「昔話をしよう。動物の本能に抗おうとして勝てなかった愚かな女の話だ。
彼女は自分の欲しい知識を思うがまま取り入れていった。自分が望めばなんでもできる。
そう思い上がっていた。
ところが世間はそう甘いものではない。どうしても手に入らないものもあることを知った。
最初のうちは他のことに取り組むことで紛らせることはできた。
でもある時を境にして、彼女は限界を迎えた。
どうしても欲しい物が手に入らなかったからか、自分の手に入らない物の多さに失望したからかは今となってはわからない。
君が感じるにはまだ早い感覚なのだが、早い話彼女はとうとうすべてを諦めていた。
ある日、彼女は一番の男友達と出かけて、そこでちょっとしたヒス、いや騒ぎを起こしてしまった。
計画的犯行だった。巻き込む形になって悪いなと思った。でもそうせざるを得なかったんだ。
しかし、彼女の男友達は何を思ったのかそんな彼女を救い出した。
思えばずいぶん悪趣味なことをしたにも関わらずにだよ。
しかしながら、そのせい、いやおかげでぼ…、おっと彼女は社会的に生き伸びることを決めた。」
彼女の話は大変興味深い。学校では教わることのない面白い話をしてくれるので好きだった。
でも今回の話は何か違う。いつもの哲学の話のようなそうでないようなお話。
そのようなことを言うと彼女はうふんと笑い、話を続けた。
「君はなかなかに聡明だよ。今までの僕の話を適度に理解し、聞いてくれる。」
君の御母堂の教育がよかったのかな、と言いながら話を続ける。
「しかしながら、今回の話は確かに君にとって難しすぎたかもしれないね。
でも覚えておくといい。恋愛感情というのは精神的な病の一種なのさ。
そして…」
彼から思わぬコメントを貰い(本当は嬉しかったのだと思う)、恥ずかしい思いをしたあの日の夜、夢を見た。
もう気軽に会うことは難しいだろう僕の叔母の夢だ。
恋愛感情は精神的な病の一種。そんなものは論理的ではない、余計なノイズだ。
僕のささやかな夢が揺れているのは気のせいだ。
今日も変わらず彼と接していこう。
あの後叔母が何を言ったのか、思い出せない。思い出さない。
(おわり)
作者補足
(1)佐々木さんの旧姓
(2)例の持論の最初の持ち主
(3)男言葉の元になった人
これらの回答をでっち上げるために、「MW号の悲劇」に出てきた某人らしき人を親戚にしてみたらこのザマだよ。
あの人、メタ発言で哲学的すぎて比喩的に考えないと苦しい。
ちなみに(2)は実際のところ違う人だろうなとは思うけど。
劇中で語られていない佐々木のキャラの発端、持論、旧姓について
佐々木の原型ともされる電撃文庫「MW号の悲劇」のキャラを佐々木の親戚と仮定して語った、佐々木の原点についての物語。
最終更新:2013年04月29日 15:20