【名前】 ザ・ヒーロー(フツオ)
【出典】 真・女神転生Ⅰ
【性別】 男
【年齢】 16~18(男子高校生)+α
【名ゼリフ】
【支給武器】
紅蓮@ウィザーズ・ブレイン
イタクァ@デモンベインシリーズ
【人物】
東京吉祥寺周辺に住む男子高校生。隣には幼馴染の女子高生が住んでいるが、残念ながらフラグは存在しない。
原作では徹底してセリフが存在しないキャラであり、プレイヤーの選択次第で破壊と混沌の道を辿ったり支配と秩序の道を辿ったりもする。
今ロワでは否応なく巻き込まれた戦いにより鍛え上げられているものの、根は純朴で平凡な少年とキャラ付けされている。
なお、民間にPCが普及していなかった時代にも関わらずハンドベルコンピュータを自作しているあたり、実は結構オタク気質な可能性が高い。
通称はフツオであるが、これはNeutral=普通の子=フツオが由来。元は開発者による愛称でしかなかったが、いつの間にかファンの間でも通称として親しまれるようになった。
ちなみに漫画・OVAでは相馬小次郎、リプレイノベルではショウという名前になっている。何気にCV.緑川でもある。
【本ロワの動向】
Neutralルート終了後から結構経ったあたりから参戦。
原作が原作だけあって、精神的に摩耗した状態での参戦となる。
天使を殺した、悪魔を殺した。神も殺し、友を殺し、家族を犠牲にしてまで戦い続けた。
だがしかし、その戦いの果てには何もなく、彼が得た物は何一つ存在しなかった。
どれだけ強かろうと所詮は人。地上に蔓延る悪魔に怯え、限られた資源で辛うじて食いつなぎ生きる人々を救うことはできなかった。
そして人々は願う。自分たちを救い上げる神の存在を。
彼の戦いは無為だった。人は自らの強さを信じることなく安易な救済に縋った。
敵がいるなら倒すことができる。しかしこれはそういう簡単な問題ではないのだ。
彼が為し得たことは何一つなく、残ったのは最強の英雄という意味のない称号だけ。
積み上げた死山血河はとうの昔に背負いきれる限界を超え、もはやそれから目を背けることなどできはせず。
故に少年は優勝を目指した。願望の成就を得るために。自らが切り捨ててきた全ての存在のために。
例え強制された殺し合いであったとしても、自分にできることは敵を倒すことだけなのだから。
そうした悲壮な覚悟を以て相対した人物。それは皮肉か偶然か、天使の名を持つ少女
フィア。
感情を擦切らし能面のような顔で斬りかかるも、フィアの同調能力により肉体の制御権を強制的に剥奪される。
同調能力。存在情報のリンクによる支配。
そしてそれは肉体のみならず、思考や記憶に至るまで共有される。
彼の側に流れてくる記憶。それは荒廃した世界に生きる彼の眼から見ても悲惨なものだった。
ただ殺されるためだけに生み出され、道具のように消費される命。人間性の一切を期待されず、求められるのは脳の性能のみ。
何十人もいた姉妹は彼女一人を残して脳髄以外を廃棄処分された。人間になりたいという些末な願いすら叶えられることもなく。
フィアを気遣ってくれた七瀬静江も死んだ。自分の願いのために利用する駒であったはずの彼女を、最期には命がけで庇って。
なんだこれは、あまりにも酷過ぎる。
そして何より信じられないのは、そんな目に遭ってきた彼女がそれでも他者を愛しているということ。
何も知らないその他大勢のために生み出され殺されるはずだったにも関わらず、それでも人を愛する少女を、何も知らないその他大勢のために戦い裏切られた少年は理解することができなかった。
何故そこまで人を信じられる? 何故そこまで人を慈しむことができる?
投げかけた問いは、しかし疑問ではなく嘆願に近い。
何故ならそれはかつて自分が持っていたもの。そして今は見失ってしまったものだから。
愛する人がいるから、支え合える人がいるから。問いに対する答えは、しかし誰より彼が知っていたことだった。
かつて大切な人たちがいた。それはたった一人の家族であり、隣に住むあまり仲のよくない幼馴染であり、かけがえのない二人の親友だった。
フィア「大事な人たちがいなくなってしまったのは悲しいけど、それでもあなたのやってきたことは無駄なんかじゃないと、そう思います」
故にこそ、彼女の言葉がその場しのぎの詭弁ではないと確信でき。
孤独な英雄はこの瞬間、ただの少年に戻り涙を流したのだった。
かくして二人は和解、フツオもまた対主催として行動することを決意する。
とはいえ明確な目的は持っていなかったため、フィアの想い人である天樹錬の捜索に付き合うこととなる。
そして二人はあてもなく会場を巡る。現代の街並み、緑が生い茂る森。店先に並ぶ精肉や果実など、殺し合いの場においては不自然極まりないがフツオからしてみれば見慣れていた景色。しかしフィアにとっては全てが未知の光景であり、目に映る全てのものに興味を抱くのだった。
フツオにとっては何でもない物でもまるで宝物を見つけたかのように目を輝かせて「これはなんですか?」と訊いてくるその姿は、もう忘れて久しい安らぎの感情をフツオに与えた。
そうした二人の前に現れたのは、時を統べる大神格、
天魔・夜刀。
存在するだけで流れ出す圧倒的な神威、お世辞にも平和的とはいえな禍々しい外見。そして何よりフツオ自身が神という存在に対し敵意しか持っていないこともあり、両者は(というかフツオは)即座に臨戦態勢を取る。
しかし当の夜刀はそんなフツオに一切の敵意を見せず、フィアも「人を見た目で判断したらダメですよ」とフツオをちょっと叱ってくる始末。
明らかに戦いには似合わない雰囲気に蹴落とされ、フツオも警戒しつつではあるが夜刀と話をしてみることとなる。
生まれも育ちも違う三人は、しかし奇しくも同じような環境にいたことがわかる。
ICBMの投下と悪魔により荒廃した東京、大気制御衛星の暴走により世界が分厚い雲で覆われた極寒の世界、皆須らく自らが神だと自負する自滅の宇宙。
それぞれが地獄と言っても過言ではない過酷な環境であるが、しかしそれとは相反するように三人は穏やかに話を続けるのだった。
特にフツオは、夜刀の語る言葉に深く感銘を受ける。
高みに至った者にはそれ相応の責任が付随する。己が意志で世界と拮抗できる力を持つのだ、軽いはずがない。
人類の恒久的世界平和などという出鱈目は言わない。しかし次代に希望を残すこと、生まれては消えていく命の連続性を絶やさないこと。
それこそが座を握った者の責任であり、俺が彼女に捧げる愛なのだと。
ああ、確かにその通りなのだと思う。
思えば自分はただ何かを壊すだけで、人を導こうとはしなかった。
ただ漫然と他人の強さを盲信し、自分が出来たのだからお前たちも出来るだろうと押し付けた。
それはつまり、何もしていないのと同義だ。本当の意味で他者を理解していないだけだ。そんなものでは次代に何も残せはしない。
得心した、いくら礼を言っても言い足りない。
そんなフツオに夜刀は、それでもお前はただの人間で、だからこそ普通の幸せを求めてもいいのだと諭す。
それはフツオが、自分と同じく神に挑んだ者であるが故の共感か。
フィアには「俺の愛した人を思い出させてくれてありがとう」と告げ、夜刀はその場を離れるのだった。
そうして二人は再び探索を再開する。
未だ見つからないフィアの探し人、増え続ける犠牲者たち。
それでも手に入れた安息と、守るべき人を見つけたフツオはぎこちないながらも徐々に笑うようになっていった。
けれども、ここは殺し合いという「非日常」が支配する場。
そんな平穏が長く続くはずもなく、ここに終わりの時がやってくる。
それは
第二回放送を控えた午前、放送に備えて休憩しようと気を緩めたその瞬間。
突如として空間がひび割れ、殺し合いの主催を名乗っていた四大天使が現出。フツオたちに襲い掛かってきたのだ。
曰く、その娘は我らを差し置き天使と名乗る不届き者。それでも潔く死ねば見逃してやらんこともなかったが最早我慢の限界である。故にここで骸を晒せ、と。
あまりにも傲慢、あまりにも理不尽。かつて自分はこいつらを倒しはしたが、しかしここまで救いようのない下衆であったのかとフツオは困惑する。
だが背に腹は代えられず、半ば強制的に戦闘に発展。しかし四対一で仲魔もいない今のフツオでは四大天使の攻勢は凌げても打倒にまでは至らない。
そして放たれる破魔の呪文。生物を一撃で即死させるその魔法を、フツオは避けることはできず―――
とん、と何かに押される感触と共に、フツオの体は地に伏せた。
意識外の出来事に反応できず、地に伏せたままフツオが目にしたのは、ハマから彼を庇い昇天の光をその身に受けるフィアの姿。
その光景にフツオは目を離すことはなかった。できなかった。
崩れ落ちるフィアの体、目的を果たして去っていく天使たち。もはや自分にできることは倒れた彼女に駆け寄ることのみ。
どうして自分なんかを助けたのだと慟哭するフツオは、しかしその理由を知っていた。
何故ならこの少女が人を見捨てることなどするわけがないから。同調能力によって記憶と感情を盗み見たのはフィアだけでなく、フツオもまたそうだった。
だからこそわかる。フィアは他者の命を見捨てたりしない。
けれど、けれど。
けれど、その優しさは未だ見ぬ彼女の想い人のために使ってほしかったと祈るのは間違っているだろうか。
―――きっとあなたは、世界や人を恨んでいると思う。自分は都合よく祭り上げられた英雄で、役に立ちさえすれば壊れても構わない道具で……だから自分が死んだって誰も悲しまないって、そんな風に傷ついてると思う。
―――だけど、そうやってあなたに何もかも押し付けないと生きていけないことを、悲しいとか悔しいと思う人間だって、ちゃんといるから。
―――忘れないで……世界はいい所じゃないかもしれないけど、でもそんなに悪い所でもない。
それは微かであるけどはっきり聞き取れる言葉。彼女の末期になるであろう言葉。
こんな時にまで自分の心配をしてくれるそんな彼女のことが、何故かとても悲しくて。
最期まで報われなかった彼女には、せめてこの時だけでも想い人と共に居させてあげたかったのに。
フィア「だからあなたは、みんなのために頑張ったあなた自身を、好きになってあげて……」
そうしてフツオに微笑みかけて、少女はその命に幕を閉じる。
残されたのは、何も救えなかった孤独な英雄だけ。
フツオ「僕の名前を呼んでくれ……孤独な英雄(ザ・ヒーロー)なんかじゃない、僕(人間)の名前を……」
呟く声は儚く。
かくしてフツオは、再びその手から大切なものを取りこぼしたのだった。
茫然自失の状態でフィアの遺体を葬り、あてもなくふらついていたフツオの耳に入ってきたのは
上条当麻による警告。
それは以前出会った天魔・夜刀の死亡を知らせるものであり、彼を殺した怪人が存在するというもの。
結局、自分にできるのは殺すことだけなのだろうか。
そんな思いと共に夜刀の敵討ちに出向いた先にいたのは、ハゲマントことサイタマ。
この期に及んで言葉はいらない。夜刀の弔いのため、そして自らの内に去来する虚無感を誤魔化すため、フツオはサイタマに戦いを挑む。
神殺しの少年とハゲの戦いは熾烈を極めた。
人外の怪物である悪魔を相手にしてきたフツオとただ純粋に強大なサイタマの戦い方は非常に似通っている。
それは筋力や耐久といった単純なスペックに比重が傾く、いわば獣の強さ。技巧も術理も存在しない力と力のぶつけ合いは、しかしそれ故に厳然たる力の差を埋めることは叶わず、戦況はサイタマが優勢を保つ展開となる。
しかしそんなサイタマの様子はどこかおかしいものだった。端的に言って生気が薄いというべきか。心ここに在らずで、戦いの優位を誇るでもなくフツオの弱さを嘲るでもなく、ただ機械的に戦うのみ。
それは何も入っていないハリボテの拳。何かを求め、その実何も見えてはいない空っぽの強さ。
ああ、それは方向性こそ違えど、かつての自分と似たもので―――
気が付いたときには、もうサイタマの姿はどこにもなく。
ただ自分の体が地面に横たわっているだけだった。
満身創痍の体を支え、フツオはようやく自分が負けたということに気付いた。
自分を助けてくれた恩人を救うことができず、道を諭してくれた先達の仇一つ取れない。
戦うことしか能がないくせにそれすら満足にできない敗残者。なんて滑稽なのだろう。
でも、それでも、まだ自分にはやるべきことがあるはずだ。
それはフィアの最期を、彼女の想い人であった天樹錬に伝えること。
そして彼女の知り合いであったというヘイズや他の参加者と共に、この殺し合いを破壊すること。
そう思い立ち、それを支えにフツオは立ち上がる。救いはあるのだと信じて、自らの心の隙間から目を背けて。
そして響き渡る
第三回放送。そこでフツオは錬とヘイズの死を知る。
もはや彼に残されたものは何もなかった。
守るべき人を失い、主役を張る意味を教えてくれた先達を失い、戦う理由さえ失い。
生きる意味すら見失いかけていたフツオの前に現れたのは、竹林のルーガルー「今泉影狼」
フツオ「……なんだ、ウェアウルフ(狼男)か」
影狼「狼女です!」
出会いがしらの一言から何の反応も示さないフツオに、影狼は多少の呆れを混ぜながら対応する。
しかしそこには嫌悪の感情はなく、それどころか影狼は隣に座り込みそっと体を寄せ合った。
最初はおっかなびっくり近づいてきたのにと、フツオは疑問に思う。
フツオ「……君は何をしている?」
影狼「何も。ただ、寂しがりやを放っておくのはかわいそうじゃない」
それだけ言って、影狼はフツオに微笑んだ。
それきり二人の間に会話はなく、しかし不思議と気まずさのない静かな時間。二人はしばし、共に時間を過ごしたのだった。
そんな暖かな雰囲気を壊すように現れたのは、不死の吸血鬼
アーカード。
ただ己が死に場所を求め彷徨い、人外と人ですらない腰抜けを殺してきた彼は、当然のようにフツオたちにも襲い掛かる。
その圧倒的な戦闘力に影狼もほぼ瞬殺に近い形で吹き飛ばされてしまう。幸い傷は浅かったが、その光景を目の当たりにしたフツオの脳裏には走馬灯じみた記憶が駆け巡った。
崩れ落ちるフィアの姿、紅蓮の海に沈む夜刀の姿。そして自分が手にかけた親友の姿。
気が付いた時には手に持つ紅蓮の刃を振りかぶり、アーカードの胴体を両断していた。
これに驚愕したのはアーカードである。当初はただの腑抜けとしか見ていなかった彼が、実際に目的を失い腐っていた彼が立ち上がり、あろうことか化け物である自分に立ち向かったのだ。重い手傷を負わせたのだ。
その勇気、その力量。これを賞賛せずして一体何が化け物か。
謝ろう、見直そう。お前は確かに素晴らしい”人間”であると不死王が喝采する。
アーカード「そうだ、それでいい、ヒューマン! 犬を殺し死人を殺し私の胸に杭を突き立ててみるがいい!」
フツオ「神を殺した。悪魔を殺した。幼馴染を殺した。友を殺した。そんな人間のどこがいいっていうんだよ」
自分に真っ向から対峙する人間の、何と勇敢で雄々しいことか。
神に縋らず、悪魔に迎合せず、人としての矜持を貫くその姿の何と素敵で輝かしいことか。
ああ、だから人間は素晴らしい。
フツオとアーカードの戦いは拮抗し、影狼を巻き込まないよう立ち回ったおかげで周辺被害もなく。
結局、怪物と人間の戦いは痛み分けに終わった。
影狼の傷の手当も程々に、フツオは他の参加者を探そうと提案する。
てっきり落ち込んでいたんだと思ってたんだけど、と問う影狼に、フツオはその通りだよと返す。
フツオ「でも、いつまでもそうしてる場合でもないだろ? それにさっき君が傷ついた時、どうしようもなく許せなかったんだ。もうこんな思いはしたくない」
そうだ。もう二度と無様な思いはしたくないから、この殺し合いを終わらせよう。
少なくとも、ここで何もしないよりはずっとマシなはずだから。
影狼「満月の夜は毛深くなるから嫌なのよね」
フツオ「後でブラッシングでもしてやるさ。それより早く行くぞ」
こうしてフツオは拙いながらも立ち上がり、殺し合いの打破に向けて歩みだす。
その隣には影狼の姿もあった。彼はもう一人ではないのだ。
その後合流したチーム不良の面々と一時協力関係を結ぶことになるが、そんな事務的なことはさておきチーム間の仲は非常に良好であった。
つかさ「じー………」
影狼「…何よ人間。そんなにじろじろ見て」
つかさ「あ、うん。その付けてるお耳、可愛いなぁ~って」
影狼「耳?そんなのあなたにだってあるでしょうに(ぴこぴこ」
つかさ「動いたっ!?今動いたよ!?なんで!?」
影狼「わ、わっ!?急に触らないでよ!?」
つかさ「もふもふ…もふもふしてるー!凄い、カゲちゃんワンちゃんみたいー♪」
影狼「カゲちゃん!?というか犬扱いするな!私は狼女よ!?」
つかさ「もふ…もふもふ…もふもふもふー」(ぎゅー)
影狼「きゃいんっ!?だ、抱きつくなー!フツオーー!助けなさいよーー!!」
フツオ「………噛み付いたりするなよ?(ゆうこうてき」
影狼「あおーん!?」 つかさ「もふー!!」
ウォルター「あきゃきゃきゃきゃきゃ!すっかり懐いてるじゃねぇかよ」
ゼットン「………………」
仗助「………おいゼットン。まさかオメーよォー、羨ましいとか思ってるんじゃねぇよなァーー…?」
当初はあくまで一時的に協力するだけのはずであったが、八雲紫との戦闘や「アルターの黒い森」での怪物戦を経て意気投合。特に
東方仗助とは最後まで共に戦い抜くことになる。
殺し合いが始まってから、そしてその前から多くの別れを経験してきた故にフツオの雰囲気は近寄りがたいものとなっていたが、仗助やゼットンくん、つかさにウォルターはそれぞれが「一人の友人」として彼に接してくれた。
ともすればチームの頭脳担当として気難しい顔になる彼に仗助らは皆を巻き込んで騒いだり、つかさや影狼も穏やかにではあるものの積極的に会話しようとしたり、それはかつてフツオが失った日常を彷彿とさせた。
緩やかな雰囲気の中、フツオもまた彼らに応えるようにコーヒーを淹れる。それはかつて母親から学んだものであり、彼にとっては日常の象徴でもあるもの。
こんな自分に何故良くしてくれるのかという問いに、「俺は頭が悪いからよくわかんねえけど、俺達は友達だろ?」という仗助のらしい答えに苦笑しながら、新しくできた絆に喜びを感じていた。
フツオ(友達………)
仗助「テメェーこの髪型がメンチカツみてぇだとォ!?」
ウォルター「あきゃきゃきゃきゃきゃ!」
ゼットン「ゼットーン…ピポポポポポ…」
つかさ「あははーバルサミコスー!!」
フツオ(……ダメだ!ここにはカオスしかいない!!)
色々と台無しであるが、それでもフツオにとっては暖かな時間であったことに変わりはない。
そしてフツオはここに誓う。もうこれ以上日常を、命を、大事な刹那を失わせないと。
だがしかし、それでも試練はやってくる。
第四回放送後、殺し合いの停滞を憂いた神州王により会場全体で死者がゾンビとして蘇る「ゾンビ騒動」が勃発。
戦う術を持たないつかさを最寄りの小屋に避難させるも、それと同時にフレディによる襲撃も発生。
幸いフツオが夢での戦闘経験を持っていたためフレディの奇襲は未然に防がれ、逃走したフレディをウォルターが追撃する形となる。
フツオとしてもそれに協力したかったが、しかし大量発生したゾンビのことを放っておくわけにもいかず、仗助、影狼と共に殲滅戦に乗り出す。
神州王の禁術により作り出されたゾンビは死亡した参加者のみならず会場に元から存在した死体もよみがえらせたため、非常に数が多かった。それでも多くはただの粗製品であり性能は低く、数多の神魔を鏖殺してきたフツオにとって敵にはなり得ない。
幾ばくかの時間が経ち、つかさの眠る小屋周辺のゾンビを片付け、戦闘中にはぐれた仗助たちと合流しようとしたその時。
視界の端にふと、金と白の影が見えて。
それは見間違えようがなかった。何故ならば数時間前まで一緒にいたのだから。
フツオの目の前に現れた人影は、既に死んでいるはずの少女の姿をしていた。
生命活動は停止し、血の気が引いて青白い肌を晒した、それは紛れもなくフィアだった。
この世に神は在る。だけどそれは何もしない、ただ残酷なだけの存在。
いつか何処かで聞いた言葉。誰が言ったかも覚えていないそれを、フツオは今何よりも実感した。
―――これが神の意志によるものなら、僕は決してそいつを許しはしない。
あるいはこの時、彼は初めて明確に殺意を胸に宿したのかもしれない。
だがそんな胸中とは裏腹に体は動かず、フィアのゾンビが近寄ってくるのを止めることすらしない。
フィアのゾンビが腕を振りかざす。その手にあるのは薄汚れた小さなナイフ。あくまで人であるフツオ相手ならば、その程度の武装でも殺害すること自体は可能だろう。
振り上げられた腕を見つめ、彼女に断罪されるならそれでもいいとすら考え。
しかし、振り下ろされたフィアの手を掴み取り、迫る凶刃を押しとどめた。
フツオ「すまない、本当にすまない……でも僕はここで死ぬわけにはいかないんだ」
ナイフを持つ腕をつかみ、フツオはただ謝罪を繰り返す。
君を死なせてしまった、君を天樹錬と再会させてあげることができなかった、君を平和な日常に返してあげることができなかった。
そんな無能で恩知らずな自分の命なんかで、全てを償えるならそうしよう。
でも、でも今はできない。こんな自分にも、まだやるべきことがあるのだから。
だから今は、と、フツオは懐から小さな香を取り出した。
ハンゴンコウ、死者を蘇らせる薬。
厳密には肉体から離れた魂を繋ぎとめるものであり、死人ではなく「死に瀕した者」を助けるためのアイテム。
それは性質上、魂を持たないゾンビに使えばその身を成仏させることができる。
―――さよなら、僕の恩人。
ハンゴンコウにより崩壊していくフィアの姿を眺め、フツオはそうして別れを告げた。
強くなりたかった。
最初にそう願ったのはいつのことだっただろう。
ただ強くなれば、誰かを守れると思っていた。
躊躇いなく戦い、躊躇いなく剣を振るい、躊躇いなく敵を倒す。
そうすればきっと、誰かを守れるのだと思っていた。
ありふれた日々の移ろいを、他愛もない食卓の情景を。
守れるのだと、そう信じていた。
だが、現状はどうだ。
つかさの待つ小屋へと戻ると、そこで彼を待っていたのは地に伏せ目を閉じたウォルターの姿だった。
近くにはうなだれたゼットンと仗助、そしてつかさと影狼の姿もある。一人だけ見慣れない、恐ろしい雰囲気をした男もいたがそれどころではなかった。
誰よりも自由で、そして誰よりも大人だったウォルター。
彼は今、眠るようにその生を終えている。
死んだ者は生き返らない。
そんなことは誰よりわかっているはずだけど、それでも願わずにはいられなかった。
これが嘘だったらいいのに、と。
恐ろしい雰囲気を纏った男曰く、ウォルターはボーモンという男に殺されたのだという。ボーモンは既にゼットンの手で焼き払われ、もう脅威は存在しないとも。
それがどうしたというのだろう。危機が去ってもウォルターが目覚めることは二度とないというのに。
こうしてフツオは、この地で出来た「仲間」を一人、また失ったのだった。
そしてウォルターの死を皮切りに、チーム不良は次々とその命を散らしていく。
次はゼットンだった。ゾフィーとブラックロックシューター、二人のマーダーによる同時攻勢。必然的に二つの局面に別たれたフツオたちはマイケル・ウィルソンと共にゾフィーに立ち向かう。
だがその圧倒的な力の前に拮抗できるのは唯一ゼットンのみ。仗助やマイケルはおろかフツオでさえ立ち入ることのできない域の戦闘は、しかしゼットンがゾフィーに敗れるという結果を露呈する。
正義を騙るゾフィーの傲慢な姿に、ついにはフツオも激昂。大統領、仗助と共に弱体化したゾフィーに猛攻を仕掛け、遂には討ちとることに成功する。
……次の瞬間、つかさの体が水風船のように爆散した。
それはブラックロックシューターによる流れ弾。明確に狙ったものではないそれが、「たまたま偶然」つかさに当たったという、ただそれだけの話。
しかしそんな、些細な運命の気紛れでも人は簡単に死んでしまう。
仗助のクレイジーダイヤモンドにより遺体は修復されるも、いつも通りなのはあくまで見た目だけ。
つかさはもう、二度と微笑むことはないのだ。
主催戦前の宴会では、多くの対主催グループが一同に会し、自己紹介や作戦立案やらで盛り上がった。
生き残った参加者の数は思いのほか多かった。全体のおよそ3~4割がこうして同じ目的のために集っていた。
それは常に少人数で戦ってきたフツオにとっては初めての経験であり、気分が高揚しないと言ったらウソになるだろう。
しかしそれでも、フツオはそんな自分の満足感ではなく「いつも通り」に振る舞う仗助のことを思い、気遣う。
明らかに無理をして、士気を下げないようにと明るく振る舞う仗助に寄り添い、何も言わずにコーヒーを差し出す。
「うわぁ、美味しい~!私、苦いの苦手なんだけど、すごく美味しいよー、フツオくん!」
「……母さんがね、好きだったんだ。拘りのある人で……いつも同じ店のコーヒー豆ばかりを買ってたよ。母さんに認められるコーヒーを淹れられるようになるまでは、随分苦労したっけ……」
「……。美味しいよ、フツオ。すごくあったかい」
「…………」
「おいフツオ、うちの屋敷に来な。メイドたちにこいつの作り方を伝授してやってくれ。そうすりゃあ、つまらない胡麻すり野郎の溜まるコーヒーハウスになんざ、誰も行かなくなる」
「あっ、ダメ!フツオは私と一緒に行くんだから!」
「ゼットーーン……ピロロロロ……」
「ね、ゼットンくんも、おいしい、って」
「……うん、わかる。わかるよ」
「こりゃ俺も、カフェ・ドゥ・マゴにしばらく行けねーな。
やっぱり家にオメーを引っ張ってくるしかね~かなァ~~(ウリウリ」
それはもう叶わない夢の形。
揃って殺し合いから抜け出し、またいつか皆で集まって騒ぎ合う。
かつてあった、しかしもう二度と起こることはないそれを、仗助や影狼と共に思い浮かべる。
今はただこうして静かに。フツオは友達として仗助の隣に居続けた。
そして宴もたけなわ、各々が気合いを入れ直し戦いに臨もうとする中で、フツオはある人物と接触を持つ。
その人物の名は
藤井蓮。聞くところによればフィアの想い人であった天樹錬と共にいたという。
そして天樹錬を殺害した当人でもあると、そう聞いた。
別に責めるつもりは毛頭ない。天樹錬が殺し合いにのったのはフィアが死んだからであり、その責任の一端をフツオもまた背負っている。故に彼を責める気はなく、用件はただ渡したいものがあるだけ。
そうして顔を合わせた藤井蓮は―――どこか夜刀の面影があるように思えた。
何の用だとぶっきらぼうに返す蓮に、君に渡したいものがあると言ってフツオは「それ」を取り出した。
フィアに支給された、天樹錬の所有物だったというマフラー。
聞けば中々高価で性能のいいものらしいが、そんな実利以上にフツオはこれを蓮に渡したかった。
―――最期まで錬と一緒にいた君に持っていてほしい。
紛れもない本心からそう言うと、蓮は一言だけ礼を言って受け取った。
―――これでももう心残りはない。
マフラーを手に何処かへと向かう蓮の後ろ姿を見やり、フツオは一人思う。
やり残したことは存在しない。あとはもうこの命を燃やし尽くすだけであると。
そうして迎えた最終戦、まず相対したのはダークザギ。
ゾフィーと同じ巨体を持ち、そしてその戦闘能力はゾフィーすらも凌駕しかねないほどに強力なものであった。
ヤン・ウェンリーの立てた作戦の元、藤井蓮や
皐月駆といった”作戦の根幹を為す者”を守るためにフツオもまた最前線に降り立つ。
グラビティ・ザギやライトニング・ザギをペンタグラムの防御障壁で跳ね返し、BRSから簒奪したレールガンで以て少しづつではあるが着実にダメージを与える。
トゥバンやラグナ、仮面ライダーの二人など前線組と共に戦い、遂には左翔太郎と
剣崎一真の犠牲とトゥバンの一撃で以てダークザギを打倒することに成功する。
そしてここにバトルロワイアルの実質的な崩壊が決定づけられ、主催者たちは自ら参加者を抹殺するために動き出す。
猛進する他の参加者たちと共に襲い来る悪魔、天使の軍勢をなぎ倒し、そして遂にフツオは天使たちの指揮を務める四大天使の元にたどり着く。
ミカエル、ラファエル、ウリエル、ガブリエル。ユダヤ教に伝わる光の使徒。そしてフツオにとっては不倶戴天の怨敵。
彼らはフツオたちの姿を見て取るや、相変わらずの上から目線で降伏勧告を迫る。
だがしかし、今ここに平伏して許しを請う人間は誰一人として存在しない。
ならば消え失せろ塵芥共というミカエルによる宣戦布告が放たれると同時に。
紅蓮の斬光がミカエルの体を両断した。
言葉もなく消滅するミカエル、その光景に唖然とする他の三天使。
フツオは返す刃でラファエルの両足を切り付け転倒させ、その口腔に銃口をねじ込み引き金を引いた。
はじけ飛ぶラファエルの頭部を尻目に次なる戦闘行動を取ろうとしたフツオの目に飛び込んできたのは、ベヨネッタにより既に討伐されたウリエル・ガブリエルの肉片だった。
後衛にも損傷は皆無、戦闘時間はわずか十数秒。黒幕を前にした前哨戦は対主催の完全勝利に終わるのだった。
―――仇討なんて気取るつもりはないけれど、少なくともこれでけじめはつけた。
フィアを私情で殺害した四大天使、その魂は完全に消滅した。
しかしそんな戦勝ムードが続くはずもなく、彼らを待ち受ける災厄は留まることを知らなかった。
そしてフツオたちが遭遇したのは、巨大なる神「ジュべレウス」。
今までの敵とは一線を画すその強さに、フツオや影狼はおろかベヨネッタさえも翻弄される。
何がしかの理由か、黒幕による作為か。座へと潜航した対主催陣営はばらばらとなり、その戦力を分散させれてしまっている。
先の四大天使程度であるならばそれでも事足りたが、これはあまりに格が違う。
最初に倒れたのは影狼だった。一際高い遠吠えを上げ、しかしそれが敵に届くことはなく火球に飲まれ消えていった。
次に倒れたのはベヨネッタだった。マハ―カーラで応戦するも、あまりの多さに捌ききれず氷塊を食らって砕け散った。
こちらの攻撃は何一つ届かなかった。眼前の敵一つ倒すことすらできず、またしてもフツオは”刹那”を失った。
今度こそ、膝が折れる。
両手から武器が落ちる。
心が力を失う。
頭上から激しい光が襲い来る。
雷球から放たれる光柱が視界の全てを覆う。
それを、醒めた目で見つめた。
僕は、どこで道を間違えたのか。
僕は、どこかで道を間違えたのか。
影狼を、ベヨネッタを救うことができず、そしてここに自分もまた死にゆくその最中。
ふと、そんなことを考えた。
そして、そこで意識は途切れた。
薄暗い闇の中、フツオはこれが死ぬ寸前に見る幻であると自覚した。
こんな自分には静かに死んでいくことすら許されないのかと一人自嘲していると、視界の端にふと、どこかで見た色が見えた。
天魔・夜刀。彼の纏う白装束の色だった。
死人である自分に迎えが来たのかと、そう独りごちるが、当の夜刀はそんなつもりではないと首を横に振った。
ならばこれは一体何なのだ、と問うフツオに、夜刀は一振りの剣を前に突き出す。
お前の剣だ。そう言って差し出されたのは紅蓮の名を冠する紅い長刀。
しかしそれを、フツオは反射的に払いのけてしまう。
剣は闇色の床に落ち、甲高い金属音を響かせる。
フツオ「夜刀さん、僕は……」
夜刀「戦うことに疲れたか?」
いきなり図星を突かれた。
まあ気持ちは分からんでもないけどな、と困った風に言う夜刀の姿に、なんだか胸が苦しくなって。
でも、もう自分は死んでしまったのだから、これ以上戦うことはできない。
結局のところ、自分にできたことは何もなかった。
天使を殺した、悪魔を殺した。神も殺し、友を殺し、家族を犠牲にしてまで戦い続けた。
だがしかし、その戦いの果てには何もなく、彼が得た物は何一つ存在しなかった。
ならばせめて仲間だけでもと、そう固く決意した思いすらも儚く消える。
フィアは死んだ、夜刀は死んだ。ウォルターも、ゼットンも、つかさも、影狼も、ベヨネッタも。自分の腕の届く範囲にいたはずの彼らはみんな死んでしまった。
そして今は、自分さえも。
強くなりたかった。あの荒廃した東京で、何をするにしても強さは必要だったから。
強くなりたかった。何を相手にしても大切なモノを守れるだけの強さが欲しかった。
それでも結果はこの通り、何も成せず無様に屍を晒しただけ。
もう眠ってしまってもいいのだと思う。充分に戦ったのだから。
目を伏せ、唇を噛むフツオの前に、夜刀は膝をついてまっすぐに目を覗き込んだ。
夜刀「その気持ちを忘れないことだな」
え、と。思わず声が出たのは仕方ないだろう。
思いがけない言葉に顔が上がる。
夜刀「どんな理想を掲げても、どれだけ純粋な心を持っていようとも。剣を振るえば血が流れ、人が死ぬ。戦いとはそういうものだ」
だからな、と夜刀は言葉を続ける。それはフツオにだけでなく、自分に言い聞かせているようにも見えて。
夜刀「お前は前に、自分が強くなることで大勢を助けたいと言っていたがな。強ければ誰かを幸せにできるなんて考えは、俺から言わせてもらえばただの思い上がりだ。
強さなんてものは結局、奪った命の数でしか測れない。戦いとは結局、相手の想いを自分の『強さ』で斬り捨てるもの。それが怖いなら剣を捨てる以外に道はない」
真っ直ぐにフツオを見据え、言葉を紡ぐ。
夜刀「それでも、例え全てを投げ打ってでも守りたいものが、お前にはあるんだろう?」
とくん、と。何かが音をたてた。
かつて誓ったあの想い。失われた日常を、消えてしまった大切な命を。これ以上失わせてなるものかと、確かに自分はそう誓った。
夜刀「確かにお前は色々と失うものが多すぎた。失ったものは取り戻せないし、泣いても叫んでも死者は蘇らない。だけどな、お前はただ悪戯に何かを失ってばかりじゃなかったはずだ」
言いながら、夜刀は地に落ちた紅蓮の騎士剣を拾い上げる。
夜刀「お前はこの剣で、確かに友を守ったはずだ」
確かに、そうかもしれない。
ゾフィーとの戦いでも、ダークザギとの戦いでも、フツオは常に仗助を気遣って戦っていた。
当然の話だ。彼はとても強いし異能も持っているが、それでも身体的にはただの人間なのだから。彼に向かう攻撃をいなし、フォローし、敵の注意をこちらに引きつけた。
だが、だからと言って自分の無能が帳消しになるわけじゃない。
自分が殺してきた数多の命に対する贖罪にはならない。
その言葉に、夜刀は違うと首を振った。
夜刀「人の死は何をしても取り返しがつかない。だからお前が何をしようと、例え自分の命を差し出そうとも、そのことに対する贖罪になりはしない。
けれど、お前が戦うことでしか為し得ないことが、確かに存在するはずだ」
夜刀の言葉に、フツオは戦慄にも似た何かを感じる。
その言葉が、少しづつ胸に染み渡っていく。
夜刀「お前がこの剣でどれほどの事を為しても、お前の罪は決して消えない。
お前の剣は多くの命を奪い、人はお前を”英雄”と蔑むだろう。
それでも戦え。罪も痛みも、全てを背負って生き続けろ」
強さとは多分、そういうものだ。そう締めくくり、夜刀はフツオに騎士剣を押し付ける。
紅い刀身を持つ長刀。敵を切り裂く鋼の刃。今までは軽々と振るってきたそれを、『重い』と感じたのは初めてのことだった。
夜刀「なんだか説教臭くなってしまったが、つまりはそう自分を追いつめるなということだ。
それにな、お前はもう誰もいないと言っていたが、あながちそうでもないかもしれないぞ」
そう苦笑しながら、夜刀はフツオに背を向け歩き出す。これからもう一つ行かなきゃいけない場所があるのだと言外に言いながら、夜刀はこの空間から消えようとしていた。
夜刀「全ての想いに巡りくる祝福を。あらゆる祈り(アイ)は綺麗ごとでは済まされない。されども」
歩みを止め、フツオに顔だけ振り向き。そしてフツオにとって初めて見るであろう笑顔を向けて。
夜刀「俺はお前を誇りに思っているよ、新鋭」
最後にそれだけが耳に届き。
そんな彼と入れ違うように、二つの懐かしい声が聞こえた気がした―――
気付いた時には、フツオは元の場所に戻っていた。
体のどこにも怪我はない。先ほどまで満身創痍であった体は完全に息を吹き返している。
だがしかし、闘いはまだ終わっていない。ジュべレウスは未だ健在、影狼とベヨネッタを欠いた現在、その戦力差は絶望的と言えるだろう。
だがしかし、もうフツオに絶望は存在しない。
それは夜刀の言葉がまだ胸にあるから。そして何より、自分の中に”彼女たち”が存在することがわかったから。
影狼に、フィア。
どんな理屈かはわからない。けれど、確かに二人はこの胸に宿っている。
それはガーディアン。護る者。宿主を守るという意味の守護悪魔は、しかしそれ以上にフツオの「守る意思」として顕在化していた。
―――影狼の、フィアの声が聞こえる。僕はもう一人じゃないんだ。
守りたい誰かが隣にいてくれたなら、僕だって変わっていける。僕だって”強く”なれる。
その思いに偽りはないと、強く剣を握りしめ立ち向かう。
果たしてそれは奇跡だったのか。
フツオの振るう剣に、ベヨネッタが最期の力で召喚したクイーン・シヴァの巨大な拳が重なり合う。
今までの攻防でさしものジュべレウスも無傷とはいかず、故にこの攻撃を避けうる道理はなかった。
かくてその巨体は空間の壁を突き破り、節々を崩壊させながら闇の中へと消え去っていく。
ここに神は倒れ、フツオの勝利は確定した。
そしてたどり着いた深奥の広間。そこには全ての元凶の一つでもある聖四文字の姿があった。
ともすればジュべレウスすら凌駕しかねない圧倒的な力。神域の存在とも言うべきそれに、しかしフツオは怯みはしない。
何故なら自分は一人ではないから。同じく広間にたどり着いた他の対主催や、自らの胸に宿るガーディアンがいる限り、自分は決して諦めたりなどしない。
座に住まう水銀へと挑むチーム・サティスファクションの面々と全く同じタイミングで、彼らはYHVHに最後の戦いを挑んだ。
やはりというべきか、YHVHの持つ戦力はフツオたちですら及ばない域にある。
それは仮にも覇道の神であるカールクラフトにすら拮抗できるものであるが故に、ただの人間である彼らに打倒できる道理はない。
ユーリが倒れ、ハクメンが倒れ、しかしそれでもフツオたちは諦めない。
そんな死闘の最中、後方で守られるように立ち尽くす
白野蒼衣はYHVHに問いかける。
貴方の目的は一体なんなのですか、と。
その問い、ともすれば掻き消えてしまいかねないほど小さな問いに、しかしYHVHははっきりと答えを返した。
人を、世界を導くことだ、と。
人はどだい、完全とは言い難い愚かな生き物。自分ひとりでは立ち続けることすらできない。
秩序の下に法を敷こうが、人が自らを律することができない以上永い繁栄を齎すことは不可能である。
ならば混沌を敷けばどうであろうか。
血で血を洗い、破壊と殺戮が生み出す混沌の坩堝。その中にあって人は一体何を望むだろうか。
それは秩序。それは平穏。自分で何もできないが故に絶対者に支配を求め、それに縋る。
人が自分で立てないというのであれば、神が人を立たせよう。
まずは破壊を。そして来るべき再生を。
全ては我が救いたもう。
その言葉に苦笑したのは、いったい誰だったか。
人を救うと嘯いて、しかし当の人間は置いてきぼりにされている。
そんな詭弁を有り難がる人間が、いったいどこにいるのだろうと。
蒼衣「仮に神様が人を救う存在だとして、でも人は神様に一切救いを求めてないとして。
それでも人を救おうとするアレは、いったいなんなんだろうね」
フツオ「決まってる。人はそれを悪魔と呼ぶんだ」
最早問答は無用だった。
あるいはその問いが最後のパーツだったのか、ここに蒼衣の断章は発動条件を満たす。
相手を心底理解し、その考えを共有すること。
夢の終わりを告げる断章【目醒めのアリス】がここに本領を発揮する。
《本当の君は、なんだ?》
蒼衣の断章詩が紡がれる中、フツオは思う。
確かに人は何の助けもいらないほどに強くはないが、それでも全てを押し付ける救世主を必要とするほど弱くもない。
人生とは選択の連続だ。時に迷い、時に挫折し、選んだ道を間違えることもあるだろう。
《君の好きにすればいい。君の本当の形は君しか知ら ない。誰も君の形を縛ってなんかいない》
だけど、選んだ道の正否に問わず、それを後悔しないためにはまず「自分で選ばなければ」ならない。
他者から押し付けられた道など、どれだけ正しかろうと納得できるものではないだろう。
故にこそ、人は天上に在って運命を玩弄する絶対者など必要としていない。
神は太陽のように、全てを照らすだけでいいのだ。
《変われ》
そしてここに全ては決着を迎える。
混沌の果てに救済を望んだ神はその悪夢の全てを還され、混沌の物語は人界の魔王の手により消滅する。
ただ愛する女による終焉を望んだ神は盟約通りに願望を成就させ、全ての発端となった座はチーム・サティスファクションの手により解体された。
そしてすべてが終わったその場所で、フツオと仗助は二人だけになってしまったチーム不良のメンバーとして向かい合う。
死者は帰らない。失った物は取り戻せない。
子供でも理解できるほど簡単な、しかし大人でも納得できないその節理。
何もかもが上手く行って、誰も傷つかなくて、みんなが幸せになれる都合のいい答え。何故それは存在しないのだろうか。
かつて仗助が呟いたその疑問。かつては答えられなったそれに、しかし今ははっきりと答えることができた。
「――――僕たちが神様じゃないからだよ」
一瞬の刹那であること。人は幻想になれなくて、だからこそ理不尽な目に遭うこともあれば何もかも上手くいかないときもある。
けれど、けれど。
「それでも、僕たちは立ち上がって前に進まなきゃいけない。僕たちにできることをやるしかないんだ」
それでも諦めず、前に進むこと。
世界の矛盾に目を逸らさず、己の罪に目を背けず。
泣き、笑い、傷つき、愛し。
どこまでも、空を見上げて歩き続けるという。果てしない、戦い。
「それでも僕たちは生きている。そうである以上、決して止まることはできない」
それが、彼の出した唯一無二の答え。
罪も痛みも背負って歩くという、終わりのない道程。
出会いがあれば別れがあり、それは決して避けることはできない。
しかし彼らはそれでも涙を見せることはなかった。どれだけ場所を隔てようと、たとえ世界が違おうとも、紡いだ絆や過ごした思い出は決して間違いではなかったのだから。
「ありがとう、仗助。――――元気で」
「ああ。――――またな、フツオ」
そしてフツオは帰還する。
荒れ果てた、しかし確かに自分の帰るべき場所へ。
混沌ロワにおけるフツオは、藤井蓮と並び何かを失い、その中で足掻く一人の人間として描写された。
全てを救える”英雄”でもなく、何にも動じない”超人”でもなく、ただ一人の人間として他者と触れ合い、傷つき、そして成長した姿は変化し続けるという混沌ロワの命題に誰よりも近かったと言えよう。
続編である真・女神転生Ⅱの世界においてロウの勢力が台頭したのは、Ⅰのエンディング後にザ・ヒーローが人を導かなかったためとされている。
しかしフツオは、フィアや影狼、チーム不良の仲間、そして他の友人たちと共に戦い、人の繋がりの大切さを知った。
故に心配はいらないだろう。人は神に縋ることなく、悪魔に魂を売り渡すことなく、自らの強さを知り喜び学んで生きていくのだ。
子供のように、無邪気に奇跡を信じるのではなく。
大人のように、ただ現実を受け入れるのではなく。
この世に死があることを知り、悲しみがあることを知り、絶望があることを知り。
それでも、明日を夢見ることを諦めないこと。
いつかの未来、復興を遂げた東京の街に佇む英雄像は、涙を流すことなく静かに微笑んでいた。
最終更新:2014年04月10日 03:49