白黒パッチワーク ◆iDqvc5TpTI



沈黙が二人を包み込んでいた。
元々ユーリルとクロノは共に無口なタイプの人間ではある。
ただ、そのことを差し引いても二人の間に流れる空気はやけに重いものであった。


ことの発端は数分前に遡る。
何度も名簿を見直したうえで、ユーリルは気になっていたことをクロノに尋ねことにした。
即ち、死者の蘇生に心当たりはあるのかと。
突然の質問に困惑するクロノに、仕舞ったばかりの名簿を取り出し見せるユーリル。
その時点でクロノも質問の真意をおおよそながら察した。
情報交換時に気づいたことだが、どうもこの名簿、知り合いごとに一纏めに記載されているのだ。
クロノの名前にはクロノの仲間が、ユーリルの名前の後にはユーリルの仲間が連なっていたことは、いくらなんでも偶然では済ませられない。
その上で先ほどの質問とくれば自ずと一つの答えへと辿り着く。

シンシア

トーンを一つ低くして口に出されたその名前は、確かにユーリルの知り合い達に続く形で記載されていた。
ユーリル達のグループの最後尾と取るか、次のグループの先頭と取るか。
迷いつつとはいえ問うてきたことから、ユーリルには心当たりがあるのだろう。
勿論シンシアという名前は決して珍しいものでは無いため、単なる人違いであることも十分あり得る。
そして質問の意図からするに

――ユーリルが知るシンシアという人物は既に死去している

同時にクロノはもう一つ勘づいたことがあった。
普通死者の名前が名簿に載っていたところで、訝しみはすれど同じ名前の別人だと思うはずだ。
生き返ったのでは等という突拍子もない推測には至らない。
けれども、クロノはその馬鹿げた推論を一笑に伏すことはできなかった。
何故ならとうのクロノ本人が一度死に、蘇ったことがあるのだから。
いや、厳密には復活では無く過去修正だ。
死んだことをなかったことにされたのである。


クロノは語る、自分達の冒険のことを。
ユーリルは黙したままじっと話を聞いていた。
やがて、大部分を省略したとはいえあらかた理解したユーリルは眼で問う。
いいのか、と。
歴史を変えれる道具程悪用されるわけにはいかない物は無い。
それをついさっき会ったばかりの自分に教えていいのかと。
問題ないとクロノは首を振る。
ユーリルなら大丈夫だと心の底から信じることができたから。

「世界樹の花」

次は自分の番だとばかりにユーリルもまた語り出す。
魔王の軍勢から自分を守って死んだ少女のことを。
別れを済ませたばかり仲間達との冒険のことを。
死者の魂すら呼び戻し、どんなものでも蘇らせる奇跡の代物のことを。

話が進むにつれ二人は、自分達が別世界の住人かも知れないという以上に恐ろしい可能性に気づく。

「……クロノ」
「ああ。あり得るな」

ユーリルは不思議でならなかった。
もしも名簿に載っているのが自分の知るシンシアだとして、何故、魔王はわざわざ生き返らせてまでこの殺し合いに参加させたのかが。
魔王オディオからはかってのデスピサロにも勝る人への憎悪が感じられた。
故に、人々の最後の砦にして護り手である勇者ユーリルの心を乱そうと、幼馴染である少女を殺し合いに参加させることまでは理解できる。
とはいえクロノトリガーしかり、世界樹の花しかり、死者の蘇生はそう簡単に行えるものではない。
前者は幾つもの条件を満たす必要があり、後者が1000年に一度しか咲くことが無いように。
ユーリルにとって大切な人間は、何もシンシアだけでは無い。
無力な知り合いを巻き込みたかったのだとしても、多大なリスクを負うであろう蘇生をするには割が合わないのだ。

そう、あくまでもリスクを負うのなら。

「「タイムマシン」」

時を超える力があれば、律儀に1000年待つ必要は無い。
千年前、或いは千年後ごとに跳べば、なんの苦労もせず、大樹が存在する時間の限り、いくらでも手に入れれる。
クロノ達を攫うに際し、オディオがタイムマシンを強奪したことは十分あり得る。
それぞれの時代に還った筈の彼らが共に呼び出されていることからも、少なくともオディオは何らかの時を超える力を持っていなければおかしいのだ。

まずい。

状況は絶望的だ。
もし、オディオが無制限に時に干渉でき、その気があるのなら、どれだけ抗っても参加者側に勝ち目は無い。
加えて、考察通りならオディオは死者を際限なく生き返らせられるということになる。
自分のためではなく、仲間や過去に失ってしまった誰かの為に殺し合いに乗る者が居たとして、このことを知ってしまったのなら。

考え込んでいるうちにいつしかとりあえずの目標として設定していた小屋へと到着していた。
警戒して窓から中を覗こうとするも暗くて中はよく見えなかった。
正面から入ってみるしかない。
一応の武器を持つクロノが前衛となり、ドアノブへと手をかける。
万一出入りがしらに襲われた時に備え、ユーリルは呪文を放てるようすぐ後方で待機。
顔を見合わせ二人は頷き約束する。
もしも誰かがあの中にいたとしても、自分達の憶測については当面黙っていようと。


かくして時は冒頭へと戻る。
警戒しつつも小屋へと踏み込んだ二人を待っていたのは既に語ることの無い人であったもの。
穴のあいた縦縞の服を纏った肥えた身体。
白髪が混じった青い髪と血で赤く染まった髭。
苦悶の表情のまま固まってしまった顔。

ユーリルの仲間、トルネコの死体が床の上に置き去りにされていた。

「トル、ネコ?」

返事は、ない。

「トルネコ、おい、こんなとこで寝てちゃダメだろ」

揺さ振られた身体から、乾き切っていなかった血が零れる。
ユーリルが掬おうとするかのように手を伸ばす。

「ネネさんやポポロ、待たせたままだろ?」

常にないほどに饒舌なユーリル。
出あって間もないクロノにも、ユーリルにとって死んだ男がどれだけ大切な仲間だったのかが痛いほどに伝わって来る。
同時にクロノは心配にもなった。
ついさっき彼らはオディオが死者の蘇生が可能だと話したばかりなのだ。
知る限りで二人も仲間を失ってしまったユーリルが、殺し合いに乗ってしまうのでは?
生じた疑念を恥じるクロノ。

だからこそ続くユーリルの行動に彼は眼を見開いた。

「メラ」

力ある言葉と共に、ユーリルの右手に小振りながらも火球が生じる。
クロノは咄嗟に身構えるも、遅い。
生じた炎は寸分違わず目標に命中した。

ユーリルの仲間、トルネコの死体の首に。

「っな!?」

予想外の事態に呆然とするクロノを尻目に、トルネコの首輪の周りの肉が削げ逝く。
精々初級呪文のメラでは威力が足りず、白い骨が赤い肉から這い出るに止まる。
最強バンテージを巻いたユーリルにとってはそれで十分だった。

ゴキリッ、ごと。

鈍い音を立て折れる骨、転がる頭部。
腕力が格段に強化された腕は、右一本で人の骨を握りつぶした。

ドサリ。

崩れ落ちるトルネコの身体を受け止めもせず、ユーリルはそれを手に取る。
無骨な金属の輪っか。
参加者の命を縛る首輪を。

「行こう、クロノ」
「おい、待てよ!! お前の仲間なんだろ!!」

無残さを増した仲間の死体に目もくれず小屋を出て行こうとするユーリルの手を、クロノはらしくもなく声を荒げて掴む。
信じられなかった、許せなかった。
外れた状態の首輪は、呪縛から逃れるにはあれば便利だということくらいはわかる。
それでも、仲間を弔おうともせず躊躇なく遺体を傷つける精神が、許せなくて。
振り向いたユーリルの表情に今度こそ自分を恥じた。

「返事が、ないんだ」

悲痛な声だった。

「どれだけ呼んでも、返事が無いんだ」

今にも泣き出しそうな顔だった。

「だから、これはもうトルネコじゃない」

自分に言い聞かせるように。

「ただの、屍だ」

泣くわけにはいかない、と。

「何よりも、僕は、勇者だ」

死んだ仲間よりも生きている誰かを優先しなければならない。
言外にそう告げて、世界を救うべく育てられた青年は外へと踏み出して。
続けざまに夜の闇に輝く二色の光を見た。


▽ ▲ ▽


「……勇者、か」

カエルの親友だったというサイラスもあんな人間だったのだろうか。
一人小屋の付近に残ったクロノは想う。
あれから二人は別れた。
決して仲違いしたからではない。
北と東、二か所で光が瞬いたからだ。
片や一瞬、されど赤い炎を思わせる眩い閃光。
片や今も明るくなりつつある空を裂き続ける一本の光条。
地図にも記載された灯台によるものであろう後者とは違い、前者は恐らく戦闘によるものだ。
戦いが起きたということは、最低一人は殺し合いに乗っているということになる。
ここまで届くほどの光を放つ炎を使う或いは使わざるを得ない相手。
強敵なのは間違いない。
いや、灯台とて誘い主の真意を抜きにしても、これだけ目立てば十中八九多くの人間を呼び寄せる。
殺し合いに乗った人間からすればちょうどいい鴨だ。
どちらも死地であることに変わりはない。
最強バンテージの効果を実証できたとはいえ、得意の得物が無い状態で戦力を二分したことを、今頃オディオは笑っているかもしれない。

――それがどうした。

これ以上、命を失わせることも奪わせることも御免だった。
ユーリルも同じことを思ったからこそ、ロザリーの保護を決意し、自分にも頼んだのだろう。
なら、それぞれがそれぞれの場所に向かう道を選んだことは間違ってなんかいない。
笑いたければ笑うといい。
朝に教会で再開しようと二つ目の約束は交わされたのだ。
あいつなら、何があっても約束を守ってくれる。
あいつは勇者なのだから。
その時には、技師と会える確率がまだ高いと託された、遺品でもある首輪を返すとしよう。

作業が終わり、クロノは地面につけていた腰を上げる。
いささかユーリルに遅れる形となってしまったが、そのことに悔いは無かった。
できること、できないことを補う。
仲間なら当然のことをしたまでなのだから。


【H-4 小屋よりも北 一日目 黎明】

【ユーリル(DQ4男勇者)@ドラゴンクエストIV】
[状態]:疲労(中)
[装備]:最強バンテージ@LIVEALIVE、天使の羽@ファイナルファンタジーVI
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:打倒オディオ
1:北に向かい、赤い光の真相を確かめる。その後教会へと向かう。
2:打倒オディオのため仲間を探す。
3:ピサロに多少の警戒感
4:ロザリーも保護する。
[備考]:
※自分とクロノの仲間、要注意人物、世界を把握。
※参戦時期は六章終了後、エンディングでマーニャと別れ一人村に帰ろうとしていたところです。
※服は時間経過で乾きました。
※赤い光はちょこの炎によるものです
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
 その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
 以上二つを考えましたが、当面黙っているつもりです。

【H-4 小屋のすぐ外 一日目 黎明】

【クロノ@クロノ・トリガー】
[状態]:疲労(中)、半乾き。
[装備]:モップ@クロノ・トリガー、魔石ギルガメッシュ@ファイナルファンタジーVI
[道具]:基本支給品一式 、トルネコの首輪
[思考]
基本:打倒オディオ
1:灯台へと向かう。その後教会へ。
2:打倒オディオのため仲間を探す
3:できれば首輪の件があるので機械に詳しそうなルッカ優先で合流したい
4:魔王については保留
5:ロザリーを保護する
[備考]:
※自分とユーリルの仲間、要注意人物、世界を把握。
※参戦時期は魔王が仲間になっているあたり(蘇生後)、具体的な時期は後の書き手さんにお任せします
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
 その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
 以上二つを考えましたが、当面黙っているつもりです。

※H-4エリアの小屋の傍にクロノによりトルネコの死体が埋葬されました。経過した時間はお任せ。

時系列順で読む


投下順で読む


020:沈黙のドザエモン ユーリル 048:『勇者』の意味、『英雄』の真実
クロノ 052:正に悪夢、アクム


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2016年05月07日 03:23