ご存知の通り、ハルヒが閉鎖空間を生み出し、そこで神人を暴れさせるのはハルヒが
メランコリっている時というのが主な要因だと古泉は言った。
つまりハルヒにとって閉鎖空間を生み出すのは神人を暴れさせる必要があるからで、
それはつまりハルヒのストレス解消法であるわけだ。
……では常時静かな閉鎖空間が生み出されている佐々木の場合、その意味とはなんなのだろうか。
神人を出して暴れさせストレスを発散するでもなければ、
閉鎖空間崩壊時の摩訶不思議スペクタクゥがみたいからというわけもなく、
ただ広がっているその空間は、何故広がっているのだろうか。
「意味、か。どうなんだろうね。僕にとっては閉鎖空間を作ること自体がストレス解消法なのかもね」
いつもの形容しがたい独特の微笑で佐々木は言った。
作ること自体がストレス解消法? それはあれか、砂のお城を作るのが楽しみなそういうあれか?
「くっくっ。そうだね、根源的な部分ではまさにそうだ。自分で創造することが楽しいんだろうね。
まあ多くの子供が持つ、創造の後に湧き上がる破壊衝動が無いというのが相違点かな?
作っただけで満足してしまうんだろうか。『子供じゃあるまいし』とでもいえるものだね。
いや、それとも実際は、あの空間は連続して存在するものではなく、
一瞬一瞬で創造と破壊がひたすらに繰り返されているのかもしれないね。」
だとすれば、そいつは中々豪快にストレスを発散させてることになるぞ?
お前がそんなにストレスを感じることなんぞ――こいつに限ってまさかとは思うが――勉強疲れぐらいしか
思い浮かばんな。いや、それだけでも十分なのかもしれんがな。
途端、佐々木がいつも浮かべている微笑がほんの少し揺らいだ気がした。
僅かな変化だったせいで、それが正の変化だったのか負の変化だったのかは判断できなかった。
「……そうだな、それくらいだろうか。そうだね。僕が『負荷』だと感じるものは、
おそらくそのくらいしかないだろう。一般的なこの年代の男女ならば、恋愛感情というものに
心揺れ動かすこともあるだろうが、僕にはそれがないからね。
気付いてほしいのに気付かない誰かに対して感じる焦燥感というものが、
一体多感な少年少女の心にどれだけの負荷をもたらすか、などということは分からないものだ」
まるで考える人を模倣し始めたかのようにあのポーズで固まっていた佐々木は、
そこまで言い終えるといつもの独特な微笑を取り戻していた。
そういうもんか。
「そういうものだ。」
そこで一旦区切って数歩歩いてから、付け足すように言った。
「そういう心はわからないが、こうしたなにげない君との会話が多少なりとも僕の精神に影響を与え、
そしてまた、僕がまた君と会うとき用に話のストックを考えることが、
僕にとっていいストレス解消法になっているということはわかるよ」
そいつは光栄だ。お前が会話ストックを作ってくれると、俺は受身に専念できるからな。
話すだけでストレス解消になるんなら、世界の破壊と創造を繰り返しまくるよりよっぽど平和的だ。
お前の平和のためにそういう会話に付き合ってやるのもやぶさかじゃあない。
「くっくっ、そうかい。それはとても助かるよ」
そう言って佐々木は軽く手を振りながら改札を通り抜け、殊勝にも休日を満喫するために
この街を離れると決断した多くの人々とともに、アルミの箱が行き交うホームへと消えていった。
最終更新:2008年01月28日 22:30