アットウィキロゴ

リンドウ編 > 6


ゴトン、と海底に着く。水圧で胸板や腕の金属が軋む。
能力で狙ったが、風魔ヨシユキや、背中にひっついて一緒に跳んできた女が死んだかは海底からでは確認できない。
腕に力を込めるがワイヤーが絡まって動けなかった。
――生キテイルトイウ事ハ、ドウイウ事ダ?
――私ハコノママ、バッテリー切レデ、死ンデシマウノダロウカ?
フェムはあの時の事を思い出す。
空港でのテロに巻き込まれたあの日。
フェムのすぐ傍で爆発が起こり、フェムの体は血塗れになった。
それから息絶え絶えに崩壊した空港内を彷徨い、一人の博士と出会う。
「君、生きたい?」
――アノ日カラ、何モカモ変ワッテシマッタ。
――私ハ、マダ、何モ知リ得テハイナイ。
フェムはバーストモードに移行した。

海面に大きな水飛沫が上がった。
「何だ!?」
灯台の屋根の上で俺は怖気づく。ルローは欠伸をした。
特大の轟音がした。地面が恐ろしいほどに揺れる。
灯台ごと、防波堤が崩れていく。
「くそっ!」
眠そうにしているルローを掴んで海岸の砂浜に能力で跳ぶ。
「嘘だろ……」
いままで居た灯台は海へと崩れ落ちていく所だった。
どうやって破壊したと言うのか。
フェムが海底から現れてくる。
両腕からジェットエンジンのような部品が突き出しており、灼熱したように赤く白く輝いていた。
これは夢か。ヨシユキは自分の頬を指でつねってみる。
痛い。
フェムはどうやら腕力だけで防波堤を破壊しつくしたらしい。
「金属スクラップはさっさと廃品回収されるべきにゃ」
ルローが飛び出す。フェムも能力による攻撃は避けられると思っているのか、空中からの攻撃は行わなかった。
ルローの進路をフェムはただ殴った。
それだけなのに。
拳の軌道が視認できない。
砂浜が爆裂した。
砂が巻き上げられるなか、紙一重という体術でルローは避けていた。
ルローが懐に回り込み、体を高速回転。両腕で9回斬りつけるという荒業を見せた。
フェムは無傷。
「私ハマダ、生トイウモノヲ何モ知ラヌ!マダ、ココデ死ヌワケニハイカヌ!」
フェムの一撃。またルローは紙一重で避ける、事は出来なかった。
能力を応用されていた。
フェムとルローの間に生成された空気の匣をフェムが全力で叩く。
それにより発生した衝撃波がルローの全身を撃った。
ルローは両手の銀のグローブでガードしたかのように見えたが、軽そうな体が高々と吹き飛ぶ。
「ルロー!」

ルローはくるくると空中で回転し、足から地面に降りた。
ぱさりと、猫耳フードが捲れて、俺はルローの顔を見た。
本物の猫耳が赤毛の頭部にひっついており、瞳孔は縦に細長い、金色の猫の目。
それ以外の顔の造りは完璧な美少女だったが、それは本来の人の姿ではなかった。
唇からは紅い鮮血。
「……貴様、切リ裂キ魔、ルロー」
「正確には“霧裂・ルロー”にゃ」
口を袖で拭きながらルローが答える。
その言葉で思い出した。ルローと言えば、脱獄囚だ。
能力者の体の一部を切り取って蒐集するという猟奇殺人鬼。
全世界に指名手配されたが、その手配書の特有な姿は誰もが目を引いた。
「ルジ博士ノ、オ気ニ入リガ、ココデ何ヲシテイル?」
ルジ博士?
「お前が新入りのフェムとか言う奴だったかにゃ」
「人体改造ノ能力者、ルジ博士ニハ感謝シテイル」
フェムが自らの金属の胸に手を当て、言葉を紡ぐ。
「ルジ博士カラノ伝言ダ。『お前を造ったのは失敗だった』ト。私ガ貴様ニ引導ヲ渡シテヤロウ」
フェムの両腕のジェットエンジンが活動を始める。
フェムの周りには空気の匣が幾つも生成されていた。
あれを何発も撃たれればルローでも耐えきれない。
ここが引き際なのか。俺が能力を使ってルローと撤退を図ろうとした時、彼女の右手が上がった。
「お前、うちをこんにゃ目に合わせたあの博士の手先にゃら……手加減せずに殺す」
ルローの口調のトーンが下がった。全身を纏う空気が変わる。
どす黒い特大の殺意がフェムの全身を刺し貫く。
ルローがゴトンと右手の銀色の装備を落とす。
そこに現れたのは、黒い靄を纏った腕。

――俺ガ生キテイタカッタノハ、死ニタクナカッタカラデハナイノカ?

なぜフェムはその時、そんな事を思ったのだろうと疑問に思った。
フェムは疑問をぶつける様に、自身の能力で生成した匣を殴る。
衝撃波はルローの目前で消滅した。
「何もかも柔らかすぎるのにゃ」
だるそうな表情で近づいてくる。
衝撃波が次々とルローを襲うがルローが黒い腕を振るうことによって消失していく。

フェムは炎を上げる空港に、血塗れで倒れていた時を思い出す。
――アノ時、自分ハ『死にたくない』ト言ッテイナカッタカ?

そして猫は目の前にいた。その瞳に輝くのは、金色の殺意。
ジェットエンジンを爆発させ、拳で殺そうとする。
その軌道さえ見えない拳が、見切られた。
ズパンと言う音と共に、殴るはずの右腕が、肩口から斬られて吹き飛んでいた。
にぃ、と愉快そうに瞳が嗤う。
フェムは最期に相手を観察した。
ルローの右手は黒い霞が爪を形作っており、その手だけは猫というよりは、恐竜の爪のようだと。
黒い霞が、フェムを引き裂いた。

今まで弾かれていた斬撃が嘘のように、易々と黒い爪はフェムの金属の体を引き裂いていった。
斬撃の後、胸板の金属が剥がれ落ち、オイルとも血液ともつかぬ液体が傷口が溢れ出す。
フェムが左手を付き、完全に倒れることを防ぐ。
勝敗は決した。フェムの負けだ。
それなのに――
「まだ生きてるのかにゃ?丈夫なやつにゃ」
再び、ルローの横薙ぎの黒い斬撃。
機械男の正面の防御壁はすべて破壊された。
フェムが大きく仰け反り、そして前に倒れようとして、さらに黒い斬撃。
幾度となく続く攻撃。それはフェムをサンドバックに見立てた攻撃で、相手が死なないように手加減をしている様子だった。
そしてそれに飽きたかのように、冷たい瞳のルローが最後の一撃を放とうとして、
「もうやめろ!勝負はついた!」
俺は能力でフェムの前方に両手を広げて立った。
ルローの爪が急速停止。
「……邪魔をするな……殺すぞ」
ルローが擦れた犯罪者の声で喋り、俺を細い瞳孔で睨みつけてくる。
俺は動じない。
「お前たちが俺を殺せるはずがない。ここまで守ってきたのが良い証拠だ」
特大の殺気を放った後、フン、とルローが他方を向く。それはつまらない物を見た、とでも言いたげな様子だった。
リンドウの言うとおり俺の能力が必要なら、俺が発現するまで殺さないはずだ。
フェムが残った左腕で重傷の体を庇いながら俺に話しかける。
「イ、イノカ?私ハ、オ前ノ家族ヲ……」
「殺してねえよ」
リンドウたちの話が本当なら、ここまでは計画。俺の両親はまだ生きているはずだ。
「……スマナイ。コノ恩ハ必ズ返ス」
フェムがセーフモードと呟くのが聞こえた。
流れていた黒と赤の体液が止まり、立ち上がってゆっくりと去って行った。
ルローは、追いかけても俺がまた邪魔すると分かっているのだろう。
追わずにフェムから切り取った右腕を回収していた。
「……お前にはまだ、ちっぽけな善意が体にこびりついているようだにゃ」
「それは褒め言葉として受け取っておく」
ルローはもう機嫌が治ったのだろう。茶色のフードを被りなおし、にゃははと笑っていた。
「きっと、その中途半端な善意が自身に跳ねかえってお前を滅ぼすにゃ。ところでヨシユキ」
どこに隠していたのか、左手の袖から黒い携帯電話を二台取り出す。
「お前に一個やるにゃ。それで、アドレス交換するにゃ」

「んー、ここがヨシユキ君の家かいな?ぐっちゃぐちゃやな」
ハーレーから降りたトルトルは集まってきていた野次馬を、どいたどいたと言いながら押しのけ家の残骸の中へと進む。
警察はまだ来ていない。好都合だとトルトルは思いながら家の残骸の山に登っていく。
「フェム君が居らん。まぁ、契約終わったから帰ったんか。保険として雇っといて良かったなぁ」
ゼンが黙ったまま木材の中に座り込んで、青年の服を引きずり出し匂いを嗅ぐ。
ゼンの昼の能力は、“匂いを嗅ぐ能力”。
それこそ、匂いを出す物質が辿った道のりを、警察犬より詳細に特定できる。
「……匂いがだいぶ途切れてますけど、南西に、2km」
「ゼン君は相変わらず犬みたいやなぁ。お、こっちに死体あったで」
トルトルは喋りながら、ゼンはヨシユキの服を捨て無口で、二つの死体を覗き込む。

突如として死体が蠢き始める。

ためらわずにトルトルは腰から引き抜いたリボルバーで頭部を吹き飛ばし、ゼンは足で踏み砕いた。
ゼンが嗅ぐ能力を発動し、隣の民家の垣根へと視線を向ける。
「そこ居るやろ、出てき」
トルトルが話しかけるとラヴィヨンの顔が垣根越しに出てくる。
そのまま、よっと垣根の上に乗る。
「びっくりしました?僕のオートマタ」
「君、何者や?」
「そちらが先に名乗るのが礼儀っしょ」
ラヴィヨンは余裕そうな笑みを浮かべていた。
「うちらはバフ課8班の諜報係やけど」
「へぇ、バフ課……こういう偶然も面白いっスけどね」
ラヴィヨンが皮肉気に顔を歪めて告げる。
「僕らもバフ課なんスよ」
トルトルとラヴィヨンが同時に銃を構える。ゼンは家の瓦礫の穴にしゃがみ込む。
同時に垣根から人影が銃を突き出し、野次馬が全員銃を出した。
「どうスか?これが全て僕のオートマタっス」
トルトルの表情に焦りの表情が浮かぶ。
「お別れっス」
全ての銃が火を噴いた。

波紋。先程は体中が飛沫を上げていたが、今は波紋を浮かべるだけだ。
トルトルは最後のオートマタと言う人形を破壊する。
「ゼン君、無事かいな」
「……なんとか」
家の陰に隠れていたゼンは、肩の埃を払って立ち上がる。
まったく、大したもんだとゼンは思う。
トルトルの体を液体にする能力は、つまりは死なないと同義に等しい。
例え生命器官が破壊されていても、能力発動中は体内で代わりの器官を創り上げるらしい。
「やっぱり不味かったですね。バフ課なんて名乗るのは」
「なら、次からは……去年名乗ってたイモータルとか名乗ろうかい?」
「ダサくて嫌ですよ」
会話を続けながらゼンとトルトルが去っていく。
ラヴィヨンの死体には、顔に大穴が開いていた。
完全に死んだであろうと思われるその腕が、突如動き始める。
懐から携帯を取り出し、短縮番号をプッシュした。
『こちらシルスク。ラヴィヨンか。状況はどうだ』
「手ごわいっス」
ラヴィヨンと同じ姿をした、顔に穴の開いてない方が、顔に穴の開いたラヴィヨンから携帯を取り上げ会話を再開する。
「太った方は“液体に変わる能力”、もう片方の黒服は“嗅ぐ能力”っスかねぇ?だいたいそんな感じだと予測できます」
『了解。追跡しろ。こちらも手続きが終わり次第合流する』

携帯を切り、シルスクはため息を付く。
『おはようございます。前回殺した貴方の部下の携帯を使って電話を掛けています。これから話す事をよくお聞きください』
一時間前、風魔家を襲うと、あのリンドウから電話が合った時は驚いた。
罠かとも考えたが、一応風魔家の家族の安全を確保し、早急に身代わりとして人形を立てた。
どうやら本当だったが、襲ってきたのはフォグでもリンドウでも無く、二人の男。
つまり、今回俺たちは利用されたらしい、とシルスクは思った。
携帯の連絡をもう一度暗号化し、現在行方不明もしくは死亡した隊員の携帯は本部に繋がらないようにする。
シルスクは唇を噛む。利用されたことは悔しいが、ただでは済ませない。
リンドウが関わっているということは、何らかの形で風魔家を襲った二人組と、行方不明の風魔嘉幸は繋がっているはずだ。
ということは、とりあえずは本部で保護している風魔嘉幸の両親は、最悪の形ならばアメリカあたりに記憶を消して飛ばすつもりでいる。
最悪の形、つまり、風魔嘉幸がリンドウやフォグの仲間になったということに。
「……犯罪者になったならば消すだけだ」
拳を握りしめ、シルスクはそう決心した。

登場キャラクター



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2010年06月18日 20:24
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。