フェムの腕が二倍以上に膨れ上がり、鈍色の光沢を放つ。
怒りで我を忘れているのか、肩口まで服が破けてしまっていた。
調子に乗って煽ってみたものの、冷や汗が出る。脚の震えはちゃんと隠せているだろうか。
「にゃっ、にゃっ、にゃっ」
隣の人影、深く被ったフードの奥から声がする。どうやらそれは笑い声らしい。
全身が一枚の大きな茶色の服で、フードに猫耳が付いていた。腕の服の裾もブカブカで、手足が見えない。
寝巻のようなそんな服装で戦えるのだろうか。
「
リンドウの仲間の、ルローさん?」
「ルローでいいにゃ。ヨシユキ」
フードからは女の子の声。そう言って手を耳当たりに置く。
「通信。リンドウからの報告にゃ。やっこさんは、」
いきなり蹴飛ばされた。
俺が今までいた場所の防波堤のコンクリートが砕けた。
「こういう能力にゃ」
「省略しすぎだろ!」
不可視の攻撃が行われたことは分かる。しかし、それでは俺には避けようがない。
にゃにゃっ、とフードの奥から楽しそうな声が響く。
「新人は下がっておくにゃ。うちが注意を引きつけておくにゃ」
そこで待機するにゃ、と言ってルローは四足歩行で跳びはねながら防波堤を灯台の方まで駆けていく。
上空からの不可視の攻撃を敏捷な動きで難なくかわす。一体、どうやって避けているんだ?
機械男・フェムが灯台の屋根から降りてきた。
ズンッ、と地面が地震のように揺れる。
「――名前ヲ聞イテオコウ」
「お前に名乗る名前なんてないにゃ」
ガリッ、とフェムの胸から三本の火花が上がる。
見れば銀色の金属製の大きなグローブがルローの手にあった。
グローブの先に三本の銀のナイフが出ており、籠手と合体したカタールを思わせる武器だ。
斬撃はフェムの上着を引き裂いただけ。
「……なかなか堅いにゃ」
フェムはそれには答えず両手の指を組んで、振り落とす。
爆音。ルローは避けていたが、コンクリートには大穴が空いていた。
どれほどのパワーと質量を持っていやがる。
ハンマー攻撃に怯えず、ルローは踊るように腕を振るう。
片腕を振るう毎に三本のナイフがフェムに向かって空を舞うが、何事もなくフェムは突っ立っている。
銀のグローブは次から次へとナイフを装填していく代物らしい。
雨のようにナイフを投げていたが、彼女は跳躍した。
不可視の匣の攻撃。
「無駄にゃ。その攻撃は音が大きすぎにゃ」
「……貴様」
ルローは匣が落ちてくる風切り音で落下地点を予測していたらしい。
なんつー化け物だ。いや、化け猫か。
「それより自分の体をよく見てみるにゃ」
「ナンダ?」
金属の体にワイヤーが巻かれていた。フェムの二の腕が膨らむが、切ることができない。
どうやら投げていたのはナイフだけでは無かったようだ。
「今にゃ!」
俺は跳んだ。動けないフェムを掴み、海岸を視る。
視えずらいが、視えた。海岸上に漂流していたペットボトル。
跳べ。
一瞬でその地点へ移動した。
瞬間、まるで海上に立っているかのようにペットボトルの上に静止していたが、重力が下へと俺とフェムを落とす。
着水。
フェムを掴んでいた俺の手が一瞬ワイヤーに絡まり、一緒に沈みこみそうになったがすぐに抜けた。
機械男が憎々しげな表情で俺を見ていたが、自重で海底へと沈んでいった。
必死にバタ足で海面へと向かう。服が水に濡れて思うように動けない。
海面から頭を出し、地上の方向を確認しようとする。どこだ?
そして、たしかに異質な風切り音を聞いた。
浮かんだまま上空を見上げる。
光の屈折で俺にも見ることができた。特大の透明な匣が俺に向かって落ちてくる。
やべ、死ぬ。
その時、水の中からもう一つの頭が浮き上がってきた。
ネコミミのフード。
「ルロー!」
ルローはそのまま右手の爪を空中に突き出す。
気のせいか、黒い靄が出ている気がした。
そのまま落ちてくる匣に合わせてルローが一閃。匣を4つに切り裂いた。
匣はバラバラになるのでもなく、ただ風となって俺の顔に吹き付ける。
すぐに灯台の位置を目で確認。ルローの襟首を掴まえて能力で飛ぶ。
着陸。
ルローを地面に降ろすとぐったりしていた。
「……水は嫌いにゃ」
登場キャラクター
最終更新:2010年06月15日 22:23