「それは『運命レポート』にゃ。今のうちらの仲間の一人が夜の能力で一生懸命書いてるのにゃ」
リンドウと合流した後、スプーンでチョコパフェをつつきながらルローが言った。
ルローはテーブルの横に灰色の襤褸(ほろ)で巻かれた大きな円柱を置いた。
フェムから切り取った右腕である。
それを堂々とオープンカフェのテラスで置くのはどうかと思うが、ルローの奇抜な格好(街中で茶色のパジャマの猫耳フードである)からしてある意味目立たなくなっていた。
そして、冒頭の説明は俺の疑問へのルローの答えである。
リンドウと人通りの多い街路のカフェで合流した後、俺は聞いた。
「なぜ全てを予測できた?」
「すみません。チョコパフェ一つ、たこ焼きパフェ一つ、ヨシユキはどうする?」
「コーヒー、砂糖なしで……待て。たこ焼きパフェって何だ」
「え~。知らないの~?たこパフェ。おいしいのに」
「フェムの腕、後でピカピカに磨くにゃ」
つまるところ、『運命を見る能力者』と言うものが彼女らの組織に居り、その予測によって最低限の犠牲で動けるという。
その能力者が書いたレポートが、リンドウが常日頃持ち歩いている『運命レポート』。
しかし、その能力には色々と制約が付いているらしいが。
「それは企業秘密にゃ」
「お前ら企業人だったのか」
コーヒーを啜りながら、たこ焼きパフェなどという異形の食い物を食べているリンドウに顔を向ける。
「これから俺をどうするつもりだ?」
「あなたを保護したい。けど、私がアジトまで連れていくから夜まで待機」
そう言ってクリームが乗ったたこ焼きを口に運んでいく。
「……なぁ、ソレ、旨いのか?」
「はい、あ~ん」
パフェ用の長いスプーンが差し出される。その上にはクリームと青海苔のかかった温かそうなたこ焼き。
……男になれ、俺。一息に口の中に運ぶ。
口の中に広がるソースとクリームの味がうま…………イ゙ッ!????
「それじゃ、もう一つ質問。俺のテレポート能力は消せるのか?」
先程のたこ焼きパフェなどという過去は無かったことにする。
「それは分からないわ。参考に言えば、私の置換能力だって後から手に入れた物だけど今まで消えていない。
おそらく新たな薬を飲むか、ヨシユキ自身の能力を発現するまで消えないわ。私の薬に間違いがあったことなんてないもの」
「それに便利だにゃ。テレポート能力。それとも何か不都合なんてものがあるのかにゃ?」
「いや、不都合というか……」
俺は言葉を濁す。二人が聞きたそうな顔で見てきたので続けるしかない。
「俺は能力がいらない。不要だ。はっきり言って能力なんて嫌いだ」
リンドウとルローは目を見合わせて、ああ、と頷く。
「居るわよね、そういう人。少数だけど能力に馴染めないって人」
「チェンジリング・デイ以降では治安はかなり悪化、重大犯罪は増大してるからにゃ。でも、前世代の方が良かったっていうのは古い考え方にゃ。今では誰もが折り合いをつけて生活しているにゃ」
確かにそうかもしれない。
だが、現実はどうだ。俺はこうして命を狙われ、家族と一生会えないことを宣告された。
「……これも俺の運命か?」
「不可避かはともかく、少なくともその運命になる因子はあったって所かにゃ」
リンドウとの接触の事か。
「人の運命は難しいにゃ。路傍の石でも、運命を変える事が出来るのにゃ。『運命レポート』は確率の高い指針書にしかならにゃい」
「だから、最終的な判断はあなたに任せる。あなたはどうしたい?」
「俺は……」
無意識の中で決まっていた答えを紡ぐ。
「俺は、お前らと一緒に居たい」
リンドウとルローの唇が不敵に笑う。犯罪者の笑みだ。
「それではようこそ、我らが組織“ドグマ”へ」
共犯者の俺も、笑みを返した。
登場キャラクター
最終更新:2010年06月23日 02:02