「終わりの始まり」




食堂には沈黙があった。


つい先ほどまでは戦士に勇者、学生にパイロット、人形に音楽家、死神に女神が居たところだ。
宴をやっていたようで、机は不規則に並べられていて、椅子も乱雑に置かれており、
机の上には調理室から確保した食料や食器に茶袋、お菓子の粉が片づけられてないままだった。

部屋の電気は消えており、窓から日の光が漏れていた。

部屋の中にいた人たちはどこへ行ったのか。
何の為に?何をする為に?誰と会うために?


それは生きるために。


長くて、短い三日間。79人が巻き込まれ、現在既に63人が犠牲になった。
それは、ある男によって開催された狂気と厨二に満ちたゲームだった。


厨二ロワ


食堂にいた人たちは皆、最後の砦である"ラインハルト・ハイドリヒ"そして主催者である"ジ・エーデル・ベルナル"
この二人を斃すために行ったのだ。

雲によって昼の日差しが遮られ、食堂は少しだけ暗くなった。
しかし、その暗さもすぐになくなった。



◆◆



戸が開く音がした。
戸が開き、入口から光が漏れた。
戸からは一人、何者かが入ってきた。


生物には幾万の種類が居る。 イヌ、ネコ、サル、トリ、サカナ、ムシ。
それは、人間だった。人形でも、魔王でも、神でも、機械でもなく、普通の人間であった。

人間は男と女に別れている。16番目の染色体が原因とされており、『xx』あるいは『xy』で区別される。
それは、男だった。染色体は『xy』の、普通の男であった。

人間には年齢がある。生まれた時から加算していき、人間のステータスの一つである。
それは、普通の若い年齢だった。3歳でもなく、100歳でもなく、1000歳でもなかった。

人間には様々な体格がある。太っていたり、背が高かったり、足が無かったり。
それは、普通の体格だった。一般的な身長で、体重で、腕で、脚であった。

人間には賢さがある。全知全能であれば、無知でもある。
それは、普通の賢さであった。食人にしか興味ないわけでもなく、悪意に満ちている訳でもなかった。

それは、ごく、普通の人間で。
殺人鬼と、悪意と、幽霊と、能力者と、魔王と、勇者と、神と、
まともに戦えば、間違い無く、彼は負けるであろう、ごく、普通の男であった。


しかし、彼にはそれらを超越していたものがあった。
殺人鬼も、悪意も、幽霊も、能力者も、魔王も、勇者も、神も、畏怖させるものがあった。

それは『厨二ロワ』の代名詞であり、参加の条件でもあった。
少ししか持たない者もいれば、幾多も持つ者もいた。

それは、病気であり、妄想でもある。

殺人鬼よりも、悪意よりも、幽霊よりも、能力者よりも、魔王よりも、勇者よりも、神よりも、
彼は、ここにいる誰よりも、『それ』を持っていた。




『それ』は───────『厨二病』であった。




『それ』は───────食堂の男であった。




ある少女は男を失い、泣き、絶望し、求める。
ある男は力を求め傷を負い、殺される。
ある少女は恐怖に侵され、怯え、殺し、絶望する。
ある男は悪意に襲われ、暴れ、失う。

しかし彼は厨二ロワが開催されてから、一度も失わず、怒らず、泣かず、求めず、負わず、怯えず、暴れず、失わず、殺さず、殺されず。
終盤に至る、今まで、健常な肉体と精神を持つ唯一の人であった。
彼は、一人ぼっちでもなかった。失う危機も殺される危機も幾多出会ってきた。


しかし、彼は今ここにいる。


彼は小声で笑いながら歩き、手はズボンのポケットに収め、周りを見渡し、椅子を治し、鞄を机の上に置いた。

風が吹き、雲が散り、再び日の光が食堂に差し込む。

彼は鞄から糸電話を取り出し机の上に置く。
そして、参加者名簿と赤いペンを取り出し、机に広げた。
彼は哀川潤藍染惣右介、赤屍蔵人、一方通行、暁美ほむらアサキム・ドーウィン安心院なじみ、と名前に横線を引いて行く。
死んだ人たちの名前だった。彼は、三日という短い間に死んでいった61人を想い、胸に秘め、頷く。

そして、全ての死者の名前に線を引き終えた時、彼は席を立った。
周りを見渡し、窓に近づいた。空はいつもと変わりなく、青く広がっていた。
彼は、一言、こう呟いた。




「始まったか…」




そう言うと彼は紐を引きブラインドを下ろした。
食堂はまた、少しだけ暗くなった。

彼は再び席につき、手を組み合わせ、肘をつき、顎にあてがい、黙ったままでいた。

そして食堂には沈黙があった。




【D-3 食堂・3日目 昼】
【食堂の男@ラ・ヨダソウ・スティアーナ(コピペ)】
[状態]:健康
[装備]:糸電話
[道具]:コンパス 地図 名簿 筆記用具 時計 ランタン
[思考・状況]1不明



251:――再幕 食堂の男 256:Over the Fourteen -Final Game 8-

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最終更新:2013年03月17日 10:59