3月1日 北高 卒業式。体育館。
3年前に、この場所で、俺達は北高の生徒になった。
別々の道を歩むだろうと思っていた佐々木と、校門で再会して、俺の学園生活が始まった。
一年間だけ、俺とあいつは北高生としてともに過ごし、そして俺達はお互いが大切な存在だと気づき、想いを
伝えあった。
だけど、それからしばらくして、あいつは俺のもとから去っていった。今日この日を再会の約束の日として。
「大隣健一、木村明日香、国木田――」
卒業生の名前がひとりひとり呼ばれ、壇上にあがり、校長先生から、一人一人卒業証書を渡される。
「小室直人、佐伯麻美、司希貴遙――」
その中に、佐々木と古泉の名前がないのは、3年前と違う。
「涼宮ハルヒ、谷川京雅、長門優希――」
文芸部、SOS団。俺の仲間たち。同級生。同じ道を行くもの、違う道を行くもの。
すべての生徒たちに卒業証書が手渡され、そして、卒業生の代表という重責を背負い、俺は答辞を読む。
全校生徒、教師、卒業生の親たち。それらを前にして、一息吸い込んで、俺は答辞を読み始めた。
文芸部兼SOS団部室。
俺達が卒業したら、この部室は空き部室になる。この二年間、いつも新入部員を募集していたのだが、結局阪中
が入ってくれた以外は誰も入らず、今日で持ってここは使われなくなる。
いつか誰かが文芸部なり新クラブを立ち上げたとき、大切にここを使ってくれることを願う。
昨日、皆でこの部室を掃除した。色んな備品は国木田と丁寧に梱包して、ここに置いておくことにした。
文芸部の財産というべき文芸部誌は、阪中の伝手で図書室に保管してもらうことになった。
「それじゃ、閉めるね」
文芸部部長・長門優希が部室の鍵を閉めた。
ついこの前まで寒さに震えていたのに、3月に入ったとたん、ポカポカ陽気である。
その陽気の下、卒業生たちは最後の思い出作りをしていた。
写真を撮るもの、定番の告白、部活の後輩たちからの記念品の贈呈、恩師への花束・・・・・・
北高での日々に別れを告げる最後の時。
それらを目に焼き付け、俺は校門へと向かった。
もし、本当に人との出会いに運命というものが存在するというのならば、僕は―いや、私は思う。
「よう、お前もここに来ているのか」
中学時代、いつもの変わらない日常の、学習塾での何気ない君の―あなたのその一言が新しい世界へ の扉を開く
運命の鍵だったのだと。
ここの場所に立つのは久しぶりだ。
春のあの日、私はここで彼を待っていた。少し疲れたような彼の顔。でも、私の顔を見ると、彼は驚いた表情をして
いた。その後、二人で急いで体育館へ向かった。
一年間だけの北高生としての学生生活。そして、悲しい別れ。二年後の今日の日の約束。
「佐々木~!!」
彼が、キョンが走って来る。私のもとへ。
「キョン!!」
私も駆け出す。
そして、私は彼の胸へ飛び込んで行った。
キョンと最後にあったのは、去年の夏休みだった。今年の正月は、受験勉強のために会うことは出来なかった。
半年振りに見るキョンは、また身長が伸びて、体つきも一段と逞しくなっていた。
彼の胸の中に抱きしめられたとき、その力強さを感じた。
「ただいま」
「おかえり、佐々木」
キョンの笑顔。日本から遠く離れた私を支えてくれた、大好きなキョンの表情。
「やっと、君の所へ帰ってきたよ」
「ああ。ずっと待っていた」
キョンにギュッと力強く抱きしめられる。
「また綺麗になったな、佐々木」
二人で北高の校舎の中を歩く。二年ぶりの北高。一年間だけここの生徒だった、でも、私にとって母校とも言え
る、大切な場所。キョンとここで過ごした時間は、胸の中で輝く宝物。
鍵がかけられた文芸部室。キョンと二人で入部して、中学時代には経験しなかったクラブ活動を楽しんだ。
体育祭でキョンやクラブの仲間たちと全力で頑張ったグラウンド。文化祭で、ベストペアの特別賞に選ばれ、二
人で着たウエディング衣装。
思い出がたくさん詰まった北高の校舎。
担任だった岡部先生に頼んで、特別に入れてもらった体育館で聞いた、キョンが卒業生代表として読んだ答辞は
素晴らしかった。旅たつ希望と決意、北高で過ごした日々への感謝と別れ。同級生、教師、親立ちへの想い。
3年間で心身ともに成長し、大人になったキョンがそこにいた。
既に卒業生、在校生ともほとんど下校していて、人影は見当たらない。
私達は再び校門の前に立っていた。
「佐々木」
キョンと私は二人向かい合う。
「二年前のクリスマス・イブに、お前から俺は大切な物を、お前の言葉と心をもらった。その後、お前が海外に
行くことになった時、『気持ちが変わってなかったら、この場所でお互いの気持ちを伝え合おう』て、約束したな
。あの時の約束、あの時の気持ち。ずっと忘れることはなかったし、気持ちが変わることはなかった。改めてお前
に言うよ。佐々木の事が好きだ。親友としてだけじゃなく、ひとりの女性として、何よりも大切な存在として」
はじかれたように、私は再び、キョンの腕の中に飛び込んだ。なかなか会うことができなかった二年間の思いを込めて
全身全霊の思いを込めて、彼にぶつかり抱きとめられる。
知らず知らずの内に両目から涙が溢れている。、
「キョン、君の腕の中にいると、いろんなことが思い出されてくるね。3年前の僕の決断は間違ってはいなかった。
いま、あらためてそう思うよ。君と同じ北高に来たことは、僕にとって最高の選択だったと」
キョンと私の視線が重なり、そして、唇が自然と重なり合う。
「キョン、私はあなたを―――」
「キョン君、佐々木さんから離れて!」
”次元固定因子発生、時空融合作動”
最終更新:2013年04月29日 14:19