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第六話『戻せないから戻らない』

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rozen-yuri

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だれでも歓迎! 編集

「少しお話しませんか?」

そう言われ、連れて来られた小さな公園
下校ルートにある見慣れた風景に、少しだけ気分が落ち着く
子供の頃はここでよく遊んだっけ…
水捌けが悪くて、梅雨の時期は常に地面がグチャグチャなのまで昔と一緒だ
そんな懐かしさに浸りながら、僕はブランコに腰を下ろした
雪華綺晶はこちらに背を向けたまま立っていて、
新品の制服がやけに目立つ
結局、僕が雪華綺晶の制服を貰い、新品は2着とも譲る事にしたんだけど…
雪華綺晶の家族は、怪しまないのかな?
でも今はそんな事より、話とは何かが気になる
いや、それは考えるまでもないか
聞きたい事は山ほどあるし、聞かれそうな事も予想できる
だけど、続くのは長い沈黙
最初にかける言葉が見つからず、二人の距離に重い空気が満たされた
普段は何気なく話す友達でも、ここまで気まずくなれるものなのか…
そんな事を思っていると不意に雪華綺晶が振り返り、いつものような澄ました笑顔で口を開いた

「…水銀燈先生って完璧だと思いませんか?」


第六話『戻せないから戻らない』


「…完璧?」
「そう、完璧。女性として完璧だと思いませんか?」

そういう意味なら、確かに完璧かも知れない
あくまで一生徒から見た印象だけど、明眸皓歯な容姿やスタイルといった外見は勿論、
気配りができて嫌味がなく、男性からはモテて女性からも好かれ、後輩や生徒からは憧れられる存在に見える

「そうだね…完璧かも知れない。僕も憧れてた…」
「そうでしょう?ふふっ…私も一目見た時から憧れました」

つい最近まで憧れていたのは紛れもない事実なんだ
だけど、人間誰しも裏がある
その裏を知った上でまだ好きでいられるか、人の性格なんてそれが全てだろう

「でも私が抱く憧れは、いつしか恋愛感情に変わっていったんです」
「恋愛?」
「先生の事を考えると胸が熱くなって…そして酷く不安になる。あれだけ完璧な先生に意中の相手がいてもおかしくないって」

思春期の人なら、恋を経験し、その相手が他の人と話すだけで不安になったりするのはよくある事だと思う

「だけど先生は──」
「そう…レズビアンだったんです。もう心のモヤモヤが一気に吹き飛びました」
「そ、そう…」

あまり大声で話せる内容じゃないけど、誰もいないから許容しよう
何よりすごい嬉しそうな顔

「休憩中とかに部員の胸やお尻を触る行為…冗談だと思ってたけど本気だったんだね」
「同性ですし、誰も嫌がってませんでしたね」
「あはは、生徒同士でもお互い触り合ったりとかもないわけじゃなかったしね」
「でも私はそれを見て、すごくイライラしました」
「どうして?」
「私だけにして欲しい…他の子に興味を持たないで欲しいって」

笑い話から声のトーンが少し下がり、本気であることが伝わって来る

「…君も同性愛者なんだね」
「異常性癖で気持ち悪いでしょう?」
「…」

否定できないけど、もうそういうのには先生の一件で慣れた
それに僕だって心では拒絶していても身体を許してしまっている以上、そっち側の人間なのかも知れない

「雪華綺晶と先生はどういう関係なの?」

とても遠回りになったけど、ここで聞きたかった最初の質問をぶつける

「並の生徒以上、貴女以下…です」

返ってきた答えは、予想の斜め上を行っていた

「僕…以下…?」
「貴女が一番わかっているハズですよ。先生にとって一番は誰なのか」
「待って!君は何を知ってるの!?」
「全て…或いはごく一部だけ」
「…先生から聞いたんだね」
「直接は聞いてません。今日のやり取りで大体推測できました」

僕が成績で脅されてる事やどんな事をされたのかは知らなくても、
ただの教師と生徒の関係じゃない事はわかってるのか…

「私があの人の一番近くに居たかった…」
「えっ…」
「私は勇気を出して先生に告白したんです!当時はまだ先生がレズって知らなかったから、嫌われるのも覚悟で…」
「…どうだったの?」
「結果は愛する事はできるけど恋人にはなれないと…今思えば当然でしょう」

あの人の中には貴女がいたから──
そう付け足して彼女は僕を睨んだ

「僕は先生の事が好きってわけじゃないんだよ…」

その一言で、訝しげな表情に変わる

「どういう事…ですか?」
「先生には成績を条件に脅されただけ…今日のやり取りも他の情事も、そこに愛は存在しないんだ」

言って蘇る抱かれた記憶
嫌な意味で汗が流れる
雪華綺晶はしばらく呆然と立ち尽くし、やがて静かに言葉を発した

「何…それ…」
「雪華…綺晶?」
「私は先生にどんな事をされても…寧ろ性的欲求の対象にされるなら本望だと言うのに所詮は二番で、一番である貴女はムリヤリ?」
「それは価値観の相違だよ…僕にとって先生は」
「黙れ!!」

普段の雪華綺晶からは考えられない威圧感
いつも丁寧な言葉遣いの彼女が怒鳴ったのも初めて聞いた

「なァんだ…そうなの…貴女は稀に見る真面目な優等生だと思ってたのに、成績如きで身体を売る雌豚だったの」
「そんな…」
「そもそも貴女、進学に困るような成績取ってた?」

態度や口調が一変し、狂気を含んだ笑みを浮かべこちらに迫って来る

「私学は成績関係ないから貴女の成績でも行けない公立高校となると…アリス高校?」

小さく頷く事しかできなかった

「ふふ…どんな理由か知らないけど、そこまでして入りたいの?本当に頭のいい人が集う学校なのに、そんなバカには相応しくない」
「僕だって…直前で」
「抵抗した?暴れた?殴った?それもできない状況だった?」

そう言われると、決して抵抗らしい抵抗はしなかった
ナイフを突きつけられたわけじゃないし、拘束されたわけでもない
…全てが終わるまで、逃げようとしなかったんだ

「どんなに運動能力が高い人でも、バスケを嫌いな人がバスケ部レギュラーになれると思う?入ろうとも思わないでしょう!?」
「う…」
「本当に嫌いなら、理性より本能が働く!ムリヤリ犯されたなんて一方的な被害者面するな!!」

言われてる事の半分も、まだ飲み込めていない
僕の胸倉を掴み、息を荒げる彼女の顔をただ見上げる事しかできなかった

「いつか絶対…壊してあげる」

そう言って離れていく雪華綺晶
最後の言葉の意味すらも、しばらくは理解できそうにない
それほど深く、彼女の裏に潜む恐怖が僕に刻まれた
衝撃的過ぎて茫然自失となった僕を現実に引き戻したのは、メールが届いた着信音


〔水銀燈だけどぉ明日は土曜日だし暇でしょう?私の家にいらっしゃぁい♪〕


どうしてアドレスを知っているんだろう…

それより先生…アナタは僕を…僕らを…

どうしたいんですか──


  つづく

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