I might not have gone but for you,
and so have missed the finest study I ever came across: a study in scarlet, eh?
and so have missed the finest study I ever came across: a study in scarlet, eh?
『緋色の研究』(原題:A Study in Scarlet)(別の邦題:『緋色の習作』)は、アーサー・コナン・ドイルによる長編小説。発表年は1887年。初出は『ビートンのクリスマス年鑑』。シャーロック・ホームズシリーズの記念すべき最初の作品であり、ホームズとワトソンの邂逅を描いた作品である。
邦題について
原題である"A Study in Scarlet"は、しばしば『緋色の研究』と訳されるが、近年になって"Study"の訳語について『習作』の方が適切であるとする意見がある。
以下は、題名の由来となったシャーロック・ホームズの台詞である。
“I shall have him, Doctor? I’ll lay you two to one that I have him. I must thank you for it all. I might not have gone but for you, and so have missed the finest study I ever came across: a study in scarlet, eh? Why shouldn’t we use a little art jargon. There’s the scarlet thread of murder running through the colourless skein of life, and our duty is to unravel it, and isolate it, and expose every inch of it.”
この文章内にある通り、"study"は"art jargon"(英語で美術用語を意味する)なのだから、『習作』『エチュード』という訳が適切であるように思われる。しかし、冒頭でホームズが血痕についての研究を行っている描写がある以上は、『研究』の訳語が誤っているとも言えず、ダブルミーニングなのではないかという説もある。尚、現在は『緋色の研究』という邦訳が多数派である。
あらすじ(以降の章、すべてネタバレ要素を含みます)
第一部 元陸軍軍医ジョン・H・ワトソン医学博士の回顧録の翻刻(原題:Being a Reprint from the Reminiscences of John H. Watson, M.D., late of the Army Medical Department)
1881年、医学博士ジョン・H・ワトスンは、英国陸軍軍医として第二次アフガン戦争に従軍するが、左肩を負傷し帰国する。ワトスンはロンドンで旧友のスタンフォードと出会い、シャーロック・ホームズという人物が、ベイカー街221Bのアパートの家賃を分担してくれる同居人を欲しがっていることを聞く。ホームズは奇行癖のある「諮問探偵」であり、ワトソンは彼に不信感を抱きつつもその並外れた推理力に驚かされていた。
ある日、スコットランドヤードのトバイアス・グレッグソン警部から、ホームズのもとに殺人事件の依頼が届く。ホームズとワトソンが現場となった空き家に向かうと、グレグスン刑事とレストレード警部が既に捜査を行っていた。被害者はイーノック・ドレッバーというアメリカ人旅行客で、所持品からジョセフ・スタンガーソンという秘書の存在が明らかになる。現場の壁には「RACHE」という血文字が書かれ、女性のものと思われる金の結婚指輪が発見された。レストレードは「RACHEL」という女性を捜そうとするが、ホームズは、「RACHE」はドイツ語で「復讐」を意味すると気付き。現場の状況から犯人は赤ら顔の大男だと予想する。
ホームズは、指輪の遺失物広告を新聞に載せ、犯人を誘き出そうとする。しかし、指輪を受け取りに来たのは予想に反して、ひとりの老婆だった。ホームズは老婆に指輪の複製を手渡した後、彼女の行方を追うが逃げられた。ホームズは、老婆の正体が変装した男だったと考える。
翌日、グレグスン刑事が海軍将校アーサー・シャルパンティエを逮捕したとホームズに連絡する。アーサーは、ドレッバーの下宿先の女主人の息子で、アリスという妹がいた。ドレッバーは殺人事件の当日、酔っ払ってアリスに絡みつき、その時アーサーに暴行を加えられていた。しかし、スタンガーソンがホテルで殺害され、捜査は振り出しに戻る。
殺人現場に向かうと、スタンガーソンは心臓を貫かれ死亡しており、壁には「RACHE」の血文字があった。被害者の所有物を調べると、小説、パイプ、「J.H.はヨーロッパにいる」との電報、そして2錠の薬剤が入った小箱が見つかった。ホームズは年老いたスコティッシュ・テリアで薬剤を試すと、1錠目は効果なし、2錠目は犬を死に至らしめた。
ホームズは、ベイカー街遊撃隊のリーダーであるウィギンズに頼んで、辻馬車の御者を呼び寄せる。御者が2階に上がってくると、ホームズは彼に手錠をかけて宣言する。
「紹介しよう。イーノック・ドレッバーおよびジョセフ・スタンガーソンの殺害犯、ジェファーソン・ホープ君だ」
第二部 聖者たちの国(原題:The Country of the Saints)
1847年、ユタ州ソルトレイク渓谷で、開拓者一団の生存者が死の淵に立たされていた。ジョン・フェリアとルーシーという少女である。ふたりはブリガム・ヤング率いるモルモン教団に救護され、モルモン教に改宗する。
1860年、成長し立派な女性となったルーシーは、ジェファーソン・ホープという青年と恋に落ちる。しかし、モルモン教は異教徒間の婚姻を固く禁じており、四長老神聖会議はルーシーに対し、ドレッバーとスタンガーソンのいずれかと結婚するよう命じる(これは、事実とは乖離した描写である。詳しくは後述)。ルーシーの養父となっていたフェリアは、ジェファーソンに連絡を取り脱出を試みる。
ジェファーソンは、決断期日前夜に到着し、ふたりを連れて逃亡するが、ジェファーソンが目を離した隙にふたりは追手によって捕まってしまう。フェリアはスタンガーソンに殺害され、ルーシーはドレッバーのもとに嫁いで1ヶ月も経たず世を去る。ジェファーソンは葬儀に乱入しルーシーの指輪を抜き去って、復讐を胸に誓う。
以降、ジェファーソンはドレッバーとスタンガーソンを執拗に狙うようになり、ふたりは欧州各地を転々とする。しかし、ロンドンに滞在中、酔っ払ったドレッバーは偶然にもジェファーソンが運転していた辻馬車を拾ってしまう。ジェファーソンはドレッバーを空き家に連れ込み、賭けをするように脅迫する。毒入りの錠剤と無害の錠剤を用意し、どちらかを選んでふたり同時に飲むという賭けだった。神の采配に、運命を委ねたのである。結果として、ドレッバーは死亡した。ジェファーソンはスタンガーソンにも同じように賭けを仕掛けたが、スタンガーソンは彼に襲いかかりナイフで殺された。
ジェファーソンはすべてを自白し裁判の前日、動脈瘤によって死亡した。しかし、レストレードとグレッグソンが功績を横取りされたにもかかわらず、どこ吹く風のホームズに呆れ返ったワトソンは、ホームズに代わって、彼の活動を世に知らしめようと決心するのだった。
登場人物
主要人物
- シャーロック・ホームズ(Sherlock Holmes)
ベイカー街221Bに居を構える私立探偵。並外れた推理力と奇抜な行動、優れたヴァイオリンの腕を持つボヘミアンな英国紳士。独自の犯罪研究理論を持っており、スコットランド・ヤードの依頼で事件捜査に協力している。
- ジョン・H・ワトスン(John H. Watson)
アフガン戦争の負傷が原因で帰国した元軍医で、シャーロック・ホームズの同居人。ホームズの奇行や常軌を逸した発言に驚かされながらも、その推理力には感嘆している。捜査を依頼された事件現場に同行し、事件を記録する。
警察組織
- レストレード(Lestrade)
スコットランド・ヤード所属の警部。イーノック・ドレッバー殺害事件の捜査を担当している。
- トバイアス・グレッグソン(Tobias Gregson)
スコットランド・ヤード所属の警部。ドレッバー殺しの容疑でアーサー・シャルパンティエを誤認逮捕する。
- ジョン・ランス
- ハリー・マーチャー
被害者
- イーノック・J・ドレッバー
- ジョセフ・スタンガーソン
第1部の関連人物
- スタンフォード
- シャルパンティエ夫人
- アーサー・シャルパンティエ
- アリス・シャルパンティエ
- ウィギンズ
第2部の関連人物
- ジョン・フェリア
- ルーシー・フェリア
- ブリガム・ヤング
各場面での推理
- ワトソンはアフガニスタン帰りである
| 医者のように紳士的だが、軍人のような風格がある | → | 職業は軍医 |
| 顔は黒ずんでいるが、手首は白い | → | 日焼けをしている、熱帯地方から帰ってきた |
| やつれた顔 | → | 苦難と病気を経験した |
| 不自然にこわばった手 | → | 左腕を負傷している |
| 熱帯地方での戦争に参加 | → | アフガニスタンから帰還した |
- 外にいる男は海軍の退役軍曹である
| 手の甲に青い錨の入れ墨 | → | 海に関連する職業 |
| 軍人のような態度、ほおひげ | → | 海軍の軍人 |
| 胸を張り、杖を振る仕草 | → | 軍隊では指揮を担当した、軍曹である |
| 落ち着いた品のある中年男性 | → | 退役軍人である |
- ドレッバー殺しの詳細
| 車輪のぬかるみ、昨夜降った一週間ぶりの雨 | → | 昨夜、四輪の辻馬車で現場を訪れた |
| 蹄の跡のうち、ひとつだけがくっきりとしている | → | 右前足の蹄鉄が新しい |
| 足跡の歩幅、血文字の高さ | → | 犯人の身長は6フィート以上 |
| 4フィート半の歩幅で難なく歩ける | → | 犯人は壮年男性 |
| 靴跡の形状 | → | 犯人は爪先が四角い靴を履いている |
| 血文字に刻まれた引っ掻き傷 | → | 犯人は右手の爪が長い |
| 暗い色でぱさついた煙草の灰 | → | 犯人はトリチノポリの葉巻を吸う |
| 酸の匂い | → | 毒物による殺害 |
| 外傷はないのに撒き散らされた血、鼻血か? | → | 犯人は赤ら顔である |
- 連続殺人犯の特定
| ドレッバーの身辺調査 | → | ジェファーソン・ホープという人物 |
| 馬が周囲を歩き回ったような足跡 | → | 御者も馬車を降りている |
| 急に辞職すると事件への関与を怪しまれる | → | まだ御者の仕事をしている |
| 異国イギリスでの生活、素性を知る者はいない | → | 偽名は使わない |
モルモン教に関する描写の問題
作中に見られるモルモン教関連の描写には、数多の虚偽や偏見が含まれていることが指摘されている。
モルモン教主流派である末日聖徒イエス・キリスト教会は、1890年に一夫多妻制を廃止しており、異教徒間の婚姻や「四長老神聖会議」による結婚相手の決定は虚偽である(そもそも、そのような会議すら存在しない)。
これらの中傷的な内容は、当時の欧州社会にあったモルモン教に対する偏見が影響していたと考えられる。
モルモン教主流派である末日聖徒イエス・キリスト教会は、1890年に一夫多妻制を廃止しており、異教徒間の婚姻や「四長老神聖会議」による結婚相手の決定は虚偽である(そもそも、そのような会議すら存在しない)。
これらの中傷的な内容は、当時の欧州社会にあったモルモン教に対する偏見が影響していたと考えられる。