暴かれた世界 ◆KGveiz2cqBEn






「誰かのために強くなれ」

そんな言葉はあるけれど。

誰かというのは自分にとって他人でしかない。

「人のために強くなれ」

そう置き換える事だってできる。

誰かのため、人のため、あの人のため。



ねえ。



本当にそれが「人」の「為」だと思ってる?




ジャファルヘクトルよりも圧倒的に早く動くことができる。ヘクトルが着ている鎧の分を差し引いても俊敏性はジャファルの方が遥かに上だ。
ヘクトルはジャファルよりも圧倒的に力を持っている。「四牙」の一員であるライナスに勝るとも劣らないその怪力は、ジャファルの腕力を優に上回る。
互いが互いの弱点を突くことができ、互いが互いを苦手としている。
先に隙を見せたほうが負ける。今始まった両者の戦いはそういうものだ。

ヘクトルが駆け出したのと同時に、ジャファルの姿は闇に紛れた。
普段のジャファルならそのまま攻撃へと転じるのだが、今回は問題がある。
シンシアのように戦いに慣れていないズブの素人が相手という訳ではない。
あのエドガーや、座礁船で戦った軍人の女のように戦場を切り抜けてきた猛者が相手だ。
攻撃する隙を作るための攻撃、所謂ブラフやハッタリをかけたところで何の意味もないだろう。
更に相手は日々の鍛錬を欠かさず行う戦士だ。
怒り狂った今の「奴」が多少の傷をつけた所で怯むわけもない。
寧ろ攻撃した瞬間のこちらの姿を捉えて来るかもしれない。
一度、体を掴まれでもすればそこで終わりだ。あの手に携えた斧の餌食になるのが見えている。
今持っている短剣は両方とも不思議な力を持ったものだ。
片方は死を招き、片方は相手の影を縫って動きを止めることができる。
しかし、それは確実に起こる事象ではない。それを頼りに戦術を組み立てるのはあまりにも危険すぎる。

現時点で信じられるのは己の力、経験、技術。それだけでいい、今までとなんら変わりはない。
それだけで確実に相手の息の根を止める、最低でも意識を刈り取る一撃を叩き込む。
ただ、それだけ。

「野郎、どこに消えやがった!」
ヘクトルが駆け出したと同時に、ジャファルの姿はヘクトルの視界から消えた。
「ヘクトル!」
「来るなリン! あいつは、ジャファルは俺がぶっ飛ばす!」
マーニ・カティを構えたリンが助太刀に向かおうとするが、ヘクトルはそれを止める。
全身に裂傷、特に背中には大きな刺し傷を抱えた上に左目は見えない今のリンが加勢に回ったところで戦力としてプラスが見込めるとは思えない。
援軍に回ったところでジャファルの動きに対応することができずにやられてしまうのがオチだ。
「……どこに隠れてやがる、クソッ!!」
ジャファルがさっきまで立っていた場所にたどり着いたヘクトルは、倒すべき相手が見つからないことに苛立っている。
フロリーナを殺した」というのを聞いて彼が冷静で居られるはずもない。
しかし、暗殺者相手に冷静さを欠くというのは自殺行為に等しい。
どこかにいるジャファルはヘクトルが斧を振り切った後のスキを狙っているに違いない。

しかし、当のヘクトルはそんなことを気にする筈もなく。
ただひたすらに斧を振るい、手当たり次第に辺りの木を薙ぎ倒している。
大きく倒れた木は葉を撒き散らし、葉が受け止めていた水滴が霧のように降りかかる。
だが、幾ら木を斬ってもジャファルの姿は見当たらない、そのことが更にヘクトルの苛立ちを加速させる。
それでも、彼は木を切り続けた。どこかにジャファルが隠れていると信じて。
リンはまず、ニノを起こすことを試みた。
軽く頬を叩いても、リアクションすら起こさない。
気絶させるためにジャファルは少し強めに殴ったのだろうか?
無理の無い範囲での手段を全て試したが、今のリンではニノを起こすことはできなかった。

次に、リンは自分の中で生まれている違和感の正体を探っていた。
最初ジャファルが立っていた位置から飛び移ったとしても、考えられる周囲の木は全て薙ぎ倒されている。
なのにジャファルの姿は見えない。仮に薙ぎ倒される直前に他の木に飛び移っていたとしたらヘクトルも気がついているはずだ。
ひょっとするとヘクトルが疲労しきるのを待っているのではないか?
万全な状態のヘクトルと疲労しきったヘクトル。どちらが容易に殺しやすいかは考えるまでもない。
「フロリーナを殺した」というヘクトルを挑発するのにこれ以上最適なセリフはない。
そうして激昂させておいて手当たり次第に暴れさせる。
暴れきって疲れた所を襲えば幾らヘクトルとはいえ対応できないだろう。
木を切っている限りは、ジャファルは一生現れない。
どこかでその身を隠しているジャファルを見つけない限り、二人とも殺されてしまうかもしれない。

ジャファルの場所を探るヒントといえば、先ほどの襲撃ぐらいだ。
真昼間の道の上だというのにジャファルは彼女の前から簡単に姿を消して見せた。
そして現れては消え、現れては消えを繰り返したのだ。

彼女は思い出す、左目が見えなくなった直後の光景を。
影、ジャファルはどういう理由か壁へと向かい、襲撃の際は壁の方から現れていた。
そして襲われるときにその姿を目視出来たという事は、姿を消したままヘクトルに襲い掛かることはできないということだ。

壁に向かっていたということは何か背もたれがなければ隠れることができない、ということではないだろうか?
壁に向かっていたかどうかは定かではないが、今はそれに賭けるしかない。

ヘクトルは相変わらず木々を薙ぎ倒している。
もし、木に寄りかかって隠れているのだとすれば既にジャファルはその身を表している筈だ。
つまり、木には隠れていない。ということは後は地面しかない。
木を切り続けるヘクトルの代わりに冷静で居られるのは、自分しか居ない。
何とかして彼の代わりにジャファルの姿を見つけ出さねばならない。
何か、何かないのか? と、彼女は自分のデイパックを漁り始めた。

現れたのは、一本の槍。しかし、ただの槍ではない。
炎の精霊の力をその身に宿した三叉槍、フレイムトライデントだ。
それを片手に取り、彼女は駆け出した。

向かうは、ジャファルが立っていた場所。

「リン! こっちに来るなって言っただろ!」
自分の近くに現れたリンに対し、怒りをぶつけるヘクトル。
「お前だってアイツの標的だ! 早く下がってろ!」
ヘクトルの言葉は、リンへと届かない。
流石にヘクトルも木を斬る手を止め、リンのいる方へと向かう。
重傷のリンをジャファルが狙いに行くのは目に見えていたからだ。

言葉をかけられてもリンは動かない。
そしてゆっくりと槍を携え、ある人物の行動をイメージする。
彼女の頭の中には槍を扱う重戦士、ワレスの姿が浮かんでいた。
彼が槍を扱うときの腕の動き、持つ場所、力のかけ方、思い出せる限りのことを思い出す。
時に自分をかばうかのように前線に立ち、鬼神のごとく槍を振るった彼の姿を思い出す。
そのワレスの動きを真似るように、リンは槍を振るう。
槍の持ち方、力を込める場所、腕の動き、体重移動。
思い出せる限りの知識を詰め込みながら槍を振るった。
立て続けに振られる槍からは絶え間なく炎が飛び出る。
降り注ぐ雨にも負けない勢いで炎は辺りの草を燃やしてゆく。
そして草から草へと、草から木へと移り、まるで、嘗てこの槍を扱っていた一人の少年のように炎は勢いを増して行く。

リンの辺り一面が炎で包まれ始めたときだった。
不自然に盛り上がった場所で燃え上がる炎があった。
周りを見てもさっきまでそこには草しかなかった。
リンは静かにその盛り上がった場所へと、再び槍を振るおうとしたそのときだった。
炎が舞い上がり、一つの影が彼女へと襲いかかった。
影は真っ直ぐとリンの元へと向かい、その首を狙わんとしている。
勿論リンもその事に気がついてはいたが、今手に持っているのは不慣れな槍だ。
持っているのが剣ならまだしも、槍で突然の敵襲に応対が出来るわけもない。
せめて一矢報いようと、もう一度槍を構えたとき。
もう一つの影が彼女の目の前に現れ、影の襲撃を弾いた。
そして立て続けに豪快に斧を振るうが、それは空を切っただけで終わってしまう。
燃え盛る炎の中、リンの元へと突っ走って来ていたヘクトルはリンの方へと向きなおる。
「リン、でかしたな。後は俺がやる、ニノの所へ下がってろ」
「でもヘクトル!」
「うるせえ! 奴だけは俺がぶっ殺す!」
即座に後ろへ飛び退いたジャファルが体勢を整え、ヘクトルのほうを睨んでいる。
戦闘において今のリンは足手まといにしかならない。
そのことはヘクトルも分かっているし、リン自身が一番分かっている。
だから、リンはその要求を呑むしかできなかった。
「必ず生きて帰ってきて、約束よ」
背中越しに親指をつきたて、ヘクトルは了承のポーズを取る。
それを見たリンは一直線に炎の中へと消えていった。
そしてヘクトルはジャファルへとゆっくり斧を突きつける。
「やっと出てきたな、クソ野郎。
 隠れでもしないと俺に勝てないのか?」
ジャファルは微動だにせず、短剣を構えたままヘクトルを睨み続けている。
「……甘いなオスティア候」
「何?」
ジャファルの呟きに、ヘクトルは顔をしかめる。
「勝つために手段を選んでいる内は甘いと言っている」
「てめェのようになるぐらいなら甘ちゃんで結構だ」
お前のようにはなりたくない。とも取れるヘクトルの言葉を聞き、今度はジャファルが眉をしかめる。
「言いたいことはそれだけか?」
立て続けにヘクトルがジャファルへと質問を投げかける。
眼はしっかりとジャファルを見据えたまま、ヘクトルは再び斧を構える。
ジャファルも短剣を構えたまま、その眼をヘクトルから動かすことはなかった。
そして、ジャファルの一言によって戦いの火蓋が再び落ちる。

「来いよ」

影が、動く。

天に放り投げたダイスの目を見、立て続けに流れてきた放送を聴いた。
放送が伝えたのはマッシュ、そしてケフカの死。
セッツァーにとって禁止エリアよりも有用な情報だ。
マッシュはエドガーのような統率を取ることも無いし、首輪を解除する知識も無い。
だが自分が夢を追い続ける限り、彼は大きな壁となる存在だった。
彼と正面切って戦うとなると、正直言って勝てる自信は無い。
エドガー同様、旧知の仲を利用しての不意打ちが通用するとも思えない。
そんな彼が死んだ、セッツァーにとっては僥倖であった。
それだけではない、ケフカまでが命を落としているのだ。
ただでさえ危険であり、遭遇すれば高確率で命を落とすであろう存在。
こちらはセッツァーが夢を追っていようがいまいがいずれぶつかる存在だっただろう。
あたり構わず暴れて、この殺し合いを止めようとしている連中に殺されたといった所だろう。
出来るだけ数を減らしてくれていたなら更に良い事なのだが。
ともかく、こうして残る知人はシャドウのみとなった。
セッツァーが夢を追い求める上での最期の障壁は彼となった。
シャドウならこの殺し合いに躊躇なく乗っているだろう。
そもそも彼の本業はアサシン、そういった環境で生き抜いていくにはもっともふさわしい人間とも呼べる。
理由がなんであれ、彼が乗っているとすればいつ襲ってくるかは分からない。
シャドウにとって距離は障壁ではない。物を投げれば間に合うのだから。
しかもその投擲の正確性も尋常ではない。ケフカに勝らずとも劣らないほど危険な存在だ。
こうして歩いているうちにも、横から何かで貫かれてしまうのかもしれない。

「さて、賭けに勝つのはどっちだろうな」
さっき宙に投げた賽の目を思い出す。
それが自分のことを指しているのならば……?



その時、セッツァーは見た。



「……こりゃあ、どういうことだ」
遠くで雨にも負けずに燃え上がり、木々を焦がす炎の姿を。
「あそこで戦闘が起きてるのか……?」
目を凝らして炎が立っている場所を見てみるが、降りしきる雨がが視界を遮っているため上手く見渡せない。
誰が戦闘を行っているのか、一対一なのか、人が入り乱れる乱戦なのか。
最低限の情報すらつかむことさえ出来ない。

そんな中炎の中に身を投げ込むのは得策ではない。
分が悪い上に配当の倍率も低すぎる。分が悪い賭けなら分が悪いだけの配当が必要だ。
セッツァーは火中へと飛び込むことなく、雷の方へと進んでいった。

雨に打たれながら進んだ先でセッツァーが見たのは、雨に打たれながら倒れている一人の少女。
少女に近づいて息を確かめてみると、弱弱しい脈を感じることが出来た。

彼女は一体何をしているのか?
こんな雨の中で休息を取っているとは考えにくい。
そもそも火事が起こるような戦闘が傍で起きているのに睡眠をとるとは考えられない。
もし、寝ているとすればよっぽどの自信家かドがいくらついても足りない馬鹿だろう。
彼女の倒れていた姿勢、そばで起きている火事、降り注ぐ雨。
それぞれを組み合わせると答えは「誰かに気絶させられた」という結論が一番強くなる。
では、今度はなぜここで気絶しているのか?
戦闘で気絶しているなら火事の中に居るはずだ。
火事から少し外れたここで気絶しているということは、戦闘で気絶したわけではない。
思い切り吹き飛ばされてここまで飛んできたというのも考えられるが、それにしては外傷が見当たらない。
となると……?

「あなた、何してるの?!」

思考はそこで中断される。
声のした方へと振り向くと、一人の女性が剣を構えながらこちらを睨んでいる。
自分が怪しい行動を取れば、すぐにでも斬りかかりに行ける姿勢のまま彼女は動かない。
「……女の子が道で倒れてるんだ、助けるのが道理だろう?」
目線を女性からずらすことなく、セッツァーはゆっくりと槍を落とす。
武器を捨てるということは、戦意がない事を示す最良の手段。
両手を頭に乗せ、ゆっくりとその場で膝を突く。
「女の子は倒れてるし、火事は起こってるし、アンタは傷だらけだ。
 教えてくれないか、ここで何が起こってる?」
情報、今のセッツァーにはそれが一番必要だった。
何を賭けるにしても情報はあるに越したことは無い。
後で取捨選択をすればいいだけなのだから。
「……念のため聞くわ。貴方は殺し合いに乗ってるの?」
「その答えはノーだね」
警戒を解いてくれない女性に対し、セッツァーはひたすら下に出る。
ここで戦ってもいいのだが、楽に勝てる相手ではないとセッツァーは読む。
魔法で先手を取ったとしても、奥で戦闘をしている人間に気づかれかねない。
今をしのぐことが出来ても、後で面倒なことになるのは避けておきたい。
とにかく、彼女の信頼を得る事が何よりも最優先。
「……分かったわ、ひとまずあなたを信用してみることにするわ」
剣が納められていく様子を見て、セッツァーは一息つく。
そして、同時に女性はセッツァーの方へと倒れこんできたのだ。
ツイている。セッツァーは心の中でそう確信する。
「おいおい、大丈夫か?!」
回復魔法を当てながら女性をゆっくりと起こしに行く。
そこでセッツァーは、彼女が怪我していたのは左目だけでは無かったことに気がつく。
先ほどは見えなかった細かい傷や、背中の大きな傷に思わず息を呑む。
「私はいいから……ヘクトルを……助け、て!」
ヘクトルの名を聞きセッツァーは再び確信する。
本当に今の自分はツイている、と。
「まあ、ちょっと待てよ。今何が起こってるのかぐらい教えてくれよ」
そしてセッツァーはエドガーのようにキザったらしくウィンクしながら、リンへと手を差し伸べる。
「それと、まずは治療だろ? その怪我じゃあ何も出来ないぜ。
 あんたをほっといてヘクトルを助けに行ったとしても、あんたが死ぬんじゃ意味がねえだろ?」

回復魔法を当てながらセッツァーは傷だらけの女性、リンから今の状況を掻い摘んで聞く。
火事の中で戦っているのはヘクトルとヘクトルの嘗ての仲間、ジャファルというアサシンだということ。
ジャファルがヘクトルの愛人を手にかけたこと。リンもジャファルに襲われたこと。
そのジャファルは傍で寝ている少女、ニノのためにこの殺し合いに乗ったということ。
セッツァーが今の状況を知るのに必要な情報を聞き出し終えた頃には、リンの治療も終わっていた。
「杖無しで回復魔法が出来るなんて……すごいわ、ありがとう。」
「どういたしまし……おい、どこに行くんだよ」
治療が終わり、ある程度傷が塞がったのを確認してリンは立ち上がる。
そしてそそくさとやってきた方向へと戻ろうとしていた。
「決まってるわ、ヘクトルを助けに行くのよ」
もちろん、セッツァーは黙ってはいない。
ヘクトルの元へと戻ろうとする彼女を引きとめようとする。
「おいおい、俺は回復魔法のエキスパートじゃない。
 あんたの傷は完璧に治ってるわけじゃないんだ、背中の傷がまた開くかもしれないんだぞ?
 その状況で加勢に行くなんて危険すぎる」
セッツァーの指摘は正しかった。
正直、リン自身も万全の状態と呼べる状態ではない。
体力も完全に戻ったわけでもない、戦力としては微妙だ。
それは分かっている、分かっていたとしても。
「でも、それでも私は行かなきゃいけないの。
 ヘクトルだって万全の状況で闘ってるわけじゃない。傷を負いながらジャファルと闘ってる。
 あたしが……ここでじっと見てるわけにはいかないの!」
前に進まなければいけない。それだけの理由がリンにはある。
自身の体に鞭を打ち、槍を振るったことで限界に来ていた自分の体がもう一度動くようになった。
動けるならば、やることがある。やることがある内は止まっていられないのだ。
そんなリンの様子を見て、頭を抱えながらセッツァーは呟く。
「分かったよ……ニノは俺に任せて、さっさとケリつけて来い」
そして立ち去らんとするリンへ、セッツァーはあるものを投げてよこす。
左目が見えないながらもしっかりと距離感を掴み、投げられたそれをリンはしっかりキャッチする。
「持ってけ、アンタには必要だ」
セッツァーから手渡されたのは、スミレ色の糸で何重にも編みこまれた首飾り。
ピサロが回収したものの、説明書にも目を通さず死蔵していたものだ。
先ほどの物々交換のときにセッツァーは欠かさずに手に入れていたのだ。
受け取った首飾りを身につけると、リンは普段より自分の動きが軽くなっていることに気がつく。
「急ぐだろ? だったらそれをつけてけ。
 ああ、そうだ。ナイフ、それかカードの類を持ってないか?
 ……万が一、ここに戻って来るのがジャファルだったら戦わなくちゃいけない。
 戦いは得意じゃないとは言え、できるだけ慣れた物を使いたいからな」
首飾りを提供するのは勿論、セッツァーに得があるからだ。
ヘクトルやトッシュと同じパターンで相手の信頼を得て、こちらの出したもの以上のリターンを得る。
相手の正義感が強いほどこの手は通用しやすい。

そもそも、セッツァーとしては黙ってリンを見送っても良かったのだ。
それを一度引き止めたのは、セッツァーにとって得が生まれると踏んだから。
情報を引き出すためにかけた回復魔法で相手の信頼を得ることは出来た。
ならば、ここでもう一つ「物」を彼女にベットする。
そして、リターンとして帰ってきた物は一束のカードと一本のナイフ、そしてニノである。
まず得意の武器を手に入れたことは大きい。戦闘をせざるを得ないときにも闘いやすくなる。
もし、ジャファルと刃を交える事になったとしても、ニノという存在が手元にあれば主導権を握ることが出来る。
リンを見送った後、どうしても我慢しきれずにセッツァーは笑ってしまう。

「デスイリュージョン……」
渡されたカードの束に記された文字を読む。
そして、もう一度セッツァーは笑う。
「死の幻術士、っていうのも悪くないな」
そう言いながら、足元の少女へと視線を移す。
彼女がどうなるか? それは今後次第の話だ。
もし彼女が起きたとしても、セッツァーには「情報」という手札がある。

それをどう使うかは、彼次第だ。


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098-3:Throwing into the banquet リン 108-2:暴かれた世界(後編)
ジャファル
ヘクトル
ニノ
103:飛行夢 セッツァー


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最終更新:2010年07月02日 23:04