「了解シタ」
フェムは携帯電話の電源を切る。現在は風魔家の門前に居た。
赤外カメラにより内部に二名の人間を確認した。
ガシャンと、両腕から菱形の金属板を出す。
――私ニハ、ワカラナイ。生キテイルトイウ事ガ、ドウイウモノカ。
両腕を空に突き出す。
能力ノ発生。
誰にも知覚されないが、空ではある異常が発生していた。
それをそのまま下へと振り落とす。
目の前の住宅が圧壊した。
雷が落ちたような轟音と衝撃で地面が揺れる。
衝撃波で飛んできた等身大の木材を腕の盾で受け止める。
――殺人ニヨッテナラ、分カルカモシレナイ。生キテイルトイウ事ガ。
「……サテ、死体ヲ確認スルカ」
「くそっ、透視能力が薄れてきた!」
俺が新しく薬で得た昼の能力は“視界に入る地点に一瞬で移動できる能力”。
壁の向こう側を透視して移動できたということは、移動中は壁など関係なく無制限のテレポートなのだろう。
それを透視能力と組み合わせることで、病院裏の森林を難なく抜けてくることが出来たのだが……
「やはり能力は一つだけってことか」
山を抜けて住宅街に入った地点で透視能力は消えてしまった。
このままの能力でも十分早いが、移動速度は数段落ちる。
携帯も財布もなく、追跡されているだろうから立ち止まれない。
「連絡手段は……直接会うことか」
親父、お袋、どうか無事でいてくれ。
跳ぶ先を目で確認したとたん、足が止まった。
「やほ~」
リンドウがそこにいた。分厚い眼鏡を掛けて、分厚いレポート用紙を持って。
「ちゃんと時間通りに来たね」
「……リンドウ。どけ。悪いが今は構っている暇はないんだ」
リンドウを避けて跳ぶ位置を目視する。
そこをリンドウの掌が俺の視界の邪魔した。
「リンドウ!」
「……行っても間に合わないよ」
レポートに目を落としながら、焦る俺を尻目にリンドウが呟く。
「あなたが病院に行った時点で、風魔ヨシユキとその家族が今後出会う運命は、一つも存在しない」
ガラガラと、人間の力とは思えない力で屋根を取り除く。
フェムは空気を匣型に切り取って、それの重さを自在に変えることができる。
上空からの空気の攻撃は、木造住宅には一溜まりもなかった。
「ヤハリ……即死……」
内臓が潰れ、顔も判別できない程に砕けては人は生きてはいけない。
「アッケナイナ」
そのように無残な死体を見ても、フェムの心には何の感傷も起さなかった。
――生キテイルトハ、ドウイウコトダ?
携帯を掛け、
トルトルに任務終了とだけ伝えておく。
サテ、次ハ何処ニ行コウ。
フェムには意思が無かった。忠実に命令に従い、その命令をこなすためだけの日々。
行き先など決まらず、携帯の時計の数字を見つめ、ただ立ち尽くしていた。
「やあっ!」
鉄パイプで頭を殴られた。
フェムの脳内にゴーンと音が鳴り響くが、損傷なし。
曲がった鉄パイプを握った瓶底眼鏡の女が痛そうに手首をさすっていた。
「いたたたた、なんつー石頭。鉄パイプの方が曲がるなんて……」
腕を一閃したが、女は猫のように機敏に後ろに下がり、捕まえられなかった。
戦闘モードに移行しようとしたが、それより先に誰かに首を掴まれていた。
「ひと一人分くらいは触れていれば一緒に跳べると、リンドウで検証済みだぞ、と」
振り返ると青年が双眼鏡を持って何かを探していた。
「変なおっさんと黒服が来る前に立ち去るぜ」
「オ前ハ……風魔ヨシユキ」
「見つけたっ!灯台!」
一瞬で風景が一変した。灯台の屋根の上にいて、朝日が海面を照らしていた。
ブンッ、と殺すつもりで腕を振るうが、引き裂いたのは空気。
「こいつは壊させてもらう」
いつの間にかヨシユキは灯台の下の地面に降り、フェムの携帯を二つに折った。
誰かもう一人いるが、光の反射で姿の判別が付かない。
「さぁ超能力バトルと行こうぜ、お兄さん」
フェムは戦闘モードに移行した。
登場キャラクター
最終更新:2010年06月15日 22:00