I wish to the Lord, Mr. Wilson, that I was a red-headed man.
『赤毛組合』(原題:The Red-Headed League)(別の邦題:『赤毛連盟』など)は、アーサー・コナン・ドイルによる短編小説。シャーロック・ホームズシリーズ2番目の短編で、奇妙な求職情報を巡る一連の事件を描く。
あらすじ(以下、すべての章でネタバレを含みます)
1890年、ベイカー街221Bにジェイベズ・ウィルソンという人物が訪ねてくる。ウィルソンは燃えるような赤毛を持った質屋の経営者で、ある奇妙な出来事についてホームズに相談しに来たのだ。
ウィルソンが「赤毛組合」を初めて知ったのは、従業員のヴィンセント・スポールディングから見せてもらった新聞広告だった。ヴィンセントはよく仕事のできる若者だったが、写真趣味があり現像の暗室代わりに店の地下室へ閉じ籠もる悪癖があった。そんな彼が、ウィルソンにすすめたのが「赤毛組合」員の補欠募集だった。広告によると、「赤毛組合」は百万長者だった赤毛の男が遺産で創立したもので、ロンドン中の赤毛男性に事務作業をしてもらう代わりに高額の給料を与える福祉団体だという(当時、西洋には赤毛に対する差別的感情があった。詳しくは後述)。
ウィルソンは面接を受けに行くが、事務所の前には大勢の赤毛の男が列を作っていた。ウィルソンは採用は望み薄だろうと諦め調子だったが、面接官のダンカン・ロスは彼をひと目見て気に入り、新たな組合員として採用してしまった。翌日、事務所を訪れたウィルソンは奇妙な仕事を言いつけられる。それは、毎日午前10時から午後2時まで閉じ籠もって『ブリタニカ百科事典』を書き写すという作業だった。週給4ポンドと高額の給料だったが、作業時間中の外出は禁じられ違反すれば資格を失するとの旨も伝えられた。ウィルソンは疑念を抱きつつも、順調に8週間毎日仕事をこなし、かなりの大金を手にする。
しかし今朝、事務所に向かうと扉に「赤毛組合は解散した」という貼り紙があり、鍵が締められ中には入れなかった。事務所の家主に事情を訊くも、ロスという男も「赤毛組合」という団体も存在しないと言われた。ヴィンセントに相談するも、まともに取り合ってくれない。途方に暮れたウィルソンは、ホームズに相談しに来たのだ。
ホームズとワトソンは、この滑稽な出来事に笑いを堪え切れずにいたが、やがてホームズはある疑念に辿り着く。ふたりは質屋の周辺を訪れ、裏にタバコ屋、新聞屋、銀行支店、馬車倉庫の位置を確認する。
その夜、ホームズはワトソン、ピーター・ジョーンズ警部、銀行頭取メリーウェザーを呼び、銀行支店の地下室へ入り込む。そこには、フランスの銀行から借りたナポレオン金貨3枚が保管されていた。すると、敷石の向こうから突如ヴィンセントとロスが姿を現す。その正体は、ロンドンで名の知れた犯罪者ジョン・クレイとその仲間アーチーだった。質屋に繋がるトンネルの先には既に警官が配備されており、クレイ一味は袋の鼠となっていた。両名は捉えられ、ホームズは銀行強盗を未然に防ぐことに成功したのである。
ベイカー街に帰宅したホームズは、ワトソンに推理を披露する。「赤毛組合」は架空の団体で、ウィルソンに質屋を留守にさせるのが真の狙いだったということ。ヴィンセントが地下に閉じ籠もっているのは、実際は地下トンネルを掘っているのだということ。立地などから考えて、狙いは銀行強盗だろうということ。そして、「赤毛組合」が不要になったということは、犯罪は今夜実行されるだろうということ。ホームズは「赤毛組合」事件について、良い暇潰しになったと満足気な様子であくびをするのだった。
登場人物
各場面での推理
赤毛に対する偏見について
「赤毛組合」の設立に関する話として、設立社の赤毛男性が「赤毛の人に同情して設立した」という記述が登場する。この「同情」(言うなれば不憫に思うこと)は、日本人感覚ではいまいち実感を持って捉えづらいかもしれないが、西欧社会においては赤毛差別が古くから根強く存在していた。赤毛の人々は、伝統的に気性が荒く道義心に欠けていると見なされ、キリスト教的観点においてはユダヤ教と結びつけられ異端視されてきたのである。
実例を幾つか示すならば、L・M・モンゴメリ著『赤毛のアン』において、主人公アンは赤毛である故に偏見に苦しんでいるし、J・K・ローリング著『ハリー・ポッターと賢者の石』の作中では、マグル(魔法が使えない血統の人間を意味し、魔法界では差別的な扱いを受けている)に親和的なウィーズリー家は代々赤毛である。このように、赤毛の人々はしばしば差別や偏見に晒され、今世紀に至っても尚、職場や学校での嫌がらせの対象になっている。
その他備考
推理小説において、真相に気付かれないように読者の関心を敢えて別の場所をそらす叙述の形式を、俗に「赤毛トリック」という。マジックにおけるミスディレクションもこれに該当し、本作の重要なトリックとして知られる。