佐々木さん、子猫の目の甘い日々の巻
佐々木が交通事故に遭い、眠り姫のごとく昏睡状態に陥ったままとなった、
あの思い出したくもない事件から、しばしの時間が過ぎた。
終わった今だからこそ笑って振り返ることもできるが、
佐々木が目覚めるまでに、俺まで再び古泉ご推奨の病院に入れられる破目になるなど、
まあ色々あったりしたものだ。長くなるので割愛するが。
だが、これでまた普段の日常が帰ってくる。
ハルヒの突飛な行動に振り回され、放課後をSOS団の皆と過ごし、
そして、時々は佐々木と語りあったり、その取り巻きの面白3人組とも顔をあわせて、
SOS団と角突き合せないように適当にガス抜きする。
そんな、ちょっと新しいことも加わった、平穏で、だが大切な日常が。
……などと想像していた俺を、夢見がちなロマンチストだと責めないでほしい。
あれだけ色々あったのだ。せめてその後に平穏な日常を求めるのは、
人として最低限の権利ではなかろうか。
この世の条理と不条理をつかさどる存在
(あえて神様とは言わないが。なんかカチューシャつけてそうでイヤだ)に、
もし人権蹂躙と不当な労働環境を訴える組合ができたのなら、是非俺にも連絡をしてほしい。
書記長とまではいわないが、スピーカー抱えてシュプレヒコールを挙げるくらいは率先してやる所存だ。
話を元にもどそう。
あの一連の事件は、ちょっとした置き土産を、俺と佐々木宛に残してくれやがったのだ。
まず九曜に大慌てで問い合わせたが、相変わらずコミュニケーションの難易度が
ムダに高いため断念した。普段、佐々木たちはどうやって意思疎通を図っているのか本当に謎だ。
こうなれば俺に他の選択肢はなく、なんとかの一つ覚えのごとく、
困ったときのドラ……長門頼みとあいなった。
「……あの出来事の余波。時間の経過と共に頻度は低下する。
周囲はそれを認識していないことからも、あなたに対する実害は低いと判断する」
そうか。つまり諦めろということか。
最後の頼みの綱にまで「しばらくガマンしなさい」と言われてしまっては仕方ない。
しかし長門よ、「……巧妙な手。模倣を検討課題とする」と小さく呟いていたのは、何だそりゃ。
これがいつ起こるかわからないために、今まではSOS団での過重労働から解放されて
憩うべき我が部屋が、とびきり心臓に悪いびっくり箱と化してしまった。
勿体つけるのもそろそろ限界なので、そろそろぶっちゃけよう。
まあ、とにかく我が部屋の惨状をみてほしい。
「おかえりー、キョンくん。またハサミ貸してー」
出迎えるなりそれか妹よ。だが、いつものアレが起きているのなら、
承認として手っ取り早くていいだろう。
妹に悟られぬよう、内心で覚悟を決めて、部屋の扉を開く。
……大当たりだ。
「やあおかえりキョン。今日は早かったものだニャ」
俺のベットの上で横臥しているのは、まぎれもなく佐々木だった。
しかも、猫耳と尻尾のおまけつきだ。挙句の果てに、
「やほー、シャミ。しっぽぐりぐりー」
「あはは。やめてくれたまえ妹ちゃん。それはくすぐったいんだニャン」
何故当たり前のように俺の部屋にいるのだ。
何故猫耳と尻尾なのだ。
何故、俺以外の人間には、お前はシャミとして認識されているのだ。
そんなわけで、俺の周りでは、時々シャミが猫耳佐々木と入れ替わり、
俺以外はそれを誰も気づいていないという身近なミステリーがマイブームだ。
嫌だそんなマイブーム。
「キョン、飼い猫をあまり放置するのはよくないことだよ。
飼い主である以上、定期的なスキンシップを行うのは義務というものだニャ」
「シャミは本当にキョンくんと仲いいねー」
やめろ佐々木。外見も喋り方も(一部除いて)佐々木のままなのに、
羞恥心だけ猫レベルというのは、その、ちょっと危険すぎやしませんか、ねえ。
だからやめなさいというに。顔近い。舐めめるのはよせ。妹も見てるんだぞ。
「ごろごろ、なのだよ」
「喉ならしてるー」
そんなオチもなんもない日常の話 続くのかしらん
猫の目の日々シリーズ
http://www10.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/1293.html
最終更新:2012年07月24日 00:23