泣けない君と希望の世界 ◆iDqvc5TpTI
ランタンの火に照らされた森は夜闇に隠されていた傷を顕にしていく。
大地が何か巨大な刃物なようなもので抉られ地盤を剥き出しにしていた。
木々が枝も葉も根こそぎ奪われ巨腕に薙ぎ払われたのか、寸断され横たわっていた。
凄惨な光景だった。
だが、
ヘクトルにとってはいくらか見慣れた光景でもあった。
これは決して巨人が暴れて引き起こした惨事ではない。
自然災害――台風だとか竜巻だとか嵐だとか種類はいくらでもあるが、つまるところ“風”の力によるものであろう。
王としてその手の災害に巻き込まれた村落の復興を支援したこともあるヘクトルは経験からこの地を蹂躙した力の正体を見抜く。
そして無論、これが唐突に起きた局地的な災害によるものではないことを彼は理解していた。
信じがたい話だが、これは魔法によるものだ。
彼の知る限り風を起こす理魔法などエレブ大陸には存在しなかったのだが、
その古い知識は既に幼き魔王の娘により文字通り吹き飛ばされていた。
よってここでいう“信じがたい”という言葉は、風の魔法を指してのことではない。
この魔法を放った主たる少女が、これだけの、
致命傷とまではいかなくとも重症を負わせるには十分の魔法を、あの男に加えたということの方だ。
「それでも、それが事実なんだよな……」
ニノを任せると頼んできた時、
ジャファルはヘクトルやリンがつけた覚えのない傷を全身に負っていた。
衝撃波による切り傷。
火球による火傷。
真空波による裂傷。
一撃や二撃では収まらない攻撃をその身に受けていた。
それは転じて、それだけの魔法を暗殺者は少女に撃たせたということ。
心優しい少女に大好きな人を何度も何度も傷付けさせたということ。
「……ああ、くそっ、何でだよ」
灯りが、蹲る少女の影を捉える。
それを見るまでもなくとっくにヘクトルはそこで少女が泣いていることに気付いていた。
戦いが終わり、雨が止み始め、静けさを取り戻した森では、人一人の鳴き声といえど十分に響く。
否、たとえこの場を喧騒が支配していても。
「俺は、泣いている女は苦手なんだぞ」
ヘクトルが少女の泣く声を聞き逃すはずがなかった。
彼が愛し、傍らにいたいと思ったのは泣き虫な少女で、
そんな少女を放ってはおけなかったのがこの男だったのだ。
「ニノ」
ヘクトルは蹲る少女に合わせて近づいてからしゃがみ込む。
涙で視界を曇らせていた少女はその時になってようやって自分以外の誰かがいることに気付き顔を上げた。
「ヘク、トル……?」
「ああ」
ひどい有様だった。
泣き腫らした目は真っ赤に染まり、充血していた。
男の名を呼んだ声だって、喉が枯れしゃがれたものになっていた。
恐らくは、ジャファルに置いて行かれてからずっと。
少女は声を上げ泣き続けていたのだろう。
大好きな人を傷つけてしまった痛みに押しつぶされ。
大好きな人が少女との間に築いてきた全てを捨て去ってしまった悲しみに呑まれて。
大好きな人がもう隣にはいない、いてくれようとしない寂しさに取り残されて。
ずっと、ずっと、独りぼっちで泣き続けてきたのだ。
隣にいてよ、隣にいてよと、闇に消えた最愛の人を求め続けていたのだ。
「……っ」
その様に、ヘクトルは無言で強く拳を握りしめる。
泣きじゃくる少女を前に去っていった男への怒りを顔に出したくはなかったがそれでも思わずにはいられなかった。
どうして傍にいてやらないのかと。
散々人間の弱さと脆さを理解出来はしないと自分を罵倒したくせに、どうしてお前はここにいないのだと。
お前には分かるんだろ、個を殺したらしい俺とは違って。
あいつの死を泣いてやれなかった俺とは違い、お前の為に泣いているこいつの気持ちが分かるんだろ!?
なのに、何故、どうして。
「ジャファルが、ね……、行っちゃっ、たんだ……。
もうあたしとは……、一緒に、一緒に、いられない……って」
ジャファルはニノの側にいてやらないのか。
ニノはまだ生きている。
ジャファルもまだ生きている。
二人は再び出会うこともできた。
それなのに、何故二人は別れねばならなかったのか。
何故、間に合ったはずのあの男は、泣いている少女を泣き止ませに来ないのか。
「俺と関わり過ぎると、きっと闇に落ちるから、って。
あたしには、もっともっと、相応しい人がいて、その人が、あたしを幸せにっ、してくれるって……」
ああ、そうだ、そうだった。
ヘクトル自身もジャファルの口から聞かされていた。
闇は闇から逃れられない、光とは共にあれないと。
訳の分からない理屈を聞かされていた。
それが、どうしたというのだ。
「そんなの、ちっとも幸せじゃ……ないよぉ。
あたしは……、ジャファルに幸せに、して欲しい。
あたしは、ジャファルと、幸せに、なりたい……」
目の前で女が泣いている。
ヘクトルがこの世で最もどうにかしてやりたいものがそこにはある。
けれど、ヘクトルには泣き止ませることはできても、少女を笑顔にすることは不可能だ。
ヘクトルには涙を少女の掬うことはできても、少女の心を救うことはできない。
真にニノを救えるのは一人だけで、真にヘクトルが救えたのも一人だけだった。
「ねえ、ヘクトル……。あたしの言ってることって、間違ってるのかな……?」
ヘクトルにはニノを抱きしめられない。
少女がそうして欲しいと思っているのは闇に消えた暗殺者なのだから。
ヘクトルはニノの傍らで手を握ってやることはできない。
そうしたいと男が思っていたのは天馬を駆る亡き少女一人だけだったから。
ヘクトルは少女の背中に背中を貸してあげることはしなかった。
そうしてやった女とニノの持つ強さは別物だったから。
「あたし、馬鹿だもの。あたしが……、間違ってって、ジャファルが正しいの、かな?」
だから。
「嬉しかった、のに、なぁ。ジャファルに、二人で暮らそうって、言って、もらえて。
ずっと一緒だって……、約束、してもらえて。
本当に、本当に、幸せ、だった、のにぃっ」
だから――
「あたしとジャファルじゃ……、幸せに、なれないのかなぁ……。
なっちゃ、だめ、なのかなぁ」
男にできることは、一つだけだった。
「俺が、つくる」
それは約束だった。
男は少女を抱きしめることはできない。
男は少女の手を握ることもできない。
男は少女に背を貸すこともできない。
「お前とあいつがずっと一緒にいられる国を、俺が、作る。
あいつを追ってくるっていう『闇』に怯えないでいいようにオスティアを変えてやる。
『光』だとか『闇』だとかであいつに言い訳させないで済むようにしてみせる!」
だけど男には少女と約束を交わすことはできる。
大切な約束を破られたばかりの少女に、絶対に破らないと誓える約束を紡ぐことはできる。
王として、一人の女を好きになった一人の男として。
一組の恋人達が幸せに暮らせることを祈り、その願いが叶うよう、助けになることはできる。
ヘクトルは王だ。
仲間の為に、国の為に、世界の為に戦う者だ。
己を捨ててなんかいない。
王であることもまたヘクトルという人間の個なのだ。
ならば、他人がどう言おうと構わない。
ヘクトルは王らしく、王らしいやり方で、その他人をも幸せにしてしまえばそれでいいのだ。
たとえその他人がヘクトルから最愛の人を奪った暗殺者だとしても。
それでいい、それでいいんだとヘクトルには思えてしまう。
ジャファルにやったことを後悔させるには、あいつに満足を抱かせたまま闇の中で死なせるのではなく、
光の中に連れ戻し、愛する人と幸せな時を過ごさせ、自分が奪ってきたものの重みを分からせることが一番なのだと。
「だから、連れ戻しに行くぞ。あいつは俺にとっても将来の国民なんだ。放ってはおけねえ」
故にこそ立ち上がりながらの言葉には、一切の陰りがなかった。
涙を浮かべたまま見上げてくる少女のことも強く見返した。
王が作れるのは、あくまでも“国”止まりだ。
真に安息を得られる“家”を作ることは、そこに住まう人々にしかできない。
ニノを幸せにできるのがジャファルだけでしかないように、ジャファルを幸せにできるのもニノ以外にはいない。
「いいの、かな……?」
奪われてばっかりで、捨てられてばっかりだった少女は涙をぬぐいつつもすぐには立ち上がれない。
誰よりもジャファルのことを追いかけたいのに、好きな人のことを傷つけるだけではないかと、
もう一度捨てられてしまうのではないかと恐怖してしまう。
或いはそれは、ジャファルに人を殺させてしまった自分が幸せになってもいいのかなという意味でもあったのかもしれない。
「いいもくそもあるか。お前はジャファルと一緒にいたいんだろが」
「いたいよ……っ。あたしは、あたしはジャファルとが、いいっ」
だったらよ。
そう言ってヘクトルはニノに手を伸ばす。
「行こうぜ。あいつは捨てていくって言ったんだろ。壊していくとは言わなかったんだろ。
お前とあいつが築いてきたものは何一つ失われてなんかいねえ。
全部拾い集めてお前っつう利子も付けてそっくりそのまま返してやれよ」
「……うんっ!」
ヘクトルの手に少女の小さな手が重なる。
その感触が、槍や手綱を握り続けていた為に意外と使い込まれていた誰かの掌とは明らかに違ったことが、
少しだけ、ほんの少しだけ、ヘクトルには哀しくて。
ヘクトルは空を見上げる。
そこにもう雨雲は存在していなかった。
空さえもヘクトルの代わりに泣いてはくれないみたいだった。
【C-7西側の橋より少し西 一日目 真夜中】
【ヘクトル@
ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:疲労(大)、アルテマ、ミッシングによるダメージ、
[装備]:ゼブラアックス@
アークザラッドⅡ、アルマーズ@FE烈火の剣
[道具]:ビー玉@
サモンナイト3、 基本支給品一式×4
[思考]
基本:オディオを絶対ぶっ倒して、オスティアに戻り弱さや脆さを抱えた人間も安心して過ごせる国にする
1:ジャファルは絶対止めてニノと幸せにさせる
2:ブラッドの仲間、セッツァーの仲間をはじめとして、仲間を集める。
3:つるっぱげを倒す。ケフカに再度遭遇したら話を聞きたい。
4:セッツァーを信用したいが……。
5:アナスタシアと
ちょこ(名前は知らない)、
シャドウ、マッシュ、セッツァーを警戒。
[備考]:
※
フロリーナとは恋仲です。
【ニノ@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:若干持ち直した
[装備]:クレストグラフ(
ロザリーと合わせて5枚)@WA2、導きの指輪@FE烈火の剣
[道具]:フォルブレイズ@FE烈火、基本支給品一式
[思考]
基本:全員で生き残る。
1:ジャファルと一緒にいたい。
2:
サンダウン、ロザリー、
シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
3:マリアベルたちのところに戻りたい。
4:フォルブレイズの理を読み進めたい。
[備考]:
※支援レベル フロリーナC、ジャファルA 、
エルクC
※終章後より参戦
※メラを習得しています。
※クレストグラフの魔法はヴォルテック、クイック、ゼーバー、ハイヴォルテックは確定しています。他は不明ですが、ヒール、ハイヒールはありません。
現在所持しているのはゼーバーとハイヴォルテックが確定しています。
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最終更新:2011年03月15日 21:01