51-191「ある日、塾の帰り道にて。 」

ある日、塾の帰り道にて。
いつものように俺は佐々木と帰っている。俺と一緒にいるこの佐々木という女は成績よし器量よしの才色兼備の女だ。
中学校でトップクラスの成績だし、そこらへんを歩くだけで注目を浴びる(とくに男から)ほどの美人なのだ。
…そうなのだが、ちょっと変わっているところもある。なにが変わっているのかというと、男と話すときに男言葉になるのだ。
もちろん俺はその理由が気になるのだが、まだ聞いたことはない。人の言葉づかいに注意できるほど、俺の言葉づかいもなっていないんでな。
一方の俺は普通の男子中学生。成績も顔もそこそこ。とくに秀でているものはない。
なんで佐々木は俺と一緒にいるんだろうか。ちょっと不釣り合いな気もしてきたぞ。
「そんなことないさ。たしかに成績はふつうかもしれないけど、僕は君の顔つきが好きだよ。個人的に。
そもそも、人間が一緒にいるのにつり合いなんてこと関係ないさ。そんな人間を数量化して考えるようなことは、僕は好かないね。
世間の妄言に違いないよ」
そう言ったのは隣で歩いている佐々木。たしかに不釣り合いでもうまくやってる人間関係もある。
「というかむしろ、不釣り合いだからこそ、というのもあるかもね」
漫才のでこぼこコンビみたいな感じか。
「というか佐々木。俺の顔つきけっこう好きだったのか?」
顔が好きだなんて言われたのは初めてだ。思春期の男としては気になるところ。どうなんだ?
「言ったことなかったかな?そうだよ。けっこう君の顔つきは好きなんだ。なんでだろうね。
とくにイケメンというわけではないと思うんだけど・・・。わりと整った顔立ちではあるよね」
ほめられている気はしない答えだな。まあ好きといわれて悪い気はしないが。
「顔立ちがとくに好きというよりは、僕が君に対して好意を抱いてるから顔立ちもよく見えるというべきかな」
佐々木は視線を前に向けたまま言う。
好意・・・か。
「ああ、好意を抱いている。ただし恋愛のではなく人間としての君に。僕が恋愛感情を否定しているのは分かってるだろう?」
もちろん。そんなことはわかっているさ。何度も何度も聞かされたからな。
しかし、佐々木。なんでお前はそんなに頑なに恋愛感情を否定するんだ?
人間が異性に恋する。そんなのは太古の時代から人間がずっとやってきた自然なことじゃないか。
なぜ恋愛から目をそむける必要がある。受け入れればいい。
この事と佐々木が男言葉を使うことはなんらかの関係があるのだろうか。昔、なにか男との間に問題があったとか。
俺に協力できることがあればしたい。
そんなことを考え、口から出そうになったとき、
「で、君は僕に好意を抱いているのかい?」
突然、佐々木がにっこりと俺に笑顔を向けながら聞いてきた。
「こ、好意?俺がお前に?ど、どうだろうな。嫌いではないぞ。・・・どっちかっていうと好きかな?ああ、たぶんそうだ」
急な質問にあわてている俺に
「顔が赤くなっているよ。くつくつ。キョンをからかうのはおもしろいなあ。
おっと。もうバスが来ている。あれに乗って僕は帰るよ。じゃあまた」
佐々木はそう言うと、20メートルほど先に停車しようとしているバスのほうへ向かって走り出した。




目が覚めて今がいつで自分が何者なのかが分かるまでに少し時間がかかった。
今の自分は中学3年生ではなく、高校1年生。
風変わりな少女である佐々木との親交は長く絶え、俺のまわりに今いるのは風変わりどころか超能力者や宇宙人や未来人といった超人たちだ。
「佐々木か・・・」
渇いた声でぼそりとつぶやく。
佐々木・・・か。ずいぶんなつかしいな。佐々木のことなんかここ何カ月も忘れていた・・・が、さっきの夢はじっさいに中3の時にあったことだ。
「で、君は僕に好意を抱いているのかい?」
はあ・・・。俺はいつも佐々木にからかわれていた気がするな。佐々木のほうが一枚上手だ。
……しかし。ぶつぶつ言ってごまかしたが実際どうだったのか。好きだったのか。
そんなことをしんみり考えていると、
「アンタ、わたしのこと好きなの!?」
とハルヒが俺のあたまに怒鳴りこんできた。やれやれ・・・と思っていると
「キョン君、わたしのこと好きですかぁ?」
「好き?」
「あっはっは。あなたは僕のことが好きですか?まっがーれ↓」
と朝比奈さんも長門も脳内で俺に話しかけてくる(最後のはなかったことにしよう)
やれやれ・・・。寝ぼけているな。ここまでくれば俺の妄想力も谷口のエロ妄想とそんなにかわらんかもしれん。
明日のフリーマーケットにそなえて寝ないとな・・・。


そして、奇妙なことに・・・・というべきだろう。
この夢を見た翌日、高校1年最後の日をSOS団で楽しむべく俺はフリーマーケットに行く途中に、佐々木と1年ぶりの再開をした。


end

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最終更新:2010年06月19日 12:42
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