。
「お…」
少女は何か言いかけて、もう一度俺の顔を見た。
「おいしい?」
「まあまあ、だな」
答えると、かすかに微笑んだ。
「もっと食べる?」
その時、昼休みのチャイムが鳴った。
もう15分もすれば、予習をする生徒でここも混み合うはずだ。
そう量が多くない弁当を、これ以上もらうわけにもいかない。
「邪魔したな」
それだけ言って、彼女から背を向けた。
「ええと…」
何か言いたそうにして、ためらったのがわかった。
「また、明日」
それだけ聞こえた。
俺は肩越しにひょいっと左手を上げて、図書室を後にした。
昼休みになっているというのに、春原はまだ自分の席で眠ったままでいた。
「おい、起きろっ」
「ん…? え、授業終わったの?」
「とっくの昔にな」
「昔って…どのぐらい?」
「そうだな、100年は経ったな」
「あはは、おまえ、死んでるじゃん」
「ああ。立体映像なんだ」
「えっ、マジかよっ」
「ああ…春原、おまえはあれから100年眠り続けていたんだ」
「つーことは…ここって、100年後の未来なのかよ…。 世界は、どうなってるんだ…?」
「滅びた」
「マジかよっ!」
「ああ、だから、最後に昼飯をおごれ」
「あ、ああ…おごるよ…なんだってしてやるよ…。 そうなのか…世界は滅びたのか…。 父さん、母さん…最後まで馬鹿やってて、ごめんよ…」
「いいから、早くおごれって」
「僕、ひとりでも…強く生きていくよ…」
「早くおごれってのっ」
ガスッ。
「うぉっ、立体映像に蹴られたあぁーっ!! てめぇ、立体映像じゃねぇだろっ! 未来ってのも、嘘かぁっ!」
「実はサイボーグなんだ」
「じゃ、世界は…?」
「滅びた」
「マジかよっ!」
「父さん…母さん…最後まで馬鹿やってて、ごめんよ…。 僕、岡崎サイボーグと力を合わせて、生きていくよ…」
「嫌だ」
「人類最後の人間なんだから、協力しろよっ!」
「おい、起きろっ」
「ん…? え、授業終わったの?」
「とっくの昔にな」
「昔って…どのぐらい?」
「そうだな、100年は経ったな」
「あはは、おまえ、死んでるじゃん」
「ああ。立体映像なんだ」
「えっ、マジかよっ」
「ああ…春原、おまえはあれから100年眠り続けていたんだ」
「つーことは…ここって、100年後の未来なのかよ…。 世界は、どうなってるんだ…?」
「滅びた」
「マジかよっ!」
「ああ、だから、最後に昼飯をおごれ」
「あ、ああ…おごるよ…なんだってしてやるよ…。 そうなのか…世界は滅びたのか…。 父さん、母さん…最後まで馬鹿やってて、ごめんよ…」
「いいから、早くおごれって」
「僕、ひとりでも…強く生きていくよ…」
「早くおごれってのっ」
ガスッ。
「うぉっ、立体映像に蹴られたあぁーっ!! てめぇ、立体映像じゃねぇだろっ! 未来ってのも、嘘かぁっ!」
「実はサイボーグなんだ」
「じゃ、世界は…?」
「滅びた」
「マジかよっ!」
「父さん…母さん…最後まで馬鹿やってて、ごめんよ…。 僕、岡崎サイボーグと力を合わせて、生きていくよ…」
「嫌だ」
「人類最後の人間なんだから、協力しろよっ!」
ふたりで廊下を歩く。
「とぅっ」
いきなり春原がジャンプをして、天井に手を伸ばしていた。
「今、第一関節、かんぺきに触れたよ。 すごくない?」
「すげぇな」
「でも、今、本気出してないぜ? 学生服で本気出すと、破けちゃうもんね」
「ああ、いい子だ。よしよし」
「とぅっ」
いきなり春原がジャンプをして、天井に手を伸ばしていた。
「今、第一関節、かんぺきに触れたよ。 すごくない?」
「すげぇな」
「でも、今、本気出してないぜ? 学生服で本気出すと、破けちゃうもんね」
「ああ、いい子だ。よしよし」
たわいもない会話をしている間に、学食についた。
「くわーっ、相変わらず込んでやがんな…」
「出るのが遅かったからな」
「おまえの壮大な嘘のせいでねっ」
「あんなの信じるな、馬鹿」
「こっちは寝ぼけてるんだから、信じるよっ」
「ほら、早くおごれよ」
「もう、おごる理由ないっしょっ」
「ちっ」
「馬鹿なこと言ってないで、とっとと座る席作ろうぜ」
「どうやってだよ」
「一年連中をどけるに決まってるだろ」
「はい、ここ、僕たちの席ねーっ」
座って歓談していた一年連中に向かって、にこやかにガンを飛ばす春原。
「(こんなやつと一緒にされたくない…)」
俺は自分の分の食券を買い、それをきつねうどんに替える。
それを持って、隅のほうに空いていた席に腰を下ろした。
「って、おい、岡崎っ。向こうの席、空けてた途中なのによっ」
定食の盆を持って春原が追いかけてきた。
「はい、ここ、僕の席だから、どいてねーっ」
今度は俺の隣に座っていた男子生徒をどけようとする。
「あん?」
だが、そいつは同じ三年のラグビー部。
「なに、俺たち食ってる途中なのに、どけって?」
「い、いや…一年かと思って…」
「一年だったら、食ってる途中でもどけるんだな」
「いや、しないしない…」
「僕、この前、この人に食ってる最中にどけられたッス!」
同席していたラグビー部の一年がそう高らかに告げていた。
「あ、てめぇ、何チクッてんだよっ!」
「よし、よぅく、わかった。ちょっと裏、行こうか」
「ひぃっ、誤解っす!」
首根っこを掴まれ…
「う…うわあああああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーー…」
ずるずると引きずられていった。
「くわーっ、相変わらず込んでやがんな…」
「出るのが遅かったからな」
「おまえの壮大な嘘のせいでねっ」
「あんなの信じるな、馬鹿」
「こっちは寝ぼけてるんだから、信じるよっ」
「ほら、早くおごれよ」
「もう、おごる理由ないっしょっ」
「ちっ」
「馬鹿なこと言ってないで、とっとと座る席作ろうぜ」
「どうやってだよ」
「一年連中をどけるに決まってるだろ」
「はい、ここ、僕たちの席ねーっ」
座って歓談していた一年連中に向かって、にこやかにガンを飛ばす春原。
「(こんなやつと一緒にされたくない…)」
俺は自分の分の食券を買い、それをきつねうどんに替える。
それを持って、隅のほうに空いていた席に腰を下ろした。
「って、おい、岡崎っ。向こうの席、空けてた途中なのによっ」
定食の盆を持って春原が追いかけてきた。
「はい、ここ、僕の席だから、どいてねーっ」
今度は俺の隣に座っていた男子生徒をどけようとする。
「あん?」
だが、そいつは同じ三年のラグビー部。
「なに、俺たち食ってる途中なのに、どけって?」
「い、いや…一年かと思って…」
「一年だったら、食ってる途中でもどけるんだな」
「いや、しないしない…」
「僕、この前、この人に食ってる最中にどけられたッス!」
同席していたラグビー部の一年がそう高らかに告げていた。
「あ、てめぇ、何チクッてんだよっ!」
「よし、よぅく、わかった。ちょっと裏、行こうか」
「ひぃっ、誤解っす!」
首根っこを掴まれ…
「う…うわあああああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーー…」
ずるずると引きずられていった。