<目次>
1 統治機構の全体構造
日本国憲法前文は、国政が主権者たる国民の信託に基づき公共の福祉を目指して行われるべきことを宣言している。
では、国政を行うための機構を憲法はどのように設計したのであろうか。
まず、その全体構造を最初に見ておこう。
(1) 政治の領域と法の領域
日本国憲法は、国政をまず大きく政治領域と法領域に分割した。
この理解は「法の支配」を実現するために必要な思考過程に対応している。
政治を法に従わせて法の支配を実現するには、政治領域で展開される諸活動を法の言語に翻訳し、法領域に移し替えて捕捉する必要があるが、この思考上の操作を可能とするためには二つの領域を観念上分離する必要があるのである。
法領域を司祭する機構つぃては裁判所が設置され、それが司法権を行使する。
では、政治領域を司る機構はどのように設計されたか。
まず、中央(国)の政治(狭義の「国政」)と地方(自治体)の政治が分離される。
これが「垂直的権力分立」であり、日本国憲法はこれを「地方自治」という言葉で表現している。
次いで、国と自治体の各レベルで、政治権力は立法権(法律・条令制定権)と行政権(執行権)に分立される(水平的権力分立)。
この場合に、両権を担当する機関相互の関係をどう設定するかに関して、国レベルと自治体レベルでは異なる機構が採用されている。
国レベルでは議院内閣制が採用され、国会が内閣総理大臣を指名する。
これに対し、自治体レベルでは、その長(市町村長および知事)は、地方議会によってではなく住民により直接選出される「大統領制」型の機構を採用しているのである。
(2) 政策決定過程と政策遂行過程
議院内閣制にしろ大統領制にしろ、それが関わるのは主としては政策決定過程である。
日本国憲法は、政治領域を政策決定過程と政策遂行過程に分けて設計している。
なぜそう理解されるかといえば、憲法は内閣の下で政策遂行にあたる行政機構の存在を想定しているからであり、そのことは内閣を構成する国務大臣が同時に行政各部の「主任の国務大臣」(74条参照)となることが予定され、内閣総理大臣が「行政各部を指揮監督する」(72条)と定められている点に表れている。
議院内閣制の運用に携わるのは政治家であり、行政各部に就く職員を官僚と呼ぶことから、両者の関係は「政官関係」と呼ばれたりするが、重要なのは、「政」が政策選択・決定を行い、「官」が選択・決定された政策の執行にあたるという図式が憲法の規定するところだということである。
もちろん、「官」が政策決定のために必要な情報・資料を整備することは許されるし、かつ重要な任務であるが、それが行き過ぎて、実質上「官」が決定し、「政」はそれを追認しているにすぎないという運用に陥ってはならない。
従来の憲法学は、「決定-執行」図式を国会と内閣の関係を理解するのに用いてきたが、この図式はむしろ「政官関係」の説明に適用すべきものである。
国会と内閣はともに政策決定過程に関わり、その関係は「統治-コントロール」図式で理解する必要がある。;
(3) 国民の役割
国民は、国民主権の下に政治に参加し、あるいは、直接・間接それに影響を与える。
その方法として、まず、国民は、日常的には、表現・集会・結社の自由や請願権などの人権行使を通じて政治参加を行うことが予定されている。
このコンテクストで、マス・メディアと政党は国民意見の形成・集約・伝達・反映等において重要な役割を果たすことが期待されている。
次に、制度的な方法としては、国民が直接的に政策選択を行う制度t代表者の任免を通じて間接的に政策選択を行う制度とがある。
前者の典型例が国民(住民)投票制度(一般に「レファレンダム」と呼ばれる)であるが、日本国憲法は、憲法改正(96条)と特定の地方のみに適用される特別法の制定(95条)に関して、これを採用している。
後者の例は選挙と解職制(リコール制)である。
日本国憲法は代表民主政治を基本構造としており、国民の政治参加の中心は、制度的には選挙である。
参政権(その中心は選挙権)は人権(15条)でもあるが、それは具体的には選挙制度を通じて行使される。
憲法は、国会議員(衆議院議員・参議院議員)の選挙(43条・44条)および自治体の長・議会議員の選挙(93条)を要求しており、そのための具体的な選挙制度は公職選挙法により定められている。
解職制については、最高裁判所裁判官の国民審査(79条)がこれに属する憲法上の制度だと解されている。
なお、法律により採用された解職制としては、地方議会の解散請求(自治76条以下)、地方議会議員の解職請求(同80条)、地方公共団体の長の解職請求(同81条)がある。
以上に見た統治機構の全体構造を基礎に第3部の構成を示すと以下のようになる。
なお、317頁の図(「統治機構の全体構造」)も参照されたい。
		| 《第3部の構成》 | 
		| 【Ⅰ】 政治の領域 | 
		| 1. 国政(狭義、すなわち中央政治)のメカニズム (第12章・第13章) | 
		| 2. 地方政治のメカニズム(地方自治)        (第14章) | 
		| 【Ⅱ】 法の領域                          (第15章・第16章) | 
本章では、中央政治の基本的な機構である議院内閣制をまず説明し、その後、議院内閣制を運用する下部構造として、選挙、政党、政治資金の問題を扱う。
   (※以下省略)
最終更新:2014年03月15日 22:17