ボボンガ ◆iDqvc5TpTI


最初に動いたのは馬鹿だった。
極めつけの馬鹿だった。

「……っ! ……ッ!!」

仲間の死を告げる放送を耳にし、怒りや悲しみ、困惑に襲われていた3人。
その中の一人である日勝は。残る二人から距離を取ると突如一心不乱に身体を動かし始める。
打突――拳が宙を穿ち
 蹴撃――脚が空気をなぎ払い
  突進――踏み込みが大地を揺らす

「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「……っ!?」

いきなりの日勝の奇行に先までとは別の意味で唖然とするクロノを尻目に、マッシュには分かる気がした。
自分達は格闘家だ。
やり場のない想いを発散するには身体を動かすことしか思いつけなかったのだろう。
ティナ。
ティナ・ブランフォード
全てに決着がついた世界で、知ったばかりの愛情を胸に抱き、ようやく人としての幸せな人生を歩みだしたはずの少女。
幻獣界との繋がりが途切れても、繋いだ絆を導とし、大好きな人たちのいる人間界に残った彼女は。
これからだったのだ。
新たな命を迎えたモブリスの村でのティナの普通の少女としての日々は。

「う、うう……。ちくしょう、家族を置いてったら駄目だろ、ティナ。お前、あの村のみんなの母さんなんだろ」

人一人が背負うには余りにも馬鹿げた国という大きなものを背負った兄の助けとなるべく磨いた力は、小さな少女一人救う機会すら掴めなかった。
そのことが悲しくて、惨めで、悔しくて。
いても立ってもいられず、マッシュも日勝の横に並び拳を振るうことを選んだ。
少しでも気が楽になるように。落ち着きを取り戻せるように。何より、もっともっとこれ以上失わないよう強くなるために。
だからこそ、日勝の隣に立ち、彼の顔を覗いたマッシュは我が目を疑った。

「ははっ」

日勝は、笑っていた。
心の底から楽しそうに笑みを浮かべていたのだ。
マッシュは急に日勝のことが信じられなくなった。
他人の命を奪ってヘラヘラ笑うやつは大バカ野郎なのではなかったのか?
仲間の死を知らされ何故笑っていられる?
行き場のない悲しみを取り込んで、怒りがぐるぐると心の中を駆け巡る。
気付いた時には考えるよりも早く日勝の襟元を掴み上げていた。

「ばかやろう! 悲しくないのかよ! どうしてこんな時に笑ってられるんだ!」

文字通りたった一人しか手に入れられない最強の称号を目指す男にとっては、結局は他人なんかどうでもいいというのか。
一度は奥義を教え込もうとまでしていただけに、自分の見込み違いにマッシュの失望感は増すばかり。
いや、果たして失望したのは日勝に対してだけだったろうか?
ティナを、少女一人さえ救えなかった自分自身の無力に対してではないのか?
ふつふつと湧き上がるそれらがない交ぜになった混濁した感情を吐き出すかのように、マッシュは拳を強く握り直し、

「……駄目だっ」

打ち出すよりも速く割って入ったクロノに腕を掴まれる。
怒りに我を忘れかけていたとはいえ微塵も気配を察知させることなく自分の後ろを取ったクロノに、マッシュの武闘家としての本能が感嘆する。
それも一瞬、片腕の自由を奪われ殴ることのあたわなかったマッシュは怒鳴りあがく。

「止めるな、クロノ! 一発、いや、何十発も殴ってやらないと気がすまねええ!」
「……それでもだ」

鍛えていることが見て取れるクロノの腕を傷つけずに振りほどくことはマッシュからしても至難だった。
何よりも掴まれた腕を通して伝わる震えが、己が目を正面から見据える今にも泣き出しそうな瞳が、
クロノもまた果てのない悲しみを抱えていることを雄弁に語っていて。
マッシュには無碍に振り払うことができなかった。

「くそっ!」

掌を開き、日勝の服も解放する。
すると日勝は再び自分達から距離を置き、拳の型をなぞり出すのだ。
マッシュは怒りを通り越して呆れの域にまで達しかけ、そこでふと気付いた。
拳の、型?
直接拳を交えたからこそ断言できる。
日勝の格闘術は流派や型に囚われたものではない。
圧倒的な手数。
一つの道に染まらずバランスよく鍛え上げられた肉体と天賦の才からなるあらゆる武術のいいとこ取り。
それが日勝の強さの秘訣だったはずだ。
なのに。

今の日勝の一挙一動には確かな流れがあった。

「虎砲、精気法……っ!」

オーラキャノンの逆を思わせる体内への気の循環による回復法も。

「画竜天聖の陣っ!」

僅かなタメの後に放たれた拡散オーラキャノンじみた爆撃技も。

「心山拳奥義、旋牙連山けおわっ!?」

闘気が暴発して不発に終わった奥義も。
その全てが体系作られた一つの流派のものであることが、同じく一つの道に生きたマッシュには見て取れた。
そして思い出すのは日勝と拳を交えた直後に聞いた話。

――そう、このレイ・クウゴってのが俺の仲間ですんげえ強い格闘家なんだ。

あの時も、目の前の男は笑っていた。
本当に嬉しそうに、自らの仲間を、ライバルを。
誇っていたのだ。

「すげえだろ? レイはさ。こんな技も使いこなしてたんだぜ?」

オーラの扱いを我が物にしたことで、心山拳も模倣できるかと思ったが、そうは甘くはなかったらしい。
日勝は天を仰ぐ。
心山拳の極意は山のごとく動じぬ精神、水の如くたおやかなる心を常とすること。
格闘じゃねえと反発しながらもこの地でも死んだというオディ・オブライトを自らも怒りのままに殺してしまった未熟な精神では、
明鏡止水のその極意にはまだ遠いようだ。

「あいつが強かったのは腕っ節だけじゃねえ。ここもさ」

左胸を拳で小突いて心の臓がある位置を示す。
日勝にとっても鍛えたいと思う場所を。

「そりゃさ。俺だって仇が目の前にいるのなら怒りや悲しみをぶつけるさ」

それが間違っているだなんて到底思わない。
正しき怒りを行動に移せるのもまた強さだ。

「けどさ、今はそうじゃねえ。一緒にいんのは仲間なんだからさ。
 だったら俺はあいつが、レイが心魂込めて磨いてきた武術がどんなのかを知ってもらうことを選ぶぜ!」

そうだ。怒るのもいい。悲しむのもいい。
だけど、その感情一色で、楽しかった思い出までも悲劇に染めてしまうのは駄目なのだ。
そんなのは死者への侮辱に過ぎない。
ならばどうすればいいのか? そんなこと、答えは決まりきっている。

「好きな奴らのことを話すんだ。笑顔なのは当然だろ?」

――心山拳は未だ絶えず。拳も想いもここにあり

本当にさもあたり前のことのように言ってのける馬鹿にマッシュは苦笑するしかなかった。
そして日勝の言葉が心に響いたのは、隣に立つクロノも同じだった。

「……マッシュ、俺を思いっきり日勝に向けて投げて欲しい」

突拍子もない発言だった。
けれども、手に持ったモップを掲げるクロノの様子に大体を察し、マッシュは大きく頷き抱え上げる。

「大切な誰かのことを知ってって欲しいと思っているのは、あいつだけじゃないって教えてやろう」
「ああ、たっぷり叩き込んでやろうぜ! メテオストライク!」

投げ飛ばしたクロノの後を追って、マッシュも日勝に向かって突撃する。
技という形では、自分にティナのことを伝えることはできない。
それがどうしたっ!
ティナと共に戦い抜いた自分の拳が応えてくれないはずがない。
自信を取り戻した拳が、マッシュには輝いているように見えた。
ちょうどいい。
自分の目に狂いは無かった。
日勝は自分の武闘家としての全てを、ダンカン流格闘術に込められた師と自分の想いを、継ぐに足る男だった。

「教えてやるさ。夢幻闘舞を、俺達の思い出ごとっ!」

時間を置いたことで疲労も少しはマシになり、事前にケアルガも使っておいた甲斐もあって、残像を残しつつマッシュは加速する。
過去を乗り越えたカイエンとは違って何度も振り返ってはしまいそうではあるけれど。
おのれの信ずる道を駆け抜ける位には充分だと確証できる位には、踏み込みは鈍っていなかった。

「……ハヤブサ斬り」

その彼の前方、クロノは空を行く。
吹きつける大気の壁との摩擦に肌が僅かに悲鳴を上げる。
その痛みすらも心地いいハヤブサ斬り特有の滞空感。
でも、記憶にあるものとはいくらか違う。
エイラの時はもっと速かった。
エイラの時はもっともっとずさんだった。
もうあの感覚を味わうことは二度とないのだと嫌でも身体で実感してしまった。
これが死別。
これが喪失。
かって自分がみんなに味合わせてしまった埋めがたい悲しみ。
マールが泣いたのも、ルッカが怒ったのも当然だ。
一秒一秒刻むごとに、エイラが居なくなってしまったという事実がのしかかってきて辛い。
この悲しみを乗り越えられたカエルは本当に勇者だと心から思う。
失った姉を取り戻す為に去っていった魔王の孤独が少しだけ身に染みる。
消え逝く未来に帰っていったロボは、何を思い最後を迎えたのだろうか?
そしてエイラは、エイラは……

「身体も心も強かったのは、エイラだって同じだっ!」

そのことをただただ知っていてもらいたかったから。
剣から持ち替えたモップを強く叩きつける。
相当痛いだろうに日勝はむしろ嬉しがって、直後に一人慌てていた。

「へっ、そうだよ、そうこなくっちゃな! 不射の射、試してっうおっ!? 後ろに回りこまれた!? これじゃあ撃てねえ!」

そのまま滑空の速度を殺すことなく日勝の後方やや離れたところに着地する。
ほんの少しだけだけど、鬱々と翳るだけだった気分に日が差した気がした。
思いっきり八つ当たりも込めて殴ったことで鬱憤を晴らせたというよりも、
もういなくなってしまったエイラのことを少しでも他人に知ってもらえたことが、嬉しかったのだろう。
ああ、そうだ。
エイラも感情表現が豊かで、思ったことがすぐに口や顔に出て、一緒にいるだけで自分もわくわくする人だった。
その笑顔を思い浮かべて、クロノは驚く。
思い出しても悲しいだけだと思っていたのに、無論悲しくないわけじゃないけれど、それでもやはり、いつものように自分自身の顔にまで笑みが広がっていたのだ。

「ああ……。こんなことでよかったんだな。誰かの死に沈む心を軽くするのって」

今もただボロボロの心で進み続けているのであろうユーリルを想う。
教会で再会したら、今度は情報交換としてじゃなくて、もっともっと亡くなったクリフトやトルネコアリーナについて話を聞こう。
悲しみで足を止めることを厭うなら、楽しいことをいっぱい話し合って先に進もう。
そうしたら、ユーリルの心を少しは救えるだろうから。もっともっと、どこか通じるもののある彼と仲良くなりたいから。
クロノは決心し、大切な過去の思い出と、希望溢れる未来の導を胸に、日勝の方へと振り返る。

「行くぞ、日勝! 次は俺の拳を受けてみろおおおおおおお!」
「おうよっ! アンタの奥義、受けきってみせる!」

まさにいい笑顔をした二人がぶつかり合うところだった。
クロノは目を細める。
汚しちゃ駄目な楽しいことは、思い出だけじゃなくて、今、この時間にもある。
仲間が死んだばかりなのに不謹慎だと言う人もいるかもしれないけれど、エイラならそんなことは言わないだろう。

――今日 クロ 友達 増えた うれしい日。飲め 食え 歌え 踊れ!

うん、そうだ。
二人が気が済むまで闘った後は、三人で鯛焼きを食べることにしよう。
ユーリルにも会って分けてあげたら喜んでくれるに違いない。
それまでに自分ももう一汗かくとしよう。
マッシュから聞いた魔石による魔法習得や、他の連携技のことも念頭に置き、クロノも再度、格闘の輪に身を投じる。
彼の顔からも笑みは消えず、浮かんだままだった。



――数分後、平野に寝そべり、鯛焼きを食べながら談笑する3人の男性の姿があったことは、言うまでもない。



【G-2 平野北東部 一日目 朝】
【クロノ@クロノ・トリガー
[状態]:心地よい疲労(小) ※ぶつかり合い分はミサワ焼きの回復効果で相殺
[装備]:サンダーブレード@FFⅥ
鯛焼きセット(鯛焼き*1、バナナクレープ×1)@LIVEALIVE、
魔石ギルガメッシュ@ファイナルファンタジーVI
[道具]:モップ@クロノ・トリガー、基本支給品一式×2(名簿確認済み、ランタンのみ一つ) 、トルネコの首輪
[思考]
基本:打倒オディオ
1:ユーリルと合流する為教会へ向かう。その時は楽しい話をしたり、一緒に鯛焼きを食べたい。
2:打倒オディオのため仲間を探す(首輪の件でルッカ、エドガー優先、ロザリーは発見次第保護)。
3:魔王については保留 。
[備考]:
※自分とユーリル、高原、マッシュ、イスラの仲間、要注意人物、世界を把握。
※参戦時期はクリア後。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。その力と世界樹の花を組み合わせての死者蘇生が可能。
 以上二つを考えましたが、当面黙っているつもりです。
※少なくともマッシュとの連携でハヤブサ斬りが可能になりました。
 この話におけるぶつかり合いで日勝、マッシュと他の連携も開拓しているかもしれません。
 お任せします。 また、魔石ギルガメッシュによる魔法習得の可能性も?


高原日勝LIVE A LIVE
[状態]:全身にダメージ(中)、背中に裂傷、心地よい疲労(中) ※ぶつかり合い分はど根性焼きで相殺
[装備]:なし
[道具]:死神のカード@FF6、基本支給品一式(名簿確認済み)
[思考]
基本:ゲームには乗らないが、真の「最強」になる。
1:ユーリルと合流する為教会へ向かう。
2:武術の心得がある者とは戦ってみたい
[備考]:
※マッシュ、クロノ、イスラ、ユーリルの仲間と要注意人物を把握済。
※ばくれつけん、オーラキャノン、レイの技(旋牙連山拳以外)を習得。
 夢幻闘舞をその身に受けましたが、今すぐ使えるかは不明。(お任せ)


マッシュ・レネ・フィガロ@ファイナルファンタジーVI】
[状態]:全身にダメージ(中)、心地よい疲労(中) ※ぶつかり合い分はバナナクレープで相殺
[装備]:なし
[道具]:スーパーファミコンのアダプタ@現実、ミラクルショット@クロノトリガー、表裏一体のコイン@FF6、基本支給品一式(名簿確認済み)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
1:ユーリルと合流する為教会へ向かう。
2:首輪を何とかするため、機械に詳しそうなエドガー、ルッカを最優先に仲間を探す。
3:高原に技を習得させる。
4:ケフカを倒す。
[備考]:
※高原、クロノ、イスラ、ユーリルの仲間と要注意人物を把握済み。
※参戦時期はクリア後。

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058:いつか帰るところ 高原日勝 074:ユーリル、『雷』に沈黙する
マッシュ
クロノ


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最終更新:2010年06月30日 21:30