アットウィキロゴ

『生きるか、死ぬか』






 アナキン・スカイウォーカーはかつての弟子であるアソーカ・タノを無言のまま見据えていた。
 先刻の再会からどれほどの時間が経っただろうか。
 沈黙が長く続いた。
 アソーカはその静寂に耐えかねたようにわずかに身じろぎした。腰に下げた二振りのライトセーバーの柄に無意識のうちに指先が触れる。
 師の纏う気配が記憶にあるものとあまりにもかけ離れていることに彼女の直感は既に明確な警戒の色を強めていた。

「マスター」

 アソーカはもう一度呼びかけた。今度は先ほどよりも幾分硬い声だった。

「さっきから何も答えてくれないのね」

 アナキンはゆっくりと口を開いた。低く感情の抑揚をほとんど感じさせない声だった。

「お前に最後の訓練をする」

 その言葉は夜の静寂に奇妙なほど平坦に響いた。
 アソーカの表情に困惑が浮かんだ。かつて幾度となく師から与えられてきた訓練という言葉。それは本来彼女にとって親しみを伴うごくありふれた響きのはずだった。
 だが今アナキンの口から発せられたその言葉にはこれまで感じたことのない冷たい異物感が伴っていた。

「で何を学ぶの、マスター」

 努めて軽い調子を装いながらもその声の端には隠しきれない緊張が滲んでいた。かつてのアソーカであればこの状況でも師をからかうように軽口の一つも叩いていたかもしれない。
 だが今目の前に立つ人影から漂う気配は彼女にそんな余裕を許さなかった。
 アナキンは答えなかった。代わりに右手がゆっくりと腰のベルトへと伸びた。指先が使い慣れたライトセーバーの柄を確かめるように撫でる。

「生きるか」

 そして静寂を切り裂くように青いライトセイバーが唸りを上げて起動した。

「死ぬか」

 その顔には街灯の乏しい光の中でもなお分かるほどにかつての人懐こさの欠片も見当たらなかった。
 言い放たれたその言葉と共に夜の空気そのものが一段と重く張り詰めたように感じられた。
 アソーカは目を見開いたまましばし動けずにいた。頭のどこかでこれが冗談であってほしいというほとんど祈りにも似た願いが渦巻いていた。
 だが目の前に構えられたライトセイバーの切っ先は微塵の揺らぎもなくまっすぐに彼女へと向けられている。
 やがてアソーカの唇から絞り出すような声が漏れた。

「あなたとは戦いたくない」

 それは拒絶であると同時にまだどこかで縋りつくような響きを伴った言葉だった。
 似たような状況になったのであればアソーカ・タノはきっと何度でも同じ言葉を口にするだろう。
 彼女の脳裏には共に潜り抜けてきた幾多の戦場の記憶が走馬灯のように駆け巡っていた。幾度となく交わした軽口、危機に陥った互いを救い合ったあの日々の記憶が。
 アナキンは無言のままライトセイバーを振り上げた。青い刃が唸りを上げてアソーカへと迫る。
 アソーカは咄嗟に二本の刃を交差させその一撃を受け止めた。衝撃が彼女の両腕を痺れさせる。

(重い……!)

 アソーカは内心で驚愕した。かつて幾度となく手合わせをしてきた師の剣戟とは明らかに質が違う。純粋な膂力だけでなく暗黒面の力がアナキンの一撃一撃にこれまでにない破壊力を与えていた。
 アナキンの用いる剣術はドジェム・ソと呼ばれる型だった。シエンの型をさらに攻撃特化に推し進めたその流派は生物ならではの柔軟な関節の可動を存分に活かし腕を鞭のようにしならせることでライトセイバーに瞬間的な加速とパワーを与える。
 ライトセイバーの軌道が腕の振りよりもわずかに遅れて追随してくるその特性は相手の反応を狂わせ防御を強引にこじ開けるための強力な武器となっていた。
 対するアソーカの型はジャーカイ、大小二振りのライトセーバーを同時に操る二刀流の総称であった。その真骨頂は素早い動きとフェイントを織り交ぜながら戦場を縦横無尽に駆け巡り手数の多さで相手を圧倒し疲弊させることにある。
 片手ずつライトセーバーを操ることで攻撃と防御を柔軟に使い分けられる反面、両手が塞がることでフォースを用いた技の発動に制約が生じる。それはジャーカイという型そのものが内包する避けがたい弱点だった。

 アソーカは構えを取りながらなおも信じられないという表情を浮かべていた。だが生きるためには今この瞬間目の前の脅威に対処しなければならない。それがどれほど受け入れがたい現実であろうとも。
 アソーカは大小二つのライトセイバーを目まぐるしく操り右から左から下段から上段から絶え間ない連撃を繰り出していく。彼女の身体はまるで独楽のように旋回し夜の路上を縦横に駆け抜けた。
 だがその一撃一撃をアナキンは冷静に見切っていく。ドジェム・ソの重い一撃で受け流し時には最小限の動きだけで刃をかわし着実にアソーカの体力と集中力を削り取っていった。
 アソーカのフェイントを織り交ぜた連続攻撃は多くの敵にとっては脅威だった。だがかつて共に幾多の戦場を潜り抜けその戦い方の癖までも知り尽くした相手にとってはその動きの多くが既に見切られたパターンでしかなかった。
 アソーカはライトセーバーを握る手にさらに力を込める。左手の刃で上段からの牽制を放ちながら右手の刃を低く滑らせアナキンの脚を狙う。
 だがその一撃は宙を切っただけだった。
 アナキンの姿がふっと視界から消える。
 いや消えたわけではない。アタロの技法を織り込んだ大跳躍がその巨躯をアソーカの頭上高くへと運んでいた。ドジェム・ソの弱点である機動力の低さを補うためアナキンは常にこの跳躍による奇襲を組み込んでいた。空中で身をひねりながらライトセイバーを大きく振りかぶる。

「っ――!」

 アソーカは咄嗟に地を蹴って横に跳んだ。直後彼女が立っていた場所に青いライトセイバーが凄まじい勢いで叩きつけられる。アスファルトの路面が真っ二つに切り裂かれ火花が夜空へと舞い上がった。
 着地したアナキンは間髪入れずに次の連撃へと移行した。振り下ろした刃を返す動きでそのまま横薙ぎに一閃する。アソーカは二本の刃を交差させてかろうじてそれを受け止めたがその衝撃で身体ごと後方へと弾き飛ばされた。
 背中が道路脇の壊れた自動販売機に叩きつけられる。

「くっ……!」

 鈍い痛みがアソーカの背筋を貫いた。それでも彼女は歯を食いしばりながら体勢を立て直し再びライトセイバーを構える。
 アソーカの脳裏に冷静な戦術的判断が浮かび上がった。ジャーカイの型は手数と機動力でこそ真価を発揮する。だが今彼女はアナキンの重い一撃を受け止め続けることに既に体力の多くを消耗させられていた。防御に徹する戦い方はこの相手には通用しない。
 アソーカは地を蹴って前に出た。
 大小二つの刃をまるで嵐のように振るいながらアナキンの周囲を駆け巡る。右へ左へそして背後へと目まぐるしく位置を変えながら絶え間ない連撃を浴びせかけていく。それは彼女が幾多の戦場で磨き上げてきた敵を翻弄し疲弊させるための戦法だった。
 だがアナキンは動じなかった。
 冷静に足運びを調整し常にアソーカの攻撃線上から半歩だけ体をずらしながら必要最小限の動きでその連撃をいなしていく。時折鋭いカウンターを差し込みながら。
 一つの斬撃がアソーカの左肩をかすめた。
 鋭い痛みと共に焦げるような感触が走る。アソーカは咄嗟に距離を取ったが彼女の肌には一筋の焼け跡が刻まれていた。深手ではない。だがその一撃が意味するものはあまりにも重かった。

(本気で殺しにきてる)

 アソーカの中でこれまで辛うじて保たれていた一縷の希望が音を立てて崩れていくのが分かった。
 だがそれでも彼女は眼前の相手を殺す覚悟ができなかった。
 なぜならこの人は、たとえ今どれほど変わり果てて見えようとも、かつて自分を弟子として認め評議会に逆らってまで無実を信じ続けてくれたSkyguy(スカぴょん)なのだ。
 その事実を手放すことはアソーカにとってこの場で敗北すること以上に耐えがたいことだった。
 アソーカは再びライトセイバーを構え直した。呼吸を整えフォースの感覚を研ぎ澄ませる。師との数え切れないほどの手合わせの記憶が彼女の身体に染み付いた感覚として蘇ってくる。
 アナキンが再び踏み込んできた。今度は跳躍を交えず地を這うような低い姿勢からの鋭い突き。
 アソーカは右手の小さなライトセーバーでその軌道を逸らしながら同時に左手の刃をアナキンの側面へと滑り込ませた。
 だがその一撃は届かなかった。
 アナキンは左手から瞬時にフォースを放つ。見えざる力の奔流がアソーカの体を大きく後方へと弾き飛ばした。

「かはっ……!」

 空中で体をひねりかろうじて受け身を取ったアソーカは荒い息を吐きながら片膝をついた。手にしたライトセーバーはまだ辛うじて握りしめられている。だがその体力は既に大きく消耗していた。
 アナキンはゆっくりとした足取りで間合いを詰めてくる。その姿には焦りも興奮も見当たらなかった。ただ淡々と目の前の障害を排除しようとする冷徹な意思だけがあった。
 アソーカはライトセーバーを支えになんとか立ち上がった。両脚は震え呼吸は乱れていた。それでも彼女の瞳にはまだ諦めの色は浮かんでいなかった。

「……あなたを止める」

 アソーカは震える声でそれでもはっきりと言い放った。
 夜の渋谷の街に再び二筋のライトセイバーが交錯する。アナキンの纏う重厚な圧力とアソーカの繰り出す速度、その拮抗は既に大きくアナキンへと傾きつつあった。
 だがそれでもなおアソーカは刃を振るい続けた。
 消えたネオンの残骸が並ぶ夜の街路に光と光がぶつかり合う音だけが絶え間なく響き渡っていた。
 アソーカの脳裏にふとレックスの顔がよぎった。もし彼がこの光景を目にしたなら一体何と言うだろうか。

(今は……考えている場合じゃない)

 アソーカはその想念を振り払うように意識を目の前の戦いへと引き戻した。生き延びるために。そして目の前のこの人を暗闇の底からもう一度引き上げるために。
 その願いがどれほど儚いものであるとしても。
 アナキンの刃が再び唸りを上げた。アソーカの背中が既に半壊した街路樹の幹に叩きつけられる。

「あ……!」

 息が詰まる。二本のライトセーバーは辛うじてまだ両手の中にあった。だがその刃を構え直す間もなくアナキンの姿が目の前に迫っていた。
 振り上げられた青い刃が月に似た偽りの光を弾きながらまっすぐにアソーカへと振り下ろされる。
 アソーカの視界の中でその軌道がやけにゆっくりと見えた。避けられない。防げない。そう悟った刹那――

 振り下ろされたはずの刃はアソーカの体に届いていなかった。眼前に赤いライトセイバーが割り込み青い刃を真正面から受け止めていた。

「……!」

 アソーカは目を見開いた。目の前に立っていたのは白髪を後ろに流した壮年の男だった。黒と深紅を基調とした気品あるマントが夜風に揺れている。湾曲した独特の柄を握るその手つきには寸分の乱れもなかった。
 アナキンもまたわずかに目を見開いていた。感情を殺したその表情に初めて明確な驚愕の色が浮かんだ。
 当然だった。
 この男は死んだはずだった。他の誰でもないアナキン自身の手によって。インヴィジブル・ハンドで両腕を切り落とし、その首を確かに刎ねたはずだった。

「……ドゥークー」

 アナキンは低くその名を口にした。声には驚きと共に隠しきれない苛立ちの色が滲んでいた。
 ドゥークー伯爵は赤いライトセイバー越しにアナキンを見据えながら口の端をわずかに歪めた。それは笑みと呼ぶにはあまりにも冷ややかな表情だった。

「暗黒面に堕ちたかスカイウォーカー」

 その声は静かでありながら夜の路上に不思議なほどよく通った。






「お前は死んだはずだ」

 アナキンは刃を通して伝わる圧力を試すようにわずかに力を込めた。ドゥークーはその圧に微塵も動じることなく優雅な足運びで半歩だけ体を引き刃を滑らせて受け流した。

「僕がこの手で首を刎ねた」

 押し殺した声でアナキンは続けた。

「私自身驚いている」

 ドゥークーは淡々と応じた。

「今生きているのはこの悪趣味な催しの主催者の仕業らしい」

 言葉の端々に滲む皮肉げな響きとは裏腹にドゥークーの構えには一切の隙がなかった。
 片手で握った赤い刃を下段に構えもう片方の手は自然に体の後ろへと回されている。
 長年培われたマカシの型、対ライトセーバー戦において銀河系随一と謳われたその剣技が今かつての宿敵を前にして静かに研ぎ澄まされていく。
 ドゥークーの体が驚くほど滑らかに前へと滑り出した。片手持ちのライトセーバーが鋭くしかし決して大振りにはならない極めて精密な軌道を描いてアナキンへと迫る。
 アナキンはその一撃を弾き返した。そこから剣戟が始まった。
 ドゥークーの繰り出す剣技は荒々しさも力任せの重さもない。ただひたすらに精密で無駄のない峻烈な一撃一撃。マカシという型が体現する剣士としての純粋な技量の結晶だった。
 軽やかなフットワークで間合いを測りながらドゥークーは的確にアナキンの攻撃線を見切りいなそうと試みた。
 アナキンはドジェム・ソの型に則り腕をしならせるようにして刃を振るった。ライトセイバーが腕の動きよりもわずかに遅れて追随し予測を外すような軌道でドゥークーへと迫る。
 ドゥークーは辛うじてその一撃を受け止めた。だがその衝撃は老練な剣士の体を明らかによろめかせた。

「くっ……!」

 ドゥークーは後方へ一歩下がりながら態勢を立て直した。

「……以前とは別人のようだな」

 声には感心と共に隠しきれない緊張の色が滲んでいた。
 ドゥークーの姿が優雅な足運びと共にアナキンの側面へと滑り込んだ。峻烈な突きがアナキンの脇腹を狙う。
 アナキンは体をわずかにひねるだけでその一撃を紙一重でかわした。そのまま流れるような動作で刃を返しドゥークーの手首を狙う一閃を放つ。
 ドゥークーは咄嗟に刃を引いてその一撃をかわしたが体勢を崩したまま後方へと下がることを余儀なくされた。マントの端が青い刃にわずかに掠められ焼け焦げた匂いが夜気に混じる。
 ドゥークーの表情に初めて明確な焦りが浮かんだ。長年の実戦経験に裏打ちされた自負が目の前の現実によって静かに揺さぶられ始めていた。
 その光景をアソーカは呆然と見つめていた。
 まだ壊れた自動販売機の傍らに座り込んだまま彼女は荒い息を整えながら目の前で繰り広げられる剣戟を見つめていた。
 ドゥークー伯爵。その名前はアソーカにとって決して見知らぬものではなかった。クローン大戦の間中幾度となく耳にしてきた名だ。独立星系連合を率い分離主義勢力の頂点に立つ男。 グリーヴァス将軍と並ぶ共和国にとって最大の脅威の一人。
 だが直接顔を合わせたことはこれまで一度もなかった。
 彼女の記憶にある限りドゥークー伯爵は今なお共和国と分離主義連合の戦争において健在の敵将のはずだった。少なくともジェダイ聖堂を去るその瞬間まで彼の死を告げる知らせなどアソーカは一度も耳にしていなかった。
 何よりそのドゥークーが自分を庇う形でライトセイバーを受け止めたという事実はアソーカにとって理解の追いつかない光景でしかなかった。
 アソーカの中に複雑な感情が渦巻いていた。
 共和国の兵士としてそしてジェダイの一員として育てられてきた彼女にとって分離主義勢力は長らく明確な敵であり続けた。だが今のアソーカはもはやかつてのように単純にそれを信じてはいなかった。
 戦争の最中アソーカは幾度か分離主義勢力側の一般人と言葉を交わす機会もあった。彼らの多くは共和国が語る悪というレッテルとはかけ離れた人々だった。共和国とジェダイが絶対的に正しい存在ではないということをアソーカは既に知っている。


(でもあの男は戦争を扇動してきた張本人の一人よ)

 ドゥークー伯爵という存在に対してアソーカが好意的な感情を抱けるはずもなかった。グリーヴァス将軍と並び幾多の惑星を戦火に巻き込んだ分離主義勢力の首脳陣。彼の行動により多くの市民の命が失われた。
 だがその分離主義者の指導者は振り下ろされたアナキンのライトセイバーからアソーカの命を救った。
 アソーカはドゥークーの傍らにもう一つの人影があることに気づいた。距離を取って様子を窺っている一人の少女。清楚な佇まいの制服姿の少女だった。怯えたようなそれでいて祈るような表情で剣戟の行方を見つめている。

(あの子……ドゥークー伯爵と一緒にいるのね)

 アソーカの脳裏に様々な想念が交錯した。敵か味方か。信頼できるのかできないのか。だが悠長に考えている時間はもはや残されていなかった。
 目の前ではドゥークーが単身アナキンと渡り合っている。だがその均衡は既に明確に崩れ始めていた。
 アナキンの剣戟は先刻アソーカに向けられていたものよりもさらに苛烈さを増していた。ドゥークーの精密なマカシの型を体術を織り交ぜた変則的な攻撃で真正面から圧倒し着実にその防御を切り崩しつつあった。
 暗黒面を受け入れたアナキンの実力は既にドゥークー伯爵を遥かに凌駕しつつあった。かつてこの老練な剣士に手も足も出なかった若きジェダイはもういない。
 アソーカは震える両脚に力を込めゆっくりと立ち上がった。二本のライトセーバーをまだ痺れの残る手で握り直す。
 迷いは一瞬だった。
 アソーカは地を蹴った。
 剣戟の渦中へと駆け込みながら彼女は叫んだ。

「加勢する!」

 ドゥークーがわずかに視線をアソーカへと向けた。その表情に浮かんだのは驚きというよりむしろ静かな了解だった。
 アソーカの二刀がアナキンの側面へと滑り込む。左手の刃で牽制しながら右手の刃を鋭く突き出す。
 アナキンはその追撃を弾き返しながら後方へ一歩下がった。眼前に立つ二人の姿を冷静に見据える。

「……二人がかりなら僕に勝てると思っているのか?」

 アナキンの声には乾いた諦観にも似た響きが滲んでいた。青いライトセイバーが夜の空気を切り裂くように低く唸る。
 二対一の剣戟が始まった。
 アソーカとドゥークーは互いに言葉を交わすことなくそれでも自然と連携の形を作り出していった。ドゥークーが精密なマカシの型でアナキンの正面を抑えアソーカがジャーカイの機動力を活かして側面からあるいは背後から絶え間ない攻撃を織り交ぜる。
 ドゥークーの剣は無駄のない直線的な鋭さでアナキンの正面攻撃を的確に受け流しあるいは弾き返した。片手持ちのその剣捌きは優雅でありながら一つ一つの動きに込められた圧力は決して軽くない。
 アソーカはその隙を縫うようにして大小二本の刃を目まぐるしく振るった。上段から下段から時には地を這うような低い姿勢からの薙ぎ払い。フェイントを織り交ぜながらアナキンの意識を分散させ着実に体力を削っていく。
 だがそれでもなおアナキンは優勢を保っていた。
 二人がかりの攻勢を受けながらもアナキンの動きには一切の乱れが見られなかった。
 ドゥークーの精密な一撃をドジェム・ソの重い刃で強引に押し返し同時にアソーカの側面攻撃をフォースを介した気配の察知で先読みし最小限の動きでかわしていく。

(……馬鹿な)

 ドゥークーは剣戟を続けながら内心で驚愕を禁じ得なかった。
 二人がかりで挑んでいるにもかかわらず目の前の若者はその圧力を真正面から受け止めなおも優勢を維持している。
 アナキンのライトセイバーが再びドゥークーへと迫る。ドゥークーはそれを紙一重で受け流しながら体をわずかに後方へと引いた。老練な戦術家である彼は既にこの均衡が長くは持たないことを悟り始めていた。
 アナキンはドジェム・ソの型に則り再びアタロの跳躍を織り交ぜた。宙高く舞い上がったその体が次の瞬間凄まじい勢いで急降下する。
 アソーカとドゥークーは咄嗟に左右へと跳び分かれた。
 振り下ろされた青いライトセイバーが二人の間の路面を叩き割った。衝撃と共にアスファルトの破片が四方へと飛び散る。
 その一撃を起点としてアナキンの猛攻が再開された。
 着地と同時に身を翻しまずはドゥークーへと鋭い突きを繰り出す。ドゥークーはその一撃を紙一重で受け流したが続けざまに繰り出された二撃目アナキンの左手から放たれたフォースの奔流が老練な剣士の体を大きく後方へと弾き飛ばした。


「くっ……!」

 ドゥークーは地面に片膝をつきながらもなんとか体勢を立て直した。だがその一瞬の隙をアナキンは見逃さずライトセイバーを振り下ろす。
 アソーカが咄嗟に割り込むように前へ出た。二本の刃を交差させドゥークーへと迫る追撃を正面から受け止める。
 ドゥークーは既に体勢を立て直し再びアナキンの側面へと回り込もうとしていた。だがその動きすらもアナキンは冷静に把握していた。
 二対一の均衡は依然としてアナキンへと大きく傾いたままだった。
 戦局を覆すべくドゥークーは熟練のシスの暗黒卿の奥義、フォース・ライトニング使用。指先から青白い稲妻が奔流となって迸る。
 師であるシディアスには及ばない威力ながらフォースを電撃に変換して放つこの技は攻撃に特化している。
 電撃は瞬く間にアナキンへと殺到した。
 だがアナキンは青いライトセイバーを迫りくる電撃の奔流へとかざした。そして青い刃で暗黒面の電撃を受け止める。

「あの時とは違う」

 アナキンは低く言い放った。声には微塵の動揺も見当たらなかった。
 ここでアソーカが動いた。両手のライトセーバーを振りかざし電撃を凌いだばかりのアナキンへと鋭く斬りかかる。
 だがアナキンの反応はあまりにも早かった。
 振り返りざま左手を無造作に振るう。目に見えない力の奔流がアソーカの体をまるで木の葉のように吹き飛ばした。
 アソーカは宙を舞い路面に激しく叩きつけられた。転がりながらもなんとか受け身を取って体勢を立て直そうとするが既にその動きには明らかな精彩の欠如が見て取れた。
 ドゥークーはその隙を逃さず再びフォース・ライトニングを放った。
 だがアナキンは左の手のひらを迫りくる電撃へと静かにかざす。
 拮抗は一瞬だった。
 次の瞬間アナキンの手のひらから放たれるフォースより電撃は相殺される。

「……!」

 かつてドゥークーはヨーダこう言い放ったことがある。私はどのジェダイよりも強いと。
 その認識は今も揺らいではいなかった。
 だがシスとしてはどうか。
 ドゥークー伯爵/ダース・ティラナスはアナキン・スカイウォーカー/ダース・ベイダーには勝てない。
 その事実を認めざるを得なかった。
 アナキンはゆっくりと歩を進めた。青いライトセイバーを低く構えながらその足取りには一切の焦りも躊躇いも見えなかった。
 傍らではアソーカがなんとか立ち上がろうと路面に手をついていた。だがフォースプッシュによる衝撃の余波が彼女の体からまだ完全な力を奪ったままだった。

 その戦いを少し離れた場所から見つめる者がいた。
 五十鈴華は瓦礫の陰に身を潜めながら目の前で繰り広げられるあまりにも規格外の戦いをただ呆然と見つめることしかできなかった。
 戦車道で培ってきた戦闘への理解もこの光景の前ではまるで意味を成さなかった。光る剣目と見えない力による戦い。すべてが彼女の知る現実からあまりにもかけ離れていた。

(ドゥークーさんが……殺される?)

 先刻自分を救ってくれたあの気品ある男が今まさに窮地に陥っている。その事実に華の胸は締め付けられるように痛んだ。だが自分に何ができるというのか。武器と呼べるものすら手元には何もない。
 華の視線はふと戦闘の余波で吹き飛ばされ路上に転がったアソーカのデイパックへと吸い寄せられた。
 デイパックの口が開き支給品が地面に散乱している。
 華は身を屈めたままそちらへと這うように近づいた。
 散乱した支給品の中に一枚の円盤状の物体が鈍い光を放って混じっているのが目に留まった。
 傍らには折りたたまれた薄い紙片が落ちている。震える手でそれを拾い上げ目を走らせる。

 ――同封のDISCをこめかみ付近に差し込むことで特殊能力「スタンド」が発現する。

 簡潔すぎるそれでいてあまりにも不可解な説明書きだった。だが今の華にそれを吟味している時間はなかった。
 華は円盤を自らのこめかみへと押し当てた。
 冷たい感触が皮膚を通して体の奥深くへと染み込んでいくような感覚があった。次の瞬間、背後に緑色のぬめりを帯びたような質感の人型の輪郭が揺らめくように浮かび上がった。
 華自身にもその存在の正体を正確に理解する術はなかった。だが自分の意思に呼応するようにゆっくりと形を成していくその気配を華は肌で感じ取っていた。

 一方、戦いの帰趨は既に決していた。
 アナキンはなおも一方的な攻勢を続けていた。ドゥークーの精密な受けを押し崩し、アソーカの再三の追撃を最小限の動きでいなしていく。二人の動きには既に明確な疲労の色が滲んでいた。

「終わりだ、ドゥークー」

 アナキンはそう呟くと青いライトセイバーを振りかぶった。
 その光景はドゥークーにとってあまりにも見覚えのあるものだった。インヴィジブル・ハンドで両腕を失い無防備に膝をついたドゥークーの首を刎ねた一撃。
 まるで運命そのものが同じ結末を強要しているかのようだった。

 ――その刹那。

「エメラルドスプラッシュ!」

 澄んだそれでいて確かな覚悟を秘めた声が夜の街に響き渡った。
 一意専心。
 脳裏に浮かんだのは道場に飾られた花々、そして戦車道で培った一瞬の集中力だった。
 華の背後に浮かぶ緑色の人型――ハイエロファントグリーンがその体の一部を液状に変化させたかと思うと次の瞬間、無数の宝石にも似た輝きを放つ弾丸となってアナキンへと殺到した。
 ショットガンにも似た破壊的な射撃だ。至近距離からの一斉射撃は常人であれば瞬時に絶命させるだけの威力を秘めていた。
 だがアナキンはその気配をフォースを通じて事前に察知していた。振り下ろしかけていた刃の軌道を驚くべき速さで切り替える。ライトセーバーの刃が目にも留まらぬ速さで旋回し迫りくる無数の宝石弾を次々と切断していく。
 一つまた一つと緑色の輝きが青いライトセイバーによって切り裂かれ散っていった。
 最後の一発が斬られた時アナキンの体には傷一つ付いていなかった。
 フォースとライトセーバーを操るジェダイにとって遠距離からの攻撃は決して脅威たりえない。
 それでも華の一撃によってアナキンの意識は確かに一瞬ドゥークーから逸らされた。
 結果としてドゥークーの命は確かに繋ぎ止められていた。

「今……!」

 アソーカが突貫をかける。負傷した体を奮い立たせ彼女はアナキンへと猛然と斬りかかった。
 大小二本の刃がこれまでにない速さでアナキンへと殺到する。フェイントも計算ももはやそこにはなかった。ただひたすらに感情のままに繰り出される渾身の連撃だった。
 アナキンはその連撃を冷静に受け止めた。一撃また一撃と青い刃がアソーカのライトセイバーを弾き返していく。
 やがてアナキンは渾身の力でアソーカの二刀を押し返した。
 アソーカはその圧力に耐えきれず後方へとよろめきながら距離を取った。
 二人の間に束の間の静寂が横たわった。
 アナキンはライトセーバーを構えたまましばしその場に立ち尽くしていた。

「……今回だけは見逃す」

 アナキンはそう呟くと静かにライトセイバーの刃を消した。
 そして何も言わずに背を向け夜の闇へと歩き出した。

「マスター……!」

 アソーカが震える声で呼び止めた。だがアナキンは振り返ることなくそのまま夜霧の向こうへと消えていった。


【B-5 街/深夜/1日目】
【アナキン・スカイウォーカー@スター・ウォーズ】
[状態]:暗黒面への転向直後、疲労(小)
[装備]:ライトセーバー(青)
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:パドメを救うため、いかなる手段も厭わない。
1:このゲームを最短で終わらせるため参加者の殲滅する。
2:フォースの気配を頼りに、島内に潜む他の参加者の存在を探索。
3:あらゆる願いを叶える権利が真実なら必ず手に入れる。


 残されたのは荒い呼吸を繰り返す三人と静寂だけだった。
 ドゥークーは片膝をついたまましばしの間動くことができなかった。全身がこれまでの戦いによる疲労で鉛のように重かった。

(三人がかりであっても……あのまま戦っていれば我々は全員殺されていた)

 その事実をドゥークーははっきりと理解していた。
 本来訪れるはずだった未来においてアナキン・スカイウォーカー/ダース・ベイダーはサイボーグとなりフォースの大半と成長の可能性を失った。
 だが今この殺し合いの場にいるのはパルパティーンがいずれ自分やヨーダを凌駕すると断言した稀代のフォース=センシティブだ。
 史実にて才能と戦闘力では圧倒的に劣りながらもアナキンの手の内を知り尽くし、彼の長所を潰せるライトセイバーフォームによる粘り強い戦いと地の利を得たという挑発で薄氷の勝利を掴み取ったオビ=ワン・ケノービはこのバトルロワイアルには参加していない。
 天敵不在という状況で全盛期の肉体を維持しながら今この瞬間にも暗黒面の力を高め続けるアナキンはダース・シディアスすら上回りかねないシスだ。
 最後までシディアスに及ばなかったドゥークを含めた、この場にいる人間を鏖殺するなど容易い。
 ならば何故アナキンはあの場でライトセイバーを収めたのか。
 ドゥークーはゆっくりと視線を巡らせた。
 そして消えたアナキンの後ろ姿を見つめ続けているアソーカへとその目を向けた。

 アナキンとの戦いは終わった。
 少なくともこの場においては。
 だがアソーカがライトセーバーをベルトのホルダーへと戻すことはなかった。彼女はまだ二本の刃を握りしめたまま荒い息を整えながらドゥークーへと向き直った。
 その瞳には先刻までの困惑や動揺とは異なる確かな意志の光が宿っていた。

「説明してほしいことが山ほどあるんだけど」

 ドゥークーは片膝をついたまましばし沈黙していた。
 やがて彼はゆっくりと立ち上がった。マントの焦げた端を静かに払う。
 その視線が少し離れた場所でなおも呆然と立ち尽くしている華へと向けられた。緑色の人型は既にその輪郭を薄れさせ彼女の傍らから姿を消しつつあった。
 華はドゥークーの視線に気づくと小さく頷いた。
 その仕草にドゥークーはふと口の端を緩めた。それは戦いの中で見せてきた皮肉げな笑みとは明らかに異なる質のものだった。

「……よかろう」

 ドゥークーは静かに言った。
 ジェダイ・オーダーから離反した元ジェダイと師に見限られた元シス。
 本来であれば相容れない関係ではあるが、この場において情報交換は必要不可欠だ。
 夜霧が静かに三人の周囲に立ち込めていた。アナキンの去った方角にはもはや何の気配も感じられなかった。
 華は震える手をそっと胸に当てた。先刻使ったあの見知らぬ力の余韻がまだ体の奥に微かに残っている。何が起きたのかまだ十分に理解できたわけではなかった。それでも目の前で命が救われたという事実だけは確かなものとして彼女の中に刻まれていた。
 三人はそれぞれの思いを抱えたまま夜の街の片隅で静かに向き合っていた。


【C-5 街/深夜/1日目】
【アソーカ・タノ@スター・ウォーズ】
[状態]:疲労(中)、負傷(中)
[装備]:ライトセーバー(大小二振り)
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~2
[思考]:マスターが殺し合いに乗るなら止める。
1:ドゥークー伯爵と情報交換を行う。
2:冷静に情報収集と状況分析を優先する。
3:無防備な子供や弱者を見捨てるつもりはない。
4:ジェダイ・オーダーを去った後の自分自身への迷いを抱えている。

【ドゥークー伯爵@スター・ウォーズ】
[状態]:戸惑い、疲労(中)、負傷(小)
[装備]:湾曲型ライトセーバー
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~2
[思考]:シスとしては鏖殺が最善だが、それをする気になれない。
1:アソーカ・タノと情報交換を行う。
2:五十鈴華と行動を共にする。
3:他の参加者の存在をフォースで察知し、交渉または排除の判断を下す。
4:首輪を解除する手段を探す。
5:エイリアンに再度遭遇した場合、近接戦を避けて討伐する。

【五十鈴華@ガールズ&パンツァー】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ハイエロファントグリーンのスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:華道の精神で心を整える。
1:ドゥークー伯爵と共に行動する。
2:友人たちが巻き込まれていないか心配。
3:ドゥークー伯爵の迷いに気づき助けになれないかと思っている。
4:戦車道の経験を活かして冷静に状況を分析する。

【ハイエロファントグリーンのスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険】
アソーカ・タノに支給。
花京院典明の使用するハイエロファントグリーンが内包されている。
【破壊力:C / スピード:B / 射程距離:A / 持続力:B / 精密動作性:C / 成長性:D】
ボディを紐状に引き伸ばして射程距離を拡張できる。 遠隔操作型のスタンド。近距離パワー型より破壊力は劣る一方、最大100m以上とされる長大な射程距離を持つ。そこから射撃技のエメラルドスプラッシュによる制圧が行えるので攻撃範囲はさらに広くなる。







前回 キャラ 次回
009『刹那の知略戦 011『雌猫は眠らない
採用No.22『師弟再会 アナキン
採用No.22『師弟再会 アソーカ
採用No.26『選択 ドゥークー
採用No.26『選択

>TOP

最終更新:2026年08月22日 21:40